2007年10月02日
ヤングキングアワーズ、今月号は長谷川哲也先生の「ナポレオン〜獅子の時代〜」が表紙です。


アワーズ11月号
大欧州、男魂∞!!!


何という煽り文句。まさに大陸軍万歳。
素の表紙は↓以下を参照。

表紙ロゴ無し

注:長谷川哲也先生は公式サイト「超低金利漫画家 長谷川哲也のホームページ」の冒頭において、
「このホームページにおける文章、画像の無断転載はぜひやれ! 漫画家 長谷川哲也」と豪快に宣言なさっています。(流石です。ちなみに関係無いですが、長谷川先生のお父さんは元海上自衛隊の厳格な方で、お母さんはナポレオンの母レティッツィア顔負けの肝っ玉看護婦だったそうです)

私はこの「ナポレオン〜獅子の時代」が、現在のアワーズ連載陣の漫画の中で「ヘルシング」の次に好きな作品で、毎月心待ちにしています。ヘルシングはクライマックスに向かう真っ最中で、もうすぐ最終回が来ますから、これからはナポレオンが唯一の楽しみになるのかなぁ・・・小だまたけし先生の「平成COMPLEX」が打ち切りだったと知った今では、アワーズを立ち読みせず毎号買う理由はもう長谷川先生のナポレオン漫画だけになりそうです。

アワーズ冬の時代はもう直ぐ其処に来ています。「トライガン」は既に終わり、「ヘルシング」「ジオブリーダーズ」といった主力連載陣が軒並み最終回に近づきつつあります。梃入れとして野上武志先生の新連載「月の海のるあ」が始まったり(零式水上観測機「零観」が活躍する冒険漫画。詳細はこちら)、六道神士先生が「エクセルサーガ」と「ホーリーブラウニー」の同時連載を始めたり(エクセルサーガもクライマックスか)、宮尾岳先生の「並木橋通りアオバ自転車店」が新装開店した上でアワーズにも来月号から登場(ヤングキング誌と並行連載)と色々な動きがあるわけですが・・・

長谷川哲也先生の「ナポレオン〜獅子の時代〜」が看板作品になればいいんじゃないかと思っています。いや、もう看板作品でしょう。この時代の大河ドラマ、戦争劇画を描いた作品は非常に少ないです。ナポレオンを題材にした漫画はおろか、伝記や資料も日本では数少ない(特に資料が少ないので困る)。漫画だと「ベルサイユのばら」の作者である池田理代子先生が「栄光のナポレオン―エロイカ」を描かれたくらいで、他には存在しないと思います。勿論これは少女漫画ですから、漢らしい漢達を描いた戦場劇画は、長谷川ナポレオンだけ。その描写は、敢えて史実と異なる演出(俗に「長谷川マジック」と呼ばれる)をも行う大胆なものがあるので、好き嫌いは分かれるかも知れませんが私は一押しの作品です。(歴史資料的部分は研究家の兒玉源次郎氏による解説コラム「大陸軍戦報」も併記されているので、きちんとした勉強にもなります)

現在、「ナポレオン〜獅子の時代〜」は7巻まで出ています。(10月9日に8巻が出ます)初期のタッチを見ると現在ではかなり変わってきた感じです。初期は「北斗の拳」チックなのですが、それもその筈、長谷川先生は原哲夫先生のアシスタントをしていました。ナポレオンを最初に見た時、それ以前に長谷川先生が書いた漫画「アラビアンナイト」の頃とはかなり違ったタッチだったので驚きはしましたが、今ではアラビアンナイトの頃とも原哲夫アシスタント時代とも別の、長谷川先生らしいタッチで描かれている感じがします。私は今の画風が好きですね。

もしかしたら先生の割り箸の削り方が上手くなったのかもしれません。

割り箸漫画
(↑クリック拡大)

先生・・・いくらGペンが生産中止だからって・・・ちなみに竹本泉先生はペン先10年分のストックを確保しているそうですよ。

ところでこの漫画、最初はアウステルリッツ会戦の描写から始まり、その後にナポレオン誕生から始まる伝記ストーリーになるわけですが、1〜7巻の内半分くらいがフランス革命の詳しい描写(いや長谷川マジック炸裂か)に割いており、ロベスピエールが主人公になっているような気もしますが気にしてはいけません。(其処が良いのだという意見も多数)


死刑


市民革命の指導者達や民衆がお互いを呼び合うときに「市民○○」と呼ぶスタイルは、後の共産主義者達が真似て「同志○○」としたのだな、とよく分かります。革命とは血生臭く、ギロチン(断頭台)の露と消えていった大量の犠牲があった事を、これでもかこれでもかと生首を落として訴える・・・そんな漫画です。是非とも読んで欲しい作品です。(あれ何か方向性が違うような気が)市民革命で国王を処刑した後に皇帝を誕生させた(何をやっとるんだこの国は)フランスの数奇な歴史を描く伝記漫画です。

アワーズ今月号では1796年イタリア戦線「カスティリオーネの戦い」が壮大に描かれています。分散して進撃してくる敵を合流前に攻撃し、内線作戦による各個撃破で殲滅して行く。そして9年後の「アウステルリッツ会戦」では、「戦争論」を書いたクラウゼヴィッツをして「戦争芸術の粋」と言わしめた華麗な戦術。まさに軍神。このような人物が僅か200年弱前に存在してたという事実に驚きを覚えます。「英雄」とは、100年周期くらいで現れたりするものなのでしょうか・・・。


07時54分 | 固定リンク | Comment (76) | 雑談 |

2007年10月04日
中村哲医師のペシャワール会がパキスタンから撤退する事になりました。ペシャワール(Peshawar)はパキスタンの都市名ですから、其処から撤退してしまった場合は組織の名称も変更してしまうのでしょうか。


ペシャワール会:パキスタンでの難民医療支援から撤退 [10/4 毎日新聞]
パキスタンを拠点に、隣国アフガニスタンからの難民の医療支援などを続けているNGO「ペシャワール会」(福岡市)が、パキスタンから11月にも撤退する方針を固めた。アフガン、パキスタン両国間の関係悪化が背景にあり、今後はアフガンに拠点を移す方針。会の活動はパキスタンで始まり、会の名前の「ペシャワール」はパキスタンの地名に由来するが、そのパキスタンから活動開始24年目に撤退を余儀なくされることとなった。


どうしてこうなったかというと、記事の後半にこうあります。



アフガン難民はパキスタン国内に約215万人とされるが、同国政府が今年5月、09年までに全員を帰還させることを決定。アフガン難民の救済活動を続けてきた会に対しても今春からパキスタン政府の態度が硬化した。さらに、今まで黙認してきた、病院のアフガン人スタッフの資格の有無も問題視し、日本人スタッフのビザの滞在許可期間も短縮した。同会は「改善命令は事実上の閉鎖要求で、難民強制帰還に伴う国家方針」と受け止め、撤退を決めた。


パキスタンはアフガン難民を強制退去させるので、ペシャワール会にも一緒に出て行って貰おうというのが、パキスタン政府の意向です。

【追記】ペシャワール会について詳しい消印所沢氏によると、ペシャワール会の撤退理由は公式発表とは別に、何か裏の理由がある可能性が高いそうです。



37. このペシャワール会の撤退理由が,「アフガーン難民を帰国させるため」というのは,理由としてはこれまでの会の活動と整合性がありません.

 なぜならばPSMは難民のための病院なのではなく,ペシャワールにおける貧困な医療全般を支援するためのものだったはずだからです.

 事実,アフガーン難民が初めて出現するのはソ連侵攻後からですが,中村医師の本の記述に寄れば,それに対してぺ会が行ったことは,
「疲弊したアフガーンの農村の支援」
であり(それが「医者,井戸を掘る」),
「難民救済」
ではありません.

 むしろ本当の撤退理由は,
>今まで黙認してきた、病院のアフガン人スタッフの資格の有無も問題視
といったところにあるのではないかと愚考いたします.
 また,これまであからさまに他の援助団体を批判してきましたから,逆襲を受けた可能性もありますね.
 さらに(憶測半分で言えば),公表されているペ会の会計と,中村医師との記述との間に矛盾点がありますので,これまでのターリバーンとの結びつきから考えて,何かやらかしたのではないかという可能性もあります.
 ちなみに現在,反ムシャラフ・テロが激しくなっているのは,周知の通りです.

 まあ,真相はこれから調べてみるとして,記事は中村医師の言い分をそのまま伝達しているに過ぎず,信頼できるものとはあまり言えないようです.

Posted by 消印所沢 at 2007年10月05日 02:49:34


元々、アフガニスタンのターリバーンはパキスタンが育て上げた組織です。インドと対峙する時に備え安全な後背地を確保する為に、後方の隣国を事実上の支配化に置く必要があったからです。そしてそれは成功し、パキスタン子飼いのターリバーンはアフガニスタンの政権を掌握したわけですが・・・911テロ後のアメリカによるアフガン対テロ戦争でターリバーンは潰されました。そしてパキスタンはアメリカの半ば脅迫に近い要請で対テロ戦争に協力させられ、ターリバーンの掃討作戦に協力する羽目になりました。パキスタンは自ら育て上げたターリバーンを、捨て去らねばならなくなったのです。そうしなければパキスタン自体がテロ支援国家としてアメリカに潰され、そしてインドが漁夫の利を得る事になるのです。

そんな中、ペシャワール会の中村哲医師は対テロ戦争以前、その後も、ターリバーンを擁護する発言を繰り返していました。確かにそうすればターリバーンに襲われる心配は無くなるでしょう。しかし中村哲医師のターリバーンに対する擁護はあまりにも度を越したものとなっています。

現地に居た専門家の情報が正しいとは限らない

最早、中村哲医師はまるでターリバーンのスポークスマンと化しています。そんな中村哲医師とペシャワール会は、ムシャラフに疎まれパキスタンでの居場所を失ってしまいました。しかし活動拠点をアフガンに移しても、カルザイから好かれるとはとても思えません。彼等はターリバーンの手先と見られてしまうからです。今までが今までですから、ずっと目を付けられてしまいます。しかし、それはしょうがない事でしょう。

そんなペシャワール会ですが、最近、日本の民主党の小沢代表と何やら連絡を取り合っている様子。


国会:代表質問スタート 攻める民主、かわす首相 [10/4 毎日新聞]
このころ、小沢氏は国会内の控室。アフガニスタンで活動する福岡市のNGO(非政府組織)「ペシャワール会」に電話していたという。


恐らく、以下の件について話し合いです。

アフガンに調査団派遣へ 給油継続問題で民主党 [9/28 朝日新聞]

誰が行かされるのか知りませんが、ペシャワール会に現地案内を頼む気なんですね。それなら確かにターリバーンから襲われる心配は少ないです。現地アフガニスタン政府とISAFからは疎まれてしまうでしょうが。


小沢民主党代表:アフガン部隊参加に意欲…海自給油代替案 [10/3 毎日新聞]
小沢氏は国連決議に基づく国連の活動であれば、海外での武力行使でも憲法に違反しないという立場。2日の記者会見でも「ISAFは国連の活動で、参加は憲法に抵触しない。派遣するかしないかは時の政府の判断だ」と語っていた。党幹部は「小沢代表の持論から言えば、武力行使を含むISAFへの参加は当然だ」と指摘した。


ターリバーンと関係が深いペシャワール会と関わりがある、日本の民主党をISAFが快く思うとはとても思えないのですが。ISAFに参加したければペシャワール会との繋がりは切るべきです。そうしないと情報漏洩の可能性が有り得ます。ISAFはターリバーンの残党を相手に掃討戦をしていることを、忘れないで下さい。

そして、日本政府の海上給油活動に反対する為の代替案(政権奪取後の条件付としても)がISAFに参加する事であるならば、その任務はサマワ派遣などよりも遥かに危険である事を、民主党は国民に説明して下さい。例えば、アフガンに展開しているドイツ連邦軍はこの数年間で20人以上の戦死者を出しているのです。

民主党はそれだけの覚悟を踏まえた上で、言っているのですか?
21時56分 | 固定リンク | Comment (201) | 平和 |
2007年10月09日
今日は某mixiコミュで話題になった笠井潔の著作『国家民営化論』(光文社)の一節について簡単に語ってみようと思います。



笠井潔といえば、奈須きのこ著の小説「空の境界」(講談社)の後書き解説で、思想家以外には全く意味不明の内容を書き殴っていた(この本の読者層にとって大半が意味不明な代物)せいで不評を買ったこともありますが、元々そういう人ですから・・・

では笠井潔『国家民営論』に置ける「軍隊民営化構想」を引用します。ただし書かれた年代(1995年)が冷戦崩壊直後である事から、現在の状況にそのまま当て嵌めるわけにはいかないでしょう。



ポスト冷戦の国際社会では、交戦権の行使による国際紛争の解決は、もはや非現実的である。その意味で、国民国家に対応する国民軍=正規軍の必要はない。擬似的な正規軍である自衛隊は廃止される。ただし、日本を戦場とするケースもふくめて、先にも述べたように地域紛争の危険性は残されている。冷戦体制が崩壊した結果として、むしろその可能性は一般的に増大している。

では、地域紛争に備える軍事組織を、日本は常備すべきだろうか。むろん侵略を防止するためには、あらゆる外交的な努力が行なわれる。だが、それが失敗したときのことも、あらかじめ想定しておかなければならない。

日本に対する侵略には、武装した諸個人による市民軍の結成で対処するべきだろう。携行火器の操作法など、平時から無料で訓練を受けられるシステムを完備し、また非常の際の部隊編成や指揮系統、等々、そのためのマニュアルは事前に研究される必要がある。

ただし、戦争や軍用機や軍用艦船などの巨大兵器は不必要である。たとえば南ヴェトナム民族解放戦線の軍隊が装備していた水準の兵器、ようするに対ヘリ・対戦車ミサイルを最大限とする大小の携行火器で十分だろう。それなら特別に訓練された兵士集団を常備する必要はない。一億二千万の武装した市民軍が徹底抗戦するとき、この国を征服できる軍隊など、世界のどこに存在しうるだろう。すくなくとも二十万の自衛隊よりも防衛力として強力であることはまちがいない。

地域紛争や侵略に巻き込まれた他国を、国際的な義務として救援しなければならない場合は、どうだろう。現在の国連PKOの具体的事例に、それが適合するケースであるかどうかは、むろん別問題である。

そのようなときは、先にも述べたように武装ボランティア軍を編成して対応するべきである。他国の市民を救援するために、戦場に出かけるなど御免だという日本国民が圧倒的で、ボランティア軍の編成が困難である場合には、湾岸戦争のときのように資金提供で協力するしかない。国際的な侮蔑や非難を被ることになろうと、それは甘受せざるをえない。

以上のように外交関係を除外して、たとえ一国内でも、ほとんどの国家機構を民営化し、市場に解体することは可能である。数年前から盛んに論じられている規制緩和や民営化は、ラディカルな自由社会を形成する端緒として位置づけられ、実現されなければならない。


実は一年以上前に同じ場所で同じような内容(主張者は元過激派のA氏)のテーマで議論したことがあります。これは軍隊の民営化(民間軍事会社)というよりは、『市民軍構想』と呼ぶべきもので、一億総ゲリラ戦を想定したものでしょう。これはA氏や笠井氏だけの主張ではなく、多くの人が唱えていた理論でもあります。べトナム戦争でのアメリカ軍の敗退、アフガン戦争でのソ連軍の敗退から着想したのでしょうが、この構想には一目で分かる重大な欠陥があります。そう・・・もし敵が地上戦を行う気が無かったとしたら?

「日本は島国なので海上封鎖されたらお手上げ」

市民軍構想では戦闘機や護衛艦などの大型兵器は存在しない為、敵国が海上封鎖を仕掛けてきたら対抗手段がありません。潜水艦で商船を沈め、港湾を機雷で封鎖し、駆逐艦で海上臨検を行ってしまえば、一年半と持たずに日本本土で餓死者が出始め、降伏せざるを得ないでしょう。その後、悠々と占領すればいい。

また、対空ミサイルも携行タイプ程度しか存在しないので、射程外の高々度から戦略爆撃機が爆撃にやって来ます。地上軍の支援を行う気が無ければ、低高度爆撃は行う必要が無いのです。レーダーを警戒する必要が無いなら、尚更低空を飛ぶ意味がありません。

そもそも日本を占領する目的にしても、「航空基地を確保する為」とか、「海峡の自由な通行を確保する為」に半島などの小さな区画の限定占領が目的だったり、本土から離れた島嶼の占領だったり、日本本土全面占領を目的としない場合もあるわけです。そういった事例に市民軍では対処できません。対島嶼戦ではどうにもならない。標的が無人島だったりしたら無抵抗ですし、対馬のような大きな島でも増援が送れなければ抵抗は不可能。占領個所が本土の海峡付近(半島の一部)だとしても、狭い個所に正規軍が抵抗線を張って要塞化すれば、ゲリラ戦の手法では手出しすら出来ません。

結局、日本という島国の地理的条件では、市民軍隊構想は命取りもよいところです。そもそもゲリラ戦の損害は民間人を巻き込む悲惨なもので、日本のような人口の大きな国での防衛戦ならば、(全面的な地上戦闘に持ち込めても)数十万から数百万の戦死者を覚悟しない限り、市民軍は敵正規軍を撃退できません。

ただ単に「自衛隊を解体しろ」で終わらず、代替案を出してきたところまでは良かったのですが、やはり構想に無理があります。元過激派のA氏も、最終的には「日本の防衛には最低限の海軍と空軍が必要」と納得してくれました。

また、「軍隊の民営化」という言葉には、傭兵や「民間軍事会社」という意味もある訳ですが、今回はこれには触れていません。


オマケ(元々、ボランティアとは「志願兵」の意)

「武装ボランティア軍の例」
23時36分 | 固定リンク | Comment (132) | 報道 |
2007年10月13日
前回のエントリ「笠井潔『国家民営化論』一億総ゲリラ戦理論の大穴」では、「一億総ゲリラ戦理論」の欠点を簡単に指摘しました。それについて戦略論家の「81式」ことfurukatsu氏が大筋で賛同されたものの、二つの異なる観点を提示して再検討して下さいましたので、それをこちらでも検証していこうと思います。


軍隊の余裕と、軍隊の文民統制 :furukatsuの軍事
笠井潔『国家民営化論』一億総ゲリラ戦理論の大穴というid:JSF氏の記事について、本稿では「日本は島国なので海上封鎖されたらお手上げ」という結論に関して大筋ではその通りであると考えるが、しかしながらその一面的な論述に二つの観点から問題を提起する。

確かに、日本は島国であり、海上封鎖によって容易に干上がってしまうという危険性を有している。しかしながら、その事実は笠井潔の提起する考えを否定するものの、市民軍やゲリラ戦の思想そのものを否定するという意味ではない。そのような観点からJSF氏の議論について再検討をする。


私もゲリラ戦そのものを否定する気はありません。ただ、ゲリラ戦の大家チェ・ゲバラ著の「ゲリラ戦争」に置いて、

・地元住民の積極的な支持と献身的協力
・逃亡、休養、訓練、再編成などを安全に行う後背地(聖域)
・兵器や物資の安定供給を約束してくれる支援国家

これら三要素がゲリラ戦には必須であり、そしてゲリラ戦だけでは最終的勝利は得られず、最後には正規戦争に発展させる必要があると問いています。「勝利は常に正規軍によってのみ達成され得る」、ゲバラはそう言っているのです。(私自身は3年前に楽天広場で、CHF氏は1年前にmixiでこの事を「反戦平和運動家」を相手に説明していました。)

つまり日本は島国という地理的条件で既に、ゲリラ戦理論の三大要素の一つである聖域の確保が困難であり、連絡線の維持も難しく、援助国からの補給も遮断されやすい事になります。


さて、furukatsu氏の言う二つの異なる観点とは、「軍隊の厚みの問題」「主体的文民統制の問題」に分けられています。その文章は体系的に戦略論を学んだ者だけが書ける理路整然としたもので、大変分かりやすく纏められています。

先ず「軍隊の厚みの問題」を私なりに一言で纏めてしまえば、「戦争は数が必要」(注;「数で"決まる"」ではない)という基本中の基本を説明したものです。プロフェッショナル・アーミー(職業軍人で構成された志願制軍隊)とマス・アーミー(徴兵制で構成された大衆軍)では、当然後者の方がより多くの人間を集められます。そしてfurukatsu氏は、過度の効率化によって余裕と冗長性を失った志願制軍隊が、システム的に破綻する事を懸念しています。

しかし現代の先進国の軍隊はプロフェッショナル・アーミーで構成される事が主流となっています。西側先進国で唯一、徴兵制を残しているドイツ連邦軍も既に全軍の8割が志願兵であり、それでいて軍全体を縮小しつつ主任務を「専守防衛」から「国際紛争への対処」に切り替える方針を示しました。そしてロシアも徴兵制軍隊から志願制への移行を探っています。中国軍も同様の動きがあり、既に米英仏伊などが志願制軍隊である以上、世界の主流はプロフェッショナル・アーミーへと移り変わっています。その理由は「徴兵制 復活?」を参照して下さい。


次に「主体的文民統制の問題」ですが、furukatsu氏は「一般にマス・アーミーは主体的文民統制にとって有利である。」と述べています。これは現在のドイツでもそのような論議が行われています。それは徴兵制廃止論議の理由の一つに「軍隊を職業軍人だけに任せては文民統制が効かなくなるのではないか」という懸念の声があるのです。(furukatsu氏が言う、ドイツが徴兵制を続ける「建前上」の理由の部分)先の大戦のトラウマがあるのでしょう。ナチスが台頭する以前から再軍備の準備を着々と進めていたドイツ軍。そういった職業軍人への警戒心です。(しかしこれはドイツの徴兵制廃止論議の中でも徴兵制維持の理由としては弱く、最も大きな理由は徴兵忌避制度に置ける代替ボランティアが徴兵制廃止で出来なくなることへの懸念〜ボランティア要員の消滅〜が要因なのですが。)

ただ、これについては私は何も懸念していません。ドイツ連邦軍が徴兵制であろうと志願制であろうと、軍部が暴走する危険性に差は無いでしょう。どちらみち徴兵は兵であり、軍の中枢には関与しないのですから。(既に全軍の8割が職業軍人であり、徴兵制そのものが有名無実化した現状もあります)

客体的文民統制と主体的文民統制を見比べれば、どちらも文民統制というシステムでは同じです。客体的文民統制は政治と軍事を切り離し、軍部が政治に介入する事を防ぐというものです。主体的文民統制は軍隊を完全に文民のコントロール化に置く事を優先します。

しかし例えば、ミサイルが10分で首都に着弾する事を察知したというのに、一々文民に迎撃許可を求めていたら迎撃自体が間に合わないように、主体的文民統制が行き過ぎれば軍隊はマトモに動けなくなります。客体的文民統制は軍隊に軍事の専門性を求めるため柔軟性が増しますが、これも行き過ぎれば軍隊による軍隊の為の戦争が行われる危険性があるとfurukatsu氏は説きます。

つまり、どちらも行き過ぎればよくないわけで、両方の折り合いを付けるしかないわけですが、この話と「市民軍」「徴兵制」との関係性は薄れていると私は思います。何故ならドイツの徴兵制廃止論議の中でも主流と成り得ていない、極一部での懸念だからです。


最後に

私とfurukatsu氏は、「一億総ゲリラ戦理論」についてはお互い、問題外であると一蹴しています。今回の議論に置ける市民軍とは徴兵の事であり、ゲリラ戦は議論の中心ではありません。

私が「徴兵制 復活?」で述べた事は、徴兵制を全否定するものでは無いのです。序章の部分で、

『今までの世界情勢から予測すると、日本では数十年どころか数百年のスパンで、徴兵制復活は有り得そうに無い。』

と述べている通り、現在とその後当分の間の社会情勢の中で、日本で徴兵制が復活する可能性は著しく低い、そもそも必要が無いのだから・・・というものです。これについてもfurukatsu氏は概ね合意してくれるでしょう。

要は現実の選択と、理念(こうあるべき)の違いであり、前回のエントリでの19氏と大屋准教授のコメントとも繋がっています。



19. Wikipediaの笠井潔の項には彼は新保守主義に転向しているみたいなわけわからんこと書いてありますね
彼は右に寄ったんじゃなくて左翼思想からリバータリアニズムに入っていったはずですよ

リバタリアニズム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0

リバータリアン保守思想20の特色
http://www.soejimatakahiko.net/nlm/20.htm

確か副島隆彦や森村進なんかと同時期に初めて日本にリバータリアニズムを本格的に紹介した一人だったはずです
リバータリアニズムは突き詰めれば、外国の事に関わらない、敵が攻めてきたらオラのライフルで退治してやる、国家?シラネ、みたいな非常に原始的な考えまでいく思想ですから、こういうアナーキズムと紙一重の思想を持ってる人に国防を説いても無駄のような

後、どうでもいい個人的な話ですが笠井氏のヴァンパイア戦争は結構好きだったんですがねぇ
今にして思えばあれも最後は地球は北斗の拳みたいな無法地帯になってたなw

Posted by 名無しT72神信者 at 2007年10月10日 01:31:59


33. 19氏も書かれているとおり、笠井氏は「国家が個人に強制することはどの範囲までが道徳的に許されるか」という理念的な問いを前提として、その上でどのような社会の仕組みが可能かという議論をしているのです。なので、「それだと《現実的に》こんなに困ることが」と反論しても「なるほど、ではその現実は《不正》である」と言われてしまうのですね。
この問題についても、笠井氏はおよそあらゆる国家に該当する議論としていると思いますから(その点で日本国憲法の解釈として群民蜂起論を説いている憲法学者たちと異なる)、他国が大型兵器や海空軍を持っていることもない《はず》、ないし(最終的には)なくなるはずだ(だって不正なんだもん)という言い分があると思います。

……いやもちろん非現実的なんですが、理念中心で現実批判をするタイプの中では、笠井氏は余計な留保条項とか譲歩を付けないで《きっぱり間違う》人なので、アンチテーゼとか批判的検討の対象としては優れている人だと思いますよ。

Posted by おおや at 2007年10月10日 10:56:00


すると私は「現実中心で理念を批判するタイプ」になるのでしょうか。・・・その傾向はあるなぁ。
16時05分 | 固定リンク | Comment (86) | 平和 |
2007年10月14日
祭りの手作りロケット破片落下、見物客ら4人重軽傷 [10/14 読売新聞]

この記事のタイトルを見たとき、「打ち上げ花火じゃなくてロケット?」と思っていたら、結構本格的な手作りロケットなんですね。しかもそれが古来より続く伝統的な祭りとは。


龍勢まつり-吉田観光協会
龍勢とは、「椋(むく)神社秋の大祭」に奉納する神事として、代々伝承され続けてきた「手作りロケット」のことです。櫓にかけて打ち上げる様が、龍の昇天の姿に似ていることから龍勢と呼ばれています。

ロケット推進の噴射によって約五百メートルの高さまで上昇するもので、土地の古老より構造や火薬の取り扱い方などを伝承した若衆が製造します。伝承技術の相違によって二十七流派あり、それぞれが独自の工夫をこらすため、各龍勢も個性的なものに仕上がります。

観客が打ち上げの成功を一喜一憂する中、十数分おきに三十数本の龍勢が打ち上げられます。


龍勢の構造も詳しく載ってます。ロケットモーター部分の構造は意外と本格的なんですね。でも最大射高500mですから、テロ攻撃には到底使えない性能です。(ハマスが使う攻撃用自家製ロケット・カッサムで約射程10km。Qassam rocket - Wikipedia)・・・いやまて、日本の左翼過激派が使う自家製迫撃砲(鉄パイプ仕様)がら撃つ「金属弾」と同程度かそれ以上に飛びますね。最大射高500mなら水平に800mくらいは飛びそうですから。(勿論、テロに使うには大き過ぎてバレバレです)・・・って、話をテロから離しましょう。

今回の「竹を使ったロケット」と聞いて、ふと思い出したのがこの本土決戦兵器です。

★対空噴進爆槍 -(藤田兵器研究所

もし「B-29は竹槍で落とせるのか?」という命題に対し、「夜間爆撃で低空飛行を行う敵機に対しては、有効です!」だなんて真面目に答えが返ってきたら、怖い話だなと思いました。最大射高500m・・・うん、いけなくもない(何がだ)
23時19分 | 固定リンク | Comment (59) | 雑談 |
2007年10月18日
黒影さんの所から。

『世界で一番大きな生物は何でしょう?』:幻影随想

これには引っ掛けられました。私なんかはシロナガスクジラのところで思考がストップしちゃってましたから。それにしてもスケールの大きな話です。「軍隊」ならぬ「群体」の集合体・・・その圧倒的に巨大なそれは、色々な想像を掻き立てます。何処かの惑星の海の中に、コケムシのような群体生物が居て、それが恐ろしく超巨大で・・・有り得そうな話ですね。

いや実際にガメラに出てきたレギオンみたいな怪獣が居たら面白い大変なんですけど。(ただこの怪獣、設定を読む限り群体生物というわけでは無いみたいですけど、聖書から引用したフレーズが良い感じです)

群体生命体が喋ったら面白いだろうなぁ。

『我が名はレギオン、大勢であるが故に』
20時53分 | 固定リンク | Comment (59) | 雑談 |
2007年10月20日
furukatsu氏との議論の纏め。導入部はゲリラ戦からでしたが、実際には当初から実質的に徴兵制と志願制についての話でした。これは以前からfurukatsu氏側が私に対して、「一度話し合ってみたい」と思っていたテーマだったからです。

ゲリラ戦と徴兵制の軍事的、政治的解釈 - furukatsuの軍事


確かに現状の日本の作戦環境下で自衛隊を解散し民兵組織によるゲリラ戦を展開するのは無理無茶無謀である。しかしながら、例えば退職した自衛官や消防団のような組織を中心としてゲリラ的な戦闘を展開しうるような組織を作ることは十分に考えられうるし議論の余地のある考えになるだろう。また、いわゆる正規軍にあっても従来の近代型の官僚組織による軍隊ではなく、分散したゲリラ的な統帥法というのも十分に検討しうるであろう。RMAについての議論から考えても、官僚組織型のトップダウンによる統制は電信、電話による指揮に適合的なのであって、現代のコンピュータとデジタルネットワークにおいてはむしろゲリラ的な統帥法が適合的な場合も考えられるのである。


先ずfurukatsu氏の懸念は、自衛隊の予備役の少なさ、準軍隊組織が存在しない事への不安感(海には沿岸警備隊である海上保安庁があるが)があると思います。実際に他国(志願制軍隊を採用している国でさえ)と比べても日本自衛隊の予備兵力の少なさは際立っており、予算と政治的な事情さえ許せば、この部分を充実させるべきと私も同意します。(ただ、単純に予備役を増やすだけでも予算増が必要といった困難な事情があり、更に民間防衛隊設立となると政治的に議論は当面棚上げにするしかありません。)

そして分散したゲリラ的な統帥法とは何か。正規戦は分散と集合を繰り返し、決戦時にどれだけ兵力を集中できるかで勝負が決まります。これに対しゲリラ戦は決戦そのものを回避します。そうなると基本的に分散襲撃となるわけですが、敵勢力の弱い部分に攻撃を仕掛ける際に、局所的な戦術的優位を確保してから仕掛けるのは勿論なのですが、本格的に戦力を集中する事は行いません。ゲリラ側が不用意に戦力を集中すれば正規軍がこれに決戦を挑むチャンスが生まれ、一撃で壊滅してしまう恐れがある為です。(故にゲバラはゲリラ戦だけでは最終的勝利は得られない、と説く)

「分散したゲリラ的統帥法」とは、複数の独立した集団が分散して各個に敵に襲撃を仕掛けていく以上、一つの集団単位の行動の自由度を大きく認める必要性があります。それを統帥し、一つの意思の元に行動を決めて、命令を伝えて行かねばなりません。これについて現代のコンピュータとデジタルネットワークは正規軍よりもゲリラ側にとって適合性が高いのではないか、というのがfurukatsu氏の主張です。

これについて私は「イタチごっこ」になる、と考えています。確かにゲリラ戦の統制指揮には有効で、正規軍への適用よりも相性が良いかもしれない。ですが正規軍側はゲリラ側に比して膨大なリソースをデジタルネットワーク化とその進化に割く事が出来ます。相性の差があったとしても埋まってしまうかもしれない。そして正規軍のRMA化は既に始まっています。



まず、確かに多くの先進国が徴兵制をやめる、ないし縮小していることは指摘の通りである。しかし、それを以って否定する理由の補強とはなっても、洗練されたプロフェッショナル・アーミーが薄弱であるという指摘に対する反論とはならないだろう。プロフェッショナル・アーミーが数の厚みを超えてなお薄弱でないという議論を示してほしい。


少し論点がズレていると感じます。これまでの議論を見ても分かりますが、私とfurukatsu氏は基本的な面で殆ど合意に達しています。にも関わらず議論が続いているのは、このズレに拠るものが大きいのではないかと思います。これについては直接の反論も議論も必要なく、ただズレていることを指摘するだけでよいと思います。

例えば同一の国力の国同士が総力戦を行うと仮定すれば、マス・アーミーを採用した国の方が優勢になるのは当然である事は、そもそも前提のものです。

私は「マス・アーミーは必要ではない」「使う機会が訪れない」と言っているのです。先進国間での国家総力戦争そのもののが、意味を失ってしまった事。また総力戦争=全面核戦争となってしまっては、最早、市民軍の出る幕すら無いであろうという事。だから限定戦争下で投入兵力数が制限されるならば、質で勝るプロフェッショナル・アーミーを使う事が当然であろうという論議です。



しかし極東ではどうか。これについては冷戦終結による平和の配当は未だ受け取られていないだろう。むしろ地域大国となった中国の膨張主義的な政策や窮地へと追い込まれつつある北朝鮮の核開発、SCOというあらたな軍事同盟の締結、ヨーロッパ正面に兵力を張り付けずに済むようになったロシアとかえって冷戦期よりも状況は混迷している。

であるからこそ、韓国は徴兵をやめられないだろうし、わが国は日米同盟の強化に余念がないわけである。その意味ではドイツでの議論をそのまま適用するには無理があるだろう。我々は平和の配当を受け取っていないのだ。


そう、その通りです。これまで私もコレと同様の主張をあちこちで繰り返してきました。我々はまだ平和の配当を受け取っていないのです。(齟齬があるとすればロシア軍はソ連時代から大幅に兵力が衰えており、ヨーロッパ正面よりもむしろ極東方面の兵力減少が著しい点くらいか)

あと自己レスなんですが、

>最前線はポーランドとバルト三国のロシア国境まで伸びたわけだ。

ロシア国境ではなくベラルーシ国境でしたね。白ロシアの事をすっかり忘れていました。これは何時か直しておきます。



その上で日本に対する脅威という意味で考えると、彼らにとっての中規模な戦争が我々にとっての全面戦争となる可能性は十分にある。例えば、5コMD程度の着上陸を考えた場合、これは中国やロシア、ないし将来の統一朝鮮にとって決して国の全精力をかけた戦いとはならない。我々にとっては5コMDもの数だが、彼らにとってはたった5コMDとなることは十分に考えられる。つまり、我々にとっての全面戦争というのは十分に想像の範疇にある。我々の関わる戦争がすべて島嶼や一部地域のみを狙った限定戦争であれば何と楽なことかと思うが、そんなに世の中は甘くないだろう。


5個MD(MD:"Mechanized Division"・・・機械化師団の略)の揚陸。5年前にも貴方はそんな話をしていたような・・・確か自衛隊板の「反戦平和アクション議論板は自壊しました」スレッドだったかでしょうか? それと、過去の日米合同図上演習YAMASAKURAでも殆ど同じような想定があったと思います。(敵5個師団福岡着上陸)あの時の図演では一ヶ月で岡山まで攻め込まれ、その後に反撃に成功し追い落としていったという結果になっていましたから、我が方にとって「全面戦争」とは言えないでしょう。十分に対抗可能です。日本原の74式戦車がTKXに更新されれば特に問題無いと思います。



ではハイテク兵器についてはどうか。これについては確かにハイテク兵器の運用について徴兵ではやや困難があるという部分は否定しない。しかしながら考えてみれば分かるが現在の陸上自衛隊の任期制隊員は2年任期であり、概ね2任期勤めることから、4年の期間しか自衛隊に勤務していない。にもかかわらず、彼らは高度なミサイルの操作についてそれなりに習熟しているし、複雑な後方支援業務をそれなりにこなしている。


徴兵制だと1年が任期です。知り合いの一尉によれば「一年間ではやっと半人前」とのこと。いやニ年だったかな。北朝鮮のように10年近く徴兵する国は例外として、徴兵制度を取っている国は任期は短いですから、志願制度の国の兵士との練度はどうしても開いてしまいます。



社会契約というのは強制力(暴力)を共同体や政府に対して預けるところから始まっている。ホッブズ、ロック、ルソー、それぞれやや考えは違うが、人々が契約を結び強制力を預けているという点では基本的には同様である。

その意味では市民軍というのは当然の帰結である。つまり、人々がその実力を預ける端的な方法は一人一人が兵員となり強制力を担保するという方法であるという意味である。市民軍というのはそれが現実的に可能か、ないし効率的かという以前の問題として、近代国家がその構成員の実力の集合体であり、暴力の合法的な独占を要求する集団であるために当然の帰結なのである。この部分を無視してのプロフェッショナル・アーミーかマス・アーミーかという議論は片手落ちではないかと私は考える。


私はその部分に触れていません。「そうあるべき」理念は聖典にでも刻んでおけば置けばよく、現実の選択の前には何の意味も無い、と断じているだけですから。幾ら片手落ちだと言われようと、全く気にしていないわけですから、やはり無視しているのかもしれません。理念、思想、そういった議論とは別々に考えていると理解して頂ければ幸いです。



しかしながら、市民軍の理念は近代国家にとって非常に重要な価値を持つし、市民軍やゲリラ戦の思想は軍事的にもこれからの将来にわたって大きな影響を与えることだろう。

なお、私はこれから数十年に渡って徴兵制は現実性が無いと考えるが、数百年後は神ならざる身にとって予想出来る話ではない。約200年前のヨーロッパではプロフェッショナル・アーミーが破れマス・アーミーの時代が到来したのだから。


前半について、私も肯定します。理念として価値は決して失われないし、ゲリラ戦の思想は今も第三世界で現在進行形で実行されているのですから。

後半、最後の部分でfurukatsu氏はこう言います。
『私はこれから数十年に渡って徴兵制は現実性が無いと考える』

それに対し、私が「徴兵制復活?」で書いたことはこうでした。
『数十年どころか数百年のスパンで、徴兵制復活は有り得そうに無い』

結論は殆ど同じです。「200年前のヨーロッパ」とはナポレオン時代の事を指します。200年なら「数百年」の範囲内ですから、結局furukatsu氏と私の結論には殆ど差が無かったということになります。

しかしそれが議論と成り得たのは、理念理想と現実の選択との差異があるからです。例えば石破茂防衛大臣が前の防衛長官時代、自身は徴兵制の採用に否定的でありながらも「徴兵制が憲法違反であるということには、そのような議論にはどうしても賛成しかねる」「国を守ることが意に反した奴隷的な苦役だというような国は、国家の名に値しない」と発言した事と同じような理由によるものでしょう。

石破茂もfurukatsu氏も、現状の世界情勢では徴兵制の採用など全く現実的では無いと考えています。その上で徴兵制そのものを否定してはならないと説きます。(軍隊を捨てたとされるコスタリカ憲法にすら堂々と徴兵制復活の手続きを記した項目がある)ただ、furukatsu氏はより戦略論、軍政論の深い所にまで踏み込んでいるのに対し、石破氏は浅めの理念理想で留まっている感じです。(実際にはより深く考えているのだと思いますが)


さてこの議論は一番上で述べたように、furukatsu氏側が私に対して、「一度話し合ってみたい」と思われていたテーマでした。

(JSF氏には私が81式だと言えば分かってもらえるだろうか)

しかしこの時点(2006年7月19日)で「81式」と名乗られてもさっぱり分からなかったと思います。私は、実は2ch軍事板のコテハンではありません。古くから見てはいますが、「JSF」の名で書き込んだ事は軍板では一度きりしかありませんでした。必然的に軍板コテハンとの交流は少なく(せいぜい消印所沢氏くらい)、自衛隊板でヤスツ氏が主導した「反戦平和アクション掲示板」との交流(というか論戦)にしても、名無しで少しだけ参加していた程度なので、「81式」の名前は覚えていませんでした。

この夏の騒動で一体誰なのか検索して、軍板と自衛隊板で有名だったコテハン「81式」=furukatsu氏とようやく理解しています。
10時55分 | 固定リンク | Comment (41) | 平和 |
左翼リベラリストで軍事に詳しい戦略論家のfurukatsu氏による、陸自をアフガニスタンに出すべきでない理由の紹介です。


陸自をアフガニスタンに出すべきでない10の理由 - furukatsuの軍事
1.アフガンは戦闘地域である。

普通にゲリラ戦を展開してます。

2.そもそも自衛隊の仕事じゃない。

そもそも自衛隊の主な仕事は日本に対する侵攻の排除です。

3.海上給油で済む話で、内陸部に部隊を派遣する必要性が薄い。

目的に対する手段として必要性が薄いです。

4.給油が実績として海外で認められている。

アメリカのごり押しで認めさせました。まぁ、アフガン関係での存在感はそれなりにあります。

5.戦闘補給艦を5隻、有している国は米国と日本だけ。

俺がやらなきゃ誰がやる。普通に考えて向いていることをやるほうがいいです。

6.アルカイダとの直接戦闘は、国内テロを誘発する危険性がある。

皆さんその覚悟はあるんですかね?

7.海外での武器使用に関わる問題も山ほどある。

陸上では普通に戦闘が起きる可能性が高いのに、海外での武器使用に法的問題が大きいです。

8.そもそも後方が海外展開出来るように作られてない。

当たり前ですが、国内戦用の補給処と野整備です。余裕無いです、カツカツです。

9.パキスタンを通しての後方連絡線の距離が非常に長い。

カラチから何キロあるのかと。

10.さらにパキスタン国内で襲撃される可能性がある。

治安悪いです、敵対勢力多いです。普通にGF活動が活発です。


私も概ね、賛同します。アフガニスタンではISAFの戦闘以外でも地方復興支援チーム(PRT)ですら頻繁に襲撃されていますし、PRTチームによる反撃でタリバン側のアフガニスタン人が射殺されたケースも多々有りますが、果たして自衛隊にそれが出来るのか、殺し、殺される覚悟を決めた上で送り出せるのか・・・海上で支援が出来るならそれで良いじゃないかと思います。我が国は海洋国家なのであり、海からの支援が得意分野なのですから。

ただ間違いを指摘するとしたら以下の点です。

× 5.戦闘補給艦を5隻、有している国は米国と日本だけ。

アメリカはサプライ級4隻ですし、何も戦闘補給艦(高速戦闘支援艦)に拘る必要はありません。

高速戦闘支援艦(AOE)という括りで考えるなら、海上阻止行動に参加中の国ではアメリカ4隻(サプライ級)、日本5隻(とわだ級、ましゅう級)、イギリス2隻(フォート・ヴィクトリア級)になります。(スペイン、オランダ、イタリアなどもAOEを保有しているが参加していない)AOEとは給油、給兵(給弾)、給糧など全ての補給が可能な艦で、尚且つ高速を発揮できます。

ただし給油と給水に限定するなら給油艦(AO)でも可能です。タンカーがベースの船になるので速力は遅いのですが、作戦区域がイエメン、オマーン沿岸で範囲は1000海里程度なので、速力の差は大きな問題とはなりえないでしょう。海上阻止行動は弾薬を大きく消耗する事は無いので、洋上補給で必要なのは給油、給水、給糧(食料等の生活物資)となります。海上自衛隊の任務は給油と給水です。AOEでなくてもAOでも可能な任務です。(給糧艦はアメリカが派遣)

つまり給油艦(AO)を入れるならばアメリカのヘンリー・J・カイザー級やイギリスのウェーブ・ナイト級も数に加わり、それだけでかなりの数になります。また日本の「とわだ」級AOEは比較的小型ですし、インド洋での遠征任務は正直言ってキツイものがあります。より大型の「ましゅう」級が就役して少しは楽になりましたが、今まで海上自衛隊そのものが日本近海(小笠原諸島周辺海域)までの作戦しか想定していなかったので大変です。

それでも各国海軍に比べれば、海上自衛隊以上に補給能力が充実しているのはアメリカとイギリスくらいで、日本が果たすべき役割というものは大きい筈です。


なに考えてるんだ民主党:Kojii.net ココログ別館
それでも、いつぞやの PKO 派遣論議みたいに、武器の携行そのものがいいとか悪いとかいう低次元な議論をするよりはマシだなと思ったんですが、なんですか、こりゃあ。

「他国に守ってもらうのでは国際的に評価されない」と陸上自衛隊の警護部隊派遣論もあったが、 「政治判断として実力部隊を出すことは考えられない」(直嶋正行政調会長) として否定された。このため、 外国の民間警備会社に警護を委ね、会社が雇用する現地のアフガン人に守られる形を想定している。 「民主対案、外国の警備会社活用 文民警護、自衛隊を敬遠」



誘拐フラグですね、これは。現地のアフガン人傭兵を雇う? タリバンの手先が浸透していたらどうする気なんです? その可能性は非常に高いんですよ、正規軍や警察にまで浸透しているくらいなんですから。

また、その護衛は自らを盾として護衛対象を逃がすといった、そういった犠牲的精神を期待できるわけですか? イラクでの話ですが、ドイツ大使館員が襲われた時、護衛のドイツ国境警備隊GSG9隊員(政治的にイラクには正規軍を出せなかった)は、自らを盾にして大使館員を逃がし、全員戦死しました。

現地のアフガン人傭兵にここまでの犠牲的精神は求める事は無理でしょう。民主党は戦闘区域での護衛を軽く見過ぎています。カンボジアで日本人文民警察官が殺された時だって、護衛のUNTAC部隊は何の役にも立たなかった。その先例を生かさずに、アフガンで文民警護を外部委託ですか。それは殉職者が出るか誘拐事件になるか、どちらかですよ。
21時57分 | 固定リンク | Comment (70) | 政治 |
2007年10月21日
♪キエフ発の輸送列車降りた時から〜ハリコフ駅は雪の中〜

どくそせんのP57でシュガポフが口ずさんでいた替え歌「スターリングラード冬景色」、何時の間にやら話題の初音ミク(唄)でニコ動に登場していた模様。



さよなら祖国 私は帰れません

初出は何処からでしたっけ・・・もう10年以上前から存在しているみたいで、歌詞もさまざまなバージョンがあります。自分の記憶している歌詞と少し違うような・・・何方か正式な歌詞、知ってますか?(替え歌に正式も何もないもんだが)
22時59分 | 固定リンク | Comment (71) | 雑談 |
2007年10月25日
あんまりゲンダイの記事を扱う必要は無いとも思うのですが、紹介されている議員のコメントから妙な噂が流れている事を知り、そこだけ突っ込んでおく必要があると感じましたので紹介しておきます。


なぜ明かさないのか!「海自給油」納入2業者の社名 [10/19 ゲンダイネット]
この問題を追及している民主党衆院議員の渡辺周氏がこう言う。

「インド洋で給油活動している海自に対し、現在、石油会社2社が油を納入しています。防衛省は競争入札ではなく、随意契約を結んでいる。が、その間に入った商社を含め、情報をまったく出そうとしない。それで、油を市価の3倍近い値段で買っている可能性や、入手先は米国の石油会社ではないか、といった憶測まで流れています」


記事本文の「なぜ明かさないのか!」というゲンダイの疑問は「テロ対策だからです」という海幕の説明により、記事中で全て解決しています。何処の港に何時入港して何処から搬入したか、という情報が漏れればテロリストの格好のターゲットになります。米駆逐艦コール号が港で停泊中に自爆ボート攻撃を受けたように、港に居る時がテロ攻撃を受ける危険性が一番高いですし、納入業者の名が知れれば業者自体もターゲットになるからです。

そんな当たり前の事がわからないゲンダイの事は放って置いて、問題は民主党の渡辺周議員です。

『油を市価の3倍近い値段で買っている可能性』

↑これについて調べてみましたが、明確な証拠を発見できませんでした。それにしては「3倍」という数字が妙に具体的です。この数字が明確な根拠抜きに一人歩きしてあちこちで話題になるようでは、問題です。果たして政治家が噂話やいい加減な話で「〜といった可能性や、憶測まで流れています」等とコメントしてよいものなのでしょうか。

もちろんゲンダイですから、渡辺周議員が実際にそんな事を言ってもいないのに記事にした可能性もあります。ただ、実際にコメントしていたのだとしたら、週刊誌をソースにして国会で質問をするような馬鹿な真似の二の舞になりかねない、と思います。


20時25分 | 固定リンク | Comment (75) | 政治 |
2007年10月26日
前回の記事に関連してmixiでの給油関連の問答を載せてみます。



:「同じ日の契約(F76軽油)であるにもかかわらず1キロあたりの値段が6000円も違っていたそうです。(出典:原口議員

:「はぁ? 何言ってるんだ?

軽油は(仮に市価で計算すると)リッター120円くらいだろう。軽油の比重は0.8ちょいだから、1キロあたり150円。そんなものに対し1キロあたりの値段が6000円も違うなんて馬鹿な真似をするわけが無い。3倍どころか40倍じゃないか。

それ根本的に単位を間違えているだろう、問題外だよ。」

:「1キロリットルあたりの値段が6000円も違っていた、でした。」

:「(おいおい・・・)キロリットルとは1000リットルの事。

仮に日本国内の販売価格がリッター120円なら、キロリッターで12万円。

で、仮に真実だとして12万円と12万6千円で大騒ぎするような事何ですか? 5%くらいしか違いませんが。」

:「ちなみに「3倍」という説については私も出典は知りません。

この議事録でも、同じ日に「一キロリットル当たりの値段が会社によって六千円も違う」とされているだけで、いくらだったのかはわかりません。

で、会社によって違う理由は、「油船(バージ船)を通すか、真っすぐパイプラインで油を引くかの違い」のようです。」

:「停泊位置によってはパイプラインが使えないから、バージ船を通す場合もあるでしょうね。」

:「ガソリンで5%位だったら一週間での値動きでもありうる。」

:「ですから、「同じ日で」こんなに違う、と原口議員は主張しているんですよ。」

:「パイプライン経由とバージ船経由の違いが手数料差で5%。・・・何か問題でも?」

:「何が同じ日付なんですか?

 契約した日付ですか?
 引き渡された日付ですか?

 引き渡された日付が同じであるだけならば、価格が違うのは当然です。

 価格の決定は契約した日の状況によって決定されます。」


【登場人物】

A:Atsukoba
J:JSF
Y:Yukikazemaru

【オマケ】

A氏の解説による時系列纏め。



:「きっこの日記」に限らずですが、裏を取ればいいのだと思います。

3倍が真実かどうかは、他にソースが見あたらないため、わかりません。
ですが、問題点を探る観点、目の付け所としては良かったと思います。

「きっこの日記」にこの疑惑が掲載されたのが9月17日、
「愛川欽也 パックインジャーナル」が9月22日と10月6日、
「週刊朝日」が10月10日

「きっこの日記」をマメに読んでいれば、私ももう少し早くからこの問題に気が付いたと思っています。
まあ、早ければ良いという話でもありませんが、「きっこの日記」は問題点をつかむ嗅覚は優れているのではないかと思います。


「裏取り」作業って、後からするものでしたっけ? 凄く心配になってくるんですが。(渡辺議員とか)

結局、「三倍価格説」の根拠は見付からず終いでした。また、原口議員の拘っていた6000円の差についても、キロリッターあたりの差なら5%の差でしかありませんし、そもそも比較対象が違います。6000円の差はA社とB社、同じ日本企業での比較(差額は給油形態の違いによる手間賃差)です。一方、「三倍価格説」はF76軽油を市価の三倍で買っているという指摘なのですが・・・

海軍艦艇用燃料F76の「市場価格」とは一体、何を指すのでしょうか。軍用燃料に市価なんて無いような気がするのですが。米軍やNATO軍への納入額と比較したいのなら、先ずのその基準値が重要だと思うのですが、三倍価格説を唱える人たちは誰も気にしていないようです。
20時32分 | 固定リンク | Comment (59) | 政治 |
2007年10月27日
民主党のネクスト防衛大臣を担当する浅尾慶一郎議員は、元銀行員の保守系若手議員で、以前はネクスト外務大臣も担当していました。



この浅尾議員、本人の公式サイトに掲げてある政策などを見ていると、どちらかというと内政向きの人なんじゃないかなぁ、と思うのですが・・・どうやら軍事面での知識はかなり怪しげなモノのようです。そんなネクスト防衛大臣が放つ一発ギャグ。



【珍説】
「空母が海上封鎖をするわけないんです。空母は甲板の位置が高すぎて、臨検できないんですよ」
by 民主党ネクスト防衛大臣 浅尾慶一郎



【ノリツッコミ】
甲板の位置を下げたかったら、サイドエレベーターを下げれば問題解決♪


飛び込み大会
サイドエレベーター上で待機する臨検班の皆さん(嘘


キティホークのサイドエレベーター エレベーター
空母のサイドエレベーター



キティホーク アーレイ・バーク

(同縮尺)左:空母キティホーク 右:駆逐艦アーレイ・バーク

上図を見れば分かるように、空母のサイドエレベーターを下げた状態は、駆逐艦の上甲板とほぼ同じ高さとなる。


【マジツッコミ】
海上臨検で洋上横付けなんて、駆逐艦クラスの大きさの船でもやりませんよ。小回りが効きませんし、相手船からの攻撃(自爆含む)への対処が困難になりますから。

海上臨検する場合は、艦載艇に臨検班を乗せて相手の船に乗り込みます。又は艦載ヘリコプターを使い、空中からリぺリング降下させます。その間、母艦は相手との距離を保って何時でも反撃できるよう準備しつつ、援護します。


強行移乗:海上警備友の会
しかし、止まれと言っても止まらない、往生際の悪い犯罪者が相手となると、これはもうしょうがないからまだ動いてる相手船に無理やり乗り移る事になります。足の速い小型の巡視船艇は自分から突っ込みますが、中/大型の巡視船ともなるとそうも行きません。自身は足も遅いし小回りも効かないので、代わりに搭載している警備救難艇に行かせて自分は援護に回ります。


上記は海上保安庁の海上臨検(強行移乗)についての話ですが、海軍の駆逐艦やフリゲートは海保の大型巡視船並みの大きさになります。

駆逐艦やフリゲートですら自ら横付けして海上臨検などしないのに、「空母の甲板は高いから海上臨検などできない」とする浅尾議員の主張は、海上臨検の基本的なやり方を理解しておらず、更に空母のサイドエレベーターの存在も知らないようです。そしてヘリコプターを使ったリペリング降下による強行移乗も知らない(空母ならヘリを搭載していて当然であり、それならば臨検行動が可能)・・・つまり浅尾議員は到底、軍事面について明るいとは言えない人物です。海上阻止行動について何も理解していない。そのような人が民主党のネクスト防衛大臣を担当し、自民党の石破防衛大臣と相対していく・・・とても務まりそうにありません。これでは結局、前原議員や長島議員が前面に出て来ざるを得ないでしょう。

アメリカ海軍はMSO(海上阻止行動)に空母や強襲揚陸艦(空母同様、甲板位置が高い)を普通に投入しています。海上臨検には数十隻の艦艇が参加し、海上自衛隊が支援している海域のCTF150では10〜20隻の艦が活動しています。その作戦海域はインド洋といってもペルシャ湾入り口からオマーン、イエメン沿岸、紅海の入り口までと、面積的には日本海と同じくらいですが、この海上阻止行動は艦船だけでは行えません。航空機からの空中哨戒による支援が無ければザルのようなものです。つまり陸上基地からの哨戒機に加え、空母艦載機による支援もあるなら大変役に立つ事でしょう。

浅尾議員の「空母が海上封鎖をするわけないんです」という主張には、同意しかねます。ましてやその理由が「空母は甲板の位置が高すぎるから」では、最早、笑い話になってしまうのです。





浅尾議員の発言は22分30秒あたりからです。



浅尾:「漁船の高さってせいぜい、1mか2mぐらいです。航空母艦の一番高いところって何十メーターあるわけです。漁船をどうやって航空母艦で取り締まるんですか? 取締りようがないんです。」


おかしいですね、航空母艦の飛行甲板の高さは15mくらいです。「一番高い所」って、まさかアンテナマストの高さの事でしょうか。それなら確かに数十mあるでしょう。

でも比較している漁船とはダウ船の事ですよね。舷側は1〜2m程度でしょう。でもセイルマストの高さは十数mはありませんか。比較の仕方がおかしくありませんか。浅尾氏は上甲板高度と最頂高を混同している(どころか、自分の言っている数値の意味を理解していない可能性が高い)・・・いやそもそも、海上臨検で空母の高さを論じる事自体がおかしいのですが。ダウ船が相手なら駆逐艦だって直に横付けなんて出来ませんよ。搭載艇を出します。



それに、テロリストの武器・麻薬輸送は木造のダウ船ばかりではなく、大型貨物船の荷室に紛れ込ませるケースもあります。
20時30分 | 固定リンク | Comment (77) | 政治 |
2007年10月28日
以下のAFP通信の報道で(一部修正)とありますが、残っていたキャッシュを見る限り、最初は「B-2戦闘機」としていたみたいです。ありがちな間違いですが、即座にB-2爆撃機と修正された模様。




空軍は「作戦上、緊急に必要」と予算を請求したようですが、単に配備計画そのものを潰される事を防ぐ為のパフォーマンス、と見ることも出来ます。

一般にバンカーバスターと呼ばれる地下貫通爆弾には実は色々な種類があり、今回の緊急予算請求で話題になっているのは既によく知られているバンカーバスターGBU-28「ディープスロート」レーザー誘導貫通爆弾(GPS誘導型はGBU-37)ではなく、今年に入ってから実地試験を始めた新型貫通爆弾 Massive Ordnance Penetrator「MOP」の方です。B-2爆撃機はディープスロートの方なら既に運用能力を得ています。ディープスロートが重量約4700ポンド(2.1トン)なのに対し、MOPは30000ポンド(13.6トン)もある大重量弾です。

Massive Ordnance Penetrator - Wikipedia
Massive Ordnance Penetrator - GlobalSecurity.org

ABCニュースでは以下のように報道。


Bomb Iran? U.S. Requests Bunker-Buster Bombs [10/24 ABC News]
The item: $88 million to modify B-2 stealth bombers so they can carry a newly developed 30,000-pound bomb called the massive ordnance penetrator, or, in military-speak, the MOP.


例によって緊急予算請求について「イラン爆撃の為か?」というタイトルが付けられていますが、実はB-2爆撃機のMOP搭載改修作業は今年の夏頃から話は出ていましたので、本格的な改修作業の為の予算の追加請求なのだと思います。
20時35分 | 固定リンク | Comment (30) | 軍事 |
2007年10月29日
AFP通信が今日の記事で、新型バンカーバスター「MOP」の貫通性能比較図を紹介しています。(内容はグローバルセキュリティからの引用)・・・私が昨日書いた記事、今日まで待ってコレと併せて紹介しておけば楽だったかも。(しかしなんでAFP通信はMOPが新型である事を強調しないんだろう? 其処が少し不満です)




ただこの新型バンカーバスター Massive Ordnance Penetrator「MOP」の性能比較表に、疑問があります。

1.圧縮強度1万psiの鉄筋コンクリートで8mまで到達可能
2.通常の硬岩で40mまで到達可能
3.圧縮強度5000psiの鉄筋コンクリートで60mまで到達可能

1、2、3、と並べて見て少しおかしいな、と思いました。比較対象の従来型バンカーバスターGBU-28が「コンクリート6m、地中30m以上まで貫通」と書いてあるだけで、圧縮強度が分からないので何とも言えませんが、MOPの性能表の最後の部分が俄には信じ難いのです。コンクリート60m貫通は有り得るのだろうか、と。

元となった「グローバルセキュリティ」の説明でも Penetration の項目は以下の通りとなっており、AFP通信(日本語版)はこれを紹介している順番が違います(最初と最後を入れ替え)が、内容は正確に和訳して載せてあります。

60 meters [200 feet] through 5,000 psi reinforced concrete
40 meters [125 feet] through moderately hard rock
8 meters [25 feet] through 10,000 psi reinforced concrete

reinforced concrete は直訳して「強化コンクリート」と書かれる事も多いのですが、鉄筋コンクリートの事です。

60m貫通・・・これコンクリートではなく、普通の地中を貫通した場合の数値じゃないかと思うのですが、どうなんでしょう。
21時51分 | 固定リンク | Comment (53) | 軍事 |