イスラエル軍:ガザ攻撃で「クラスター使用せず」国連見解|毎日新聞 1月31日
しかし、3週間以上前には全く逆の報道が行われていました。
イスラエル:軍、ガザに地上侵攻 数千人、北部で激戦 クラスター弾使用か|毎日新聞 1月05日
つまり毎日新聞は1月5日に「ガザ攻撃でクラスター爆弾使用か」と誤報を流していた事に触れず、デマを流した責任を取ろうともしていない事になります(この記事は1月4日のネット配信が先で、翌1月5日に朝刊紙面に掲載)。どうして1月31日の記事で「ガザ攻撃でクラスター爆弾使用せず」と書いた時に過去の記事に対するお詫びと訂正を入れなかったのか、1月5日の記事は【エルサレム福島良典、前田英司】と署名があり、1月31日の記事では【ダボス(スイス東部)澤田克己、エルサレム高橋宗男】と別の記者達が書いた記事なので、気付いていないだけなのかもしれませんが、毎日新聞の最初の報道を信じて真に受けた人達が大勢出ている以上、何らかの説明は必要である筈です。
〔動画〕イスラエル軍がガザで「クラスター弾」を使用:低気温のエクスタシーbyはなゆー 2009.01.04
イスラエル軍、クラスター爆弾を使用:きっこの日記 2009.01.05
毎日新聞の記事を見て、イスラエル軍がガザでクラスター爆弾を使用したと日記を書いた著名ブロガーが現れ、それを見たブログ持ちの読者が更に記事を書き、デマが拡大再生産されていきました。また「きっこの日記」「低気温のエクスタシーbyはなゆー」の双方に引用されている動画を見れば分かりますが、M825A1白燐弾の空中炸裂をクラスター爆弾と勘違いした誤報記事となっています。
ガザ侵攻でイスラエル軍が白燐弾を使用:週刊オブイェクト 2009.01.06
私はファルージャの騒動の時から見慣れているので、今回の動画を見た瞬間に白燐弾だと気付きましたが、軍事方面に詳しくない人達が動画を見て白燐弾の空中炸裂をクラスター爆弾と勘違いするのは、ある程度しょうがない面もあります。でも落ち着いて考えればクラスター爆弾は特に光ったりするわけではない事に気付いても良さそうなものですが・・・
クラスター爆弾は親爆弾の中に多数の子弾が内蔵されている構造で、この子弾が「爆発性子弾」であるものを言います。一方、イスラエル軍が使用しているM825A1白燐弾は空中炸裂させた場合、剥き出しの白燐の欠片をバラ撒く事になりますが、これは「爆発性子弾」とは見なされません。地上への着弾の際に光が強くなって見えるのは、白燐の欠片が着弾の衝撃で砕けた結果、表面積が増加し、一時的に火勢が強まった結果であり、爆発しているわけではありません。
では記事タイトルのテーマに戻って、イスラエル軍がクラスター爆弾を使わなかった理由は単純な事なのですが、「クラスター爆弾は市街地への攻撃に全く向いていない」という兵器の性質によるものです。ただしそれは、通常爆弾よりも広範囲の面積を制圧できるクラスター爆弾が、軍事目標のみならず民間人を巻き込みやすいという事が大きな理由ではありません。それも理由の一つかもしれませんが、最大の理由は遮蔽物の多い市街地ではクラスター爆弾の攻撃力そのものが大きく半減してしまうという事であり、都市攻撃にはむしろ通常爆弾の方が向いているという話なのです。
これはクラスター爆弾関連の話でもしましたが、通常爆弾よりも広い面積を制圧できるクラスター爆弾はその代償として、子弾1発あたりの打撃力が小さく、種類にもよりますが子弾は手榴弾と同じかそれよりちょっと大きいくらいのもので、建造物を破壊できるようなものではありません。その為、建造物の中に隠れるだけでクラスター爆弾の攻撃をやり過ごす事が出来ますし、中に入らずとも建造物の陰に隠れるだけでも大きな遮蔽効果を得られます。
市街地は遮蔽物の集合体であり、火力を吸収してしまいます。第二次世界大戦でドイツ軍とソ連軍が大規模な市街戦闘を行った時、頼りになったのは1発あたりの破壊力が大きな重砲でした。歩兵を支援できるよう、接近戦で大口径榴弾砲を撃ち込む突撃砲が開発され、建造物に潜む敵兵を建造物ごと吹き飛ばしていきました。1発あたりの破壊力の高さが市街戦闘で重要視されたのです。つまり、市街戦で要求される能力はクラスター爆弾とは正反対という事になります。実際に現代のアメリカ軍も、当初はクラスター弾頭のみを用意していたMLRSやATACMSに、新規開発で単弾頭タイプを用意し、MLRSの単弾頭タイプであるM31ユニタリー弾は既にイラクやアフガンで市街地での攻撃に実戦投入されています。
結局のところ、市街地でクラスター爆弾を用いて効果が高い場所は少なく、広場や駐車場などに限定されます。しかし今回のイスラエル軍によるガザ侵攻の目的はハマスのロケット弾備蓄そのものを叩く事、カッサム・ロケット製造工場を叩く事、武器密輸に使われる地下トンネルへの攻撃などが主要目標であり、これ等への攻撃には建造物や地中を貫いてから起爆する貫通爆弾が必要となります。ハマス重要人物の邸宅を暗殺目的で爆撃する場合も必要なのは通常爆弾と貫通爆弾であり、ハマス戦闘員との地上戦闘でも、建造物や塹壕に籠って戦う相手に使用すべきなのはクラスター爆弾では無く、通常の爆弾です。建造物外にあるロケット弾の発射地点を叩く場合でも、例えばカッサム・ロケットの発射機は何でもよく、ベニヤ板で作られたものすらあり、そんな使い捨てのものを叩いたところで意味は無く、発射後に直ぐに建造物の中に入るか陰に隠れるハマス兵を狙う場合、やはり必要なのは通常榴弾や通常爆弾です。
イスラエル軍は、2006年のレバノン侵攻でヒズボラとの戦闘にクラスター弾(MLRSのM26ロケット弾)を使用しました。この時は使用したクラスター弾の殆どを停戦寸前の撤退直前に撃ち込んでおり、本当の意味の攻撃目的では無く「置き土産」を意図したもので有る事は明白でした。
今回のガザ侵攻の際に同様の事をしなかったのは、レバノン侵攻時の際の国際社会の非難、そしてアメリカの事前の圧力(もし市街地で使ったら二度とクラスター弾を売らないと警告)、そして無駄使い出来る使用期限の迫った弾薬の在庫はもう無かった事が挙げられます。