このカテゴリ「ミサイル防衛」の記事一覧です。(全137件、20件毎表示)

2012年12月12日
12日午前9時49分ごろ、北朝鮮は衛星打ち上げ用ロケットを発射、衛星が軌道に乗った事がNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)でも確認されました。打ち上げ成功です。

N.Korean missile deployed object that appeared to reach orbit -NORAD | Reuters


Launch of North Korean Rocket (High Quality, Full Version)

北朝鮮の朝鮮中央通信は銀河3号ロケットが午前9時49分46秒に打ち上げられ、9分27秒後の午前9時59分13秒に人工衛星「光明星3号・2号機」を軌道に進入させたと伝えています。「光明星3号・2号機」の軌道傾斜角は97.4度で近地点高度499.7キロ、遠地点高度584.14キロの極軌道を回っており、周期は95分29秒であると発表されました。これはアメリカ側が確認した軌道要素とほぼ一致します。

銀河3号ロケットは3段式で、1段と2段は長距離弾道ミサイルのテポドン2改そのものです。弾頭ペイロード部分を第3段ロケットと人工衛星に置き換えて宇宙ロケットとしています。今回の打ち上げでは第3段ロケットの点火後にドッグレッグ・ターンを行い進路を変更している事で、北朝鮮のロケット制御技術が格段に進歩している事が分かります。


GoogleMap上で衛星を追跡するWebアプリ「GoogleSatTrack」の開発者、柏井勇魚(KASHIWAI, Isana)氏が北朝鮮の人工衛星を追跡しています。ブログ記事「北朝鮮の「人工衛星」の飛翔経路予測」の解説も必見です。

「ミサイル入門教室」 こちらは陸上自衛隊高射学校において防空兵器の運用研究に従事されていた久保田隆成氏のサイト。北朝鮮の弾道ミサイルに関する特集が組まれています。
20時03分 | 固定リンク | Comment (238) | ミサイル防衛 |

2012年12月02日
11月29日、アメリカのホワイトサンズ射爆場でロッキード・マーティン社が開発中の地対空ミサイル、MEADS(中距離拡大防空システム)が迎撃試験に初成功しました。(ただし迎撃した目標はMQM-107巡航ミサイル標的であり、弾道ミサイル標的ではありません。)

MEADS Flight Test #1 – First Target Intercept - MEADS International


MEADS Intercept of MQM-107 Target Drone at White Sands Missile Range

MEADS計画はパトリオット地対空ミサイルの後継として、戦術弾道ミサイルや巡航ミサイルを含むあらゆる空中目標を迎撃するシステムとして、アメリカ、ドイツ、イタリアの三カ国共同で資金を出資し、アメリカのロッキード・マーティン社が主契約企業として開発していました。しかし2011年2月にアメリカが開発を放棄し、ロッキード・マーティンは社内開発を続けている状況です。配備調達される予算復活の目処は立っていません。

MEADSはミサイルそのものはパトリオットPAC-3MSE (PAC-3改良型)です。レーダー、管制システム、発射方式がパトリオットシステムとは異なります。
10時00分 | 固定リンク | Comment (36) | ミサイル防衛 |
インド軍は独自の弾道ミサイル防衛システムを配備開発中です。第一段階はPAD(プリトビ防空型)とAAD(先進防空ミサイル)、第二段階はアメリカのTHAADを2段ロケット式にしたような構成の迎撃ミサイルを計画し、大気圏外迎撃を行う予定です。

Indian Ballistic Missile Defence Programme - Wikipedia

そして11月23日、大気圏内での弾道ミサイル迎撃用であるAADミサイルの迎撃試験が行われ、弾道ミサイル標的の撃墜に成功しました。AADミサイルは単段式の重量1.2トンの迎撃ミサイルで、排気口に大型の推力偏向用のベーンを持ち、高い機動性により直撃で弾道ミサイルの撃破を狙います。

India successfully test fires AAD interceptor missile - Oneindia


India tests AAD interceptor missile successfully


BMD Test on November 23, 2013 to Validate Multiple Target Engagment

PAD(プリトビ防空型)は弾道ミサイルのプリトビをベースに迎撃ミサイルに転用するという無理のあるものでしたが、2段式で大気圏外迎撃を行います。これと大気圏内の迎撃を担当するAADミサイルとで第一段階ミサイル防衛網を構築し、インド軍は多層防御を行います。第二段階のTHAADを2段式にしたような迎撃ミサイル(PD-1とPD-2)で、こちら射程5000km級の中距離弾道ミサイルの迎撃を狙っています。

パキスタンの弾道ミサイルを迎撃する気なら射程1500km前後の弾道ミサイルに対応する性能でよい筈です。インド軍のBMD第二段階は明らかに中国の中距離弾道ミサイルを迎撃する目的で開発計画が立てられていると言えます。
09時18分 | 固定リンク | Comment (14) | ミサイル防衛 |
2012年12月01日
北朝鮮は12月10日〜22日の期間に人工衛星を打ち上げるロケットを発射すると予告しました。4月13日にロケット打ち上げに失敗してから約8ヶ月後に再挑戦する事になります。果たしてこの期間で不具合の洗い出しが出来ているのか。韓国の宇宙ロケット発射(11月29日の打ち上げは直前で中止、延期された)や12月19日の韓国大統領選挙を意識しているのかもしれません。

北朝鮮、「衛星」発射通告 12月10〜22日の間に:CNN


北朝鮮"ミサイル"発射を発表 10日〜22日の間に(12/12/01):ANN

今回もまた4月の時と同じような騒ぎになるのでしょうか。今回の発射予定地点も東倉里で、4月の時と同じように南へ向けて発射されるとあります。ロケット本体も4月の時と大幅には変わっていない仕様のままでしょう。韓国のKSLV-1ロケットは再発射は年明けになると言われており、北朝鮮の銀河ロケットが先に衛星打ち上げに成功してしまうと、韓国の面子は立たなくなってしまいます。

一方、日本は今度こそJ-アラートが機能するのか、場合によっては発射が衆議院総選挙(16日投票)と重なる恐れもあり、政府の危機管理はきちんと対応できるのか、忙しい事になります。

過去ログ:2012年04月の記事一覧
19時48分 | 固定リンク | Comment (113) | ミサイル防衛 |
2012年11月28日
イスラエル国防省から新たにダヴィデスリング(シャルビットクサミーム)の試験映像が公開されました。標的ミサイルの発射、そしてダヴィデスリング発射から標的への直撃まで一部始終が撮影されています。最後には目標捜索及び射撃管制用のマルチミッションレーダーも映っていました。

צבא ההגנה לישראל : צפו ביירוט הראשון של מערכת שרביט קסמים
(シャルビットクサミーム・システムの最初の迎撃を参照:イスラエル国防軍)


משרד הביטחון : צפו ביירוט הראשון של שרביט קסמים
(シャルビットクサミームの最初の迎撃を参照:イスラエル国防省)

イスラエル国内ではダヴィデスリングという呼称ではなく、ヘブライ語でシャルビットクサミーム(魔法の杖)と呼ばれています。イスラエル軍ウェブサイト英語版でも記事タイトルは"David's Sling"ではなく"Magic Wand"でしたので、イスラエル側では公式に「魔法の杖」という呼ばれ方のようです。

ヘブライ語 'שרביט קסמים' 発音:シャルビットクサミーム(Šarvit Ksamim)
06時00分 | 固定リンク | Comment (38) | ミサイル防衛 |
2012年11月27日
11月25日、イスラエルの新型迎撃ミサイル「ダヴィデスリング」が初の迎撃実験に成功しました。これはイスラエルのラファエル社とアメリカのレイセオン社との共同開発で、射程40〜300kmの大型ロケット弾と短距離弾道ミサイルを迎撃する目的の中距離地対空ミサイルです。短距離ロケット弾用の「アイアンドーム」と本格的な弾道ミサイル用の「アロー」の中間を埋める為のもので、主にヒズボラの発射する大型ロケット弾を念頭に開発されています。巡航ミサイルや無人機の撃墜も可能とされています。計画では2014年に実戦配備予定です。

David's Sling - Wikipedia
STUNNER - Rafael Advanced Defense Systems

ダヴィデスリングとは「ダヴィデの投石器(Sling)」という意味で、旧約聖書に出て来るダヴィデとゴリアテの戦いから取られています。別名「マジックワンド(Magic Wand, 魔法の杖)」ともいい、更にこのミサイルはアメリカ側で「スタンナー(Stunner, 大きな衝撃を与える)」とも呼ばれ、3つの名前を持っています。英語圏では主にダヴィデスリングと呼ばれる事が多いのですが、イスラエル本国では主にマジックワンドの方、ヘブライ語で魔法の杖を意味する「シャルビット・クサミーム」と呼ばれています。シャルビットが杖でクサミームが魔法です。ヘブライ語でダヴィデの投石器を意味する「ケラ・ダヴィデ」で呼ばれる事はあまりありません。呼び方が色々あるミサイルですが、英語名ダヴィデスリング、ヘブライ語名シャルビットクサミームとなります。スタンナーは開発現場での呼び名のようです。

ヘブライ語名 'שרביט קסמים' 発音:シャルビット・クサミーム(Šarvit Ksamim)

ダヴィデスリングは射程40〜300kmの大型ロケット弾を迎撃する目的で設計されていますが、ダヴィデスリング自身の射程や重量などデータはあまり公表されていません。2段式、直撃方式、複合シーカー(赤外線画像とレーダー誘導)である事と、モックアップが展示されて大体の大きさが判明しているくらいです。その為、性能は現時点では推定になります。ダヴィデスリングは大きめのブースターと短距離対空ミサイルを組み合わせて中距離対空ミサイルとする構成で、重量的には200〜300kgくらい、射程は30〜40kmと予想します。この構成は比較的長い射程と迎撃体の高い運動性を両立させる代わりに、最低射程範囲が長くなります。これはより前方に配備されるのはアイアンドームである為に問題になりません。ダヴィデスリングはロケット弾を相手に都市広域防空を行うという、カウンターRAMとしては最大級の存在です。他国のカウンターRAMは基地拠点防空までしか考えられていない為、イスラエル特有の状況のみに対応する非常に特殊な迎撃ミサイルです。

“ניסוי מוצלח ראשון במערכת היירוט ”שרביט קסמים
(シャルビットクサミーム迎撃試験成功:イスラエル軍公式)


הישג במשרד הביטחון: ניסוי מוצלח ראשון לשרביט קסמים


David's Sling Missile test

公表された迎撃試験の動画です。試験用外装ランチャーから斜めに発射される赤く塗装された迎撃体は以前の飛翔試験のもので、今回の迎撃試験は実戦用コンテナランチャーから垂直に発射された青く塗装された迎撃体の方です。ただし、高速カメラのアスペクト比変換がおかしいせいで迎撃体が太く映っている場面があります。実物のダヴィデスリングは加速力を得る為に非常に細いミサイルです。なお今回行われたのは迎撃試験ですが、動画の方は発射時のシーンしか映っていません。

ダヴィデスリング/マジックワンド/スタンナー
※アスペクト比を適当に修正。

ダヴィデスリング/マジックワンド/スタンナー ダヴィデスリング試験動画繋ぎ合わせ

ダヴィデスリングの特徴的な"イルカ頭"の弾頭形状ですが、内部形状が公表されていないのでこの図は全くの想像になります。モックアップを外から見る限りは赤外線画像誘導装置が先端に装着されており、更に内部にレーダー誘導装置がある複合誘導方式と説明があるので、二つの誘導装置を最適に配置してレーダーパネル有効面積を最大に取る為にイルカのような斜めの弾頭になったのだと思われます。これならば通常の中央に先端がある方式よりもレーダーパネル有効面積を2倍に取れます。

弾頭炸薬に付いては直撃方式である為に搭載していませんが、PAC3のようなリサリティエンハンサー(少量の炸薬でタングステンペレットを狭い範囲に飛ばす)まで搭載していないかどうかはまだ判明していません。しかしリサリティエンハンサーの記述は一切無い為、恐らくはそれすら積んでいない完全な直撃方式だと思われます。
06時00分 | 固定リンク | Comment (66) | ミサイル防衛 |
2012年11月24日
2012年11月14日から21日の停戦までの8日間に行われたイスラエルのガザ空爆作戦は、英語の作戦名を「Operation Pillar of Defense(防御の柱作戦)」、ヘブライ語の作戦名を「מבצע עמוד ענן(雲の柱作戦)」と命名されています。停戦により地上作戦は回避されましたがイスラエル空軍の爆撃でパレスチナ市民100人以上が犠牲となり、ハマス武装組織のロケット弾攻撃でイスラエル市民4人が死亡、兵士を含めると双方合わせて160人以上死亡しています。
 
Operation Pillar of Defense - Wikipedia

イスラエル軍の発表によると、イスラエル空軍の戦闘機はガザ地区の約1500の目標を空爆しました。ロケット発射機、ロケット弾製造工場、密輸用地下トンネル、行政機関、治安施設などです。イスラエル軍は巨大な爆発はロケット弾の製造工場や弾薬貯蔵庫の誘爆であると主張していますが、それとは別に1トン級の大型爆弾の使用、報道施設への意図的な爆撃が疑われています。劣化ウラン弾、クラスター爆弾、白燐弾、DIMEのような兵器の使用は報告されていません。

ガザからはハマスによるロケット弾攻撃がイスラエル市街地に向かって行われ、これまで行われてきたグラッドやカッサムといった射程の短いロケット弾だけでなく、イラン製のファジル5のような大型ロケット弾により最大都市テルアビブや首都エルサレムが初めて攻撃されています。無人偵察機の観測などにより、1506発のロケット弾の発射が確認されています。詳細は以下の通りです。

Ceasefire agreement comes into effect - Israel Defense Forces

Rocket Launched Towards Israel:

Total number of rockets launched from the Gaza Strip – 1,506
Open areas – 875
Urban areas – 58
'Iron Dome' Interceptions – 421
Failed launching attempts – 152

ガザから1506発のロケット弾が発射され、うち152発が発射に失敗。1506−152=1354発。
1354発がイスラエル領内に向かい、うち875発が砂漠などに落下。1354−875=479発。
479発が市街地に向かい、うち421発がアイアンドームにより撃墜。479−421=58発。
58発が市街地に着弾。

アイアンドームはロケット弾479発中421発を撃墜し、任務達成率88%を記録しています。約9割の脅威を排除し、1割が阻止出来ず、58発のロケット弾が市街地に落下して被害をもたらしました。アイアンドームは本来は1目標に2発の迎撃弾を発射して確実な撃破を試みる運用なのですが、まだ予備弾の数が少ない為なのか1目標に1発ずつ発射するケースが多かったようです。またアイアンドームは高射隊のユニット数がまだ5個と少なく、市街地全てをカバー出来ておらず、防護範囲の外に飛んできたロケット弾は迎撃のしようがなかったでしょう。つまり迎撃弾の予備が潤沢にあり高射隊の数が揃えば任務達成率は更に上がる事を意味します。

市街地に向かってきたロケット弾479発に対し、今回は基本的にアイアンドームは1発ずつ発射されたものの、中には複数の迎撃弾が発射されたケースや、発射に失敗して代わりの迎撃弾を発射したケース、射程が届かず発射できなかったケースなどもあり得るので、射耗したアイアンドームが479発とは限りません。アイアンドーム5個高射隊の定数は15発射基で1基20連装なので即応弾は300発、予備弾は179発以上が再装填されています。在庫の予備弾の総数は不明ですが、2連射をせず1発ずつ発射してる様子からあまり多くはないのだろうと思われます。

ガザから発射された1506発のロケット弾のうち152発が発射に失敗し、10%近くが製造不良でした。ハマスの手作りロケット弾が多く、不良率が高くなります。アイアンドームに付いては発射失敗数は公表されていませんが、数百発が発射されている以上は1%が不良だとしても数発は発射失敗している計算で、何例か発射失敗の様子は報告されています。



Hamas rockets intercepted by Israel's Iron Dome


Iron dome over the city


הפספוס של 'כיפת ברזל'' באשדוד - הטילים נפלו לקרקע

※余談
アイアンドームは当初「ゴールデンドーム」と命名される可能性がありました。計画主任の大佐が奥さんと一緒に名前を検討、一度候補に挙がったゴールデンはあまりに派手過ぎると考え直してアイアンドームへと変更されたというエピソードがイスラエル軍公式サイトの記事(ヘブライ語版、2012年5月4日)で紹介されてあります。

אתר צה"ל - צבא ההגנה לישראל : שנה ליירוט הראשון של כיפת ברזל: "ההצלחה – בזכות הל
'כיפת הזהב' ヘブライ語でキパット・ザハブ。英語の意味はゴールデンドーム。
'כיפת ברזל' ヘブライ語でキパット・バルゼル。英語の意味はアイアンドーム。
15時49分 | 固定リンク | Comment (64) | ミサイル防衛 |
2012年11月18日
イスラエル・ラファエル社の短距離ロケット弾防御システム「アイアンドーム」は、射程4〜70kmのロケット弾を撃墜する事を目的として開発されました。アイアンドームの迎撃体"Tamir"自身の射程は公表されていませんが、2011年8月31日のエルサレムポスト紙で「アイアンドーム1個高射隊は150平方kmの都市部を防護できる」と紹介されています。150平方kmは半径約7kmの円の面積に相当するので、有効射程は約7kmと推定出来ます。これは同規模の他の短距離地対空ミサイルの迎撃体("Tamir"は重量90kg、日本の81式短SAMは約100kg)とほぼ同じ射程ですので、妥当だと思われます。

アイアンドーム防護範囲
※アイアンドーム迎撃範囲150平方km(半径7km)

配備個所は推定です。アシュケロン、アシュドッド、テルアビブへの配備は確実ですが、南部の配備個所二つは今は移動したという情報もあります。現在実戦配備にあるアイアンドームは5個高射隊が存在し、1個高射隊は20連装ランチャー3基とレーダー、射撃管制装置(BMC)で構成されます。イスラエル全土をハマスとヒズボラのロケット攻撃から防衛するには少なくとも13高射隊が必要なので、5個高射隊ではまだ必要数に足りません。

アイアンドームは射程4〜70kmのロケット弾を迎撃するように設計されています。つまり発射地点が4km未満の近い位置から撃ち込まれる目標は迎撃できません。あまりに近過ぎて目標の飛行時間が短く、探知と誘導が間に合わない為です。その為、ガザに隣接した地域の住民はアイアンドームではなく近接防御が可能なレーザー迎撃システムの配備を要求しましたが、実験では成功したものの技術的に解決すべき部分の多かったレーザー迎撃システムは採用を見送られました。また射程70km以上の長距離ロケット弾の対処までは考えられていない為、今行われているテルアビブ防空はアイアンドームの限界に近い戦闘です。

イスラエル軍は他に射程40〜300kmの長距離ロケット弾(射程が短めの短距離弾道ミサイルを含む)を迎撃する目的で「ダヴィデスリング」という迎撃システムを開発中です。それ以上の射程の本格的な弾道ミサイルはミサイル防衛システム「アロー2」で迎撃します。開発中の「アロー3」は大気圏外迎撃体です。これ等と短距離ロケット弾迎撃用のアイアンドームと合わせて迎撃目標ごとに役割分担を行っています。ただし「ダヴィデスリング」は開発が遅れており、ストップギャップとしてアイアンドームを改良して迎撃可能範囲を広げて、長距離ロケット弾を迎撃可能にする計画が持ち上がっています。

Iron Dome - Wikipedia
David's Sling - Wikipedia
Arrow (Israeli missile) - Wikipedia

※「ダヴィデスリング」は先端部分が斜めになっていますが、これは斜めの部分にレーダーが、最先端に赤外線シーカーが付いた複合誘導方式の為のデザインだと思われます。


Iron Dome Shoots Down a Rocket over Tel Aviv District (18/11/2012)

2012年11月18日テルアビブ、現地時間10時31分に飛来した大型ロケット弾2発をアイアンドームが1発ずつで撃墜成功。


intercepted Iron Dome 5

2012年11月15日テルアビブ、ロケット弾5発同時撃墜成功。
21時19分 | 固定リンク | Comment (147) | ミサイル防衛 |
イスラエル軍は15日夜に発生した中心都市テルアビブへのロケット弾攻撃(海に落下)に対応し、来年1月に部隊を発足させる予定だったアイアンドーム第五の高射隊を前倒しでテルアビブ防衛に緊急配備。そして直ぐに出番が到来し、17日午後4時半ごろ、ガザから飛来した大型ロケット弾を撃墜する事に成功しました。


Iron Dome intercepts rocket aimed at Tel Aviv

海岸から撮影、目標命中の瞬間が映っています。空襲警報が鳴る中、人々は急いで建造物の中へ逃げ込みますが、間に合わなかった人々は手近な壁で身を潜めて破片の防御に出来るだけ備えています。


Rockets over Tel Aviv

市街地から撮影、アイアンドームが飛行して行く様子が映っています。最後はビルの陰で見えなくなりますが、命中時の大音響が聞こえます。

ガザから飛来したイラン製の大型ロケット弾は2発で、1発を撃墜し1発は無人地帯に落下して被害はゼロでした。アイアンドーム迎撃システムは自動で目標の脅威度を判定し、被害が出そうな落下コースのみへ迎撃ミサイルの発射を指令し、海上や砂漠などに落ちる無害な目標には迎撃ミサイルを無駄撃ちしないようにしています。
10時06分 | 固定リンク | Comment (39) | ミサイル防衛 |
2012年11月16日
イスラエルとパレスチナ自治区ガザで戦闘が激化し、ガザからは多数のロケット弾がイスラエルに撃ち込まれ、イスラエル軍は戦闘機による空爆を行う事態となっています。ガザを自治するハマスの軍事部門司令官が乗った自動車がイスラエル軍の空爆で吹き飛ばされ、イスラエル最大都市テルアビブにはハマスが発射したイラン製大型ロケット弾「ファジル5」が付近に着弾、イスラエル軍は予備役を動員し地上侵攻の準備を始めました。

そして14日の夜にはイスラエル軍のロケット弾迎撃用地対空ミサイル「アイアンドーム」が12発のロケット弾を撃墜する様子が動画に収められています。


אזעקה בבאר שבע+12 ירוטים מוצלחים

少し遠くにある結婚式の会場から撮影。空襲警報が鳴り響く中、50秒頃に最初の数発が発射され、続いて1分頃に10発以上撃ち上がり始めます。12発のロケット弾が撃墜されています。


מטח טילים ראשון על באר שבע

これは同じ時間帯の迎撃の様子をもっと近い場所から撮影したもの。


כיפת ברזל אשדוד

15日朝、ランチャーから発射、命中までの一部始終。

アイアンドームはロケット弾や迫撃砲弾を迎撃するカウンターRAMと呼ばれる種類の兵器です。イスラエルのラファエル社が開発した地対空ミサイルで、弾体は全長3m、直径16cm、重量90kgと一般的な短距離地対空ミサイルとほぼ同じサイズです。2011年3月27日に実戦配備が開始され、今年3月にも迎撃戦闘を行っていますが、一度に10発以上を撃ち上げるような大規模な迎撃戦闘は最近が初めてです。3月の迎撃戦闘では3月9日から12日までに飛来した63発のロケット弾の内54発の迎撃に成功しましたが、この11月は1日あたり数十発から100発単位ものロケット弾が飛来し、まだ配備数の少ないアイアンドームは配備範囲以外の着弾に対応しきれていないようです。動画を見る限り、射程範囲内のロケット弾に対しての迎撃成功率はとても高いと思われます。しかし単価の安いロケット弾相手に高価な誘導ミサイルをぶつける以上、費用対効果の面で苦しい兵器ではあります。


Iron Dome - Rafael

イスラエル・ラファエル社のアイアンドーム公式PV動画。

Counter-RAM - Wikipedia (日本語)
Iron Dome - Wikipedia (英語)
Iron Dome Defense Against Short Range Artillery Rockets - Rafael (ラファエル社公式、英語)

カウンターRAMは山なりの弾道を飛んでくる目標を迎撃する点で弾道ミサイル防衛システムに似ています。しかし迎撃目標のロケット弾や迫撃砲弾は弾道ミサイルより遅いものの遥かに小さく、迎撃の困難さは別の要素が絡んでくるので、厳密には弾道ミサイル防衛とは別の存在です。

実戦投入されたカウンターRAMはイスラエルの「アイアンドーム」の他にはアメリカ軍の「LPWS(地上型ファランクス)があります。LPWSは単純に艦艇用近接防御火器システム(CIWS)を地上型にしたシステムですが、間に合わせの代物でしか無く、実戦テストの結果はあまり芳しくないようです。アメリカ軍は本格的なカウンターRAMとして「EAPS」という開発計画を立て、誘導機関砲弾型とマイクロミサイル型の2本立てとしています。EAPSマイクロミサイル型は Miniature Hit-to-Kill (MHTK) という僅か3kgのレーザー誘導小型ミサイルを使用して、1発あたりのコストの削減を狙っています。なお誘導機関砲型はサイドスラスター式弾道修正弾です。

Lockheed Martin Conducts Successful EAPS Controlled Flight Test (ミサイル型)
[PDF] Extended Area Protection and Survivability (EAPS) 50mm Cannon - DTIC (機関砲型)

その他のカウンターRAMはドイツSysFla社(ラインメタルとMBDAの合弁企業)のMANTIS次期空間防護システム(35mmAHEAD知能化時限信管弾を用いた対空機関砲)、BAE傘下のスウェーデン・ボフォース社のABRAHAM(タングステン指向散弾弾頭ミサイル)などがあり、アメリカとイスラエルは他にレーザー砲を研究中で、日本も基礎的な研究を始めています。

SysFla 対空システム:第510機甲宣伝中隊 (MANTIS)
[PDF] ABRAHAM C-RAM - DTIC (Bofors)
戦術高エネルギーレーザー - Wikipedia (THEL)
20時17分 | 固定リンク | Comment (164) | ミサイル防衛 |
2012年10月26日
10月25日の米ミサイル防衛局の発表によると、10月24日に史上初となる弾道ミサイル同時多数迎撃実験FTI-01(Flight Test Integrated 01、Pacific Chimera 太平洋のキメラ)が行われました。

Ballistic Missile Defense System Engages Five Targets Simultaneously During Largest Missile Defense Flight Test in History - Missile Defense Agency October 25, 2012


PATRIOT Advanced Capability 3 (PAC-3) AND Terminal High Altitude Area Defense (THAAD)

使用した標的ミサイルは中距離弾道ミサイル×1、短距離弾道ミサイル×2、巡航ミサイル×2。迎撃側はTHAAD×1、PAC3×2、イージス艦×1(SM-3およびSM-2)で、中距離弾道ミサイル標的はC-17輸送機から空中投下する E-LRALT(Extended Long Range Air Launch Target) という大型のもので、短距離弾道ミサイルは洋上移動プラットフォーム(恐らく退役したイオージマ級を再利用したもの)から発射されています。巡航ミサイルに付いては記載がありません。THAADはクウェジェリン環礁メック島、PAC3はオメレック島に配置され、イージス駆逐艦フィッツジェラルドが海上に配置されました。複数の探知・迎撃システムを指揮管制戦闘管理通信システム(C2BMC)で統合し対応します。試験費用は1億8千8百万ドル、約150億円。試験結果は以下の通りです。

中距離弾道ミサイル・・・THAADが撃墜に成功。THAADによる中距離弾道ミサイル撃墜は初めて。
短距離弾道ミサイル・・・イージス艦がSM-3ブロック1Aを発射、正常に飛行するも命中せず。
短距離弾道ミサイル・・・PAC3が撃墜に成功。
巡航ミサイル・・・PAC3が撃墜に成功。
巡航ミサイル・・・イージス艦がSM-2で迎撃に成功したものと思われる。(SM-2の明言は無し)

イージス艦による迎撃成果が不明な部分が多いのですが、SM-3ブロック1Aは当たらなかったようです。イージス艦による弾道ミサイル迎撃テストは最近では5月と6月にSM-3ブロック1Bで連続して迎撃テストに成功していましたが、久しぶりに使用したブロック1Aで失敗しています。失敗した理由はイージス艦による単艦での異種目標同時対処に問題があったのかもしれません。ただし単艦で弾道ミサイルと巡航ミサイルに同時対処する実験は以前にもやって成功した事もあるので、まだはっきりとは分かりません。なお日本海上自衛隊では、弾道ミサイル防衛に当たるイージス艦には弾道ミサイル対処に専念させる為、イージス艦直衛用に「あきづき」型護衛艦を建造しています。

FTI01ターゲットミサイル

FTI-01実験で用意が検討された標的ミサイルです。同一縮尺ではありません、また全てのターゲットが使用されたわけでもありません。ARAV-Bが短距離弾道ミサイル標的で、MQM-107EとBQM-74Eは巡航ミサイル標的です。E-LRALTは3段式弾道ミサイルの2段だけ使用した改造ミサイルで、C-17輸送機から空中投下するかなり巨大な標的です。

FTI01ターゲットミサイル

これはeMRBMの方ですがC-17輸送機から空中投下する中距離弾道ミサイル標的の発射シークエンスです。E-LRALTはこれと同系統の方式でより大きいミサイル標的です。

[PDF]Integrated Flight Tests at U.S. Army Kwajalein Atoll/Ronald Reagan Ballistic Missile Defense Test Site(USAKA/RTS) - Environmental Assessment July 2012
http://www.mda.mil/global/documents/pdf/env_IFT_USAKA-RTS_EA.pdf
(FTI-01実験にあたって事前の7月に提出されたクウェジェリン環礁の環境影響評価書より)
21時56分 | 固定リンク | Comment (140) | ミサイル防衛 |
2012年05月01日
弾道ミサイルがMIRV(多弾頭独立目標再突入体)やバルーン・デコイ(アルミ皮膜の風船の囮)を使用して来た時にミサイル防衛側が対抗する為には、レーダーや赤外線センサーの囮識別機能の強化に加え、迎撃体を増やすMKV(多弾頭迎撃体)が計画されていました。MKVは初期試験まで行われたものの、ミサイル防衛の仮想敵である北朝鮮やイランの弾道ミサイルがまだMIRV化しておらず、当面は必要無いという事で、予算がカットされ計画は一旦中断されている状態です。


ABM Multiple Kill Vehicle (MKV)- Youtube


Missile defense multiple kill vehicle hover test - Youtube

当面は中止状態のMKVですがレイセオンでは更なる改良を加えた計画があり、特許で提出されています。アメリカでは"Patent US20040055498"、日本では"特許公表2006-515664"で登録されている「運動エネルギーロッド弾頭散開システム (Kinetic energy rod warhead deployment system)」というもので、MKVの子弾から更に多数の運動エネルギーロッドを散開させて目標をデコイ群ごと一網打尽に撃破しようという計画です。

運動エネルギーロッド弾頭散開システム
※運動エネルギーロッド弾頭散開システム

デコイを識別するのが困難であるなら全て破壊すればいいという考え方です。多弾頭には多弾頭を、群には群をぶつけます。本物が入り混じったデコイ群にMKVを向かわせ、それぞれのMKVが運動エネルギーロッドを散開させます。ミサイル防衛システムは将来必要になった時、MIRVに対抗する事が可能です。またこれは核弾頭より小型化できる化学弾頭や生物弾頭がクラスター化していた際に撃ち漏らさない為という目的もあります。

この運動エネルギーロッドはリサリティエンハンサーと同じ概念です。通常の爆風破片弾頭と異なり、運動エネルギーロッドを狭い散開角度で濃い密度を保ったまま展開していく方式です。運動エネルギーロッドを散開させ過ぎずに密度を保ったまま展開する設計は内装炸薬式では空間的な無駄が多く(例えばPAC3では炸薬をリング状にしている)、運動エネルギーロッドを大量に搭載しつつ等方的に展開する効率の良い新たな方式として、炸薬を外装した爆縮炸薬(imploding charge)による衝撃波のリバウンドにより内装された運動エネルギーロッドを展開していく方式が提案されています。爆縮された衝撃波は中心部分でぶつかり合うと跳ね返り、運動エネルギーロッドを外へ向かうように押しやります。また外装炸薬を一部パージした後に炸裂させれば望む方向へ運動エネルギーロッドを展開させる事も可能です。

外装炸薬爆縮リバウンド過程
※外装炸薬を均等に起爆し等方的に運動エネルギーロッドを展開

外装炸薬パージ
※外装炸薬を3個パージ後に反対方向の1個のみ起爆させた様子

アメリカのレイセオン社がこのような案を持っているという事は、現在の直撃方式(ヒット・トゥ・キル)の大気圏外迎撃体が将来的に運動エネルギーロッド弾頭(リサリティエンハンサー)を搭載していく方向にある事が分かります。
19時58分 | 固定リンク | Comment (368) | ミサイル防衛 |
2012年04月29日
13日に打ち上げ失敗した北朝鮮のロケットは、韓国海軍のイージス艦セジョンデワンの捉えたレーダー情報によると高度75kmで爆発が発生し、ぺクリョン島の上空150kmまで上がった後に落下していき、バラバラになりながら水平方向には400km程度しか飛翔しなかったとされています。

そして日本自衛隊はイージス艦を迎撃に最適な沖縄近海に配置して、ロケットの発射の初期情報はアメリカ軍の早期警戒衛星とアメリカ海軍の前進配備されたイージス艦から得ています。失敗し短い距離しか飛ばなかったロケットでは、後方に居た日本のイージス艦や沖縄の与座岳J/FPS-5レーダーでは水平線の陰に殆どが隠れてしまい探知する事が出来ず、日本が独自に探知できたのは電波情報収集機EP-3Cがロケットのテレメトリー電波を受信し、早期警戒機が対空レーダーで捉えたとされています。(※沖縄と九州の地上施設の電波傍受装置でもテレメトリーは受信出来ていたようです。)

しかし疑問な点があります。確かに沖縄近海のイージス艦や沖縄の固定基地レーダーでは捉えるのが困難である事は分かります、距離的に捉えたと思ってもすぐ落ちてしまい見えなくなって判断が付きにくいでしょう。でも九州のレーダーからは十分見えて居たはずなのでは・・・? 弾道頂点のぺクリョン島付近から沖縄まで約1400kmですが、福岡まで700km、鹿児島まで900kmとより近いのです。

ぺクリョン島上空、高度150km
※ぺクリョン島の上空、弾道頂点高度150km付近から見たイメージ図。

弾道頂点150km
※脊振山J/FPS-3改レーダー(佐賀県) 赤が弾道頂点高度150km、橙が爆発時高度75km、ピンクが落下中間高度75km。

弾道頂点150km
※下甑島J/FPS-5レーダー(鹿児島県) 赤が弾道頂点高度150km、橙が爆発時高度75km、ピンクが落下中間高度75km。


九州のレーダーからならば、飛翔時間の半分程度は捉えられそうに思えますが・・・
00時30分 | 固定リンク | Comment (152) | ミサイル防衛 |
2012年04月26日
弾道ミサイル防衛システムの試験には模擬標的を用います。退役した弾道ミサイルから改造転用したり、観測用ロケットを流用したり、地対空ミサイルを改造したりと様々ですが、イスラエルは狭い国土で試験を行う為に、戦闘機に搭載して海上から発射して自国の内陸部に撃ち込む空中発射式の模擬標的「スパローターゲットミサイル」を用意しました。なお名前が紛らわしいですが空対空ミサイルのAIM-7スパローとは関係がありません。

PICTURE: Israel reveals Rafael's Blue Sparrow target missile - Flightglobal (F-15への搭載例)


Youtube - Blue Sparrow missile / טיל המטרה של צה"ל "אנקור כחול"

[PDF] Sparrow Targets Air-Launched Ballistic Targets (イスラエル・ラファエル社の資料)

スパロー標的はイスラエルのラファエル社とアメリカのレイセオン社の共同開発で、イスラエルとアメリカ、それとフランスが購入して使用しています。大きさは三種類あり、ブラックスパロー(1,275 kg)、ブルースパロー(1,900 kg)、シルバースパロー(3,130 kg)と航空機から使うには非常に大きなミサイルとなっています。F-15戦闘機だけでなく、B-52爆撃機などでも運用できるようです。ブルースパローとシルバースパローは弾頭分離式で、弾頭はガス噴射による三軸制御で軌道変更が可能です。模擬標的弾頭は機動再突入体として振舞う事も出来ますし、わざと制御を失ってスピン状態にしてバレルロール状態で落とすことも出来ます。つまり弾道ミサイル防衛はそういった複雑な動きをする目標に対処する事を既に考えられているのです。

スパロー標的

なお日本も昨年に「F-15戦闘機から空中発射模擬標的を使用して弾道ミサイル防衛システムの検証」を行いましたが、これは単に炸薬非搭載の99式空対空誘導弾(AAM-4)をそのまま使用しただけでした。実際に撃墜する実験ではなく、レーダーで捕捉して対処行動をシミュレーションする試験です。

模擬標的発射しデータ収集 BMD検証 - 朝雲ニュース(2011/9/26)
01時00分 | 固定リンク | Comment (59) | ミサイル防衛 |
2012年04月23日
イスラエルのアロー弾道ミサイル防衛システムはアロー1、アロー2が大気圏内迎撃用で爆風破片方式の大型2段ミサイルです。そしてアロ−3では大気圏外迎撃体を搭載する事になりました。アローシステムの開発はアメリカから技術支援を受けた共同開発で、資金も出して貰っていますが、アメリカは援助費用節約の為にアロー3の共同開発を止めてSM3地上型の購入を提案しました。しかしイスラエルはこれを拒否しアロー3の開発が決まっています。

つまり日米共同開発のSM3ブロック2Aはイスラエル向け輸出の可能性はありません。イスラエルは国土が狭く射程300kmもあれば全土を防衛できるので、SM3の長い射程は過剰で不必要でした。必要な能力的にはTHAADの配備でも良さそうですが、イスラエルはTHAADの能力に若干不満があったのと、配備システムの種類をなるべく少なくしたかったこと、そして大気圏外迎撃体の仕様コンセプトをイスラエルの独自要求に合わせた特殊なものにしたかったのです。

アロー

左がアロー2、右がアロー3です。アロー3はアロー2よりも小さくなっています。これはアロー3が大気圏外迎撃体を採用し弾頭炸薬が無くなった為です。SM3の場合は弾頭炸薬部分を第3段ロケット+大気圏外迎撃体に置き換えて射程を延ばしましたが、アロー3は射程を延ばす必要が無いのでロケットの追加はありません。ペイロードが軽くなった分だけでも射程は延びて加速も良くなります。

KV revealed

そしてアロー3の大気圏外迎撃体は非常に特徴的です。大気圏外の機動を推力偏向ノズル方式で行うのです。アメリカの大気圏外迎撃体はTHAADもSM3もGBIも全てサイドスラスター方式なので、イスラエルは全く別の方式を選びました。また赤外線シーカーも首振り式で広範囲を捜索できます。この首振りシーカー+推力偏向ノズルの利点は急激な軌道変更を行える事です。イスラエルは湾岸戦争での対弾道ミサイル迎撃戦闘の戦訓から、予想コースとずれて飛んできた目標を土壇場で対処、修正できる能力を要求しました。


Arrow3 Demo -Youtube

アロー3軌道変更

推力偏向ノズル方式は推進ロケットとしても機能し、急激な軌道変更が可能です。しかし特性としてサイドスラスター方式と比べると応答性や正確性が劣ってしまいます。

TVC

サイドスラスター

そこで正確性に劣る推力偏向ノズル方式を補完するために、大気圏外迎撃体にリサリティエンハンサーを搭載して命中範囲を増やそうという提案が出ています。それも炸薬を使用せずに膨張ガスでタングステンロッドを展開する方式です。下の図は使用前・使用後です。

Fragments Deploying System

New Approach in Lethality Enhancer Design for Exo-atmospheric "Hit to Kill" Interceptors
First Israeli Multinational BMD Conference
Haim Shuqrun, IAI/MLM Division
http://imda.org.il/images/upload/conf/media/Haim%20Shuqrun.ppt

このガス膨張トーラス式リサリティエンハンサーはコンセプトの提案のみが確認されており、実際にアロー3の大気圏外迎撃体に搭載される予定かどうかは分かりません。ただ、大気圏外迎撃体にタングステンロッドを搭載して展開する方式はアメリカ側でも考案されており、将来的にリサリティエンハンサーが大気圏外での弾道ミサイル迎撃で使用されるようになる方向にあるのは間違いないと思います。
00時13分 | 固定リンク | Comment (58) | ミサイル防衛 |
2012年04月21日
PAC3は終末段階で弾道ミサイルを完全に破壊する為に"Hit-To-Kill"と呼ばれる直撃方式を取ります。そしてPAC3は他にもう一つ、航空機や巡航ミサイルを撃墜するために「リサリティ・エンハンサー(Lethality Enhancer)」という方式も持ちます。通常の対空ミサイルは弾頭炸薬の爆風破片効果によって多数の破片を広範囲に撒き散らし目標を撃墜しますが、PAC3のリサリティエンハンサーは少量の炸薬で少ない数のタングステン・ペレット(ただし一発ずつが重い)を狭い範囲に展開する方式です。リサリティエンハンサーとは致死性強化(対物なので破壊確実性強化とすべきか)という意味です。

PAC3

このPAC3の図解は前方からミリ波アクティブレーダーシーカー、サイドスラスター、誘導装置、リサリティエンハンサー、ロケットモーターと続きます。リサリティエンハンサーの部分は小さく、重量も8.2kg(18lb)しかありません。これはタングステンペレット(1発225g、総数24個)と炸薬やケースなどを含んだ数字です。では炸薬だけではどれくらいの量になるかというと・・・

Lethality Enhancer explosive load

PAC3の炸薬量は僅か0.35kg(0.77lb)です。炸薬量350gは例えば57mm砲弾の炸薬量と同程度です。PAC3と同世代で近い大きさのESSM対空ミサイルが弾頭炸薬量41kgなのと比べると桁が二つ違います。リサリティエンハンサー全体でも8kgしかないので、この方式は通常の爆風破片方式よりも5分の1の重量で済みます。

PAC3は通常の対空ミサイルには無いサイドスラスターを多数装備しており、その分だけ機動性が高いのですが、炸薬を搭載するスペースと重量が無くなってしまいました。弾道ミサイルのみに対処する気なら直撃方式で炸薬は要りませんが、意思を持って回避機動を行う航空機に対処する場合は爆風破片方式が望ましいです。しかし通常通りの炸薬を積もうとすると重くなり機動性が鈍くなるので、重量が少なくて済むリサリティエンハンサーを搭載する事にしました。リサリティエンハンサーは効果範囲が狭いので機動性の低い対空ミサイルには不向きであり、つまりPAC3はサイドスラスターで得た機動性の代償にリサリティエンハンサーを選んだとも言えます。

極端に少ない炸薬は起爆後に重いタングステンペレットを遅い速度で展開させていきます。効果範囲が非常に狭いリサリティエンハンサーは「展開したタングステンペレットによりPAC3の見掛け胴径を大きくする」という、直撃方式の延長として考えられています。直撃を狙える機動性と精度を持つミサイルでなければ採用できない方式と言えるでしょう。そして一発が重いタングステンペレットは弾殻破片よりも「致死性が強化」されており、巡航ミサイルなどを確実に破壊できます。

リサリティエンハンサーの起爆タイミングはミサイル誘導用のミリ波アクティブレーダーシーカーで測ります。リサリティエンハンサーは目標から外れた場合の指令自爆処理用としても使われます。なお参考にした資料はPAC3の環境影響評価書です。

[PDF] PATRIOT Advanced Capability-3. (PAC-3) Life-cycle. Environmental Assessment. May 1997



【追記資料】
PAC3の前身「ERINT」のリサリティエンハンサーとサイドスラスターの図を追加。
※細かい仕様はPAC3とERINTでは異なる。

ERINT
※リサリティエンハンサー断面図。赤色が炸薬、緑色がタングステン。
タングステンペレットが二列で背後の炸薬量の厚みが違うのは、起爆後の飛散距離に差を付けて二重に展開する為。起爆後の略図。

ERINT
※サイドスラスターモジュール断面図。

[PDF] Subsystems for the Extended Ranger Interceptor (ERINT-1) Missile May 1992
14時41分 | 固定リンク | Comment (65) | ミサイル防衛 |
2012年04月19日
韓国国防部が新たに対地ミサイルの試射動画を公開しました。前半は短距離弾道ミサイル(クラスター弾頭)、後半は巡航ミサイルです。北朝鮮のロケット発射や新型長距離弾道ミサイルの公開、核実験の兆候に対しての牽制と思われます。


South Korea Ballistic Missile & Cruise Missile

前半の短距離弾道ミサイルは恐らく玄武2B、これが初公開です。
後半の巡航ミサイルは玄武3シリーズです。

短距離弾道ミサイル

玄武2Bの外形はロシアのイスカンダル短距離弾道ミサイルに非常によく似ています。

クラスター子弾

綺麗に散らばったクラスター子弾も一発がかなり大きく総数は30個程度で、米軍のATACMS短距離弾道ミサイルの小型クラスター子弾大量搭載とはコンセプトが異なるようです。玄武2短距離弾道ミサイルについては、ロシアの弾道ミサイル技術をスパイ行為で得て開発された事が朝鮮日報で報じられています。
어느 사업가의 고백 "내가 ICBM (대륙간 탄도미사일)한국에 들여왔다"(朝鮮日報 2011年6月25日)

ですが、玄武2Bがここまでイスカンダル短距離弾道ミサイルに似ているのは予想外でした。ロシアから得た技術はもっと古いものとばかり・・・

比較・玄武2Bとイスカンデル
17時23分 | 固定リンク | Comment (170) | ミサイル防衛 |
2012年04月15日
今日行われた北朝鮮の軍事パレードでICBM級の新型長距離弾道ミサイルが登場しました。最初に見た時は段付き形状からノドンだと思ったのですが、TEL(弾道ミサイル輸送起立発射機)のタイヤの数を数えて見て驚きました。片側8輪、つまり計16輪もあったのです。これはロシア軍のICBMであるトーポリMのTELのタイヤと同じ数です。一方、準中距離弾道ミサイルであるノドンのTELは10輪です。

新型長距離弾道ミサイルとノドン

ノドンとは完全に規模が違います。ロシアのトーポリM並みのサイズであり、ミサイルの全長は20mはあるでしょう。全長も直径もノドンを一回りから二回りは大きくなっており、ムスダンよりも重く、テポドンよりは小さいサイズと推定できます。射程は最低でも5000〜6000kmは狙っていると思われ、それ以上かもしれません。三本の白いラインが引かれているのが気になりますが、もしかすると三段式のミサイルである可能性があります。固体燃料を使用している可能性も考えられます。またこの16輪のTELは中国の重野戦トラックに良く似ており、直接購入して改造したものかあるいは開発の参考にしている可能性があります。

WS51200

開発:湖北三江航天万山特种车辆有限公司
生産:三江瓦力特特种车辆有限公司 
WS51200トラック 
駆動形式16×12 
エンジン522kW(700馬力)
整備重量42トン 積載重量80トン 
寸法20110mm×3350mm×3350mm
21時00分 | 固定リンク | Comment (118) | ミサイル防衛 |
2012年04月13日
打ち上げ失敗と発表=北朝鮮:時事通信
http://i.jiji.jp/jc/i?k=2012041300519
北朝鮮、ミサイル発射失敗=上昇後分解、黄海に落下:時事通信
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012041300158&j4

発射後に数分で爆発が発生し、最後は空中分解しながら黄海に落ちた模様です。

失敗の様子を推定したCG動画

North Korea launch failure

正常に飛んだ場合のCG動画

North Korean Launch - April 2012
12時29分 | 固定リンク | Comment (182) | ミサイル防衛 |
2012年04月12日
北朝鮮のロケット発射予告に対して日本はPAC3とイージス艦を配備して迎撃体制を整えました。この動きに対し、朝日新聞が社説で理解を示しています。

(cache)朝日新聞社説・2012年4月5日(木)付 「北朝鮮ミサイル―発射させぬ外交努力を」

 北朝鮮のミサイルは、沖縄県の先島諸島上空を通過するとみられている。

 日本の領土や領海に落ちてきた時に備え、自衛隊は海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を積んだイージス艦3隻を日本海と東シナ海に展開する。さらに地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を首都圏と沖縄県内にそれぞれ置く。

 こうした措置を取るのは、2009年以来、2回目だ。可能性は低くても、できる限りの準備をする。この対応には国民の理解も得られるだろう。

 国連安保理決議に違反する北朝鮮の行為には、日本政府として厳しく対処する姿勢を内外に示すという意味もある。

 自衛隊の迎撃態勢を整える一方で、外交包囲網を活用して発射中止を粘り強く働きかける。傍若無人な北朝鮮を抑え込む即効性のある妙案を見いだせない現状では、それしかない。


基本的には外交努力で解決すべき、しかし外交で解決出来る妙案が無い以上、万が一の備えとしての迎撃体制は当然ーそしてミサイル防衛という軍事力の誇示を以て日本政府の姿勢を内外に示すべきーこれは朝日新聞の主張です。

朝日新聞が社説でミサイル防衛の配備に賛同する日が来るとは、とても驚きました。迎撃体制を整えているのは日米だけでなく、韓国や台湾、ロシアも北朝鮮ロケットの迎撃体制を整えているとはいえ、朝日新聞のこれまでの論調とは大きく異なる方向転換です。
23時05分 | 固定リンク | Comment (102) | ミサイル防衛 |