2009年11月13日
11月9日の記事で、護衛艦「くらま」の搭載弾薬の火薬量は5トンにも満たず、仮に爆発しても自艦には致命的な損害は出ますが、浅瀬を挟んで数百m先にある陸地まで吹き飛ばすような大爆発は有り得ず、むしろ民間の危険物積載船の方が千トン単位、万トン単位で遥かに大量の危険物を積んでいる為、爆発した際の危険性がより大きい事を示しました。もし大型LNGタンカーが吹き飛んだ場合、核爆発に匹敵するエネルギーが発生します。それに対し戦艦大和ですら搭載弾薬の火薬部分の総量は400トン程度に過ぎず、大和と同サイズの数万トンのLNGを搭載するタンカーの方が遥かに危険である事が分かります。ましてや護衛艦の数トン程度の火薬と、護衛艦と同サイズの数千トンの内航LNGタンカーのどちらが危険かは自明の理です。

護衛艦「くらま」の主砲である127mm砲は、砲弾1発の重量は薬莢込みで50kgありますが、砲弾の炸薬と薬莢の装薬は合わせても10kgで、200発搭載しても火薬の量は2トン程度。そしてシースパロー艦対空ミサイルの弾頭炸薬重量が1発40kg、短魚雷(アスロック含む)の弾頭炸薬重量が50kgです。これらは「くらま」には即応弾で22発、火薬としては1トン程度。

主砲弾を何発積んでいるか、ミサイルや魚雷は予備弾を積むのか、ミサイルやアスロックの固体燃料推進剤は含めるのか、といった変動はあるにせよ、火薬類5トンでもかなり多めに見積もった数値です。

よって、以下のような意見は的外れです。


護衛艦くらま、コンテナ船と衝突、艦首炎上長崎県平和委員会
しかし通行隻数の多い、わずか500メートル幅の狭い海峡を、大量の弾薬・ミサイルを積んだ軍艦が航行していることも問題視しなければならないでしょう。


護衛艦「くらま」に搭載されている火薬類は5トンに満たず、そして現場海域は危険物を千トン単位、万トン単位で積んだLNGタンカーやケミカルタンカーが普段から沢山行き交っていて、それらは護衛艦搭載の数トン程度の火薬類の数千倍から数万倍の爆発力を秘めています。護衛艦に搭載されている危険物を問題視する一方で、民間の危険物積載船の存在を無視するという態度は、海の世界の常識を知らない戯言に過ぎません。

しかし、これに対し奇妙な反論を唱えてきた人が居ます。


はてなブックマーク - くらま事故で海自を無理矢理に叩こうとする三宅勝久の頭の悪い記事が週刊金曜日に掲載 : 週刊オブイェクト
scopedog これはひどい 危険物を安全に輸送するための油送船と危険物を兵器として積んでいる護衛艦の危険度を比較するのに火薬類の重量を使うのが適切とは思えない。 2009/11/12


相変わらずおかしな主張をする人ですね・・・

「危険物を安全に輸送する」
「危険物を兵器として積む」

この二つは別に相反するものではありません。両立しているのです。軍艦は搭載弾薬を安全に運ばなければなりません。何故なら、敵から攻撃を受けた時に弾薬が容易に誘爆されては困るからです。軍艦は危険物を兵器として積んでいるが故に、厳重な防御装置を組み込んでいます。弾火薬庫は何重もの隔壁の奥に配置され、温度が上昇して発火しそうになったら海水の注水を行い暴発を防ぐ事が出来ます。軍艦よりも危険物を積載した輸送船の方が遥かに容易に誘爆し、爆発時のエネルギーも桁違いの規模となります。

これは軍艦と輸送船の構造を見比べれば容易に理解できます。以下にLNG(液化天然ガス)を輸送するタンカーの断面図を示します。

LNG_tanker.png

このように輸送用の船舶は積み荷を満載する為、船体の何処にミサイルが当たっても容易に誘爆を引き起こしてしまいます。危険物積載船は安全の為に二重船殻(ダブルハル)が義務付けられますが、逆を言えば隔壁の数はその程度でしかありません。積み荷を満載する以上、軍艦のように弾火薬庫を船体の奥に配置するというわけにはいかないからです。

そして軍艦の構造はこのようになっています。

Zumwalt_class_destroyer.png

これはズムウォルト級駆逐艦です。前部に2基ある155mm砲の弾薬庫は、艦底部付近に設けられています。前後の弾薬庫がなるべく離された上に微妙にずらされているのは、片方の弾薬庫が爆発しても簡単には誘爆しないようにする設計です。輸送船の積み荷と比べて軍艦の弾薬は少ないので、危険な個所そのものが小さい事が分かります。スペースが小さいので、何重もの隔壁を経た奥に配置する事が出来るので、余裕の少ない輸送船の危険物積載よりも安全性は高いでしょう。

そもそも、軍艦が衝突事故を起こした際に弾火薬に引火、爆発した例は存在しません。冷房設備が無かった、能力が低かった時代に弾火薬庫の温度上昇による爆発事故の例は幾つかありますが、今の時代には見られない事故です。またLNGタンカーが大爆発を起こした重大事故の例も、まだありません。これらの危険性を論じることは杞憂かもしれませんが、もし万が一爆発した場合、軍艦よりもLNGタンカーの方が遥かに重大な事故に発展する事になります。

なお、LPGタンカーやケミカルタンカーならば重大な爆発事故は何例も発生しています。


第十雄洋丸事件の記録
衝突によって第十雄洋丸はリザーブタンク後方付近の外板に大破口を生じ、可燃性の強い液体であるナフサは衝突時の衝撃と火花によって簡単に引火し、一瞬にして大爆発を起こすととともに長大な火柱が立ち上り、ナフサを含んだ炎を浴びたパシフィック・アレスも船全体が猛火に包まれ、船上だけではなく船内までも灼熱地獄と化した。

そして、ナフサは海面にも流れだし、海面火災を起こした現場一帯は文字通りの火の海となっていた。


scopedog氏へ。3000トンのLNGやガソリン、ナフサなどを搭載する民間タンカーよりも、5トンの火薬を搭載する護衛艦の方が危険だと言い張るのでしたら、具体的な根拠の提示をお願いします。
2009年11月12日
関門海峡の護衛艦「くらま」事故で、初期報道では「くらま」は9ノットで航行していたと書いてあったと思い込んでいましたが、今になって調べ直すと幾つかのブログ記事や軍事ジャーナリスト神浦元彰氏のサイトにそう書かれているくらいで、元のマスコミ記事が見付かりませんでした。もしかすると現場海域の最大潮流速度9ノットと護衛艦の速度を勘違いした恐れが、そしてその発信源は神浦氏であるような気がしてきました・・・以前にも似たような事があったような・・・ただ、事故発生当初の報道にこのようなものがありました。


(2009年10月28日23時36分 読売新聞)
この交信は衝突の約2分前。コンテナ船とくらまとの距離は約2キロで、両船は、12〜14ノット(時速22〜26キロ)の速度で進んでいた。


これは事故翌日の読売新聞の記事ですが、護衛艦「くらま」と韓国コンテナ船「カリナスター」は双方とも12〜14ノットだったとあります。何故か初期報道の時点で「くらま」の航行速度に言及している記事は殆ど見当たらず、ネット上ではこれぐらいでした。

ところが10月30日に、ネット上にはありませんが紙面の方でこのような報道が為されている事が分かりました。


護衛艦衝突 「くらま」逆進で惨事回避 艦首十数メートル後方に弾薬庫
2009.10.30 読売新聞 東京朝刊 39頁 (全391字)
海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国のコンテナ船が衝突した事故で、「くらま」は直前に逆進をかけ、停止寸前の速度でぶつかったため、「あわや大惨事」の事態を未然に防いでいたことが、第7管区海上保安本部(北九州)の調べで分かった。損壊・焼損した艦首部分十数メートル後方の甲板下には弾薬庫があり、捜査関係者は「衝突が激しければ、後方の弾薬庫に引火、爆発していた可能性がある」とし、死傷者が出た恐れもあったとみている。

7管などによると、事故の際、コンテナ船は前方の貨物船を避けようと左に急旋回し、ほぼ真横を向いた状態だった。対向してきた「くらま」はコンテナ船の右舷前部にほぼ直角に衝突し、その場に停止。コンテナ船はV字形に幅約5メートルにわたって損壊した。7管は、この損傷状況から、約16ノット(時速約30キロ)で航行していた「くらま」が直前に逆進をかけ、停止に近い状態になっていたとみている。
読売新聞 2009.10.30


記事本文の方はジー・サーチの新聞・雑誌記事横断検索から、画像の方は頂き物で中部支社発行版です。 

これはどういう事でしょう、10月30日の時点で既に「くらま」は16ノットだったという報道が為されています。しかし、その上で速度について何も問題視されていません。むしろ逆進を掛けて停止寸前の状態にまであったと、「くらま」が必死に危険を回避しようと操船していた事を賞賛する内容です。

ところが、この読売新聞の報道から11日経った11月10日、突如としてNHKが「くらま」は15〜17ノットで安全速度超過の疑いがあると報道を行いました。

(2009/11/10)護衛艦「くらま」に安全速度超過の疑い?

そしてそのタイミングは、韓国コンテナ船「カリナスター」船長が業務上過失往来危険容疑で書類送検されると決まった次の日の早朝でした。

コンテナ船長を書類送検へ 関門海峡の海自艦衝突事故:共同通信

・・・あまりにも不自然です。仮に「くらま」の航行速度が逆進を掛ける直前まで15〜17ノットというのが本当だったとしても、それは初期段階で判明していた事になるのに、問題視されるのが10日間以上のタイムラグが空いているというのは・・・NHKの報道内容は読売新聞の報道の焼き直しに過ぎず、ベクトルを変えただけで、何時でも投入出来ていたはずです。11日遅れでの投入は、タイミングを見計らっていた可能性が高いと判断できますが、しかしこれは安易な陰謀論に繋がるので断定は出来ません。

ですが、結果としてみると、反攻用の素材を11日間温存して出来るだけ効果的なタイミングで放ってきたという、NHKの高度な戦略が見えてきます。まるで実際の戦争をしているかのような錯覚に陥りますが、予備戦力の温存と的確な投入は大変に効果的です。その主張が正しいかどうかはともかく。

なお、このNHKの作戦行動に追従したマスコミは、西日本新聞のみです。ですが、その報道内容には大きな不審点があります。


関門衝突事故 くらまも減速せず 数十秒前まで 危険回避怠る?:西日本新聞
7管が船舶自動識別装置(AIS)やレーダーでとらえたデータによると、くらまと貨物船は衝突の約3分前、双眼鏡などで視認できる約2キロの距離を航行。その約1分後には、後ろのコンテナ船もくらまから視認できる位置に入ったとみられる。だが、くらまは減速せず、衝突約1分前に、衝突現場まで約800メートルに接近。進路にコンテナ船が侵入してきて逆進をかけたが間に合わず、コンテナ船と衝突した。


この数字はおかしいです。衝突1分前に衝突現場まで800m? すると、衝突まで分速800mという事になってしまいます。そしてそれは26ノットという信じられない速度になってしまい、15〜17ノットという数字からも大きく逸脱しています。

西日本新聞の記者は記事を書いていて何故おかしいと気付かなかったのですか? もし26ノットで海峡に突入してきたら関門マーチスが悲鳴を上げて制止していた筈です。そうなれば事故報道は初期から「くらま」非難になって居た筈ですが、しかしそのような事実はありません。

無茶苦茶な数値を報道しないで下さい。
2009年11月11日
最近のホットな中国軍ニュースとして、J-10戦闘機のパキスタン輸出の話と、新開発の第五世代戦闘機(ステルス戦闘機)J-14を近いうちに試験飛行させると、空軍副司令官の何為栄中将が認めた事です。J-10のパキスタン輸出については実は今年4月に合意済みで、パキスタン名「FC-20」という呼称まで決まっています。

J-10戦闘機には今年になって確認された改良型のJ-10Bというタイプがあります。目立った改良点はダイバータレスエアインテークによるステルス性能の向上にあります。J-10Aのロシア風で剛健な雰囲気のエアインテークから、J-10Bは柔らかい丸みを帯びた形状のエアインテークとなり、印象がガラリと変わっています。



J-10Aのダイバータ付きエアインテークが可変式だったのに対し、J-10Bのダイバータレスエアインテークは当然、固定式です。その為J-10Bの最高速度はJ-10Aよりも低下しているでしょうが、ステルス性の向上との引き換えとなります。

j-10a.jpg
※J-10A戦闘機

ダイバータは機体表面との摩擦による空気の遅い流れを吸い込まないように、インテークを浮かせて取り付けたものですが、強い電波反射を生む為、出来れば無くした方が良いです。しかし形状の工夫だけで空気の境界層を制御する事は大変で、アメリカはステルス機であるF-22戦闘機ですらダイバータレス採用を諦めてエアインテーク付近にRAM(電波吸収材)を貼り付けています。次に開発したF-35戦闘機でようやくダイバータレス化を行っています。研究自体はF-16戦闘機の頃からやっていますが、実戦配備用として採用されるのはF-35からです。

中国は先ずパキスタンと共同開発したFC-1戦闘機でダイバータレス化を行い、次いでJ-10戦闘機にも採用しましたが、本当の目的は完全なステルス戦闘機である第五世代戦闘機開発計画J-XXへの習作という意味合いなのでしょう。現在、J-XXはJ-14という名で呼ばれています。

j-xx.jpg

完成イメージCGは未来的過ぎるエースコンバット登場オリジナル機体のような姿ですが、実際に開発中のものとは姿形は懸け離れている筈です。J-14計画は近く試験飛行を行い8〜10年後に実戦配備とのタイムスケジュールですが、開発は恐らく難航して遅延するでしょう。しかし既にステルス技術を習熟しようと、実用戦闘機に少しずつですが反映させている中国は、決してフルスペックのステルス機開発が不可能なのではありません。中国の技術力は着実に進歩しています。

一方で我が国のステルス実験機ATD-X「心神」はダイバータ付きエアインテークです。

atd-x.jpg

日本でもダイバータレス化の研究を行うべきではないかと思います。
posted by JSF at 03:48 | Comment(214) | TrackBack(0) | 軍事
2009年11月10日
NHKが護衛艦「くらま」は安全速度超過の疑いがあると報道しています。


護衛艦も速度出しすぎの疑い:NHKニュース
護衛艦は、関門海峡に入っても外洋を航行するときと同じ15ノットから17ノットで航行し、今回、事故が起きた海峡の最も狭い部分で船とすれ違うことを予測していたにもかかわらず、速度を落としていなかったことが新たにわかりました。関門海峡を通過する船舶に適用される港則法は「船舶に危険を及ぼさないような速力で航行しなければならない」と定めていて、海上保安庁では護衛艦が安全な速度を超えて航行していた疑いがあるとみて捜査を進めています。


15〜17ノット? 初期報道では9ノットで航行していたと聞いていましたが、違っていたんですか。潮流は2〜3ノットで西向きに流れていたので、西行航路の「くらま」にとって船足が速くなりがちですが、それにしても・・・海上自衛隊の護衛艦が外洋を巡航する場合は20ノット巡航が基準です。20ノット巡航するのはアメリカ海軍と日本海上自衛隊だけで、15〜17ノットならそれよりも遅い事にはなるわけですが、蒸気タービン艦の「くらま」では20ノット巡航は経済速度ではないので、外洋を単艦で行動していた場合に常に20ノット巡航していたとも限りません。

関門海峡では潮流の速度を3ノット超えて航行するように義務付けられていますが、最高速度制限の明確な数値は無く、カリナスター側も12〜14ノット出している上、カリナスターの突然の急旋回が事故の主原因である事には変わりは無く、「くらま」の速度が事故原因にはなりませんが、9ノットではなく15〜17ノットだったとなると、これまでの予測と変わってくる要素が出てきます。

【追記】

この記事は早朝に急いで書いたものをタイマーセットで正午にUPしたので、少し書き足りないので追加しておきます。

先ず不思議なのは何故今頃になって、という点です。事故関係船の航行速度は真っ先に判明してる筈なのに、このタイミングで新事実として出てきたのは何故か。

コンテナ船長を書類送検へ 関門海峡の海自艦衝突事故:共同通信

韓国コンテナ船カリナスター船長の書類送検が決まり、門司港管制官は立件が見送られたのと同時に出て来るとは・・・結果的に、事故の主原因が韓国船にあることは依然として変化は無いものの、韓国船が悪いという印象を弱める効果が生まれています。

また15〜17ノットという数値が事実だとすると、初期報道にあった9ノットという数値は一体なんだったのか。まさか9ノット=17km/hなので、単位を見間違えたなんて流石にありえないですし・・・


神浦元彰 日本軍事情報センター 2009.10.28
護衛艦「くらま」の速度は9ノット(約時速15キロ)というから、港則法にのっとり航行していたと推測できる。


幾ら逆神がこう発言したからといって、誤神託は既に起こった事象を覆せるような神通力は無い筈で・・・いや、まさか・・・
韓国コンテナ船「カリナスター」の船長は業務上過失往来危険容疑で書類送検される一方で、海上保安庁の関門マーチス管制官については罪を問わない事になりそうです。


関門海峡衝突事故:管制官を立件せず…海保方針 - 毎日新聞
関門海峡で海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国船籍のコンテナ船「カリナスター」が衝突した事故で、直前にカリナスターへ針路変更を助言した関門海峡海上交通センター(北九州市)の管制官について、海上保安庁は刑事責任を問わない方針であることが、捜査関係者への取材で分かった。指示の法的権限がなく、過失に当たらないと判断した模様だ。

門司海上保安部などは、カリナスター側が前方をよく見ていなかったことが事故につながったとみて、韓国人船長(44)を業務上過失往来危険容疑で書類送検する方針。


海上自衛隊は悪くないし、海上保安庁も悪くない、事故の主原因は韓国船ということで落ち着きそうです。残った問題は護衛艦「くらま」の修理費用を「カリナスター」船主の南星海運がどれだけ払ってくれるのか、という点に絞られました。実際に払うのは保険屋さんなので大丈夫とは思いますが・・・過失割合がどういう配分になるかです。お互いに航行中の場合、過失割合10:0になるケースはよほど特殊な状況に限られていますから、どこまで海上自衛隊側の主張が認められるかです。22DDHの予算通過にもどのように影響が出てくるのか、護衛艦側に落ち度が無かった以上、これはあまり関係は無いとは思いますが・・・