テポドン騒動ですっかり忘れていましたが、アムネスティ・インターナショナルに問い合わせていた件の回答がありました。ちょうどテポドン発射直前の頃です。
当初はアムネスティ・インターナショナル国際事務局(ロンドン本部)に問い合わせていたのですが、待てど暮らせど返事が無く、仕方が無いので日本事務局へ問い合わせていました。そして日本事務局経由で国際事務局に問い合わせて貰い、
ガザ報告書(PDF)にある照明弾とフレシェット弾の件について回答を頂きました。質問内容については基本的に以下の2つの記事と同じ論旨です。
(2009/03/02)
ガザで使用されたフレシェット弾について (2009/03/05)
照明弾と白燐弾を混同したアムネスティ報告書アムネスティがガザ報告書に記載した「120mmフレシェット弾」はこの世に存在しない事、また「M485A2照明弾」の反応剤は白燐ではなく、マグネシウム粉と硝酸ナトリウムである事、以上の点で報告書に間違いがある件について問い合わせました。
その回答メールによると、アムネスティはガザ報告書にあるM485A2照明弾の記述、「These eject a phosphorus canister」の部分について「phosphorus」とは「白燐」の意味で記述したと明言しています。
これにより、scopedog氏が主張していた「phosphorus=光」説は無くなりました。
(2009/03/08)
アムネスティを妄信する人による無理矢理な弁護の数々 (2009/03/11)
アムネスティを擁護しようと無理矢理に英文解釈を捻じ曲げる人 (2009/03/14)
照明弾から発生する熱を無視しようと無理矢理な人 (2009/03/17)
誤魔化しと言い逃れに終始するscopedog氏(2009/03/30)
scopedog氏はマグネシウムを"燐光物質"だとでも主張するのだろうか? 結局、以上のやり取りは全部無駄だった事になります。
なおアムネスティの回答メールには、詳しくはこうありました。
> ご質問の件について、国際事務局の担当者に照会したところ、以下のような答えがありました。
>
> - 155mm M485 A2照明弾についてのご質問
>
> 調査団が発見した155mm M485 A2照明弾の弾筒の中から白リンが検出され、また、白リンが
> 燃えた痕跡も見つかったとのことです。
恐らく、着弾したM485A2照明弾の付近に後からM825A1白燐煙幕弾が撃ち込まれ、M485A2照明弾の弾筒に白燐が付着しただけか、もっと単純に発見した弾筒をM825A1とM485A2とで勘違いしたのか、アムネスティは間違えています。
この動画で確認できますが、イスラエル軍はガザ侵攻で夜間にM825A1白燐煙幕弾とM485A2照明弾の両方を同時併用しています。拡散する光の軌跡がM825A1白燐煙幕弾で、パラシュートを開きゆっくり落ちていく強烈な光の光源がM485A2照明弾です。この為、着弾したM485A2にM825A1の白燐が付着する可能性は十分に有り得ます。
現在、アムネスティに対してM485A2照明弾から白燐が検出されたという詳しいデータの提出を求めています。今の所、返答はありません。ガザ報告書にはこのような話は掲載されておらず、アムネスティの公式サイトにもそのような記事は見当たりません。この回答メールで初めてこの話を知りました。どうしてこれまで公になっていなかったのか、それも奇妙な話です。出ていたらその場でツッコミが入っていたでしょうけれど。
なぜ、アムネスティは兵器についてある程度知っている人にチェックして貰わなかったのだろう・・・照明弾の反応剤がマグネシウム粉+硝酸ナトリウムであることは、半ば常識といってよい話なんです。第二次大戦の頃は照明弾の反応剤はアルミニウム粉でした。つまり今も昔も金属粉を燃やして光源とするのが、照明弾という種類の砲弾なんです。
http://www.freepatentsonline.com/4094245.html
http://www.eldoradoengineering.com/mrpp/candle%20specifics.doc
http://uxoinfo.com/blogcfc/client/enclosures/Section15-4_Projos_DraftJune04.pdf
ざっと検索してみてもM485A2照明弾の反応剤がマグネシウム(Mg)と硝酸ナトリウム(NaNO3)であるとする資料は幾つか見付かります。2番目はDOCファイル、3番目はPDFファイルなので注意してください。
「The M485A2 155 mm Illumination Round contains a pyrotechnic charge that provides the bright light. This charge is made up mostly of sodium nitrate and magnesium powder.」
このような内容の資料は見付かりますが、M485A2照明弾の反応剤が「phosphorus=燐」であるとする資料は一切、見付かりません。そのような記述をしているのは今回のアムネスティのガザ報告書だけです。現在、アムネスティからの詳しい検出データ待ちですが、回答が得られたらそのデータを持ってアメリカとイスラエルの軍当局と砲弾製造元に問い合わせてみたいと思います。
なおフレシェット弾の件については以下のような回答を得ました。
> - フレシェット弾についてのご質問
>
> 120ミリで間違いないとのことです。
> イスラエル軍は120ミリ砲の戦車からフレシェット弾を発射しています。
> これについては、エレクトロニック・インティファーダの記事中で、参考になる情報があります。
>
> Israel's military debates use of flechette round
> http://electronicintifada.net/v2/article558.shtml
明らかに間違っています。アムネスティが120mmフレシェット弾の存在の根拠としているエレクトロニック・インティファーダの記事を見れば分かりますが、アムネスティは砲弾の種類を表す「APERS」という単語をフレシェット弾を意味するものと思い込んでしまっています。これは誤りです。「APERS」とは「Anti-Personnel」の略語で「対人」を意味するものでしかなく、対人兵器を表す言葉です。しかしフレシェット弾の「flechette」とはフランス語で「ダーツ(小型の投げ矢)」を意味し、矢のような形状をした兵器でなければなりません。
このエレクトロニック・インティファーダの記事は、2001年5月22日のジェーン・ディフェンス・ウィークリーの記事を紹介する形で「M494 105mm APERS-T round」について詳しく解説されていますが、M494戦車砲弾についてフレシェット弾である事、105mm砲弾である事、種別がAPERS-Tであることが詳しく解説されています。(Tはトレーサー、曳光剤の事)
Israel's military debates use of flechette round : The Electronic Intifada
Israel Military Industries has developed a 120mm APERS round and the more advanced 105mm and 120mm Anti-Personnel, Anti-Materiel (APAM) round, which is intended to defeat targets such as anti-tank teams. Military sources said the APAM has not been used against Palestinian combatants.
アムネスティが勘違いした部分はここです。記事内容の殆どがフレシェット弾である「105mm M494 APERS-T」について語ってある中で、この部分だけ別の砲弾である「120mm APERS round」と「105mm and 120mm Anti-Personnel, Anti-Materiel (APAM) round」について紹介されています。そしてアムネスティは「120mm APERS round」をフレシェット弾であると誤解してしまったのです。
しかし「120mm APERS round」の正体はフレシェット弾ではなく「キャニスター弾」であるM1028散弾の事です。これは丸い散弾を発射する戦車砲弾です。
なおアメリカ国防技術情報センター(DTIC)はM1028散弾の種別を「APERS」 であると記述しています。
[PDF]Performance Assessment of the M1028, 120MM APERS Tank Round - dtic.milそして「APAM」については、これは戦車砲から発射するクラスター砲弾です。対人攻撃(Anti-Personnel)ではクラスター子弾を分離し、対物攻撃(Anti-Materiel)では子弾を分離せずに通常の榴弾として起爆する多用途弾で、アンチパーソナルとアンチマテリアルの両方から文字を取って「APAM」という略称としています。105mmと120mmの両方が開発されています。
つまり「120mm APERS round」と「105mm and 120mm APAM round」はフレシェット弾ではありません。
アムネスティが自信を持って出してきた根拠がこの程度・・・どうして報告書を書く時に兵器の専門家に聞いてこなかったんですか? ロンドン本部ならジェーン編集部に直接聞いてくることくらい、出来るでしょう? もう頭を抱えるしかないです・・・フレシェット弾についての認識がこんな有様だとは思いませんでした。「105mmと勘違いしてました」で済ませれば傷は殆ど無かったのに、なんという自滅行為・・・
取り合えずアムネスティには上記の解説を行い、「120mmフレシェット弾で間違いないと断言するなら、物的証拠あるいは砲弾の形式番号を教えて下さい」とメールの返事を出しておきました。今の所、返答はありません。
これまでのやり取りを見る限りアムネスティの調査力、情報分析力は疑わしいものとしか思えません。根拠の無い自信を持って断言してくる様子を見て、専門家に助言を聞くという作業を何もしていないと感じました。
お問い合わせ | アムネスティ・インターナショナル日本Contact us | Amnesty Internationalちゃんと返事をしてくれる分だけ、アムネスティ日本支部の対応は誠実ですが、回答メールを読んだ瞬間に脱力してしまいました。まさかこの程度の認識だったとは、思っていませんでしたよ。