冒頭から噛み合わない議論ですね・・・
昨年の12月21日に書いた記事
「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」への反論がありましたので対応したいと思います。
ただ、私の書いた記事に言及して反論を行うなら、トラックバックで通知するなりメールで連絡するなりして欲しいのですが・・・こちらが気付くのが遅れますので。
それでは相手方の主張を3つに分けて再反論を行っていきます。先ずは「米海兵隊の戦略と沖縄」編です。
普天間基地県内移設に合理性は皆無 - モジモジ君の日記。みたいな。
米海兵隊の戦略と沖縄
マジレスすると、海兵隊にとって重要なことはヘリや支援戦闘機、揚陸艦、上陸部隊が一体となって行動できること。その意味で言えば、佐世保の揚陸艦艇、岩国の支援戦闘機などと一体運用するためには、民間の飛行機がほとんど使ってない佐賀空港あたりにでもヘリ部隊を移し、付近に上陸する地上部隊の駐屯地を作るのが一番いい。九州には自衛隊の演習場も多くあり(大分など)、米軍にとっては願ってもないロケーションだ。ついでに言うと、北朝鮮までの距離も半分になる。文句のつけようがない。戦略戦術をいうなら、断然九州。
■噛み合っていない論議私は昨年の12月21日に書いた記事で「敵特殊部隊への対処」と前置きをしていた筈です。この場合は海兵隊の強襲ヘリと陸戦用員、上空援護の嘉手納空軍基地のF-15戦闘機があれば対処可能な相手で、そもそも揚陸艦も対地支援戦闘機も必要が無い状況での対応が前提です。この状況設定が私個人の妄想と思われない為にも、アメリカ側が実際に想定した状況であることを新聞ソースで示しました。なおアメリカは敵が特殊部隊のみで作戦を完遂する状況を想定していましたが、私は主力本隊が侵攻する際の事前準備として特殊部隊が先行して投入される状況を、過去のソ連のアフガニスタン侵攻という実例を踏まえて説明しています。
それなのにmojimoji氏は私の書いた記事を全く理解しておらず、冒頭から前提を無視して揚陸艦や対地支援戦闘機との連携の話を中心に始めており、この時点で私の記事への有効な反論とは成り得ていません。私は最初から海兵隊はヘリ部隊と地上部隊のみで対処可能な作戦状況を提示しています。
■朝鮮半島有事に揚陸艦は即応する必要が無いmojimoji氏は「北朝鮮までの距離も半分になる」と、揚陸艦の居る佐世保に近い、佐賀空港への海兵隊ヘリ部隊と付近への海兵隊地上部隊の移転を戦略戦術的に有利だとしていますが、これは朝鮮半島有事の際の状況をまるで理解していないという事が言えるでしょう。
そもそも朝鮮半島有事では揚陸艦が直ぐに出撃する必要はありません。半島には韓国軍と在韓米軍が存在して防御戦闘を試みています。台湾と違い軍事的深奥性も確保されているので、時間と距離は十分に稼げます。すると戦線後方の港(釜山など)へ人員と物資を安全に輸送する事が可能です。これは徴用した民間輸送船でも可能な任務です。
揚陸艦の存在意義は「港湾施設の無い沿岸にも揚陸可能」という点であって、後方で安全な港が使えるなら特に必要ではありません。朝鮮半島有事で揚陸艦が出番のある状況を想定すると、朝鮮戦争中の1950年に行われた仁川上陸作戦が先ず挙げられますが、この作戦は戦争が勃発してから2ヵ月半後に行われています。これは戦争に負けつつあったアメリカ軍が起死回生を狙った投機的な作戦で、切羽詰まってはいますが日単位で一刻を争うという状況でもありません。他は日本海側の元山市付近に揚陸する際に出番があるかどうかですが、これも開戦初頭にいきなり仕掛ける必然性はありません。
つまり朝鮮半島有事を考える以上は、揚陸艦と地上部隊が近くに居る必然性があまり無いのです。
■佐世保港に揚陸艦が常駐するようになったのは1992年から佐世保港にアメリカ海軍の揚陸艦が常駐するようになったのは、1992年以降と意外とつい最近の話です。強襲揚陸艦「ベローウッド」とドック揚陸艦「ジャーマンタウン」がやって来ました。これはフィリピンのスービック海軍基地の閉鎖と、アメリカ本国のカリフォルニア州ロングビーチ海軍基地が閉鎖した事に伴う転出です。
つまりアメリカは揚陸艦を朝鮮半島有事の際に即応させる事を元々、考慮はしていませんでした。
■海兵隊のF/A-18戦闘機は揚陸艦からは運用できない海兵隊所属の固定翼機で強襲揚陸艦に搭載できるのは、垂直離着陸機のAV-8Bハリアーだけで、F/A-18戦闘機は空母に相乗りさせるか自力で飛んで前線基地へ移動します。つまりF/A-18戦闘機については佐世保の揚陸艦と連動させる必要がありません。
■海兵隊のF/A-18戦闘機は岩国からでも沖縄ヘリ部隊を援護可能岩国基地から普天間基地まで約1000km、戦闘機の巡航速度850km/hだと約1時間20分で到着します。そして普天間基地から台湾の台北まで約650km、強襲ヘリの巡航速度270km/hだと約2時間40分掛かります。つまり岩国基地の戦闘機部隊は普天間基地のヘリ部隊が飛び立った後に普天間基地に下りて、燃料を給油してから台湾へ支援攻撃に向かっても離陸から約40分で現場に到着するので、時間的にはかなり余裕を持って間に合ってしまいます。給油に40分掛けてもいいわけです。また基地に下りずとも空中給油をしながらでも、片道2時間の飛行ならそのまま戦場に投入してもパイロットの疲労などの問題はありません。
なお台湾上空の防空戦闘は嘉手納基地の米空軍のF-15戦闘機が即応します。嘉手納の空軍戦闘機は海兵隊ヘリ部隊の援護は主任務ではなく、台湾軍の防空戦闘機部隊が敵の先制奇襲で壊滅した場合に即座に穴埋めする任務に飛び立つ必要がある為、時間単位での即応性が望まれる為に沖縄県外への配備は考えられません。
地政学的に沖縄にあることが重要といえそうなのは、嘉手納基地(空軍)くらいでしょう。海兵隊については、沖縄にある必然性はまったくないどころか、分散配置のためにかえって運用しづらい状況になっているというのが実情だ。よって、純粋に軍事的観点のみから言うならば、普天間基地の移転先は九州がベスト。異論の余地なく。
■敵特殊部隊への対処という条件私は沖縄にヘリ部隊と地上部隊がある必然性を示しました。mojimoji氏はその前提条件である「敵特殊部隊への対処」という要素について何一つ反論が出来ていません。敵特殊部隊への対処用となる即応投入兵力では、揚陸艦も対地支援戦闘機も必要ありません。
■台湾有事に揚陸艦を使う場合分散配備の為に運用し難いという主張も間違っています。例えばもし、揚陸艦を用いて台湾への支援に向かう状況が生じたとしても、佐世保から台湾へ向かう途上に沖縄があるので、ホワイトビーチに立ち寄って地上部隊を回収し、洋上でヘリを収容しつつ向かえば時間的ロスは殆ど有りません。仮に地上部隊を佐賀県に置いても、装甲車など重装備を搬入する時間は必要になります。つまり地上部隊が佐賀にあろうが沖縄にあろうが、このケースではどちらでも差が生じません。ただし既に述べている通り、強襲ヘリと陸戦部隊が揚陸艦の援護無しで作戦を行う場合を考える都合上、佐賀県配備は出来ません。
■分散配置による弊害について有事の際における合同に問題が生じない以上、分散配置で運用し難いのは訓練などの都合上の問題ですが、そもそも連携訓練を頻繁に行う地上部隊とヘリ部隊は沖縄県内の近隣にあります。戦闘機部隊はそもそも地上部隊との連携訓練は殆ど行いませんし、揚陸艦を用いた大規模な演習は予算的に頻繁に行えるものではないので、近くに居る必要もありません。アメリカ本国の第2海兵遠征軍(ノースカロライナ州キャンプ・レジューン)も、揚陸艦の母港であるノーフォーク海軍基地(バージニア州)まで300km程の距離があります。
では、なぜ、沖縄になるのか。純粋に政治的理由である。元々、沖縄の海兵隊が駐留していたのは岐阜と山梨である。これが1956年、沖縄に移設された。理由は明らかにされていないが、陸軍省も海兵隊も反対していたのだから、少なくとも軍事的必然性からでなかったのは確かだ。状況証拠的には次のようになる。当時の日本では、反米軍基地運動が激化しており、基地の拡張どころか維持さえ政治的な困難に直面していた。冷戦下、基地の縮小はありえない。それで米軍統治下だった、つまり、高等弁務官の布令一つで自在に土地の収用、基地の建設が可能な状況にあった沖縄へ、ということになったのではないか。これ以外の合理的説明を僕は知らない。
■軍事技術の進歩と新戦術の発生あの当時はそもそもヘリコプター単独での台湾降下特殊作戦など技術的に不可能ですから。敵も味方も、です。
1956年当時、アメリカ軍はまだヘリコプターを用いた戦術を確立していませんでした。そもそもヘリコプターとは大戦中に生まれた新兵器で、性能もまだ低く、朝鮮戦争(1950-1953年)では輸送と救命が主任務でした。陸戦で積極的にヘリコプターを活用するヘリボーン戦術が確立され、多用されるに到ったのはベトナム戦争からであり、1960年代の話です。強襲揚陸艦(ヘリコプターを主な輸送に用いる揚陸艦)という艦種自体、1960年代以降に新たに出現しています。(イオー・ジマ級)
そしてようやく1970年代に入ってから、沖縄から台湾に直接飛んで帰って来られる大型強襲ヘリコプターが登場しました。CH-53Eスーパースタリオンのフェリー航続距離2000km、作戦行動半径500〜600kmという能力は、ヘリコプターとしては非常に高い数字です。ベース機体のCH-53シースタリオンの2倍の航続距離です。つまりアメリカ軍が強襲揚陸艦の支援無しに直接ヘリコプターで台湾の台北に降下する、という作戦を視野に入れ始めたのは、それ以降の事なのです。
それまでは考えられてこなかったわけですが、実を言えば当時それまで仮想敵である人民解放軍のヘリコプター部隊は機材の性能も運用能力もお粗末な限りで、目の前にある台北にすらヘリコプター部隊だけで降下して特殊作戦を行うような能力など無く、アメリカ側は敵特殊部隊の大規模奇襲攻撃を考慮する必要はそもそもありませんでした。
つまり
「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」で述べた作戦計画は、敵味方双方の使用するヘリコプターの性能向上に伴って新たに生まれたもので、技術面での進歩から戦術の取れる幅が広がってしまった事にあります。故に、1956年当時の移転理由は1970年代以降には関係が無くなっています。沖縄への海兵隊移転は結果的に、新たな時代の新たな兵器による新たな戦術に対応できる、実に都合の良い配備箇所となりました。そしてその有用性は、ヘリコプターと固定翼機の融合である全くの新概念の新兵器、V-22オスプレイの登場によりますます価値が高まっています。海兵隊はCH-53E以外の航続力の低い輸送ヘリコプターまでV-22で更新する予定で、揚陸艦の援護を必要としない航空団単独での作戦が取れる幅が広がる事になります。
だから、日米安保を支持し、純粋に軍事の観点からのみ議論し、負担を押しつけられる地域住民に一切の思いをはせないとしたならば、海兵隊の移転先はとりあえず「九州」と言うべきでしょう。もちろん、僕はこの案にも賛成しないけども、それでも、「九州」と言うなら額面通り「純軍事的に」考えたのだろうなぁ、とは思える。しかし、「純軍事的な理由で沖縄」というのは、単にモノを知らないのか、あるいは、連綿と続けられてきた沖縄社会に対する差別構造を隠蔽するためか。いずれにせよ妄言以外ではない。
■議論を噛み合わせる為にいいえ、mojimoji氏の主張は私が唱えた前提条件(近い内容をアメリカ側も提示している条件)をまるきり無視していて、会話のキャッチボールがそもそも冒頭から成り立っていません。九州では大型強襲ヘリコプターの台湾海峡有事への即応投入(場合によっては時間単位での対応が求められる)が不可能です。mojimoji氏は敵味方双方に置けるヘリコプターの進化の歴史を理解せず、台湾海峡有事と朝鮮半島有事の作戦上に置ける決定的な違いを理解せず、揚陸艦配備の歴史も使い方も把握しておらず、海兵航空団の固定翼機の運用方法も、ヘリコプターの運用方法も理解していないように見えます。
mojimoji氏の唱える九州移転案は、以上の点で台湾海峡有事への対応に問題点があり、朝鮮半島危機でも現行の沖縄配備と差が見い出せません。そして九州へのヘリコプター部隊移転のみならず地上部隊の移転が可能かと言うと、非現実的な話と言わざるを得ないでしょう。
以上にて「米海兵隊の戦略と沖縄」編を終わります。大変に長くなり過ぎたので、「台湾危機と米軍基地」編と「中国側の識者?」編は後日改めて書く予定です。