2010年02月15日
アメリカ西海岸の基地へのMV-22オスプレイの配備による環境影響報告(環境アセスメント)で、CH-46EシーナイトとMV-22オスプレイの騒音レベルを直接比較した図が掲載されていました。

Final Environmental Impact Statement for the West Coast Basing of the MV-22

PDFファイルの「Volume 2 - Chapters 6-12」の6-71(P87)です。

Table 6.1.14-4

Compared to the CH-46E, which it would replace, noise modeling conducted for this EIS shows that in cruising flight sound exposure levels (SEL) in dBA from MV-22 would be consistently lower than those from CH-46E at altitudes between 250 feet and 5,000 feet above ground level (Table 6.1.14-4). The same is true of maximum sound levels (Lmax) in dBA (Table 6.1.14-4). SEL represents the total acoustic energy during an event (such as an overflight) typically measured over a duration of one second. Lmax is the maximum sound level measured over a fraction of a second during a single noise event that changes over time. During arrivals, SEL from MV-22 would be slightly lower than those from CH-46E; however, the Lmax would be somewhat greater for MV-22 (Table 6.1.14-4).


飛行中は全ての領域でMV-22オスプレイはCH-46Eシーナイトより5〜9dBA静かです。地上に降りた時の計測値がSELで1dBA静か、Lmaxで4dBA煩いという結果になっています。地上での計測で片方の計測方法だけ大きくなったのは若干意外でしたが、全般的にはティルトローター機の特性がよく出ている結果であると思います。

※関連記事「MV-22オスプレイはCH-46ヘリコプターよりも6倍静かです」
・9デシベル上がると音圧は6倍になる。
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2010年02月12日
回転翼機(ヘリコプター)と固定翼機を合わせた革新的な航空機であるティルトローター機のV-22オスプレイは、海兵隊仕様がMV-22となります。MV-22はこれまで使われてきたヘリコプター、CH-46シーナイトを代替していきます。そのMV-22オスプレイについて、騒音が大きいのではないかとする懸念が広がっているのですが・・・


田岡俊次氏に聞く:「普天間」県外移設案提言 佐世保一体で効果|毎日新聞
「名護市辺野古での環境影響評価には、3年後に沖縄配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの騒音データを入れていない。エンジン出力が現在普天間にあるCH46ヘリの4・4倍(6150馬力が2基)で騒音が大きい。鳩山首相が辺野古でない地域を探すのは現実的判断だ」


軍事評論家の田岡俊次氏は、MV-22オスプレイはCH-46ヘリよりもエンジン出力が4.4倍にもなる為、騒音が大きくなると断言しています。田岡氏はTVや週刊誌でも同様の主張を繰り返していて、これを根拠にオスプレイの騒音は大きいと決め付ける報道が他にも幾つか出て、ブログでも広まっています。しかしこれは海兵隊側の認識とは全く異なっているのです。以下はミラマー海兵隊基地の地元、アメリカ合州国カリフォルニア州サンディエゴ市のローカル紙「The San Diego Union Tribune」のインターネット版「Sign-On San Diego」より、2009年12月18日付けの記事です。


Miramar welcomes whisper-quiet Osprey : Sign-On San Diego
(ミラマーはささやくように静かなオスプレイを歓迎します)
“If you are worried about noise, the MV-22 ought to be very welcome,”
(もし貴方が騒音について心配するのなら、MV-22はとても歓迎されるべきです。)

The Osprey is six times quieter than the helicopter it replaces, the dual-rotored CH-46, according to the Marine Corps.
(オスプレイは、代替する海兵隊のヘリコプター(タンデムローター式のCH-46)よりも6倍静かです。)


ミラマー海兵隊基地の会見で、オスプレイ飛行隊指揮官のエヴァン・ルブラン中佐はこのように述べました。エンジン出力が大きく上がるにも拘らず、従来のヘリコプターよりも6倍も静かであるというこの説明は、一体どういう事なのかと言うと・・・

実はヘリコプターの騒音の大半は、エンジンからではなくローターブレードから発生している為、エンジンの比較など殆ど意味が無いのです。ヘリコプター特有の「バラバラバラ・・・」という大きな音と言えば思い当たるでしょう、あれがローターブレードから発生する「スラップ音」というものです。BVI(Blade-Voltex-Interaction;翼端渦干渉)という現象で、先行するローターブレードの翼端渦が後続のローターブレードと干渉することにより発生する衝撃音です。これはヘリコプター特有の現象で、固定翼プロペラ機では翼端渦はすぐに機体後方に流れて後続のプロペラが叩く事はありません。

つまり、離着陸時にはヘリコプター形態、巡航時には固定翼機形態に変形するティルトローター機MV-22オスプレイは、巡航時にBVI騒音が消え去ります。本質的にティルトローター機とはヘリコプターより静粛な航空機なのです。



この5分32秒の動画の中で、オスプレイが固定翼機形態‐ヘリコプター形態‐固定翼機形態と転換飛行を繰り返し行っています。聞き比べてください、形態によって騒音の種類が全く異なる事が分かる筈です。ヘリコプター形態ではエンジン音より大きな音が発生し、固定翼機形態よりも遠くから音が響いています。

では固定翼機形態はともかく、ヘリコプター形態では騒音はヘリコプターと同様ではないか? と思われそうですが、このローターブレードから発生するスラップと呼ばれるBVI騒音は、ローター直径が大きければ大きいほど音が大きくなります。MV-22オスプレイのメインローターは直径11.58mで、CH-46シーナイトのメインローターは直径15.24m。BVI騒音はCH-46の方が大きくなる要素となっています。両機のローター基数は共に2基、ブレード枚数も3枚と同じです。

BVI騒音はブレード形状の工夫で騒音をある程度抑える事が出来ます。またブレード枚数を増やし直径を小さくする事でも騒音低下が狙えます。しかしCH-46は古いヘリコプターでブレード形状も古く、直径もMV-22オスプレイより大きい為、BVI騒音の要素では不利になるのです。

そしてエンジン騒音についても、大出力化=騒音増という考え方は単純過ぎます。例えばアメリカ軍の戦闘機で比べるとF-15よりもF/A-18の方が騒音は大きいのですがエンジン出力はF/A-18の方が低いですし、日本の新型哨戒機XP-1はターボファン化して出力が大幅に増えながら従来のターボプロップ哨戒機P-3Cよりも騒音は静かになっています。決してエンジン出力に騒音が比例しているわけではありません。エンジン大出力化=騒音増という部分だけ見ても拙速過ぎる主張です。

CH-46Eシーナイト

MV-22Bオスプレイ

結局のところ、田岡俊次氏がMV-22オスプレイの騒音が大きいとする根拠はエンジン出力のみで、実際に測定した数値から判断されたものではありません。エンジン騒音よりもローター騒音の方が遥かに大きいというヘリコプターの特性を理解していないばかりか、エンジンそのものが技術革新で出力を向上しながら騒音を低下させている可能性にも思い至っておらず、田岡俊次氏の分析は間違っています。騒音が小さいとする主張は使用する海兵隊や製造元のボーイングによるもので第三者が測定したわけではありませんが、機体の物理的な特性としてティルトローター機はヘリコプターよりも騒音は小さくなりますし、6倍静かというのは誇張し過ぎている感はありますが、全くの嘘という事ではありません(デシベルという単位の特性)。今のところミラマー海兵隊基地の周辺住民からはMV-22オスプレイの騒音に関する抗議の声は見当たりません。ミラマーはアメリカ本国の基地の中では珍しく市街地が近い立地条件です。

普天間基地代替の環境影響評価(環境アセスメント)でMV-22オスプレイが計測されていなかったのは、単純にその時点でまだ配備されていない機体を用意する事が出来なかったからです。MV-22オスプレイが配備されるなら環境アセスをやり直せと言う声が一部で聞こえますが、やり直した結果は海兵隊にとって好ましい物となるでしょう。配備される新型機が従来機よりも静かになる事は、騒音低減、基地負担軽減を意味します。

また安全性についても、確かにオスプレイは開発中に重大な事故を起こしていた事もありますが、それを言い出したらオスプレイと同時期に初飛行したアグスタウェストランド社の大型ヘリコプターAW-101マーリン(自衛隊もMCH-101として配備)も、試験中に死者を伴う重大事故を起こし、墜落回数も多いのですが、あまり注目されません。オスプレイばかり悪く言われるのは革新的構造の機体だからでしょうか。しかしオスプレイは実戦配備以降は順調なもので、これまで戦場で重大な問題は発生していません。軍内でのオスプレイの評価は高まりつつあり、少なくとも欠陥機というレッテルは返上されています。

なお実際にオスプレイを取材した航空ジャーナリストの坪田敦史氏によると、


V−22オスプレイ 初取材!: SKY MONOLOGUE
騒音は少ない。思ったより、かなり静かだった。


との事です。



【追記資料】MV-22オスプレイ環境アセスメント米西海岸基地(騒音データ)
・オスプレイの騒音は最大9デシベル、CH−46より低い。6倍静かという根拠は騒音データの最大値比較。
 デシベル=20xlog(比較対象の値/基準とする値)
 音圧は3デシベル上がると2倍に、6デシベル上がると4倍に、9デシベル上がると6倍になる。
18時16分 | 固定リンク | Comment (551) | オスプレイ |
2010年01月27日
1月24日の名護市長選は基地移設反対派の稲嶺進氏が当選しました。

名護市長・名護市議会議員補欠選挙 開票速報:名護市役所

この結果を受けて、名護市辺野古沿岸への普天間基地移設は困難になったと思われましたが・・・選挙前は「民意を大事にする」と言っていた民主党政権は、選挙後に突然態度を翻しました。

普天間移設、法的決着も=地元拒否時の対応に言及−平野官房長官:時事通信

普天間、現行案排除せず=「ゼロベース」で5月に結論−鳩山首相:時事通信

「法的決着も」、重ねて言及=普天間移設で平野官房長官:時事通信

平野官房長官は名護市長選の結果を斟酌しなくても、地元の民意の同意を得ずとも強制的に基地移設工事を執行できると発言し、これを抗議を受けても撤回せず、鳩山首相は辺野古移設案を排除せずゼロベースと繰り返し・・・辺野古案を排除しない所までは予想の範疇でしたが、まさか平然と民意を無視すると言い放つとは予想外でした。これは、以前の自民党政権ですら口に出来なかった事です。最後の手段を今の段階で口にするとは、敢えて狙ってやっているのだとしたら相当の狸なんですが・・・どちらにせよこれで大混乱は必至でしょう。

社民党は県外移転案で硫黄島を取り下げて佐賀空港を有力候補とし、鳩山首相は鹿児島県奄美諸島の徳之島を候補に上げ、他には種子島の隣の馬毛島や辺野古案を手直しして陸上に設置する案など色んな話が飛び交っていますが、今のままでは普天間固定化が現実味を帯びてきました。そうなればアメリカはグアムに海兵隊8000名を移転する計画を取り止めてしまいます。辺野古沿岸へ移設する現行案も候補として残ったままです。

徳之島は、上空からの写真を見れば分かりますが一体何処へそんなスペースがあるというのでしょう。

【徳之島】


どうも思い付きで言っているようにしか見えません。現行案の辺野古移設案を手直しして完全陸上案にして再提出というのも、これは過去にアメリカ側が拒否していた事を忘れています。陸上基地内が大幅に狭まった上に航空基地としての機能も小さなものとなるからです。佐賀空港案については有明海沿岸以外で空港に近い位置(ヘリで20分圏内)に陸上部隊駐屯基地を探す必要があるのに、未だに政府は航空基地だけの移転案しか話をしておらず、陸上部隊の移設は何にも話をしていないので問題外です。

私は辺野古沖にメガフロートを浮かべる案が再浮上すると予想していたのですが、今のところはまだ出ていません。以前のメガフロート案はポンツーン型で杭を打つ必要があり、これは地元の同意を得る必要がありましたが、セミサブ型で移動式メガフロートならば自由に移動できる為に地元が反対の声を挙げ難い代物です。

移動可能沖合基地 MOB:U.S.Warships

建造費用に莫大な予算が掛かりますが、辺野古沿岸埋め立ての予算(数千億円から1兆円とも言われる)があれば建造可能です。問題は年間維持費が高額である事、敵の攻撃に晒された場合の抗甚性、台風のような悪天候にどれだけ耐えられるか、そしてそもそも建造自体に技術的な冒険がある点に不安があります。

これは地元沖縄の土建会社へ殆ど利権が落ちない方式です。そういった面で反対の声が上がるでしょうが、私は個人的にMOB案を推します。
23時58分 | 固定リンク | Comment (391) | オスプレイ |
2010年01月24日
米海兵隊の普天間基地移設問題は、今年5月までに決着が付く予定とありますが、迷走の末に最適な案に纏まらない恐れがあります。そこで沖縄県内移設が頓挫した場合の代替案について、海外移設と県外移設の検討を行ってみたいと思います。

先ずは台湾の政府が置かれている台北市を中心とした地図を見てください。

taipei.PNG

沖縄の次に近いのは「海外」のフィリピンです。沖縄の下地島のような中継点に使える滑走路を持つ島が途中にありませんが、距離的には沖縄以外では一番近いです。次に近い奄美諸島は、鹿児島県なので「県外」の条件に合います。そして意外な事ですが、「海外」である韓国の済州島(チェジュド)は日本の九州よりも台湾に近い事が分かります。屋久島や種子島よりも近い位置にあります。そして九州の鹿児島・長崎と、韓国の全羅道(チョラルド)南西部は台湾との距離がほぼ同じです。

つまり県外案として九州が浮上するなら、海外案として韓国を移設先に考える事が出来ます。海兵隊はヘリコプター部隊と地上部隊は近接して配置されなければなりませんが、戦闘機部隊と揚陸艦は少し離れても構いません。韓国南部ならば岩国航空基地の戦闘機部隊や佐世保港の揚陸艦との合流も行いやすいでしょう。また済州島(チェジュド)には韓国海軍が一大拠点を建設しようと計画が推進中であり、イージス艦・揚陸艦・潜水艦と海軍戦力の大部分を集中配置する方針です。

問題は、島の住民の感情が大変に複雑である点です。朝鮮戦争直前に共産主義を支持する島民が一斉蜂起し、戦争期間を通じて鎮圧・虐殺された済州島四・三事件は、長い間触れる事の出来なかった韓国史のタブーでした。2003年に当時の盧武鉉大統領が済州島住民に虐殺事件を公式謝罪し、2005年に済州島を「世界平和の島」に指定したことで、過去の歴史の見直しが始まったばかりです。しかし2006年には指定したばかりの平和の島を海軍最大根拠地に作り変えようと計画が持ち上がり、それは次の政権にも引き継がれました。この上、アメリカ海兵隊を受け入れてくれという話が通じるかどうかは、たとえ韓国政府の了承が得られても島民感情が問題になるでしょう。済州島は現状の韓国軍の計画だけでも軍事の島となるのに、海兵隊まで来たら世界でも有数の軍事拠点となってしまいます。

なおフィリピンについては、アメリカ軍が撤退したばかりでまた出戻るような話は、アメリカ側にもフィリピン側にも現実味が無い話で、日本から持ちかけたところで両国が頷く可能性は低いでしょう。また、もしフィリピンに海兵隊を移設する場合はヘリコプター部隊と地上部隊を一緒に持って行くのは勿論のこと、フィリピン空軍の防空戦力が皆無に等しい(フィリピン空軍は超音速戦闘機を保有していない)為に、アメリカは纏まった数の戦闘機を連れていく必要があります。強襲揚陸艦も佐世保からでは遠過ぎるので、これもフィリピンに置くしかなくなるので、結局のところ在日アメリカ軍の戦力をそっくり配置転換する事となり、かなり大袈裟な話になってしまいます。

グアム案についてはあまりにも遠いので、朝鮮半島問題も台湾海峡問題も片付いていない現段階では、後方に下げるには早過ぎる話です。

県外移転の九州案については、奄美諸島は基地を設けるにはスペースが足りない(航空基地だけならまだしも陸上部隊の施設が置けない)という難点があるのと、味方戦闘機のエアカバーが薄くなる(九州と沖縄の中間の為)という問題があります。九州南部の海上自衛隊の鹿屋基地は、P-3C哨戒機の重要な基地なので、ヘリコプター部隊を受け入れる余裕がありません。固定翼機ならまだしも回転翼機(ヘリコプター等)の大量移転となると、忙しい軍事基地や混雑する民間空港は引き受けるだけのキャパシティが足りなくなります。長崎空港(大村基地)も民間機の使用頻度と自衛隊機の存在を考えると受け入れは難しいですし、長崎県大村市の松本崇市長は受け入れ絶対反対の姿勢を示しています。佐賀空港は以前述べたように「有明海の干潟」の存在がネックです。海兵隊にとっては干潟で上陸訓練など悪夢過ぎます。

そしてそもそもの話ですが、訓練の都合上、海兵隊のヘリコプター部隊と地上部隊は近接していなければならず、しかし九州に海兵隊地上部隊を受け入れて上陸訓練用地を確保できる算段はあるのかというと、そこまで突っ込んだ議論は政治家の口からは一切出ていないので、民主党政権は本気で九州案を検討しているのか疑わしく思えます。これまでヘリコプター部隊移転の話はしても地上部隊移転とセットになるという話を、政権の側から何も為されていないのです。そして当の海兵隊は業を煮やして「飛行時間で20分以内の近接距離に配置する必要がある」と説明して来ました。ヘリコプターの巡航速度は250km/h程度なので、80km圏内になります。海兵隊はティルトローター機を導入後もヘリコプターを使い続けるので、この値は将来に置いても変わりません。


それでは次に「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」で述べた、台北への海兵隊直接強襲降下作戦に関連して、CH-53Eスーパースタリオンのようなヘリコプターよりも航続力の長いティルトローター機である「V-22オスプレイ」を使った場合、沖縄海兵隊普天間基地は県外や海外に移転しても問題が無いかどうか、可能性を考えてみる事にします。

ティルトローター機は回転翼機と固定翼機を融合した新しい概念の航空機です。主翼の両端にあるエンジン及び回転ローターの取り付け角度が垂直から水平に変化することで、回転翼機として離着陸し巡航時は固定翼機になるという転換飛行を行えます。これにより通常のヘリコプターの倍近い速度で飛ぶことが可能となり、作戦行動半径が広がりました。



海兵隊に使用するモデル、MV-22Bオスプレイ侵攻輸送型の作戦行動半径は各資料によって異なるので特定は難航しました。資料によって200〜430nmと数値がバラバラだったのです。

(2010/01/22)V-22オスプレイの航続距離について調べ中
(2010/01/23)海兵隊はMV-22Bオスプレイの最大作戦行動半径を370nmと認識

今回調べた結果、GAOと海兵隊、CRSの資料を採用し、MV-22Bの最大作戦行動半径は370nm、実用上は300〜325nmから370nmまでの範囲で考える事にします。430nmとあるボーイング社の資料は同じページの別個所で明確な誤記があり(最大巡航速度の単位換算を間違えている)、いまいち信用がおけませんし、数値を大きく見せ掛けようと(開発時の事故続きでV-22が欠陥機であるとする声に対抗する為に)している可能性が、G2milなどでも指摘されています。

作戦行動半径370nm(685km)でも、CH-53E強襲ヘリコプターを上回る航続距離です。CH-53Eでは普天間基地から出撃する場合は下地島を中継点に使う必要がありましたが、MV-22Bならば沖縄本島から台北まで直接往復する事が可能です。これは作戦都合上、大きなメリットとなります。そして下地島を帰還の際の中継点として使う場合、MV-22Bの作戦時の最大航続距離が685km×2=1370kmで、台北-下地島間が364kmなので、1370-364=1006kmが台北からの最大作戦可能距離となります。つまり奄美諸島ないしフィリピン北部から作戦を行う事が可能となります。

taipei.PNG

MV-22Bの作戦行動半径が370nmであるならば、普天間基地移設先として県外案の奄美諸島ないし海外案のフィリピン北部が浮上してきます。しかしMV-22Bは実戦運用での実用上は300〜325nmが作戦行動半径であるという報告もあり、それが限界ならば沖縄県外への移転は難しい話になります。また既に述べた通り、奄美諸島案もフィリピン案も移設に関して多くの問題点が有ります。

ちなみに作戦行動半径が430nmとすると、430nm=796km、全作戦航続距離が1592kmとなるわけですが、台北-下地島間が364kmを引いて、1592-364=1228kmが台北への即応出撃範囲となります。すると韓国の済州島や九州が範囲に収まります。

オスプレイは開発が難航し、メーカーの主張しているスペックを達成できていないのですが、それでも従来のヘリコプターよりも勝る点は多く、実戦運用でも大きな問題は出ていません、ですが24名の海兵を乗せて430nmの作戦行動半径は得られていません。普天間基地の韓国移転案や九州移転案の理由に、MV-22Bの航続力を根拠とする事は難しいです。

なお空軍仕様のCV-22Bは、海兵隊仕様のMV-22Bよりも機内燃料タンク容量が若干大きくなっているのと、搭載人員を減らした状態で長大な作戦行動半径を達成しようとしています。アメリカ特殊作戦軍(USSOCOM)隷下の空軍特殊作戦軍(AFSOC)は、第27特殊作戦航空団の第353特殊作戦群の司令部を嘉手納基地に置いています。第353特殊作戦群は固定翼輸送機の特殊作戦機MC-130コンバットタロンを嘉手納基地に、韓国のソウル近郊にある烏山基地(オサン基地)に特殊作戦用ヘリコプターMH-53Jペイヴロウを配置しています。この空軍の第353特殊作戦群にCV-22Bを大量装備させ、沖縄のグリーンベレー駐留数を大幅に増やせば、海兵隊の普天間基地移設の制約が大きく減りますが、空軍のCV-22Bの調達予定数は全体で50機と少なく、第353特殊作戦群に回せる数は少ないかもしれません。搭載燃料を増やした場合は搭載人員がMV-22Bより少なくなるので、少数のCV-22Bでは、中国軍特殊部隊が相手となる前提の台北への直接降下作戦は、厳しいものがあります。空軍が保有する予定のCV-22Bの大半を第353特殊作戦群に廻して貰えれば、海兵隊普天間基地移設の助けとなる可能性もあるでしょう。

嘉手納にもオスプレイ 特殊作戦群に配備可能性 - 琉球新報

空軍の嘉手納基地にCV-22Bを配備する動きは4年前から伝えられています。なお琉球新報は韓国烏山基地のMH-53Jペイブロウを「掃海ヘリコプター」としてますが、それは海上自衛隊のMH-53E機雷掃海ヘリコプターのMHの意味(Mine countermeasures Helicopter)と勘違いしてます。実は米空軍のMHの意味は(Multimission Helicopter)です。

軍用機の命名規則 (アメリカ合衆国) - Wikipedia

アメリカは「特殊作戦用」に適切な意味を持つ基本記号が命名規則に無い事に気付き、使われていなかったMを割り振りました。また、V-22のVはVTOL(Vertical TakeOff and Landing)のVですが、CV-22(CはCargoの頭文字)とすると空母のCVと紛らわしい為、海兵隊と空軍でCV-22とMV-22の名称を交換して使っています。そもそも特殊作戦用といってもCV-22とMV-22に大きな差異は無いので、気軽に入れ替えてしまったようです。海軍と一体化して行動する海兵隊としては、空母を表すCV表記は使えませんでした。
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2010年01月23日
2009年のアメリカ会計検査院(GAO)の報告書に、海兵隊(USMC)の資料を基にしたMV-22BオスプレイとCH-46Eシーナイトの作戦行動半径比較図がありました。

Defense Acquisitions: Assessments Needed to Address V-22 Aircraft Operational and Cost Concerns to Define Future Investments. GAO-09-482, May 11.
http://www.gao.gov/new.items/d09482.pdf

370nm
Source: GAO map based on USMC data; Map Resources, (map).

出発点はアル・アサード航空基地(Al Asad Airbase)です。上記地図を参考に、半径距離を記載した地図をこちらで用意しました。

アル・アサード航空基地

MV-22Bは約370nm(685km)、CH-46Eは約80nm(148km)が最大作戦行動半径であると、海兵隊は認識しているようです。CH-46Eはメーカーの掲げる数値と同じですが、MV-22Bの数値は開発元ボーイングとベルの主張する数値と異なっています。英語版Wikipediaなどで作戦行動半径(Combat Radius)を370nmとしているのは、海兵隊の数値を元にしている模様です。そしてMV-22BとCH-46Eともに満載状態での輸送任務の数値ではなく、輸送物資や人員を減らした上での数値となっています。

なおアメリカ議会図書館議会調査局(CRS)の2009年の報告書によると、以下のようになります。

Congressional Research Service; RL31384, V-22 Osprey Tilt-Rotor Aircraft: Background and Issues for Congress.November 25, 2009
http://www.fas.org/sgp/crs/weapons/RL31384.pdf
"The Osprey has shown that it can carry an operational load of 24 combatloaded Marines out to a combat radius of 300 nautical miles at altitudes above the small arms and rocket-propelled grenade threat envelope; this dwarfs the 75 nautical mile radius of a CH-46E loaded with twelve Marines operating right in the heart of the enemy’s threat envelope."

MV-22Bオスプレイは定員一杯の24名の海兵を乗せて300nmの作戦行動半径、CH-46Eは75nmの作戦行動半径とあります。

これで今月号の軍事研究2010年2月号で航空評論家・青木謙知氏のV-22オスプレイ解説記事での、56ページにMV-22Bについて「24名を乗せて325海里を行動半径にする」とある記述に近い数値となりました。

そうすると海兵隊はMV-22Bオスプレイの最大作戦行動半径を370nmとしつつ、実用上はそれ以下(300〜325nm)としていると、見るべきなのかと思います。

※)追記:海兵隊のマニュアル(オスプレイガイドブック)に作戦行動半径325nmとありました。搭載貨物重量や巡航高度などで航続距離は変化する為、条件次第で数値の変化があるようです。
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2010年01月09日
それでは本編その3「中国側の識者?」編に入ります。


普天間基地県内移設に合理性は皆無 - モジモジ君の日記。みたいな。
それやって、中国側の誰が得するの?という話なわけですが。そんな作戦が実行に移された瞬間に台湾経済は壊滅的な打撃を受けるでしょうし、台湾を支配する意味そのものがなくなるでしょう。軍事それ自体が目的化した「大戦略」脳のトンデモ以外、こんなこと考えません。


まず冒頭のこの部分は前回の記事での反論で片付いていますので、再度詳しくは解説しなくて良いでしょう。そもそも中国は台湾の経済力の獲得を目的に戦争をするのではありません。また私は作戦計画の根拠をソース付きで紹介していますので、「大戦略脳のトンデモ」と言われましても、それは私へではなくソース先の国家の見解をそう言っているのに等しい事になります。かなり無茶な言い掛かりではないでしょうか。



ご丁寧に中国側の見解「普天間基地移設先は沖縄西南部への前進配備となるだろう」を紹介してますが、「人口密集地の名護市を避け、沖縄西南部の無人島を利用する」などというのは噴飯モノの見解です。第一に、「沖縄西南部の無人島ってどこやねん」という話です。第二に、「無人島に1万数千の兵士を駐留させるのに、どんだけコストかかる思ってんの?」という話なわけで。戦時の一時的なベースキャンプならともかく、平時の配備先として、ですよ?当たり前のことですが、兵士もまた人間なのであり、1万数千もの人間が生活するならそれなりのインフラが必要になるわけですが、それをゼロから作るコスト考えたら、これがどれほどバカみたいな話かわかるでしょう。

日本側でも、このレベルの中国脅威論をぶつトンデモ論客が大学教員であることは珍しくもないので、あちら側にもその類の人がいる、ってことでしょう。


mojimoji氏は私の書いた記事をよく読んでいないのでしょうか? 私は該当記事で中国の梁雲祥教授の主張に対し「無人島って何処?」「陸戦部隊はどうするの?」という疑問は既にぶつけた上で、「教授の意見には与しない」「沖縄県西南部への配備は問題が多い」と書いている筈でしょう? 私は細かい内容についてはちゃんと否定しているんです。

(2009/12/23)中国側の予想「普天間基地移設先は沖縄西南部への前進配備となるだろう」

ではこの記事で私が何を強調したかったというと『中国側の予想』という点です。mojimoji氏はこの個所をバラして紹介されていますが、実は其処が一番重要な部分だったのです。中国では複数の識者が普天間基地移設問題を予想しているのですが、誰も国外移転や県外移転を予想しておらず、現行の辺野古案かむしろ前進配備するだろうといった予想ばかりだという点です。

普天間問題と日米同盟の行方、中国専門家による分析―中国紙 - レコードチャイナ
・梁雲祥教授 「沖縄県西南部への前進配備」
・洪源事務局長 「国外移設は有り得ない」
「普天間、日米同盟への影響は限定的」 中国軍関係者ら:日経新聞
・江新鳳研究員 「現行案(辺野古)で解決するのではないか」
・于鉄軍教授 「日米同盟を安全保障政策の礎にする日本の方針は揺るがない」

中国の識者は日米同盟を高く評価し、普天間基地移設問題程度では揺らがないと分析しています。

それでは最後に。



なにをどう考えても海兵隊の沖縄駐留に軍事的理由なんかない。沖縄駐留が決まった最初の最初も政治的なら、その後の駐留継続もずっと政治的に決まっただけ。


軍事的理由は示しました。

(2010/01/03)ヘリコプターの進化と沖縄海兵隊ヘリ部隊の合理性

最初に沖縄駐留が決まったのは確かに政治的ですが、その後の駐留継続の理由は、敵味方双方のヘリコプターの性能が飛躍的に向上した為です。沖縄への海兵隊移転は結果的に、新たな時代の新たな兵器による新たな戦術に対応できる配備箇所となりました。



アメリカ政府としては、置けるところにおければいいし、日本政府としては、沖縄に押しつけ続けている限り他の国民大多数の批判を浴びなくて済むし。


最前線付近に軍事施設が集中してしまうのは、ある程度は仕方がない事です。mojimoji氏も嘉手納基地の位置的な有用性は認めているように、普天間基地も位置的な有用性が存在しています。なお、mojimoji氏の提案した佐賀空港案は無理があります。

(2010/01/04)佐賀空港は「有明海の干潟」のせいで海兵隊基地として不適当

他の地域の提案をお願いします。



そして、沖縄に押しつけ続けていることの差別性を隠蔽し、良心を慰撫するために、「地政学的重要性」なるものが捏造される。「東アジアのキーストーン」とかなんとか、ちょっとかっこいいキャッチコピーが作られたりする。そういうことまで含めて、すべては政治であり、差別である。


いいえ、地政学なんて大層なものでは無いと、最初に述べています。

(2009/12/21)なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか

単純な戦術上の問題に過ぎません。政治ではなく軍事的要求です。



逆に、真面目に軍事的に考えたら、海兵隊の沖縄駐留だけはありえんよ。それだけはハッキリしてる。


いいえ、軍事的に考察しましたが、mojimoji氏の言うような結果には成りませんでした。

(2010/01/03)ヘリコプターの進化と沖縄海兵隊ヘリ部隊の合理性

九州駐留と沖縄駐留を比較した結果、九州駐留には台湾有事への対応で大きなデメリットが存在しますが、沖縄駐留で朝鮮半島有事への対応で目立ったデメリットは存在しません。これは台湾に駐留する米軍は居ないが韓国に駐留する米軍は居るという差が大きいです。

またその他に、韓国軍と北朝鮮軍を見比べれば韓国軍は単体でも北朝鮮に勝てるほどになりましたが、台湾軍と中国軍を見比べれば戦力差が中国優位になりつつあり、救援の重要性が増しているのは韓国ではなく台湾の方であるという点です。戦争に至る可能性は朝鮮半島有事の方が高いと仮定しても、いざ戦争になった場合の援軍の重要性は台湾有事の方が明らかに高くなっています。
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2010年01月07日
それでは番外編二つを挟みましたがようやく本編に戻ります。「米海兵隊の戦略と沖縄」編に続き、今回お送りするのは「台湾危機と米軍基地」編です。


普天間基地県内移設に合理性は皆無 - モジモジ君の日記。みたいな。
台湾危機と米軍基地

 台湾というのは、2000万人余りの人々が暮らす生活圏である。だから、台湾の人々にとって重要なことは、自分の生活圏が戦場にならないことであって、戦争になったら、その時点で「負け」と言っていい。なにより、戦争にならないことが大事なのである。


いいえ、それは間違っています。「勝ち負け」は目的を達成するかどうかによります。例えば「独立戦争」は目的が独立であって、独立を達成すれば勝利となります。「革命戦争」の場合は目的が革命であって、革命を達成すれば勝利となります。

例えばベトナムは、太平洋戦争が終わった1945年当時、2000万人余りの人々が暮らす生活圏でした。だからといって、ベトナムの人々にとって重要なことは、自分の生活圏が戦場にならないことではなく、独立を勝ち取り人民政府を打ち立てる為に、革命を起こし植民地支配の帝国主義者を叩き出す事でした。1946年、第一次インドシナ戦争が勃発。ベトナムはフランスとの戦いに勝利した後、アメリカと戦うことになり、ベトナム戦争(第二次インドシナ戦争)が終結した1976年に、ようやく国土の統一と平和を手にしました。国土は破壊され、何百万と死亡し、生活圏はズタズタにされても、ベトナムは戦争目的を達成し、勝利したのです。彼らはアメリカ相手に、勝利したのです。



「在日米軍で台湾を守ろう」などと言うのは、台湾を「日本にとっての緩衝地帯」としか見ていない連中*1の発想であって。


ええ、それは実に重要な事だと考えます。台湾を守る事は台湾の為に沖縄が犠牲になれ、という事では有りません。台湾を守ることは沖縄を守ること、日本を守ることに繋がります。国家とは国益を最優先に考えて行動するものです。他国を助ける場合は、自国にとって利益があるものでなければなりません。慈善事業ではないのです。

台湾は日本のシーレーンにとって要衝であり、失われることは損失です。また台湾が陥落すればその中国軍の戦力が今度は沖縄に向けて正面圧力を掛けてくる事になり、対抗上、沖縄周辺の防衛力を上げる必要も出て来ます。つまり沖縄の基地負担が更に増えるという事です。また中国が台湾周辺の空域を確保できれば、中国海軍と海軍航空隊は外洋に向けてかなり進出し易くなります。これら三つの要素は全て日米にとって不都合なことです。



そして、最近の中国政府が発している数々のシグナルを見る限り、「独立宣言しない限り軍事侵攻はない」ということであり、その意味で、イニシアティブは台湾側が持っている。戦争したくなければ、独立宣言さえしなければいい。


過去の歴史を紐解けば、不可侵条約を結んでいたのに一方的に反故にして侵攻してきた国の例(ドイツの対ソ戦、ソ連の対日戦)すらあるというのに、中国政府のシグナル(国際的な約束ですらない)を信用するという発想は、甘い考えです。1979年の中越戦争で、中国は「懲罰」と称してベトナムに攻め込み、一ヶ月ほどで押し返され始めると、占領していたベトナムの都市に爆薬を仕掛けて破壊してから撤退していきました。中国は必要と有らば軍事侵攻を躊躇わない国です。それはアメリカもロシアも同様であるように。



だから、実際、「中国と戦争になってもかまわないから独立宣言すべき」とする台湾人は、リアルでは会ったことがない。その類のことを言う「芸人」はメディアで時々見るけれど、そんなのに共感している人はほとんどない。当然だろう。台湾の人々において、殊更独立宣言を急ぐ必要性などないのだから。ただし、ついでに言えば、たとえば、そもそも中国政府が「独立宣言したら武力行使も辞さない」などと恫喝してくることについて、不快感を持っていない台湾人も、これまたリアルでは会ったことがない。それも当たり前の話だろう。急進的独立派ではない台湾人というのは、そうした状況を前提として、あくまでも現実の国際社会の処世術として「現状維持」を支持している、ということ。


この部分については概ね、同意します。ただしこのような世論調査もあります。2008年の調査です。


【台湾】大陸委員会:2008年両岸関係世論調査の分析
選択肢を3分類とした場合は、圧倒的多数(58%〜71%)の国民が「現状維持」を主張し、「台湾独立」(17.5%〜24%)を主張する国民の割合は、「両岸統一」(4.7%〜8%)より高かった。

「現状維持」の選択肢を提示せず、「独立」か「統一」かの二者択一とした場合、「台湾独立」に賛成が6割を超え(65%〜68%)、「両岸統一」に賛成は1割強(14%〜19%)に過ぎなかった。


「現状維持」「独立」「統一」の三択ならば圧倒的に現状維持を選んでいますが、「独立」「統一」の二択ならば独立派が大勢を占めています。

それではmojimoji氏の記事に戻って、今回のテーマにおける最重要部分です。



さらに、中国側にとってさえ、軍事侵攻する意味がない。経済的結びつきは急速に深化しているし、仮に統一するとしても、台湾に存在する経済インフラに傷をつけずに手に入れるのでなくては意味がない。


まず「経済的結びつき」は戦争を行わない理由にはなり得ません。典型例が我々の国、日本です。日本は戦前、アメリカとの経済的結びつきは現在よりも遥かに深く、日本の貿易はアメリカ相手で成り立っていたようなものでした。我が国は最大の貿易相手国に対して全面戦争を仕掛けたのです。

次に「台湾に存在する経済インフラに傷をつけずに手に入れるのでなくては意味がない」との事ですが、だからこその「斬首戦略」なのでしょう? 敵の頭脳(指揮中枢)を殺せば本体(経済インフラ)を傷つけずに手に入れることも可能です。もちろん戦争は相手があるものですから、成功する保障はありません。ですがそれを言い出せば真珠湾奇襲も投機性の高い作戦でした。

ですがそれ以前に、「経済インフラを傷つけずに」という点について、私には二つの疑問があります。先ず一つは、別に斬首戦略でなくても、普通に攻め込んだ場合でもそれほど経済インフラを傷付けずに大都市を攻略した戦例は沢山あるので、なぜ都市が灰燼に帰すかのような前提になっているのか、良く分かりません。太平洋戦争で日本軍は香港やシンガポールを開戦初頭に攻略しましたが、市街地にそれほど被害は発生していません。もちろん、独ソ戦のスターリングラードや現代ではチェチェン紛争でのグローズヌイなど、都市が灰燼に帰した例もあります。ですが、そればかりではないということです。

次に疑問なのは「台湾の経済インフラに傷付けずに手に入れないと意味が無い」という主張は、これはまだ中国の経済が発展する前によく言われていた主張でした。ですが今や中国自身の経済力が十分に付いて来たので、相対的に台湾の経済力が小さくなってしまい、無理に台湾の経済力を丸呑みしなくても別に良い、という域に達してしまっています。仮に台湾の経済インフラに傷が付いても、中国側にとってさほど構わないだろう、というわけです。

中国人の台湾に対する思いというのは、日本人が北方領土に対する思いよりも、むしろ南北朝鮮が片方の事を思うのに近いものです。それはもう金銭面での損得勘定ではありません。「中国は統一されなければならない」という強烈な欲求は、これが第一戦略目的になって軍事侵攻が行われれば、例え都市部が灰燼に帰そうとも気にしないでしょう。現代でもロシアはチェチェン独立紛争で、チェチェンの首都グローズヌイを破壊し尽くしました。ロシア軍は戦略爆撃機による絨毯爆撃さえを市街地に対して行ったのです。これはロシア軍の戦争目的がチェチェンの経済力などではなく、チェチェンの位置こそが重要であり、場所を抑える事に意味があったからです。中国にとっても台湾の「位置」はそれだけで重要な要素です。

また2008年にロシアがグルジアとの戦争で国際的な非難を浴びせられ、経済制裁が掛けられそうになったものの、結局は大した制裁もなく乗り切ってしまった事は、台湾有事を考える上で中国側が参考にすべき事例となるでしょう。



では、なぜ独立宣言はさせたくないのか。独立宣言されると、中国政府としても態度を「決定」しなければならない。独立宣言を容認すれば、国内の民族主義的な(損得勘定のできない)統一派の批判にさらされるし、かといって、軍事侵攻して得るものなど何もない。それよりは、中国の現政権も「現状維持」を望む、ということになる*2。よって、台湾が性急な独立宣言をしない限り、あそこで戦争が起こることはないし*3、台湾側にもそんなことをしなければならない喫緊の理由もないので、普通にあそこで戦争は起こりません。


お互いが現状維持を望むには、お互いが今の状況を維持できるかに掛かってきます。フォークランド紛争の発端の原因は、アルゼンチンが国内の不満を外に向けようとした為です。中国と台湾のお互いに言える事ですが、国内の政情が不安定になり、同じようなことをしてしまう可能性も有ります。僅か15年前です、台湾海峡ミサイル危機は。あの当時に「普通にあそこで戦争は起こりません」と説いても、説得力は無かったでしょう。



それでも、軍事的に抑止することは必要だ、と考えるならば。第一に、在韓米軍のように「有事には米軍がコミットすることの証」、ひいてはそれがゆえの抑止力というものであるならば、米軍が台湾に駐留するしかない。しかし、それは政治的に無理でしょう*4。第二に、純粋に軍事的なプレゼンスとしての機能を期待するのであれば、それに貢献しているのは嘉手納の空軍であり、横須賀の海軍であって、海兵隊ではない。あるいは、少なくとも、沖縄の海兵隊は九州に移設した方が軍事的プレゼンスが高まる。なにをどう考えても「県内移設」はありえない。


mojimoji氏の、海兵隊を九州に置いたほうが軍事的プレゼンスが高まるという主張は否定しました。

(2010/01/03)ヘリコプターの進化と沖縄海兵隊ヘリ部隊の合理性

佐賀空港案も非現実的です。

(2010/01/04)佐賀空港は「有明海の干潟」のせいで海兵隊基地として不適当

そして海兵隊は、中国の斬首戦略に対抗しなければなりません。

(2010/01/05)中国の斬首戦略と台湾侵攻シナリオ

故に、沖縄配備がベストとなります。

次回は最終章「中国側の識者?」編と纏め編の予定です。
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2010年01月05日
読売新聞の記事以外のソースが欲しい、というfinalventさんの要望にお応えします。


沖縄基地のこれだが - finalventの日記
 で、話戻して、ほぉと思ったのは。

   この状況設定が私個人の妄想と思われない為にも、アメリカ側
   が実際に想定した状況であることを新聞ソースで示しました。

 で、出てくるのが「沖縄海兵隊の戦闘部隊、米「移転困難」 (2005年6月30日 読売新聞)」という、読売新聞記事くらいしかないのか、というのが、ちょっとがっかり感。もう少し公開されているのではないかと思うのだがわからないので。そのあたり米側の資料が見えないときちんとした議論にならない。

 まあ、軍事に詳しい人なら読売のべた記事でもわかるというのもあるかもしれないが。


私が言う「この状況設定」とは、「敵特殊部隊への対処」を指します。元記事を読めば分かりますが、そう読み取れる筈です。つまりfinalventさんは、読売新聞の記事以外で「中国が特殊部隊を用いて台湾に侵攻する」という状況設定について記したソースがあれば、がっかりしないという事になります。

それでは紹介しておきましょう。以下は2004年に書かれたアジアタイムズの記事で、2006年に緊張が高まるかもしれないという前提で台湾海峡危機について書かれたものです。


The year to fear for Taiwan: 2006 - Asia Times Online
If China ever makes the decision to invade Taiwan it is unlikely to be a large-scale Normandy-style amphibious assault. The reality is that China is more likely to use a decapitation strategy. Decapitation strategies short circuit command and control systems, wipe out nationwide nerve centers, and leave the opponent hopelessly lost. As the old saying goes, "Kill the head and the body dies." All China needs to do is seize the center of power, the capital and its leaders.

(中国が台湾を侵攻する決定をするならば、それはノルマンディー型の大規模揚陸作戦になりそうではありません。現状は、中国は"斬首戦略"を使用しそうだという事です。斬首戦略は指揮統制システムをショートさせ、国家中枢神経は麻痺し、敵を絶望的な迷走状態に陥らせます。古い格言にはこうあります、「頭を殺せ、そうすれば本体は死ぬ」。中国がしなければならない全ては、首都を占拠し指導者を捕らえる事です。


かなり長い記事ですので、冒頭だけ抜き出して見ました。"斬首戦略"とは、明らかに特殊作戦に重きを置いた戦略である事を意味します。実際に特殊部隊を使用する事が記事後半に出て来ます。アメリカ国防当局者の懸念する「台湾乗っ取りシナリオ」であることも書かれています。「Call in the US Marines?」なんて見出しもありますね。このように、読売新聞に書かれたアメリカ側の想定と、ほぼ同じ想定です。

そして不可解なのはfinalventさん、貴方は5年前にこの記事について言及している筈なんですよね・・・


米国は台湾への軍事支援を強化してきている:極東ブログ(2004.12.22)
 ニュースとしては以上なのだが、「ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー」の記事を書いたWendell Minnickについては、Asia Pacific Media Servicesというサイトで近年のエッセイをまとめて読むことができるので、今回の報道との関連あるかとざっと見渡した。うかつにも驚くべきものがあった。
 なかでも、今年の4月の記事だが"The year to fear for Taiwan: 2006"(参照)では、中国軍がどのように台湾を軍事侵略をするかについてのシナリオが掲載されていた。あくまで軍事的な意味しかないのだろうが、読んでいて私などには空恐ろしいものであった。


5年前に御自分で言及していた記事を、思い出せませんでしたか?
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2010年01月04日
それでは予定を変更して番外編をお送りします。テーマは「佐賀空港は普天間基地の代替として不適当」という点です。


普天間基地県内移設に合理性は皆無 - モジモジ君の日記。みたいな。
米海兵隊の戦略と沖縄

 マジレスすると、海兵隊にとって重要なことはヘリや支援戦闘機、揚陸艦、上陸部隊が一体となって行動できること。その意味で言えば、佐世保の揚陸艦艇、岩国の支援戦闘機などと一体運用するためには、民間の飛行機がほとんど使ってない佐賀空港あたりにでもヘリ部隊を移し、付近に上陸する地上部隊の駐屯地を作るのが一番いい。九州には自衛隊の演習場も多くあり(大分など)、米軍にとっては願ってもないロケーションだ。ついでに言うと、北朝鮮までの距離も半分になる。文句のつけようがない。戦略戦術をいうなら、断然九州。


mojimoji氏の主張する「海兵隊にとって重要なことはヘリや支援戦闘機、揚陸艦、上陸部隊が一体となって行動できること」とは、一部が正しく一部は間違っています。海兵隊にとって平時から近接した場所に基地を設置しなければならないのは地上部隊とヘリ部隊のみで、他の戦闘機部隊や揚陸艦は離れていた場所にあっても問題はありません。

というのも、地上部隊とヘリ部隊は平時からヘリボーン戦術(ヘリを使った空挺作戦)の訓練をするために、頻繁に合同訓練を行う必要がありますが、戦闘機部隊は地上部隊やヘリ部隊との合同訓練を滅多に行う必要がありません。いざ有事の際に合流する場合でも、戦闘機の巡航速度ならば1000km離れた基地からでも1時間少々で到着しますし、揚陸艦に降ろせる戦闘機はAV-8Bハリアー垂直離着陸戦闘機だけで、揚陸艦からは運用できないF/A-18ホーネット戦闘機はそもそも有事の際でも一体となって合流することは出来ず、別の離れた基地から支援に飛んで来る手筈になっています。揚陸艦についても、付近に揚陸艦が入れる港湾が完備されているか、揚陸艦の居る港湾へ短時間の内に到着できる手筈があるなら、少し離れていても問題はありません。

さてそれでは、mojimoji氏の唱える「佐賀空港あたりにでもヘリ部隊を移し、付近に上陸する地上部隊の駐屯地を作るのが一番いい。」という主張の何がいけないのか、論じることにします。

【佐賀空港】


見てのとおり佐賀空港は有明海の沿岸にあります。この有明海というロケーションが決定的な問題となります。有明海名物といえば、広大な面積として出現する「干潟」です。非常に浅く干満が激しく、座礁の危険が高いこの海には大型艦船は入れません。沖合いは入れますが、接岸できる地域は限られ、佐賀空港付近では無理です。

つまりこれは、数万トン級の揚陸艦は接岸できず、部隊の合流が困難であるばかりか演習でも大変な不都合が生じてしまいます。mojimoji氏は、近くに「自衛隊の演習場」があるのでそちらに行くように仰っていますが、決定的な要素を見落としてしまっています。自衛隊には海兵隊に相当する部隊が無く、大規模上陸作戦の訓練の必要性があまりなく、九州には大規模上陸訓練用の演習場を持っていない・・・つまりこれではアメリカ海兵隊の行いたい「上陸訓練」が全く出来ないという事になります。陸上自衛隊には島嶼防衛用逆上陸部隊として「西部方面普通科連隊」が設立されていますが、規模が小さく特殊部隊扱いで、アメリカ海兵隊のような大規模上陸作戦を行うものではなく、現有の自衛隊の演習場ではアメリカの望む環境を与えられません。

つまり、海兵隊の演習場を新たに造ってやる必要があります。もちろん、なるべく基地から近い場所がいいです。でも、佐賀空港付近の海とは有明海なので・・・干潟で上陸作戦の訓練だなんて、悪い冗談でしかありません。最悪の条件です、干潟は底無し沼のようなものなので、水陸両用戦車は簡単に行動不能になり、泥の海に沈んでしまうでしょう。



水平線の向こうまで干潟が続く・・・これが有明海です。LCAC(ホバークラフト揚陸艇)なら使えるかもしれませんが、装甲の弱いLCACは上陸作戦の第一波に使うべきではなく、本来は橋頭堡と揚陸艦の間を反復輸送して物資を運ぶ為のものです。海兵隊が上陸作戦の先頭で使うのは、こっちの水陸両用戦車です。



果たして水陸両用戦車で有明海の干潟を走破出来るでしょうか?って絶対無理です・・・そういうわけなので、佐賀空港とその付近に海兵隊の基地を作るという案は、非現実的なものと言わざるを得ないです。
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2010年01月03日
冒頭から噛み合わない議論ですね・・・

昨年の12月21日に書いた記事「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」への反論がありましたので対応したいと思います。

ただ、私の書いた記事に言及して反論を行うなら、トラックバックで通知するなりメールで連絡するなりして欲しいのですが・・・こちらが気付くのが遅れますので。

それでは相手方の主張を3つに分けて再反論を行っていきます。先ずは「米海兵隊の戦略と沖縄」編です。


普天間基地県内移設に合理性は皆無 - モジモジ君の日記。みたいな。
米海兵隊の戦略と沖縄

 マジレスすると、海兵隊にとって重要なことはヘリや支援戦闘機、揚陸艦、上陸部隊が一体となって行動できること。その意味で言えば、佐世保の揚陸艦艇、岩国の支援戦闘機などと一体運用するためには、民間の飛行機がほとんど使ってない佐賀空港あたりにでもヘリ部隊を移し、付近に上陸する地上部隊の駐屯地を作るのが一番いい。九州には自衛隊の演習場も多くあり(大分など)、米軍にとっては願ってもないロケーションだ。ついでに言うと、北朝鮮までの距離も半分になる。文句のつけようがない。戦略戦術をいうなら、断然九州。


■噛み合っていない論議

私は昨年の12月21日に書いた記事で「敵特殊部隊への対処」と前置きをしていた筈です。この場合は海兵隊の強襲ヘリと陸戦用員、上空援護の嘉手納空軍基地のF-15戦闘機があれば対処可能な相手で、そもそも揚陸艦も対地支援戦闘機も必要が無い状況での対応が前提です。この状況設定が私個人の妄想と思われない為にも、アメリカ側が実際に想定した状況であることを新聞ソースで示しました。なおアメリカは敵が特殊部隊のみで作戦を完遂する状況を想定していましたが、私は主力本隊が侵攻する際の事前準備として特殊部隊が先行して投入される状況を、過去のソ連のアフガニスタン侵攻という実例を踏まえて説明しています。

それなのにmojimoji氏は私の書いた記事を全く理解しておらず、冒頭から前提を無視して揚陸艦や対地支援戦闘機との連携の話を中心に始めており、この時点で私の記事への有効な反論とは成り得ていません。私は最初から海兵隊はヘリ部隊と地上部隊のみで対処可能な作戦状況を提示しています。

■朝鮮半島有事に揚陸艦は即応する必要が無い

mojimoji氏は「北朝鮮までの距離も半分になる」と、揚陸艦の居る佐世保に近い、佐賀空港への海兵隊ヘリ部隊と付近への海兵隊地上部隊の移転を戦略戦術的に有利だとしていますが、これは朝鮮半島有事の際の状況をまるで理解していないという事が言えるでしょう。

そもそも朝鮮半島有事では揚陸艦が直ぐに出撃する必要はありません。半島には韓国軍と在韓米軍が存在して防御戦闘を試みています。台湾と違い軍事的深奥性も確保されているので、時間と距離は十分に稼げます。すると戦線後方の港(釜山など)へ人員と物資を安全に輸送する事が可能です。これは徴用した民間輸送船でも可能な任務です。

揚陸艦の存在意義は「港湾施設の無い沿岸にも揚陸可能」という点であって、後方で安全な港が使えるなら特に必要ではありません。朝鮮半島有事で揚陸艦が出番のある状況を想定すると、朝鮮戦争中の1950年に行われた仁川上陸作戦が先ず挙げられますが、この作戦は戦争が勃発してから2ヵ月半後に行われています。これは戦争に負けつつあったアメリカ軍が起死回生を狙った投機的な作戦で、切羽詰まってはいますが日単位で一刻を争うという状況でもありません。他は日本海側の元山市付近に揚陸する際に出番があるかどうかですが、これも開戦初頭にいきなり仕掛ける必然性はありません。

つまり朝鮮半島有事を考える以上は、揚陸艦と地上部隊が近くに居る必然性があまり無いのです。

■佐世保港に揚陸艦が常駐するようになったのは1992年から

佐世保港にアメリカ海軍の揚陸艦が常駐するようになったのは、1992年以降と意外とつい最近の話です。強襲揚陸艦「ベローウッド」とドック揚陸艦「ジャーマンタウン」がやって来ました。これはフィリピンのスービック海軍基地の閉鎖と、アメリカ本国のカリフォルニア州ロングビーチ海軍基地が閉鎖した事に伴う転出です。

つまりアメリカは揚陸艦を朝鮮半島有事の際に即応させる事を元々、考慮はしていませんでした。

■海兵隊のF/A-18戦闘機は揚陸艦からは運用できない

海兵隊所属の固定翼機で強襲揚陸艦に搭載できるのは、垂直離着陸機のAV-8Bハリアーだけで、F/A-18戦闘機は空母に相乗りさせるか自力で飛んで前線基地へ移動します。つまりF/A-18戦闘機については佐世保の揚陸艦と連動させる必要がありません。

■海兵隊のF/A-18戦闘機は岩国からでも沖縄ヘリ部隊を援護可能

岩国基地から普天間基地まで約1000km、戦闘機の巡航速度850km/hだと約1時間20分で到着します。そして普天間基地から台湾の台北まで約650km、強襲ヘリの巡航速度270km/hだと約2時間40分掛かります。つまり岩国基地の戦闘機部隊は普天間基地のヘリ部隊が飛び立った後に普天間基地に下りて、燃料を給油してから台湾へ支援攻撃に向かっても離陸から約40分で現場に到着するので、時間的にはかなり余裕を持って間に合ってしまいます。給油に40分掛けてもいいわけです。また基地に下りずとも空中給油をしながらでも、片道2時間の飛行ならそのまま戦場に投入してもパイロットの疲労などの問題はありません。

なお台湾上空の防空戦闘は嘉手納基地の米空軍のF-15戦闘機が即応します。嘉手納の空軍戦闘機は海兵隊ヘリ部隊の援護は主任務ではなく、台湾軍の防空戦闘機部隊が敵の先制奇襲で壊滅した場合に即座に穴埋めする任務に飛び立つ必要がある為、時間単位での即応性が望まれる為に沖縄県外への配備は考えられません。



地政学的に沖縄にあることが重要といえそうなのは、嘉手納基地(空軍)くらいでしょう。海兵隊については、沖縄にある必然性はまったくないどころか、分散配置のためにかえって運用しづらい状況になっているというのが実情だ。よって、純粋に軍事的観点のみから言うならば、普天間基地の移転先は九州がベスト。異論の余地なく。


■敵特殊部隊への対処という条件

私は沖縄にヘリ部隊と地上部隊がある必然性を示しました。mojimoji氏はその前提条件である「敵特殊部隊への対処」という要素について何一つ反論が出来ていません。敵特殊部隊への対処用となる即応投入兵力では、揚陸艦も対地支援戦闘機も必要ありません。

■台湾有事に揚陸艦を使う場合

分散配備の為に運用し難いという主張も間違っています。例えばもし、揚陸艦を用いて台湾への支援に向かう状況が生じたとしても、佐世保から台湾へ向かう途上に沖縄があるので、ホワイトビーチに立ち寄って地上部隊を回収し、洋上でヘリを収容しつつ向かえば時間的ロスは殆ど有りません。仮に地上部隊を佐賀県に置いても、装甲車など重装備を搬入する時間は必要になります。つまり地上部隊が佐賀にあろうが沖縄にあろうが、このケースではどちらでも差が生じません。ただし既に述べている通り、強襲ヘリと陸戦部隊が揚陸艦の援護無しで作戦を行う場合を考える都合上、佐賀県配備は出来ません。

■分散配置による弊害について

有事の際における合同に問題が生じない以上、分散配置で運用し難いのは訓練などの都合上の問題ですが、そもそも連携訓練を頻繁に行う地上部隊とヘリ部隊は沖縄県内の近隣にあります。戦闘機部隊はそもそも地上部隊との連携訓練は殆ど行いませんし、揚陸艦を用いた大規模な演習は予算的に頻繁に行えるものではないので、近くに居る必要もありません。アメリカ本国の第2海兵遠征軍(ノースカロライナ州キャンプ・レジューン)も、揚陸艦の母港であるノーフォーク海軍基地(バージニア州)まで300km程の距離があります。



では、なぜ、沖縄になるのか。純粋に政治的理由である。元々、沖縄の海兵隊が駐留していたのは岐阜と山梨である。これが1956年、沖縄に移設された。理由は明らかにされていないが、陸軍省も海兵隊も反対していたのだから、少なくとも軍事的必然性からでなかったのは確かだ。状況証拠的には次のようになる。当時の日本では、反米軍基地運動が激化しており、基地の拡張どころか維持さえ政治的な困難に直面していた。冷戦下、基地の縮小はありえない。それで米軍統治下だった、つまり、高等弁務官の布令一つで自在に土地の収用、基地の建設が可能な状況にあった沖縄へ、ということになったのではないか。これ以外の合理的説明を僕は知らない。


■軍事技術の進歩と新戦術の発生

あの当時はそもそもヘリコプター単独での台湾降下特殊作戦など技術的に不可能ですから。敵も味方も、です。

1956年当時、アメリカ軍はまだヘリコプターを用いた戦術を確立していませんでした。そもそもヘリコプターとは大戦中に生まれた新兵器で、性能もまだ低く、朝鮮戦争(1950-1953年)では輸送と救命が主任務でした。陸戦で積極的にヘリコプターを活用するヘリボーン戦術が確立され、多用されるに到ったのはベトナム戦争からであり、1960年代の話です。強襲揚陸艦(ヘリコプターを主な輸送に用いる揚陸艦)という艦種自体、1960年代以降に新たに出現しています。(イオー・ジマ級)

そしてようやく1970年代に入ってから、沖縄から台湾に直接飛んで帰って来られる大型強襲ヘリコプターが登場しました。CH-53Eスーパースタリオンのフェリー航続距離2000km、作戦行動半径500〜600kmという能力は、ヘリコプターとしては非常に高い数字です。ベース機体のCH-53シースタリオンの2倍の航続距離です。つまりアメリカ軍が強襲揚陸艦の支援無しに直接ヘリコプターで台湾の台北に降下する、という作戦を視野に入れ始めたのは、それ以降の事なのです。

それまでは考えられてこなかったわけですが、実を言えば当時それまで仮想敵である人民解放軍のヘリコプター部隊は機材の性能も運用能力もお粗末な限りで、目の前にある台北にすらヘリコプター部隊だけで降下して特殊作戦を行うような能力など無く、アメリカ側は敵特殊部隊の大規模奇襲攻撃を考慮する必要はそもそもありませんでした。

つまり「なぜ普天間基地移設先は沖縄県内でなければならないのか」で述べた作戦計画は、敵味方双方の使用するヘリコプターの性能向上に伴って新たに生まれたもので、技術面での進歩から戦術の取れる幅が広がってしまった事にあります。故に、1956年当時の移転理由は1970年代以降には関係が無くなっています。沖縄への海兵隊移転は結果的に、新たな時代の新たな兵器による新たな戦術に対応できる、実に都合の良い配備箇所となりました。そしてその有用性は、ヘリコプターと固定翼機の融合である全くの新概念の新兵器、V-22オスプレイの登場によりますます価値が高まっています。海兵隊はCH-53E以外の航続力の低い輸送ヘリコプターまでV-22で更新する予定で、揚陸艦の援護を必要としない航空団単独での作戦が取れる幅が広がる事になります。



だから、日米安保を支持し、純粋に軍事の観点からのみ議論し、負担を押しつけられる地域住民に一切の思いをはせないとしたならば、海兵隊の移転先はとりあえず「九州」と言うべきでしょう。もちろん、僕はこの案にも賛成しないけども、それでも、「九州」と言うなら額面通り「純軍事的に」考えたのだろうなぁ、とは思える。しかし、「純軍事的な理由で沖縄」というのは、単にモノを知らないのか、あるいは、連綿と続けられてきた沖縄社会に対する差別構造を隠蔽するためか。いずれにせよ妄言以外ではない。


■議論を噛み合わせる為に

いいえ、mojimoji氏の主張は私が唱えた前提条件(近い内容をアメリカ側も提示している条件)をまるきり無視していて、会話のキャッチボールがそもそも冒頭から成り立っていません。九州では大型強襲ヘリコプターの台湾海峡有事への即応投入(場合によっては時間単位での対応が求められる)が不可能です。mojimoji氏は敵味方双方に置けるヘリコプターの進化の歴史を理解せず、台湾海峡有事と朝鮮半島有事の作戦上に置ける決定的な違いを理解せず、揚陸艦配備の歴史も使い方も把握しておらず、海兵航空団の固定翼機の運用方法も、ヘリコプターの運用方法も理解していないように見えます。

mojimoji氏の唱える九州移転案は、以上の点で台湾海峡有事への対応に問題点があり、朝鮮半島危機でも現行の沖縄配備と差が見い出せません。そして九州へのヘリコプター部隊移転のみならず地上部隊の移転が可能かと言うと、非現実的な話と言わざるを得ないでしょう。


以上にて「米海兵隊の戦略と沖縄」編を終わります。大変に長くなり過ぎたので、「台湾危機と米軍基地」編と「中国側の識者?」編は後日改めて書く予定です。
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2009年12月30日
鳩山首相が普天間基地のグアム移設を否定した矢先に、今度は小沢幹事長が県外移設を除外するかのように下地島と伊江島を移設候補地に挙げています。

小沢氏が下地島、伊江島に言及 普天間移設先で:共同通信

つまり沖縄県内から外に動かす気は無いという事になります。とはいえ現段階では「言ってみただけ」の提案レベルであり、下地島と伊江島は自民党政権時代にも候補に挙がって見送られた経緯があるので、実現性はまだまだ分かりません。なおこの提案に社民党は拒絶するでもなく検討対象には乗せるとしています。

下地島移設案も検討対象=普天間問題で福島社民党首:時事通信

また下地島への基地移設に関する軍事的問題点は過去記事を参照してください。

(2009/12/23)中国側の予想「普天間基地移設先は沖縄西南部への前進配備となるだろう」

主に防空戦力等の手当てをどうするのかが問題となります。伊江島については沖縄本島と近いのですが、やはり下地島と同じ問題を抱える上に、滑走路が短く延長改修を施す必要があります。

【伊江島】


伊江島には三本の短めの滑走路があり、一番右(画像中央)が民間の伊江島空港、真ん中が補助滑走路、一番左(白くはっきりした線)が海兵隊の訓練用滑走路です。
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2009年12月26日
・・・これまでの騒動はなんだったんだろう?


普天間、グアム移設を否定=「抑止力の点で無理」−鳩山首相:時事通信
鳩山由紀夫首相は26日午後、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先について「現実の中で考えれば、抑止力の観点からみて、グアムにすべて普天間を移設させることは無理があるのではないか」と述べ、米領グアムなど国外移設の可能性を事実上否定した。アール・エフ・ラジオ日本の番組収録で語った。社民党が有力な国外移設先と位置付けるグアムを首相が排除する考えを示したのは初めて。同党の反発も予想される。


翌朝、この発言を無かったように会見しなきゃいいんですが。

さて、社民党はグアムの他に硫黄島を候補に挙げていますが、それは話になりません。台湾までの距離の事もありますが、それ以前にあの島は「自衛隊の秘密基地(※新兵器の試験場という意味)」なので、外国軍の駐留とかは考えられないです。空母艦載機の訓練に一時的に使うぐらいならともかく、常駐とか勘弁して下さい。あそこには見られてはいけないものが山ほど置いてあります。一時期は「硫黄島には密かに評価試験用のハリアー垂直離着陸戦闘機が隠されている」なんて与太話まで流れていたくらいです。信憑性の無い噂話はともかくとして、誰にも見られない事に価値が有る硫黄島が移転候補になることは考えられません。・・・与太話といえば、あの島は自衛隊施設随一の心霊スポットで、旧日本軍の亡霊が頻繁に出没するという噂で有名です。私はそういう心霊現象は信じない性質ですが、実際に出るなら米海兵隊の駐留とか不味いかもですね。

iwojima.png

硫黄島から台湾まで約2000km。グアムよりは若干近いですけど、遠過ぎます。
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2009年12月23日
普天間基地移設問題について、日本側やアメリカ側の見解だけではなく、この方面の仮想敵である中国側の見解を見てみましょう。


普天間問題と日米同盟の行方、中国専門家による分析―中国紙 - レコードチャイナ
2009年12月19日、広州日報は、北京大学国際関係学院の梁雲祥(リャン・ユンシアン)教授と中国社会科学院米国研究所軍事力監視・拡散防止センターの洪源(ホン・ユエン)事務局長のインタビューを掲載、普天間問題と日米関係の今後について占った。

梁教授は、米国の世界戦略において沖縄の基地がきわめて重要な意味を持つと指摘した。また国外に移転すれば日米同盟の存続に影響するため、最終的にははありえず、日本政府の要求に従い、人口密集地の名護市を避け、沖縄西南部の無人島を利用すると予想している。また西南部に移転すれば、台湾および大陸にさらに接近することになり、中国への対抗という米軍の戦略目的にも合致するという。

洪事務局長は、湾岸戦争時に米軍の戦略物資の70%は日本の基地を経由して輸送されたことを挙げ、米軍にとって日本の基地がきわめて重要であると指摘した。そのため米国がアジア太平洋地区を放棄するようなことがない限り、基地の国外移設はありえないと分析している。



複数の中国人専門家が「普天間基地の国外移設は有り得ない」と分析しています。北京大学の梁雲祥教授に至っては「より台湾に近い沖縄西南部への前進配備となるだろう」、とすら予測しています。何故、中国側の分析がこのようになるのかというと、沖縄の軍事的な価値の高さを考えたら、基地の国外移転や県外への後退など有り得ない、もし自分が日本やアメリカの立場だったら絶対にそうする、という考え方をしているからです。

梁雲祥教授の想定している「無人島」が何処なのかは分かりませんが、宮古島や下地島、石垣島や西表島といった人口の少ない島の事を無人島扱いしているのかもしれません。或いは12月9日に日本政府の平野博文官房長官が普天間問題に関連して「極端な話、飛行場周辺の住民の移転という対応もある。」と発言したのを受けて、そういったやり方は中国では定番の手法である為に、強く納得してしまった可能性もあります。

ただし私は梁雲祥教授の主張に異論を唱えます。なぜなら沖縄西南部への前進配備は軍事的に幾つかの問題を抱えており、そういった方向へ話が纏まる可能性は決して高くは無いと予想するからです。

先ず、防空面での心配が有ります。沖縄本島ならば嘉手納基地の米空軍が居り、海兵隊は何もしなくても勝手に彼らが守ってくれるので、実に都合が良いのです。もし海兵隊のヘリコプター部隊だけを西南部へ前進配備した場合、基地の防空をどう考えるかという問題が出て来ます。岩国基地の海兵隊戦闘機部隊も一緒に持ってくるのか、或いは嘉手納基地の空軍戦闘機の一部を持ってくるのか、航空自衛隊の前進配備も含めて検討しなければなりません。

次の問題点としては、基地を設置する島が小さい場合、滑走路と海が接近し過ぎて、機体の整備上、塩害対策など不都合な面があるのと、水中から敵の特殊部隊(フロッグメン)による破壊工作を受け易いという面が有ります。つまり防空だけでなく水際警戒用の一定規模の陸戦用員の駐留も必要という事になって来ます。

つまり普天間基地の機能だけを前進配備する事は出来ません。もし前進させるなら、防空戦力と地上戦力を一緒に持ってくる必要があります。有事の際の緊急着陸用として使うならともかく、航空部隊が常駐するにはリスクに備えた対応策を講じなければならないのです。

【下地島】
19時54分 | 固定リンク | Comment (106) | オスプレイ |
2009年12月21日
普天間基地移設先は沖縄県内でなければならない理由・・・それは、地政学などといった御大層な代物を持ち出すまでもありません。事は単純に「ヘリコプターの航続距離の関係」だからです。

米海兵隊の大型強襲ヘリコプターCH-53E「スーパースタリオン」は2000kmのフェリー航続距離を持ち、戦闘時にはその半分1000km以下の航続距離となります。戦闘行動半径は500km以下、装備状態にもよりますが300〜500kmぐらいです。

それでは先ず台湾海峡有事を想定してみましょう。この際に日本政府は有事法を発動し、真っ先に下地島空港を接収、在日米軍に引き渡します。そして普天間基地の米海兵隊ヘリコプター部隊は、戦況次第で急ぐ必要がある場合は、強襲揚陸艦の到着を待たずに普天間基地から飛び立ち、台湾の首都・台北に直接ヘリボーン降下し、米軍による直接介入を果たします。そして帰りは下地島空港に降りて、燃料を補給して普天間基地に戻ります。普天間-台北-下地島は約1000kmで、これなら空中給油無しで作戦を行えます。

普天間

下地島

下地島上空の航空優勢を完全確保できるようなら、出撃基地として利用できるようになり、輸送能力は大幅に上がります。以上、挙げた作戦計画は台湾海峡有事の際の対応手段の一つに過ぎず、有事となれば必ずこのような運用を行うとは限りませんが、そうなる機会があるならば、即座に台北へ直接ヘリボーン降下できる位置に海兵隊の航空基地がある事の重要性が、理解できると思います。朝鮮半島有事だけを考えれば別に佐賀空港でも構いません。ですが台湾海峡有事を考えるならば、沖縄県内になければ即応投入は出来ません。ヘリコプターは巡航速度が遅い為、遠くから飛んでくると時間が掛かる上、パイロットの疲労の限界も考えれば、空中給油を繰り返して休養も与えずに戦場へ投入するのは可能な限り避けたい所です。例えば湾岸戦争でも米本土からサウジアラビアに緊急移動展開したF-15戦闘機パイロットは、移動後の丸1日を休息として与えられています。その時間すら惜しい場合、常時実戦部隊が駐留している前線基地の存在価値が非常に重要になってきます。

台湾海峡有事の際、開戦初頭に中国の特殊部隊が台湾行政府・軍指揮施設を占拠し、台湾軍の指揮系統を麻痺させ、本隊の侵攻を助けようとする手段に出て来た場合、もし自力で特殊部隊を排除できなければ組織的抵抗を行う事すら困難になります。そういった場合に外から介入できる戦力が用意されていれば、指揮系統を回復できる可能性が生まれるので、手札の一つとして「沖縄の米海兵隊ヘリコプター部隊」の即時介入能力が必要となってきます。


沖縄海兵隊の戦闘部隊、米「移転困難」 (2005年6月30日 読売新聞)
米側の説明は今春、日米の外務・防衛当局の審議官級協議などで伝えられた。それによると、中台有事のシナリオとして、中国軍が特殊部隊だけを派遣して台湾の政権中枢を制圧し、親中政権を樹立して台湾を支配下に収めることを想定。親中政権が台湾全土を完全に掌握するまでの数日間に、在沖縄海兵隊を台湾に急派し、中国による支配の既成事実化を防ぐ必要があるとしている。

数日以内に米軍を台湾に派遣できない場合、親中政権が支配力を強め、米軍派遣の機会を失う可能性が強いと見ているという。

中国は、台湾に対する軍事的優位を確立するため、地対地の短距離弾道ミサイルやロシア製の最新鋭戦闘機を増強したり、大規模な上陸訓練を行ったりしている。ただ、こうした大規模な陸軍や空軍の軍事力を使う場合には、米国との本格的な戦争に発展するリスクが大きい。これに対し、特殊部隊を派遣するシナリオは、大規模な戦闘を避けることで米軍の対応を困難にし、短期間で台湾の実効支配を実現する狙いがあると、米側は分析しているという。


このような特殊部隊だけで全てを完遂する作戦は少し考え難いのですが、主力部隊と呼応しての作戦ならば十分に有り得る事です。例えばソ連のアフガニスタン侵攻は、首都カブールに侵入したソ連特殊部隊「アルファ」によるハフィズラ・アミン議長暗殺から始まっています。これは同盟国の首挿げ替え手術作戦であり、台湾問題とは条件は異なりますが、同様の作戦を中国が行ってくる事を台湾は酷く恐れています。特殊部隊への対応の場合は、戦車や重砲といった大型装備は要らないので、ヘリコプターで輸送できる戦力で何とかなります。沖縄は米陸軍の特殊部隊グリーンベレーも駐留して居るので、海兵隊と共にこういった状況に対応できる戦力が集まっています。

つまり、普天間基地を国外ないし県外へ移転しろという主張は、台湾を見捨てるという主張に繋がります。何年か前、民主党の長島昭久議員のブログのコメント欄がまだ使えていた頃、長島議員が普天間基地のグアム移設を主張していたので、「沖縄の海兵隊は台湾救援用だが、台湾を見捨てるという主張と受け取って良いか?」と聞いてみたのですが、長島議員はそれから突然黙って反応は無くなってしまいました。・・・まぁ、親台湾派として有名になりつつあった長島議員としたら、「はい見捨てます」とは言えなかったんでしょうけれど・・・というより、もしそんな事を言ったら台湾人の独立派に「長島は台湾を裏切ったようだ」と伝える気でしたけどね。

沖縄の海兵隊は日本防衛用では無い?ええ、そうです。勿論、日本有事や朝鮮半島有事の際には沖縄の海兵隊は活用されますが、一番の目的は台湾防衛用です。では日本防衛用の陸上戦力とは?それは、ハワイ駐留の米陸軍第25歩兵師団です。日本の首都・東京は敵国からかなり遠いので、大陸と近い台湾の首都・台北のように一度に大量の特殊部隊を投入する事は困難です。そして敵正規軍の大規模着上陸があった場合、救援戦力は重装備でなければならず、自衛隊が時間稼ぎをしている間にアメリカが大部隊を揚陸艦で輸送してくる手筈となっています。何故日本に陸上戦力の大部隊を駐留させていないか?それは島国だからです。地続きなら韓国のように陸戦部隊を貼り付ける必要性が出てきますが、日本は海を隔てているのでその必要がありません。台湾のように首都が大陸と近すぎるような問題も無いですし。

沖縄の海兵師団は台湾防衛用で、ハワイの陸軍師団が日本防衛用であるという事は、基本事項として抑えておくべき事実です。
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