このカテゴリ「オスプレイ」の記事一覧です。(全114件、20件毎表示)

2010年05月23日
日本の民主党鳩山政権は普天間基地の移設先を辺野古とすることでアメリカと合意しました。工法についてはまだ決定していませんが、杭打ち桟橋案は有り得ず埋立案になる可能性が濃厚で、自民党案と殆ど何も変わらないという結果に終わりそうです。


首相「辺野古付近」「ヘリ部隊切り離し断念」沖縄知事に:朝日新聞 5月23日
仲井真知事との会談で、首相は「ヘリコプター部隊を切り離して移設すると、海兵隊の機能を大きく損なう」と述べ、ヘリ部隊の一部を県外に出すことも断念し、普天間全体を辺野古に移す方針をはっきりさせた。工法や詳細な建設場所の調整はこれからだが、自民党政権時代に米国と合意した現行案にほぼ戻ることになる。地元の反発で工事に入れない状態が続き、市街地の真ん中にある普天間飛行場を使い続けなければならなくなる可能性も高い。

首相は辺野古周辺への移設を決めた理由として「昨今の朝鮮半島情勢から分かるように、東アジアの安全保障環境に不確実性がかなり残っている」と指摘。「海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力を現時点で低下させてはならない」と述べた。韓国の哨戒艦が北朝鮮の魚雷で爆破された事件を念頭に置いた発言だ。


辺野古への移転に舞い戻り、工事が出来なければ普天間継続。別にアメリカは困らないでしょう。むしろ移設案の1800m滑走路より普天間基地の2700m滑走路の方が長くて便利です、戦略輸送機も直接降ろせますから。韓国コルベット撃沈事件もあった以上、海兵隊がグアムやテニアンへ後退する事など有り得ない話で、首相の辺野古移設明言により、国外移転も県外移転も完全に消えました。

辺野古・ヘドロ埋め立て浮上 工法決定、5月は見送りへ:朝日新聞 5月19日

工法の決定は見送られましたが、杭打ち桟橋案も実質上放棄され、民主党鳩山政権は体面を取り繕う為だけにヘドロを使って環境に優しい埋立をすると言っていますが、そのヘドロ自体を沖縄で調達する事は困難で、柔らかいヘドロは地盤沈下も早く、これもどうせ放棄されて普通の埋め立て案に戻る事になるでしょう。

※ヘドロに関する認識は、上記は間違っていたようです。



あーあーあー、関係者全員硬直しちゃって。
これは、再度解きほぐすには時間がかかりそう…。

さて、残念ながら本エントリに一点だけ異議、というか確認を求めたい点が。
>そのヘドロ自体を沖縄で調達する事は困難で、
沖縄県では、港湾維持の為の浚渫泥の処分には頭を抱えている、というのが現状といえそうです。
といいますか、行き場を失った浚渫土砂を処分するために、埋立事業が繰り返されている、というのが現実のところで、先般大問題になった泡瀬干潟の埋立計画も浚渫土砂の処分が主目的、と喝破されたりしています。
ttp://d.hatena.ne.jp/hymatsuda/20070611(ブログですが…)

また、沖縄では地上土砂、いわゆる赤土の海岸流出にはものすごく神経質になっていまして、赤土を利用した埋立もかなり厳重な規制対象になっています。というか論外でしょう。
ttp://www.pref.okinawa.jp/kankyouhozen/okinawa/redclay/report/report.html

つまり、「ヘドロを利用した…」は沖縄にとっては常識の範囲内の話でして、いまさらこんなアイデアでダマされる奴なんかいない、という話なんです。
おそらく現行案でも、報道された羽地内海等の浚渫泥の利用は当然視されていたものと思われます。




※ご指摘ありがとうございました。

鳩山首相は、「最低でも県外」「5月末までに全ての合意を得る」という口約束を果たせず、地元住民との合意は残り一週間で達成できる筈もなく、実質上の公約を破る事になります。それでも首相は辞任する積りは全く無いようです。


首相、県民歓迎と認識か:沖縄タイムス 5月23日
鳩山由紀夫首相は4日の初来県後、周囲に「自分はそんなに反対されたとは思わない」との感触を漏らしている。周辺によると「首相はむしろ歓迎されたと思っている」という。

4日は県庁前広場をはじめ、首相が立ち寄る各地で抗議行動が起きていた。しかし首相は「どこでも、同じ人が集まっている印象がある」と感じ、「車で走っているときは(沿道で)みんな手を振ってくれている。ほかの県を訪ねたときと比べてそれほど嫌われているとは思えない」と話しているという。

このエピソードを聞いた与党議員は「宇宙人にもほどがある。本当に石を投げないと分からないのか」と吐き捨てるように話した。


もはやコメントのしようがありません。この期に及んでまでまだ鳩山首相を支持する人達も居るようですが、そういう人達もまた「沖縄県民は鳩山首相を応援している」と信じており、鳩山首相本人もその支持者も同種の病気に罹っているとしか思えない振る舞いを平然と行っています。もうルーピー呼ばわりされても仕方が無いでしょう。グアム・テニアン移転を夢見る人もまだ居ます。この状況でそう信じられる人達は現実が全く見えていません。

いい加減に目を覚まして下さい。
23時03分 | 固定リンク | Comment (432) | オスプレイ |

2010年05月12日
ちょっとこれは・・・いいんですか?


くい打ち式「アセスの対象外」 衆院沖北委 環境省が見解:沖縄タイムス
環境省の白石順一総合環境政策局長は10日の衆院沖縄北方特別委員会で、米軍普天間飛行場の移設をめぐり、政府が名護市キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立てる現行案修正の工法として検討するくい打ち桟橋(QIP)方式について、「くい打ち桟橋は公有水面埋め立て法で埋め立てと見なされず、環境影響評価(アセスメント)法の対象外となるのが一般論」と述べた。


私は杭打ち桟橋方式は公有水面埋立法が適用されるものと思っていました。それが自然な法解釈でしょう。環境省の説明は筋が通らないように思えます。


3.埋立ての定義と、公有水面埋立法の適用について知りたい:東亜建設工業
公有水面埋立法(以下「埋立法」という。)では、埋立ての定義について、「埋立ト称スルハ公有水面ノ埋立ヲ謂フ」(第1条)と規定するだけで、埋立てとは何か具体的に記述されていません。社会通念によれば、埋立てとは、水流又は水面に土砂等を埋築して、これを陸地に変更させる行為をいいます。
従って、防波堤、導流堤、橋脚等を設置する場合は、いわゆる工作物設置として許可され、埋立てには該当しません。
埋立てに該当しない行為であっても、干拓、水産物養殖場と乾船渠の築造の場合は埋立法が適用されます。


埋立法は、土砂やコンクリートを使って埋め立てる場合でも、公有水面を大きく占有せず陸地として利用するわけではない構造物なら適用されません。防波堤や橋脚などは除外されます。しかし物理的に埋め立てる場合でなくても、公有水面を大きく占有する(減少させる)場合の物に対しては適用されます。干拓は埋め立てと同じという考え方は分かり易いですが、養殖筏や乾船渠(乾ドック)までもが適用されます。そうなると固定式のメガフロートも適用される事になるでしょう。

杭打ち桟橋方式は公有水面を大きく占有する構造物です。埋立法が適用されるのが当然の話でしょう。「桟橋だから橋脚扱いにしろ!」というような法解釈があっていいとは思いません。私自身は法律に詳しくないので間違っている可能性もあるかもしれませんが、自分で法律を読んで適用例を見る限りは、杭打ち桟橋方式に埋立法が適用されないという解釈はどうにも理解できません。

公有水面埋立法:法令データ提供システム

一方で国土交通省はこのような見解を出しています。


桟橋方式、知事の許可必要=国交省:時事通信
国土交通省の日原洋文官房審議官は12日午後の参院沖縄・北方問題特別委員会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設で政府が検討中のくい打ち桟橋方式による代替施設建設案に関し、「国有財産法に基づき、海底への工作物新設、海底の掘削を行う場合には知事の許可が必要」との見解を示した。

また、水産庁の江口洋一郎資源管理部長は、くい打ちを行う区域内に漁場が設定されている場合、沖縄県の漁業調整規則に基づき、知事の許可と漁業権者の同意が必要になると説明した。いずれも島尻安伊子氏(自民)への答弁。


埋立法では無く国有財産法や漁業調整規則を持ち出していますが、これは時間の掛かる環境影響評価法(環境アセスメント法)の対象事業から外したい算段なのでしょうか。埋立法が準適用されれば環境影響評価法の対象事業になります。環境影響評価法 - Wikipedia


「辺野古周辺」と明記 普天間移設で政府原案:中日新聞
普天間の代替施設は1600〜1800メートルの滑走路1本。具体的な場所については、米側が現在の環境影響評価(アセスメント)を活用できるシュワブ沿岸部から沖合約55メートルまでの修正を求めている現状も考慮し「シュワブ沿岸部や辺野古周辺」との表現にとどめた。

だが政府はシュワブ沿岸部を埋め立てる現行計画との違いを強調するため、辺野古の南西沖約500メートルの浅瀬に桟橋方式を軸とする代替施設を検討。実務者協議で打診する考えだが、米側はテロの危険性や工期で難色を示しており、工法をめぐる協議は難航しそうだ。


微修正案なら埋立であろうと環境アセスメントは既に行ったものをそのまま流用できますが、500m沖の浅瀬に杭打ち桟橋方式で滑走路を設置する案は、環境アセスメントをやり直さないとおかしいでしょう。それを埋め立てじゃ無いから適用されない?どうにも理解する事が出来ません。どうして公有水面を大きく占有する構造物に埋立法が適用されないのか、環境アセスメント法の対象外になるのか、分かりません。

500m沖で杭打ち桟橋の着工を強行すれば、住民から訴訟を起こされて工事差し止めを受けてしまう、そんな未来が想像できないでしょうか。

【関連記事】
(2010/05/01)辺野古杭打ち桟橋案の是非
(2010/05/02)辺野古沖ポンツーン式メガフロート案
(2010/05/03)セミサブ型メガフロート移動基地

なおセミサブ方式のメガフロートに移動ユニットを装着すれば船舶扱いになるので、知事の許可も環境アセスも必要ありません。
22時23分 | 固定リンク | Comment (145) | オスプレイ |
民主党の川内博史議員とジャーナリストの松田光世氏は、もういい加減にしてくれませんか?


日本ではあまり伝えられていない重要な情報が、グアム・テニアン訪問を終えて帰国した民主党の川内博史議員らの記者会見で飛び出した。テニアンを含む北マリアナ州のフェテル知事が「ホワイトハウスから呼ばれて」5月16日にワシントンを訪問すると川内氏らに語ったと。オバマ大統領が動き出した。less than a minute ago via web


@matsudadoraemon 北マリアナのフェテル知事は昨年決まったアメリカ連邦化の件でワシントンD.C.に呼ばれたみたいですね。基地の話をするにしても、その"ついで"です。 http://bit.ly/dwS8Ouless than a minute ago via web



確かに嘘は言ってない、別件で呼ばれたついでに陳情してくるよ、程度の話ですが。しかし民主党の川内博史議員とジャーナリストの松田光世氏の言い方では、読者が「北マリアナ知事が基地移転の件でホワイトハウスに呼ばれた」と勘違いを起こしても仕方が無いもので、ハッタリを噛まして騙そうとしているとしか思えません。これは扇動の手口でしょう。



川内博史議員:「とにかく、ホワイトハウスに呼ばれている、という風に仰っていました。」

呼ばれた件は別件なんですけどね。


CNMI governor in Japan hopes for meeting with PM Hatoyama
Meanwhile, next week, the CNMI governor will be in Washington D.C to testify at a congressional oversight hearing on the CNMI federalization.
(一方、来週、CNMI知事は、CNMI連邦化に関する議会監査の公聴会で証言するために、ワシントンD.C.に居るでしょう。)


CNMI=北マリアナ諸島の略です。昨年、北マリアナは事実上の財政破綻に陥り、統治形態がコモンウェルスからアメリカ連邦の庇護下へと編入される事になりました。北マリアナ知事はその件でホワイトハウスに呼ばれているのです。
11時26分 | 固定リンク | Comment (130) | オスプレイ |
2010年05月08日
鳩山首相が普天間基地の沖縄県内移設の方針を明らかにした翌日に、それまで海外移設の方針を取り続けるべきだと主張していた民主党の川内博史議員は、テレビ出演で全く意味不明な事を口走りました。よほどショックだったのでしょうか・・・



【2010.5.5「ワイドスクランブル」普天間問題・総理沖縄訪問・書き起こし】(Ver.1.1)

川内議員が言っている事を纏めると、「鳩山首相はワザと沖縄に怒られに行った。地元の反発を煽り、これを持ってアメリカに沖縄県内移設は無理だと説明し、グアム・テニアン移転を要求する。これが腹案であり、全て一連の過程は計画通りであると、そう思います。」だ、そうです。ですがこれって根拠が何も無いんですよね・・・全て川内議員の想像でしかありません。願望と言った方が良いでしょう。そしてこれと同様の内容の願望論というか陰謀論は、5月4日よりも以前から世間に出回っているものです。


鳩山首相は誰にハメられたのか:日刊ゲンダイ(2010年04月27日)
ただ、気になるのは、この一両日の鳩山首相の自信に満ちた「県内移転否定」発言。もしかしたら、策略に乗せられたフリをしながら、沖縄県民を立ち上がらせ、最後は国外移転に持っていくシナリオにも見えてくる。(取材協力=ルポライター・横田由美子)


見ての通り、川内議員の主張とほとんど同じです。やはり根拠の全く存在しない勝手な空想、願望、妄想の類でしかありません。同じような主張はネット上でも出回っていますが、根拠が無い願望に過ぎない以上、説得力は皆無であり、信じ込む人はごく一部に限られています。

なお川内議員は現在、議員連盟を組んで6人の民主党議員でグアム、テニアン視察を行っている最中です。あくまでグアム・テニアン移転を模索するとしていますが、しかしこの動きは政府中枢の意志では無く、首相から何らの特命も受けておらず、全く無視されています。川内議員を中心とする沖縄等米軍基地問題議員懇談会は、4月13日にもグアム・テニアン移転の要望書を官邸に渡しています。それを受けた上での5月4日の鳩山首相の海外移転不可能の表明ですから、もう既に川内議員らは官邸に相手にされていないと見るより他はありません。

そしてそれは川内議員のブログからも伺う事が出来ます。最終更新は3月30日と少し古いのですが、週刊朝日に掲載された記事(文責・松田光世)の内容が間違っていると指摘されています。


週刊朝日の記事の誤りを正します!!:正々堂々blog 衆議院議員川内博史の日記
今日は、どうしても書いておかなければならないことがあります。

本日発売の「週刊朝日」に、「普天間問題」について「チーム鳩山」に秘策ありと出ています。

様々なことが書いてありますが、「今回の政府提案のベースになったのは、川内私案とされる。」とあります。

それに続いて、総理が川内に「指示した」とされる言葉まで出ています。

私は、総理から指示を受けていませんし、政府が現在、様々な努力をこの問題にしていることのベースに私達の提言がなっていることも決してありません。

この記事の中で、正しい部分は3月6日に元外務省国際情報局長孫崎享氏と共に首相公邸を訪れ、総理と会い、孫崎氏が、記事の中にある進言をしたことは、事実です。

しかし、「川内私案」については全く違います。


川内議員はとても正直な方で、「自分は総理に指示されて動いているわけではない」と、普天間問題に置けるチーム鳩山の一員ではない事を認めています。川内議員個人の私案ではないし、自分達の案が政府提案のベースにもなっていないし、総理に直接進言もしていないそうです。黙っていればハッタリを掛けられそうなのにきちんと訂正するあたりはとても好感が持てるのですが、ここから分かる事は川内議員のグループは普天間問題について蚊帳の外に置かれ続けていて、政府への影響力は殆ど存在しない、という事実です。そして首相に直接進言した孫崎享氏については、鳩山首相の沖縄訪問直前の5月2日に持論を撤回しており、既に県外・海外移転を諦めているという状況です。

続き。先ほど、朝日ニュースターの収録を終えた孫崎さんに聞いたところ、伊波さんが熱弁。西崎さんのことも評価していました。ただ、孫崎さん自身は、財政難の米国はかつて自ら立案したグアム移転案を実行せず、普天間に居座る可能性があるのではないかと分析。この話は本番ではしていないかも。less than a minute ago via web



県外・海外移転派の精神的支柱だった孫崎氏がこの有様なのですから、グアム・テニアン移転に縋る人達は根拠の無い陰謀論に走るしか道が残されていないという状況なのでしょう。気持ちは分からないでもないですが、しかしそれはやはり根拠が無いただの願望に過ぎません。

鳩山さんはわざと不可能な案や稚拙な案を表に出してマスコミや国民に叩いてもらっている。そうやってアメリカも文句が言えないように普天間問題の国民世論を海外移転に向かうよう意図的に操作している。 #futenma #kenmintaikai #seiji #minsyuless than a minute ago via TweetDeck



率直な感想↓

この論法で行くなら、全ての政治家の稚拙発言は弁明できるよなあ RT @LewChew 鳩山さんはわざと不可能な案や稚拙な案を表に出してマスコミや国民に叩いてもらっている。そうやってアメリカも文句が言えないように普天間問題の国民世論を海外移転に向かうよう意図的に操作している。less than a minute ago via Echofon



テンプレート化↓

@dragoner_JP こんな感じで擁護してみました「近衛さんはわざと不可能な案や稚拙な案を表に出してマスコミや国民に叩いてもらっている。そうやってアメリカも文句が言えないように中国問題の国民世論を開戦に向かうよう意図的に操作している」less than a minute ago via TweetDeck



近衛文麿 - Wikipedia

近衞さんと鳩山さん、どっちがマシなのでしょうね・・・


【グアム・テニアン関連記事】
(2010/04/20)宜野湾市・伊波洋一市長の「沖縄の海兵隊は全てグアムに移転する」という妄想プレゼンテーション
(2010/05/05)普天間移設先はグアム、テニアンだと吹聴して回ったジャーナリスト達はどう言い訳するのか
(2010/05/07)有田芳生さんの言い訳は「ペンタゴンに聞いてごらん」でした。
19時40分 | 固定リンク | Comment (352) | オスプレイ |
海兵隊の存在意義として『海兵隊は議会の承認なく動ける』という説が有りますが、実際には海兵隊だけが特例扱いされているわけではないようです。以下は名古屋大学の法学の准教授、大屋雄裕氏の解説です。



>172
やはり専門外ですが多少調べてみましたよと。

まず142氏の指摘通り、War Powers Resolution (U.S.Code Title 50 Ch.33)はUnited States Armed Forces(=陸海空軍・海兵隊・沿岸警備隊)を一括して扱っており、海兵隊を特別扱いする規定はありません。同章によれば、大統領による軍の(危機への)動員は宣戦布告か特定の制定法上の根拠に基づく場合、または合衆国の領土・財産・軍隊に対する攻撃により生じた緊急事態に対処する場合にしか認められません(§1541)。危機が生じていない場合の護衛、あるいは実際に米軍が攻撃を受けたあとの「緊急事態への対処」は同法の範囲外だ、ということになります。

つぎ。同法の対象となる動員が行なわれた場合、大統領は48時間以内に議会に対して文書で報告する必要があります(§1543)。その後60日以内に議会が宣戦布告を行うか、立法により別に権限付与を行うか期間延長を認めない限り、大統領は動員を終了しなくてはなりません(§1544(b)1,2)。ただし、安全な動員終了のために必要不可欠である旨を大統領が文書で宣言した場合、最大30日の延長が認められます(§1544(b)3)。

続きます。




さて同法の有効性について。同法は上下両院で可決されたものに対してニクソン大統領が拒否権行使し、それを両院がそれぞれ2/3以上の特別多数決で覆すことにより成立しました。従って十分に法律としての有効性を持っていますが、ポイントはニクソン以降の全大統領が同法を憲法違反だと主張し、その効力を認めていないという点にあります。

その根拠は、合衆国憲法における(戦前日本の言葉を借りれば)軍政と軍令の分離にあります。同憲法上、宣戦布告を行うことと軍事(を含む)予算を決定することは議会の権限ですが、軍隊の指揮権は大統領にあります。大統領としては、軍令事項は憲法上大統領権限に属するので、宣戦布告にわたらない軍事行動に対して議会が制約を加えるWar Powers Resolutionは憲法違反だと主張しているわけです。なにやら統帥権干犯問題みたいですな。

さらに続きます。




この点からも、海兵隊を特別扱いする根拠はないようです。United States Armed Forcesのすべてについて、大統領は自らの権限で動員することができます(このこと自体はWar Powers Resolutionも否定していない)。議会はそれに承認を与える権限があると主張していますが、いずれにせよ最終的には予算的にコントロールすることができます。《法的には》海兵隊が特別だという理由は見出せませんでした。

他方、事実の問題として海兵隊が即応性・完結性を重視して編成されているために最初に動員されやすく、従って特別だという印象を持たれやすいというのは確かでしょう。また、ホワイトハウスなどの警備を海兵隊が担当していることも、「大統領の私兵」という印象を強めているのかもしれません。そういう慣習とか伝統のレベルでは違いがあるのかもしれませんが、さしあたり法的には以上のように思えるということでご理解ください。

長々と余計ごとで申し訳ありませんでした。




「議会の承認」の件を質問されましたが、大屋准教授の解説が的確なので紹介しておきます。
03時01分 | 固定リンク | Comment (107) | オスプレイ |
2010年05月07日
「普天間移設先はグアム、テニアンだと吹聴して回ったジャーナリスト達はどう言い訳するのか」で紹介した三人(岩上安身氏、有田芳生氏、松田光世氏)のジャーナリストの内、有田芳生氏からお返事が頂けたので紹介します。

「はず」だって(笑)国防総省に聞いてごらん。終わり。RT @obiekt_JP: アメリカの資料には「訓練のための一時配備(外来機)」と書かれている筈なんですが、貴方は何時まで恒久配備の話と勘違いしたままなんですか?有田さん?RT @aritayoshifu 原点は国防総省のless than a minute ago via Echofon



アメリカのどの公文書を読んでも有田さんの主張するような内容は書かれて居らず、「有田さんは、グアムで訓練の為に一時配備する航空機を恒久配備と勘違いしてますよね?アメリカの資料には一時配備と書かれている筈ですよ」と聞いたら、「国防総省に聞いてごらん」という返答では・・・「松田光世さんと学友のDCIA少佐の機密レポート」でジャーナリストの松田さんがDCIA少佐に機密レポートを教えて貰ったと強弁するのと全く同レベルで、呆れるより他ありません。これが夏の参院選に出馬する人の態度なんですか。自らの首を絞めているようにしか見えないです。有田さん、「国防総省に聞いてごらん」ではなく、「国防総省の資料にこう書いてある」「国防総省の役人がこう証言した」という論拠を具体的に説明しない限り何の反論にもなっていないでしょう。そもそも有田さん、貴方は国防総省に取材しておらず、「2014年までのグアム移転は国防総省の既定路線」というのはそっくりそのまま宜野湾市の伊波洋一市長の受け売りでしょう? 貴方は伊波市長への取材後に「琉球新報」4月18日「論壇」にそう書いています。しかしその伊波市長の妄想プレゼンは全くの出鱈目です。

2010/04/20)宜野湾市・伊波洋一市長の「沖縄の海兵隊は全てグアムに移転する」という妄想プレゼンテーション

宜野湾市の基地政策部・基地渉外課に聞いてみても、以下のような返答しか返って来ません。

・「宜野湾市は、グアムに普天間の全兵力が移転する、という表記をアメリカのどの文書からも見付けていない。」
・「宜野湾市も、グアムに移転する航空兵力がどこから移動するものかわかっていない。」

伊波市長の言う「既定路線」とは、市長と宜野湾市の勝手な解釈に過ぎず、多分に願望が混じってしまったものでしかないのです。そんなものは既定でも何でもありません。アメリカの文書から読み取れるのは「グアムで訓練を増やそう」というだけです。何故ここから普天間基地グアム全面移転が既定路線になるのか全く理解できません。例えば日本の陸上自衛隊がアメリカのヤキマ演習場での演習を増やしたら「陸自はアメリカに基地を造って移転する」と言えるのですかと、よく考えてみて下さい。

〈テニアン島「普天間歓迎」〉と国際面(29日)で書きながら〈「日米政府は「非現実的」〉とフロント見出しよりも目立つ中見出しの誘導。原点は国防総省のグアム移転の既定路線。大丈夫か「朝日」!RT @noricomx鳩ぽっぽも政府もマスメディアもテニアンのテの字も出さないって異常すぎ。less than a minute ago via Saezuri



・・・有田さん、貴方はアメリカの英文の文書どころか、宜野湾市がそれを翻訳した資料にも全く目を通していないですよね? 目を通していたら日米両政府がテニアン案を全く相手にしていない理由は理解できる筈です。

  2009年11月・米軍資料を宜野湾市が翻訳したもの

『テニアンの基地設置を支援するインフラには限界があり、水深のある港も無い。テニアンは訓練地として引き続き注目されているものの、基地設置の候補地としては除かれた。』

宜野湾市はアメリカが発表した最新の文書を翻訳(PDF)してプレゼンテーションに出していますが、その中にテニアン基地建設を完全に否定する内容が含まれています。そもそも既にテニアンは海兵隊の基地を建設するには不適合だと判定が下されています。それ以前の問題としてグアムに海兵隊のヘリコプターを収納する格納庫を建設する話にしても、既に述べたように「訓練の為にやって来る一時配備機を整備する為」でしかなく、アメリカは普天間基地のヘリコプターをマリアナ方面へ全面移転させる気は有りません。グアムですら問題外でありテニアンは更に話にならない立地要件なのです。

北マリアナ地元議会が基地の誘致を表明しても日米両政府から全く相手にされず、マスコミの扱いも大阪府の橋下知事が関西国際空港移転案を唱えた時と同程度の冷たい扱いなのは、彼らはちゃんとアメリカの文書を読んで理解しているからです。それなのに英文の文書どころか宜野湾市の翻訳資料すら読まずに寝言を主張されても、相手にされるわけが無いでしょう。宜野湾市の主張ですら既に寝言なのに、宜野湾市の提出した資料をよく読まずに表面上だけを見て勘違いされたのでは、余計に話になりません。
09時08分 | 固定リンク | Comment (235) | オスプレイ |
2010年05月06日
本日、自民党の石破茂氏は、政府への対案としてセミサブ型メガフロート案を技術的に再検討して見てはどうかと語りました。


辺野古修正案、自民も検討を=石破氏:時事通信
自民党の石破茂政調会長は6日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題に関し、都内で記者団に「自民党ならこうするというのを示さずに、5月末に(鳩山由紀夫首相に)辞めろと言うのは無責任だ」と述べ、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市辺野古)に移設する現行計画の修正案を党としても検討すべきだとの考えを示した。現行計画は、自民党政権時代に米国と合意したものだけに、石破氏の発言には党内から異論が出る可能性もある。 

これに先立つTBS番組で、石破氏は「メガフロート(大型浮体式海上構造物)でも、セミサブ(半潜水方式)みたいな形は本当に駄目か、もう一回技術的に検討してみる必要がある」と語った。


三日前に当ブログでもセミサブ型メガフロート案の提案を行っているので、そのメリットとデメリットに付いてはこちらをご覧下さい。

(2010/05/03)セミサブ型メガフロート移動基地

やはり同じ趣味を持つ人は似たような発想を行うものなんですね。石破氏の場合だと、徳之島分散移転の代わりに下地島を提示して来るかもしれません。セミサブ型メガフロートも下地島も、難しいのは百も承知で敢えて民主党鳩山政権にぶつける事で、揺さ振りを掛けて来る戦術を野党としてやって見せて欲しい所です。期待しています。
18時04分 | 固定リンク | Comment (173) | オスプレイ |
2010年05月05日
昨日、沖縄県を訪問した鳩山首相は普天間基地の海外移転を否定、沖縄県内への移転を表明しました。首相は「抑止力を維持する必要性がある」と説明しています。さてこの方針が示された事で問わねばならない事があります。これまで「普天間移設先はグアムだ」「テニアンだ」「大村だ」と吹聴して回ったジャーナリスト達は、どう言い訳するのですか?

その主張の仕方が「県外、国外であるべきだ」とか「県外、国外になるのではないか」というものなら問題にはしませんが、さも「県外、国外は既定路線」「グアムで決まり」「テニアンで決まり」「大村で決まり」と好き勝手に断言に近い形で情報を発信し、結果として多数の読者に間違った情報を信じ込ませた行為には大きな問題があります。碌な根拠も無いのに確定情報のように誤解させる行為は、デマの流布であると言えます。

その最たるものが『宜野湾市・伊波洋一市長の「沖縄の海兵隊は全てグアムに移転する」という妄想プレゼンテーション』であり、この宜野湾市の主張するグアム移転をTwitter上で何度も吹聴したジャーナリストの岩上安身氏、そして宜野湾市の主張に加えて独自取材の結果テニアン移転説をTwitter上で吹聴したジャーナリストの有田芳生氏が、私の知る限りではTwitter上で活動してきたジャーナリストの中では最も問題が大きいと考えます。岩上安身氏の主張していたグアム移転説は既に処理していますので、今回は有田芳生氏のテニアン移転説を紹介しておきます。

有田芳生(2010-04-08)

・・・タイプミスなんでしょうけど「マラリア諸島」になってるのはちょっと吹きました。この4月8日の有田芳生氏の呟きから2週間後に北マリアナ議会が基地の誘致を決議した事で、有田芳生氏は自説がより現実味を帯びて来たと確信を深め、テニアン移転説を更に発信していきます。

Togetter - まとめ「有田芳生氏の普天間問題に関する発言」

有田芳生氏の主張は宜野湾市の伊波市長のグアム移転説が元になっているので、グアムでの訓練の為の一時配備(外来機)を恒久配備と勘違いして、「グアム移転は既成路線」としている点が最大のミスであると言えます。

岩上安身(2010-04-14)

結果は、川内議員も近藤議員も相手にされませんでした。彼らの主張の根拠である宜野湾市の伊波市長のプレゼンテーションが間違っていたのですから、当然の話です。岩上安見氏は「残るはグアム移転のみ」などと断言する前に自分の目で米軍資料をチェックするべきでした。

松田光世(2010-04-21 )

それは現職閣僚から怒られて当然ですよね。松田光世氏はなにか勘違いしたままのようですが。ちなみに松田光世氏は菅直人副総理・財務相の元政策秘書です。

Togetter - まとめ「釣り師松田光世氏、今度は「小泉の祖母が北朝鮮籍」というでかい釣り針を投げ入れる」

松田光世氏は週刊朝日や日刊ゲンダイで記事を書いておられるようですが、そろそろゲンダイですら使って貰えそうにない領域にまで達して来ているように見えます。他にも学友の「DCIA少佐」から機密レポートを教えて貰ったと吹聴したり、もう手遅れのような気がします。

Togetter - まとめ「普天間問題について鳩山首相沖縄訪問後の岩上氏・松田氏・有田氏の発言のまとめ」

これは上記三名の鳩山首相沖縄訪問後の言い訳を纏めています。

Togetter - まとめ「 お気に入り 「普天間移設先は○○で決まり!」と吹聴した著名人一覧」

こちらは鳩山首相沖縄訪問前に「普天間移設先は○○で決まり!」と吹聴した著名人のTwitter上での呟きを集めています。過去の呟きは発掘しきれていないので、気付いた方は編集して下さい。

岩上安身(2010-05-02)

なお一連の「普天間移設先は○○で決まり!」と吹聴した著名人に多大な影響を与えた孫崎享氏は、鳩山首相が沖縄県を訪問する直前に持論を撤回しています。元外務省国際情報局長で防衛大学校教授を務めていた事もある孫崎享氏は、2009年3月に『日米同盟の正体〜迷走する安全保障』という本を出版しており、これが巷に溢れたグアム移転説や大村移転説の元ネタであり、岩上安身氏は孫崎享氏の事を過剰に盲信するほどでした。なお松田光世氏によると「孫崎享氏の主張はグアム全面移転」なのですが、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏によると「私と孫崎さんで鳩山首相に大村移転を進言した」とあるので、グアム全面移転を掲げつつ妥協点として長崎県大村案を唱えたのが孫崎享氏です。

鳩山首相は最近まで孫崎享氏の説明「海兵隊は抑止力ではない」を信じていた可能性が高く、ジャーナリストへの波及も含め、今回の普天間基地移設騒動の大きな原因として、孫崎享氏の著作『日米同盟の正体〜迷走する安全保障』が挙げられます。

孫崎享 - Wikipedia

なお、有田芳生氏についてですが、氏は自分のブログでTwitter上の議論をこう表しています。


有田芳生の『酔醒漫録』: 沖縄の負担軽減なき偏狭ナショナリズム(2010/04/23)
ツイッターで普天間移転問題を書くと「日の丸アイコン」グループがすぐにやってくる。不可思議なことに彼らが建設的対案を語ることはない。すでにアメリカの軍事戦略では海兵隊のグアム移転は既定の路線。多国籍訓練もテニアンをふくめた地域で行うことが決まっている。全世界での米軍再編のなかで普天間問題を考えなければ「答え」など出てこない。日本の基地問題。沖縄の負担軽減という立場なき偏狭ナショナリズムがいかに無責任かがよくわかる。もちろん政権の迷走も困ったものだ。


有田芳生氏は、ブログでの私の書き込みを承認してくれませんでした。対案として私は「セミサブ式メガフロート案」「辺野古現行案」「普天間基地固定案」を持っているのですが、建設的とは認めてくれなかったのでしょう。
23時36分 | 固定リンク | Comment (238) | オスプレイ |
2010年05月04日
【号外】「海外不可能」 首相、県内を表明:琉球新報(PDF)

県内移設への協力求める 普天間で鳩山首相、知事に伝達:琉球新報

鳩山首相は政府の方針として、QIP方式の辺野古修正案と徳之島への一部移転を説明しました。これにより鳩山首相は自分自身が行った口約束である「海外移設、最低でも県外」を守れなかった事になります。徳之島への一部移設の実現性は著しく低く、結局は辺野古へ全て移設する方針になる可能性が高いでしょう。しかし地元住民を納得させる事は難しく、2014年までの移転完了は絶望的で、普天間基地継続使用の公算が高くなりつつあります。

【普天間基地】


辺野古修正案の杭打ち桟橋(QIP)方式にしても、鳩山首相退陣後に無かった事にされる可能性があり、自民党政権時代に決めた現行案である埋め立て方式へ回帰する事まで想定せざるをえません。そうなれば民主党鳩山政権は迷走の果てに混乱のみを生み出し、沖縄県民の期待を煽っておきながら最終的には裏切った事になり、「最低でも県外」とは選挙の為の安易なリップサービスに過ぎなかった事が曝け出されてしまいます。

民主党鳩山政権は安全保障を政局にした責任を自ら取らなければなりません。自分で約束し自分で煽ったのですから、約束が守れなければ内閣総辞職が当然ではありませんか。他人に責任を転嫁する事など出来ない筈です。最初から現行案のままで行くとして置けば、このような混乱は生み出されていなかったのですから。
13時32分 | 固定リンク | Comment (824) | オスプレイ |
2010年05月03日
鳩山首相は明日、沖縄を訪問し、普天間基地の県外移転が出来なくなった事を説明し、謝罪を検討していると報道では伝えられています。ですがまだ鳩山首相の行った口約束を全て達成した上に、アメリカの提示した「地上部隊と65海里以内」という条件をクリアし、環境も破壊せず、地元住民の反対にも遭わず、県知事の許可を必要としないプランがあります。それはセミサブ型メガフロート移動基地という方式です。ポンツーン型メガフロートより波に強く沖合に展開する事が可能です。

移動可能沖合基地 MOB : U.S.Warships

●沖縄県管轄外の沖合海上に置けるので「県外」と言い張れる。
●移動式は船舶扱いになるので埋立許可及び環境アセスが不要。
●沖合に設置するので騒音被害と事故の危険は大幅に減少する。
●沖合に設置するので珊瑚やアマモにも悪影響を与えない。
●米軍の規定である地上部隊と65海里以内に配置できる。
●工事期間中に反対運動の妨害を受ける事が無い。

ただし13年前の自民党政権時代に、セミサブ型メガフロート案は埋め立て案と共に検討された上で却下され、杭打ち桟橋方式とポンツーン型メガフロート案に絞られ、後に埋め立て案が復活し進行していた経緯があります。デメリットとしては以下の通りです。

●技術的な目処が立っていない。
●建造費用と維持費用が高価。
●台風に耐えられるか未知数。
●敵の攻撃に対する脆弱性。
●周辺国を刺激する可能性。
●地元に利権が落とせない。

ポンツーン型メガフロートならば横須賀沖で1000m級の実証浮体が造られ、航空機を用いた実験が行われているので技術的な目処は立っているのですが、セミサブ型メガフロートはまだ実験室(回流水槽)での研究段階の域を出ていません。

メガフロートに関する研究 - 海上技術安全研究所
メガフロートの紹介 - 日本造船技術センター

建造費用も1兆円近くは掛かるでしょうし、防御兵装を入念に施して行けば追加装備の費用でまた跳ね上がります。そして出来上がるのは100万トン級の超巨大空母と受け取られかねず、周辺国を刺激する可能性があります。また建造は全て本土の造船会社で行うので沖縄には一銭も入りません。最大の問題である技術面に関しては、セミサブ型浮体は石油掘削リグで使われている方式で、軍事用には海上配備型Xバンドレーダー(SBX: Sea-based X-band Radar)で採用されています。

Sea-based X-band Radar - Wikipedia

最後の方の写真ギャラリーで、半潜水式重量物運搬船「MVブルーマーリン」に積載して移動中のSBXの写真で、普段は海面下にある部分も見る事が出来ます。なお余談ですが「MVブルーマーリン」は大破した駆逐艦「コール」を輸送した事で知られ、普段は石油掘削リグを運搬する業務を行っています。SBXは自走も出来ますが遅いので、長距離移動では運んで貰いました。


セミサブとは - 事業内容|三井海洋開発 MODEC
Semi-Submersible(セミサブマーシブル:セミサブ)は、トラス構造(三角形を基本にした構造)やラーメン構造(四角形を基本にした構造)の構造物の下部が半分海面下に沈み込んでいる半潜水式の浮体構造物です。浮体構造の上に掘削リグや石油・ガス生産設備を搭載して使用されます。

セミサブは海面で切断したときの構造物の断面積が船型(箱型)の構造物に比べて小さいため、波や潮流による上下動や水平移動の応力が少なく、悪天候の海象条件でも安定した状態を確保することができます。


セミサブの説明としては上記の通りです。掘削リグやSBXくらいの大きさの浮体を数十基繋ぎ合せたサイズがセミサブ型メガフロート航空基地になります。セミサブは悪天候に強いと言っても限度があり、5年前にメキシコ湾の大型海底油田「サンダー・ホース」のセミサブ型プラットフォームがハリケーンに遭遇して傾いてしまった事例があります。ただ近い場所で無事だったものもあるので、設計をきちんとしていれば耐えられる筈ですが、2000m近いメガフロートが台風に直撃して大丈夫かどうかは、未知の面があります。

防御面に付いてはミサイル攻撃や潜水艦、水中破壊工作員への対処などやる事が多く、直接防御兵装を取り付けるか護衛の艦隊を常時組むか、或いは普天間基地を残したまま閉鎖して、メガフロート基地は簡素なものにして、有事の際はメガフロートを捨てて普天間に戻ってしまうという案などが考えられます。重防御案は年間の警戒費用が高く付き、軽防御案(有事移動を伴う)は安いですが普天間基地跡地が出来ずに再開発が出来ません。

予算面では高く付いてもメリットが上回ると判断されれば、技術面の目処さえ付けば着工は出来ます。防御面での不安も解決できるアイデアは提示できます。地元への利権に付いては、県外になったのと同じと考えて諦めて貰います。周辺国への刺激については相手にせずともさほど問題は無いでしょう。

セミサブ型メガフロート移動基地案は結局は技術的にはまだ無理があるので検討されない、あるいは検討されても候補からは外れてしまうのですが、逆を言えば技術的な目処さえ付けば、鳩山首相の公約を全て叶えた上に、住民の負担を軽減し、環境にも優しく、地上部隊と65海里以内に配置でき、県知事の許可を得る必要も無く、基地反対運動も無力化できる夢のようなプランです。全ての問題を解決する事が出来ます。

もういっそ民主党鳩山政権はこの夢に向かって突き進んでみてはどうでしょうか。
23時32分 | 固定リンク | Comment (163) | オスプレイ |
2010年05月02日
政府は沿岸部への杭打ち桟橋方式(QIP)の他にもう一つの案をアメリカに提示しています。、沖合にポンツーン式メガフロートを設置して普天間基地の移設先とする案です。杭打ち桟橋案を主軸として、予備にメガフロート案を併記しています。費用は埋め立て式の現行案に比べて杭打ち桟橋案が1.5倍、メガフロート案が3倍になります。つまり民主党鳩山政権は、13年前の自民党政権が考案していた古い案に回帰したわけです。


【鉄鋼関連NEWS】沖縄の代替ヘリポート2工法提案:日刊産業新聞 1997年11月8日
沖縄県の普天間基地の代替ヘリポートの政府基本案が提示された。焦点の工法は(1)海底に固定した鋼管杭の上にヘリポートを乗せるQIP(杭式桟橋方式)と(2)浮体箱型のポンツーン方式―の2案。QIP方式は海岸線から1・5キロ、浮体箱のポンツーン方式は3キロ離れる。これで当初提案されていた4案のうち、メガフロート方式のセミサブ方式と地元案の全面埋め立て方式は事実上、対象外となった。


この後、紆余曲折を経て埋め立て方式が復活したのは周知の事実です。その前に絞り込まれていたのが杭打ち桟橋方式(QIP)とポンツーン式メガフロートであり、民主党鳩山政権は時計の針を13年前に巻き戻した事になります。ただ13年前の見積もりでは5000億円程度だった辺野古沖メガフロート案(1500m)が、現在では倍近い見積もりが出されています。新メガフロート案は1800mと若干大きくなっていますが、羽田空港D滑走路で検討されたメガフロート案(2500m)が6000億円の見積もりだった事を考えると、少し高い気がします。とはいえ内湾の羽田空港沖と違い、沖縄県の辺野古沖にメガフロートを設置する為には長大な堤防が必要で、この費用が加算されているのかもしれません。

辺野古沖ポンツーン式メガフロート案は沖合に浮かべるのでサンゴやアマモに悪影響を与え難い利点があります。しかし長大な堤防を設置する為、海流が変わり環境が変化する恐れがあります。軍事防御的な観点からも杭打ち桟橋方式以上にUDT(Under-water Defence Technology)に気を使う必要があり、他にミサイル攻撃や潜水艦からの魚雷攻撃にも対処する必要性があり、対ダイバー探知ソナーのみならず本格的な対潜ソナーを周囲の海底に設置したり、防空ミサイルの配備などを検討せねばなりません。海軍の対潜ヘリコプターを常駐させる事になれば機体数が増える事になります。沖合に基地を置くので騒音被害は激減しますが、予算の問題と軍事防御上の問題、堤防による海流変化の懸念があります。

メガフロートに関する研究:海上技術安全研究所

ポンツーン式メガフロートは、以前に横須賀沖で1000m級の実証モデルが造られ、また羽田空港D滑走路に一案として検討された事があります。技術的には問題ありません。ただし環境アセスメントを全てやり直す必要がある為、完成はかなり遅れてしまいます。その前に県知事の許可を得る必要があります。また浮体部分は本土の造船業者が請け負う事になる為、地元の業者は堤防(防波堤)部分くらいしか担当できません。

辺野古沖ポンツーン式メガフロート案は図案は公表されていないので完全に私の想像で描いたのですが、以下のような配置になると思われます。

辺野古ポンツーン式メガフロート案予想図
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2010年05月01日
鳩山首相は先月24日、「埋め立ては自然への冒涜」と語り、普天間基地移設先での辺野古現行案への回帰を否定しました。しかしその後に政府は「埋め立てなければよいだろう」という考えの元、辺野古の陸上部に杭打ち桟橋(QIP;Quick Installation Platform)工法を加えた修正案を提示し、最終案とする構えです。QIP工法は羽田空港D滑走路でも採用(多摩川の流れを堰き止めないように一部だけ桟橋方式)されています。なお辺野古修正案QIP方式は下のような図になります。

辺野古QIP案

現行案で済ませた環境アセスメントを出来るだけ流用する為には位置を大きく移動する事は出来ず、沿岸案となります。陸上部(800m)と海上桟橋部(1000m)で構成されており、現行案と比べ海上を覆う面積は半分以下になります。杭打ち桟橋は埋め立てより環境負荷が小さく、面積自体も埋め立て案より少ないので環境に優しいというのが政府の言い分です。また陸上部と組み合わせる事で、防御上の懸念点も緩和されます。仮に桟橋部が破壊されても陸上部は残るので、固定翼機の運用は無理でもヘリコプターならば制限は出てしまいますが何とか使えます。この点でアメリカ側にも受け入れて貰おうという算段です。

しかし桟橋部を簡単に破壊されてはたまらないので、敵の水中破壊工作員(フロッグメン)を警戒する為のUDT(Under-water Defence Technology)を整備しなければならず、ダイバー探知ソナーの設置などを行う必要があります。

Multibeam diver detection sonar - DDS 9000 ™ series - Kongsberg Maritime

この他、無人潜水艇や哨戒艇、軍用イルカでの警戒、陸戦要員の配置など、桟橋部の維持費用の他に警戒費用も掛かる事になり、航空攻撃やミサイル攻撃への防御も考えると埋め立て方式よりも杭打ち桟橋は脆弱な分、総合的な維持費用がかなり高く付く事になります。また埋め立てを行わないので駐機スペースの確保も大変です。また桟橋部が張り出し過ぎているので辺野古漁港が使えなくなります。そうなると漁港を閉鎖するか、浅瀬に拘らず北東側の海底に杭を打ち桟橋を形成して南西方向の桟橋を短くする必要があります。

【辺野古】


この辺野古修正案は色々と考えられてはいるのですが、地元住民からすれば「最低でも県外と言っていたのになぜ辺野古に戻ってくるのか」と納得して貰えそうになく、アメリカ側からしてみれば「従来の埋め立て案ではいけない理由が分からない」案でしかなく、結局は現政権の都合であり、前政権の決めた現行案に戻る事は政権交代の面子に掛けて出来ないという発想で出来上がった修正案です。環境面と軍事面で両方なんとか納得して貰おうと試みたのはよく分かるのですが、二つを同時に両立させる事がこの案では出来ず、両方とも少しずつ我慢して貰わなければならない案になっています。

また桟橋部分は高度な技術が必要なので本土の業者でなければ建設できず、沖縄県の地元の業者は陸上部の造成だけを請け負う事になります。埋め立てではないので工事は少なく、利権は小さなものになります。工期は短くできるのですが、この点でも地元を納得させることは難しく、埋め立てと同じく県知事の許可が要りますが、果たして合意できるかどうか、埋め立て案よりも難しくなるかもしれません。基地反対運動も激化するでしょう、例え工事に入れても妨害で作業が進まない恐れがあります。今の政権が別の政権に変わった時に、杭打ち桟橋案からまた別の案にコロコロと変わる可能性も大きく、その場合は普天間基地固定化が進む羽目になります。
22時04分 | 固定リンク | Comment (136) | オスプレイ |
普天間基地問題で「何故ヘリコプターに滑走路が要るの?」と質問を受けたのですが、普天間基地にはヘリコプター以外にKC-130空中給油/輸送機などの固定翼機も居るのと、ヘリコプターでも車輪付きなら滑走した方が楽に上がれて燃料を節約出来るのです。海兵隊では新型のティルトローター機MV-22オスプレイで積極的な滑走運用を考えています。 

ヘリコプター滑走離陸の動画だと、ロシア製ですがこれが分かり易いです。



え、飛び上がってないって?滑走しているだけだって?・・・じゃあこれでどうでしょうか。



実にロシア芸人魂溢れる大胆な姿勢での滑走離陸、ヘリコプター笑撃映像・・・ってアレェ? 参考にならない?

オスプレイの滑走離陸動画だとこれかなぁ。



案外と説明に最適な動画は少ないものですね。


【追記】コメント欄で教えて貰った良い動画。



アパッチ攻撃ヘリコプターの編隊滑走離陸です。
12時26分 | 固定リンク | Comment (97) | オスプレイ |
2010年04月29日
4月8日にアフガニスタンでアメリカ空軍のCV-22オスプレイが夜間着陸中に墜落した事故は、機体の欠陥に起因する事故ではないという事が予備調査で判明しています。英航空情報誌「フライトグローバル」より。


Source: CV-22 crash not caused by mechanical failure | Flightglobal
The BellBoeing CV-22 crash in Afghanistan on 8 April was not caused by a mechanical failure, according to a source familiar with preliminary findings of the US military investigation.

The fatal crash, which killed four and injured others, occurred after the pilot lost situational awareness while landing in a wadi around 1am under brown-out conditions, the source says.



CV-22の事故は機械的な故障に起因するものではありません。"brown-out"とは航空用語ではヘリコプターの回転ローターが巻き上げる土煙の中に入って何も見えなくなる状態を指します。そしてパイロットが認識を失い操縦を誤って墜落した、とあります。空間識失調(Vertigo)の状態になり自機の姿勢が判らなくなってしまったようです。

以下の動画はアフガニスタンで着陸するチヌーク輸送ヘリの着陸シーンです。これは無事着陸成功していますが、この地域の土は粒子が細かく舞い上がり易く、ブラウンアウトに起因するヘリコプター事故は頻繁に発生しています。



予備調査の段階で最終報告ではありませんが、オスプレイは欠陥機だと主張する事は出来ません。なお以下は事故当時の報道で軍の広報が説明している動画です。




【追記】2010年アフガンで墜落したオスプレイ事故のその後
09時31分 | 固定リンク | Comment (126) | オスプレイ |
2010年04月28日
最近は聞かなくなりましたが、普天間基地移設先の候補として九州案が提起されていた時期がありました。佐賀空港や大村基地(長崎空港)が取りざたされていましたが、現在では政府閣僚(首相、外相、防衛相、官房長官)が全員「普天間移設先は国外は無い。沖縄県外でも近い場所になる」としており、顧みられなくなっています。

その九州移転案の中でも長崎県大村基地(長崎空港)を推していたのが、軍事評論家の田岡俊次氏と、元外務省国際情報局長で防衛大学校教授を務めている孫崎享氏です。強襲揚陸艦の母港である佐世保に近い場所に、ヘリコプター部隊と陸戦部隊を纏めて移転した方が合理的であるという主張です。

【大村基地・長崎空港】


田岡俊次氏と孫崎享氏は二人とも鳩山首相に大村案を助言していますが、この提案は採用されませんでした。その理由は、この二人に共通している考え方として「台湾海峡有事は有り得ない」という大前提の元で理屈を組み立てている為です。大村移設案は台湾海峡有事を考えた場合、アメリカ海兵隊の後退は中国と台湾に誤まったメッセージを与えかねず、台湾海峡の緊張を高めてしまう結果が予想されます。いえ、既にそうなりつつあります。


台湾:一転再開 北京射程のミサイル開発|毎日新聞
馬政権は当初、中国の首都・北京を射程圏とするミサイル開発で中国を刺激することは避けたい考えだった。また、開発停止の背景には沖縄海兵隊を含む在日米軍の「抑止力」があった。安全保障の問題を専門とする台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授は「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ」と指摘する。

一方、開発停止からの方針転換が明らかになったのは、楊念祖・国防部副部長(国防次官)が先月29日の立法院(国会)で行った答弁だった。

楊副部長は「有効な抑止の目的を達成するため、地対地中距離ミサイルと巡航ミサイルを発展させる方向性は正しい」と述べ、開発を事実上認めた。未公表だった開発停止には触れずに、実は方針転換をしていたことが初めて明らかになった。

楊副部長の発言は、台湾自らの抑止力を強化することで中国に圧力をかける狙いがある。関係筋は「普天間問題に代表されるように、台湾に近い沖縄にある米軍の存在や役割が変化する事態もあり得る。米軍が台湾を守る力にも制限が加わる可能性が出てきたことから、抑止力を高める方向に再転換したのではないか」とみている。


台湾政府は日本の普天間基地問題の迷走振りを見て、沖縄海兵隊を含む在日米軍の抑止力が揺らぐ可能性があることを憂慮し、巡航ミサイルの開発再開と中距離弾道ミサイルの開発着手を国防方針として定めました。この様子を見れば「台湾有事は有り得ない」という主張に説得力はもう何もありません。またアメリカ海兵隊としても、強襲揚陸艦の支援無しに直接、台北にヘリボーン降下を行える沖縄の位置は重要な要素です。新型機のMV-22オスプレイなら直接往復が可能です。従来機のCH-53Eスーパースタリオンでも、下地島空港を中継点に使えるならば作戦の実行が可能です。

MV-22オスプレイの作戦行動半径内

沖縄に基地があるという事は作戦面での柔軟性が得られ、中国軍の斬首戦略(特殊部隊で国家中枢を麻痺させる)への即応が迫られた場合でも、間髪を置かずに対応する事が可能になります。嘗てのソ連がアフガンに侵攻したケースと同様の事態に陥っても、初動で介入を行う事が出来ます。この選択肢は、台湾有事の可能性がある限り、放棄すべきではありません。

さて、田岡俊次氏が台湾有事を無視しているのは何時もの事なので、今回は孫崎享氏の思惑に付いて説明したいと思います。孫崎氏は2009年3月に『日米同盟の正体〜迷走する安全保障』という本を出版しています。この本の内容は掻い摘んで説明すると「アメリカは中東戦略を最重要視していて、その他は眼中に無い」というもので、朝鮮半島有事と台湾海峡有事を軽視、いえ完全に無視している極論なのです。この事はジャーナリストの岩上安身氏との対談からも伺う事が出来ます。


Web Journal ニュースのトリセツ No.225 2010-02-12 - Web Iwakami 岩上安身HP
孫崎「ええ。あるいは佐賀県であるとか、あるいは富士山麓であるとか、色々なのが出ているんだけれども、それは米国の運用からいくとやっぱり普天間よりは価値が低いという可能性があるわけですよ。ところが、大村と相浦の話というのは、米国にとってより望ましい選択であるかもしれないんです。

 ということは、先ほどの話からいって、ヘリ部隊をどこに持っていくかというのは、世界の色々なところに持っていくわけですよね。その時に船に載っけるわけですよね。船に載っけるのは、今、長崎の佐世保があると。佐世保で載っけてすっと行けばいいんで、もしもこれが沖縄だったら、沖縄まで行って載っけてから行かなきゃならないんで、どちらが良いかというと、大村のほうが良いかもしれない。だから、米国がベストの案は他にないんだよと、言っているのだけれども、こっちの方がよりベストじゃないですかと」


岩上「先生も人が悪いですね(苦笑)。つまり、日米安保にとって、ここがベストなんじゃなくて、日米同盟にとって、ここがベストじゃないですか。北朝鮮を相手にするとか、台湾海峡(危機で中国)を相手にするわけじゃないでしょ、中東に出撃するために便利でしょ、どうぞお使いくださいと」


孫崎「便利なのに、なんであなたは嫌だと言っているんですかと(笑)」


アメリカ軍としてみれば、中東に展開する場合でも佐世保の揚陸艦は中東に向かう途中の沖縄で海兵隊員と陸戦装備、ヘリコプターを積み込んで行けばよいので、時間的な差は佐世保付近に集中して駐屯する場合と殆ど差はありません。また、空軍の大型戦略輸送機で海兵隊ヘリコプターを積んで運んで中東に展開する場合も多く、中東展開重視であるならば沖縄で不都合な点はありません。むしろ空軍の戦略輸送機と空中給油機の連携が容易な沖縄の方が使い勝手は良いでしょう。つまり例え孫崎氏の主張に沿ったとしても、沖縄の方が便利です。孫崎氏は防衛大学校の教授でもありますが、結局は外務省の人であり、専門は国際政治と外交関係です。軍隊の運用をよく理解しているとは言えません。

また、『宜野湾市・伊波洋一市長の「沖縄の海兵隊は全てグアムに移転する」という妄想プレゼンテーション』で私が解説したように、米軍の最新資料「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」には、有事の際の対処(配備)先として沖縄、台湾を挙げた移動時間の表があります。沖縄が配備(増援)で台湾が対処(介入)となるのでしょう。この資料は明確にアメリカが台湾有事の際の介入を前提に戦略を組み上げている事の証左となります。孫崎氏や田岡氏の主張の根幹である台湾有事無視は間違っている事が分かります。
19時03分 | 固定リンク | Comment (402) | オスプレイ |
2010年04月20日
Twitter上でジャーナリストの岩上安身氏が「普天間移設先はグアムだ!」と何度も断言しているのを見て、まさか宜野湾市の伊波洋一市長の寝言を真に受けてるのかな、と思って岩上安身氏のサイトを検索して見ると、案の定でした。


Web Journal ニュースのトリセツ No.152 2009-12-10 - Web Iwakami 岩上安身HP
岩上「あと、同時にですね、宜野湾市長がですね、グアムの、飛行場の増設に関してのアセスメントの最終評価書が出たのを見て、最終評価書の中にですね、十分、現在の普天間の、部隊の収容が可能な容量の飛行場計画になっていると。

これだったらば、グアムに移設は十分(可能)じゃないか。実はグアムに移設することを、アメリカも考えているんじゃないか。日本側の政府もですね、知っているじゃないか、そっちにするべきだというようなことを……」


宜野湾市の伊波洋一市長が昨年11月に発表した「米軍資料を読み解いた!」という話は、願望と妄想と御都合主義で形成された話にならない代物です。空軍機と海軍機と海兵隊機を区別できておらず、ごちゃ混ぜにカウントした上、米軍基地が有事や大規模演習の際に平時の数倍の機体を収容する事を触れずに「格納庫が一杯出来るから移る筈なんだ!」と力説されていますが、当然そのような妄言は日米両政府およびマスコミには殆ど相手にされずスルー状態になっています。

それはそうです、宜野湾市の伊波洋一市長がプレゼンした内容の根拠の部分の米軍資料をこちらでも確かめて読んでみたら、伊波市長の主張とは違う事が米軍資料に書かれてあるのですから。原典に当たってチェックした人は「伊波市長は米軍資料を捻じ曲げて解釈してプレゼンしている」と受け取るしかありません。ちゃんと大元の資料をチェックしたマスコミは相手にしないです。日刊ゲンダイだけは大々的に取り上げたみたいですが、英文資料を読んでいないのでしょう、その程度のゴシップ紙しか真に受けなかったネタという事です。

宜野湾市の伊波市長の主張は以下の通りです。


■「普天間基地のグァム移転の可能性について」_平成21年11月26日_宜野湾市
● 2006年7月に、米太平洋軍司令部は、「グアム統合軍事開発計画」を策定し、同年9月にホームページに公開した。その中で「海兵隊航空部隊と伴に移転してくる最大67機の回転翼機と9機の特別作戦機CV−22航空機用格納庫の建設、ヘリコプターのランプスペースと離着陸用パッドの建設」の記述。すなわち普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊はグアムに移転するとされた。宜野湾市では、この開発計画を2006年9月公開と同時に入手して翻訳して市ホームページ上で公開した。

● この「グアム統合軍事開発計画」について、宜野湾市としては普天間基地の海兵隊ヘリ部隊がグアムに移転する計画であるとしてきたが、前メア米国沖縄総領事は、紙切れにすぎないと言い、司令部機能だけがグアムに行くのだと主張した。しかし、この三年間この計画に沿ってすべてが進行しており、先週11月20日に、同計画に沿った「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」が公開された。ドラフトは、9巻からなり、約8100ページに及ぶが,概要版(Executive Summary)、及び第二巻「グアムへの海兵隊移転」と第三巻「テニアンへの海兵隊訓練移転」において、沖縄からの海兵隊移転の詳細が記述されている。海兵隊ヘリ部隊だけでなく、地上戦闘部隊や迫撃砲部隊、補給部隊までグアムに行くことになっている。


伊波市長の説明でソースが確認できるものの中で主張の根幹と言えるのはこの二つの米軍資料、2006年9月公開の「グアム統合軍事開発計画」と2009年11月公開の「海外環境影響評価書ドラフト」です。しかし原典をチェックすると伊波市長の主張するような「すなわち普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊はグアムに移転するとされた」などという記述は全く見当たりません。これは伊波市長の勝手な推測に過ぎません。

[Guam Integrated Military Development Plan] p71
(PDF)"Guam Integrated Military Development Plan" p71

それ以前に「グアム統合軍事開発計画」にCV-22とある時点で空軍機(V-22オスプレイ系列の海兵隊仕様はMV-22)である事に気付きましょう。しかも「最大67機の回転翼機」という数字は常駐機ではなく一時配備であることが、最新資料「海外環境影響評価書ドラフト」から推測できるのです。そして宜野湾市の資料を見ると、恐らく伊波市長はその事に気付いています。なぜなら市の翻訳資料に予定常駐配備数が堂々と書かれてあるからです。

宜野湾市の提示した翻訳資料
(PDF)「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」(抜粋仮訳):宜野湾市

このように常駐するのはMV-22が12機(一個中隊)のみで、普天間基地の配備数よりも遥かに少なく、しかも何処から移転するとも書かれていません。地上戦闘部隊や迫撃砲部隊、補給部隊についても記載されている数値は沖縄配備海兵隊総数にはとても足りません。この他、強襲揚陸艦などの艦船も「一時配備 Visiting」と記載されており、グアムのアプラ港への常駐配備ではない事が分かります。

この2009年11月20日にアメリカから公開されたばかりの最新資料からは、とても「沖縄海兵隊普天間基地のヘリコプターが全部グアムに移る」とは読み解く事は出来ません。つまり宜野湾市の伊波洋一市長が縋っているのは、2006年9月公開のグアム統合軍事開発計画に書かれてある「最大67機の回転翼機」分の格納庫を建設する、という記述になるわけですが、これは常駐機ではなく一時配備の為の施設である、と考えた方が2009年11月20日公開の最新資料とも整合性が取れる筈です。グアムは大規模演習を行った場合、空軍、海軍、海兵隊の航空機が合計180機近く集まる場合があります。有事の際にも一時的にはそれ以上の数を収容する事が想定されています。その際に整備施設の余裕があった方が便利である、という事に過ぎないのではないかと思います。

格納庫を造るだけ造って平時は機体を置かず、必要になった時だけ配備するという方式は、日本海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」型、補給艦「ましゅう」型でも行われています。これらの艦は普段は格納庫は空っぽです。ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」型は、ヘリコプター4機を常時搭載していますが、格納庫の容積は8〜10機収容可能な広さで、全てを使い切ってません。同じ事が陸上基地にも言えます。強固な対核シェルターなら常駐機数分しか用意されていない場合も多いのですが、簡易整備ハンガーならば常駐機数以上の分を用意している場合もあります。有事用に移動式簡易整備ハンガーという代物もありますが、頻繁に大規模演習を行うのであれば、予め用意して置いた方が設置の手間が掛かりません。米軍の資料には今後、グアムでの演習の回数が増えると書かれています。つまり資料を読み解けば、沖縄をホームにしている海兵隊がグアムでの訓練に参加しますよ、という事が書かれているのです。大規模合同演習は沖縄では出来ないので、訓練先が変わるという話です。

これは中国の挑発に対する示威行動でもあります。つい最近、中国海軍の潜水艦2隻を含む合計10隻の纏まった数の艦隊が、沖縄本島と宮古島の間を抜けてフィリピン海に入りました。目的は対潜訓練を主とする演習なのですが、その演習海域の目と鼻の先にグアムがあります。これまで中国軍が行って来なかった大規模な演習ですが、以前から1〜2隻でこの海域まで中国艦がやってくる事は、よくある事でした。もし将来、これが空母を含む大艦隊でやって来たら・・・グアムの米軍基地は脅威に晒されることになります。この挑発行為に対し、アメリカはフィリピン海が自分達の庭先である事を知らしめなければなりません。

なお、米軍の最新資料「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」には、有事の際の対処(配備)先として沖縄、台湾を挙げた移動時間の表があります。沖縄が配備(増援)で台湾が対処(介入)となるのでしょう。この資料は明確にアメリカが台湾有事の際の介入を前提に戦略を組み上げている事の証左となります。台湾有事を想定しているのであれば、沖縄にアメリカ軍が常駐するのは必然であると言えます。


以下は消印所沢氏の軍事板常見問題から関連する項目を集めました。



【珍説】 「辺野古への移設も,普天間基地自体も必要ないことは,米側文書によって明らか」???

【珍説】 「グアムには,普天間のヘリなどの受け入れが可能なだけの収納施設がある」???

【質問】 普天間からグアムへの移転予定部隊は,宜野湾市長のプレゼン通り?
 【質問】
 普天間からグアムへの移転予定部隊は,この図の通り?
  「普天間基地のグァム移転の可能性について」宜野湾市

 【回答】
 それは,宜野湾市長が先月末にやったプレゼンが出所ですね.
 んで,その画像のソースは,「グアムにおける米軍計画の現状」という米軍の報告書と書かれている.
 しかしそれを見ても,普天間基地から輸送ヘリ中隊が二個も移動するとは,書かれてないですよ.

 そして,もう一つの宜野湾市長のプレゼンのソースが,
「沖縄からグアムおよび北マリアナ・テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書ドラフト」
という資料で,そちらを見ると,グアムに恒常的に配置される輸送ヘリは,MV-22が12機と書かれている.
 つまり,一個中隊分でしかない.

 つまり,現在確認できるソースから推測すると,普天間基地から移動するヘリ部隊は,最大で一個中隊のみです.
 結果,普天間基地所属ヘリ部隊(MAG-36)のうち,四分の三の航空隊が残留します.
 普天間から移転する部隊は,管制・通信等を任務とする司令部要素(MAOG-18)が主です.

 そもそも,普天間基地のヘリ部隊の中核は,普天間基地所属のヘリ(MAG-36)ではありませんから.

 端的に言えば,その画像はプレゼン担当者の知識の低さを示すものでしかないです.
 同じ宜野湾市民として,情けない限りです.




以上、宜野湾市民から市長へのツッコミを頂けました。

ところで最近、民主党の川内博史・衆院議員(「ガソリン値下げ隊」隊長)がUst中継で宜野湾市の伊波洋一市長の主張と全く同じ事を喋っていたそうですけど、民主党は永田メール事件から何も学んでいなかったんですか?


【追記】コメント欄を読んでいて一安心。


グアム移転説 根拠は (朝日新聞 2009年12月18日)
しかし、こうした主張に関係閣僚は否定的だった。

北沢防衛相はグアムを視察した9日、沖縄の海兵隊は米軍の戦略上の必要性から維持されるとの説明を受けたという。このため、グアム移転は「日米合意から大きく外れる」とみている。

岡田克也外相も11日の記者会見で「伊波市長から話を少しうかがったが、根拠がよく分からないと申し上げた」と述べた。

一方、消費者・少子化担当相でもある社民党の福島瑞穂党首は10日に伊波市長と会談した後、「アメリカ自身が海兵隊のグアム移転を計画していることを示唆していただいた。貴重な提言を地元からいただいたので、内閣でこれを生かす形で議論したい」と前向きに検討する考えを示した。


岡田外相の反応が当然ですよね。朝日新聞も記事に懐疑的なタイトルを付けてますから、伊波市長の主張には与していません。社民党の福島さんはどうしようもないです、でもある意味お約束の反応でしょうね。


【追々記】この記事を書いてから半日以上経った記者会見で、岡田外相がこのように述べました。


「国外考えられない」 普天間移設で岡田外相:共同通信
岡田克也外相は20日午後の記者会見で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先について「日本の外にということは考えられない。政府として、しっかりと国内で移設先を決定する」と述べ、社民党が主張する国外移設の可能性を明確に否定した。


頑張って記事を書いた苦労が報われました。良いタイミングでしたね、本当に。
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2010年04月03日
取り合えずメモ書き程度です。

最近の記事より。


中国の台湾攻略作戦 米国防次官補代理が証言:産経新聞 2010年3月19日
【ワシントン=古森義久】米国議会の18日の公聴会で、マイケル・シファー国防次官補代理は中国と台湾の現状について証言し、最近の政治的な緊張緩和にもかかわらず、中国は新鋭兵器を台湾に近い地域に集中的に配備し、台湾を軍事制圧する能力を増強し続けていると警告した。

超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の公聴会で、同代理は「中国は長期かつ総合的な軍事力増強を続け、核、宇宙、サイバーの戦争に備えた努力はアジア地域全体の軍事均衡を変えているが、なお当面の最大の目標は台湾海峡有事だとしている」と指摘した。

さらに「中国は政治、外交、経済、文化などの手段で台湾併合を目指すが、台湾が中国からみて誤った方向に動くことをも考え、台湾攻撃のための十分な軍事脅威を構築しており、その結果、中台の軍事バランスは絶え間なく中国優位にシフトしている」と述べた。

その実例として、中国は最新の海上艦艇と潜水艦、戦闘機、中距離弾道ミサイル、特別奇襲部隊などの大部分を台湾向けに配備しているとし、戦略の基本は早期に攻撃をかけて、米国などの第三者が介入できないうちに台湾を屈服させることだと証言した。

中国軍が実際に準備している台湾攻略の作戦としては(1)海上封鎖(2)特別ゲリラ投入を含む限定目標攻撃(3)空爆とミサイルによる限定攻撃(4)水陸両用上陸作戦−などを挙げ、そのための軍事力と要員を増強している、とも述べた。


5年前の記事より。


沖縄海兵隊の戦闘部隊、米「移転困難」 (2005年6月30日 読売新聞)
米側の説明は今春、日米の外務・防衛当局の審議官級協議などで伝えられた。それによると、中台有事のシナリオとして、中国軍が特殊部隊だけを派遣して台湾の政権中枢を制圧し、親中政権を樹立して台湾を支配下に収めることを想定。親中政権が台湾全土を完全に掌握するまでの数日間に、在沖縄海兵隊を台湾に急派し、中国による支配の既成事実化を防ぐ必要があるとしている。

数日以内に米軍を台湾に派遣できない場合、親中政権が支配力を強め、米軍派遣の機会を失う可能性が強いと見ているという。

中国は、台湾に対する軍事的優位を確立するため、地対地の短距離弾道ミサイルやロシア製の最新鋭戦闘機を増強したり、大規模な上陸訓練を行ったりしている。ただ、こうした大規模な陸軍や空軍の軍事力を使う場合には、米国との本格的な戦争に発展するリスクが大きい。これに対し、特殊部隊を派遣するシナリオは、大規模な戦闘を避けることで米軍の対応を困難にし、短期間で台湾の実効支配を実現する狙いがあると、米側は分析しているという。


(2010/01/23)MV-22オスプレイの作戦行動半径

MV-22オスプレイの作戦行動半径内

オスプレイならば空中給油や下地島での中継無しで直接往復が可能。
※)325海里でも台湾まで中継無しで直接往復が可能です。
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2010年03月28日
回転翼機と固定翼機の両方の特徴を兼ね備えた新しい形態の航空機、ティルトローター機のV-22オスプレイは、テスト飛行をしていた2000年に死亡事故を連続で起こし、一時は計画中止寸前まで追い込まれました。しかし改良を重ね、2007年から実戦配備されていますが運用実績は良好であり、今のところ大きな事故は起こしていません。大事故はもう10年近く発生しておらず、試作機時代の不具合を何時までも喧伝するのではなく、現在の運用状況を把握すべきでしょう。過去の汚名は返上されつつあるのです。実際にオバマ大統領がイラクを訪問した際にV-22オスプレイに搭乗しており、安全性の問題は現在の運用上はありません。


オバマ大統領、イラクでオスプレイに乗る


●「米海兵隊のティルトローター輸送機、MV-22B本格配備へ」 航空ファン2010年4月号,石川潤一 81ページ
連続事故により「ウイドーメーカー」(未亡人作り)と呼ばれたオスプレイだが、その後小さなトラブルはあるものの墜落事故は起きておらず、すでに100機以上が配備されている。難産の末に生れたオスプレイもIOC取得後は順調で、うまくいけば「傑作機」に仲間入りするかもしれない。


未亡人製造機呼ばわりから傑作機の仲間入りへ・・・オスプレイはその途上にあります。

そもそも「試験飛行で墜落死亡事故を起こしたら欠陥機だ」と言うのであれば、アグスタウェストランド社のAW101(EH101)ヘリコプターもそうなるのでしょうか? 開発時期がV-22オスプレイと近いAW101は、1993年に2号機(PP2)がイタリアで試験飛行中に墜落、乗員4名が死亡する事故を起こしています。

そして日本ではAW101を海上自衛隊が掃海ヘリコプターとしてMCH101の名称で取得済みで、合計11機調達する予定です。他に南極観測船に搭載する輸送用としてCH101の名を与えて3機取得、他には警視庁が「おおぞら1号」の名で1機取得しています。警視庁の機体は民間型第一号で世界初取得でした。さて合計15機のAW101が日本の空を飛ぶわけですが、配備先で「欠陥ヘリコプター反対」などと言う運動が行われたとは聞いたことがありません。もちろんAW101は欠陥ヘリコプターなどではありません。ならばV-22も欠陥機呼ばわりはもうすべきではありません。

V-22オスプレイは確かに試作機時代は開発が難航し、墜落事故を引き起こしています。


(これは1991年の事故映像。墜落原因は配線ミス)

しかし、試作機が落ちたら欠陥機であるというなら、零戦やB-29も欠陥機の仲間入りになってしまいます。 

○十二試艦戦(零式艦上戦闘機)・・・1940年3月に十二試艦戦二号機が降舵マスバランスの疲労脱落によるフラッタにより空中分解して墜落し、テストパイロットが殉職。

○XB-29、試作2号機(41-003)・・・1943年2月18日、エンジン火災による熱で強度低下を起こした主翼桁が破損、緊急着陸中に墜落、ボーイング社シアトル工場施設に激突。搭乗員全滅、職員も多数が巻き込まれ死傷。

最近の機体で試験飛行中に墜落した例ならば、グリペン、YF-22、F-14、アントノフAn70、P.1127・ケストレル、ミラージュIIIV、フォージャー、Su-33、挙げていけばきりが無く、民間機でもコメット、BAC 1-11、MD-80など試作機が飛行試験中に墜落事故を起こした例は多数あります。中には傑作機と呼ばれる機体が入っている事が分かるでしょう。



このYF-22の事故はフライ・バイ・ワイヤの制御ソフトウェアの欠陥から機体振動(PIO)が発生し、墜落に至ったものです。



こちらのグリペン試作初号機の事故も同様にPIOが原因で、着陸失敗後に機体は地面を転げ回り大破しました。





これは二つとも同じグリペン二号機の墜落事故の動画ですが、コブラ機動失敗のように見えますが墜落原因はPIOでした。墜落の相次いだグリペンですが、制御ソフトウェアの改修は行われて不具合は解消され、今や欠陥機の汚名は返上しています。

欠陥が直った機体が何時までもしつこく欠陥呼ばわりされるケースは、日本のF-2戦闘機でも同様のことがありました。グリペンのように開発試験飛行中に墜落事故を起こしたわけではないのに、何故かかなり悪く言われ続けていました。しかしそれは近年解消され、不具合が直っていることは広く知られるようになり、F-2を欠陥機呼ばわりする者は殆ど居なくなりました。



この動画を見ればF-2の主翼強度の不具合が直っていることなど一目瞭然でした。動画というのは分かりやすい説得力を持っています。逆に言えば、クラッシュ事故の動画も分かりやすい説得力を持つ為、それが原因で欠陥機の印象が強まってしまう恐れがあります。V-22オスプレイの場合は、クラッシュ動画の分かりやすさが仇となった面があります。



結構派手な動きをしてもへっちゃらなんですけどね、オスプレイ。


【関連記事】MV-22オスプレイはCH-46ヘリコプターよりも6倍静かです
21時05分 | 固定リンク | Comment (313) | オスプレイ |
2010年03月20日
普天間基地移設先について、政府は週明けの23日に移設先の案を取り纏める方針ですが、昨日とうとう鳩山首相が「(沖縄)県外移設は困難」と認めました。鳩山首相は数日前に一応は県外となる徳之島案を再度提案したのですが、即座に米海兵隊総司令官ジェームズ・T・コンウェイ大将によって否定されています。海兵隊は以前から「地上兵力と航空部隊はヘリで20分以内の位置である事」を条件に掲げており、それは80km圏内となるので、キャンプ・シュワブから200km近く離れてしまう徳之島では不適合となります。徳之島に地上兵力と訓練用地を移転させるスペースはありませんし、結局は沖縄本島で移設先を探すことになりました。

民主党政府は、政権交代した面子に掛けて自民党政権時代に調整された従来案(辺野古沿岸埋め立て案)を否定することに囚われており、県外も国外も駄目だった時の保険の為に用意していた「辺野古陸上案」を本命候補に格上げし、予備候補として「ホワイトビーチ埋め立て案」を用意して普天間基地の移設先を絞り込んできました。

しかしこのホワイトビーチ付近の浅瀬を埋め立てる案は、辺野古のキャンプ・シュワブ陸上案と同様に過去の自民党政権でも検討されて却下された場所です。この周辺の浅瀬は珊瑚は既に死滅していて気にする必要はありませんが、モズク生産日本一の好漁場なので埋め立てると取り返しが付かず、多額の漁業補償が必要となります。海流の流れも変わってしまい、環境の激変は避けられません。そしてそれとは別に、軍事上の観点から一つ大きな懸念があります。

実は埋め立て予定地のすぐ傍に石油備蓄基地が存在していて、もし有事の際に石油タンクが敵の攻撃で破壊された場合、大炎上と共に大量の黒煙が発生し、航空機の運用が大きく阻害されてしまう可能性があります。

ホワイトビーチ埋め立て案の問題点=石油基地の存在

この石油備蓄基地は平安座島と宮城島の間を埋め立てて建設したものです。その意味では既に埋め立てで海流は変化しているわけですが、石油備蓄基地の存在自体が軍事面での防御上の大きな弱点となってしまい、これをどうにかしない限りは海兵隊が難色を示す事は必至です。現時点で民主党からこの点を解決する提案は出されていません。
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2010年02月17日
さて、政府と国民新党が検討している普天間基地の辺野古キャンプ・シュワブ陸上移設案です。


普天間移設先 政府、シュワブ陸上模索 「県外」不可も想定:琉球新報
シュワブ陸上案の検討は、防衛省政務三役直属の特命作業班「普天間代替施設検討チーム」が中心になって進められている。関係者によると、平野博文官房長官が2月はじめ、国外、県外への移転が不可能となった場合の方策として北沢俊美防衛相に検討を指示した。

北沢氏は、検討委の議論との整合性を図るため、検討委員である国民新党の下地幹郎政調会長に、国民新党案としてシュワブ陸上案を委員会に提案するよう要請した。


最後の保険としてシュワブ陸上案を用意しておく腹積もりのようです。

【辺野古】

辺野古キャンプ・シュワブ陸上案
【2005年に防衛庁(当時)が提出した陸上案の資料図】

シュワブ陸上案は自民党政権時代にも検討された事がある案です。デメリットとしてはキャンプ・シュワブの陸戦基地としての機能が削られ、幾つかのレンジ(射撃場)を潰さなければなりません。滑走路も長く取れません。飛行コース上に民家もあります。沖合案や沿岸案ならこのデメリットの全てを解消できますが、新たな問題として海の埋め立て環境破壊問題が出てきます。陸上案でも山と密林を削って環境が変化することには変わりありませんが、埋め立て案ほど反発はありません。基地の中に基地を作るので反対運動が効果を上げ難い場所になります。

移動可能沖合基地 MOB : U.S.Warships

海上移動式のセミサブ型メガフロート案なら環境破壊の心配はありませんが、建造費用と年間維持費が高く付く上、防御上の問題点を抱えているので、今のところは提案されていません。

北マリアナ案、政府に否定論 普天間移設先で3閣僚 - 琉球新報

海外移転案はグアム州知事が受け入れを拒否したものの、北マリアナ州知事がサイパン、テニアンへの受け入れを歓迎しました。しかし日本政府は3閣僚(官房長官、防衛大臣、外務大臣)が揃って難色を示し、この方向で進展する可能性は低くなっています。なお現在まで韓国済州島案やフィリピン北部案は提出されていません。

普天間県外移設に否定的 米海兵隊の太平洋司令官:共同通信

海兵隊側は海外移転も県外移転も拒否する構えです。


小沢幹事長:極東の安全保障 米抑止力が重要:毎日新聞
民主党の小沢一郎幹事長は13日午前、東京都内で開かれた「小沢一郎政治塾」で講演し、2日に会談したキャンベル米国務次官補に対し「『極東でひとたび不安定な状況が生まれると、イラクやイランやアフガニスタンの比ではない。アメリカはもっとしっかり考えないとダメだ』という話をした」と明かした。そのうえで「極東の状況は非常に不安定度を増している」と述べ、北東アジアの安全保障環境の現状に懸念を示した。

2回の核実験を行った北朝鮮を念頭に置き、日本にとって米国の抑止力が極めて重要との認識を示した発言だ。政府が5月末に決定を予定している沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題では、抑止力維持の観点から米軍の大幅後退につながる国外移設などには反対意見が根強くあり、今後の移設論議に影響を与えそうだ。【念佛明奈】


これまで民主党の小沢幹事長は普天間基地移設問題について、下地島や伊江島を移設先に提案し、辺野古埋め立て案には反対しています。つまり海外案や県外案は口にしておらず、沖縄県内移転を模索しているように映ります。ところで小沢幹事長の今回のこの発言は、過去の「在日米軍は第七艦隊のみでいい」という発言と整合性が取れないわけですが、撤回した事になるんでしょうか、それとも単なる二枚舌なんでしょうか。

シュワブ陸上案も排除せず=首相:時事通信

社民党はシュワブ陸上案を排除するよう要望しましたが、政府には袖にされました。

現状、まだ海外移転先も県外移転先も候補を全く絞り込めておらず、県内移転先も嘉手納統合案やシュワブ陸上案、下地島空港案や伊江島案もあり、何にも絞り込めていません。しかし最終期限は5月まで、3月には候補先を決めて地元の了承を取り付けに掛らないといけません。タイムスケジュール的に間に合うのかどうか不透明なままです。

このままでは何も決まらず辺野古キャンプ・シュワブ陸上案で行く事になり、それでも駄目なら普天間基地固定になってしまいます。
20時21分 | 固定リンク | Comment (342) | オスプレイ |