このカテゴリ「ミサイル防衛」の記事一覧です。(全138件、20件毎表示)

2013年05月03日
イージス艦による弾道ミサイル防衛システム(イージスBMD)は既に複数目標同時撃破を達成済みです。2007年11月6日のFTM-13「ステラーグリフォン」実験でアメリカ海軍のイージス巡洋艦「レイク・エリー」が2発の弾道ミサイル標的を同時に迎撃する事に成功しています。


Aegis BMD (FTM-13) Stellar Gryphon Documentary

The first successful multiple simultaneous engagement involving two short range ballistic missiles.

この実験には日本海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」も長距離監視と目標追跡の訓練で参加しています。迎撃実験そのものはアメリカ海軍イージス巡洋艦「レイク・エリー」だけで目標を捕捉、2発の迎撃ミサイルSM-3ブロック1Aを発射して2目標同時撃破に成功しています。イージスBMDは他に「弾道ミサイル標的と巡航ミサイル標的の同時迎撃」実験も何度か実施しています。なお、イージスBMDの複数目標同時処理能力が最大で幾つになるかは公表されていない機密事項です。SM-3迎撃ミサイルはSM-2と異なり終末誘導用イルミネーターSPG-62を使用しないので、SM-2の最大同時誘導可能数は参考になりません。SM-3の同時誘導数はSPY-1レーダーのパネル1面あたり最低でも2個以上、恐らくはそれ以上あると思われます。(パネル1面あたり4〜12個を同時誘導可能?)

FTM-13 ステラーグリフォン

以上の事実が有る通り、以下の読売新聞の解説記事は間違っています。

Q.弾道ミサイル攻撃への備えは大丈夫なのですか? - 読売新聞
A.ミサイル防衛(MD)システムの中核は、イージス艦から発射される迎撃ミサイルSM3ですが、能力は極めて高いものの、決して万全ではありません。

 挑発を続ける北朝鮮。

 弾道ミサイルの発射に備え、自衛隊はMDシステムを稼働させ、弾道ミサイルを高高度で迎撃するSM3を搭載したイージス艦2隻を日本海に展開したほか、撃ち漏らした場合に備え、地対空ミサイルPAC3を防衛省などに配備しました。

 こうした態勢について安倍首相は「国民の生命と安全を守るため、万全な態勢を取っている」と説明。自衛隊トップの岩崎統合幕僚長も「いかなる事態にも対応できるように、万全な態勢を取っている」と話しています。責任ある立場の2人から「万全な態勢」と聞けば、国民は安心するでしょう。しかし実際は、かなり危ういと言わざるを得ません。

一度に複数のミサイルを追跡できない

 その理由は、イージス艦のレーダー能力です。北朝鮮は2006年7月、スカッドやノドン、テポドン2などの弾道ミサイルを複数の基地から相次いで発射しました。この時にも指摘されましたが、イージス艦は1発の弾道ミサイルの航跡を追跡し、SM3で迎撃することはできますが、一度に複数のミサイルを追跡することはできません。従って、北朝鮮が、日本が配備したイージス艦の隻数よりも多くのミサイルを、同時もしくは連続して発射すれば、迎撃できないミサイルが日本に着弾する可能性があります。

 (調査研究本部主任研究員 勝股秀通) (2013年4月24日 読売新聞)


読売新聞の記事は全くの事実誤認です。
21時30分 | 固定リンク | Comment (135) | ミサイル防衛 |

2013年04月21日
中距離弾道ミサイル「ムスダン」をロフテッド軌道(lofted trajectory; 高く打ち上げた軌道)で日本を狙った場合でも、SM-3ブロック1Aで迎撃可能です。

ムスダン(ロフテッド軌道)
※ピンク色はSM-3ブロック1Aの迎撃可能高度70〜500km。

1.@ノドン(通常軌道)よりBムスダン(ロフテッド軌道)の方が高速で突入して来る。
2.Aムスダン(通常軌道)とBムスダン(ロフテッド軌道)では両者に速度差は殆ど無い。
3.SM-3ブロック1Aは迎撃実験でAムスダン(通常軌道)に相当する標的を撃墜に成功済み。

ここでいう通常軌道は「最小エネルギー軌道」の事で、同じエネルギー量で最も遠くへ飛べる効率の良い経路角の軌道です。逆に言えば同じ射程で最小エネルギー軌道ではない軌道を取る場合、高い弾道でも低い弾道でも、より大きなエネルギー(より大きなミサイル)が必要になります。

同じミサイル、ムスダン同士であるなら通常軌道だろうとロフテッド軌道だろうと速度差は有りません。実験で中距離弾道ミサイル標的を撃墜した実績のあるSM-3ブロック1Aならばロフテッド軌道で飛んで来るムスダンであろうと迎撃する事が可能である事が分かります。

防衛省がSM-3ブロック2Aを開発する目的の一つとしてロフテッド軌道を挙げた理由は幾つか考えられます。

SM-3ブロック2A
※SM-3ブロック2Aの最大射高は1000km(推定)

1.有効射高を上げて弾道頂点付近での迎撃を行いたい。
2.有効射高を上げて水平方向の有効射程範囲も広げたい。
3.ムスダンよりも大きな長距離弾道ミサイルを警戒している。

弾道ミサイルは弾道頂点が最も速度が遅くなるので、この近辺で狙い撃てると迎撃成功率が高まります。また迎撃ミサイルの射高を上げる事で、従来では手を出せなかった種類の弾道ミサイルの飛行領域をも狙えるようになるので、理由としてはこの射程範囲の拡大が大きいでしょう。そしてそもそも防衛省はムスダンとは名指ししていないという点もあります。

■ディプレスト軌道 (depressed trajectory; より低い軌道)

ディプレスド
※SM-3の最低射高は70km。

ロフテッド軌道とは逆の低い弾道のディプレスト軌道でも、弾道ミサイルの速度はより高速にする必要があります。最小エネルギー軌道から外れる軌道である為、エネルギー量を大きくしないと同じ位置に届かないからです。飛行時間も短くなり、高度も低いことで、発見され難くなります。迎撃側のSM-3の大気圏外迎撃体は最低射高の70km未満では使えず、ブロック1Aもブロック2Aも最低射高は同じである為、ディプレスト軌道に対するより有効な迎撃方法は今のところ提案されていません。

迎撃側の対策としては、THAADのように空気抵抗を考慮された砲弾形状の大気圏外迎撃体にして、空気が有る程度存在する高度でも機動可能とし、最低射高を下げる事などが考えられますが、新たに提案する動きが特に見られないので、ディプレスト軌道は現状のSM-3でも十分に対応可能と見られているのかもしれません。
23時47分 | 固定リンク | Comment (167) | ミサイル防衛 |
2013年04月20日
ロッキードマーティン公式動画より、イージス・アショア(地上型イージス)と欧州MDのCG解説動画。


Aegis Ashore


Integrated Air and Missile Defense

地上型イージスの実用型は2年後には欧州に実戦配備される予定です。

1. SM-3ブロック1A(配備中)地中海にイージス艦
2. SM-3ブロック1B(2015年)ルーマニアに地上型イージス
3. SM-3ブロック2A(2018年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス
4. SM-3ブロック2B(2022年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス

欧州MD段階的適応アプローチは4段階目が中止になりましたが、3段階目までは予定通り配備される計画です。
01時50分 | 固定リンク | Comment (42) | ミサイル防衛 |
2013年04月17日
北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ムスダン」に対処する為、アメリカ軍はグアムに弾道ミサイル防衛システム「THAAD」を配備しました。テキサス州フォートブリス陸軍基地からTHAAD1個高射中隊が戦略輸送機によってグアム島アンダーセン空軍基地に運ばれています。

Fort Bliss troops land safely in Guam - KDBC | Local 4 News
※先週11日(木曜日)にフォートブリスからの先遣の人員がグアムに到着。

THAAD Missile Defense Battery Now on Guam at Andersen AFB - Pacific News Center
※先週13日(土曜日)にグアムへ機材が到着、14日(日曜日)にアンダーセン基地でTHAAD発射機を目撃。

THAAD部隊が出発したフォートブリス基地のあるテキサス州エルパソの地元メディアと、展開先のアンダーセン基地のあるグアムの地元メディアしかまだ報じていません。ハワイのアメリカ陸軍太平洋広報官マイケル・ダネリィ大佐によると、THAADのグアム到着・展開期間については作戦上の保安の繊細な問題である為に、詳細は述べられないとの事です。北朝鮮への刺激を避ける意図が有るのかもしれません。グアム州知事は15日(月曜日)にTHAAD到着を認めています。

軍側はまだ何も公表しておらず、映像や写真もまだ発表はありません。
20時56分 | 固定リンク | Comment (64) | ミサイル防衛 |
2013年04月10日
北朝鮮が日本海側に中距離弾道ミサイル「ムスダン」を準備して威嚇を繰り返している中、日米韓でイージス艦を2隻ずつ出して合計6隻が警戒の為に展開していましたが、8日に横須賀港からアメリカ海軍第7艦隊のイージス巡洋艦「シャイロ―」が出港し、9日に韓国海軍も1隻追加し保有するイージス艦3隻を全て投入。この海域で弾道ミサイル対応で展開しているイージス艦は日本×2隻、アメリカ×3隻、韓国×3隻で合計8隻になっています。

2013年4月10日

日本「こんごう」「きりしま」
米国「ジョン・S・マケイン」「ディケーター」「シャイロ―」
韓国「世宗大王」「栗谷李珥」「西獄成龍」

この配置図は弾道ミサイル警戒任務に就いたイージス艦のみ示しています。なお韓国海軍のイージス艦は大気圏外迎撃ミサイルSM-3を搭載していません。参考までに去年の4月と12月に行われた銀河3号(テポドン2改造)打ち上げの際の日米韓のイージス艦配備状況と比較してみます。

2012年4月13日 2012年12月12日

2012年4月13日・・・イージス艦12隻(日本3隻、米国7隻、韓国2隻)
2012年12月12日・・・イージス艦10隻(日本3隻、米国4隻、韓国3隻)
2013年4月10日・・・イージス艦8隻(日本2隻、米国3隻、韓国3隻)

※2013年4月10日現在、この他にハワイからイージス艦「チャン・フー」が西進中。横須賀のイージス艦「フィッツジェラルド」がグアム方面へ向かった可能性。また5ヶ月間の中東展開を終えて本国へ帰還中の空母ステニスと護衛のイージス艦が西太平洋を通過中であるものの、対北朝鮮弾道ミサイル警戒任務には就いていない模様。海上配備型Xバンドレーダー「SBX-1」は北朝鮮対応配備が報道されたものの当局が否定、現在ハワイから出ているものの動向不明。弾道ミサイル追跡艦「オブザベーション・アイランド」は日本付近に居る可能性が高い。
20時31分 | 固定リンク | Comment (131) | ミサイル防衛 |
2013年04月09日
4月8日の海上航空宇宙展示会「シーエアスペース2013」での発表によると、アメリカ海軍は艦載レーザー砲計画を2年早めて2014年会計年度に艦船に搭載して配備することになりました。ペルシャ湾に暫定的な海上前進中間準備基地(AFSB)として配備されている元・ドック揚陸艦「ポンス」です。最前線に居る艦に搭載する事になります。

Navy Leaders Announce Plans for Deploying Cost-Saving Laser Technology - U.S.Navy

Office of Naval Research(アメリカ海軍研究所)の公式動画より、艦載型の固体レーザー砲(SSL; Solid State Laser)の試験。イージス駆逐艦「デューイ」のヘリコプター甲板に開閉式ドームを持つ固体レーザー砲を設置。


Solid-State Laser


Solid-State Laser Animation

この動画の兵器は小型ボートと無人機を撃墜する目的のもので、出力は高いものではありません。最終的には更に大出力のものを搭載し、対艦ミサイルの撃墜を目指します。

固体レーザー砲(2012) 固体レーザー砲(2012)
22時55分 | 固定リンク | Comment (83) | ミサイル防衛 |
2013年04月04日
北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射する動きに備えて(最新の情報では中距離弾道ミサイル「ムスダン」2基)、アメリカ軍はグアムへTHAADを前倒しで配備します。本来は2015年配備予定でしたが、数週間以内にテキサス州フォートブリス基地からTHAAD高射隊がグアムへ前方展開します。

Department of Defense Announces Missile Defense Deployment - U. S. Department of Defense


Thaad Flight Test 10(2009年3月のTHAAD迎撃実験を解説)

トリポリ-EX
※標的ミサイル発射台(退役揚陸艦トリポリ)
08時30分 | 固定リンク | Comment (71) | ミサイル防衛 |
2013年03月19日
15日のアメリカのヘーゲル国防長官の発表で弾道ミサイル防衛システムについて、アメリカ本土防衛用の地上配備迎撃ミサイル「GBI」を14基追加配備する事と、欧州ミサイル防衛の第4段階である迎撃ミサイル「SM-3ブロック2B」が開発凍結される事が分かりました。

Missile Defense Announcement
As Delivered by Secretary of Defense Chuck Hagel, The Pentagon, Friday, March 15, 2013
http://www.defense.gov/speeches/speech.aspx?speechid=1759

・ GBIを14発追加配備(アラスカ州フォート・グリーリー基地)
・ 日本に前方展開用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」を追加配備
・ 新たなGBI配備基地の環境影響調査(アメリカ東海岸を検討)
・ SM-3ブロック2B計画を再構成(欧州ミサイル防衛第4段階)

○地上配備迎撃ミサイル「GBI」とは

「GBI」とはグランド・ベースド・インターセプターの略で、地上配備迎撃ミサイルとはその直訳です。よく地上に配備される迎撃ミサイル全般の事だと誤解されますが、実際にはGBIというミサイルの固有名です。GBIは大陸間弾道ミサイルを大気圏外で撃墜する為の3段式大型迎撃ミサイルで、全長約17m、重量約13トンという大きなもので、固定サイロ発射式です。

GBI
※米ミサイル防衛局より輸送中のGBI。この後、固定サイロに装填される。

現在アラスカ州のフォート・グリーリー基地およびカリフォルニア州のヴァンデンバーグ基地に30基配備されていて、今回の決定で14基追加配備され合計44基になります。追加配備には総額10億ドル(約950億円)を掛ける事が予定されています。GBIの弾頭部分である大気圏外迎撃体(EKV)は新設計の「CE2 EKV」が搭載されます。

GBIの増強は、アメリカ国防省が北朝鮮の新型長距離ミサイル「KN-08」を道路移動式の実戦的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)と認識し、実用化される前に先手を打って脅威に対抗する為のものであると説明されています。


○欧州ミサイル防衛第4段階「SM-3ブロック2B」とは

対イラン用の欧州ミサイル防衛はブッシュ政権時代の計画では迎撃ミサイルにGBI小型版(2段式)を使う計画でしたが、オバマ政権は4年前の1期目就任直後に迎撃ミサイルをSM-3に変更していました。オバマ政権の欧州ミサイル防衛構想はPAA(Phased Adaptive Approach; 段階的適応アプローチ)という4つの段階に分けられ、現在はその第1段階にあります。

1. SM-3ブロック1A(配備中)地中海にイージス艦
2. SM-3ブロック1B(2015年)ルーマニアに地上型イージス
3. SM-3ブロック2A(2018年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス
4. SM-3ブロック2B(2022年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス

イージス艦や地上型イージスの他に、トルコへ前方展開用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」を配備しています。

SM-3は日米共同開発のブロック2Aで直径が53cmに拡大され(ブロック1Aと1Bは直径35cm)、性能が大幅に上がります。そしてブロック2Bは直径を69cmに拡大、液体燃料を採用し、更なる性能アップを図る予定でした。SM-3ブロック2Bはイランからアメリカ本土へ向かうICBMを欧州の付近で撃墜する目的で計画され、当初は2020年に配備予定でしたが、現在は2022年予定と計画は遅れ気味でした。そもそもまだ本格的な開発には入れていませんでした。

SM3ブロック2B
※米ミサイル防衛局よりSM-3開発計画。書かれている年表より実際は数年遅れている。

SM-3ブロック2Bは日本に配備する予定は無く、配備予定の欧州にとっても欧州防衛には関係が無く(欧州防衛にはSM-3ブロック2Aで十分)、SM-3ブロック2Bはアメリカ防衛用の迎撃ミサイルです。開発が凍結されても日本と欧州には影響は出ません。配備の話は出ていませんでしたが、ICBM迎撃を目指すオーストラリアにとっては影響があるかもしれません。

オバマ政権は1期目の発足時に示したミサイル防衛の方針(GBIの増強を中止し、SM-3に注力する)を、2期目の今となって一部修正することになりました。GBIの増強を再開し、SM-3の一部開発を凍結してリソースをGBIに振り向ける事にしました。それはイランが核弾頭を搭載したICBMを実用化するよりも、北朝鮮が先に核弾頭付きICBMを実用化する方が早いと判断した為です。SM-3ブロック2Bは開発が順調だったとしても配備は2022年以降になりますが、GBIの追加配備は2017年までに完了する予定です。アメリカ国防総省は、北朝鮮の核兵器の小型化と長距離弾道ミサイルの開発が現実の脅威になり得ると認識しています。
21時48分 | 固定リンク | Comment (104) | ミサイル防衛 |
2013年03月13日
3月6日、フランス軍とイタリア軍は合同演習でSAMP/T地対空ミサイルシステム(SAMP/T; Sol-Air Moyenne Portée Terrestre)による弾道ミサイル迎撃を実施しました。フランスのランド県ビスカロッス射爆場で射程300km級の短距離弾道ミサイル標的を撃墜する事に成功しています。

First European theatre missile interceptor system achieves NATO interoperability - NATO HQ (press release)


First European interceptor passes military defence test

命中直前に迎撃ミサイルのサイドスラスターを断続的に吹かしている様子が確認出来ます。

使用された迎撃ミサイルは「アスター30 Block1」です。標的ミサイルはイスラエル・ラファエル社製の空中発射標的「ブラックスパロー」であり、空中発射母機のF-15戦闘機はイスラエル空軍機に参加して貰っています。今回の試験で迎撃ミサイルを発射したのはイタリア陸軍第四砲兵連隊です。


【関連記事】
(2012年04月26日)スパロー標的ミサイル(空中発射式弾道弾模擬標的)
(2012年12月29日)フランスの弾道ミサイル防衛アスターBlock2
17時21分 | 固定リンク | Comment (107) | ミサイル防衛 |
2013年03月10日
2007年1月11日に中国が人工衛星破壊実験の標的に使った気象衛星「風雲1号C」のスペースデブリが、6年の時を経て遂にロシアの小型衛星「ブリッツ(Блиц)」に衝突しました。

ロシアの衛星、中国の気象衛星「風雲1号C」由来のデブリと衝突 - sorae.jp


Chinese space debris collides with Russian satellite BLITS

6年前は以下の通りでした。

JAXA|風雲1号Cのデブリについて(2007年2月7日)


2007 - Chinese anti-satellite missile test

破片が直ぐ地上に落ちて来る弾道ミサイル迎撃実験と違い、衛星破壊実験で生じるスペースデブリはとても長い期間を軌道に留まり続ける為に、大変に厄介な代物となってしまいます。
01時42分 | 固定リンク | Comment (110) | ミサイル防衛 |
2013年02月26日
25日、イスラエル国防省は弾道ミサイル防衛システムの大気圏外迎撃ミサイル「アロー3」の飛行テストを実施して成功させたと発表しました。イスラエル国防省公式YouTubeチャンネル IsraelMoDonline に実験の様子が動画で投稿されています。アロー3が宇宙空間まで到達している様子が映っています。


יווט בחלל: משרד הביטחון מציג תיעוד ניסוי הטיסה של חץ 3

2分5秒以降、宇宙空間まで到達したアロー3の運動エネルギー弾頭から、切り離されたロケット部分が落ちて行く様子がカメラで撮影されています。

また2分25秒以降に始まるCG部分で、新たな事実が分かりました。これまで兵器見本市で公開されてきた模型やIAIの解説動画ではアロー3の運動エネルギー弾頭にはサイドスラスターが付いておらず、推力偏向ノズルのみで機動するものと思われてきましたが、新たに公開された動画のCG解説部分でアロー3は運動エネルギー弾頭の後端部分に姿勢制御用のサイドスラスターを持っている事が分かりました。

軌道修正用サイドスラスター・推力偏向ノズル

運動エネルギー弾頭
※アロー3型運動エネルギー弾頭

運動エネルギー弾頭
※DACS型運動エネルギー弾頭
  
アメリカ軍の運動エネルギー弾頭はDACS(Divert and Attitude Control System:軌道修正・姿勢制御装置)と呼ばれる方式です。DACSは軌道修正用サイドスラスター(重心部分に設置されてスライドする動きを行う)と姿勢制御用サイドスラスター(後端に設置されて向きを変更する)の2種類のサイドスラスターを組み合わせたもので動きますが、イスラエル軍のアロー3はDACSとは異なり、軌道修正に推力偏向ノズル、姿勢制御にサイドスラスターを用いる方式のようです。推力偏向ノズルでも姿勢制御は可能ですが、細かい調整用にサイドスラスターを用いているのだと思われます。特に首振り式赤外線シーカーの首を振れる方向が限定されているので、姿勢制御用サイドスラスターで弾頭全体を回転させる事で全周を確認する必要がある為でしょう。


הדמיה: כך נראה הניסוי המוצלח של מיירט חץ 3

アロー3の製造工場の様子と試験場への輸送まで。


3 משרד הביטחון: ניסוי טיסה מוצלח של מיירט חץ

2011年の発射テストの様子。

関連記事:(2012年4月23日)「アロー3ミサイル防衛システム」
※アロー3の運動エネルギー弾頭の特性に付いて解説。軌道修正用サイドスラスターでスライド移動するDACSは細かい位置調整が得意なのに比べて、推力偏向ノズルのアロー3は急激な軌道変更が可能。
19時26分 | 固定リンク | Comment (101) | ミサイル防衛 |
2013年02月24日
弾道ミサイル防衛システムの前方警戒用として日本に配置される2基目のXバンドレーダーを、京都府京丹後市の航空自衛隊経ケ岬分屯基地に配備する方針である事が分かりました。既に青森県つがる市の航空自衛隊車力分屯基地に配備済みの車載移動式Xバンドレーダー「AN/TPY-2」と同じものが予定されています。探知距離は約1000kmです。 

京都に米軍高性能レーダー=北朝鮮ミサイル対応、年内めど−国内2基目・日米 - 時事通信社


日米両政府、米軍レーダーを京都沿岸部に追加配備する方針固める(13/02/24) - FNN

日本配備Xバンドレーダー

AN/TPY-2の経ケ岬配備は東京防空に適した前方展開となります。太平洋側に配置したイージス艦のリモート射撃に利用できるので、将来的には横須賀に停泊したままのイージス艦が自艦のレーダーを使わずにエンゲージ・オン・リモートによる迎撃ミサイル発射を行う事も出来るようになります。また日本海にイージス艦が前方警戒に出るのが間に合わない場合でも補完出来るようになるでしょう。

(2013/02/16)ローンチ・オン・リモートとエンゲージ・オン・リモート
 ※前方展開レーダーとイージス艦の連携によるリモート射撃の解説

また経ケ岬は、北朝鮮からハワイやグアムに弾道ミサイルを発射する場合の射線の中央に位置するので、どちらも探知する事が可能です。北朝鮮の北東からハワイに向けて発射されると探知は難しくなりますが、グアム行きならば何処から発射されても探知が可能です。車力からだとグアム行きは探知が困難なので、経ケ岬に配備されるレーダーは主に日本とグアムを防空する為の前方配備警戒用という事になります。

(2012/12/31)直径27インチ、液体燃料、SM-3ブロック2B
 ※SM-3ブロック1AとSM-3ブロック2Aはグアム行き弾道ミサイルを迎撃可能。SM-3ブロック2Bは…


ところでXバンドレーダーに付いて、車載移動式Xバンドレーダー「AN/TPY-2 (探知距離1000km)」と海上移動式Xバンドレーダー「SBX (探知距離4000km)」を混同するケースがよく見受けられますが、両者は大きさが全く異なり、探知距離に大きな差があります。レーダー探知距離は正確な数値が発表されているわけではないので推定の部分が多いのですが、AN/TPY-2は車載移動式なので数十トンなのに対し、SBXはプラットフォームを含めて排水量5万トン、レーダー部分のみで数千トンに達するので、同列に扱えるような存在ではありません。単に「Xバンドレーダー」といっても様々な種類があり、気象レーダーや警察の自動車速度違反計測レーダーでもXバンドを使うので、混同に気を付けてください。

[PDF] AN/TPY-2 Army Navy/Transportable Radar Surveillance – Model 2 - Raytheon

[PDF] Sea-Based X-Band Radar (SBX) - Raytheon
14時15分 | 固定リンク | Comment (193) | ミサイル防衛 |
YouTube「AegisBMD」で、STSS追跡衛星を用いたローンチ・オン・リモートによるSM-3発射を行った弾道ミサイル迎撃実験FTM-20「ステラーアイズ」のPV動画がUPされていました。


Aegis BMD Stellar Eyes (FTM-20) Flight Mission Success Quicklook

STSS追跡衛星とローンチ・オン・リモートに付いては過去記事を参照。

(2013/02/14)宇宙追跡監視システムSTSSとイージスBMDによる弾道ミサイル迎撃実験に成功
(2013/02/16)ローンチ・オン・リモートとエンゲージ・オン・リモート

FTM-20
宇宙追跡監視システムデモンストレーター「STSS-D」

FTM-20
ハワイから発射された標的ミサイルをSTSS-D追跡衛星で探知・追跡、アメリカ本土のC2BMC(指揮統制・戦闘管理・通信システム)を経由して、ハワイ北西海域に居るイージス艦へデータリンク

FTM-20
四角い灰色は恐らく演習海域
08時31分 | 固定リンク | Comment (22) | ミサイル防衛 |
2013年02月16日
弾道ミサイル防衛システムではローンチ・オン・リモート(Launch on Remote; LOR)とエンゲージ・オン・リモート(Engage on Remote; EOR)という技術が重要になります。どちらも前方に展開した別のレーダーからの敵目標の情報をデータリンクして、迎撃範囲を大きく広げる効果があります。

弾道ミサイル防衛リモートセンシング

これは米ミサイル防衛局の資料から欧州MDイージス・アショア(地上型イージス・システムとSM-3)の概念図です。自己のレーダーのみの基本的な状態(オーガニック)、ローンチ・オン・リモート、エンゲージ・オン・リモートでそれぞれ迎撃可能範囲が大きく違う事が分かります。同時可能対処数も大きく変わって来ます。(※この図はあくまで概念図であり、描かれてある迎撃ミサイルの射程範囲や同時可能対処数は正確なものではなく実際とは異なります。)

弾道ミサイル防衛システムのSM-3ブロック1Aは最大射程1200km、改良型のSM-3ブロック2Aはそれ以上の射程を持ちます。これはイージス艦のレーダー最大探知距離1000km(弾道ミサイル探知の為にレーダー出力を1つのパネルに集中させた場合)を上回っています。

■Organic
弾道ミサイル防衛

自己レーダーのみの場合、レーダー捜索範囲に敵弾道ミサイルが入り込んできてから弾道を計算し、迎撃ミサイルを発射します。敵弾道ミサイルが速ければ速いほど奥に入り込まれてしまい、迎撃可能範囲が狭まってしまいます。仮にレーダー探知距離を1000kmとすると迎撃範囲は半径数百kmまで落ちてしまいます。迎撃ミサイルの射程が1000km以上あろうとも生かすことは出来ません。

■Launch on Remote
弾道ミサイル防衛ローンチ・オン・リモート

ローンチ・オン・リモートは前方展開レーダーからの情報をデータリンクして、自己レーダーが目標を捉えていない段階で迎撃ミサイルを発射します。敵弾道ミサイルの予想される位置へ迎撃ミサイルを飛行させておいて、自己レーダーが目標を捉えてから迎撃ミサイルを誘導します。前方展開レーダーから情報を得る事で迎撃ミサイル発射のタイミングを前倒し、迎撃可能範囲を広げる事が出来ます。ただし命中させるには自己レーダーで目標を捉える必要があります。これまでイージス艦のSM-3ブロック1Aは前方展開レーダーAN/TPY-2やSTSS赤外線追跡衛星からの情報でローンチ・オン・リモートする迎撃実験を実施済みです。

■Engage on Remote
弾道ミサイル防衛エンゲージ・オン・リモート

エンゲージ・オン・リモートは迎撃ミサイルの発射のみならず、命中させるための誘導も前方展開レーダーの情報で行う事が出来る方法です。これにより自己レーダーの探知距離を上回る射程を持つ迎撃ミサイルの性能をフルに発揮する事が可能になります。射程が非常に長いSM-3ブロック2Aからこの方式が前提となるので、イージス・システムにはこの能力が与えられる事になります。

■Networked Remote Sensing: Key to Effective Missile Defense
弾道ミサイル防衛ローンチ・オン・リモート

ローンチ・オン・リモートの解説です。トルコに置いた前方展開レーダー(AN/TPY-2, 車載移動式Xバンドレーダー)からのデータを地中海のイージス艦に送り、迎撃を支援しています。PTSS衛星(STSSの簡素型)の赤外線センサーによる追跡データも受けています。ローンチ・オン・リモートである為に迎撃範囲はイージス艦の自己レーダー(AN/SPY-1)の探知範囲内になります。


2012_Misc_ConfVideo_Part2.wmv ※3分20秒頃からの解説部分

AN/TPY-2やPTSSからのデータリンクで前以て情報を得る事で、イージス艦が自己レーダーの限界まで迎撃範囲を広げて、弾道ミサイルを撃ち漏らさないようにする事が可能になります。


参考資料: Bonnie W. Young "Future Integrated Fire Control" Northrop Grumman
10th International Command and Control Research and Technology Symposium
[PDF] Future Integrated Fire Control - ICCRTS 2005
※IFC (Integrated Fire Control) Variants の図を参照。

関連資料: 「クラウドシューティング 統合火器管制による射撃」 防衛省技術研究本部(TRDI)
[PDF] 将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン 〜将来の戦闘機に必要な技術〜
※将来戦闘機コンセプト「クラウドシューティング」を参照。

ローンチ・オン・リモートやエンゲージ・オン・リモートが更に進化すると、複数の警戒ユニット・迎撃ユニットが高度なネットワークで繋がってデータが共有され、複数の警戒ユニットが目標を捉えたデータは統合され、最適な位置に居る迎撃ユニットに射撃が指令されます。 Preferred Shooter Determination (好ましい射手の決定)、防衛省TRDIではこれをコンピュータネットワークになぞらえて「クラウドシューティング」と呼んでいます。
01時30分 | 固定リンク | Comment (150) | ミサイル防衛 |
2013年02月14日
米ミサイル防衛局は、宇宙追跡監視システムデモンストレータSTSS-Dからデータを受けたイージス巡洋艦「レイク・エリー」から発射されたSM-3ブロック1A迎撃ミサイルにより準中距離弾道ミサイル級標的を撃墜し、迎撃実験FTM-20を成功させたと発表しました。

February 13, 2013 Missile Defense Agency
Aegis Ballistic Missile Defense Intercepts Target Using Space Tracking and Surveillance System-Demonstrators (STSS-D) Data


2013 Aegis FTM 20

STSS-Dとは Space Tracking and Surveillance System Demonstration の略で、STSS(宇宙追跡監視システム)のデモンストレータ(運用実証試験機)です。STSSは以前はSBIRS-Lowと呼ばれていたもので、空軍から開発計画がミサイル防衛局に移管されています。SBIRSとは Space-Based Infrared System の略で、「宇宙配備赤外線システム」となります。SBIRSは静止軌道(GEO)と長楕円の高軌道(HEO)に早期警戒衛星を配備して弾道ミサイルの初期探知を行う衛星で、従来の早期警戒衛星(DSP衛星)を置きかえる計画です。そして低軌道(LEO)にSTSS衛星を配備するのですが、STSSは通常の早期警戒衛星と異なります。早期警戒衛星が弾道ミサイルのブースト(ロケットモーター燃焼中)段階に置ける高熱源を探知するものであるのに対し、STSSは捜索用と追跡用の2種類の赤外線センサーを持ち、追跡センサーではブースト終了後の弾道ミサイルを追い掛ける事が出来るのです。低軌道から宇宙空間を背景にして、燃焼終了後の温度の低い熱源となった弾道ミサイルでも捉える事が出来ます。

STSSイメージ

現在、SBIRS及びSTSSは6基が打ち上がっています。

GEO-1(USA-230、2011年)
HEO-1(USA-184、2006年)
HEO-2(USA-200、2008年)
STSS-ATRR(USA-205、2009年)
STSS-D1(USA-208、2009年)
STSS-D2(USA-209、2009年)

2013年にはGEO-2が打ち上げられる予定です。STSS-ATRRは技術実証試験機、STSS-Dは運用実証試験機です。


Space Tracking and Surveillance System (STSS): Timeline

なおミサイル防衛局ではSTSS衛星を簡素化したPTSS衛星を計画中です。 Precision Tracking Space System(精密追跡宇宙システム)は捜索センサーを省略し、追跡センサーのみとします。目標捜索はSBIRS早期警戒衛星に任せて、PTSSは中間コースを飛翔する弾道ミサイルの追跡に専念します。

Precision Tracking Space System - The Missile Defense Agency
06時00分 | 固定リンク | Comment (51) | ミサイル防衛 |
2013年02月12日
北朝鮮による核実験の実施情報について | 首相官邸ホームページ http://www.kantei.go.jp/jp/northkorea_nuclear201302/index.html

本日、北朝鮮が3回目の地下核実験を行いました。核実験特有の人工地震波が周辺国で観測され、そして北朝鮮自身が核実験の実施を宣言しています。

揺れの規模、09年の2倍=核実験監視機関 | 時事通信社
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013021200945

包括的核実験禁止条約機構準備委員会は揺れの規模を、2009年5月25日に北朝鮮が行った2回目の核実験(推定4キロトン)の際の2倍の規模だったと発表しています。


自衛隊機が放射線調査 北朝鮮の核実験で大気のちり分析

事前に噂されていたKN-08長距離弾道ミサイルの試射は行われなかったようです。
12時47分 | 固定リンク | Comment (174) | ミサイル防衛 |
2013年01月29日
中国は1月27日、地上配備型中間コース弾道ミサイル迎撃実験を行い成功させたと発表しました。大気圏外での迎撃実験であり、3年前にも同様の実験を行っています。今回は直前に「中国が衛星破壊実験を今月中に行うらしい」という報道が各所から流れていましたが、実際はこの弾道ミサイル迎撃実験の事だったようです。人工衛星破壊実験と異なり弾道ミサイル迎撃実験は標的が弾道軌道を描くので、破壊されてもスペースデブリ(周回軌道への破片の拡散)にはなりません。

中国再试陆基中段反导拦截 相关技术走在世界前列 - 人民网


mid-course missile interception test 今日新疆博湖县现漩涡状蓝色不明飞行物

中国政府は実験の様子を公開しませんでしたが、1月27日夜8時頃、中国の新疆ウイグル自治区に居た民間人が偶然に迎撃実験の様子らしきものを撮影しています。緑色の光の渦が見えますが、似たような現象はこれまでも夜間に弾道ミサイル発射試験を行った時にも目撃される事がありました。この動画の光が標的の弾道ミサイルなのか迎撃のミサイルなのか、一体どういう様子なのかはこれだけでは判別出来ません。

これまで大気圏外で弾道ミサイルを迎撃する実験を行った国は、アメリカ(GBI、SM-3、THAAD)、日本(SM-3)、ロシア(S-400 "40N6E")、インド(PAD: プリトビ防空型)、そして中国(形式不明)がこれに続きます。イスラエル(アロー3)は近日中に大気圏外迎撃実験を行う予定で、フランス(アスターBlock2)は数年後の予定です。 ※ロシアは実際に実験したか非公表で詳細不明、インドのPAD(プリトビ防空型)は実験はしたものの実用的ではない為、中国の報道ではこの二つをカウントしていない場合が見受けられます。

中国が2010年と今回行った大気圏外での迎撃実験は、一体どういう迎撃ミサイルを使ったのか、迎撃高度などの条件も一切公表されていません。仮にインドのPADと同様の技術レベルならば、実用化までは長い道程の半ばという事になりますが、中国が本格的な弾道ミサイル迎撃技術を取得しようと目指している事は確かなようです。
06時20分 | 固定リンク | Comment (218) | ミサイル防衛 |
2012年12月31日
イージス艦に搭載する弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイル「SM-3」は、現行型のSM-3ブロック1Aが最大射程1200km、迎撃高度500km、秒速4kmの性能を持ちます。改良型のSM-3ブロック1Bはミサイルのサイズはそのままで弾頭部分が改良され、目標識別能力が増し、交戦可能範囲が広がりました。日米共同開発中のSM-3ブロック2Aはミサイル直径が拡大され(13.5インチ→21インチ)、大幅な性能向上が見込まれています。その次のSM-3ブロック2Bは詳細が不明でした。この型番はブッシュ大統領の時代にはMKV(多弾頭迎撃体)を搭載する計画に付けられていましたが、現在のオバマ大統領によって緊急性が低いMKVは後回しにされて、ブロック2Bは第3段ロケットモーターを改良して射程を延伸しただけの型になるとされていました。

しかし新たにMDA(ミサイル防衛局)は、SM-3ブロック2Bに大胆な改設計を施し、ICBMと交戦可能な性能に高める提案をしています。概念設計の提案の段階でまだ決定ではありませんが、それはブロック2Aから原形を留めておらず、もはや別のミサイルになっています。

SM3ブロック2B
※米ミサイル防衛局よりSM-3開発計画。書かれている年表より実際は数年遅れている。

SM3ブロック2B

SM-3ブロック2B
・軽量キルビークル
・直径27インチ(68.58cm)
・高性能液体式上段ロケット
・Mk.41VLSを改造して搭載
・大直径ブースター

MK.41VLSは本来は21インチ(53.34cm)までが搭載できる最大の直径です。27インチではそのまま入らず、1モジュール8セルのところを6〜5セルにしてモジュールごと入れ替えて収める方針です。議会の公聴会では1モジュール5セルという数字が提案されていたのを確認しました。この直径の拡大で弾体の体積は1.65倍になります。上段ステージに固体燃料より比推力の高い液体燃料を採用する事で飛躍的な性能アップも見込めます。代わりに液体燃料の注入・排出の管理が面倒になるので、VLSの設計と合わせて艦載は諦めてヨーロッパ向けの地上配備型のみに採用するのかとも思いましたが、MDAの資料にはイージス艦に搭載すると受け取れる表現もあり、よく分かっていません。弾頭の大気圏外迎撃体を軽量化するのは、飛翔速度を上げて交戦可能範囲を広げる為です。

SM-3ブロック2Bは、限定的ながら上昇中のICBMを迎撃出来る性能を持っています。

ミサイルコース

日本はSM-3ブロック2Aまで配備する事を決定しています。SM-3ブロック2Aは日本付近に配備したイージス艦からグアムを防衛する事が可能です。配置次第ではSM-3ブロック1Aでも迎撃可能です(北朝鮮からグアムまで約3400km、この射程に相当する中距離弾道ミサイルをSM-3ブロック1Aは実験で撃墜成功済み)。日本近海からハワイを防衛するのはSM-3ブロック2Aでも困難ですが、SM-3ブロック2Bなら迎撃が可能になります。上昇中のICBMを狙う事が出来るSM-3ブロック2Bは、アメリカ本土やオーストラリアに向けて放たれる長距離弾道ミサイルすら迎撃を試みる事が出来るかもしれません。ただしハワイやオーストラリア向けはともかく、アメリカ本土向けの弾道ミサイルは日本付近から迎撃するのはコース的に少し無理があります。それでもSM-3ブロック2Aでは不可能だったアメリカ本土向けICBM迎撃が、SM-3ブロック2Bならばイージス艦の配置次第で行う事が出来ます。

日本の集団的自衛権の論議はこれまで「SM-3ではアメリカ本土行きの弾道ミサイルは迎撃できない(グアム行きは迎撃できる)」というのが前提でしたが、もしSM-3ブロック2Bを日本が配備するような事になった場合、前提を考え直す必要が出て来るかもしれません。
01時02分 | 固定リンク | Comment (195) | ミサイル防衛 |
2012年12月30日
かつてアメリカとソ連はABM条約(Anti-Ballistic Missile Treaty,弾道弾迎撃ミサイル制限条約)を結んでいました。これは戦略弾道ミサイルを迎撃する対空ミサイルを一定の数量に制限するもので、1972年に発効し、2002年にアメリカが脱退して無効化しています。条約が締結された当時の迎撃ミサイルは精度の問題から弾道ミサイルを相手に直撃は期待できず、核弾頭を用いていました。

ABM条約は「戦略弾道ミサイル」を迎撃する対空ミサイルを制限するものでしたが、アメリカもソ連も戦略弾道ミサイルの定義をはっきりと決めていませんでした。ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)は間違いなく該当しますが、SRBM(短距離弾ミサイル)は戦術弾道ミサイルとされて迎撃は全く制限されていません。グレーゾーンとなったのはIRBM(中距離弾道ミサイル)でしたが、アメリカもソ連も1988年にINF条約(The Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty,中距離核戦力全廃条約)でIRBMを全廃する事になり、両国はお互いにこの点に付いて悩む必要が無くなりました。第三国の発射する中距離弾道ミサイルを迎撃する事を認め、なおかつABM条約に触れないように「IRBMは迎撃出来るがICBMの迎撃は困難」という性能の迎撃ミサイルを細かく決める事にしました。ソ連は崩壊しロシアへ変わった後、アメリカとロシアは1997年に合意に至りましたが、その後にアメリカは考えを変えて当時のクリントン大統領は議会に提出せず、後任のブッシュ大統領が2002年にABM条約を脱退を決めて、1997年の合意も発効されませんでした。

ABM条約はあと少しで、IRBM以下を迎撃目標とする戦域ミサイル防衛(TMD,Theater Missile Defense)を認める内容が追記される予定でした。TMDは二大国間の核抑止力と無関係で、通常弾頭を用いていたので使い易く、厳格に制限する必要が全く無かったのです。

そこで幻となった米露1997年ABM/TMD線引き合意に付いて紹介しておきます。Anti-Ballistic Missile (ABM) Treaty: Acq.osd.mil より。

ABM Treaty: 1997 First Agreed Statement
(a) the velocity of the interceptor missile does not exceed 3 km/sec over any part of its flight trajectory;
(b) the velocity of the ballistic target-missile does not exceed 5 km/sec over any part of its flight trajectory; and
(c) the range of the ballistic target-missile does not exceed 3,500 kilometers.

1997年最初の合意では、(a) 迎撃ミサイルの速度は秒速3kmまでとする。(b) 標的の弾道ミサイルは秒速5kmまでのものとする。(c) 標的の弾道ミサイルの射程は3500kmまでのものとする。…といった制限が加えられています。

ABM Treaty: 1997 Second Agreed Statement
a) the velocity of the ballistic target-missile will not exceed 5 km/sec over any part of its flight trajectory; and
b) the range of the ballistic target-missile will not exceed 3,500 kilometers.

1997年二回目の合意では「迎撃ミサイルの速度は秒速3kmまでとする。」という項目が外されました。宇宙空間用の迎撃ミサイルは秒速3kmを超える事を考慮したいと、双方が話し合った結果です。

ABM Treaty: 1997 Agreement on Confidence-Building Measures
1. Systems subject to this Agreement shall be: for the United States of America -- the Theater High-Altitude Area Defense (THAAD) System and the Navy Theater-Wide Theater Ballistic Missile Defense Program, known to the other Parties by the same names; for the Russian Federation -- the S-300V system, known to the United States of America as the SA-12 system; for the Republic of Belarus -- the S-300V system, known to the United States of America as the SA-12 system; for Ukraine -- the S-300V system, known to the United States of America as the SA-12 system; and other systems as agreed upon by the Parties in the future.

この1997年合意で指定されている迎撃ミサイルはアメリカ側がTHAAD、海軍TMD(SM-3のこと)、ロシア側はS-300V(NATO名称; SA-12)です。保有する迎撃ミサイルの性能や数量をお互いに開示する事や、迎撃試験を行う時には事前に通知する事も細かく定められています。対象国はアメリカとロシアだけでなく、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンも旧ソ連扱いで加わっています。

ABM Treaty: 1997 Joint Statement on Annual Exchange of Information
a. whether or not that Party has plans before April 1999 to test, against a ballistic target-missile, land-based, sea-based or air-based interceptor missiles whose velocity exceeds 3 km/sec over any part of their flight trajectory;
b. whether or not that Party has plans to develop such systems with interceptor missiles whose velocity over any part of their flight trajectory exceeds 5.5 km/sec for land-based and air-based systems or 4.5 km/sec for sea-based systems; and
c. whether or not that Party has plans to test such systems against ballistic target missiles with multiple independently targetable reentry vehicles or against reentry vehicles deployed or planned to be deployed on strategic ballistic missiles.

(a) 秒速3kmを超える迎撃ミサイルを1999年4月以前に試験する計画は有るかどうか。(b) 秒速5.5km以上の陸上発射型および空中発射型の迎撃ミサイル、秒速4.5km以上の海上発射型迎撃ミサイルを開発する計画は有るかどうか。(c) MIRV弾頭および戦略弾道ミサイル用の弾頭を迎撃する試験計画は有るかどうか。…1997年合意では秒速3km以上の速さを持つ迎撃ミサイルに付いて、陸上発射型および空中発射型は秒速5.5km未満、海上発射型は秒速4.5km未満なら許可する方向になっています。戦略弾道ミサイル用の弾頭とMIRV弾頭の迎撃は出来ないように制限をする方向で、当時、このabc3つの問い掛けに付いてアメリカは全て行う予定は無いと回答しており、1997年合意はこれで纏まる予定でした。

しかしアメリカはこれを反故にしました。クリントン大統領は1997年合意を議会に送らず、後任のブッシュ大統領はABM条約から脱退した理由は、TMDの枠を超える本土防衛用大型迎撃ミサイル「GBIインターセプター」が原因でした。GBIは戦略弾道ミサイルを迎撃可能な性能で1997年合意を大きく逸脱する以上、配備を進めるからにはABM条約そのものが邪魔になったのです。原因は「ならず者国家」がIRBMどころか近い将来にICBMを手にする観測が強まり、どうしても必要だと判断された為でした。1998年の北朝鮮によるテポドン1号発射事件が決定打でした。テポドン1号は準IRBM程度の性能でしたが、近い将来にICBMへと発展する事が予想され、ICBMとして実用化される前に迎撃ミサイルを実用化する判断に迫られたのです。

北朝鮮によるテポドン1号発射から14年が経ち、今年12月にテポドン2号改を転用した宇宙ロケットは人工衛星打ち上げに成功しました。核弾頭の運搬手段として実用化の目処が付いたと言えます。まだ核弾頭の小型化や再突入体、地下サイロ建設など、実戦配備までにクリアしなければならない課題はあるものの、戦略弾道ミサイルとして配備される可能性を疑う者はもう居ません。アメリカの予測は間違っていませんでした。しかしGBIの迎撃試験成績は芳しいものではなく、現オバマ大統領によって予算は削減されていました。そして今再びテポドンの脅威が再認識された為、GBI予算拡充を叫ぶ声が強くなっています。
06時53分 | 固定リンク | Comment (71) | ミサイル防衛 |
2012年12月29日
弾道ミサイル防衛システムはアメリカだけでなく、ロシアやフランス、中国やインド、イスラエルといった国も開発しています。先ずフランスは既存のアスター30対空ミサイルを改修し弾道ミサイルの迎撃を可能にしました。アスターは誘導ミサイル部分の「コモンダート」にサイドスラスターを装備しており、対弾道ミサイル用としても直撃を狙える構成でした。対弾道ミサイル改修型はアスター30Block1といい、更なる改修型Block1NTを開発中です。此処まではアスター30の原形をそのまま留めているのですが、開発予定にあるアスターBlock2は全く形の異なるものに変貌します。それは大気圏外で迎撃可能な、二段式THAADと呼べるものでした。

ASTER BLOCK 2 / BMD - MBDA


Aster Block 2 Missile Shield - YouTube

[PDF] Theatre BMD: A DACS design for the ASTER Block 2 Kill Vehicle
[PDF] RUSI 2010 - Toward a Type45 BMD Capability

アスターは艦載型と地上型(SAMP-T)がありフランス、イギリス、イタリアが配備しています。アスターBlock1についてはブルースパロー弾道ミサイル標的を用いた迎撃実験を既に実施済みです。


Aster 15

この動画はアスター15です。アスター30よりブースターが小さく、個艦防空用に用意されました。コモンダート部分はアスター30と共通です。動画の20秒前後にサイドスラスター噴射試験の様子が映っています。
23時37分 | 固定リンク | Comment (65) | ミサイル防衛 |