このカテゴリ「ミサイル防衛」の記事一覧です。(全137件、20件毎表示)

2009年04月10日
前回、オバマ政権の基本的なMD構想を紹介しましたが、今回はMDに関する外交についてです。先ずは4月5日、チェコのプラハで行ったオバマ大統領の演説にこうあります。


Remarks By President Barack Obama In Prague As Delivered - The White House
As long as the threat from Iran persists, we will go forward with a missile defense system that is cost-effective and proven.


イランの脅威がある限り、ミサイル防衛の東欧配備はそのまま進められる、とあります。イランが弾道ミサイルと核開発を放棄すればMD配備の必要は無いとも述べていますが、そうなる可能性は著しく低いので、オバマ政権は前ブッシュ政権の構想を引継ぎ、東欧MD配備をそのまま進めるのでしょう。

そして次の話はイスラエルのMDシステムと関わってくる問題です。


Obama, Gates take aim at Israel's Arrow-3 missile - United Press International
WASHINGTON, April 9 (UPI) -- Israel's Arrow-3 anti-ballistic missile may be one of the first victims of U.S. President Barack Obama's defense spending cuts.

Ynet, the Web site of the respected Tel Aviv daily Yediot Aharonot, reported Monday that U.S. funding for the Arrow-3 program is likely to be eliminated.

However, in compensation, the Obama administration is prepared to help Israel buy the U.S. Navy's Standard Missile 3 anti-ballistic missile system instead, the report said. The SM-3 is built by Raytheon as its primary contractor.


アメリカはイスラエルと共同開発している弾道ミサイル防衛システム「アロー3」の資金提供を打ち切り、代わりに自国の「SM-3」を買うように求めています。

しかしこれはどういうことでしょうか、SM-3はイージス艦で運用するものですが、イスラエル軍はイージス艦など持っていません。SM-3を地上配備が出来るように改造するのか、それともUPIがTHAADと勘違いしただけとか、もうちょっと調べてみたいと思います。

なおアロー弾道ミサイル防衛システムはイスラエルにだけ配備されているもので、アメリカの技術協力で完成に漕ぎつけた物です。湾岸戦争で弾道ミサイル攻撃を受けたイスラエルは、MDシステムを最優先で整備しました。それも次の戦争に間に合わせる為に開発速度最優先で行った為に、革新的技術を使わずに従来からある技術の延長線上で開発が行われ、完成したアローは大型地対空ミサイル&近接爆破信管というオーソドックスなスタイルで纏められ、アロー1、アロー2と更に大型化しています。(訂正:試作型のアロー1の方が量産型のアロー2より大きい)

Arrow missile - Wikipedia

一方アメリカは弾道ミサイルを直撃で完全破壊する事を目標に、そして大気圏外で迎撃できるように、既存の対空ミサイルには無い新技術を導入した結果がSM-3やTHAADといったシステムになります。つまりアメリカはイスラエルに対し、技術的にあまり発展の望めないアローよりも、これらアメリカのMDシステムを買うように促していることになります。

アロー・システムは湾岸戦争の次の戦争(イラク戦争)に間に合わせた兵器です。幸いにして出番はありませんでしたが、万が一の際に対処できるのとできないのでは大違いですから、間に合わせた事そのものに大きな価値がありました。ただし急いで間に合わせる為に技術的冒険を行えなかった為に、将来発展性は削がれてしまいました。その為、SM-3やTHAADがモノになった現在では、もう必要が無くなってしまったのかもしれません。
20時43分 | 固定リンク | Comment (108) | ミサイル防衛 |

2009年04月08日
オバマ政権のミサイル防衛構想が示されました。

DoD News Briefing With Secretary Gates From The Pentagon | defenselink.mil

国防総省の公式サイトより、2010年度国防予算に関する発表で、それに対する解説やゲーツ国防長官やカートライト統合参謀本部副議長のコメントが掲載されています。かなり長い記事なので読むのに苦労しますが、MD(ミサイル防衛)に関しては大まかに以下の通りです。

・防衛予算全体は2009年よりも210億ドル増額。
・MD予算全体に関しては14億ドル減額。ただしSM-3とTHAADは7億ドル増額。
・イージス艦を6隻、MD対応に改修する為に2億ドル。
・米本土防衛用GBIの数は現状維持。ただし北朝鮮の脅威を名目に開発研究は継続。
・ABL(空中レーザー砲)2機目生産はキャンセル。初号機での開発は継続。
・MKV(多弾頭迎撃体)開発計画は技術的困難の為、一旦中止。
・KEI(上昇段階用迎撃体)については、将来有望ながらまだ研究が必要。

MD予算は全体的に削られましたが、現状で有効性が確認されているSM-3とTHAADについてはむしろ予算を優先的に回され、新規開発中のABL、MKV、KEIが開発縮小ないし開発中止となっています。どれも技術的に困難がある上、当面は必要性が薄いので予算が大幅にカットされました。

空中レーザー砲についてはやはり実用性に懐疑的だったようで、研究は継続するも配備計画は見直されました。MKVは現状の北朝鮮やイランの弾道ミサイルがMIRV(多弾頭独立目標再突入体)化されておらず、中国ですらMIRV実用化までに30年以上掛かっている為、北朝鮮やイランが実用化するまでにはまだ時間が掛かると予測され、暫くは大丈夫との判断なのでしょう。KEIは敵国付近に前進配備して弾道ミサイル上昇中を狙う迎撃ミサイルで、直径1mと巨大なミサイルである為に、これを搭載できる艦船が現在存在せず、次期巡洋艦CGXを大型原子力巡洋艦として積み込む案が出されていましたが、CGX自体が計画先送りとなり、KEIの優先順位も同時に下がっています。

これら開発中の新兵器は予算がカットされましたが、MDは同盟国と米軍の派遣部隊を守るものとされ、米本土防衛用のGBIは優先順位が下げられるも、戦域防衛用のSM-3とTHAADに関しては予算が十分に確保されています。日本が共同開発に関わっているSM-3Block2Aの存続と、近い将来に導入すると噂されていたTHAADの存続は、日本のミサイル防衛構想にとっても歓迎すべき話です。ABLやKEIは敵弾道ミサイルをブーストフェイズで迎撃するもので、敵国領空での撃墜もあり得る為、専守防衛の制約がある日本には使い難い兵器ですし、ICBMを迎撃可能なGBIは日本には過剰性能(最大射高2000km以上)な上に他国への輸出はあり得ませんので、これも日本には関係がありません。MKVの開発中止でSM-3Block2Bが無くなったのは残念ですが、元々北朝鮮相手にMKVは必要が無い装備です。

SM-3開発計画は非常に順調で、各種実験結果も成功率が高いうえに、準実戦とも言える、軌道を外れて落下してくる人工衛星を迎撃するという実績も得て、2015年には本命と目される日米共同開発のSM-3Block2が登場します。弾体直径がランチャーぎりぎり一杯の53cmに拡大され、従来のBlock1が弾体直径35cmなのに比べると一気に大型化し、射程・射高は2倍近く、迎撃弾頭の最終速度は1.5倍になり、ノドン弾道ミサイルが相手なら最大到達高度付近でも迎撃可能で、速度も迎撃体の方がノドンの弾頭よりかなり速い為、ヘッドオン(正面)だけでなく真横からでも当てられます。その為、迎撃可能な範囲が広く、イージス艦一隻だけで日本の主要都市全てを防空可能とされています。

RIM-161スタンダードSM-3

THAADは当初、実験失敗の連続でした。1995年から6回連続で迎撃実験に失敗し、1999年になってようやく2回成功しましたが、これは命中し易く設定された上での結果であり、性能が改善したとは認められず、翌年から一旦、実地試験は凍結され、弾頭の制御プログラムを中心にシステム全体を見直し再設計される事になりました。そして6年間の空白期間を経て実験は再開され、2005年に飛行試験を行い、2006年から迎撃試験が行われました。それからの成績は非常に良く、6回の迎撃試験で6回とも成功しています。現在ハワイのカウアイ島にTHAAD実験部隊が居り、テキサス州のフォートブリス基地で初の実戦部隊が現在編成中で、2009年中に本格的な運用が始まります。THAAD購入については日本、イスラエル、UAEが興味を示しており、UAEは既に商談に入っています。

Terminal High Altitude Area Defense - Wikipedia




今回のオバマ政権の2010年度防衛予算に置ける提言は最終決定ではなく、これから議会で審議を経てから決まります。その過程の中で復活する項目もあるかもしれません。また、提言では全体の防衛予算が増える中でMD予算は削られますが、日本と関係が深いSM-3とTHAADは予算を削られるどころか増額されており、日本のミサイル防衛構想に大きな影響は出る事は無いでしょう。ただこれで日本がTHAADを購入する路線はほぼ固まったと見ていいと思います。日本政府はTHAADを買うとはまだ言っていませんが、PAC3の射程の短さが問われている現状で、弾道ミサイルの終末防御用で都市防空も可能なカバー範囲の広さ(PAC3の10倍以上)を持つTHAADならば、日本の防衛に合致しており、性能的にもノドン弾道ミサイル以上の中距離弾道ミサイルをも迎撃可能であり、申し分の無いものです。アメリカが今後、SM-3とTHAADに力を入れると決定している以上、日本もこれに付き合う事になります。そしてそれは願ったり叶ったりなのです。
18時00分 | 固定リンク | Comment (132) | ミサイル防衛 |
2009年03月25日
よく弾道ミサイル防衛(MD)について懐疑的な意見の定番に「ピストルの弾をピストルの弾で撃墜するようなものだ、出来るわけが無い」というものがあります。これはMD開発当初からよく言われていた表現で、使い古された感すらあります。

結論から言うと、それはそんなに難しいものではありません。ただしもちろん、迎撃側はコンピュータ制御の高度なFCS(火器管制装置)を装備している事が前提条件なのですが、MDですらない迎撃システムで「ピストルの弾をピストルの弾で撃墜する」という事に近いことを実験でやってのけた例は複数あります。

まずアメリカ海軍は20mmバルカンファランクスで、艦載砲の5インチ(127mm)砲弾を撃ち落とす実験を行っており、「砲弾を砲弾で撃墜する」事を何十年も前に実践済みです。またイギリス海軍のシーウルフ艦対空ミサイルは、同じく艦載砲の4.5インチ(114mm)砲弾を撃ち落とす事をやってのけ、イギリス海軍や現生産元のMBDA社はこのミサイルの優秀性を示す時に、よくこの事実を誇示しています。

「It even has the accuracy to shoot down 4.5-inch artillery shells, and has done!」 - Royal Navy

「VL SEAWOLF (VL = Vertical Launch) is accurate enough to intercept 4.5 inch (114 mm) shells.」 - MBDA

古い話なのでファランクスの方は紹介しやすい資料を用意できなかったのですが、実はシーウルフ艦対空ミサイルの件も同じくらい古い話(VL化する前)だったりします。イギリスさんは、対艦ミサイルよりも遥かに小さくて撃墜し難い「砲弾」を撃破できた事が嬉しかったらしく、今でもこのように自慢しているのでした。

この手の「砲弾を砲弾で撃墜する」という事が出来そうな装備として、他にイタリアのOTOメララ社が開発中の76mmストラレス砲弾誘導システムがあります。実際にそういう実験をやったわけではありませんが、スペック上は恐らく可能でしょう。

このように、「ピストルの弾をピストルの弾で撃墜できるのか?」という事例に近いものは、以前からMD以外の迎撃システムで実践済みであり、MDで出来ないという理由には成り得ません。そもそもこの表現は比喩の話で、それくらい難しいんだという事を例えとして言いたいのでしょうが、元々これは例として相応しくないものでした。何故ならピストルの弾とピストルの弾では、目標体と迎撃体が同種のものですが、弾道ミサイルと迎撃ミサイルは別種のものだからです。

もし現実にピストルの弾を迎撃しようとしたら、ミリ波レーダーなどのセンサーで目標を捕らえ、コンピュータで自動制御されたFCSを用い、誘導ピストル弾あるいはタングステン散弾を発射すれば曲がりなりにも迎撃可能なシステムは組み上げられます。誘導ピストル弾なんてものはありませんが、その他のものは既存の技術です。ピストルの話を持ち出すのであれば、MDが行おうとしているのはこういう事であり、そしてMDは誘導迎撃体であることを忘れてはなりません。


ミサイル迎撃、外相「難しい」政府筋「当たらない」:朝日新聞
政府筋は「鉄砲をバーンと撃った時にこっちからも鉄砲でバーンと撃って(弾と弾が)当たるか。当たらないと思う。口開けて見ているしかない」との見方を示した。「実験したときは成功したと言うが、それは、『はいこれから撃ちますよ。はい、どーん』と撃ったやつだった。いきなりドーンと撃ってきたら、なかなか当たらない」とも述べた。


政府筋「7、8分たったら終わっている」北ミサイル迎撃に懸念:産経新聞
政府筋は23日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合に備える日本のミサイル防衛(MD)システムについて、「(事前予告がなければ、ミサイル発射から)7、8分たったら、浜田靖一防衛相から麻生太郎首相の所に報告に行ったら終わってる」と述べ、政府内での迎撃手続きに時間がかかると、撃ち落とすチャンスがなくなるとの見方を示した。


「バーン」とか「ドーン」とかお子様ですか、この政府筋さんは。とても頭が良さそうな人には見受けられないです・・・そしてこの方のMDに関する認識は完全に周回遅れです。今時ピストル(鉄砲)を例えに出したMD批判なんて、昨年にアメリカ軍がMDで軌道を外れた人工衛星を撃墜して見せてからは殆ど見られなくなった類のものですし、MD実験についての認識も古過ぎです。アメリカ軍はMDに関して、発射時刻を知らせない不意打ち実験を既に何度も成功させています。『はいこれから撃ちますよ。はい、どーん』という単純な実験の段階はとっくに過ぎ去っています。政府筋も中曽根外相も、MDに対する知識が全く無いのに印象だけで語るのは止めて欲しいものです。ましてや政府方針に異を唱えるに近い不用意な発言は、その政治センスの無さを疑われるものでしょう。

また、迎撃手続きに時間が掛かると撃ち落せないという主張に至っては、自分たち政府が決めた自衛隊法改正を全く理解しておらず、話になりません。

▼弾道ミサイル防衛政策(平成19年度防衛省PDF資料)

md01a.jpg md02b.jpg

前以て破壊命令を出しておく事で、閣議を経ず現場の判断で迎撃できるように法整備を行った筈です。

ただし、テポドン2が予定通りのコースを正常に飛行した場合、MDによる迎撃は不可能です。テポドン2は大陸間弾道弾に近い射程を有しており、高高度を飛んでいく為、現時点のMD装備で性能的に迎撃可能なものはアメリカ本土防衛用のGBIだけです。しかしGBIはアラスカとカリフォルニアにのみ配備されている為、ハワイ方面に向って飛んでいくテポドン2を迎撃する事は出来ません。

その為、日本が想定しているテポドン迎撃の準備とは、テポドンが予定通りに飛行していかない場合、事故あるいは意図的に日本国土に落下してくる不測の事態に備えてのものです。そもそも可能性が低い事態に対処する為のものであり、テポドンが打ち上がったら何が何でも撃墜するというものではありません。最も警戒されているのは、切り離されたブースターが予定外の場所に落下してくる可能性なのですから。

意図的にテポドンで日本本土を狙って撃って来る可能性は著しく低い(それをやるならノドンを使う)のですが、ミサイルの能力として不可能ではありません。長射程の弾道ミサイルでも極端に高く上がる弾道(ロフテッド軌道;lofted trajectory)や極端に低い弾道(ディプレスト軌道;depressed trajectory)を行えば、近距離へ叩き込むことは可能です。

可能性としては低いのですが、不測の事態に備えているのであり、SM−3を搭載した海上自衛隊のイージス艦は落ちてくるブースターを警戒し、航空自衛隊のPAC−3を東北地方に移動配備する意味は、本気で迎撃の用意をしていると言うよりは「PAC−3は首都圏しか守らない」という批判を払拭する絶好の機会であるからです。現在までアメリカ軍は三沢基地に米本土のTHAAD部隊を呼び寄せておらず、日本本土攻撃の可能性はまず無い事を理解しています。4月に予定されている北朝鮮のテポドン2発射は、早期警戒衛星及びイージス艦と青森県車力に配備されたアメリカ軍のXバンドレーダーで捕捉、追尾データを得る事になるでしょう。何か突発的な事態がなければ、基本的にはそれで終わりです。
00時30分 | 固定リンク | Comment (378) | ミサイル防衛 |
2008年12月06日
12月5日、アメリカ軍はミサイル防衛システム(米本土防衛用GBI)の長射程射撃テストを行いました。アラスカ州コディアック島から発射された標的ミサイルに対しカルフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地から迎撃ミサイルを発射し、撃墜に成功しています。コディアックとヴァンデンバーグの距離は約3500kmあり、テポドン級の中距離弾道弾を実地試験で撃墜した事になります。


米、長距離弾道ミサイル迎撃実験に成功 北朝鮮の攻撃など想定 : 日経新聞
米国防総省は5日、長距離弾道ミサイルの迎撃実験に成功したと発表した。北朝鮮が2006年7月に発射した「テポドン2号」やイランからの攻撃を事実上想定したもので、難易度の高い実験と位置付けられていた。迎撃の成功はミサイル防衛政策に慎重論をとるオバマ次期大統領の政策にも影響を与えそうだ。

Missile Defense Flight Test Results in Successful Intercept(PDF) : Missile Defense Agency
The target was successfully tracked by a transportable AN/TPY-2 radar located in Juneau, Alaska, a U.S. Navy Aegis BMD ship with SPY-1 radar, the Upgraded Early Warning Radar at Beale Air Force Base, Calif., and the Sea-Based X-band radar.


この試験では標的ミサイルの追跡に初めて複数の各種レーダーが使われました。AN/TPY-2とはFBX-Tとも呼ばれ、青森県車力に配備されているXバンドレーダーと同じ物で、小型の車載移動式です。SPY-1はイージス艦のレーダー、ビール空軍基地のUpgraded Early Warning Radar (UEWR)は既存の警戒レーダーをMDシステムに組み込めるように改修したもの、最後のSea-Based X-band radarがGBIの射撃管制を行う海上配備型大型Xバンドレーダーです。

この実験はこれまで行った試験と比べても、かなりの長射程の条件で行ったものです。それと合わせてデコイ(囮)弾頭を放出しながらの迎撃試験を行う予定でしたが、標的ミサイル側の不具合でデコイが分離せず、通常の単弾頭迎撃試験となっています。


★オライリーMDA長官の会見付き動画






★迎撃試験についてより詳しい映像



23時48分 | 固定リンク | Comment (70) | ミサイル防衛 |
2008年12月05日
12月2日、ロッキード社が開発中の多弾頭型ミサイル防衛システムMKV-Lの地上試験が行われました。

Multiple Kill Vehicle Completes Hover Test (pdf) : Missile Defense Agency

ただし分離はまだ出来てません。単純に母機が子機ごと浮き上がっただけです。










MKV-Lの開発が進めば、マザーファンネル&チルドファンネルの現物動画を見る事ができるんでしょうか。親機はともかく子機の動作は重力下の試験では流石に無理があるような気もしますけれど、意外と早く実用化できそうですね。
23時28分 | 固定リンク | Comment (43) | ミサイル防衛 |
2008年12月02日
言い掛かりにしても、もう少し頭の良さそうな主張は出来ないものなのか・・・


ミサイル防衛:PAC3配備中止の要請書、市民団体が岐阜基地に提出 /岐阜 - 毎日新聞
自衛隊が2010年度までに、各務原市の航空自衛隊岐阜基地に迎撃ミサイル、パトリオット3(PAC3)配備のための予算を盛り込んでいることを受けて、周辺住民や市内の教員らでつくる「岐阜基地にパトリオットミサイルはいらない!行動実行委員会(海野修治代表)」は29日、配備中止を要望する申し入れ書を同基地に提出した。

申し入れ書では「PAC3がミサイルの撃ち落としに成功しても、破片は各務原市近辺に落ちてくる」などとしている。申し入れの前には、約40人が基地の周りをデモ行進した。


敵ミサイルの迎撃に成功して破片が降ってくるのと、迎撃せずに直撃して核爆発が起きるのとどっちがマシなんですか? 核弾頭の撃墜に成功した場合は核爆発は起きませんよ?・・・と反論されるまでも無く、なんで自分達で気付かないんですか・・・例え敵ミサイルが核弾頭ではなく通常弾頭だったとしても、直撃を受けるよりは破片の方がまだマシだなんて、誰にでも分かることでしょうに。

ただし、中途半端に破壊してミサイルの破片が大きなままであった場合には、被害が出る場合があります。湾岸戦争でスカッドミサイルをPAC2で迎撃した際、幾つかの事例で破壊しきれずに弾頭が落ちてきた例が報告されています。これは元は対航空機用のPAC2の弾頭が近接信管による起爆(爆発破片破砕効果)である為、敵ミサイルを十分に破壊しきれなかったからでした。






この湾岸戦争時のビデオの最後の方で、敵ミサイルにPAC2が2発命中(いや命中は1発か)しながら破壊しきれず、そのまま市街地に着弾していく様子を見ることが出来ます。この時の戦訓から「弾道ミサイル迎撃は直撃方式であるべき」との認識が強くなり、PAC3やSM3など、アメリカのMDは全て直撃方式による弾頭の完全破壊を目指しています。つまり破片による被害が少なくなる事を考慮しています。

もしこの反対している市民団体が「敵ミサイルなど放って置けば各務原市には落ちてこない、途中で迎撃するから各務原市に被害が出る」と考えているのであれば、自分達さえ無事なら他の日本の都市が破壊されようが構わないという、非常に傲慢な考え方です。それ以前にPAC3は射程が短いので「他の都市に向うミサイルを途中の都市の上空で迎撃」なんて真似は出来ません。もし各務原市でPAC3に出番がある時は、各務原市を狙った攻撃があった時のみです。しかしPAC3は車載移動式であり、有事の際は各務原市ではなく名古屋方面に配置される筈です。


岐阜基地にパトリオットミサイルはいらない! 各務原行動実行委員会
来年2009年2月ごろから夏にかけて、岐阜県各務原市にある航空自衛隊岐阜基地に、パトリオットミサイル(PAC3)が配備されようとしています。
 “パトリオット”とは、英語で“愛国者”という意味ですが、PAC2の後継であるPAC3は、アメリカ・ブッシュ政権の先制攻撃戦略の中、ミサイル防衛構想として出てきたものです。「飛んでくるミサイルから国民を守ってくれるもの」だと考えるとしたら、とんでもない間違いです。先制攻撃をしかければ、当然にも反撃されるので、それを封じ込める体制を作ろうというものです。守るのは、政府中枢・皇居・軍事施設などであり、一般国民を守るのではありません。


射程の短いPAC3では都市防空に向いていないので一般国民を守るものではない、という主張を行った場合、「じゃあ射程の長いSM3は国民を守る為のものですよね」「PAC3の射程が不満ならTHAADを導入すべきですよね」という流れになる事は、彼らは理解しているのでしょうか。してないんだろうな・・・あとPAC3構想はブッシュ政権時の計画ではありません。PAC3の開発はERINT計画が始まった1983年からの話です。つまりレーガン時代からある古い計画です。実は、湾岸戦争の戦訓を得る前から、直撃方式による弾道ミサイルの迎撃が検討されていました。
01時13分 | 固定リンク | Comment (124) | ミサイル防衛 |
2008年11月20日
海上自衛隊のイージス艦「ちょうかい」がハワイ沖で行ったスタンダードSM-3による弾道ミサイル標的射撃訓練「JFTM-2」で、目標の迎撃に失敗しました。




迎撃ミサイルは途中まで正常に作動していましたが、命中の僅か数秒前に赤外線シーカーが目標をロスト、最後の最後で外しました。原因については究明中で、シーカーの不具合が発生したのではないかと疑われています。今回の試験は標的ミサイルの発射時刻を知らせない実戦形式で行われました。発射時刻を知らせない実戦形式の実験はこれまでずっとアメリカ側では成功し続けていますが、つい最近の11月1日、アメリカ海軍の「パシフィック・ブリッツ」演習(SM-3の試験はミサイル防衛局から海軍に移管)でUSSホッパーがSM-3による迎撃に失敗(ただし同時に行われたUSSポール・ハミルトンによる迎撃は成功)しており、嫌な予感はしていたのですが・・・


Navy Intercepts Ballistic Missile Target in Fleet Exercise Pacific Blitz
Upon detecting and tracking the target, USS Paul Hamilton, launched a SM-3 missile, resulting in a direct-hit intercept. Following USS Paul Hamilton’s engagement, PMRF launched another target. USS Hopper successfully detected, tracked and engaged the target. The SM-3 followed a nominal trajectory, however intercept was not achieved. Extensive analysis of the flight mission will be used to improve the deployed Aegis BMD system. The Aegis Ballistic Missile Defense (BMD) flight record is 16 of 19 intercepts.


今回の失敗を含めて、イージスBMDによる迎撃実験成功率は日米通算で80%です。

Aegis Ballistic Missile Defense Testing : PDF

MDA(ミサイル防衛局)によると、人工衛星撃墜の件もカウントしているようです。

防衛省側によると、「ちょうかい」が行ったのはミサイルの開発実験ではなく射撃手順を確認する為の訓練であり、それについては目的を達成しているので、無駄ではなかったと言っています。開発実験だとしても失敗は成功の元ではありますが、今回の場合、原因が仮に赤外線シーカーの不具合であるならば、「ちょうかい」側に落ち度はありません。つまり終末誘導装置の不具合であるならば、発射時刻を知らせなかった実戦形式が失敗の原因ではないわけです。SM-3の日米共同開発では将来、このシーカー部分の開発担当を日本側で行う事になります。次は自分達の責任でやる事になるでしょう。日米共同開発で行うスタンダードSM-3の本命は、直径拡大型のSM-3Block2Aと、その多弾頭型Block2Bです。

「日本、多弾頭迎撃体MDシステムの導入決定」

多弾頭タイプなら1個や2個の不具合があっても無問題です。相手の囮弾頭、MIRVを含めても、数で圧倒できます。






現在、MKV-LとMKV-Rという2種類の多弾頭型MD開発計画があるのですが、MKV-LはまるでガンダムZZに出て来たゲーマルクの「マザー・ファンネル&チルド・ファンネル」方式のような親子構造で、とうとう現実がアニメに近付きつつあるという感じです。


今回の海上自衛隊「ちょうかい」の失敗で、米海軍「ホッパー」の失敗と続き2連続でイージスBMDが迎撃試験に失敗した事になります。ここずっと成功し続けていただけに残念なのですが、失敗することもまたテストの内と考えて、不具合の解消に全力を尽くして欲しいと思います。

次期アメリカ大統領オバマ政権は、恐らくミサイル防衛を存続させる事でしょう。現在、オバマ次期大統領は次期政権の国防長官にゲーツ長官の留任を要望しています。ゲーツ長官はつい最近、ロシアに対し東欧ミサイル防衛配備計画の白紙撤回を明確に拒否しました。またゲーツ長官の次に国防長官候補となっているダンジク元海軍長官も最近、米本土防衛用ミサイル防衛(GBIのこと)を価値ある地域にも配備しなければならないとの認識を示し、東欧MDに積極的です。


Why Obama Will Continue Star Wars - TIME
But even in a Democratic-run Pentagon the push for missile defense is going to continue. If Obama keeps Defense Secretary Robert Gates on, as some advisers are arguing he should, that would come as no surprise. "Russia has nothing to fear from a defensive missile shield," Gates said Thursday as he argued for extending the system to Europe. The current plan is to place 10 missile interceptors in Poland and a missile-tracking radar in the Czech Republic by 2014. It's strongly opposed by Russia, which views it as an unwelcome military threat in a region where it has always been pre-eminent. The other leading contender for the Pentagon post is Richard Danzig, a Clinton Navy secretary, who recently told reporters that the Obama team has "a strong view that national missile defense is a rewarding area and should be invested in."


どちらが国防長官になっても、ミサイル防衛は生き残るでしょう。幾つかの採算に合わない計画は中止されるでしょうが、根幹はそのまま残ります。
23時45分 | 固定リンク | Comment (101) | ミサイル防衛 |
ハワイで行われている弾道ミサイル防衛システムの開発実験で、退役したヘリコプター揚陸艦「USS トリポリ」が標的ミサイルの移動式海上発射プラットホームとして利用されています。この事は9月に「UAEがMDシステムTHAADを購入予定」で最後に触れましたが、実際に標的の弾道ミサイルを発射している様子をミサイル防衛局のProgram Imagesより紹介しておきます。


標的ミサイルを打ち上げるUSSトリポリ


退役艦を発射台として使っている理由は、カウアイ島の地上にある標的ミサイル発射台が手狭なのと、曳航して海上を移動することの出来る発射台ならば、発射地点を自由に設置できるという利点がある為です。これにより脅威方位角多様性をテストに組み込み、標的ミサイルが何処から飛んでくるか分からない状況を作り出せます。最近、USSトリポリはサンフランシスコに帰ってきています。冬の間はハワイを離れ、春になったらまたハワイ近海で使用される予定です。

Ballistic Missile Defense Ship, the Former U.S.S. Tripoli, Comes Home : The San Francisco Citizen

実はUSSトリポリは2年前からこの用途に転用されています。
02時33分 | 固定リンク | Comment (34) | ミサイル防衛 |
2008年11月09日
昨日、政権が本格始動する来年までにまた変わっている事も有り得るでしょう・・・と書いたら今日になってあっさり変わって修正されました。というよりポーランド側が先走って会見したんでしょうか。


オバマ氏、ミサイル防衛は「技術立証されれば」推進=側近 - ロイター通信
オバマ氏の外交政策アドバイザーであるデニス・マクドナフ氏は、ロイターの取材に対し、MD計画の配備は確約されたわけでないとした上で、「オバマ氏の立場は選挙中と同じで、(MD計画の)技術が機能すると立証されれば、システム配備を推進する」と述べ、ポーランド側の発表を修正した。


「技術が立証される」という条件とは、一体なんでしょう? ・・・と、ここまで考えて真っ先に思いつくのは、『未だ欧州向けバージョンのGBI(二段式)は射撃試験すらしていない』という点です。アメリカ本土に配備が始まっているGBIは三段型ですが、ポーランドに配備される予定のヨーロピアンGBIは二段型であり、ロシアに配慮してワザと性能を落としています。GBI三段型は既に何度もテストを行っていますが、GBI二段型はこれから試験をやります。その意味でオバマは「(欧州向け二段型GBIの)技術が立証されれば、システム配備を推進する」としているのかもしれません。

ただ、オバマがそこまで詳しくミサイル防衛の詳細について把握しているならばの話ですので、もうちょっと詳しい説明がほしい所です。
20時07分 | 固定リンク | Comment (26) | ミサイル防衛 |
11月6日の記事「オバマ大統領の誕生と軍事政策」でチェコ紙の記事などを例に「ポーランドとチェコは、オバマが米次期大統領になっても東欧MD配備をそのまま進めるだろうと認識している」と紹介しましたが、7日にオバマ次期米大統領自身が「ロシアに反対されてもMD配備をそのまま進める」とポーランドのカチンスキ大統領に電話会談で語りました。




ロシアは米大統領選の結果が判明しオバマが当選したのと同時に、ポーランドへのMD配備の牽制として飛び地カリーニングラードへ短距離弾道ミサイル「イスカンダル」の配備を発表、米次期大統領に対して圧力を加えましたが、オバマは意に介す気がありませんでした。

ロシア、ポーランド隣接の飛び地にミサイル配備 - 日経新聞

なお最新鋭のイスカンダル短距離弾道ミサイルですが、グルジア戦争の際に損傷の少ない不発弾が丸ごと回収されてしまい、アメリカ側に性能を解析されてしまっている恐れがあります。命中精度の高さが自慢のミサイルなのですが、目標を外れてトンでもない所に落ちてしまい、ロシア側による回収が出来ませんでした。

「ゴリに着弾したロシア軍の大型ミサイル(イスカンダルと推定)」

イスカンダルは短距離弾道ミサイルである為に飛行高度が低く、大気圏外の高々度で迎撃を行うポーランド配備のGBIでは迎撃できません。その為、大気圏内迎撃用のPAC3を配備して防御する必要があります。一部ではイスカンダルの事を「MDを突破できるミサイル」と紹介するケースがありますが、このミサイルが発射後に行う軌道変更はアメリカ軍のATACMS短距離弾道ミサイルと同様に発射地点を対砲レーダーで探られない為のものであり、特にMD突破を意図したものではありません。


今回のオバマ談話により、アメリカ次期政権でもミサイル防衛の存続と推進が確定しました。当初はMDに否定的な事も口にしていたオバマですが、今となってはその様子を垣間見る事もありません。MD以外でも軍縮について積極的に動き出す様子が見られず、防衛予算の大幅な削減も行わないことが分かっています。軍事面以外でもオバマは、一年前にはNASAの予算を削って教育予算に廻すと語ってもいました。これでスペースシャトル後継機計画が大きな影響を受ける所でしたが、ところが三ヶ月前に前言を翻し、NASAへ20億ドルの追加予算を行う事を認めました。

オバマの政策・戦略は、本人が若く経験がまだ浅いために、周囲のスタッフの意見をよく聞いて取り入れる必要に迫られています。故にこのような主張の転換、変化が多くの分野に見られ、政権が本格始動する来年までにまた変わっている事も有り得るでしょう。
01時39分 | 固定リンク | Comment (33) | ミサイル防衛 |
2008年10月22日
ロシア兵器の詳細については他の欧米の兵器ほど情報が公開されているわけではないので、巷には不確かな情報が沢山出回っています。それらを少し整理してみると、例えば「ロシアの対MD用弾道弾」とされるものについて、「終末段階で巡航ミサイルに分離する」などと報道されているのですが・・・


露がミサイル発射実験:産経新聞 2008年10月12日
今回、発射されたミサイル「シネワ」は、最終段階で弾頭が分離して巡航ミサイルになるため、弾道計算で運用されるMDシステムでは対応できないともいわれる。


しかし、シネワはそのような構造ではありません。

R-29RM / SS-N-23 SKIFF - Globalsecurity.org
Р-29РМУ2 «Синева» - Википедия

シネワ潜水艦発射弾道ミサイルは、三段式の液体燃料を推進剤とする弾道ミサイルです。弾頭はMIRV(複数個別誘導再突入体)であり、巡航ミサイルではありません。もしそれぞれの弾頭がMaRV(機動再突入体)だとしても、巡航ミサイルとは到底呼べません。仮にMaRVだとしても、命中精度向上用のものであるならミサイル防衛を突破する意味合いはありませんし、産経新聞の記事は何かを勘違いしている可能性が高そうです。そしてどうやら産経新聞は、ロイター通信の記事をそのまま書き写したに過ぎないようなのです。


Russia: Ballistic Missile Test-Fired
The RSM-54, or Sineva, is a hybrid ballistic missile that in its final stages becomes a modified cruise missile.


この報道は今年の記事だけでなく、去年にも報道されている内容です。ですが、何かの誤報か勘違いの可能性が高いです。どういうことかというと、この射程の弾道ミサイルならば大気圏突入時のスピードはマッハ20近くになるのですが、巡航ミサイルのジェットエンジンが作動できる範囲を超えている為です。ラムジェットエンジンでもマッハ5が作動限界であり、もし弾頭部が巡航ミサイルであるならば、最低でもこの速度までスピードが落ちない限りエンジンに点火できません。しかしわざわざ遅くなれば迎撃されやすくなります。幾らミサイル防衛網を掻い潜る機動性を発揮できた所で、この速度では通常の防空網で捕捉、撃墜されてしまう可能性が高まります。ロケットエンジンならば問題ありませんが、燃料は直ぐ尽きてしまうので迂回するような大きな機動は出来ません。現在、「対地巡航ミサイル」というものはどれもジェットエンジンで飛翔します。そうしないと長距離を飛行する事は出来ません。

ただし、新たな種類のエンジンである「スクラムジェットエンジン」ならば作動限界の問題を克服する事が出来ます。理論上はマッハ20近いスピードも達成可能で、これを使えば弾道ミサイルとの組み合わせも不可能で無いばかりか、そもそも弾道ミサイルに載せる必要も無く、爆撃機から発射したり地上から直接発射したり、嘗ての大陸間巡航ミサイル(例えば「La-350 Burya」のような)が再び実用兵器として復活する可能性すらあります。スクラムジェットエンジンを応用した兵器の開発はアメリカとロシアがずっと研究中で、極超音速無人爆撃機まで検討されています。

しかしこれはまだ実験段階で、実用化はまだ程遠い話です。そしてロシアが行っている実験内容が一人歩きし、報道されていく過程で既に実用化された事になってしまい、「終末段階で巡航ミサイルになる複合弾道ミサイル」なる代物が配備されていると誤報が流れたのではないかと思います。

ですが、その肝心の弾道ミサイルとスクラムジェット巡航ミサイルを組み合わせた新兵器の実験は、シネワではなくトーポリ(トポル;SS-25)及びトーポリM(SS-27)を使って行われた筈で、どこでどう情報が錯綜してしまったのかはよく分かりません。そしてこれはあくまで実験の域であり、実用化されているわけではありません。

既にリンク切れですが、朝雲新聞2005年6月23日の記事に以下のようなものがあります。


軌道変更可能な大気圏再突入体(露) 対ミサイル防衛網を突破 (朝雲新聞2005年6月23日)
ロシアは2004年2月18日にプレセスク発射施設からSS25「トポル」大陸間弾道ミサイル(ICBM)を打ち上げ、その後、上空でプロトタイプの推進装置付き軌道変更可能な大気圏再突入体(RV)システムを発射した。最近のロシアの公式発表によれば、このプロトタイプ飛翔体は地上配備迎撃ミサイルで構築された対ミサイル防衛網の突破をもくろむ有翼RVであった。これらの声明と発射演習はロシアの戦略核抑止力の維持と将来の強化に重きを置く従来の一貫した姿勢をあらためて打ち出すものであった。試作RVを搭載したミサイルの発射は、「近い将来、この様なシステムが高度と軌道の両方を変更できる能力はもとより、極超音速かつ高精度で大陸間距離にある目標を破壊することができるようになる」とのプーチン大統領の表明の根拠となった。

このRVは大気圏再突入時、燃焼推進により軌道変更を行った。ロシアの発表では新しいRVの開発は1998年に始まったが、80年代にスタートした基本研究・開発の成果であると述べている。未確認報道によると、このRVはAS19「コアラ」の発展型で、「Kh90」と命名された極超音速巡航ミサイルを基に開発されたという。ラズガ設計局による基本設計は高速・高高度巡航飛翔に適合するよう修正された。

公式報道では複数のロシアの企業がこのRVの設計に関わったと述べられている。元々のAS19は射程3000キロメートルで、高速・高高度巡航能力を有し、Tu160爆撃機に装備する予定であったが、ソビエト連邦崩壊の後、設計作業は中断された。非公式報道ではこのRVはスクラムジェット推進技術を用い、マッハ6で高度10万フィート以上を巡航飛翔する設計の試験・評価が目的だった。このRVはSS25ICBMに取り付け試験されたが、最終設計ではSS27「トポルM」に取り付け運用される予定と報告されている。「GELA」(極超音速研究飛翔体の頭文字)と命名された初期のRVは2001年に飛翔したが、一方、軌道変更可能なRVとICBM統合試験は1999年のSS27の7度目の飛翔試験で実証されたと信じられている。GELAはTu95MS航空機からの空中発射を含む数回の飛翔試験が行われた。ICBMの従来型RV弾頭部(非軌道変更)でさえ地上配備迎撃ミサイルで迎撃することは元々技術的に困難であるが、さらに軌道変更可能なRVがICBMから切り離された後、これを迎撃することは至難を極める。

柴田 実(財)防衛技術協会・客員研究員



このスクラムジェットエンジンを用いた極超音速研究飛翔体「GELA」ですが、マッハ5を超えてるといってもまだマッハ20には程遠く、現状の速度程度では弾道ミサイルと組み合わせる意義がありません。仮に実戦に投入しても撃墜され易くなるだけです。しかし将来、スクラムジェットエンジンを用いた飛翔体の完成度が上がり、速度がもっと速くなれば、ミサイル防衛網を迂回突破できる上に既存の防空網でも歯が立たない新兵器として登場する可能性は有ります。しかしそれが実用化する頃には、MD側も新技術(レーザー兵器など)を完成させて対抗していく「盾と矛のレース」が始まっているのかもしれません。

«Игла» (ГЛЛ-ВК) - Испытатели

このサイトでスクラムジェット飛翔体GELAについて、弾道ミサイルとの複合実験について解説図付きで説明が書かれています。
20時01分 | 固定リンク | Comment (69) | ミサイル防衛 |
2008年10月03日
以前、パナソニックのノートパソコン「タフブック」を軍事兵器と主張、平和の為にとメーカーへ回収を呼び掛けて無残にスルー(パナソニックどころか世間からも)された杉原浩司氏が主催する『核とミサイル防衛にNO!キャンペーン』(注:更新頻度が低いのであまり役に立たない公式サイト)のデタラメな主張を、真面目に取上げてみたいと思います。

では先ず最近の航空自衛隊PAC-3射撃演習についての声明から。転送・転載歓迎とあるので遠慮なくいきましょう。



[AML 21299] PAC3実射訓練抗議!防衛省行動報告

【要請書】防衛大臣・林芳正様

 税金無駄使いのPAC3ミサイル実射訓練の中止を求めます

 防衛省は、ミサイル防衛(MD)用迎撃ミサイルPAC3の初の実弾による迎撃実験を、9月15日からの週に行います。浜松基地の機材を、米国ニューメキシコ州ホワイトサンズ射場に持ち込み、米軍の協力を得て実施されます。模擬ミサイルを二発のPAC3で迎撃する実験の経費は、米国に支払う役務費も含めて約23億円に達します。
 政府は「純粋に防御的」「専守防衛にかなう」としてMD導入を正当化してきました。しかし、MDの本質は、相手の反撃を無力化することで先制攻撃をし易くするという点にあり、「先制攻撃促進装置」と言うべきものです。そのことは、東欧への米国のMD基地建設計画に対してロシアが強硬に反対し、MD基地を核攻撃の対象にすると威嚇したり、アラブ首長国連邦(UAE)が、米国またはイスラエルがイランの核施設を攻撃した場合に報復対象になることを恐れて、米国から約7500億円に及ぶ最新鋭迎撃ミサイルであるサード(THAAD)ミサイルの購入を求めていることなどに明らかです。
 そもそも、日本におけるPAC3の配備は極めてずさんなものです。それは納税者を欺く以下の「三重の詐欺」により成立しており、"偽装兵器"そのものです。

@「はじめに配備ありき」で性能確認は後回し
 性能確認試験という意味合いを持つ今回の実射訓練は、本来配備前に行われるべきものです。しかし、政府は「北朝鮮の脅威」を口実に計画を前倒し、07年3月から首都圏4基地と浜松基地へ次々と配備を強行してきました。米ブッシュ政権が採用した「スパイラル(らせん状)開発」――性能確認がなされずとも配備を先行させ、随時更新を繰り返す――という詐欺的手法をそっくり真似たのです。

A周辺国からのミサイルは想定外という隠された実験データ
 驚くべきことに、米国の国防情報センターが掲げている97年から07年にかけて行われたPAC3の29回の実験リストによれば、PAC3が「合格」したとされる実験は、射程300〜500kmの短距離戦術ミサイルや航空機を想定したものに過ぎません。日本政府がMDの対象とする北朝鮮や中国の弾道ミサイルはそもそも想定外なのです。

B実射訓練の放棄は「無用の長物」の証明
 防衛省は、性能確認試験以降、通常は配備後も毎年行っている兵器の実射訓練を「膨大な費用」を理由にMD用ミサイルに限って行わないとの方針を表明しています。これはつまり当てるつもりがないということです。
「実射訓練しない武器」をそれでも保有するとは、防衛省自らMDが「無用の長物」であることを白状しているに等しいのです。

 貧困と環境破壊が拡大し、食糧危機が叫ばれるこの時代に、利権まみれの偽装兵器に血税を投入することは政府による犯罪です。実験中止とMDからの撤退を要求します。

2008年9月14日  核とミサイル防衛にNO!キャンペーン




ツッコミ所が満載であります。

>MDの本質は、相手の反撃を無力化することで先制攻撃をし易くするという点にあり、「先制攻撃促進装置」と言うべきものです。

このような主張はあまり意味がありません。何故ならこの主張だけ取って見れば、MDに限らず全ての防御兵器についてもそう言えてしまうからです。この文章の「MD」の部分を「対空ミサイル」「迎撃戦闘機」と入れ替えてみれば馬鹿馬鹿しさに気付く筈です、MD特有の問題、例えばMAD戦略に絡めるならともかく、弾道ミサイルはおろか先制攻撃用兵器を有していない日本やUAE(アラブ首長国連邦)への非難でこれでは全く的外れです。

>東欧への米国のMD基地建設計画に対してロシアが強硬に反対し、MD基地を核攻撃の対象にすると威嚇したり

そのロシアが日本へのMD配備に何も言わない事に気付いてください。中国だって全然声高に反対していません。


もはや避けられないMD思想 - ノーボスチ・ロシア通信社
一方、日本は、その米ソの協定に何らの関係も持っていない。他方、日本には、核抑止のためにまったく何も手段を持っていないが、起こり得るミサイル攻撃から自国を守りたいという希望があることは十分に理解できる。ましてや、アメリカと共同で日本が創設したミサイル迎撃体制は基本中の基本である専守防衛の域を超えていないのだから。


ロシア国営のノーボスチ通信社は、日本のMD配備に理解を示しています。専守防衛の範囲内だと。

>アラブ首長国連邦(UAE)が、米国またはイスラエルがイランの核施設を攻撃した場合に報復対象になることを恐れて、米国から約7500億円に及ぶ最新鋭迎撃ミサイルであるサード(THAAD)ミサイルの購入を求めていることなどに明らかです。

UAEが先制攻撃を仕掛けるわけじゃないのですから、何を配備しようと自由です。例えば湾岸戦争でイラクが戦争とは無関係なイスラエルにスカッドを撃ち込んだような理不尽な攻撃が実例としてあるのですから、危機に対して事前に防衛システムを配備する事は当然の権利です。仮に核施設攻撃が無ければイランの核の脅威はそのままですから、やっぱりTHAADを導入すべきだと判断し、どっちにしろUAEは買ってしまうでしょうし。また以前からUAEはオイルマネーにあかせて面白がって兵器を買う傾向が見られるので、真剣にTHAAD導入を検討した上で買おうとしているのか疑わしい面があります。

>性能確認試験という意味合いを持つ今回の実射訓練は、本来配備前に行われるべきものです。

配備前、つまり購入前にどうやって自衛隊が実射訓練を行えるんですか? 無茶苦茶を言わないで下さい。今回の自衛隊の実射訓練は「ミサイルをどのように発射し目標に命中させるか」という手順を確認する射撃演習であって、PAC-3が弾道ミサイルに通用するかどうかの試験ではありません。そのようなデータは購入前にアメリカ側が提供した射撃試験数値とコンピュータシミュレーションで把握しています。

>PAC3が「合格」したとされる実験は、射程300〜500kmの短距離戦術ミサイルや航空機を想定したものに過ぎません。

これは前のエントリ「PAC-3はノドンを撃墜できるか」で紹介したとおり、数式での計算上は準中距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルとも交戦する事は可能です。

PAC-3はこれまでの迎撃実験でSRBM(短距離弾道弾)相当までの目標しか迎撃しておらず、MRBM(準中距離弾道弾)以上には対処できないとする意見が杉原氏の主張ですが、高度160km前後での迎撃実験しかしてこなかったスタンダードSM-3が、実戦テストを兼ねた人工衛星破壊作戦では高度240kmで目標に直撃させており、高度200km付近での迎撃実験しかしていない米本土防衛用のGBIは、能力的には高度2000kmも駆け上がる事が可能であるなど、実験での数値がそのまま運用限界とは限りません。

>これはつまり当てるつもりがないということです。「実射訓練しない武器」をそれでも保有するとは、防衛省自らMDが「無用の長物」であることを白状しているに等しいのです。

ここは笑う所ですね? だってMDの相手である弾道ミサイルも、滅多な事では「実射訓練しない武器」ですから・・・というか、弾道ミサイルこそがその代表格なんですよ。どういう事かというとやっぱり「非常に高価だから」です。だから弾道ミサイルこそ「毎年実射訓練」なんて、とてもとても出来ないのです。新型ミサイルの開発中なら試射をよくやりますけど、それはMDでも同じですし。


国情院長「北、スカッド・ノドン8発、発射台に装着」 (中央日報 2006.07.13)
鄭議員はまた、北朝鮮が別途の軍予算を利用してスカッドミサイル(1台当たり価格約20億ウォン)400発、ノドン1号(40億ウォン)400発、テポドン2号(250億ウォン)2発を確保していると述べた。


国際相場からすると比較的安い北朝鮮製の弾道ミサイルですら、この値段です。射程の短いスカッドミサイルですら、アメリカ製トマホーク巡航ミサイルの2〜3倍の値段がします。ノドンは更にその2倍の価格、テポドンは開発中なので単価が高くて当然ですが、1発で戦闘機並みの値段です。

さて杉原氏は「毎年の実射訓練をしない武器」である弾道ミサイルも無用の長物であると言いたいのでしょうか。そうであったならどんなによい事か・・・なのですが、兵器という物はそういうモノではありませんので。



さて次はのお題は、昨年末に海上自衛隊がハワイ沖でSM-3の射撃演習に成功した時の声明から。



[AML 17482] 【抗議声明】こんごうのSM3実験強行に抗議する!

【抗議声明】

●海自イージス艦「こんごう」によるSM3ミサイル発射実験に抗議する!

 〜 佐世保への実戦配備を中止し、ミサイル防衛から撤退せよ!〜
 
 12月18日午前7時すぎ、海上自衛隊イージス艦「こんごう」が米ハワイ・カウアイ島沖で迎撃ミサイルSM3による模擬弾道ミサイルの迎撃実験を強行した。防衛省は実験の「成功」を発表した。11月6日に標的を追尾・捕捉する実験を行うなど入念な準備を積み重ねた末の「成功」はしかし、模擬弾頭の飛行コースなどが予め計算された、実戦とは程遠い「出来レース」に他ならない。

 今回の迎撃実験はまず何よりも、ハワイの海と空と大地を侵すものであり、到底許すことはできない。こんごうが使ったハワイにおける「ミサイル防衛(MD)」実験施設(太平洋ミサイル射場)は、先住民族が崇めてきた土地や海を侵略したうえに構築されている。
 さらに、「防衛」を前面に掲げるMDの本質は、米軍が反撃を恐れることなく核をも含めた先制攻撃(予防戦争)を行うための「先制攻撃促進装置」に他ならない。日本が配備を開始したSM3やPAC3などのMDシステムは、米軍のMDシステムを補完する。日本列島と住民は、米軍による「先制攻撃のための盾」として反撃の矢面に立たされることになるのだ。
 
 そして、こんごうの迎撃ミサイルの照準は、憲法9条にも向けられている。迎撃は大気圏外の宇宙空間で行われており、宇宙の軍事利用を禁じた「宇宙の平和利用原則」に違反する。また将来、米国向けミサイルの迎撃も可能とされる日米共同開発中(三菱重工などが参加)の新型SM3の搭載が見込まれており、集団的自衛権の行使を射程に入れている。加えて、新型SM3は第三国への輸出が想定されており、武器輸出禁止三原則をさらに空洞化させることは必至だ。MDは、日米安保戦略会議で「はらわたを見せ合う」(大古和雄)と防衛省幹部(当時)が形容するほどに、日米の「軍産学複合体」を一体化させている。

 折しも現在、隠されてきた軍需利権の深い闇に捜査のメスが入り、MDが最大級の利権の温床であることが明らかになりつつある。再逮捕された守屋前防衛事務次官は、MD導入の脚本と演出を担った張本人であった。
SM3ミサイルは1発約20億円、こんごうへのSM3搭載費だけで総額412億円が投じられた。当面導入するシステムだけで1兆円、将来的には6兆円にも及ぶとされるMDは、「スパイラル(らせん状)開発」の名のもとに日米の軍需産業や国防族に半永久的に利権を提供する悪質なプロジェクトである。
 
 石破茂防衛相は実験後の会見でMDの費用対効果を聞かれ、「人命が救われることがお金で計れるか」と大見得を切った。しかし、軍需産業の救済に多額の税金を投入する一方で、薬害肝炎被害者や貧困にあえぐ人々を切り捨てようとしてはばからない残酷な政府の閣僚に、そうした言葉を発する資格はない。

 MDは、米国による東欧への配備計画が米ロ間で深刻な軍拡競争の引き金となっているように、軍事対立の拡大と資源の浪費のみをもたらす百害あって一利なしのプロジェクトである。日本政府はMDにのめり込むのではなく、軍拡競争自体にストップをかけ、軍縮を促進する「踏み込んだ外交」こそを展開すべきである。

 私たちはあらためて要求する。

・こんごうの佐世保への1月上旬の実戦配備を中止し、SM3を撤去せよ。
・1月中にも計画されている日本海(予定)での日米共同MD演習を中止せよ。
・入間、習志野基地配備のPAC3ミサイルを即時撤去し、PAC3配備計画を撤回せよ。
・1月に計画している入間配備のPAC3の都心への移動展開演習を断念
 せよ。
・ミサイル防衛から撤退し、東北アジアの核・ミサイル軍縮に向けたイニシアチブを取れ。

2007年12月18日   核とミサイル防衛にNO!キャンペーン




こっちの方が電波が濃い・・・「ハワイの海と空と大地を侵すものであり」って、これは引くなぁ・・・酔っていらっしゃるとしか思えない御高説です、ハイ。

>11月6日に標的を追尾・捕捉する実験を行うなど入念な準備を積み重ねた末の「成功」はしかし、模擬弾頭の飛行コースなどが予め計算された、実戦とは程遠い「出来レース」に他ならない。

海上自衛隊が行ったのは開発実験ではなく運用試験なのでそれで構いませんよ。実戦形式の射撃試験ならアメリカ海軍が既に何度も行っていますから、迎撃ミサイルの信用性は着実に上がっています。例えば事前に飛行コースや発射時間を知らせない試験を行っており、その為に退役したヘリコプター揚陸艦トリポリを標的ミサイルの発射プラットホームに使っています。これで標的の発射地点を変更すれば不意撃ち試験を行えます。また複数種類の標的(弾道ミサイルと対艦ミサイル)による同時攻撃を迎撃する試験や、同じ種類で複数の標的に対する同時対処迎撃試験など、様々な試験を行っています。もう既に一昔前のMD批判の定番である「当たり易い設定で実験をしている」という主張は、今ではもう使えなくなりました。

>日本が配備を開始したSM3やPAC3などのMDシステムは、米軍のMDシステムを補完する。

いえ、例えばアメリカ本土に向かう北朝鮮や中国の弾道ミサイルは北極圏を通過するので、日本のMDでは補完できませんが・・・SM-3ですら日本周辺の配置では米本土向け弾道ミサイルに届かないのに、射程の短いPAC-3で一体、何をどうしろと・・・

>迎撃は大気圏外の宇宙空間で行われており、宇宙の軍事利用を禁じた「宇宙の平和利用原則」に違反する。

いいえ、違反しません。衛星軌道を周回しない限り「宇宙の"利用"」とは見なされません。国際的な宇宙条約でも、禁止されているのは軌道上への大量破壊兵器の設置や月その他天体への軍事基地建設などです。

>また将来、米国向けミサイルの迎撃も可能とされる日米共同開発中(三菱重工などが参加)の新型SM3の搭載が見込まれており、集団的自衛権の行使を射程に入れている。

開発中のSM-3Block2はICBM(大陸間弾道弾)との交戦も視野に入れていますが、予想される最大射高が数百kmの為、終末段階に限りなく近い中間コースでしかICBMを迎撃できません。最大速度も4.5km/s程度ですので、内陸から発射されるICBMのブースト段階やその直後の上昇中間コースを狙うのは無理です。つまりSM-3Block2を持ってICBMと交戦する気なら、アメリカの沿岸に居る必要があります。そうすると日本のイージス艦でアメリカ防衛をやらせる意味は殆どありません。SM-3Block2はあくまでMRBM(準中距離弾道ミサイル)やIRBM(中距離弾道ミサイル)と交戦するのが主目的であり、アメリカ向けミサイルの迎撃は実質的に出来ません。ICBMをベーリング海上空あたりで中間迎撃する為には最大射高が2000kmは必要で、これを達成できるMDは今の所、GBIだけです。ですがGBIは大きすぎて艦船への搭載は出来ません。

>加えて、新型SM3は第三国への輸出が想定されており、武器輸出禁止三原則をさらに空洞化させることは必至だ。

空洞化もなにも「武器輸出禁止三原則」って原則通りに解釈すると「共産圏への武器輸出禁止」でしかない(実際にそのようにしか書かれていない)のだから、これを気に「条文?どおりに正しく運用」してみてはどうでしょうか、と言ったら怒るんだろうなぁ・・・ちなみにSM-3Block2を日米以外で買いそうな国はオーストラリアぐらいしか無いのですが。

>折しも現在、隠されてきた軍需利権の深い闇に捜査のメスが入り、MDが最大級の利権の温床であることが明らかになりつつある。

その後の経過〜特にMD関連で汚職は見付からず〜MD利権の問題とやらも出て来ず〜以上です。

>再逮捕された守屋前防衛事務次官は、MD導入の脚本と演出を担った張本人であった。

守屋は悪人だから守屋が関わったもの全て悪い、とするのは頭が悪すぎる主張です。守屋問題の中核であるC-X輸送機の件にしても、エンジン自体は何も悪くなく、問題は輸入代理店同士の抗争劇であり、GE社のCF6-80C2エンジンでベストの選択だった事は誰もが認めるところです。実際にあの問題があってもエンジンを変更する動きは全くありません。

>日米の軍需産業や国防族に半永久的に利権を提供する悪質なプロジェクトである。

兵器の更新が半永久的なのは当たり前の話です。「戦闘機」や「戦車」だって、古くなったら新しいのと交換します。

>石破茂防衛相は実験後の会見でMDの費用対効果を聞かれ、「人命が救われることがお金で計れるか」と大見得を切った。しかし、軍需産業の救済に多額の税金を投入する一方で、薬害肝炎被害者や貧困にあえぐ人々を切り捨てようとしてはばからない残酷な政府の閣僚に、そうした言葉を発する資格はない。

核ミサイルを1発でも防げれば何十万人と助かるかもしれないんですが・・・そういう話をしているのに、突然無関係な福祉の話を持ち出すような真似は凄くズレてますね。

>MDは、米国による東欧への配備計画が米ロ間で深刻な軍拡競争の引き金となっているように、軍事対立の拡大と資源の浪費のみをもたらす百害あって一利なしのプロジェクトである。

再掲になりますが、日本へのMD配備は何処かの国同士の軍拡競争の引き金にはなっていません。それどころか東欧へのMD配備にあれだけ神経質なロシアで、国営通信社が理解すら示しています。


もはや避けられないMD思想 - ノーボスチ・ロシア通信社
一方、日本は、その米ソの協定に何らの関係も持っていない。他方、日本には、核抑止のためにまったく何も手段を持っていないが、起こり得るミサイル攻撃から自国を守りたいという希望があることは十分に理解できる。ましてや、アメリカと共同で日本が創設したミサイル迎撃体制は基本中の基本である専守防衛の域を超えていないのだから。


これは日本国内以外のMD批判派が「戦域ミサイル防衛(TMD)」と「国家ミサイル防衛(NMD)」を分けて考えている事が多いからです。現在、TMDとNMDは統合され単にMDと呼称されています。ですがアメリカでも以前からMD批判には「TMDは良いがNMDは駄目だ」という主張があり、これはMAD戦略を崩しかねないという懸念から来るものですが、逆に言えばそれに関係しないTMDは構わないというものです。そして日本のMDは昔の区分で言うTMDに相当します。

>・ミサイル防衛から撤退し、東北アジアの核・ミサイル軍縮に向けたイニシアチブを取れ。

東北アジアの核・ミサイルの脅威があるのでミサイル防衛を選択しました。東北アジアの核・ミサイルの脅威が完全に消え去ればミサイル防衛は特に必要ありません。よって、東北アジアの核・ミサイルの脅威が無くなった事を確認した後でミサイル防衛から撤退しましょう・・・と、東北アジアの皆さんにお伝え下さい。
01時54分 | 固定リンク | Comment (224) | ミサイル防衛 |
2008年10月01日
弾道ミサイル防衛のパトリオットPAC-3で北朝鮮の準中距離弾道ミサイル、ノドンを撃墜する事ができるのか? 結論としては「交戦可能」である、と言えます。

PAC-3はこれまでの迎撃実験でSRBM(短距離弾道弾)相当までの目標しか迎撃しておらず、MRBM(準中距離弾道弾)以上には対処できないとする意見もあるのですが、高度160km前後での迎撃実験しかしてこなかったスタンダードSM-3が、実戦テストを兼ねた人工衛星破壊作戦でいきなり高度240kmで目標へピンポイント(燃料タンク)に直撃させており、高度200km付近での迎撃実験しかしていない米本土防衛用のGBIは能力的には高度2000kmも駆け上がる事が可能であるなど、実験での数値がそのまま運用限界とは限らないのです。


政権交代以外に道はなし|カナダde日本語
おまけにMDのPAC-3について書いたら、JSFさんのところから一日で1000件のアクセスがあり、ここ2、3日にぎわっている。特に、kaetzchenさんのコメントが好評だったようだ(笑)。それにしても、JSFさんってどうしてこんなにミサイル防衛に詳しいのだろうか。防衛省にお勤めとか?


井上孝司さんも「詳しい理由」で書かれていますが、ほんのちょっと詳しい事を書いたらすぐ「中の人」だと思うのは早とちりなのです。本物の「中の人」はこんな程度ではありません。そこでミサイル防衛に詳しい「元・中の人」のサイトを紹介しますので、弾道ミサイル防衛について勉強して貰えたら幸いです。そのサイトは此処です。

『ミサイル入門教室』

サイト製作者の久保田氏はプロフィールを見ると、防衛省TRDI(技術研究本部)の元技術者で弾道学の専門家である事が分かります。サイトのキャッチコピーには「ミサイルの弾道などを基本原理から考えましょう。本質がわかれば、新聞などの報道記事の真偽が自ずから見えてきます」とあるのですが、これは非常に重要な事です。ミサイル防衛の場合、批判する人達は物理法則を無視したり、ミサイルの速度で無茶な事を主張したり、基本的な事を理解していない人が多く目立ちます。その一方で公式発表や実験成果を鵜呑みにしたり、或いは都合の良いように勝手に解釈したりと、「基本さえ知っておけば」避けられる誤解は山のようにあります。例えば最近のホワイトサンズ射撃場で自衛隊がPAC-3の射撃演習に成功した事例などでは・・・

PAC-3の平均速度はマッハ1.5〜2??? (ようこそイサオプロダクトワールドへisao-pw)

PAC-3の速度は秒速2〜4km??? (神浦元彰 最新情報 9月18日)

対空ミサイルの平均速度がマッハ1.5〜2ではあまりにも遅過ぎます。PAC-3は弾道ミサイルと航空機のどちらにも使える対空ミサイルですが、この速度では弾道ミサイルどころか航空機相手にすら碌に通用しません。航空機は回避機動を取るので、対空ミサイルは航空機より速度がかなり速くないと当たりません。例えば対空ミサイルで最も小さな部類のスティンガー歩兵携行対空ミサイルですら最大速度マッハ2.2、有効射程内の平均速度はマッハ2前後です。しかもスティンガーの主な目標は速度の遅いヘリコプターないし低空で近接支援爆撃をしようと速度が鈍っているジェット機(マッハ1以下)ですので、中高度以上をマッハ2で飛ぶ戦闘機を迎撃対象に入れているPAC-3が「マッハ1.5〜2」は有り得ない話です。

一方、秒速2〜4kmは速過ぎます。マッハ数に換算すればマッハ6〜12となり、PAC-3のサイズでマッハ12など物理的に到底達成不可能な数値です。というかマッハ12も出せるならノドン迎撃は楽勝と言う話になります。しかしPAC-3に関して英語の資料を調べれば「最大速度マッハ5+」(秒速1.7km+)とすぐ出てきます。なお宇宙空間で迎撃するスタンダードSM-3Block1が秒速3km台なので、これと間違えている可能性が高いと思います。

・・・彼らは数値を見た瞬間に「これはおかしい」と感じるべきでした。「30秒で到達するならマッハ1.5〜2」とは30秒という数値そのものがおかしいのではないか、「秒速2〜4km」とあるのは参考文献が間違っているか、自分が誤読したのではないか・・・それとイサオプロダクトワールドさんは神浦さんの記事を参考になると紹介しているのですが、それならば神浦さんのサイトの「秒速2〜4km」と自分の記事の「マッハ1.5〜2」という数値が完全に相反する事に気付くべきですが全然気付いていない様子なので、秒速何kmがマッハ幾らに相当するかという換算すらしていない事が見て取れます。同時に「田中宇の国際ニュース解説/米ミサイル防衛システムの茶番劇」も参考になると紹介されていますが、こちらに至っては間違いだらけで正しい箇所を探す方が困難という有様です。

また「弾道ミサイルは山なりに飛んでくる」事、つまり水平移動距離はミサイルの飛行距離とイコールではない事や、ミサイルは「最大速度」を常に出しているわけではない事など、計算をする上で弾道学以前の問題です。数値計算をする前では特別意識しなかったとしても、計算をする以上は、数値を出すその時は気を付けないといけません。


さて「PAC-3はノドンを撃墜できるか」という命題に関しては前述の『ミサイル入門教室』のこの記事を参考にすると良いでしょう。

「弾道ミサイル迎撃 第3章 ターミナル・フェーズにおける迎撃」

この章では計算式を用いてPAC-3のノドン迎撃について解説しています。弾道ミサイルに対するターミナルフェイズの迎撃では、目標が迎撃ミサイル自身の2倍の速度で突入してきても対処が可能である事が分かります。これは弾道ミサイルは回避軌道を取らない為です。また突入してきた目標の弾道弾が大気の濃密な地表付近で急激に速度を落とす事も分かります。結論として数式によってPAC-3はノドンに対し「交戦可能」である、と証明されています。

ただしこれは「PAC-3は準中距離弾道弾と交戦は可能」であることを示すものであり、PAC-3が広域エリア防空(都市防空)に適した兵器であるという証左にはなりません。そもそもPAC-3は大気圏内での目標直撃を得る為に高機動である必要があり、大形のミサイルではありません。直径約10インチ、重量約300kgと、個艦防御用対空ミサイルであるESSMとほぼ同じサイズです。海軍艦隊ではエリア防空(艦隊防空)にスタンダードSM-2を、ポイント防空(個艦防空)にESSMを担当させており、ESSMと同サイズのパトリオットPAC-3にエリア防空が出来るとは誰も思っていません。防衛省はPAC-3でエリア防空が行えると説明した事は一度も無い筈です。日本が配備しているミサイル防衛でエリア防空を担うのはミッドコース迎撃を行うスタンダードSM-3であり、ターミナル・フェーズの迎撃でエリア防空を行うには、THAADシステムを導入する必要があります。

なおPAC-3の有効範囲は射程15〜20km、射高15〜20kmと紹介されることが多いのですが、これは弾道ミサイル相手の数値であり、対航空機では有効範囲はもっと長くなります。前述のPAC-3とほぼ同サイズのESSMは対航空機・巡航ミサイルの場合で最大有効射程50kmに達するので、PAC-3もこれに近い数値が出せるでしょう。弾道ミサイルが相手でも、SRBM(短距離弾道弾)・MRBM(準中距離弾道弾)・IRBM(中距離弾道弾)と速度が違えば有効射程は変わってきます。PAC-3は改良型のPAC-3MSEで弾体直径の拡大(11インチ化、これにより1セル4発搭載は出来なくなった)と操舵翼の大型化を行い、速度の増加と有効射程の5割増を狙っているので、より速い弾道ミサイルにも対処できるようになる筈です。


それとウィキペディアに気になる情報が書かれていたのですが、これは確認を取る事は出来ませんでした。


ミサイル防衛 - Wikipedia
PAC-3は日本国内では可能性の低い短距離弾道ミサイル(SRBM)攻撃(速度マッハ6強・2km/秒)であれば、左右70km前後40kmの扇状の範囲を迎撃できるが、可能性の高い準中距離弾道弾(MRBM)攻撃(速度マッハ10=3.7km/秒)では薄い半径20kmの扇状の範囲のみ要撃できる。ちなみにこの広さは市ヶ谷を起点として23区西部境界程度迄の広さで、1個高射群に4個、無線指揮車により部隊分割使用で最大8個までの首都圏近郊の高射部隊の内、埼玉からと、千葉からとの2個をもって23区全域をカバーできる広さである。


日本語のサイトで同じ数値が書かれているそれらしきものは見つけたのですが、其処に書いてある「後に発表された資料」が何なのか突き止められませんでした。英文サイトを探してみたのですが、見付けられませんでした。これまでPAC-3の射程範囲20kmという数値をSRBM相手の数値だと理解していたので、もしMRBMに対して20kmの射程を得られているのであれば想定以上の性能であり、限定的なエリア防空が可能となります。

ですがウィキペディアの記述ですので、確認が取れない限りは信用する事は出来ません。
01時46分 | 固定リンク | Comment (66) | ミサイル防衛 |
2008年09月18日
米国防総省はUAE向けTHAADの販売を米議会に提案します。最初にTHAADを購入するのは日本かイスラエルだとばかり思っていましたが、UAEですか。アラブの産油国はお金あるんだなぁ・・・

UAE - THAAD DSCA News Release (PDF)


Pentagon Proposes Sale of THAAD to UAE - Defense News
The THAAD system is designed to intercept incoming ballistic missiles at high altitude, providing coverage over a wide area.

The Defense Security Cooperation Agency said the proposed sale is for three fire units, four radars sets, six fire and control communication stations, and nine missile launchers.

"The estimated cost is 6.95 billion dollars," the agency said.



UAEが購入予定のTHAADミサイルは全部で147発、これとランチャー9基、Xバンドレーダー4基(実戦用3基で、1つは訓練用)、射撃統制情報通信装置6基。これでTHAADシステム3セット分で、69億5千万ドルの費用となっています。

7000億円超・・・日本も将来的にTHAADを購入する話は出てくるでしょうが、本当に買えるんだろうか・・・しかし、北朝鮮のノドン弾道ミサイルと交戦する気ならTHAADはターミナル段階防御用としては理想的な迎撃ミサイルです。PAC3では都市広域防空は難しいですから。


Target malfunctions, missile test canceled | The Honolulu Advertiser
The Army canceled a THAAD missile test planned for this afternoon at the Pacific Missile Range Facility on Kaua'i because of a "malfunction with the target missile," the U.S. Missile Defense Agency said.


今日、ハワイのカウアイ島で行われる予定だったTHAAD迎撃実験は、標的ミサイル側の不調で中止されました。標的ミサイルは退役したヘリコプター揚陸艦トリポリから発射されています。
23時58分 | 固定リンク | Comment (58) | ミサイル防衛 |
2008年08月14日
ロシアとグルジアの戦争の余波は、東欧配備予定のミサイル防衛システムにも影響を及ぼしました。


ポーランド:米国の東欧MD計画受け入れに前向き姿勢:毎日新聞
ポーランド国内では、米軍の軍事基地受け入れに慎重な世論が優勢だったが、グルジアに介入したロシアへの批判が強まっている。トゥスク首相は、米国のMD計画受け入れを表明できる好機と判断したとの見方もある。


これは・・・大きいですね。アメリカ側もポーランドへの譲歩(MDとは別の通常防空システムをポーランド軍に援助)を行い、一気に話が纏まりそうです。最近まで、ブッシュ大統領の任期中に東欧へのMD配備は困難になったと思われていたのですが、グルジアでのロシア軍の行動を目の当たりにした両国は、以下の結論に達しようとしています。

Poland hoping to seal US missile deal: foreign minister:AFP
「It also wants a permanent presence of US troops on Polish soil.」

ポーランドに配備されるアメリカのミサイル防衛システムは、迎撃ミサイルGBI:Ground Base Interceptor の2段式ロケット型(アメリカ本国仕様は3段式ロケット型)を10基となる予定です。GBIの欧州型は、アメリカ本国仕様のGBIからブースターを一つ取り去った構造です。

―――――『軍事研究』2008年7月号56ページより

『なおポーランドに配備される予定のGBIは、すでにアラスカとカリフォルニアに配備されているミサイルと完全に同一ではない。弾頭のEKVは基本的に同じだが、ブースターは後者の三段式に対して、ポーランドに配備予定のミサイルでは第三段を取り去った二段式になる。』

・・・ですので、以下のような認識の方は、間違いです。


ヨーロッパのMD計画が遅延の見込み:スパイク通信員の軍事評論[6月24日]
東ヨーロッパへのミサイル配備は、イランがヨーロッパに向けて弾道ミサイルを発射した場合に備えるものです。しかし、ロシアの弾道ミサイルの防衛も可能であるため、ロシアは不快感を示しています。今回の問題である迎撃ミサイルの構造の格差は、おそらく、SM-3が3段式ロケットであるのに対して、ドイツ製のIRIS-T SLが2段式ロケットであることを指しているのだと考えられます。


スタンダードSM-3は確かに3段式ロケットですがイージス艦搭載用のMDシステムであり、地上配備型は存在せず、ポーランドへの配備は出来ません。また最大射程・射高ともGBIよりかなり小さく、GBIとSM-3は全くの別物です。ドイツ製IRIS-T SLに至ってはMD対応じゃないですし、2段式ロケットでもありません。IRIS-T SLは近距離空対空ミサイルIRIS-Tの地対空バージョンで、MEADSの補完を行う目的の小型地対空ミサイルであり、弾道ミサイルとの交戦能力は有りません。

もしかしてこれはイスラエルが開発中の「ダヴィデ・スリング(David's sling)」(米国名「スタンナー;Stunner」)と勘違いしたのでしょうか。これは近距離空対空ミサイル「パイソン」に大型ブースターを追加し、二段式にして地上発射式にしたミサイル防衛用のシステムで・・・って、確かにミサイルの種類別では条件に合致しますが、欧州じゃないし、そもそもポーランド配備のMDシステムはGBIであることは良く知られている内容の筈です。どこからIRIS-T SLが出てきたのかさっぱりわかりません・・・
19時58分 | 固定リンク | Comment (164) | ミサイル防衛 |
2008年08月08日
毎年、この時期は原爆関連の話が多く出回る時期です。今週の電波書評は反核運動の旗手、ヘレン・カルディコットの著作『狂気の核武装大国アメリカ』から。著者のオーストラリア出身のカルディコット博士は米シンクタンク核政策研究所(NPRI)の理事長なのですが、元は小児科医なので兵器(核兵器含む)についてあまり詳しくないみたいです・・・。


今週の本棚:田中優子・評 『狂気の核武装大国…』=ヘレン・カルディコット著 - 毎日jp
「日本語版への序文」で著者は、日本の軍事予算が世界第五位であり、北朝鮮脅威論のもとでアメリカが日本に核兵器生産の合法化を迫っていることや、ミサイル防衛システム共同開発のための覚え書きに調印済みであることを指摘している。この防衛システムの実態も恐ろしいものだ。「ミサイルを発射されても迎撃できるのだから大丈夫」などと思っているととんでもない。核兵器を積んだミサイルを発射直後あるいは大気圏再突入時に迎撃した場合は、約五〇キログラムのプルトニウムが人々の上に降り注ぐ。化学兵器が積まれていた場合は、それがばらまかれる。直下にいる人だけではない。風に乗って地球全体に拡(ひろ)がるのである。考えてみれば当たり前だが、現代の核戦争とは、いかに防衛手段があろうと一瞬で地球全体を巻き込むものなのである。敵も味方もない。被害拡大がないようにと、宇宙空間で核兵器を用いて迎撃すると、こんどは電磁放射線によって地上の電子システムが破壊されるという。


日本の軍事予算が世界第2位であると言い出さない分だけマシですが、「アメリカが日本に核兵器生産の合法化を迫っている」というのは・・・そんな動きがありましたっけ? ちょっと意味が分からないので取り合えずこれはスルーしておいて、次の今回取上げる本題である「ミサイル防衛システムの恐ろしい実態」とやらを見ていきましょう。

【コメント欄より追記】
問題部分を詳しく抜き出します。

「1998年の北朝鮮のテポドン発射実験前後から、アメリカが日本に対して憲法を修正し、核兵器生産を合法化するよう圧力をかけてきた。そして日本は、アメリカとの活発な合同軍事演習に参加するようになった」(p.13)

根拠無しの妄想100%で本を書いているよ、この小児科医のおばさん。こんなのが反核運動の国際的な旗手なんだから、頭の痛い話だ。

Posted by 名無しT72神信者 at 2008年08月08日 21:09:33

日本核武装圧力って、1998年前後は民主党クリントン政権なんですけど・・・


>約五〇キログラムのプルトニウムが人々の上に降り注ぐ。

「核弾頭を撃墜すると核爆発が起きる」と言い出さない分だけマシですが、しかし核弾頭に使われるプルトニウムって数kg程度ですけど・・・50kgもプルトニウムを使う核弾頭は聞いたことがありません。臨界量を大きく超えて搭載し起爆させても、未反応のプルトニウムが増えるばかりで効率が悪いだけです。故に大威力が得たければ熱核弾頭(水素爆弾)を使います。水素核融合の起爆用に原子爆弾(核分裂反応)が使われますが、起爆用なので大型のものは必要ありません。

【コメント欄より追記】
プルトニウム50kgってリトルボーイに使われたウラン50kgと混同してるんでしょうか?

だとしたら何も調べないでうろ覚えの知識を元に妄想だけで書いた本って気がしますね

Posted by 名無しT72神信者 at 2008年08月08日 21:46:57

長崎に落とされたファットマンはプルトニウム6kgを使用。


>風に乗って地球全体に拡(ひろ)がるのである。

ぶっちゃけ、地球全体に拡がってしまうと大して気にしなくてよくなります。どういうことかというと、既に地球の大気には1960年代まで行われた大気中核実験と、原子力電池を搭載した人工衛星の大気圏再突入により、実に6トン弱ものプルトニウムが人類の手によって放出済みだからです。一部ではプルトニウムの事を「角砂糖5個分で日本が全滅する猛毒」と称している団体もあるようですが(プルトニウム - Wikipedia)、もしこれほどの猛毒ならば・・・既に大気中に放出した6トンのプルトニウムで人類は何百回と全滅している計算になりますね。でも実際には平気です。拡がって薄まってしまえば致死量まで摂取することが無いからです。

【コメント欄より追記】
無人宇宙探査船カッシーニの打ち上げ時とスイングバイ時に地球に接近した時も騒がれたね、プルトニウム電池を30kgも搭載していたから。

カッシーニ - 通信用語の基礎知識
http://www.wdic.org/w/SCI/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%8B
裏話

ちなみにこの原子力電池は何もカッシーニに始まったことではなく、かの有名なパイオニアやヴォイジャーにも積まれているものである。

そして万一打ち上げに失敗したとしても、プルトニウムは大気圏に拡散し、特に問題とはならないと考えられた。核兵器に使うプルトニウムとは純度が全く異なるので、これのみで爆発を起こすことはあり得ない。

しかし不運にも、当時巷を騒がせていた噂「ノストラダムスの大予言」があり、地球スイングバイが予言の1999(平成11)年ということで「空から核が降って来る!」「カッシーニは恐怖の大魔王だ!」となり、打ち上げ時には環境団体などの激しい抗議デモに見舞われ、幾度も中止の危機に見舞われた末での打ち上げとなった、という逸話がある。

カッシーニは、地球の騒ぎなど気にも掛けず地球スイングバイを成功させ、木星を過ぎ、土星へと達したのである。

Posted by 名無しT72神信者 at 2008年08月08日 21:43:40

あったなぁ、カッシーニ=恐怖の大王説。


>被害拡大がないようにと、宇宙空間で核兵器を用いて迎撃すると、こんどは電磁放射線によって地上の電子システムが破壊されるという。

現状のミサイル防衛システムはSDIの頃と違い、宇宙空間の迎撃でもキネティック弾頭による直撃方式であり、迎撃用核ミサイルの配備の話はありません。それと関連して少し前の文章で気になったのですが・・・

>核兵器を積んだミサイルを発射直後あるいは大気圏再突入時に迎撃した場合は

別に大気圏外の宇宙空間で撃墜しても、第一宇宙速度を超えているわけではありませんから、そのうち大気圏に再突入して地上に落ちてきます。だから核ミサイルの迎撃に関して言えば、何処で撃墜しようと核物質は地上に落ちてきます。

発射直後に撃墜して周辺が汚染されるのは核ミサイルを発射しようとした国の自業自得です。核ミサイルが目標付近で起爆する寸前に撃墜した場合、核物質がそのまま落ちてはきますが核爆発されるよりは遥かにマシです。大気圏外の宇宙空間で撃墜した場合、核物質は大気圏再突入で拡散していき、薄まっていくのでそれほど悪影響は出て来ないでしょう。

【コメント欄より追記】
カルディコット博士は「宇宙空間で破壊すれば被害は全く無い」と勘違いしているんだな。だから宇宙空間で直撃方式のミサイル防衛は彼女の説にとって大敵だから言及せず、検討すらされていない宇宙空間での迎撃核ミサイルの使用を持ち出して批判している。なんというかセコイやり方だねぇ。自分にとって不都合な敵の存在は無視し、都合の良い敵をデッチ上げて叩くだなんて。実際には宇宙空間で迎撃しても速度が遅ければ全部地上に落ちてくる。ただ、ゆっくり落ちながら拡散してしまうので影響は少ないわな。

Posted by 名無しT72神信者 at 2008年08月08日 21:33:58

大気圏外で迎撃できれば、悪影響が出ない程度に拡散してくれます。


総じて言えるのは「核爆発されるよりも撃墜した方がよっぽどマシ」という事です。また生物兵器はデリケートなので破壊されたらほぼ無力化します。化学兵器についても、毒ガスは最適位置で散布しないと効果が急減しますので、ほんのちょっと予定散布高度よりも上空で撃墜に成功してしまえばガスは拡散し無力化できます。また、今年の2月に軌道を外れかけた人工衛星をアメリカのミサイル防衛システムで撃墜した時、有害なヒドラジン燃料タンクを破壊し、燃焼、拡散させて概ね無害化した事例も参考になる筈です。

Amazon.co.jp: 狂気の核武装大国アメリカ

早速アマゾンの書評も入っていますが、あまり評価が芳しくないようです。(とはいえ現在、書評は一つだけ)
20時29分 | 固定リンク | Comment (121) | ミサイル防衛 |
2008年05月03日
MKV:Multiple Kill Vehicle(マルチプル・キルビークル:多弾頭迎撃体)とは、ミサイルディフェンスで用いる迎撃ミサイルに複数の誘導弾頭を搭載する構想です。敵弾道ミサイルがデコイ(囮)を放出してもデコイごと全て迎撃、MIRV(多弾頭型の弾道ミサイル)であっても丸ごと全てこれを迎撃するという、力技のシステムです。

Multiple Kill Vehicle [MKV]:GlobalSecurity.org

MKV1個あたりの大きさは手で持てる大きさで、重量は10ポンド(約4.54kg)。弾道ミサイルのMIRV用弾頭がどれだけ小型化しても1発100kg程度にはなるので、迎撃ミサイル側が多弾頭化すれば(ブースターロケットが同規模の場合)MIRV弾道ミサイルを上回る数の弾頭を搭載する事が出来ます。つまりきちんと個別誘導できるかどうかを差し置いて言うなら、多弾頭化競争はMD側が優位に立つ事になります。

アメリカはまずGBIの弾頭をMKV化させ、敵ICBMに対処する計画です。GBIのペイロードは大きい(IRBMのブースターと同等のもの)為、MKVを相当な数が積めます。一方、イージス艦に搭載するSM-3は単弾頭での現状の弾頭ペイロードが23kgと小さいのですが、それでもMKVならば5個は搭載可能で、現状より大きくなるBlock2ならば更に数が積めそうです。


日米共同開発の迎撃ミサイル、多弾頭の導入を日本が了承:読売新聞
次世代型迎撃ミサイルの多弾頭化は、ロシアや中国が、多弾頭の大陸間弾道弾(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めていることに対抗し、米国が2006年ごろから検討を始めた。

当初は日本に共同開発を打診したが、日本は〈1〉共同開発を始めたばかりの「SM3ブロック2A」の2014年の開発完了が遅れ、開発費も膨らむ〈2〉北朝鮮が多弾頭型の弾道ミサイルを持っていないとみられる――ため、拒否した。

ただ、多弾頭型の開発を米国が単独で進めれば、日本が資金面で追加負担を強いられることは、当面ない。また、現在進めている単弾頭型の改良システムの共同開発に遅れが生じない見通しも立ったため、米国の方針転換を了承、事務レベルで伝えた。日本としても、将来は、「安全保障情勢によって」(防衛省幹部)、単弾頭型から切り替える必要が出てくることも考慮した。

SM3ブロック2Aは、既に日本のイージス艦にも配備されているSM3ブロック1Aに比べ、防護範囲が約2倍の1000キロ・メートル程度に広がり、大陸間弾道弾を迎撃できる。新たな多弾頭型の開発にあたっては、これまで日米が共同開発した技術などが応用されることも想定されており、米政府は「SM3ブロック2B」と呼んでいる。


北朝鮮の弾道ミサイルに対処するものとしてMKVはオーバースペックです。つまり日本は明確に、将来的に中国の弾道ミサイル(数十年掛けて最近ようやくICBMのMIRV化に成功)をMDで対抗する意志を示したものだと言えます。勿論、「北朝鮮が将来MIRVを保有した場合に備えて」という言い訳は出来ますが、中国ですら実用化に苦労した多弾頭化を北朝鮮がおいそれと実用化できるとは思えません。ただMKVが実用化できれば、北朝鮮の弾道ミサイルが無理矢理にでもデコイを積もうと問題なく無力化できるので、対北朝鮮相手の迎撃でもより確実に信頼性は上がります。

またこの読売新聞記事にはMKV以外にも重要な情報が書かれています。SM-3Block2Aの開発は順調であり、スケジュールに遅れが出ないだろうこと。Block2Aは現状のBlock1Aよりも2倍の防護範囲を持つという事。

ただ「防護範囲が約2倍の1000キロ」というのは射程の事を指すのだと思いますが、現状のSM-3Block1Aが公称数値で「最大射高160km以上、最大射程500km以上」というものであり、今年2月に行われた衛星迎撃が高度240kmで行われ、「160km以上」という意味合いが文字通り160kmを超えることを示した以上、Block2Aの最大射程も「1000km以上」であり、実際の射程はもっと長くなる可能性があります。

Raytheon RIM-161 Standard SM-3:Designation-Systems.Net

しかしICBMの迎撃は、MKVをGBIに積むのならともかくSM-3ではBlock2でもやはり難しい話で、仮にSM-3Block2が最大射高500kmあっても、ICBMはその倍以上の高度を飛行していく為、何処かの国がIRBM(中距離弾道弾)を多弾頭化させた場合、あるいは単弾頭のIRBMを山ほど撃ち込んできた場合への対処を考えているのかもしれません。

要するに結局それは、中国の弾道ミサイルを視野に入れているわけです。
06時55分 | 固定リンク | Comment (191) | ミサイル防衛 |
2008年04月15日
ロシアはアメリカによる東欧へのミサイル防衛配備には反対していますが、日本のミサイル防衛には反対していません。それは以前に紹介したノーボスチ通信の記事「もはや避けられないMD思想」にあるとおり、基本的には反対する根拠が無いせいなのですが、そもそもロシアが反対しているのはアメリカ主導のグローバル・ミサイルディフェンスであり、地域レベルのミサイル防衛は問題にしていないというのです。

それについて以下のJANJAN市民記者、鵠沼光氏の記事でロシア軍参謀総長とロシアマスコミによる反応が詳しく書かれています。鵠沼光記者は現在ロシアに居て現地報道と直に接しており、4/11に訪露した日本防衛省の斎藤隆統合幕僚長とロシア軍のバルエフスキー参謀総長との対談に関するロシア報道を伝えています。


斎藤統合幕僚長訪露をめぐる日露のマスコミの温度差:JANJAN 4/14
一方、ロシア側の主要紙の報道は、「日本が、米国のグローバル防衛システムへの参加を拒否」(イズヴェスチヤ紙電子版)、「日本は防衛システムのグローバル化問題に関して米国と協力しない」(モスコフスキー・コムソモーレッツ紙電子版)、「日本は、ミサイル防衛システム(MD)の統合に関して米国と協力しない」(TVズヴェズダ電子版)、「露日は宇宙の軍事化を許さない」(ヴズグリャド電子版)など、いずれも米国グローバル・ミサイル防衛システムに日本のミサイル・防衛システムを(当面は)統合しないとの斎藤隆統合幕僚長の発言に注目している。

わずかに「アジア太平洋地域における安全保障問題と北朝鮮問題についても会談」とあるのが、「領空侵犯」問題の討議のことではと推測させるのみで、この問題に対する関心の低さを感じさせる。いくつかの新聞は、日露間での防衛交換協力や、その将来性についてふれ、あたかも日露軍事同盟の動きがついに始まらんが如き印象を与え、驚かせた。

逆に、日本側のインターネット版報道で、MDシステム問題に触れたのは、筆者が確認できた限りでは、時事ドットコムのみで、それも記事題名には登場せず、記事下部で言及されているのみである。

ロシア側マスコミの報道の源泉は、バルーエフスキー参謀総長が会談後に行った記者会見によるものらしい。

この会見で、リア・ノーヴォスチ通信によれば、バルーエフスキー参謀総長は次のように発言した。

「私と斎藤隆日本防衛省統合幕僚長の名前において、絶対的にこれ(宇宙の軍事化)に反対する。私たちは共にこの立場にたどり着いた」。「ミサイル防衛システムにおける日米協力は、近い将来における米国グローバル・ミサイル防衛システムに対する日本防衛システムの統合を予定していない。私は斎藤氏の口から私が聞きたいと望んでいたものを聞くことが出来た。わたしは満足だ」とのことである。

要するに、ロシア側はバルーエフスキー参謀総長も含め、「近い将来において日本ミサイル防衛システムを米国システムに統合する予定はない」という斎藤統合幕僚長の発言に大注目。会議中で触れられた日露防衛機関の協力拡大方針にも注目している。しかし、他の会談内容には無関心であったようだ。


ロシア軍のバルエフスキー参謀総長は、日本自衛隊の斎藤統合幕僚長があくまで日米のMDについて「近い将来において統合する予定はない」と言っただけであることを重々承知しておきながら、敢えて拡大解釈し「私達は絶対的にこれ(グローバルミサイルディフェンス)に反対する」とまで言いきりました。斎藤統合幕僚長からすればそんなことを言ったつもりは無いでしょう、それなのにこの会見を受けてロシアのマスコミは一斉にこれを報道、一部では「日本がロシアと共同歩調」「アメリカのMDに反対」「日露軍事同盟の動きがついに始まらん」とまで妄想を飛躍させた所まであるようです。

冷戦時代には日常茶飯事であった「領空侵犯」ばかり気にする日本のマスコミは視野が狭く旧態然としていますが、ロシアのマスコミも斎藤統合幕僚長の発言の真意や日本の立場を探ろうともせず、都合の良い発言だけ切り出して勝手な期待を押し付けています。日米はミサイル防衛に関する警戒情報の共有を行う方針(アメリカの早期警戒衛星からの警戒情報提供)ですが、情報の共有化程度では「一体化した迎撃システム」として統合する計画とは見なされていないようで、日露双方ともそのような認識です。ロシアの反対するグローバルなミサイル防衛とは、どの程度のレベルのものを指すのか明確には分かりませんが、恐らくはICBM(大陸間弾道弾)と交戦可能な発展性を持つ大規模な迎撃システム(そしてそのような巨大なシステムはアメリカのシステムと結合しなければ機能できない)を指すのだと思われます。

領空侵犯で再発防止要請 統合幕僚長、露は否定:4/11
ロシア外相、空軍機の領空侵犯認める:4/15

上の記事は産経新聞より。軍同士のトップ会談でバルエフスキー参謀総長は領空侵犯を否定していましたが、その後にラブロフ外務大臣が認めてしまっています。ロシア内部で軍と外交部の思惑が違っているのでしょうか。それとも領空侵犯に関するロシアの態度軟化は、斎藤統合幕僚長のMD発言に起因しているのでしょうか。これについては因果関係はよくわかりませんが、単純に軍と外交部で温度差があるだけではないでしょうか。


また、4/6にロシアの保養地ソチで行われた米露首脳会談で「戦略的枠組み宣言」が為されましたが、アメリカによる東欧へのMD配備に関する最終合意は得られませんでした。




直前の報道ではお互いに歩み寄り合意に達しそうだという観測記事も流れており、実際の会談でもこれまでより和やかなムードでしたが、最終的には結論が出ませんでした。

ロシア、ミサイル防衛計画容認 米の譲歩案評価 合意目指し6日に首脳会談(04/03)
米ロ首脳会談 MDで歩み寄り、焦点 米報道官、対話「正しい方向に」(04/06)
ミサイル防衛計画合意に至らず 米ロ首脳 対話強化では一致(04/07)

以上の三記事は北海道新聞より、会談直前からの流れです。

基本的にロシアはアメリカによるグローバルなミサイル防衛網構築に反対している姿勢は一貫しているのですが、絶対に認めないという頑なな態度ではなくなりました。取引次第で一定の条件下で容認する姿勢を打ち出しています。それに加えロシア政府も「ミサイル攻撃の可能性に対処するシステムの構築」に関心があることを示し、限定的ながらミサイル防衛に積極的に参加してもよい意向を示しています。

ロシア軍は現在、S300Vミサイル・コンプレックスという、大気圏内での弾道ミサイル迎撃システムを保有しています。これはアメリカのパトリオットPAC3と同じく、嘗てのABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)に触れない代物で、仮にABM条約が今も存続していたとしても条約の規制対象外のものです。

果たしてロシアの思惑は、アメリカとNATOのミサイル防衛に相乗りする可能性を指し示してるのか、S300Vのようなシステムの更なる発展を目論んでいるのか、それとも宇宙空間での迎撃について技術を獲得したいのか、今後の米露MD協議の進展次第で分かってくるでしょう。
21時59分 | 固定リンク | Comment (45) | ミサイル防衛 |
2008年02月22日
SM-3は高度247kmで目標に命中、任務を達成しました。衛星のヒドラジン燃料タンクは破壊されています。




今回の迎撃作戦は、軌道を外れかかった衛星を撃破するものですので、発生したデブリは直ぐに大気圏に再突入して燃え尽きます。一方、中国の衛星破壊実験のように高い高度で行われた場合、何十年と宇宙に留まり続けるスペースデブリとなりますから、今回の件と同列視する事は出来ません。

アメリカはこの「デブリの問題は発生しない」という点と、「衛星が人口密集地帯に落ちないよう無力化する」という二点の大義名分を手に、副次効果として「偵察衛星の部品を他国の手に渡さない」「MDシステムのデモンストレーション」「一年前に衛星破壊実験を行った中国への牽制」という結果を得ることが出来ます。

中国、米に情報公開求める スパイ衛星破壊 - 朝日新聞

しかし、中国は一年前に自分達が行った衛星破壊実験に関するデータを開示していません。

米のスパイ衛星撃墜計画を批判=ロシア - 時事通信

ロシアはソ連時代、原子力衛星コスモスをカナダに落としてしまい、放射能汚染を引き起こした結果について賠償しています。つまり自らの過去の行為で、今回のアメリカの迎撃作戦に大義名分を与えています。


今回の迎撃作戦で、SM-3の真の性能の一端が垣間見えました。以前に「制御不能の偵察衛星をMDシステムで撃破決定」で書いたように、これまで高度160km近辺でしか実験を行ってこなかったSM-3が高度240km以上まで駆け上がった事は重大な意味を持つでしょう。(準中距離弾道ミサイルのノドンが相手なら飛行経路のほぼ全域で迎撃可能となる)更に言えばこれが上限であるという意味でも無いのです。もっと上昇できるかもしれません。この迎撃高度でどこまで水平距離での射程が得られるのかは分かりませんが、数百kmから1000kmという範囲が予測されます。

SM-3Block1でこれだけの性能があるなら、開発中のBlock2は一気に大型化(直径35cm→53cmに拡大)するわけですから、テポドンに対処できる能力が与えられるでしょう。それは本格的な中距離弾道ミサイルに対処できる事を示し、中国の保有する弾道ミサイルにも対処できる事を意味します。


01時18分 | 固定リンク | Comment (134) | ミサイル防衛 |
2008年02月15日
昨日、「制御不能のスパイ衛星:米軍が撃破を検討」と聞いて与太話と思っていました。何トンもある人工衛星を粉砕するには、SM-3の運動エネルギー弾頭では力不足だろうと・・・しかし、その認識は間違っていました。ペンタゴンはNASAと協議し、制御を失い地表に落下してくる偵察衛星NROL-21を、スタンダードSM-3によって迎撃する事を決定しました。


米国、迎撃ミサイルでスパイ衛星撃破を決定 - WIRED VISION
Carwright将官は、今回の撃破をモデル化するのに十分な技術情報を提供した。David Wright氏が現在、撃破のモデル化に取り組んでいるが、完了まで待てない読者のために重要なデータを紹介しておく。

1.撃破は130海里(240キロメートル)水域で行なわれる。
2.衛星の質量は2300キログラム
3.迎撃ミサイルの質量は20キログラム(米議会予算局のデータより)
4.衝突速度(closing velocity)は秒速9.8キロメートルで、実質的に正面から衝突する模様。

他にも関連情報がある。240キロメートル上空での衛星の移動速度は秒速7.8キロメートル、SM-3の到達速度[全ての推進薬を使いきったときの最高速度]は秒速3キロメートルだ。


(注:「撃破は130海里(240キロメートル)水域で行なわれる」とあるのはWIRED日本語版の誤訳。元の英文をあたると「撃破は130海里(240キロメートル)で行なわれる」が正解です。そしてこれは高度の話です。あと「Carwright」じゃなくて「Cartwright」将軍です。カートライトさん)

以前に制御を失った偵察衛星NROL-21は12トンだと聞いていたのですが、実際には2.3トンの衛星だったようです。この衛星には有害物質のヒドラジン燃料が500kg近く積み込まれたままで、衛星を迎撃して破壊、バラバラに分割し、大気圏突入時に燃やし尽くしてしまおうという作戦です。今回の作戦は高度が低く軌道から外れ始めた所を狙うので、破壊した結果発生するスペースデブリはすぐに地表に落ちてきます。

スタンダードSM-3で高度240km(130海里または150マイル)で偵察衛星NROL-21を迎撃する予定―これは、一つの重要な事実を指し示しています。

スタンダードSM-3は高度240kmまで駆け上がれる。

これまでのSM-3の迎撃実験では標的ミサイルの性能上の制約からか、高度160km近辺での迎撃テストが殆どでした。ですが、SM-3は高度240kmでNROL-21を迎撃できる・・・SM-3の隠された性能が、今、明らかにされようとしています。

高度240kmまで上がれるなら、ノドンに対する迎撃は弾道頂点付近も含めて殆どの領域をカバーできます。SM-3の性能は、これまで想定されてきた以上のものなのかもしれません。
21時55分 | 固定リンク | Comment (137) | ミサイル防衛 |