前回の記事で紹介した沖縄の反戦平和運動家・海勢頭 豊(うみせど ゆたか)氏は、那覇での無防備地域運動の立ち上げだけでなく、憲法9条沖縄連絡会の共同代表、他にも米軍基地反対運動の一環として行っているジュゴン保護キャンペーンセンター代表で、現在、沖縄県でアクティブに動いている反戦平和運動の中心に居る人物です。生まれも育ちも沖縄県で、ご本人の職業は「平和音楽家」だそうです。
そしてこの沖縄の反戦平和運動の中心人物と言える海勢頭氏の持論に、大変奇妙なものがあるので困惑しています。
2007年活動報告 4月1日:「世直しの歌とゆんたく」ジュゴンと琉球のきよらなこころ 場所:ドーンセンター | ジュゴン保護キャンペーンセンター
古代から琉球は非武反戦の島でした。
琉球から太陽信仰を持ち帰り、弥生時代末期の戦乱の世直しをしたのは、倭迹迹日百襲姫(ワトトヒモモソヒメ)すなわち卑弥呼と考えられます。
卑弥呼は沖縄でジュゴンに出会い、ヒトを襲わない平和な姿に影響を受けたのではないでしょうか。
邪馬台国の卑弥呼が琉球にやって来ていたとか、正直、全くわけが判らないので、ユタ(沖縄の巫女)の口寄せ(降霊術)を真に受けたのかと思いましたが、どうやら違うようです。海勢頭氏のこの主張は、瀬戸内短期大学の名護 博(なご ひろし)教授の説に大きく影響を受けたもので、これは学会では全く受け入れられていない、数ある邪馬台国仮説の一つのようです。それは世の中に殆ど知られていない奇抜な説でした。名護教授は沖縄出身で、この学説を記した著書『邪馬台国総合説 赤椀の世直し』も沖縄の出版社から世に送り出されています。沖縄限定で有名なのかもしれません。
邪馬台国総合説 赤椀の世直しOnline
戦乱の弥生時代前期末〜中期の北部九州で、沖縄・奄美を戦乱のない「ユートピア」(常世の国)とみなし、その「太平の世」を日本本土に回復しようする「世直し」の連帯運動が発生した。原初ヤマト国家(倭国≒邪馬台国)は、その「世直し」が拡大・発展したもので、3世紀半ば頃には「大和・山城」を首都とする平和を目指す連合国家として成立した。しかし数十年の短命な国家であった。
(※名護教授の専攻は化学で農学博士。歴史は専門外)
概説にはこうありました。
『邪馬台国とは、北部九州に始まり、瀬戸内・畿内、さらには東海、北陸、東北南部にまで共鳴的に拡大発展して生まれた不戦・平和をめざす連合国家のこと。』
狗奴国との戦争を続けていた邪馬台国の目的は不戦・平和だったんですか〜って、そんな理屈が成り立つならどんな戦争でも「平和を取り戻す為に戦うんだ!」で説明付けられますが、何を言ってるんでしょうか、この人は。よく理解できません・・・
次に名護教授とは別の、海勢頭氏の独自研究についてです。
古代世直しの旅 心は9条と同じ、非武非戦
沖縄9条連共同代表・シンガーソングライター
海勢頭 豊 (うみせど ゆたか)
私は3〜4世紀の古代邪馬台国を統一したヒミコの世直し運動を評価すべきだと思ってきた。
そして今、1700年の時を越えて、世直しの心を守り、生かし広める時が来たと決意している。
その謎解きに人生を賭けてきたが、「憲法9条の心は沖縄の心」をテーマに、沖縄9条連を立ち上げたのも、古代平和運動の真実が見えてきたからであった。
ヒミコは琉球のジュゴン=サメに絶対平和の思想を学び、その化身(けしん)として豊玉姫・玉依姫(たまよりひめ)の姉妹神話を創り、また琉球の太陽信仰から天照神話を創生して「世直し」に立ち上がったと考えられる。
ジュゴンのペンダントの勾玉(まがたま)を掛けて祈り続けてきた琉球の神女(かみんちゅ)たちの伝統祭祀(さいし)もまた、非武非戦の9条の心を守り続けてきた平和運動であったのである。
海勢頭氏は音楽業の傍ら、「古代史の謎解きに人生を賭けてきた」そうです。そして、大和(やまと)の思想・神話は元々は琉球オリジナル!と主張しています。また、勾玉(まがたま)がジュゴンのペンダントとは、どういうことなのでしょうか。
曲玉はジュゴンのペンダント:孵でぃ果報
だが私は、ジュゴンを守らなければならない立場の物としては、まがたまの秘密を証さなければなるまいと考えて来た。そして答えは昨年10月8日、平安座島のシヌグ祭りに神人として参加した時に見つかった。
もしかしたら曲玉はジュゴンの首飾り?と、ふと思いついたのであった。古代ヤマトの戦乱の世を非武の思想で統一し、邪馬台国の女王となったヒミコと琉球の世直し運動の時代(3〜4世紀)にリセットして考えると、曲玉は間違いなく、ジュゴンの非武のパワーを込めたものとなる。
ジュゴンは日本の古代語でサメと言う。沖縄の方言ではサンまたはザンと言う。神女達が芒の葉をクルッと巻いてサンを結ぶと、それがたちまち邪気を祓い清める鮮烈なパワーを持つことを、沖縄人なら誰もが知っている。
その効能と全く同じなのが曲玉である。
語感が何となく似ているだけからくる、コジツケ論以外の何物でもないような気がします。「謎解きに人生を賭けてきた」という実態とは、祭りの最中にふと思いついただけで、何の検証も無いまま「間違いなく」と断言する非常に危ういものでした。
その昔、琉球=竜宮を訪ねたヒミコは、太陽信仰とともに竜宮神であるサメから非武の絶対平和思想を学び、世直しを行った。そして、海神であるサメすなわちジュゴンの化身として、豊玉姫、玉依姫の姉妹を神話にして国中に平和思想を広げて行った。その平和な国造りを補完する神器として、サメの真玉(まがたま)を作ったと考えられる。
天皇家の保有する三種の神器の1つは「八尺瓊勾玉(やさかにの勾玉)」こそは、正しくヒミコの作った物ではなかろうか?
八尺は2m42,4cmの大きさで、瓊(に)は赤。ピンクに光り輝く辺野古の海のジュゴンを模したと思ってよい。
その日本神話の原郷である聖なる海を破壊する者は、恐ろしい事を覚悟しなければなるまい。
なんだか、どんどん妄想を暴走させていってませんか? まともな根拠が何処にも見当たらないです。主張の根底にあるのは大和(やまと)の源流は琉球なのだ!の一点張りで、根拠の無い断言と無理矢理なこじ付けの連続です。そして最後には「沖縄の海を破壊する者は恐ろしい事を覚悟しろ」と脅迫を行う。これが平和思想の担い手の言う事なのですか? 平和運動の邪魔をするものは神罰に焼かれて滅ぼされるわけですか?
最後の脅迫行為は、海勢頭氏の内なる攻撃性が現れたようにしか見えません。これは「平和主義者の好戦性」を体現した例となるのか、それとも、海勢頭氏は平和主義者の仮面を被った民族主義者に過ぎないのか、少なくとも海勢頭氏が平和運動家として活動し続ける限りは、これは「平和主義者の好戦性」と見做される事になるでしょう。
結局、色々調べてみましたが「邪馬台国の卑弥呼が琉球に行ってジュゴンと会って来た」というトンデモ古代史の根拠は何処にも見当たりませんでした。邪馬台国についても、戦争を行って勢力を拡大し、大陸の強大国家・魏と関係を結び、その威光を傘に着て周辺国を併呑していった目的が不戦・平和であったという根拠も、何処にも見当たりません。根拠の無い断言と無理矢理なこじ付けしか発見できませんでした。
中世から近世にかけての琉球王国が非武装平和国家であったという幻想については、今や根拠付きで何時でも打ち破る事ができます。
(2008/10/28)
琉球王国の火力装備と平和国家の幻想 (2008/10/30)
「琉球王国は武器を持たない平和な国」と大田昌秀・元沖縄県知事が信じていた件中世〜近世の琉球王国は火力装備を有した普通の国家でした。しかし、詳細がよく判っていない古代の琉球と邪馬台国を結び付けて、「非武装の琉球が大和に伝えた大事な思想」などというステキな脳内ストーリーを組み上げられていたとは、思いもしていませんでした。反戦平和思想というより民族主義的な思想、いえ、両者の合体ですね、これは。
そして出来上がった代物がトンデモ古代史です。自分達がこんな勝手な歴史の捏造をしているようでは、教科書問題などを非難できなくなるだけでしょうに。