それは、我らがソビエトのWWU最強戦車、スターリン戦車3型(ИС-3;JS-3/IS-3)の事です。ライバルのナチスドイツの重戦車ティーガーUより23トンも軽いにも関わらず、その装甲は決して見劣りするどころか、同等以上の防御力を有していました。
ナチスドイツの重戦車「ティーガーU」を打倒すべく造られたJS-3は、コンパクト化と避弾経始を徹底した事により未来的なフォルムを得ており、今日から見ても斬新な設計である事が一目で分かります。戦争終結直後のベルリンパレードでこの戦車を目の当たりにした西側諸国は強いショックを受け、各国の戦後戦車の開発はJS-3を凌駕する事を目標に始まったほど、強い影響を与えました。

○JS-3戦車
全長 9.85m
車体長 6.67m
全幅 3.2m
全高 2.45m
重量 45.8 - 46.5t
砲塔正面装甲 220mm(最厚部。上部は110mm)
車体正面装甲 110mm(120mmとする資料もある)

○ティーガーU戦車
全長 10.29m
車体長 7.26m
全幅 3.76m
全高 3.08m
重量 68.5 - 69.8t
砲塔正面装甲 180mm
車体正面装甲 150mm(上部のみ。下部は100mm)
このように、JS-3はティーガーUに全く遜色の無い装甲を有しています。JS-3の砲塔装甲は亀の甲羅のような曲面形状なので、単純な比較は出来ませんが、曲率が小さくなり垂直に近い基部付近で最も分厚く220mmとして、曲率が大きくなる、つまり避弾経始で敵弾を弾き易くなる上部付近では110mmと薄くなります。主砲基部の防盾は曲面状で160mmとなっています。総合的に見てティーガーUの垂直に近い角度(垂直面から10度の傾斜角)の砲塔正面装甲180mmと、同等かそれ以上の防御力を有しています。
車体正面についても、ティーガーUの150mmよりも薄い110mmですが、角度が鋭い上に中央が出っ張る逆V字状の特殊な形式で、更に避弾経始を高めている構造です。その為、装甲防御力はこの部分でも両者は同等である上、ティーガーUの車体正面は上部こそ150mmですが被弾確率の低い下部は100mmに落ちます。JS-3は車体下部も110mmのままで、傾斜角度は車体上部より緩くなるので防御力は落ちますが、それでもティーガーUの車体下部よりも角度は鋭く、厚みも大きいので、この部分ではJS-3が凌駕します。
また側面装甲でもJS-3の方が分厚い上に傾斜角度も鋭い上、空間装甲に近い構造を採用してパンツァーファウスト対策としているなど先進性があります。ティーガーUが勝っているのは上面装甲と下面装甲前部くらいで、後面装甲は角度も勘案すればむしろJS-3の方が上回っています。上面装甲については、航空優勢を失った戦争後半のナチスドイツ軍では優先すべき強化箇所であり、ソビエト側ではそうではなかった、という差が出ているのでしょう。同時期のアメリカのM26パーシング重戦車も上面装甲は特に強化されていません。
結果、殆どの箇所でJS-3はティーガー2よりも装甲防御力が強力なものとなっています。ただしこれは車体の容積の少なさと引き換えにしたもので、代償としてJS-3は装填手が動き難い非常に狭い車内となってしまい、大きな砲弾と相まって砲弾装填速度の著しい低下を招いています。しかし戦車の数自体で勝るソビエト軍ではさほど問題の無い要素でした。そしてこの欠点も、最近のロシアや日本の戦車のような自動装填装置があればクリアできる問題です。
JS-3はティーガーUに対して、
車体長・・・92%
全幅・・・85%
全高・・・80%
という割合です。複雑な形状を無視して単純に箱型としてモデルを組むと、この比率で算出される容積(体積)の割合は63%になります。そして体積=重量と言う簡易な置き方をすれば、予想重量がこの数値になります。実際の重量比率は、
重量・・・67%
という割合になっています。複雑な形状や主砲、エンジンなどの重量差を何もかも無視しているので違ってきて当然ですが、大雑把には近い数値が出ています。
つまり単純にこれだけコンパクト化すれば20トン軽くても同等の防御力を実現する事が可能です。ましてやエンジンや砲の軽量化や、今の複合装甲の時代では、装甲の厚さではなく装甲の材質の差で防御力が決まります。車体そのもののコンパクト化に加え、その他要素での軽量化を図れば、JS-3ほどのコンパクト化を達成しなくても、ライバルより軽くても重装甲を実現する事は、決して不可能な話ではありません。
日本の新型戦車「TK-X」と中国の新型戦車「0910工程」の二つは、それぞれの前作よりも軽量化されていますが、他国の主力戦車に対抗できるだけの防御力をちゃんと備えて登場してくるのは間違いないでしょう。
なお、「諸外国の主力戦車よりも20トン近く軽いので装甲が薄い」筈だと主張している代表格は、軍事ライターの清谷信一氏です。戦車誌PANZERでも他のライターが時折書くので、唯一ではありませんが。
清谷信一公式ブログ:防衛省 長島昭久政務官 予算がらみの質問にはお答えできません、でいいのでしょうか
>新戦車は軽量で諸外国の3.5世代戦車に比べて防御力が弱い、装備も劣っている。
この記事は他の部分もツッコミを入れたい部分が山ほどありますが、というか殆ど全部にツッコミが入りそうなのですが、それをやると夜明けが来るので止めておきます。
さて。
私にはこういう事を言う人が、JS-3戦車の存在をどう認識しているかに大きな興味があります。
※ティーガー2の装甲断面図(傾斜角は水平を基準にしている事に注意)
※JS-3の装甲断面図(傾斜角は垂直を基準にしている事に注意)


