このカテゴリ「ミサイル防衛」の記事一覧です。(全138件、20件毎表示)

2010年01月14日
これは驚きました、中国が「陸基中段反導迎撃技術試験」と称していたのは、実際に中段(Mid-course)で行われた迎撃実験だった模様です。アメリカ側も大気圏外での二つのミサイルの衝突を確認しました。


China did not notify US before anti-missile test: Pentagon | AFP
"We did not receive prior notification of the launch," said Pentagon spokeswoman Major Maureen Schumann.

"We detected two geographically separated missile launch events with a exo-atmospheric collision also being observed by space-based sensors," she said after China announced a successful test of its missile intercept system.


アメリカ国防総省のシューマン報道官は、中国のミサイル防衛実験は大気圏外(exo-atmospheric)で行われたと発言しています。しかし具体的な高度は示しませんでした。ただ大気圏外であることは明言されており、そうなると、初期報道で各国が予想していた地対空ミサイルHQ-9(ロシア製S300PMUのコピー)による実験ではない事が確実となりました。HQ-9はパトリオットと同様、大気圏内でしか使用できません。つまり実験に使われたのは別の何かです。

中国側の報道でも、依然として当局からの公式発表の追加はありませんが、識者の見解では「PAC3やHQ-9のような終末防御系統ではない」「今回行われた実験は中間段階防御系統である」「陸基中段反導の核心技術は確定することは出来ない」といった内容のものが見受けられるようになりました。

果たして中国は本当にアメリカのGMD(Ground-based Mid-course Defense)に相当するものを作成できたのでしょうか? GMDの使用ミサイルGBI(Ground Based Interceptor)の弾頭部分EKV(Exo-atmospheric Kill Vehicle)に相当するものを作り得たのでしょうか?

私は懐疑的に思えます。というのも、実はミサイル迎撃実験はインドも実行済みなのですが、2006年11月27日に行われた最初の実験は、単に弾道ミサイル2つを飛ばして空中で衝突させる実験で、迎撃ミサイル実験というよりは2つのミサイルが交差するように飛行させただけの空中衝突実験といった趣向のものでした。インドはその後に2007年と2009年にミサイル防衛実験を行い、こちらはちゃんとした迎撃ミサイルを使用したものでした。


インドが短距離ミサイルの迎撃実験に成功 (2006年11月28日 朝日新聞)
インド国防省は27日、東部オリッサ州沖で短距離弾道ミサイル「プリトビ2(射程250キロ)」を使ったミサイルの迎撃実験をし、成功したと発表した。時間差で発射した同型の二つのミサイルを、敵のミサイルと迎え撃つ自国のミサイルに見立てて衝突させた。迎撃実験はインドでは初めてで、ミサイルを使った防衛能力の強化のためとしている。

プリトビ2は核弾頭の搭載可能なミサイル。隣国のパキスタンへの対抗上開発され、96年1月に初めて実験に成功した。すでに軍は実戦配備をしているが、「軌道の正確性にはまだ課題がある」と言われてきた。


つまり、インドが2006年に行った最初のミサイル防衛実験のように、迎撃実験というよりは衝突実験といった感じのものならば、特別な技術が無くても実行可能です。これはむしろ人工衛星破壊実験に近い内容のもので、二つのミサイルの軌道を正確に計算し、適切なタイミングで交差させればよいわけです。そして中国は既に2007年に宇宙空間での人工衛星破壊実験を成功させています。ならば大気圏外で二つの弾道ミサイルを交差衝突させる事も可能だと思われます。インドのプリトビ2は短距離弾道弾なので大気圏外での衝突ではありませんでしたが、中国ならば中距離弾道弾を使用して実行可能でしょう。

勿論、インドがその後にちゃんとした迎撃ミサイルを使用した実験へと進化させているように、二つの弾道ミサイルを衝突させるだけの実験はそれだけでは迎撃ミサイルとは成り得ません。本格的な迎撃実験の前の下準備、あるいは単にデモンストレーションでやって見せただけ、どちらかの可能性があります。

もちろん、これは私の勝手な憶測であり、中国が今回行ったミサイル防衛実験はちゃんとした迎撃ミサイルである可能性も有り得るのですが、大気圏外で自律機動する迎撃体の制御が最先端技術であることを考えると、ロシアですらまともな実験すらできていない物を、中国が一足飛びに作ってくるとは考え難く、このような予想となりました。

もし中国がミサイル防衛でミッドコース迎撃能力を本当に取得した場合、将来的にICBM迎撃能力を獲得してくる事になります。そうなればミサイル防衛という軍事技術の持つ意味が、劇的な変化を迎えることになるのは間違いないでしょう。

01時00分 | 固定リンク | Comment (143) | ミサイル防衛 |

2010年01月12日
もはや避けられないMD思想・・・ノーボスチ・ロシア通信が2年前に予見した記事は、やはり正しかったようです。今度は中国が独自のミサイル防衛システムの構築に乗り出しました。


ミサイル迎撃実験、中国が成功…異例の公表:読売新聞
【北京=関泰晴】新華社電によると、中国は11日、弾道ミサイルの迎撃実験に成功した。

実験に使った迎撃ミサイルは地上発射型のものと見られるが、形式や規模などの詳細は伝えていない。迎撃実験は国内で行われ、新華社電は「所期の目的を達成した」と成果を強調した。

中国がミサイルの迎撃実験成功を公表するのは異例。米国が台湾向けに、ミサイル防衛用の地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)の発注企業を選定したことを受けて、米国をけん制する狙いもあるとみられる。

ただ、中国外務省は「実験は防衛のためのもので、いかなる国に対するものではない」と表明し、中国に対する軍事脅威論が高まるのを警戒している。


しかしこれはPAC3台湾配備に対する牽制には全くならないでしょう。何故ならミサイル防衛は防御兵器ですから、弾道ミサイルを持っていない台湾への対抗策と成り得ないからです。このタイミングでの発表は、中国の国内世論向け(台湾だけじゃなく俺たちにもMDはあるぞ、という)といった感じでしょうか。でもアメリカは逆に台湾MD配備の正当性が得られて喜ぶんじゃないでしょうか。

取り敢えず・・・「実験は防衛のためのもので、いかなる国に対するものではない」・・・このフレーズは日米のMD実験にも使えますね。

なお、新華社電の元記事はこれです。簡素な内容で、詳しい事は全く不明です。

http://news.xinhuanet.com/world/2010-01/11/content_12792321.htm

anti_missile.GIF 
この文字がミサイル防衛を意味します。日本語の漢字で該当するのは「反導」で、この"導"とは誘導弾(ミサイル)の意味です。

gmd.GIF
この文字が意味するのは陸上ベースでミッドコース・・・つまりアメリカのGMD(Ground-Based Midcourse Defense)に相当するシステムだと主張したいようなのですが、中国が突如として其処までの性能のものを作れるとは思えないので、ハッタリでしょうね。それとも「陸基中段」の中段(Midcourse)という部分の意味を理解していないのか・・・

intercept.GIF
この部分は日本の漢字で表すと「迎撃技術試験」です。
01時55分 | 固定リンク | Comment (161) | ミサイル防衛 |
2009年10月29日
ハワイ沖で海上自衛隊のイージス艦「みょうこう」が弾道ミサイル防衛のSM-3発射テスト「JFTM-3」に成功しました。これで海上自衛隊のMD改修艦は3隻目です。来年は「きりしま」による試験が予定されています。



なお「JFTM」とは「Japanese Flight Test Mission」の略語です。



MDA公式から凝った編集の動画も上がっています。

それと微妙に関係のあることですが、10月27日のテレビ朝日「報道ステーション」に置いて、その日に発生したヘリコプター護衛艦「くらま」と韓国コンテナ船の事故に関連して、昨年のイージス艦「あたご」の漁船衝突事故が引き合いに出されていましたが、大きな間違いがありました。

古舘伊知郎アナウンサーは「あたごの事故はMD試験の帰りで・・・」と、間違った事をま〜だ言っていたのです。

(2008/02/20)イージス艦事故で報ステが捏造報道

そうですか、昨年に行った間違いをまだ理解せずに報道し続けていた訳ですか。誰も古舘アナを正さなかったのですか。電話取材の田岡俊次氏も頷いていたそうですが、軍事ジャーナリストがそこで正さないと一体誰が正すんですか?

昨年、「あたご」がハワイの演習海域で試射したのは通常型の艦対空ミサイル「スタンダードSM-2」であって、MD用のSM-3ではありません!

ああ、その場に居合わせたのが岡部さんだったら即座にツッコミが入っていた筈なのに、元帥使えないな、もう。

誤報垂れ流しの報道ステーション、いい加減にしてくれませんか? あたご型にはまだSM-3搭載改修の予算は組まれていません。自衛隊は、恐らく開発中のSM-3Block2が出て来てから搭載する気です。今のところは、あたご型にSM-3発射能力はありません。
01時44分 | 固定リンク | Comment (86) | ミサイル防衛 |
2009年09月20日
東欧MD配備中止で日本のMDも用無しだと勘違いした人も出ているので、その逆である事を知らしめる為に、もう少し強調した書き方をしてみます。タイトルの内容を簡単に説明すると、以下のようになります。

○東欧MD(GBI)配備計画が中止。

○新欧州MD(SM-3)配備計画へ移行。

○欧州用にSM-3の能力向上と地上配備型の開発。

○SM-3を主軸とする日本MDにも開発成果が反映される。

東欧MDは対ICBM(大陸間弾道弾)用のGBIというミサイルを使用するものでした。しかしイランのICBM開発計画は停滞していると判断されて、東欧MDの配備計画が中止され、代わりに対IRBM(中距離弾道弾)用のSM-3という、イージス艦に搭載するミサイル防衛システムを欧州防衛用に配備する方針が米オバマ政権の新しい選択です。その計画の中にはSM-3を地上配備型に改修する開発が含まれていると共に、「SM-3 Block IIB」の名前も挙がっています。これはMKVと呼ばれる多弾頭迎撃体で、敵の多弾頭ミサイル(MIRV)への対処が可能となります。つまりこれらの開発成果を日本が望めば得ることも可能となるわけです。



東欧MDの代替案は事前に移動式GBIとSM-3地上型が挙がっていましたが、米オバマ政権はSM-3を選びました。ロシアは1997年にABM制限条約の詳細な条件をアメリカと取り決めましたが、この時に対IRBM用のMDは無制限としている為、基本的に対IRBM用であるSM-3には反対できない状況です。ABM制限条約自体は失効しましたが、過去に米露が合意した事実は残り、ロシア自身もMD(S300Vなど)を装備している為、対ICBM用のGBIだった東欧MDとは異なり、SM-3の配備は問題に出来ないでしょう。ただしICBMに対処できるほどの性能向上を図る計画もあり、そこまでいけば配備位置次第でロシアが文句を付けてくる可能性がありますが、今のところはロシアは歓迎の意を表しています。SM-3の弾体サイズはMk.41VLSに収納する為に大きさの制限があり、幾ら改良を施しても対ICBM広域防空は無理な話なので、対ICBM対処能力を付与するにしても限定的なものになります。


(2009/08/22)移動式GBI(ICBM迎撃可能な大型ミサイル防衛システムの自走化)
そうなると東欧MD配備はある程度頓挫して、この代替案(移動式GBI、SM-3地上型)に移行して貰える方が日本にとってメリットが大きいです。


と言う訳で、当ブログで一ヶ月前に出していた希望通りの展開となりました。ポーランドのカチンスキー大統領には悪いのですが、東欧MDは配備されようがされまいが日本には何の影響も有りません。GBIは日本が購入できるものではないからです。東欧MDが中止され、代替としてSM-3の配備が促進され、改良型の開発に予算が投入される事は、日本にとっては大きなメリットが転がり込んでくる事になります。

米オバマ政権は今年の春に方針が発表された2010年度防衛予算でも、GBIや開発中のMDの予算を削る一方でSM-3とTHAADの増強を打ち出しています。オバマ政権のMD政策がSM-3に傾倒していく兆候はこの時点でも出ていました。そしてそれは日本のMD政策にとっても都合の良い方針であり、この流れで日本のMDはどんどん強化されていく事になります。もちろん日本側にその意思と予算があればの話ですが、例えやる気があっても環境が整備されていなければ配備が困難なMDなので(自主開発は無理なので共同開発している)、用意された環境が理想的なこの状況は、棚ボタ的ですがとても美味しい話です。

しかし日本では政変があり、新たな民主党政権ではMD政策に何らかの変化がある可能性があります。民主党は以前からMDには賛成の立場でしたが、ネクスト防衛副大臣だった山口壮議員はMDに否定的な見解を述べています。その根拠はデタラメなもので、山口壮議員は実際には防衛副大臣には就任しませんでしたが、公約実現の為に財源を探している民主党がMD予算に手を付けようとする可能性は残っています。

(2009/09/11)民主党・山口壮議員「ミサイル防衛の撃ち落せる確率は100分の1」・・・しかし数値には何の根拠も無し・・・
(2009/09/12)民主党・山口壮議員のMD撃墜率1%発言は完全にデタラメであった事が判明

軍事評論家の岡部いさく氏は19日に行われたFNNのインタビューに対し、このように述べています。


米・オバマ大統領、東ヨーロッパへのミサイル防衛計画を全面的に見直すと発表:FNN(動画)
岡部氏は「SM-3ブロック2Aの開発における日本政府の責任というのは、これはもう技術的にも、政治的にも非常に重いものになりますね。もし、このミサイルの開発が遅れれば、オバマ大統領のミサイル防衛構想にまで波紋が広がっていくわけです」と語った。


つまり日本の民主党が日米共同開発のSM-3Block2の完成を妨害するような手出しをした場合、アメリカのオバマ政権が押し進めているMD構想に喧嘩を売る事になり、日米関係に重大な歪みを生じさせかねない事になります。オバマはMDに否定的なのでは無く、自国派遣軍と同盟国を守り、以前にロシアとも合意済みの対中距離弾道弾用MDであるSM-3とTHAADならば、強力に推進する立場である事を理解しなければなりません。岡部いさく氏の「日本政府の責任は非常に重い」という意味は、そういう事なのです。



SM-3Block2の日本担当部分は赤外線シーカー、ノーズコーン、ミサイル本体のロケットモーターなどですが、3年前にキネティック弾頭を丸ごと試作しています。日本の制作したキネティック弾頭の姿勢制御モーターは連続推進方式ですが、アメリカのものはパルス推進方式です。前者の方が精度は上がりますが噴射時間が短くなり、後者はその逆です。採用されたのは後者です。



米オバマ政権のMD政策がSM-3重視によりシフトした結果、2010年防衛予算から削られたMKV(多弾頭迎撃体)の開発が復活する可能性が高くなった事は、SM-3の更なる重視は読めていてもそこまでの予測は出来ていませんでした。最近のアメリカの報道で「SM-3 Block IIB」の名が出ていたのを見付けた時は、大変に驚いたものです。ただしこれに関する詳細は出ておらず、当初の計画通りのMKV(多弾頭迎撃体)のままなのか、新しく単弾頭で能力向上型を造るのかは、まだ情報が何も出ていません。普通に考えれば呼称が同じなら当初の計画通りになるのですが、例えイランがICBMを開発したとしてもMIRV(多弾頭独立目標再突入体)までは簡単に開発できるとは思えず、対イランに限定するならMKVはまず要らないという話になる為、ゲーツ国防長官が「SM-3 Block IIB」の名を出した意味をもう少し探る必要があります。

では最後に米オバマ政権のMD政策を勘違いしている人を紹介しておきます。

MDよ、さようなら 「おまかせ民主主義」よ、さようなら:安住るり★興味津々

JANJANにも投稿しちゃったんですね。(JANJAN版

ミサイル防衛はサヨナラしていません。東欧MD(GBI)配備中止は代替案の新欧州MD(SM-3)との入れ替わりとなっただけだからです。そしてこの変遷は日本にとって美味しい状況が生まれていますし、世界中を見渡してもミサイル防衛システムを採用する国はどんどん増えています。

アメリカ・・・GBI、SM-3、THAAD、PAC-3を配備。
イスラエル・・・アロー・ミサイル防衛システムを配備。
日本・・・SM-3、PAC-3を配備。
ロシア・・・S300V、S400(40N6)を配備。
中国・・・HQ-18(ロシア製S300V)を配備。
インド・・・ロシア製S300Vを配備。
韓国・・・SM-6のMD対応型を導入検討。
ドイツ・・・MEADS(中身はPAC-3MSE)の配備を予定。
フランス・・・艦対空アスター・ミサイルMD型を開発中。
イギリス・・・同上。
イタリア・・・MEADS及びアスターMDの配備を予定。
オーストラリア・・・SM-3とイージス艦を購入予定。
アラブ首長国連邦(UAE)・・・THAADの購入を決定。
サウジアラビア・・・THAADの購入を検討。
トルコ・・・PAC-3の購入を検討。
台湾・・・天弓MD型「天弓3型」を開発。

ザッと思い付くだけで16カ国が配備済み或いは導入検討中となっています。

もはや避けられないMD思想:ノーボスチ・ロシア通信社

上はロシア国営通信社のノーボスチによる日本語版の記事です。2年前の記事ですが、現在の状況を再認識するのによいと思います。結局オバマは欧州からMDを無くさず、新しい計画案を出してMDを続行する気であり、ロシアもそれを容認する方向へと向かっています。
05時17分 | 固定リンク | Comment (294) | ミサイル防衛 |
2009年09月18日
東欧MD配備計画(固定式GBI)の代替案は移動式GBIではなく、SM-3となる模様です。


米国:東欧MD見直し…ロシアに配慮、中短距離対象に:毎日新聞
オバマ大統領は「情報機関の評価は、欧州に到達するイランの中短距離ミサイルの脅威を強調している」と述べ、イランの長距離ミサイルを想定した現行計画の変更の必要性を強調。「既に技術的に証明され、費用対効果が高く、脅威に対応できる方法を導入する」と語り、中短距離ミサイルへの対応として海上自衛隊のイージス艦にも配備されている迎撃ミサイルSM3などを欧州に配備する考えを示した。

ホワイトハウスの発表によると、新たな計画では2011年にSM3や移動式のレーダーなどのシステム整備に着手、開発中の地上配備型SM3を含め4段階で整備を進める。20年からの最終段階で、大陸間弾道ミサイルに対応する能力を備える想定となっている。


地上配備型SM-3もやるんですか、それならば日本もそれを配備できる選択が出て来ます。イスラエルがSM-3地上型を蹴ってアロー3計画の存続を選んだ為、日本の為だけにSM-3地上型を用意してくれるかどうか微妙でしたが、欧州に配備されるというなら話は早いです。


(2009/08/22)移動式GBI(ICBM迎撃可能な大型ミサイル防衛システムの自走化)
そうなると東欧MD配備はある程度頓挫して、この代替案(移動式GBI、SM-3地上型)に移行して貰える方が日本にとってメリットが大きいです。


取り合えず以前行った希望通りの展開ですね。

4段階の新欧州MD配備計画の詳細は以下の通りです。


U.S. Yanks European GBIs; Plans SM-3s | AVIATION WEEK
The new plan has four phases, the first to be fielded in 2011. It is a mix of Patriot and PAC-3 terminal defenses as well as ship-based SM-3 Block IAs made by Raytheon and deployed in the Eastern Mediterranean and other areas around Europe.

Phase two in 2015, will incorporate land-based and ship-based SM-3 Block IBs (with an improved seeker and divert and attitude control system) and airborne sensors, Cartwright says. Poland and the Czech Republic are among the top candidates to house the relocatable land-based system. The U.S. Missile Defense Agency already has begun to experiment with infrared sensors on unmanned aerial vehicles as a facet of its sensor network.

In 2018, the land- and sea-based SM-3 Block IIA, which adds more range with a 21-in. booster (over the IA and IB’s 14-in. motor), will lead the third phase. This significantly increases range, and Cartwright says up to three sites would be required to protect Europe.

Finally, in 2020, phase four will include a new and yet-to-be described SM-3 Block IIB, which Cartwright says will counter an ICBM from Iran.


ええっ、「SM-3 Block IIB」って、多弾頭タイプの名称じゃ・・・MKV(マルチプル・キルビークル)計画を復活させるんですか? それともMKV計画の中止を受けて、単弾頭タイプの改良型の呼称として新たに使われているのか・・・少し調べて見ましたが、分かりませんでした。ただこの件の記事で AVIATION WEEK 以外の報道記事でも「SM-3 Block IIB」と記されています。




まさかの開発予算復活?
02時34分 | 固定リンク | Comment (96) | ミサイル防衛 |
2009年09月17日
東欧ミサイル防衛配備計画は棚上げする事となり、このまま中止となりそうな状況です。


米政府、東欧でのミサイル防衛施設計画を棚上げへ:ロイター
米政府は、ブッシュ前政権が打ち出したポーランドとチェコにミサイル防衛(MD)施設を建設する計画を棚上げにする方針を決めた。米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙(電子版)が17日、現政権および前政権の関係者の話として伝えた。

事実とすれば、米のMD施設東欧配備に反対しているロシアとの緊張緩和につながる。WSJは、「イランの長距離ミサイル計画が想定していたほど進展しておらず、米国本土および欧州主要都市に与える脅威が後退したとの判断」を踏まえた決定としている。


ウォールストリート・ジャーナルの元記事はこちら。

U.S. Shelves Nuclear-Missile Shield - WSJ.com

キャンセル(中止)ではなくシェルブ(棚上げ)なので完全に無くなった訳ではない(イランの核ミサイル開発状況次第で復活の可能性)ですが、実質上はそのまま配備計画は中止の方向になるでしょう。

そうなると移動式GBIの開発計画にシフトする可能性もあります。

(2009/08/22)移動式GBI(ICBM迎撃可能な大型ミサイル防衛システムの自走化)

ただこの計画は射撃管制レーダーをどうするのか、移動式レーダーの大きさではGBIの能力を活かす事は出来ず、運用面で問題点がある為、この部分を解決しない限りは計画は進まないでしょう。

東欧ミサイル防衛計画は固定サイロ式のGBIである為、この計画がどうなろうと日本には特に関係はありませんでした。もし代替案で移動式GBIが開発された場合、その時に初めて日本にも関係のある話になり得ます。今後、海上移動式GBI開発案でも出て来れば日本にとって棚からぼた餅なのですが、今のところはトレーラー車載式の簡単な案のみです。

さて今日は、航空自衛隊の高射部隊がアメリカのホワイトサンズ演習場で、PAC-3発射訓練を行ってきた発表がありました。


ペトリオットPAC−3ミサイル発射試験の結果について:日本国防衛省
弾道ミサイル防衛(BMD)機能を付加するための改修が行われたペトリオット・システム(ペトリオットPAC−3)のBMD機能を確認するため、9月16日午後11時46分(現地時間16日午前8時46分)、アメリカ合衆国ニューメキシコ州のホワイトサンズ射場においてPAC−3ミサイルの発射試験を実施し、弾道ミサイル模擬標的の迎撃に成功したので、お知らせします。


この射撃演習で使用されたPAC-3は、日本側でライセンス生産した物を使用しています。

また10月26日にはハワイのカウアイ島沖で海上自衛隊のイージス護衛艦「みょうこう」がSM-3射撃演習を行います。これでイージス護衛艦のミサイル防衛能力付与は3隻目となる予定です。
22時04分 | 固定リンク | Comment (41) | ミサイル防衛 |
2009年09月12日
山口議員の事務所からはお返事はありませんでしたが、ミサイル防衛の撃墜率が1%という数値の詳細部分が見付かりました。勿論それは根拠と言うには程遠い、山口議員による妄想の産物でした・・・


BSフジLIVE PRIME NEWS 9月3日(木)放送内容
防衛費・概算要求の行方は?

主な装備品の概算要求を見ながら山口議員が「BMD(ミサイル防衛)に関しては、もっと議論すべきだと思う。爆撃機を対空防衛で落とせる確率は20〜30%と言われている。爆撃機ですらそうなのだから、ミサイルであればより確率は0に近くなる。BMDがあるから安全なんだと思わないほうが健全な安全保障政策に近づいていけるのではないか。」と語る。


爆撃機を対空防衛で落とせる確率が20〜30%って・・・それ、第二次世界大戦での話でしょう?

戦闘機の機関砲と地上の高射砲で戦っていた時代の話を現代のミサイル戦闘に当て嵌めようとしても、全く無意味です。そうですね・・・では分かり易い例え話をしましょうか。取り合えずイージス艦を思い浮かべてください。これに対艦ミサイルで攻撃を加えて、対空戦闘を始めます。では撃墜率は何%になるでしょうか?

撃墜率1%? するとたった1本の対艦ミサイルで大抵沈んじゃいますね。
撃墜率30%? するとたった2本の対艦ミサイルで9割方沈んでしまいます。

イージス艦ってそんなに弱い代物でしたっけ?違いますよね? 現代の最先端の対空ミサイルとその管制システムは大変に高い撃墜率を誇ります。60年前に機関砲や高射砲で戦っていた時代とは違う事を、山口壮ネクスト防衛副大臣は理解すべきでしょう。

ちなみに第二次世界大戦当時に、戦略爆撃で重爆撃機編隊に毎回20〜30%の損耗率が出たら、爆撃作戦の継続がほぼ不可能なレベルになります。2回出撃させただけで爆撃戦力が半減してしまうのですから。この場合は迎撃側の勝利が見えてきます。当時、頑丈な重爆撃機は、機関砲や高射砲ではなかなか撃墜する事は出来ませんでした。ですが今では対空ミサイルがあります。命中率も破壊力も段違いですから、対空ミサイルが1発でも当たれば撃墜或いは重大な損傷を負って撃破されてしまいます。

例えば中東戦争でシリアエジプト空軍は、保有していた多数のTu-16バジャー爆撃機を殆ど出撃させませんでした。イスラエル軍の対空防衛網が生きている限りは、鈍重な大型爆撃機を飛ばしても空飛ぶ棺桶になるだけなので、出さなかったのです。これは無理に出撃させたら全機、帰って来れないと判断した為です。

爆撃機を対空防衛で落とせる確率は、条件次第で幾らでも変わってきます。もし今の時代でTu-16バジャー爆撃機に通常爆弾を積んで日本を攻撃した場合、簡単に全滅するでしょう。一機たりとも帰って来る事は出来ません。だから中国はTu-16の改良型Tu-16K(H-6K)で胴体内爆弾倉を廃止し、翼下に6発のDH-10(東海10)巡航ミサイルを装備するようにしています。これだと巡航ミサイルが撃墜されてしまう可能性はあっても、その発射母機が危険に晒される事はありません。現代の対空戦闘は敵ミサイルを対空ミサイルで迎撃する場合が多くなります。巡航ミサイルが相手の場合は、通常の航空機が侵入してくるのと同じ迎撃態勢が使えます。

そこで問題となるのが弾道ミサイルです。これは従来の装備では対応が困難な目標であり、ミサイル防衛という迎撃手段が出てきます。

前回の記事でも書きましたが、湾岸戦争時、MD用の装備ではなかったPAC-2ですら、山口壮ネクスト防衛副大臣の主張する『MD撃墜率1%』を遥かに上回る戦績を弾道ミサイル相手に叩き出しています。ましてや、MD用装備として開発されたPAC-3やSM-3ならば、更にそれ以上の撃墜率を叩き出せる事は明白です。

既に実戦でのデータから、山口壮ネクスト防衛副大臣の掲げる数値がデタラメである事が分かっています。またその数値に至る発想部分も、「爆撃機で撃墜率30%ならミサイル相手なら1%だろう」という勝手な憶測に過ぎず、迎撃システム側もミサイルである事を失念した結果です。濃密な対空ミサイル網に爆撃機が不用意に侵入すれば全滅も十分に有り得ますし、相手が弾道ミサイルであろうと、専用設計で作られた迎撃装備であるミサイル防衛システムならば、完成度次第で高い撃墜率を発揮するでしょう。そもそも対爆撃機と対弾道ミサイルでは使用する迎撃システム自体が違うのであり、爆撃機で撃墜率30%なら弾道ミサイル相手なら1%とか言うような直接的な比較は、そもそも出来ません。


BSフジLIVE PRIME NEWS 9月3日(木)放送内容
どうする?「新・防衛大綱」

「防衛大綱書き換えの年だが、民主党は来年以降に先送りして抜本的に見直す方針」という反町キャスターの問いかけを受けた能勢委員長が「総理大臣の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」(通称:有識者懇)を総入れ替えすることも検討中という話もあるが?」と山口議員に質問する。

山口議員は「有識者懇で実質的な内容が決まるわけではなく、参考意見をいただき政治家が決める。但し、防衛大綱の書き換えに関しては、時間が欲しい。今回の政府予算案には間に合わないことははっきりしているので、次年度以降として欲しい。来年度予算は、今までの内容をある程度飲み込んだものとなる。

防衛大綱を国民に理解してもらいたい。イージス艦導入の際には議論がなかった。本来、イージス艦は空母を護るための船だが日本には空母はない。
防衛大綱は有識者懇の内容で決めるのではなく、国民の了解と理解を得た上で決めたい。」と説明した。


山口壮ネクスト防衛副大臣のイージス艦に対する認識は10年遅れています。これまでイージス艦を配備した国はアメリカ、日本、スペイン、ノルウェー、韓国の5カ国ですが、この内イージス艦導入時に空母を保有していた国はアメリカとスペインの二カ国だけです。空母が無ければイージス艦の意味は無いといった論調は、今ではもう意味を成していません。

それに今や日本はスペインの空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」よりも大きな「空母型護衛艦」を2隻保有(護衛艦ひゅうが、護衛艦いせ)しています。更には空母の護衛などしなくても、イージス艦には弾道ミサイル防衛という新たな任務(それもイージス艦にしか出来ない)を与えられているのですから、日本がイージス艦を導入した事は結果的に正解でした。勿論、これらは結果論です。ですがイージス艦が空母を守るためだけにあるのではない事は、導入当時でも分かっていた事の筈です。
19時22分 | 固定リンク | Comment (726) | ミサイル防衛 |
2009年09月11日
今までずっと民主党は、野党時代からミサイル防衛に賛成の立場だったのに、政権に就いた途端に態度を翻しました。防衛予算の大幅削減は警戒していましたが、ミサイル防衛の予算部分に手を付けるために今までの主張を翻すとは・・・まだ党としての決定ではなく、ネクスト防衛副大臣の発言ですが、日米共同開発中のSM-3Block2はとりあえず安泰としても、THAAD導入に暗雲が漂ってきました。


民主・山口氏:ミサイル防衛「役に立たない」、縮小検討を:Bloomberg
民主党の山口壮「次の内閣」防衛副大臣はブルームバーグ・ニュースのインタビューに応じ、北朝鮮のミサイル開発などを受けて自民党政権が進めてきたミサイル防衛は「役に立たない」などと述べ、民主党を中心とする新しい連立政権では2010年度以降は予算規模の縮小を検討すべきだとの認識を明らかにした。

インタビューは10日行った。山口氏は、防衛省が提出した2010年度概算要求で防衛関係費が前年度比3%増と伸びたことについて「あれだけ不祥事が続いている防衛省がなんで3%増だという感じはする。子ども手当や教育、医療など他にいろんなことをやらないといけない」として、増額を認めるべきではないとの考えを示した。

その上で、具体的な見直し対象として、「ミサイル防衛は役に立たない。撃ち落せる確率は100分の1か2ぐらいだ。比重を下げられる」と述べ、弾道ミサイル対応にかかわる経費を挙げた。

防衛関係費は2003年度から09年度まで前年度比で7年連続減少していたが、4月の北朝鮮によるミサイル発射などを受け、防衛省は2010 年度概算要求で前年度比3%増の4兆8460億円と増額を求めた。このうち地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の追加整備など弾道ミサイルへの対応経費として1761億円(前年度当初比58%増)を計上している。

山口氏は対北朝鮮問題については「拉致問題で完全に北朝鮮が認めれば日本の援助が始まり、北朝鮮の民主的な傾向が強くなる。時間はかかるがそれしかない」と述べ、地道な外交努力で解決を図ることが必要と訴えた。


元外交官らしく、外交で何でも解決できると思っているみたいですね。軍備とは外交が失敗した時の保険である事を忘れて・・・山口壮ネクスト防衛副大臣は外交安全保障政策の専門家だそうですが、軍事技術に関する知識はゼロに近く、お話になりません。

>ミサイル防衛は役に立たない。撃ち落せる確率は100分の1か2ぐらいだ。

その数値の根拠を提示して下さい、山口壮ネクスト防衛副大臣。

湾岸戦争時、ミサイル防衛用の装備ではなかったPAC-2ですら、この山口壮ネクスト防衛副大臣の主張する撃墜率を遥かに上回る戦績を弾道ミサイル相手に叩き出しています。ましてや、ミサイル防衛用装備として開発されたPAC-3やSM-3ならば、更にそれ以上の撃墜率を叩き出せる事は明白です。

山口壮ネクスト防衛副大臣、勝手な思い込みでデタラメな数値を口走って「役に立たない」と言い張るのは止めて下さい。

衆議院議員 山口つよし 公式サイト

とりあえず、ミサイル防衛の撃墜率に関する数値の根拠をメールで聞いて見ます。電話の方がいいですかね?
21時26分 | 固定リンク | Comment (379) | ミサイル防衛 |
2009年08月29日
1年前にロシアとグルジアが戦争を始めた頃は、ポーランドでミサイル防衛の導入推進が高まりましたが、今は逆に怖くなってきたのか、疑心暗鬼に陥っているようです。


ポーランド:主要紙が「MD計画断念」報道、米は全面否定 - 毎日新聞
 【ウィーン中尾卓司】米国の東欧ミサイル防衛(MD)計画で、ポーランド主要紙は27日、「MD計画断念が確実になった」と一斉に報じた。米国務省当局者は「情報は不正確」と全面否定しており“誤報”の可能性が高い。迎撃ミサイル基地を受け入れるポーランドは昨年8月、ブッシュ前米政権と設置協定に調印したが、1年たっても進展がない。このままではMDに反対するロシアの思うままになる、との疑心暗鬼が“誤報”に走らせたとの見方も出ている。


8月22日書いた記事「移動式GBI」でも触れましたが、東欧MDは中途半端に頓挫してくれた方が代替兵器の開発を促し、日本が恩恵に与れるので、東欧MD配備計画が断念されるなら別に構わないのですが・・・実際に移動式GBIやSM-3地上型の他に、THAAD拡大型の計画案まで出て来ています。

MDA Eyes Longer-Range Thaad Options | AVIATION WEEK

14.5インチ(368mm)→ 21インチ(533mm)への弾体直径拡大で、射程は3〜4倍に、つまり射程1000km近くを狙ったTHAAD長射程バージョン。まだ提案だけの存在ですが、最近になって急に出てきたこれら新提案の存在自体が、ポーランドでの誤報騒ぎを生んだ背景なのかもしれません。というか9月1日にプーチンがポーランド来訪するのか・・・それは怖くなって縮み上がっても仕方が無い事なのかも? 

そしてどうもこの誤報の震源地はポーランド極左紙「トリブナ」らしく、これは日本で言えば共産党機関紙「赤旗」に相当する新聞です。「トリブナ」の前身はポーランド統一労働者党機関紙「トリブナ=ルドゥ」(人民の演壇)です。恐らく思想的に記事へ願望と憶測が入り混じってしまったわけですが、最終的に米オバマ政権が東欧MDを断念、移動式MDに切り替える可能性も十分にあるので、彼らの疑心暗鬼の日々はこれからも暫くは続きます。
02時50分 | 固定リンク | Comment (52) | ミサイル防衛 |
2009年08月28日
4月の北朝鮮によるテポドン発射の際に、日本はミサイル防衛システムによる迎撃態勢を取りました。そしてこの姿勢は国内で一部の批判の声があったものの、国際的には当然の対応であると理解が示され、中でもロシアは日本と同様に迎撃態勢(極東軍管区第203高射ミサイル旅団はS300Vを装備)を用意していました。ロシアはミサイル防衛体制を更に強化する為、最新鋭対空ミサイルS400トライアンフの極東配備を6月に表明しており、このほど配備が完了した模様です。


極東に新対空システム配備 ロ、北朝鮮ミサイルに対応:産経新聞
インタファクス通信によると、ロシア軍のマカロフ参謀総長は26日、北朝鮮のミサイル実験に対応し、ロシア極東地域に最新型の対空ミサイルシステム「S400」を配備したと明らかにした。

北朝鮮のミサイル実験を現実の脅威とみなしていることの表れで、ロシアは引き続き北朝鮮のミサイル発射に厳しい態度を取るとみられる。

参謀総長は、メドベージェフ大統領に同行して訪問したモンゴルのウランバートルで記者団に「北朝鮮のミサイル実験場や核施設はロシア国境から極めて近い」と指摘。S400配備の目的は、北朝鮮のミサイル実験が失敗した場合に破片などがロシア領に落下することを防ぐためだと説明した。具体的な配備場所は明らかにしなかった。

S400は射程約400キロで、ロシア軍最新の対空ミサイルシステム。


実際にマカロフ参謀総長はこのように発言しており、インタファクス通信の他にノーボスチ通信もそのように伝えています。ただ、コメルサント紙によると、まだS400は極東軍管区の高射ロケット部隊には配備されていないという記事が挙がっており、配備完了ではなくこれからもうすぐ配備されるという話なのかもしれません。S300とS400の性能については以下の記事を参照して下さい。

(2009/05/13)ロシア版MD、S300&S400ミサイル・コンプレクスについて

遂に首都モスクワ防衛部隊にしかまだ配備されていなかったS400が極東にやって来るわけですが、この期に及んでまでロシア軍はS400の使用するミサイル「40N6」の外観写真を公表しようとしません。未だに謎のままです。ロシア語で「C-400 Триумф 40Н6」といった単語を使って定期的に検索は入れていますが、ロシア本国でもまだ詳細は分かっていないようです。40N6は弾道ミサイルを含むあらゆる目標に対する迎撃能力を持ち、最大射程400km、最大射高30kmという数値までは公表されています。最大射高から見て宇宙空間での迎撃は考えられていないものだと判断していましたが、以下の気になる記述があります。昨年5月のノーボスチ通信日本語版の記事です。


高精度武器捕獲網:ノーボスチ・ロシア通信社
前の機種S-300と違い、S-400は地球空間のみならず、近い距離の宇宙空間でも目標物に打撃を与える可能性をもっている。


宇宙空間では空気が存在しない為、操舵翼による姿勢制御は出来ません。つまりサイドスラスターによるロケット噴射が無ければ、宇宙空間での迎撃戦闘は不可能です。ノーボスチ通信の記事が意味するところは、一体何なのでしょうか。もしかしてS400はサイドスラスターを装備している? しかしそれでは最大射高30kmという数値と矛盾します。

結局の所、まだ全然分からないです。ロシアだけでなく、ロシア兵器の深い考察が為されているオーストラリアのサイトも巡っているのですが、目新しい情報は見付かりません。

Air Power Australia Analyses

このオーストラリアの軍事サイトの地対空ミサイルの項目「SAMS/IADS」はロシア対空ミサイルを知る上で必見です。

The RAAF's Professional Mastery Problem:Symptoms, Causes and Measures to Reskill the RAAF

このページのエンドノートで紹介されている、オーストラリア政府の公式文書(防衛白書)のリンク先を見に行くと・・・熱烈なロシア兵器マニアなのだろうか、オーストラリア人というものは・・・と、ちょっと頭を抱えました。
21時23分 | 固定リンク | Comment (64) | ミサイル防衛 |
2009年08月22日
ミサイル防衛システムで新提案です。


欧州ミサイル防衛に可搬式提案=ロシア刺激せず代替策?−米ボーイング社:時事通信
米ボーイング社は22日までに、欧州を長距離弾道ミサイルから防衛する、可搬式の迎撃ミサイルシステムの開発計画を進めていることを明らかにした。ロイター通信によると、既に国防総省ミサイル防衛局に計画を提案しているという。

米国はイランのミサイルの脅威から欧州を守るために、ポーランドに地上配備型迎撃ミサイル(GBI)を10基配備する計画を進めているが、ロシアは強く反対している。可搬式であれば、GBIのように恒久的に配備する必要はなく、ロシアを説得する「代替案」として、同省に売り込む狙いがあるとみられる。


これはGBIの代わりにTHAADの導入という意味ではなく、GBI並みの性能を有した上で可搬式にする、という意味です。THAADでは対IRBMまでが限度で、ICBMに対する広域防空は出来ません。

地上移動式の大型ミサイル防衛システムならば、予算が削られたブーストフェイズ迎撃用のKEIを復活させてミッドコースフェイズ迎撃用に改修するという案が思い浮かびます。或いは巨大な移動発射機を採用してGBIをそのまま積み込む荒技もあります。ボーイングの提案は、なんとこの荒技とも言える移動式GBIです。GBIヨーロッパ仕様は二段型で、アメリカ本国版が三段型であるのに比べてコンパクトになっているので可能なのかもしれません。(なにしろ地上移動だけでなく輸送機に積み込んで空輸する必要がある)

Boeing's Mobile GBI Concept | AVIATION WEEK(移動式GBI模型写真あり)

他に考えられるのは海上プラットフォームに積み込んでしまう案です。海上移動式Xバンドレーダーがあるのですから、この海上プラットフォームにレーダーの代わりにGBIを積み込んで、レーダーとセットで配備すれば良いでしょう。対イランを考えるなら黒海に配備するのが最適ですが、ロシアが嫌な顔をするし狭い海峡をあんなものが通れるとも思えず、整備できる港湾の問題もあるので、地中海配備が適当かもしれません。

Boeing Unveils Mobile GBI | AVIATION WEEK

記事によると、ロシアの抗議を避ける為にボーイング社は可搬移動式GBIを提案し、レイセオン社はSM-3地上型をポーランド以外の場所へ配備する事を提案しています。SM-3Block2はそのままでは対ICBM広域防空には無理があるので、地上式にするにあたり何らかの改造を施すのかもしれません。地上設置ならばMk.41VLSに拘る必要が無いので、第一段ブースターを長大化させる、キネティック弾頭の制御ロケットの液体燃料化などが考えられます。(ブースターを長くするのはともかく、弾頭の換装は新型ミサイルの開発と同義なので可能性は低い)

なお、同記事の2ページ目には日本にとっても重要な事が書かれています。

"Once developed, a mobile GBI could also be deployed in the United States or elsewhere against threats posed by Iran and North Korea."

移動式GBIは一旦開発してしまえば、対イランでも対北朝鮮でもどちらにでも使用する事が可能で、アメリカ本土に配備する事も、他の何処か(つまりヨーロッパや日本など)にも配備する事が自由に出来ます。射撃管制レーダーについては海上移動式Xバンドレーダーを持ってくればいいですし、射程の短い準IRBMクラス(つまりノドン)が相手ならば、THAAD用のレーダー(青森県車力に配備されているFBX-TことAN/TPY-2レーダー)でも十分に使う事が出来ます。

そしてSM-3地上型をイランのICBMに対抗する為に改良をしてくる場合でも、日本は恩恵を受けます。出来あがったそれは北朝鮮のノドン、テポドンどころか中国のIRBM〜ICBMすら迎撃可能である事を意味するからです。

そうなると東欧MD配備はある程度頓挫して、この代替案(移動式GBI、SM-3地上型)に移行して貰える方が日本にとってメリットが大きいです。移動式GBIならば有事の際に日本に空輸して貰えますし、SM-3地上型が艦載型よりも高性能になるならば、日本が導入する際に有利です。GBIを日本が購入するのは無理ですが、SM-3ならば(何しろ日米共同開発していますので)問題はありません。購入不可能なGBIの在日米軍による日本配備が可能となる場合も、これは大きいです。
23時09分 | 固定リンク | Comment (84) | ミサイル防衛 |
2009年08月18日
ミサイル防衛ネタが溜まりに溜まっていたので一気に消化します。


PAC3全国配備へ 北ミサイルの脅威、対応強化 防衛省拡大方針:産経新聞
防衛省はMDシステムの強化が不可欠で、PAC3の防護の網を全国に広げる必要があると判断。3つの高射群に限定していた配備計画を改め、6つの高射群すべてにPAC3を配備することにした。

同時に、各高射群に4つずつ分散配置している迎撃部隊の高射隊について、大半の高射群で1つずつ減らす。PAC2に比べ、PAC3はレーダーの性能や発射機を遠隔操作する機能が向上したため、削減が可能になった。削減する隊の選定と存続させる隊の再配置も、年末の22年度予算案決定までに調整する。

【視点】国民防護の意思鮮明 PAC3配備拡大:産経新聞
空自高射部隊は基地や重要防護地域を守るため、PAC2で敵の航空機を迎え撃つ「全般防空」も担っている。防衛省はPAC3の配備拡大に伴い、空自高射部隊を弾道ミサイル対処に特化させ、防空を陸自高射特科(砲兵)部隊の新中距離地対空誘導弾(新中SAM)に代替させることも検討している。


この記事から読み取れる事を羅列すると、

・空自はPAC2後継に国産開発で新長SAMを導入する事を諦めた。
・パトリオット高射隊削減はTHAAD部隊新編成の布石。
・空自高射MD専門化はTHAAD部隊新編成が理由。
・陸自高射全般防空移管は空自高射THAAD導入の為。
・PAC3MSE(PAC3改良型)の検討はしないのだろうか?

※産経の記事にはTHAADの話は全然出て居ないので勝手な憶測です。ただ、最近のジェーン・ディフェンス・ウィークリーでも「日本がTHAADに関心を示していて云々」という記事が載ってると井上孝司さんから聞いて居ります。


次世代SM3、陸上配備も=08年の迎撃失敗は偶発的−米ミサイル防衛局:時事通信
米国防総省ミサイル防衛局のブラッド・ヒックス計画部長(海軍少将)は3日、日米が共同技術研究を進めている次世代型の海上配備型迎撃ミサイルSM3ブロック2Aのコストが当初の見積もりより上昇することや、必要な場合には陸上に配備する考えを明らかにした。

迎撃ミサイル本体に不具合=海自試験の失敗原因−米国防総省:時事通信
試験では、SM3ブロック1A型ミサイルの弾頭がロケットから切り離され、最終段階で標的を見失った。ミサイル防衛局は「生産ラインの一つで局所的に起きた問題に起因している」とする一方、目標を探知する「赤外線シーカー」には問題はなかったとしている。このため、弾頭の姿勢制御装置などに問題があった可能性もある。


初期生産分はどうしても不具合が出る場合が多くなります。しかしたまたま出た不良品が海自の試射分だったという間の悪さで、アメリカ海軍のSM-3試射はずっと成功し続けているので余計に目立ってしまいました。アメリカ海軍は2012年までにMD対応改修イージス艦を27隻、SM-3Block1を218発配備する予定です。日本海上自衛隊は4隻、32発の予定です。記事にはSM-3が1発10億円とありますが、これはアメリカ軍納入価格なのでしょうね。


Kojii.net - 今週の軍事関連ニュース (2009/08/04)
Stellar Avenger (Raytheon 2009/7/31, MDA 2009/7/31, Lockheed Martin 2009/7/31, Boeing 2009/7/31, DefenseNews 2009/7/31)
7/30 に PMRF (Pacific Missile Range Facility, Kauai, HI) で、SM-3 を使った短射程弾道ミサイルの要撃試験 "Stellar Avenger" が成功裏に行われた。SM-3 を使った要撃試験としては 15 回目、イージス BMD を使った要撃試験全体では 19 回目の成功となる。
今回のミッションは、PMRF から発射した標的ミサイルを USS Hopper (DDG-70) が SM-3 で迎え撃つという内容。Boeing 製のセンサーを装備したキネティック弾頭による要撃は、太平洋上空・高度 10 マイルのところで行われた。試験には USS Lake Erie (CG-70) と USS O'Kane (DDG-77) も参加して探知・追跡を行ったが、ミサイルは発射していない。
なお、今回の試射には、2008 年 11 月の試射で海上自衛隊の「ちょうかい」が JFTM-2 の際に発射した SM-3 が目標を外した件の対策について、有効性を評価する狙いもあった。対策を施したコンポーネントのひとつが SDACS (Solid Divert Attitude Control System)。
現在、イージス巡洋艦×3 隻とイージス駆逐艦×15 隻がイージス BMD 3.6 を導入済み。年内に、さらに 2 隻増えるほか、FY2010 国防歳出法で 6 隻の追加改修が盛り込まれている。

〜〜〜〜〜〜〜〜

米下院は FY2010 国防歳出法に、イスラエルの弾道ミサイル防衛プログラムに対する資金援助を 2 億 200 万ドルに増額する件を盛り込んだ。実現には議会の承認が必要だが、これは容易に得られる見込み。アメリカは 2009 年にイスラエルに対して、ミサイル防衛関連で 1 億 7,700 万ドルの支援を行っている。これを Barack Obama 大統領は 1 億 2,000 万ドルに削減したい考えだったが、議会が 8,200 万ドルを上乗せした。Arrow-3 については、ホワイトハウスが 3 ,700 万ドルを要求していたのに対して、議会は 5,000 万ドルを計上。アメリカはイスラエルに対して Arrow-3 の代わりに SM-3 を導入するよう働きかけていたが、結局は Arrow-3 の計画継続で合意。SM-3 については、Arrow-3 の開発がうまく行かなかったときのための保険とする。(Forecast International 2009/8/1)



結局、イスラエルのミサイル防衛「アロー3」開発予算は捻出した模様。


それと以下の韓国中央日報の謎記事なのですが・・・

現在の技術で北のすべてのミサイル迎撃できる(1):中央日報
現在の技術で北のすべてのミサイル迎撃できる(2):中央日報

せっかくロッキードマーティン社に取材しているのに、記者の無知からかそれとも翻訳の過程でねじ曲がったのか、無茶苦茶な事が書かれています。

元の英語を見せて欲しい・・・ロッキード社の説明はかなり重要な事も言っている筈なのに、内容がグチャグチャになって判別不可能になっちゃってます。「最終段階には多弾頭タイプのパトリオットミサイル(PAC−3)が動員される。」とか、一体何を言ってるんだろうか? 謎の新兵器?
22時50分 | 固定リンク | Comment (53) | ミサイル防衛 |
2009年07月15日
6月19日の記事「戦闘機搭載型ミサイル防衛ALHTK」で、二段目は液体燃料と紹介したレイセオン社の「NCADE」ですが、計画が変わってしまっているようです。現在は固体燃料に変更されているとの事。


Raytheon Pushes for More NCADE Funding | AVIATION WEEK
Officials last year had hoped to develop a liquid-fueled second stage for higher thrust, but dashed those plans after encountering developmental challenges.


当初、軍当局は二段目に液体燃料を使用する事を望んでいましたが、この計画は破棄され、二段目も固体燃料で行く事になりました。

ncade00.jpg
↑当初の液体燃料計画案↓現在の固体燃料計画案
ncade0.jpg

固体燃料に変更されたことで、SM-3のキネティック弾頭のSDACS(Solid Divert and Attitude Control System)技術が使用されることになったようなのですが、図からは何処にサイドスラスターが付いているのか今一よく分かりません。

固体燃料より液体燃料の方が姿勢制御に向いているという事は、ちょうどTFR師が記事に書いたばかりなのでそちらをご覧下さい。

DACS、リキッドとソリッド:シベリアンジョーク集積所

1個前の記事も参考になります。

空より高く上昇!:シベリアンジョーク集積所

これと「ミサイル入門教室」の弾道ミサイル迎撃 第3章 ターミナル・フェーズにおける迎撃も併せて読むと理解が深まると思います。基本的な事はWikipediaの「ミサイルの飛翔制御方式」にも書かれてあります。

ミサイル防衛システムは、PAC3とSM3が固体燃料サイドスラスターで、THAADとGBIが液体燃料サイドスラスターです。姿勢制御の性能から行けば液体燃料を使いたいところですが、整備の観点もあり、弾道ミサイルだけでなく通常の航空機も迎撃する目的のPAC3(PAC3MSEはMEADSの使用ミサイルに予定)は、大量配備する事になるので整備の手間は省きたいですし、洋上の艦船に搭載するSM3も整備上の都合で、固体燃料となっています。潜水艦のように、普段は奥の弾薬庫に魚雷を置いて発射前に発射管に装填する方式ならば、液体燃料の使用も容易なのですが(石油燃料よりも危険な種類の液体燃料を使う魚雷もある)、VLS(垂直ミサイルランチャー)は弾薬庫兼発射装置なので、一旦入れてしまうと整備が困難です。ロシアの原潜は今でも液体燃料の弾道ミサイルを運用中であり、VLSだから駄目というわけではありませんが、Mk.41という汎用VLSを使う限りは、装填した後の整備・調整は難しくなります。

ところが艦船あるいは地上移動式で使用する予定のKEI(kinetic Energy Interceptor)は、どうやら液体燃料を使用する予定だったらしく、どちらみち既存のVLSでは収納不能な大型ミサイル(直径約100cm)の為、液体燃料の貯蔵・整備についてどうにかする気だった模様です。

Kinetic Energy Interceptor (KEI) Technology Status : GlobalSecurity
A key advantage of the engine is its use of storable liquid propellants, which are fully-characterized with well-documented technical, performance, operational, safety and handling data.

KEIは弾道ミサイルの上昇段階で迎撃するシステムで、開発予算は削られましたが、軍内部での評価は低くなかった為、将来的に計画が復活する可能性は残されています。
18時54分 | 固定リンク | Comment (28) | ミサイル防衛 |
2009年07月05日
遂に具体的な話が出て来ましたか。最近発表された自民党の政策提言にも名前は出ていましたが、日本は新たなミサイル防衛装備として、THAAD配備を検討する模様です。


新型迎撃ミサイル:導入を検討…地上配備型、迎撃3段構え|毎日新聞
THAADは射程が100キロを超え、地上の防御範囲もPAC3の10倍程度広い。国内に3〜4基配備すればほぼ全土を守ることができる。数百キロ飛ぶSM3より射程は短いものの、大気圏の内外いずれでも迎撃可能で、SM3では対応できない低い軌道の弾道ミサイルも撃ち落とせるという。米軍は9月から米国内で実戦配備する予定だ。

PAC3は11カ所への配備で5000億円程度かかる。防衛省はTHAADの導入費を明らかにしていないが、THAADの方が少ない予算で日本全土をカバーできると見込んでいる。【仙石恭】

◇解説…新型配備に数千億円、費用対効果に疑問も
防衛省が導入の検討に入った新型迎撃ミサイル・THAADは、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)と地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を補完するものだが、政府は既にSM3とPAC3に8000億円以上を費やしている。THAADの配備に数千億円が必要なのは確実で、防衛予算が年々減る中、ミサイル防衛(MD)にどれだけカネをつぎ込めばいいのか、政府は難しい判断を迫られている。

4月、北朝鮮が日本上空を越える弾道ミサイルを発射したことで、自民党国防族を中心にMD拡充を求める声が勢いを増している。その際には、PAC3の不足も指摘された。ただ、MDには費用対効果への疑問もある。米国頼みの早期警戒衛星導入が先だとの声も強い。著しい技術革新で費用が膨らむ一方のMDと、通常装備とのバランスをどう取るのか。「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」の改定を前に、政府には慎重な判断が求められる。【仙石恭】


早期警戒衛星は後回しにしてでも、THAAD導入を強力に推進すべきでしょう。限られた予算と時間は有効に使うべきです。必要とされる時に間に合わなければ、何の意味も無いのです。早期警戒衛星を運用できるようになるまで、短く見積もっても10年〜20年は掛かります。一方、THAADは予算さえ出せば直ぐにでも調達する事が出来ます。現時点でノドン弾道ミサイル相手の都市防空用としては最適の性能を有するTHAADは、他の何かを犠牲にしてでも調達する必要性があると思います。

※ただし毎日新聞のこの記事にある「国内に3〜4基配備すればほぼ全土を守ることができる」はデタラメです。構想段階のSM-3地上配備型と勘違いしている可能性があります。THAADがカバーできる範囲は一つの都市圏であって、4基では4大都市圏のみの防衛になります。

PAC3は本来は拠点防空、野戦防空用であり、都市防空(広域防空)を行わせるには無理が有りました。それでもPAC3を導入したのは、その時に日本が即座に調達できるMDがそれしか無かったからです。目の前の危機に間に合わせるには、今あるものを選択するしかなかったのです。当時、THAADは計画そのものが危ぶまれていました。余りにも悪い試験成績の為、一時計画は中止されてしまい、6年間の凍結を経て、システムの設計を根本からやり直したTHAADは2006年に試験再開、その後は見違えるような好成績を残し、アメリカ軍に正式採用され、テキサス州フォートブリスで編成中の初のTHAAD実戦部隊は、この秋に正式に発足します。しかしその前に、編成途上の一部の戦力をハワイに配備し、北朝鮮のICBM発射に備えています。

それと毎日新聞は記事で「大気圏の内外いずれでも迎撃可能」と解説していますが、THAADは空力加熱から弾頭部の赤外線センサーを保護するシュラウド(覆い)を投棄する高度40kmより上でなければ目標を迎撃できず、高度40km未満の目標には対処する事が出来ません。ただ、大気と宇宙の境目は高度80〜120kmくらいですので、高度40km以上80km未満ならば大気圏内と言えなくも無いので、説明としては間違ってはいません。

THAADのキネティック弾頭(キルビークル)は、SM3やGBIのものと違い、空力を意識した設計です。SM3やGBIのものは完全に宇宙空間で使用する為に空力を無視した、まるで小型の人工衛星のような各部位が剥き出しの形状なのですが、THAADの場合は弾道ミサイルのターミナルフェイズ(終末段階)で防御する為、大気圏内でも機動できるように円錐形の弾体となっています。

THAAD

黒い丸で囲んだ部分がTHAADのキルヴィークルです。SM-3のキネティック弾頭やGBIの大気圏外用キルヴィークルと比べると、空気抵抗を意識している事が分かります。

thaad2.jpg

※THAAD弾頭部カットモデル。上はPAC3。

THAAD-DACS | Pratt & Whitney

※THAADのDACS(Divert and Attitude Control System 進路変更・姿勢制御システム)部分。



※以前にも紹介したTHAADの動画。
20時29分 | 固定リンク | Comment (99) | ミサイル防衛 |
2009年06月19日
航空機から迎撃を行う弾道ミサイル防衛システムには、開発中の空中レーザー砲ABL(Airborne Laser)があります。これはジャンボジェットに化学レーザー発振ユニットを載せる大柄なもので、今月に2回、弾道ミサイル追跡試験に成功し、年末に迎撃破壊テストを予定しています。

今回紹介するのはそれではなく、戦闘機にMD用迎撃ミサイルを搭載し、弾道ミサイルを撃墜しようという計画です。ALHTK(Air-Launched Hit-to-Kill)と呼ばれるもので、現在三種類が提案されています。AMRAAMを改造したタイプ、PAC-3を改造したタイプ、そしてTHAADを改造したタイプです。 どれも母機が空中で待機し、弾道ミサイルが上昇し始めた段階で迎撃するシステムです。


Kojii.net - 今週の軍事関連ニュース (2009/06/19)
Norton Schwartz 米空軍長官は MDA (Missile Defense Agency) 長官の Patrick O'Reilly 陸軍中将に対して、空軍の戦闘機に迎撃ミサイル (ALHK : Air Launched Hit-to-Kill) を搭載して MD 用とする件について、調査を進めるよう求める書簡を送付。搭載機としては F-15、F-16、F-22、F-35 を想定。上層要撃には THAAD (Terminal High Altitude Area Defense) の、低層要撃には AIM-120 AMRAAM (Advanced Medium-Range Air-to-Air Missile) の派生型を使う考え。


この米空軍のシュワルツ参謀総長がミサイル防衛局のオライリー長官に送った書簡では、PAC-3ALHTKが入っていませんでしたが、AMRAAM派生型と能力的に近い割りに運用が面倒なので、選出から外れた模様です。実はAMRAAMはレイセオン社が生産しており、PAC-3とTHAADはロッキード社なので、ロッキード社としてはTHAAD-ALHTKが提案されているなら、別にPAC-3がALHTK計画から外れても文句は無いのでしょう。

◇NCADE(Network Centric Airborne Defense Element)

AMRAAMのMD用派生型は、NCADE(Network Centric Airborne Defense Element)と呼ばれるものです。「ネットワーク中心」とあるのは、この兵器が戦闘機に搭載された事のみで完結されたものではなく、ミサイル防衛という大きなシステムとリンクして初めて意味を持つからなのでしょう。主力中距離空対空ミサイルとして使われているAMRAAMの派生型である為、既存の戦闘機の全てに特別な改造無しに搭載可能で、そして元が軽量コンパクトである為、UAV(無人機)にも搭載可能です。

このNCADEについて日本語で詳しく解説されているページがあります。

NCADE ネットワーク中心空中防御要素 - Weapons School

まだ開発が始まったばかりの新兵器なので推測交じりですが、日本語で読める説明としては一番情報量が豊富です。

ではこれに少し説明を追加します。

NCADE

NCADEは重量、外形サイズが中距離空対空ミサイルAMRAAMと殆ど変化は無く、本来AMRAAMでは弾頭炸薬を積めていたスペースを利用して第二段ロケットを内蔵しています。これはSM-3の第三段ロケットと同じスペース利用法で、当然、近接爆破方式ではなく直撃方式となります。そして第二段ロケットは液体燃料を使用するという、迎撃ミサイルとしては特殊な事をしています。またサイドスラスターを装備し(液体燃料をメインモーターと共用するタイプか)、空気の薄い高空での機動性を確保しています。なお誘導シーカーヘッドはAMRAAMのアクティブレーダー・シーカーではなく、短距離空対空ミサイルAIM-9Xサイドワインダーの赤外線画像シーカーを取り付けてあります。赤外線画像シーカーは空力加熱に晒されると性能が急激に低下する為、通常の空対空ミサイルよりも高速に達するNCADEでは、弾頭のセンサー部分が加熱しすぎないように保護されています。

head.jpg

運用方法は戦闘機ないしUAVが敵地上空に乗り込んで空中待機、敵が弾道ミサイルを発射したら付近に居る機体で迎撃を試みます。つまりこれは「弾道ミサイル狩り」の補完用という役割です。弾道ミサイルの移動式ランチャーが出てきた、急いで爆撃して破壊しよう、でも間に合わなかった・・・しかし通常の空対空ミサイルでは、追い駆けて撃っても届かない・・・そういった状況の時にNCADEを積んでいれば、爆撃による発射前阻止が出来なかった場合でも、もう一回チャンスが生まれます。NCADEは、それ単独で弾道ミサイルが何もかも阻止できる、という劇的な兵器ではありませんが、迎撃チャンスを増やすという意味があります。

ncade_conops.JPG

アメリカ軍では、戦闘機だけでなく無人機(UAV)にNCADEを積んで使おうとしています。UAVならば有人戦闘機よりも遥かに長い時間滞空できるので、パトロール飛行に適しています。しかし敵地上空を常時パトロール飛行するという事は、航空優勢を高いレベルで確保していなければならず、アメリカ軍以外では単独で使う事は困難を極める兵器でしょう。

NCADEは一年半前に迎撃実験に成功しています。






弾道ミサイルが上昇段階の時に迎撃する為、掠っただけでも弾道が狂わされ、例え破壊できずにそのまま飛び続けた場合でも、着弾地点は大きく狂ってきます。その点は完全破壊が要求される終末防御よりも任務達成条件が緩くなります。

◇PAC-3ALHTK(Air-Launched Hit-to-Kill)

パトリオットPAC-3を利用するPAC-3ALHTKは、改良型のPAC-3MSEの弾体を使用する為、重量は300kg台半ば、NCADEの倍以上の重量であり、長さも5mを超え、運用できる機材が限られてきます。

ALHTK.jpg

当初は上図のような箱型連装ランチャーに収納する構想でしたが、最近ではドロップタンクを改造した収納式単装ランチャーに変更されています。

alhtk1.jpg

※取り付け部を逆さまに見せた模型で、一番上からドロップタンク改造収納ランチャー、AIM-9、PAC-3ALHTKの順。



※ドロップタンク改造収納ランチャーからPAC-3ALHTKを発射するCG動画。

本来は地対空ミサイルであるPAC-3を航空機搭載型にする為に、なるべくミサイル本体の改修を行わずにやろうとした為、このような方式になっているようですが・・・これでは搭載できる数が限られている上、本来のドロップタンクが装着できず、航続距離が大幅に落ちてしまいます。敵地上空でパトロールを続けるには不利な要素で、その辺りはAMRAAMと同サイズに仕上げたNCADEに大きく劣ります。

もし敵弾道ミサイルの上昇中ではなく終末段階での迎撃に使えるなら、それら不利な点が問題視されなくなりますが、戦闘機から高速・急角度で落ちてくる弾道ミサイルの捕捉、ロックオンといった作業は出来るのかどうか、そもそもアメリカでも特にそういった計画があるわけではないようです。

今のところこのPAC-3ALHTK計画は案だけで、NCADEのように迎撃テストまで行っているわけではありません。

◇THAAD-ALHTK

これは果たして戦闘機に搭載可能なのでしょうか? 以前から計画だけはちらほら聞きますが、PAC-3ALHTKほどの情報すらありません。THAADはPAC-3よりもかなり大きいミサイルです。重量は900kgと倍以上で、全長は6m超。更に言えば空中発射方式ならば最大射程は地上発射式より伸びるので、戦闘機の搭載するレーダーではレンジ外になってしまいます。

戦闘機では搭載も困難、射撃も困難となると、大型機に搭載するしかないわけですが・・・まさかの空中巡洋艦構想の復活ですか? それとも戦闘機は単なるミサイルキャリアとして、弾道ミサイルの捕捉もTHAADの誘導も全部AWACSが行うのか、今の所は情報待ちです。

空中発射方式でTHAADの性能をフルに発揮できるのであれば、弾道ミサイルの上昇中以外のフェイズでも迎撃に投入することが可能となりそうですが、上記の通り運用はかなり難しい面を持っていそうです。
22時16分 | 固定リンク | Comment (139) | ミサイル防衛 |
2009年05月13日
アメリカとロシアは1997年にABM条約の規定について話し合い、中距離弾道ミサイルまでの迎撃能力を持つ弾道ミサイル防衛システム(TMD・戦域ミサイル防衛)ならばお互いに持ってもよいと、条約の上限を定めた事は何度かお伝えしました。そこでロシア版ミサイル防衛システムについて簡単に纏めてみたいと思います。

なにしろこんなデタラメを主張している自称軍事アナリストが居るので、ちゃんと説明しておく必要があると思いました。


神浦元彰 最新情報 2009年5月10日
[コメント]ロシア軍が配備している対空ミサイルのS400はS300の後継で、米軍のステルス戦闘機を迎撃できる能力があると噂されている最新鋭の対空ミサイルである。しかしPAC3のように対弾道ミサイルという能力はない。あくまで航空機や巡航ミサイルを迎撃するための対空ミサイルである。

だから米軍のパトリオットを上回る能力というのは、パトリオットの中でもPAC3ではなくPAC2と比較した場合の話しである。このあたりを誤解しそうなので注意が必要だ。また記事でいう「ロシア版DM」という言葉は適切ではない。敵の巡航ミサイルを迎撃できる性能ではMD(ミサイル防衛)という言葉は使わない。


この神浦さんは思い込みで間違った事を力説しています。もうこの人は毎度の事で、何度正しく説明して上げても治らないので諦めてはいますが・・・

日本マスコミやロイター通信がロシアの地対空ミサイル「S400」の事を「ロシア版MD」と記事に書いているのは、ロシア国営通信社であるノーボスチ・ロシア通信がそのように書いているからです。ロシア語版にも書いてありますが読める人は少ないので、英語版を紹介しておきましょう。


Russia to show S-400 air defense systems at Victory Day parade | RIA Novosti
It is also believed to be able to destroy stealth aircraft, cruise missiles and ballistic missiles, and is effective at ranges up to 3,500 kilometers (2,200 miles) and speeds up to 4.8 kilometers (3 miles) per second.


S400トライアンフはステルス機や巡航ミサイル、弾道ミサイルを撃墜できる地対空ミサイルシステムであると紹介されています。更に対弾道ミサイル戦闘時のデータも詳しく挙げられていて、射程3500km、秒速4.8km(マッハ14)の中距離弾道ミサイルまでならば対処可能であると、具体的な数値までが載っています。ステルス機を撃墜できるというのは単なる宣伝文句に過ぎず、まともに受け取る必要はありませんが、弾道ミサイルを撃墜できるというのは本当です。そうでなければ具体的な数値を挙げる事など出来ません。

ロシア軍はS400の前身S300の時に、既に弾道ミサイルとの交戦能力を与えています。S300とS400は同系統のミサイルシステムですが、様々な種類のミサイルを運用するので正確に把握し難い面があるのも確かです。私も一部混同していた部分があるので、この機会に調べ直しておきました。

S300には大きく分けて2系統があります。基本となるS300Pシリーズと、全く異なる系統のS300Vシリーズです。この他にPシリーズを艦載型にしたFシリーズもあります。

S300Pシリーズが使用するミサイルは「5N55」系列とその改良型「48N6」系列です、5N55は重量1500kg、48N6は重量1800kgあり、パトリオットPAC2が重量900kgなのと比べると一回りから二回りは大きな地対空ミサイルです。48N6系列は限定的な弾道ミサイル対処能力が与えられています。とはいえPAC2でも改良型のPAC2GEM+で限定的な弾道ミサイル対処能力は与えられており、これを持ってMDと呼ぶ事は通常ありません。

48N6E.jpg
S300PMU1(48N6Eミサイル)

一方、S300VシリーズはS300Pシリーズとはミサイル本体の設計局が異なる地対空ミサイルで、別物であると考えた方が良いです。基本的に対航空機・対巡航ミサイルの迎撃を考えられているPシリーズとは異なり、弾道ミサイルを迎撃することを重視して設計されています。使用するミサイルは非常に大きく、ブースター部分の大きさが異なる2種類があり、対中距離弾道ミサイル用の「9M82」で重量4600kg、対短距離〜準中距離弾道ミサイル用の「9M83」で重量2500kgもあります。爆風破砕式弾頭なので航空機が相手でも使えますが、大き過ぎる為に細かい機動が行えず、巨大な9M82を回避機動を行う航空機相手に使っても効果は乏しいでしょう。限定的な弾道ミサイル対処能力を与えられただけのS300Pシリーズとは異なり、S300Vシリーズは本格的な弾道ミサイル防衛システムです。

9M82.jpg
S300V(9M82ミサイル)

なおS300Vは輸出型が中国に渡り、HQ-18という名前で呼ばれています。ロシアは9M82系を渡さず9M83系のみを渡したようで、中国は独自改良も行っているようです。

HQ-18 (S-300V) (China) - Jane's Strategic Weapon Systems

インドも既にS300Vを購入している模様で(1998年に購入契約が締結)、既にアメリカ製MDとは別系統のロシア製MDが世界に出回っているのです。昨年はトルコもMDシステムの購入を検討していると報じられており、その候補にS300VとS400が挙げられています。

S400トライアンフはS300Pシリーズの後継で、当初はS300PMU-3とされていました。しかしシステムを一新し全く新しいミサイルも使える為、次の番号が割り振られました。S400はS300Pシリーズのミサイルも運用できますが、大きく分けて3種類の大きさが異なるミサイルを運用します。

短〜中距離用として「9M96」系列のミサイルがあります。9M96Eが重量333kg、9M96E2が重量420kgと小さなミサイルで、パトリオットPAC3の重量315kgに近く、PAC3がPAC2用1本分のキャニスターに4本入るのと同様に、9M96も48N6用1本分のスペースに4本入ります。ただしPAC3とは異なり、直撃方式では無く爆風破砕弾頭式で、サイドスラスターは無く前方に操舵翼があります。

9M96E_9M96E2.jpg
9M96E(手前)、9M96E2(真中)、48N6E2(奥)

9M96系列のミサイルはS300PMU2の時に開発されたもので、S400でなくても使用できます。9M96Eの全長を伸ばしたのが9M96E2で、重量では約3割ほど重くなっただけですが、ロシア側の発表したデータ上では9M96Eが射程40km、9M96E2が射程120kmと3倍もの開きがあり、どういうカラクリなのかはよく分かりません。このサイズの地対空ミサイルで射程120kmは、あまりにも長すぎる気がしますが・・・なお9M96系列も弾道ミサイルと交戦が可能とされています。それが限定的な対処能力を与えられただけなのか、本格的な能力を持つのかは、よく分かりませんでした。しかしこのサイズの小さな弾頭では、近接爆破で弾道ミサイルを破壊しきれるとは思えず、恐らくは限定的な能力だと思われます。

中〜長距離用には48N6系列の最新型「48N6DM」が用意されていますが、まだ報道や兵器見本市では姿を現しておらず、今のところは謎のミサイルですが、外見などは48N6系列のミサイルと大きく変わりは無いでしょう。

長〜超長距離用には「40N6」というミサイルがあります。これは48N6DMより更に情報が少なく、数字が若くなっているのですが最新鋭ミサイルです。よくS400トライアンフの性能の説明として射程400kmという、大気圏内用の地対空ミサイルとしては驚異的な性能をマスコミの報道でよく見かけますが、それはこの40N6ミサイルの事を指します。超地平線攻撃を可能とするセンサーとデータリンクシステムを搭載し、遥か遠距離で地球の丸みの陰に隠れて見えない所を飛行する巡航ミサイルを叩き落とす能力があり、弾道ミサイルとも交戦可能で、「射程3500km、秒速4.8kmまでの中距離弾道ミサイルを迎撃可能」という数値も、この40N6ミサイルの事を指します。

肝心の40N6ミサイルについて形状の詳細が依然として不明なので、S400トライアンフを説明しきれているとは言えませんが、現時点で判明しているS300とS400の大まかな説明は以上です。
23時18分 | 固定リンク | Comment (102) | ミサイル防衛 |
2009年05月09日
4月の北朝鮮テポドン発射を受けて、日本独自の早期警戒衛星(弾道ミサイルの熱源を探知)を導入しようと動きが活発になっています。しかしそれに異を唱える意見もあります。


宇宙基本計画案:巨額支出に慎重論も 早期警戒衛星研究|毎日新聞
早期警戒衛星は1基あたり5000億円以上かかると言われる。地球全体をカバーするには3基程度は必要で、データベース構築も加えれば兆円単位の予算が必要となる。【仙石恭】


開発費用と単品の製造費用をゴッチャにしてますね、この人。米軍の早期警戒衛星であるDSP衛星でも1基500億円もしなかった筈ですが。しかも対北朝鮮で使うなら別に地球全体をカバーする必要は無いですし、静止軌道衛星なら1基でよいですよ。予備機があるにこしたことはないですけど、米軍の早期警戒衛星もありますし。

実際の早期警戒衛星の開発費用は数千億円、衛星1基の製造費用は数百億円というところです。熱源データ解析ソフトと弾道解析ソフトの開発に幾ら掛かるかはよく分かりませんが、実は衛星本体よりもこちらの方が肝心で、数千億円は掛かることを覚悟した方がよいでしょう。早期警戒衛星を取得するには、全体として見れば安く仕上がった場合でも数千億円、開発が難航すれば兆単位に膨れ上がります。大変高い費用が掛かるもので、これだけの資金と人員を投入すれば国産戦闘機が開発できるくらいであり、ミサイル防衛に予算を集中することは通常戦力が削られてしまう事を意味します。それらの点をよく考慮して、本当に導入すべきか議論すべきであるのは確かです。


社説:早期警戒衛星 拙速の導入論は避けよ|毎日新聞
まず費用対効果の問題である。DSP衛星は大陸間弾道ミサイルなど長射程のミサイルには有効だが、日本にとって脅威である北朝鮮の「ノドン」など中距離弾道ミサイルに対しては監視能力が落ちると言われる。これを改善するため米国が開発中の新衛星は低高度軌道であるため、日本周辺だけを監視対象としても数基の衛星が必要となる。日本が開発・保有し、しかも独自の解析能力を持つには数兆円がかかるとされる。

政府・与党内に費用面で懸念の声が上がっているのは当然だ。北朝鮮などの脅威には、日米同盟の役割分担と両国の連携の中で対応する姿勢を放棄してはならないだろう。

また、オバマ米政権のMD政策も見極める必要がある。ゲーツ国防長官は10会計年度でMD予算の削減を表明した。日本が配備する既存システムについては増額され、当面日本のMD政策には影響ないとみられるが、国防政策全体の中でMDの比重は低下する。ブッシュ前政権と違ってMDの共同開発を日米安保の柱と位置付けているわけでもない。今後のオバマ政権の方向しだいで、日本の安全保障政策に影響する可能性があることも念頭に置かなければならない。

さらに、外交面では、早期警戒衛星導入によるMDシステム強化が引き起こす隣国の中国、ロシアの反応についての分析も必要だ。


数兆円? 全ての開発計画が頓挫しかかるほど難航すればそうなるかもしれませんが、最悪の場合でも想定しているのでしょうか? 

アメリカ軍は現行の早期警戒衛星(静止軌道型のDSP衛星)の後継となる次期早期警戒衛星に、SIBRS(静止軌道型GEOと長楕円軌道型HEO)とSTSS(低高度軌道型。以前はSIBRS-Lowと呼ばれていた計画を改名)の2種類(正確には3種類)を計画していますが、低高度軌道型は精度が格段に高くなる代わりに、当然の事ですが静止軌道には無い為、沢山の数の衛星が必要になります。ちなみに長楕円軌道型HEOは静止軌道型が赤道上に配置される事になるので、極地方近辺の監視が疎かになるため、それをカバーするものです。

毎日新聞はこの社説で「日本が早期警戒衛星を導入するなら低高度軌道型にすべきだ」と唱えているのでしたら、参考にすべき提案ではあります。ただし静止軌道型なら1基でも機能しますが、低高度軌道型なら高度にもよりますが4〜6基くらいは必要なので、衛星の製造費用だけで数百億円×6となり数千億円は掛かります。開発費用と併せれば兆単位に届くでしょう。

なおアメリカですら低高度軌道型早期警戒衛星STSSの開発計画は難航しており、一度は計画中止寸前にまで陥りましたが何とか持ち直し、つい先日の5月5日にようやく実験衛星「STSS-ATRR」をデルタ2ロケットで打ち上げたばかりです。STSSは赤外線センサーと可視光センサーを装備しており、ミサイル発射時の噴射炎だけでなく、再突入弾頭と囮弾頭を見分ける能力すらあります。つまり弾道ミサイルのブーストフェイズ以外でも追跡探知が可能です。現行型のDSP衛星に比べると、STSSは探知領域そのものが大幅に拡大されています。早期警戒というよりはむしろ弾道ミサイルの飛行全領域、特にミッドコースでの監視が重要視されています。

一方で毎日新聞はこの社説で、弾道ミサイル防衛におけるアメリカとの役割分担も放棄してはならないと説きます。これも一つの意見として参考にすべきです。例えばアメリカはSTSS衛星を数十基打ち上げる計画ですが、日本がこれに数千億円ほど出資して配備計画を後押しするというのも一つの選択です。高機能のSTSS衛星と同等のものを日本が独自に配備する事は開発自体が困難に直面するでしょうし、開発期間も相当長くなります。他国の軍事衛星に出資する事例は、オーストラリアが20億ドル(2000億円)を払ってアメリカのWGS衛星システム(ブロードバンド通信衛星)を利用するというものがあります。

また毎日新聞は社説で「オバマ米政権のMD政策も見極める必要がある」と説きますが、これは別に心配する必要は無いでしょう。オバマ政権は米本土防衛用の国家ミサイル防衛(NMD)よりも、同盟国を守る戦域ミサイル防衛(TMD)を重視するという方針を明確に打ち出しており、これによってSM-3やTHAADといった戦域ミサイル防衛システムは予算を増額されています。日本のミサイル防衛は戦域防衛に該当するので、支障が無いどころかむしろ追い風となっているくらいです。

毎日新聞が社説で懸念する「中国やロシアの反応」も大して気に止める必要も無いでしょう。ロシアはABM条約に関連して1997年にアメリカと戦域ミサイル防衛について話し合い、お互いに配備してよいと合意しており、現在ロシア軍にはS300Vという弾道ミサイル防衛システムがあります。日本のミサイル防衛は戦域ミサイル防衛に該当する以上、ロシアが文句を付けてきてもこの件を持ち出せば引き下がらせる事が容易にできます。ロシアが東欧MDに反対しているのは、配備予定のGBIが戦域ミサイル防衛の枠を超えているからです。中国に関しては、そもそも中国自身が文句を言ってこないでしょう。今までも日本の弾道ミサイル防衛に対して強い非難は行っていません。早期警戒衛星については、日本の独自配備を非難したところでアメリカの早期警戒衛星が消えて無くなるわけではなく、ロシアも中国も日本の独自配備に反対するメリットを特に見い出せません。だからもし反対するとしても軽い懸念の表明に止める程度で、ロシアが東欧MDにやっているような強烈な反対はしてこないでしょうし、そもそも反対する根拠も存在しません。


政府、早期警戒衛星の導入検討 米国依存のMD脱却:産経新聞
日本は赤外線センサーを搭載する気象衛星「ひまわり」(静止衛星)を保有し早期警戒衛星運用の基礎的なノウハウはある。開発期間が4年、予算総額1000億円との試算もあり、政治・外交上も導入の意義は少なくない。次世代の気象衛星を高性能化し、早期警戒衛星の役割を担わせたり通信衛星を多機能化する案も浮上している。(田中靖人)


一方で、この試算は甘過ぎる気もしますが・・・というか気象衛星「ひまわり」を軍事用の早期警戒衛星としての機能を持たせる案、実際に検討されていたのか・・・以前冗談半分で言ってみたりしたものですが。


さて早期警戒衛星について私の見解なのですが、遠い将来的に配備するのは良いとは思うのですが、実用化までにかなりの年月と費用が掛かる為、暫くはセンサー等の要素研究に止めて、そして早期警戒衛星を配備する以前に別のものにも早期警戒任務を行わせるべきだと思っています。具体的に言えば大型無人機や無人飛行船に赤外線センサーを搭載して監視飛行を行わせる計画です。有人のイージス艦を常時、北朝鮮に近い前進配備を行わせ続けるのは無理ですし、AWACSなどの航空機でも有人のものでは難しくなります。そこで滞空時間の飛躍的に長い無人機の出番となります。防衛省技術研究本部は「AIRBOSS」という弾道ミサイル探知用の赤外線センサーをUP-3C試験機に搭載して開発を続けており、将来的にはこれを大型無人機に搭載する計画があります。ただし大型無人機の計画がはっきりと推進されていない為、現状ではAIRBOSSのみの研究に留まっています。

将来センサシステム(搭載型)の性能確認試験:防衛省技術研究本部
AIRBOSS ミサイル標的の探知・追尾に2度目の成功:防衛省技術研究本部

早期警戒衛星に大金を注ぎ込む以前に、大型無人機とAIRBOSSに予算を与えてはどうでしょうか。無人機の独自開発が無理なら、アメリカからRQ-4グローバルホークを購入してAIRBOSSを装着してもよいでしょう。ただ、AIRBOSSがどこまでの性能を発揮できるのか、未知数ではありますが・・・
23時20分 | 固定リンク | Comment (78) | ミサイル防衛 |
2009年04月27日
4月10日に書いた記事「オバマ政権のMD外交」で、アメリカはイスラエルと共同開発しているミサイル防衛システム・アローの次世代型「アロー3」の開発資金提供を打ち切り、代わりにアメリカが配備しているミサイル防衛システム「SM-3」のイスラエル配備を提案している話を紹介しました。

SM-3はイージス艦に搭載する迎撃ミサイルなのにイスラエルはイージス艦を保有していないので、SM-3を地上配備型に改造するのか、単にTHAADと間違えたのか、この話は引き続き調べていたのですが、アメリカの報道をチェックしていても全く関係するものを見付けられていなかった最中に、日本の読売新聞がその答えを見付けていました。


米国防総省、迎撃ミサイル・SM3の地上配備を検討:読売新聞
【ワシントン=小川聡】米国防総省ミサイル防衛局(MDA)が、現在はイージス艦に配備されている迎撃ミサイル「スタンダード・ミサイル3」(SM3)を地上から発射する新たなミサイル防衛(MD)システムの研究に着手していることがわかった。

現在のMDシステムは、イージス艦から発射されるSM3と、撃ち損じた場合に地上付近で再度迎撃する地上発射型の「パトリオット・ミサイル3」(PAC3)の2段構えだ。SM3の防衛範囲は半径約500キロで、十数キロとされるPAC3よりも格段に広い。新たなシステムはこの特性を生かし、最初の迎撃の段階で海上からだけでなく地上からもSM3を発射するものだ。

4月5日の北朝鮮のミサイル発射は国際機関に事前通告されていたため、日本政府はイージス艦2隻を日本海に展開した。しかし、北朝鮮が既に配備している弾道ミサイル「ノドン」は移動式の発射台から発射でき、イージス艦がいない時を狙って発射される可能性が指摘されている。新たなシステムなら、こうした場合でも早い段階で迎撃できることになる。

MDAは最近、もともとは別のシステムである各種レーダー網とSM3など迎撃ミサイルを統合して運用する技術を開発し、昨年12月の迎撃実験で実戦的テストにも成功したという。

MDAのヘンリー・オベリング前局長は読売新聞に対し、「日本でも、地上発射型SM3を運用することが可能になっている。PAC3よりも防護範囲が広いうえ、既にSM3を導入している国にはコスト面でも効果的だ」と語った。

(2009年4月26日03時03分 読売新聞)


SM-3地上配備型の開発です。管制レーダーはどのシステムの物を使うのか、ミサイル自体も含めてGBIのような基地固定配備なのか、THAADやKEIのような地上移動式にするのか、まだ詳しい情報は分かりませんが、イスラエルだけでは無く日本にも売り込みが図られるかもしれません。これは米軍が採用するのではなく同盟国への輸出向けでしょうから、基地固定配備にして強力なレーダーと組み合わせるのが良いと思います。

Missile Defense Agency

SM-3地上配備型について、米ミサイル防衛局(MDA)の最新ニュースにはまだ載っていません。

今のところMDAニュースの他の話で目を引くのは、新型標的ミサイルLV-2(Launch Vehicle 2)の話くらいでしょうか。これは標的用弾道ミサイルで、トライデントC4のロケットモーター(一段目と二段目)を転用しており、より実戦的なIRBM〜ICBM相当の弾道ミサイル迎撃テストが行えます。
00時00分 | 固定リンク | Comment (118) | ミサイル防衛 |
2009年04月23日
MD反対派が唱える主張に、以下の様なものがあります。

「アメリカの先制攻撃戦略と一体化したMDは駄目」「MD=先制攻撃促進装置」「MDという名の先制攻撃支援システム」

MDという防御兵器を批判する為のロジックとして、攻撃戦略に組み込まれたMDは相手国の攻撃を無力化することで、核をも含めた先制攻撃を行い易くする役割を担う兵器システムであると、MD反対派は主張します。つまりMDそのものは防御的な兵器であっても、アメリカの攻撃戦略を助けているから駄目だということで、これにより防御兵器を攻撃システムの一環と見なして叩いています。

このロジックの欠陥は、これはMDに限らず全ての防御兵器にでも成り立ってしまうという点です。単純に「MD(迎撃ミサイル)」を「迎撃戦闘機」に入れ替えてみればいいのですが、迎撃戦闘機は敵の爆撃機や巡航ミサイルを排除する事が任務で、それが達成されれば敵の攻撃は阻止されます。それは即ち、「先制攻撃を行い易くする役割を担う兵器システム」であるとなってしまい、このロジックを振りかざす事はあらゆる防御兵器も駄目、攻撃兵器も勿論駄目・・・要するに単なる非武装論でしかないのです。

MDを殊更に問題視して批判する為には、MD特有の問題点を指摘する批判の在り方でなければなりません。MD以外の兵器にも言えてしまうような話は、MD批判として意味が無いのです。

そういう意味ではMD以前の弾道ミサイル防衛システム、ABMの時代から問題視されている「弾道ミサイルを迎撃する事はMAD(相互確証破壊)体制に反する」というロジックがあります。核ミサイルを迎撃し易くなれば先制核攻撃のリスクが軽減され、相互確証破壊による先制核攻撃の抑止が薄れてしまう事から、冷戦時代の1972年に米ソの間でABM制限条約が締結されました。そして多くの方が知ってのとおり、アメリカはMDシステムを推進するために2002年、ABM制限条約から脱退してしまいます。ところがあまり知られていませんが、まだABM制限条約が生きていた頃の1997年に、米露はある合意に達していました。それは制限されるABMの定義について、それまでは曖昧だった対象範囲を「長距離弾道ミサイルを迎撃するシステム」として、短〜中距離弾道ミサイルを迎撃するシステムは、ABM制限条約の対象外と定めたのです。

これにより短〜中距離弾道ミサイルの迎撃を目的とした戦域ミサイル防衛(TMD)は条約違反ではなくなりました。つまりアメリカ製のPAC3、SM-3、THAADといったミサイル防衛システムはMAD体制に影響しないとABM制限条約から除外され、合法兵器であると認めたのです。そしてロシア自身もS300Vというミサイル防衛システムを保有する事にしました。2002年にアメリカはABM制限条約から脱退しますが、これは米本土防衛用の国家ミサイル防衛(NMD)であるGBIが、ICBMなどの長距離弾道ミサイル迎撃用である為、1997年の合意に違反する存在となった為です。


もはや避けられないMD思想 (ノーボスチ・ロシア通信社 2007年12月27日)
日本には、核抑止のためにまったく何も手段を持っていないが、起こり得るミサイル攻撃から自国を守りたいという希望があることは十分に理解できる。ましてや、アメリカと共同で日本が創設したミサイル迎撃体制は基本中の基本である専守防衛の域を超えていないのだから。


2007年にロシア国営通信社ノーボスチは、日本が配備するMDは専守防衛の範囲内であるとさえ記事に書きました。その背景には、ABM制限条約の1997年の米露TMD合意があります。ロシアはPAC3やSM-3を問題視しないと、10年前に決めていたのです。
01時05分 | 固定リンク | Comment (87) | ミサイル防衛 |
2009年04月14日
前回の記事と同じ様な記事ですが、「大きな塊のままで降って来るより、迎撃して小さな破片を広範囲に飛散させる方が危険だ!」という主張も有ったんですね。

ぶっちゃけて言えばそれは間違ってます。


共同通信 2009年3月28日
PAC3を発射すると逆に被害を拡大させる恐れもある。弾頭が空のミサイルが着弾しても、破壊されるのはテニスコートニ面程度とされるが、迎撃すれば、PAC3の分も含め破片が広範囲に飛散するからだ。


共同通信は、破片の散布範囲が広がれば被害が拡大すると書いていますが、暴露状態の平原ならともかく遮蔽物の多い「市街地」では、破片が細かくなれば建造物の屋根や壁などで防げますから、むしろ大きな塊で落ちてくるより迎撃して破壊した後の細かい破片の方が危険性は少ないと見ていいでしょう。いくら広範囲に飛散しようと一定以上の破壊力が無ければ、被害は無視できる範囲に収まります。

同様の説明に、以前にも「クラスター爆弾」を市街地で使ったらどうなるかを紹介(港湾でクラスター爆弾攻撃した場合)しました。クラスター爆弾は通常爆弾よりも広範囲の面積を制圧できますが、拡散子弾1発当たりの打撃力は手榴弾と同程度と威力が小さく、建造物を破壊する力が欠けています。薄い屋根でも十分に防がれてしまう程度なのです。これでは建造物の中に隠れる敵兵に打撃を与える事は出来ず、つまり都市攻撃には全く向いていません。都市攻撃で必要なのは建造物を丸ごと破壊できる、1発当たりの火力の高さであり、第二次大戦で熾烈な市街戦を経験してきた独ソは両軍とも、巨大な榴弾砲を装備した自走突撃砲を開発し、ビルに立て篭もる敵を直接射撃でビルごと破壊するという戦術を採っています。

都市とは、市街地とは、火力を吸収してしまう存在です。コンクリートで作られた建造物はトーチカとして機能し、敵の砲爆撃から身を守ってくれます。これは兵士だけでなく民間人に対しても言える事なのです。弾道ミサイルの着弾が迫れば空襲警報を鳴らし、民間人には急いでビルの中や地下街へ、もちろん防空壕があれば其処へ逃げ込んで貰います。逃げ込む時間が無ければ遮蔽物の陰に隠れるだけでもかなり違います。

弾道ミサイルの直撃は、例え弾頭がカラだったり不発の場合であっても、大質量と高い速度により建造物を破壊する事が出来ます。(ゴリに着弾したロシア軍の不発ミサイルの例)ですが迎撃して破壊し、細かい破片として飛散させてしまえば、威力の低い1個当たりの破片は、建造物によって受け止めてしまう事が出来ます。よって、どれだけ細かく砕けるかによっても違ってきますが、迎撃によって破片が広範囲に飛散してしまっても、それが被害の拡大を意味するわけではないのです。むしろ破片1個当たりの低威力化によって被害は少なくなります。ただでさえ迎撃時の衝突で速度が減衰している上に、撃ち砕かれて軽くなった破片は空気抵抗で急速に速度を減じてしまいます。

日本政府は、ミサイル空襲警報を出す事の意味(急いで遮蔽物に隠れて貰う)と、迎撃して発生する破片についての説明(細かい破片ならば遮蔽物が防いでくれる)を、もっと周知徹底すべきだったのかもしれませんね。このような事は太平洋戦争の空襲の時と同じ話で、防空壕に隠れるという事は「爆弾の破片から身を守る」事であり、爆弾の直撃を受ければこれに耐え切る民間用の簡易な防空壕は殆どありませんでした。それでも防空壕に隠れる意味は十分にありました。直撃には耐え切れなくても破片なら防ぐ事が出来るのですから。

現代の話をすれば、湾岸戦争でイラクからの弾道ミサイル攻撃に晒されたイスラエルの都市では、イラクから39発が発射されたアル・フセイン弾道ミサイル(スカッド改造)とパトリオットPAC2による防空戦闘で沢山の破片が降り注いできても、破片による死者は出ておらず、弾道ミサイルの直撃で2名が死亡しただけに止まっています。これは弾道ミサイル攻撃が夜間と早朝に集中していた為、外を出歩いている住民が殆ど居なかった事、各家庭にシェルターがあり、速やかな退避が行われた事が背景にあります。なおミサイルの直撃で死亡した2名の他に、避難時の極度のストレスで心臓麻痺による死亡例が5名、ガスマスクの誤着用で7名が死亡しています。注目すべきはパトリオット部隊による防空戦闘が始まって以降、ミサイル空襲時に大量発生していた精神障害の症例が急激に減っていることで、迎撃手段の存在そのものが国民への精神安定剤として機能するという実績を示しました。

なおイラクが弾道ミサイル攻撃を夜間に集中したのは、安眠を妨害し精神的ストレスを与える為です。これはイスラエル世論に対する政治的な効果を期待したものでしたが、結果として心臓麻痺による死者を多数出していますので、直接的な損害も出ています。(※アメリカ軍の空爆を避ける為にイラク軍は昼間の行動が大きく制限された事の方が、ミサイル攻撃が夜間に集中した理由の最大要因であると、この部分の解説を変更します。心理的効果は結果的に付いてきたもの)

[PDF] 「ミサイル防衛と国民保護」シリーズ(1):元防衛研究所主任研究員喜田邦彦

PAC2は弾道ミサイル迎撃用ではなく、有効な防空戦闘は行えませんでしたが、それでもこれが無ければ心臓麻痺で死んでいた例はもっと増えていた可能性が高く、やれるだけのことをやっておくという事の意味を示しました。またイスラエルの住民保護の仕組みが完備されていた事も被害を極小に止めた成果だと言えます。ただしイスラエルが幸運であった事も確かです。同じ戦争中、サウジアラビアの米軍基地では宿舎に弾道ミサイルが直撃し、就寝中の兵士が28名死亡しています。第二次大戦中にも、ベルギーのアントワープにある劇場にドイツ軍のミサイルが直撃して数百名が死亡した事例があり、直撃による被害は防ぎようがない事に変わりはないからです。だからこそ迎撃という手段です。細かい破片に砕いてしまえば、屋根で防いでしまえるのですから。

対空ミサイルは迎撃戦闘で発射すれば確実に破片を出します。弾道ミサイルに命中すれば対空ミサイルの分だけ破片は増えますし、大きく目標を外した場合でも自爆処理してその破片が降ってきます。

でも、だからそれがどうしたのですか? 直撃を受けるよりは遥かにマシなのですよ?

破片ばかり気にする人達は、一体何の為に空襲警報を流すのか、よく考えてみるべきだと思います。建造物や地下街に逃げ込んでしまえば破片の殆どは防ぐ事が出来るのです。
02時45分 | 固定リンク | Comment (92) | ミサイル防衛 |