2012年04月11日
2011年10月5日、ハワイのカウアイ島でTHAAD弾道ミサイル防衛システムが2連続発射された弾道ミサイル標的を同時に撃破する実験に成功しました。THAADが複数目標を同時に撃破する事に成功したのはこれが初です。

THAAD Weapon System Achieves Intercept of Two Targets at Pacific Missile Range Facility | Lockheed Martin


TD_2011_FTT-12 - YouTube

この実験で使用された弾道ミサイル標的は、発射地点を自由に選べる空中発射型標的と海上発射型標的の2種類で、発射コースも発射時刻も事前予告されない不意打ちで行われています。空中発射型標的は恐らくイスラエルと共同開発したスパロー標的(まぎらわしいですが空対空ミサイルのスパローとは別物の大型標的ミサイル)で、海上発射型標的は退役したヘリコプター揚陸艦トリポリを発射台にしたものです。

200km以上の防護範囲を持つTHAADシステムは広域防空を可能としており、アメリカ以外ではアラブ首長国連邦に売却が決まっており、サウジアラビアも興味を示しています。
19時33分 | 固定リンク | Comment (30) | ミサイル防衛 |

北朝鮮は2012年4月12日〜16日の期間に人工衛星を打ち上げるロケットを発射すると予告しました。この動きに対し、日本を含む各国(米韓のみならず中露も)は、北朝鮮のロケット発射は国連安保理決議違反であると非難しています。2009年の北朝鮮による核実験後に、国連安保理は北朝鮮に対し「核実験および、弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射もしてはならない」と決議した為です。人工衛星を打ち上げる目的の宇宙ロケットであろうと禁止されています。

それを分かりやすく説明した声明文を紹介しておきます。

北朝鮮に「ロケット」発射計画の中止を求める / 日本共産党 志位委員長が声明 / 国連安保理決議を順守し、6カ国協議の共同声明に立ち返れ:しんぶん赤旗

 一、何よりもそれは、2009年6月12日に全会一致で採択された国連安全保障理事会決議1874号に違反するものである。同決議では、09年5月25日に実施された北朝鮮による核実験を強く非難するとともに、「北朝鮮に対し、いかなる核実験または弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施しないことを要求する」と述べている。すなわち、国連安保理決議は、「弾道ミサイル」だけでなく、「弾道ミサイル技術を使用した発射」をこれ以上行わないこと―すなわち、それが「弾道ミサイル」であろうが、その「技術を使用」した「人工衛星」であろうが、これ以上の発射を中止することを強く求めているのである。それは、北朝鮮が、国連安保理決議に違反して2度目の核実験を強行したという深刻な事実を踏まえての国際社会の重い決定である。

 今回の「ロケット」発射について、北朝鮮政府は、「宇宙空間の平和的開発と利用は、国際的に公認されている主権国家の合法的権利」、「衛星の打ち上げは、主権国家の自主権に属する問題」と述べているが、こうした合理化論は通用しない。


この日本共産党声明文は実に端的に「北朝鮮にロケットを打ち上げる権利は無い」という事を説明しています。

北朝鮮は宇宙ロケットを打ち上げる事を国連安保理決議で禁止されています。またロシア外務省は「北朝鮮は宇宙を平和利用する権利を有しているが、ロケットの発射は国連安保理決議違反である」としています。これは北朝鮮は人工衛星を平和利用してもよいがロケットの発射は禁止なので、北朝鮮の衛星は他国が打ち上げてやればよいという考え方です。実際にアメリカは北朝鮮に対し、衛星は中露に打ち上げてもらえばいいと打診しています。北朝鮮側はこれを拒否し、発射を強行する構えです。

日本はロケットを打ち上げてもよいのに北朝鮮が打ち上げてはいけない理由は国連安保理決議の有無です。北朝鮮は核実験を実施した為に制裁を受けて、宇宙ロケットを打ち上げる権利は制限されています。
20時54分 | 固定リンク | Comment (76) | ミサイル防衛 |
北朝鮮のロケット発射予告を受け、アメリカ軍は海上配備XバンドレーダーSBX-1を監視に投入する事を決定、ハワイから移動させました。SBX-1は石油採掘リグの上に大型レーダーを搭載したもので、自走も可能ですが、長距離移動の際は重量物運搬船に載せるか外洋曳船で曳航してやる必要があります。

そのSBX-1を曳いて移動する目的でアメリカ海軍海上輸送司令部にチャーターされている外洋曳船DOVEが、4月9日にグアムのアプラ港に入港とあります。AIS(自動船舶識別装置 )の情報からです。

外洋曳船: DOVE
目的地: APRA, GUAM
入港予定日時: 2012-04-09 05:00


image-20120411215949.png

AIS情報はDOVEのもので、SBX-1を実際に曳いて来たかは断定できませんが、DOVEはSBX-1を曳航する目的で海上輸送司令部に所属していること、移動のタイミングからSBX-1を曳航してきた可能性が高いでしょう。DOVEはSBX-1を展開海域まで曳航し、アメリカ海軍の戦闘艦に護衛を任せた後、グアムのアプラ港に入港したものと思われます。
22時07分 | 固定リンク | Comment (27) | ミサイル防衛 |
2012年04月12日
北朝鮮のロケット打ち上げに対応するために自衛隊はイージス艦とPAC3を配備しています。アメリカ軍からも海上配備Xバンドレーダーや各種観測機、イージス艦などが日本周辺に出動しており、その中にハワイのパールハーバーを母港とするイージス駆逐艦オカーンの姿がありました。ちょうど1年前、イージス艦による弾道ミサイル迎撃実験FTM-15「星のカロン」で射程3700km級の中距離弾道ミサイル標的の撃墜に成功し、迎撃ミサイルSM-3ブロック1Aが優秀な性能を持つ事を証明して見せたのがこのオカーンです。現在、中距離弾道ミサイルを撃墜した実績を持つ世界で唯一の艦です。

O'Kane
(2011年4月18日)イージス弾道ミサイル防衛が中距離弾道弾の迎撃実験に成功

イージス艦弾道ミサイル防衛の大気圏外迎撃用ミサイル「SM3ブロック1A」は最大射程1200km、迎撃高度500km、速度4km/sを目標に開発されています。※PDF資料 AEGIS TMD: Implications for Australia 18ページ
"The SM-3 Block 1 missile is being developed to achieve exoatmospheric intercepts of medium to long range ballistic missiles at ranges to 1,200 km and altitudes of 70–500 km. Based on the SM-2 Block 4 design, the SM-3 also employs a third stage dual-pulse rocket motor as well as a fourth stage autonomously manoeuvring 23 kg kinetic warhead to impact the target at a speed in excess of 4 km/s." 

欧州ミサイル防衛の配置場所からも、SM3ブロック1Aと1Bは迎撃高度500kmは上がれると推定できます。イラン西部から射程3000km級の中距離弾道ミサイルを発射するとドイツのベルリンやイタリアのローマに届きますが、ルーマニアの地上配備SM-3や地中海、黒海のイージス艦から迎撃するにはそれだけの能力が必要です。

欧州ミサイル防衛

北朝鮮は今回のロケット発射で人工衛星を高度500kmの地球周回軌道に乗せると発表しています。つまりロケットは正常に飛行した場合でも高度500kmまでしか上がりません。

「衛星、高度500キロを周回」=資源探査にも活用と主張−北朝鮮:時事通信

テポドン2改造ロケット「銀河3号」は、本来2段式ミサイルであるテポドン2の弾頭ペイロードを第3段ロケット+小型人工衛星に置き換えたものです。弾道ミサイルとして弾道軌道を飛ばせば最大到達高度はもっと高く上がれますが、人工衛星を軌道投入する必要上、目的の高度以上に上がる事はありません。

イージス弾道ミサイル防衛は2008年に、制御を失って落下してくる人工衛星NROL-21をイージス艦レイク・エリーのSM3ブロック1Aで撃墜しました。この時は速度17,000mph (7.8km/s)のNROL-21を高度247kmで破壊しています。"DoD Succeeds In Intercepting Non-Functioning Satellite"

能力的にSM-3は正常飛行する銀河3号に届きます。ただし正常飛行する場合は日米のイージス艦は迎撃を行わない方針です。万が一、沖縄方面に落下する場合は韓国の西を飛行中に何らかの不具合が発生した場合です。この場合は済州島の西あたりで弾道頂点を迎える射程1500km級の準中距離弾道ミサイルと類似した軌道になります。不具合が起きた後は弾道ミサイルとして軌道を計算し、領土に落ちてきそうなら迎撃します。なお大気圏外ならば空気抵抗が無いので、不具合発生して以降は再突入するまで複雑な動きはしません。

テポドン

赤い四角は北朝鮮が発表した第1段ロケットと第2段ロケットの落下区域です。ロケットの燃焼はそれぞれの落下区域より前に止まります。第2段ロケットの燃焼途中で不具合が起きた場合、済州島の西あたりで弾道頂点に達し、沖縄周辺に落下してきます。東倉里から沖縄本島まで約1500km、石垣島まで約1700kmです。第2段ロケットに問題無ければ日本周辺には落ちてきません。第3段ロケットは成功すれば衛星と共に軌道に乗ります。なお衛星フェアリング落下区域については北朝鮮から通告がありませんでした。
04時19分 | 固定リンク | Comment (52) | ミサイル防衛 |
北朝鮮のロケット発射予告に対して日本はPAC3とイージス艦を配備して迎撃体制を整えました。この動きに対し、朝日新聞が社説で理解を示しています。

(cache)朝日新聞社説・2012年4月5日(木)付 「北朝鮮ミサイル―発射させぬ外交努力を」

 北朝鮮のミサイルは、沖縄県の先島諸島上空を通過するとみられている。

 日本の領土や領海に落ちてきた時に備え、自衛隊は海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を積んだイージス艦3隻を日本海と東シナ海に展開する。さらに地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を首都圏と沖縄県内にそれぞれ置く。

 こうした措置を取るのは、2009年以来、2回目だ。可能性は低くても、できる限りの準備をする。この対応には国民の理解も得られるだろう。

 国連安保理決議に違反する北朝鮮の行為には、日本政府として厳しく対処する姿勢を内外に示すという意味もある。

 自衛隊の迎撃態勢を整える一方で、外交包囲網を活用して発射中止を粘り強く働きかける。傍若無人な北朝鮮を抑え込む即効性のある妙案を見いだせない現状では、それしかない。


基本的には外交努力で解決すべき、しかし外交で解決出来る妙案が無い以上、万が一の備えとしての迎撃体制は当然ーそしてミサイル防衛という軍事力の誇示を以て日本政府の姿勢を内外に示すべきーこれは朝日新聞の主張です。

朝日新聞が社説でミサイル防衛の配備に賛同する日が来るとは、とても驚きました。迎撃体制を整えているのは日米だけでなく、韓国や台湾、ロシアも北朝鮮ロケットの迎撃体制を整えているとはいえ、朝日新聞のこれまでの論調とは大きく異なる方向転換です。
23時05分 | 固定リンク | Comment (102) | ミサイル防衛 |
2012年04月13日
打ち上げ失敗と発表=北朝鮮:時事通信
http://i.jiji.jp/jc/i?k=2012041300519
北朝鮮、ミサイル発射失敗=上昇後分解、黄海に落下:時事通信
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012041300158&j4

発射後に数分で爆発が発生し、最後は空中分解しながら黄海に落ちた模様です。

失敗の様子を推定したCG動画

North Korea launch failure

正常に飛んだ場合のCG動画

North Korean Launch - April 2012
12時29分 | 固定リンク | Comment (182) | ミサイル防衛 |
2012年04月15日
今日行われた北朝鮮の軍事パレードでICBM級の新型長距離弾道ミサイルが登場しました。最初に見た時は段付き形状からノドンだと思ったのですが、TEL(弾道ミサイル輸送起立発射機)のタイヤの数を数えて見て驚きました。片側8輪、つまり計16輪もあったのです。これはロシア軍のICBMであるトーポリMのTELのタイヤと同じ数です。一方、準中距離弾道ミサイルであるノドンのTELは10輪です。

新型長距離弾道ミサイルとノドン

ノドンとは完全に規模が違います。ロシアのトーポリM並みのサイズであり、ミサイルの全長は20mはあるでしょう。全長も直径もノドンを一回りから二回りは大きくなっており、ムスダンよりも重く、テポドンよりは小さいサイズと推定できます。射程は最低でも5000〜6000kmは狙っていると思われ、それ以上かもしれません。三本の白いラインが引かれているのが気になりますが、もしかすると三段式のミサイルである可能性があります。固体燃料を使用している可能性も考えられます。またこの16輪のTELは中国の重野戦トラックに良く似ており、直接購入して改造したものかあるいは開発の参考にしている可能性があります。

WS51200

開発:湖北三江航天万山特种车辆有限公司
生産:三江瓦力特特种车辆有限公司 
WS51200トラック 
駆動形式16×12 
エンジン522kW(700馬力)
整備重量42トン 積載重量80トン 
寸法20110mm×3350mm×3350mm
21時00分 | 固定リンク | Comment (118) | ミサイル防衛 |
2012年04月19日
韓国国防部が新たに対地ミサイルの試射動画を公開しました。前半は短距離弾道ミサイル(クラスター弾頭)、後半は巡航ミサイルです。北朝鮮のロケット発射や新型長距離弾道ミサイルの公開、核実験の兆候に対しての牽制と思われます。


South Korea Ballistic Missile & Cruise Missile

前半の短距離弾道ミサイルは恐らく玄武2B、これが初公開です。
後半の巡航ミサイルは玄武3シリーズです。

短距離弾道ミサイル

玄武2Bの外形はロシアのイスカンダル短距離弾道ミサイルに非常によく似ています。

クラスター子弾

綺麗に散らばったクラスター子弾も一発がかなり大きく総数は30個程度で、米軍のATACMS短距離弾道ミサイルの小型クラスター子弾大量搭載とはコンセプトが異なるようです。玄武2短距離弾道ミサイルについては、ロシアの弾道ミサイル技術をスパイ行為で得て開発された事が朝鮮日報で報じられています。
어느 사업가의 고백 "내가 ICBM (대륙간 탄도미사일)한국에 들여왔다"(朝鮮日報 2011年6月25日)

ですが、玄武2Bがここまでイスカンダル短距離弾道ミサイルに似ているのは予想外でした。ロシアから得た技術はもっと古いものとばかり・・・

比較・玄武2Bとイスカンデル
17時23分 | 固定リンク | Comment (170) | ミサイル防衛 |
2012年04月21日
PAC3は終末段階で弾道ミサイルを完全に破壊する為に"Hit-To-Kill"と呼ばれる直撃方式を取ります。そしてPAC3は他にもう一つ、航空機や巡航ミサイルを撃墜するために「リサリティ・エンハンサー(Lethality Enhancer)」という方式も持ちます。通常の対空ミサイルは弾頭炸薬の爆風破片効果によって多数の破片を広範囲に撒き散らし目標を撃墜しますが、PAC3のリサリティエンハンサーは少量の炸薬で少ない数のタングステン・ペレット(ただし一発ずつが重い)を狭い範囲に展開する方式です。リサリティエンハンサーとは致死性強化(対物なので破壊確実性強化とすべきか)という意味です。

PAC3

このPAC3の図解は前方からミリ波アクティブレーダーシーカー、サイドスラスター、誘導装置、リサリティエンハンサー、ロケットモーターと続きます。リサリティエンハンサーの部分は小さく、重量も8.2kg(18lb)しかありません。これはタングステンペレット(1発225g、総数24個)と炸薬やケースなどを含んだ数字です。では炸薬だけではどれくらいの量になるかというと・・・

Lethality Enhancer explosive load

PAC3の炸薬量は僅か0.35kg(0.77lb)です。炸薬量350gは例えば57mm砲弾の炸薬量と同程度です。PAC3と同世代で近い大きさのESSM対空ミサイルが弾頭炸薬量41kgなのと比べると桁が二つ違います。リサリティエンハンサー全体でも8kgしかないので、この方式は通常の爆風破片方式よりも5分の1の重量で済みます。

PAC3は通常の対空ミサイルには無いサイドスラスターを多数装備しており、その分だけ機動性が高いのですが、炸薬を搭載するスペースと重量が無くなってしまいました。弾道ミサイルのみに対処する気なら直撃方式で炸薬は要りませんが、意思を持って回避機動を行う航空機に対処する場合は爆風破片方式が望ましいです。しかし通常通りの炸薬を積もうとすると重くなり機動性が鈍くなるので、重量が少なくて済むリサリティエンハンサーを搭載する事にしました。リサリティエンハンサーは効果範囲が狭いので機動性の低い対空ミサイルには不向きであり、つまりPAC3はサイドスラスターで得た機動性の代償にリサリティエンハンサーを選んだとも言えます。

極端に少ない炸薬は起爆後に重いタングステンペレットを遅い速度で展開させていきます。効果範囲が非常に狭いリサリティエンハンサーは「展開したタングステンペレットによりPAC3の見掛け胴径を大きくする」という、直撃方式の延長として考えられています。直撃を狙える機動性と精度を持つミサイルでなければ採用できない方式と言えるでしょう。そして一発が重いタングステンペレットは弾殻破片よりも「致死性が強化」されており、巡航ミサイルなどを確実に破壊できます。

リサリティエンハンサーの起爆タイミングはミサイル誘導用のミリ波アクティブレーダーシーカーで測ります。リサリティエンハンサーは目標から外れた場合の指令自爆処理用としても使われます。なお参考にした資料はPAC3の環境影響評価書です。

[PDF] PATRIOT Advanced Capability-3. (PAC-3) Life-cycle. Environmental Assessment. May 1997



【追記資料】
PAC3の前身「ERINT」のリサリティエンハンサーとサイドスラスターの図を追加。
※細かい仕様はPAC3とERINTでは異なる。

ERINT
※リサリティエンハンサー断面図。赤色が炸薬、緑色がタングステン。
タングステンペレットが二列で背後の炸薬量の厚みが違うのは、起爆後の飛散距離に差を付けて二重に展開する為。起爆後の略図。

ERINT
※サイドスラスターモジュール断面図。

[PDF] Subsystems for the Extended Ranger Interceptor (ERINT-1) Missile May 1992
14時41分 | 固定リンク | Comment (65) | ミサイル防衛 |
2012年04月23日
イスラエルのアロー弾道ミサイル防衛システムはアロー1、アロー2が大気圏内迎撃用で爆風破片方式の大型2段ミサイルです。そしてアロ−3では大気圏外迎撃体を搭載する事になりました。アローシステムの開発はアメリカから技術支援を受けた共同開発で、資金も出して貰っていますが、アメリカは援助費用節約の為にアロー3の共同開発を止めてSM3地上型の購入を提案しました。しかしイスラエルはこれを拒否しアロー3の開発が決まっています。

つまり日米共同開発のSM3ブロック2Aはイスラエル向け輸出の可能性はありません。イスラエルは国土が狭く射程300kmもあれば全土を防衛できるので、SM3の長い射程は過剰で不必要でした。必要な能力的にはTHAADの配備でも良さそうですが、イスラエルはTHAADの能力に若干不満があったのと、配備システムの種類をなるべく少なくしたかったこと、そして大気圏外迎撃体の仕様コンセプトをイスラエルの独自要求に合わせた特殊なものにしたかったのです。

アロー

左がアロー2、右がアロー3です。アロー3はアロー2よりも小さくなっています。これはアロー3が大気圏外迎撃体を採用し弾頭炸薬が無くなった為です。SM3の場合は弾頭炸薬部分を第3段ロケット+大気圏外迎撃体に置き換えて射程を延ばしましたが、アロー3は射程を延ばす必要が無いのでロケットの追加はありません。ペイロードが軽くなった分だけでも射程は延びて加速も良くなります。

KV revealed

そしてアロー3の大気圏外迎撃体は非常に特徴的です。大気圏外の機動を推力偏向ノズル方式で行うのです。アメリカの大気圏外迎撃体はTHAADもSM3もGBIも全てサイドスラスター方式なので、イスラエルは全く別の方式を選びました。また赤外線シーカーも首振り式で広範囲を捜索できます。この首振りシーカー+推力偏向ノズルの利点は急激な軌道変更を行える事です。イスラエルは湾岸戦争での対弾道ミサイル迎撃戦闘の戦訓から、予想コースとずれて飛んできた目標を土壇場で対処、修正できる能力を要求しました。


Arrow3 Demo -Youtube

アロー3軌道変更

推力偏向ノズル方式は推進ロケットとしても機能し、急激な軌道変更が可能です。しかし特性としてサイドスラスター方式と比べると応答性や正確性が劣ってしまいます。

TVC

サイドスラスター

そこで正確性に劣る推力偏向ノズル方式を補完するために、大気圏外迎撃体にリサリティエンハンサーを搭載して命中範囲を増やそうという提案が出ています。それも炸薬を使用せずに膨張ガスでタングステンロッドを展開する方式です。下の図は使用前・使用後です。

Fragments Deploying System

New Approach in Lethality Enhancer Design for Exo-atmospheric "Hit to Kill" Interceptors
First Israeli Multinational BMD Conference
Haim Shuqrun, IAI/MLM Division
http://imda.org.il/images/upload/conf/media/Haim%20Shuqrun.ppt

このガス膨張トーラス式リサリティエンハンサーはコンセプトの提案のみが確認されており、実際にアロー3の大気圏外迎撃体に搭載される予定かどうかは分かりません。ただ、大気圏外迎撃体にタングステンロッドを搭載して展開する方式はアメリカ側でも考案されており、将来的にリサリティエンハンサーが大気圏外での弾道ミサイル迎撃で使用されるようになる方向にあるのは間違いないと思います。
00時13分 | 固定リンク | Comment (58) | ミサイル防衛 |
2012年04月26日
弾道ミサイル防衛システムの試験には模擬標的を用います。退役した弾道ミサイルから改造転用したり、観測用ロケットを流用したり、地対空ミサイルを改造したりと様々ですが、イスラエルは狭い国土で試験を行う為に、戦闘機に搭載して海上から発射して自国の内陸部に撃ち込む空中発射式の模擬標的「スパローターゲットミサイル」を用意しました。なお名前が紛らわしいですが空対空ミサイルのAIM-7スパローとは関係がありません。

PICTURE: Israel reveals Rafael's Blue Sparrow target missile - Flightglobal (F-15への搭載例)


Youtube - Blue Sparrow missile / טיל המטרה של צה"ל "אנקור כחול"

[PDF] Sparrow Targets Air-Launched Ballistic Targets (イスラエル・ラファエル社の資料)

スパロー標的はイスラエルのラファエル社とアメリカのレイセオン社の共同開発で、イスラエルとアメリカ、それとフランスが購入して使用しています。大きさは三種類あり、ブラックスパロー(1,275 kg)、ブルースパロー(1,900 kg)、シルバースパロー(3,130 kg)と航空機から使うには非常に大きなミサイルとなっています。F-15戦闘機だけでなく、B-52爆撃機などでも運用できるようです。ブルースパローとシルバースパローは弾頭分離式で、弾頭はガス噴射による三軸制御で軌道変更が可能です。模擬標的弾頭は機動再突入体として振舞う事も出来ますし、わざと制御を失ってスピン状態にしてバレルロール状態で落とすことも出来ます。つまり弾道ミサイル防衛はそういった複雑な動きをする目標に対処する事を既に考えられているのです。

スパロー標的

なお日本も昨年に「F-15戦闘機から空中発射模擬標的を使用して弾道ミサイル防衛システムの検証」を行いましたが、これは単に炸薬非搭載の99式空対空誘導弾(AAM-4)をそのまま使用しただけでした。実際に撃墜する実験ではなく、レーダーで捕捉して対処行動をシミュレーションする試験です。

模擬標的発射しデータ収集 BMD検証 - 朝雲ニュース(2011/9/26)
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2012年04月29日
13日に打ち上げ失敗した北朝鮮のロケットは、韓国海軍のイージス艦セジョンデワンの捉えたレーダー情報によると高度75kmで爆発が発生し、ぺクリョン島の上空150kmまで上がった後に落下していき、バラバラになりながら水平方向には400km程度しか飛翔しなかったとされています。

そして日本自衛隊はイージス艦を迎撃に最適な沖縄近海に配置して、ロケットの発射の初期情報はアメリカ軍の早期警戒衛星とアメリカ海軍の前進配備されたイージス艦から得ています。失敗し短い距離しか飛ばなかったロケットでは、後方に居た日本のイージス艦や沖縄の与座岳J/FPS-5レーダーでは水平線の陰に殆どが隠れてしまい探知する事が出来ず、日本が独自に探知できたのは電波情報収集機EP-3Cがロケットのテレメトリー電波を受信し、早期警戒機が対空レーダーで捉えたとされています。(※沖縄と九州の地上施設の電波傍受装置でもテレメトリーは受信出来ていたようです。)

しかし疑問な点があります。確かに沖縄近海のイージス艦や沖縄の固定基地レーダーでは捉えるのが困難である事は分かります、距離的に捉えたと思ってもすぐ落ちてしまい見えなくなって判断が付きにくいでしょう。でも九州のレーダーからは十分見えて居たはずなのでは・・・? 弾道頂点のぺクリョン島付近から沖縄まで約1400kmですが、福岡まで700km、鹿児島まで900kmとより近いのです。

ぺクリョン島上空、高度150km
※ぺクリョン島の上空、弾道頂点高度150km付近から見たイメージ図。

弾道頂点150km
※脊振山J/FPS-3改レーダー(佐賀県) 赤が弾道頂点高度150km、橙が爆発時高度75km、ピンクが落下中間高度75km。

弾道頂点150km
※下甑島J/FPS-5レーダー(鹿児島県) 赤が弾道頂点高度150km、橙が爆発時高度75km、ピンクが落下中間高度75km。


九州のレーダーからならば、飛翔時間の半分程度は捉えられそうに思えますが・・・
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