このカテゴリ「平和」の記事一覧です。(全164件、20件毎表示)

2008年11月24日
何とも懐かしい物を見た感じになりました。ここ数年でネット上からはほぼ完全に駆逐できた主張でしたから・・・


講演:元防衛庁幹部、小池・新潟県加茂市長「平和憲法こそ国を守る」−−金沢 /石川 : 毎日新聞
小池市長は、朝鮮戦争や湾岸戦争を振り返り、「平和憲法があったから派兵がなかった」と語り、そのうえで、自民党が検討する憲法改正案に触れ「海外派兵を認め、自衛隊員が足りなくなれば、徴兵制が導入される」と警告した。


数年振りに見た改憲と徴兵制を結び付ける主張ですが、これに対する問い掛けは簡単です。

「アメリカやイギリスは海外派兵しまくりですが、別に徴兵制ではないですけど?」

それでは新潟県の小池清彦・加茂市長さん、お答えをどうぞ!・・・って、答えようが無いし答える気も無いしスルーするんでしょうね・・・小池市長は東大法学部卒で防衛庁に入庁した元・背広組です。もし防衛庁時代にこんな寝言を言っていたら問題視されていたかもしれませんが、今の立場なら好きに言えばいいです。でも、簡単なツッコミで立ち往生するような稚拙な論理を振り翳さないで欲しいですね。

補習授業形式:「徴兵制解説シリーズ」
週刊オブイェクト:カテゴリー「徴兵制」

これだだけ見て頂ければ「憲法改正と徴兵制は全く結び付かない」事がよく分かると思います。自民党は一時、憲法改正案に徴兵制禁止を明記しようとすらしていましたし。

さて、加茂市長に問い合わせのメールを送るにはこちらで宜しいのでしょうか。

加茂市公式ホームページ

"市長宛"というのが無いけど、どうしましょうか。加茂市宛で、いいかな。
22時08分 | 固定リンク | Comment (151) | 平和 |

2008年11月22日
12月3日にオスロで行われる「クラスター爆弾禁止条約」の調印式に、日本政府が署名・批准する方針ですが、自衛隊は全てのクラスター爆弾を廃棄し、条約の認める例外の「最新型」も調達を行わない方針を固めました。


クラスター爆弾:「最新型」も導入せず 政府方針> : 毎日新聞
政府は人道上、不発弾による「副次的被害を避ける」ことを重視。最新型でも不発弾による被害が完全になくなる保証がなく、コストもかさむため、導入を見送り、子爆弾による被害の根絶を目指す方針を決めた。

同時に条約の規制による影響を「極小化」する方策を模索。今後、子爆弾を持たずGPS(全地球測位システム)によって正確に目標に誘導し、より遠距離から狭い範囲を攻撃するロケット弾などを導入する。

日本は、海岸線から上陸する敵の「着上陸侵攻」を、大量の子爆弾をまくことで「面的に制圧」するため、クラスター爆弾を配備してきた。条約案の採択後、防衛省や自民党内の一部から「廃棄する旧型に代え最新型を導入すべきだ」との声が相次いだ。しかし、現在は着上陸侵攻の可能性が考えにくく、「面的制圧」の効果を疑問視する見方もあり、必要性が低いと判断した。


しかしこの報道はおかしな説明です。条約が定義するところの「最新型」クラスター爆弾とは、実質上、対戦車専用タイプを意味します。将来的に条約の範囲内で対人タイプも出てくる可能性はありますが、現状では存在しません。

「クラスター爆弾、対戦車誘導型以外を全面廃棄へ」

そして対戦車タイプは不発弾による被害を殆ど無視できます。9発の子弾に自爆装置が取り付けられている場合、自爆装置無しの通常爆弾と比べて不発弾の発生数はむしろ低くなるでしょう。さらに子弾が自己鍛造弾頭である場合、空中で起爆する為にそもそも不発になる可能性は非常に低いと言えます。だからこそ条約で「最新型」は例外扱いされています。実質上の被害が少ないからこそ規制の対象外とされています。地雷とて、対人地雷は禁止されても対戦車地雷は禁止されていません。

それでは何故、自衛隊は「最新型」の調達を当面見送ったのか・・・これは単純に予算面の都合と、条約の条件に合致する適当なものが見当たらなかった事、そして対戦車専用では対人攻撃や物資集積場(橋頭保や兵站拠点)への攻撃に向いていない為です。最大の要因は予算です。通常のクラスター爆弾の最大の利点は「一発あたりが安い割に広い面積を攻撃できる」であったのに対し、対戦車専用タイプは子弾の全てに誘導装置が必要で、単弾頭誘導型よりも高価になり、調達予算が嵩む為です。

ですからもし日本政府が「人道面を考慮して最新型の導入も見送った」と説明したのであれば、それはクラスター爆弾に反対してきたNGOやマスコミに対するリップサービスであると同時に、例外規定を設けたヨーロッパ諸国への厭味なのでしょう。

また『「面的制圧」の効果を疑問視する声』が記事中で紹介されていますが、そもそも「最新型」クラスター弾は面制圧ができませんし、そのような目的では設計されていません。だから「最新型」を導入したところで面制圧能力は失われます。通常型クラスター弾の持つ面制圧能力をそのまま代替するには、多数の単弾頭をバラ撒くか、核攻撃以外に方法は無く(燃料気化弾頭は気象条件で効果が一定しない上、装甲兵器には効果が無い)、もうクラスター弾を廃棄すると決めた以上は面制圧を捨てて、目標を的確に絞り、誘導弾を叩き込む戦術に転換する以外にありません。

自衛隊のこれまで想定していたクラスター爆弾の使用方法は、上陸直後の敵が海岸線付近の橋頭保で密集している所を、少ない手数で一網打尽に打撃を与えるという想定です。移動中の敵機甲部隊を攻撃するものではありません。止まっている敵の補給拠点を叩く目的です。そして敵の激しい妨害を掻い潜って攻撃する以上、攻撃に成功する数は少ないので、一発でも送り込めたら面を制圧できる兵器が必要でした。

この説明で分かるとおり、条約の除外する「最新型」クラスター爆弾は自衛隊の想定していた使用方法とまるで合いません。対戦車専用では橋頭保を叩くのに向いておらず、面制圧にもならないので、代替兵器とは成り得ません。「最新型」については将来、対戦車攻撃用に少量を導入するならば検討されるでしょうが、当面は特に必要が無いという判断が働いたのでしょう。高価な上に汎用性が無い為、大量導入はそもそも出来ません。

そこでクラスター爆弾の代替兵器は、誘導装置が付いた単弾頭の兵器、それもなるべく単価を安く調達できるもの・・・この条件に合致するものがGPS誘導兵器です。GPS誘導兵器は安価である為、イラク戦争では使用された爆弾の8割が誘導爆弾となるほど普及しました。GPS誘導兵器の無かった湾岸戦争では、誘導兵器の使用率は実は1割程度のものでした。



同時に条約の規制による影響を「極小化」する方策を模索。今後、子爆弾を持たずGPS(全地球測位システム)によって正確に目標に誘導し、より遠距離から狭い範囲を攻撃するロケット弾などを導入する。


この毎日新聞の記述は、「ロケット弾」とあることからMLRS用の弾薬であることを示唆しています。航空自衛隊のクラスター爆弾代替兵器については、JDAMなどの誘導爆弾で決まっていますが、陸上自衛隊のMLRS用M26クラスター弾頭の代替計画は、これまで出ている情報ではM26を無誘導の単弾頭ロケット弾に改造する方針が伝えられているのみでした。しかし今回の毎日新聞の報道が確かであるならば、この改造でGPS誘導ユニットを追加するのか、或いはアメリカからGMLRS用のM31単弾頭(GPS誘導)を導入する計画が持ち上がっていることを意味します。記事には「より遠距離から」とあるので、M26の2.5倍の射程を持つM31である可能性が高いと言えます。

「どのみちMLRSクラスター弾頭型は廃棄される方向にあった」
「MLRS単弾頭M31ロケット弾の実戦動画」

M26改造案にしろM31導入にしろ、GPS誘導ならば座標データを弾頭に入力する必要があるため、M270発射器を改修する必要があり、A1仕様以上、現在だとB1仕様になると思いますが、MLRS→GMLRSへのシステム改修費用が発生します。

M26の2.5倍もの射程を持つM31ならば、敵橋頭保へ砲撃をおこなうチャンスが倍増する為、GPS誘導による精密攻撃能力と合わせ、クラスター弾廃棄で面制圧能力を失った事へのマイナスを十分に補えるものと思います。問題は結局予算で、これから新型戦車も導入しなければならないのに、大変な話です。
22時59分 | 固定リンク | Comment (79) | 平和 |
2008年11月16日
田母神論文騒動ですっかり忘れらていましたが、11月5日に国会でペシャワール会の中村哲医師が呼ばれて現地の状況を報告をしています。

参議院会議録情報 第170回国会 外交防衛委員会 第4号 平成20年11月5日

冒頭部分から中村医師のこれまでの持論が展開されており、主張があまり変わっていないようでした。ただし以前の持論では「タリバーン=伝統文化に根差した保守的な国粋主義運動」「アフガン農民なら誰でもがタリバン的な要素を持つ」と言っていたのに対し、国会質問では「タリバン」の部分を「武装組織」などと言い換えており、露骨なタリバーン擁護は控えている様子が窺えます。流石に国会の場という空気を読んで来ました・・・と思ったら、やっぱり堪えきれなかったみたいで、



じゃ、ISAFが来なければどうだったのか。私が経験したタリバン政権時代、皆さんがお嫌いになっておるタリバン政権時代は今の百倍は治安はましだと。ともかく、外国軍が入ってきてから治安が悪化したという事実はこれはどうしようもない事実だというふうに、これはアフガン人のほとんどが認めておるところであります。


しかしISAFが来たから治安が悪化したのではなく、治安が悪化しているからISAFが来たのですが・・・タリバーン政権時代は治安が良かったといっても、それは恐怖政治で押さえつけていれば治安は良いのはある意味当然な話でして、ではその事を踏まえた上でどうすべきなのかと問われると、カナダの世論調査では「外国軍の即時撤退はアフガン民衆の間で14%しか支持されていない」という結果が出ています。

「大多数のアフガニスタン民衆は外国軍の駐留を望む‐カナダの世論調査」

そして治安が悪化した原因は、アメリカ軍の空爆前にタリバーンがアルカイーダと共に心中する決断を下してしまった為であり、なんでタリバーンはテロリストを匿ってしまったのか、そもそも何のつもりでテロリストを客人として招き入れていたのか、その辺を中村哲医師はどう考えているのでしょうか。アルカイーダがタリバーン中枢に食い込んで浸透し、半ば一体化しているのは明白であり、それを無視してタリバーンはテロリストでは無いと主張してもあまり意味がありません。

それとこの国会答弁で中村哲医師はペシャワール会によるマドラサ(イスラム神学校)建設支援の意義を説き、マドラサはテロリスト養成学校では無い、誤解であると主張しているのですが、伊藤さん拉致殺害グループの一人アディル・シャー容疑者がマドラサに通う神学生であったことに触れようとしていません。

「伊藤さん誘拐犯は純タリバーンと判明」

現在、アメリカ軍はパキスタン領内にある親タリバーン派のマドラサを、GMLRS(多連装ロケット)とUAV(無人偵察機)で爆撃していますが、越境爆撃を非難されてもマドラサという爆撃対象選択は非難されていません。全てのマドラサがテロリストの温床であるとは言いませんが、現実として過激派武装勢力の温床ともなっていることは事実です。



○浜田昌良君 今、ソ連の侵攻のときには実際に体験されたという生々しいお答えをいただいたんですが、ここで一点ちょっと中村代表に、少しこれ認識が我々と違うなという点があるんです。
 何かといいますと、先ほどの御発言の中で、米国の軍事活動に協力していると知れ渡ってしまうと身の不安が感じるという話がございました。今この国会で審議をしている新補給支援法、前のテロ特措法は廃案になりましたので、期限切れになりましたので、この新しい法律の場合はOEFという陸上作戦とは完全に切れた関係になっているんですね。司令部は違いまして、それぞれ陸上と海上阻止活動は。よって、この海上阻止活動に給油している日本というのは空爆を支援しているわけでは全くないんです。そこは是非、多分現地では中村代表の影響力って大きいと思いますので、それは前の法律とは違って、日本はあくまでインド洋上で不審船があるとそれを無線照会をして、旗国の同意の下でチェックをするというものに給油をしているのでありまして、航空母艦とかそういうものじゃないということを是非御理解賜りたいと思いますが、それはよろしいでしょうか。

○参考人(中村哲君) お答えします。
 それは、私に通じても現地の人には通じないということ。それから、この給油対象のほとんどでありますパキスタンの軍隊、これが今大々的にパキスタン側から空爆しておるわけでありまして、おっしゃられることは現地に対しては説得力はないと思います。たとえ一%であろうと二%であろうと米軍に補給しているという事実、このことは現地に対して非常にアレルギーと言えるほどの反応を起こすということは確実だということは申し上げておきたいと思います。


この中村哲医師の返答は事実と全く異なります。パキスタン側からアフガニスタン側への空爆は行われていません。というか逆ですよね、アフガニスタン側からパキスタン側への越境爆撃が行われているわけですから。どうしてこんな基本的な事実認識が間違っているのか、現場で何を見てきたのか疑問です。それと中村哲医師は、海上自衛隊の給油活動は現地でアレルギーを引き起こすと以前から何度も主張していますが、実例は一度も提示されていません。伊藤さん拉致殺害事件の時のタリバーンによる犯行声明ですら「自衛隊のインド洋での活動を中止しろ」という要求は無く、これまでも一切無く、現地ではアレルギーどころか気付かれてもいないし無視されているんじゃないか、逆にそれはそれで役に立っているのか不安になるのですが、その辺はどうなんでしょうか。

それとこの答弁の直前で中村哲医師は「二〇〇一年以後ですね、ソ連軍時代にはありました」と、落ちてくる爆弾を見たという実体験を語っているわけですが、2001年当時はソ連なんて存在していないわけでして、一体何時頃と勘違いしたのか少し気になるのですが・・・



○浜田昌良君 時間なので最後の質問にさせていただこうと思うんですが、先ほど自民党の佐藤委員からもいろんな御質問ございました。佐藤委員はイラクのサマワで、現地で現地の住民の方に給水活動されたり復興活動されたりしたわけですね。サマワにおいては、日本の陸上自衛隊が現地の方々からも評価をされ、学校も補修をし、そういううまい関係ができたんですが、今、中村代表の御発言だと、日本の自衛隊はそういう関係はアフガニスタンでは築けないよというようなお話なんですが、そのイラクでできてアフガニスタンではできないというのはどの辺が違うと考えればよろしいんでしょうか。

○参考人(中村哲君) お答えします。
 それは私もよく分かりません。イラクとアフガニスタンでは、恐らくは、社会構造の違い、文化の違い、いろいろあると思いますけれども、アフガニスタンでは非戦闘地帯は存在しない。あっても、部隊が駐留すればそこが戦闘地区になる。例えば、我々の水路沿いに自衛隊があの大事な仕事を守らなければといって来れば、我々としては大変迷惑な話だと。恐らく水路の作業員五百名は全部武装して自衛隊に反抗するでありましょう。
 そういうことを考えますと、私は、おっしゃる質問の答えにはなりませんけれども、その辺はイラクとは随分違うんだと。しかも、自衛隊が出てくる必然性はないということははっきり申し上げたいと思います。


ええっと・・・

「根拠は分かりませんけど必然性は無いことをはっきり申し上げます」

幾らなんでもブッチャケ過ぎです。論理よりも自分の感情を曝け出すのは結構ですが、これでは説得力が全然無いです。自分自身で「答えになってない」と認めるあたりは逆に清々しいというか何というか。中村哲医師は以前から陸上自衛隊のISAF参加には反対なのですが、ISAF参加は政府ではなく野党の民主党の方が積極的で、その民主党が中村哲医師を国会に呼ぶのは、これもまた何がしたいのやら・・・きちんと反論意見を聞いた上で陸上自衛隊派遣を主張する、という趣旨ならいいのですが、本当にそういった心積もりがあったのかどうかは不明です。民主党はここずっと、陸自ISAF参加の主張を控えているようですし。


他にも突っ込みたいところは山ほどある議事録なのですが、全部上げていくとキリが無いですし、多くが「現地に居た専門家の情報が正しいとは限らない」で紹介した「アフ【ガ】ーニスタンFAQ」からの抜粋と被るので、今回はこの辺にしておくことにします。
21時03分 | 固定リンク | Comment (116) | 平和 |
2008年11月15日
さて、世論調査ネタついでに、一年前に行われた非常に興味深い世論調査結果を紹介しておこうと思います。以下の紹介するサイトは駐日アフガニスタン大使館の記事で、元はAFP通信の記事を和訳したものです。


アフガニスタン人のほとんどが、外国軍が留まることを望んでいる:世論調査
2007年10月20日モントリオール(AFP)

カナダのメディアが発表した世論調査によれば、ほとんどのアフガニスタン人がNATO部隊のアフガニスタン駐留を肯定的に見ており、その継続を望んでいる。

Environics社がCBC、The Globe and Mail、La Presseのために実施した調査は、1,500人以上のアフガニスタン人に質問を行った。

この調査によれば、質問された人の60%が外国軍のアフガニスタン駐留を肯定的にとらえ、16%がそれを悪いことであると考えていた。

南部、カンダハル地区は北部よりタリバンの存在が強力であるが、そこではNATO部隊の存在に反対する人の比率が23%と他所より高いが、61%は依然賛成である。

調査対象の14%が外国軍部隊の即時撤退を望むと回答した。

Environics社によれば、38%が外国軍部隊のアフガニスタン駐留を1年から5年の期間と考え、43%がタリバンを破って秩序を回復させるまで必要な限り駐留すべきであると答えた。

73%の大多数が、タリバンに対して非常に又はかなり否定的な考えを持っていると答えた。

調査対象の51%が、自分隊の国は正しい方向に向かっていると答えた。(カンダハル地域では48%)そして73%が女性の境遇が改善したと答えた。

外国の支援を受けてアフガニスタン政府がタリバンを破ると信じていると答えたのは40%にすぎなかった。29%はまだ判断するには早すぎると答え、19%は外国軍部隊が撤退すればタリバンが政権を奪回すると信じている。

1,578人を対象としたこの調査は9月17日から24日にかけて実施された。誤差の範囲は3.8%である。


この調査結果をマスコミは殆ど伝えていなかったので、知らなかった人は多いかもしれません。なお英語版の記事はこちら。

Most Afghans want foreign troops to stay: poll

「Environics」はカナダの世論調査会社で、「CBC」はカナダ国営放送、「The Globe and Mail」はカナダで第二位の発行部数の新聞、「La Presse」はカナダのケベック州で第一位の新聞です。


When So-Called Experts Deceive Themselves - Pajamas Media
What happens when experts are surprised in their own area of expertise? The Toronto Sun suggests the Canadian Broadcasting Company was shocked at the way one of their polls turned out.


CBC(Canadian Broadcasting Company)はこのアンケート結果を受けてショックを受けてしまいました。国営放送なのですがリベラル傾向が強く反戦的でカナダ軍のアフガン派遣に否定的で、この調査も当然ながら自分達の期待するような数値が出るものと思い込んでいたみたいです・・・
00時02分 | 固定リンク | Comment (84) | 平和 |
2008年11月11日
2003年にドイツ陸軍軍特殊部隊KSK(Kommando Spezialkräfte)の司令官ラインハルト・ギュンツェル准将が、反ユダヤ主義的発言を行ったCDU(キリスト教民主同盟)のマルティン・ホーマン議員に共鳴、激励の手紙を送った事で解任されたケースが存在します。

German general axed in Jewish row - BBC (Tuesday, 4 November, 2003)


独国防相、反ユダヤ主義発言礼賛の総司令官を解任 (2003年11月5日 読売新聞)
【ベルリン=宮明敬】ドイツのシュトルック国防相は4日、反ユダヤ主義的発言に共鳴したラインハルト・ギュンツェル独連邦軍特殊攻撃部隊(KSK)総司令官(59)を解任した。

KSKは、アフガニスタンでアル・カーイダやタリバンの残党掃討に従事、ドイツ軍として戦後初めて欧州域外での戦闘に参加したエリート部隊。

ドイツでは最近、保守系最大政党、キリスト教民主同盟(CDU)に所属するマルティン・ホーマン連邦議会議員(55)が、第2次大戦でユダヤ人を虐殺したドイツ人がいつまでも「加害者民族」のレッテルを張られることに反発して、「(多数の犠牲者が出た)ロシア革命の経緯を見れば、(多くが革命側に加わった)ユダヤ人を『加害者民族』と呼んでも差し支えない」と語り、ユダヤ人団体や左派政党から激しい非難を浴びていた。ギュンツェル総司令官はホーマン議員に手紙を送り、「我が国ではめったに聞けない勇気ある発言。国民の多くも同じ考えだ」と称賛したという。
 
四日夜のテレビ番組で手紙の内容が公表されることが分かったため、国防省は即刻、解任に踏み切った。


ホーマン議員は当初、CDU党内でメルケル党首から戒告処分を受けていました。他に受けた処分は所属する内政委員会を除名されただけで、比較的軽いものでした。しかしギュンツェル准将の手紙で問題が再燃し、ギュンツェル准将がシュトルック国防相によって即座に解任された事から、ホーマン議員も最終的に党除名処分へと追い込まれました。

ギュンツェル准将解任から一年ほど経った時に、ドイツ在住のartaxerxesさんから聞いたのですが、ギュンツェル准将は在任中の1995年にも「私の隊員にはスパルタ人、ローマ人、武装SSのような規律を要求する」と演説して批判を浴びていたそうです。軍を辞めた後は学生組合(Burschenschaft)などでの講演活動などを続けていて、「ホロコーストの唯一性といった歴史観は戦勝国に強制されたものだ」などと発言し、益々主張が先鋭化されて右翼勢力の偶像となっています。

田母神俊雄・前航空幕僚長も、これからそういった道を歩んでいくのでしょう。ただし論文内容からして、前途は多難であることは間違いないでしょうが。
01時30分 | 固定リンク | Comment (120) | 平和 |
2008年11月10日
田母神論文問題で比較参考になる例として、湾岸戦争直前に解任された米空軍参謀総長マイケル・デューガン大将のケースがあります。『政府見解と全く異なる見解を将官が勝手にベラベラ喋って更迭される』という点で、田母神前空幕長の更迭と同じものです。

デューガン大将の更迭について、TIME誌が18年前当時の記事内容をWebに掲載しているので紹介します。


Ready, Aim, Fired - TIME
By Bruce van Voorst/Washington. Monday, Oct. 01, 1990

Last week Cheney fired the highly decorated Air Force chief, General Michael Dugan, for "poor judgment at a sensitive time" in speaking indiscreetly on secret and diplomatically touchy issues relating to the gulf crisis.


開戦直前の緊迫した状況で、デューガン大将は無分別な発言を繰り返し、ディック・チェイニー国防長官によって空軍参謀総長を解任されました。チェイニーに対しこの問題を可及的速やかに処理するよう進言したのは、コリン・パウエル統合参謀本部議長です。

パウエルが1993年に退役した後に出版した自伝「My American Journey」にこの時の様子が詳しく語られています。角川書店からの邦訳版の文庫「マイ・アメリカン・ジャーニー 統合参謀本部議長編」129p〜133pから抜粋して紹介します。



  翌朝早々に目をさまし、コーヒーを飲もうとして台所へ行くと、食卓にはすでにアルマがおり、『ワシントン・ポスト』の一面を見ろという。「戦争となれば空爆頼み」という大きな見出しがあった。この時期に公表されるのは最も好ましくない内容だった。そうでなくても、大統領は空軍力を過大に評価しているふしがあった。

(中略)

 『ポスト』紙の記事の元は、マイケル・デューガン大将だった。つい三ヵ月前に、ラリー・ウェルチの後任として空軍の参謀長に就任した男だ。デューガンもサウジから戻ったばかりで、同行の記者団を前に、数時間ぶっ通しで公式会見を行っていた。たいへん勇気ある行為ではあるが、やや慎重さに欠けていた。デューガンは以前にも二度ほど、政府の方針に反する発言を記者団に語ったことがあり、注意してはいた。イラクがクウェートに侵攻して一〇日もたたないころから、デューガンは空爆の有効性を公言してはばからなかった。

 デューガンの発言を『ポスト』紙が引用した例をいくつかあげてみる。「空爆は米軍がとりうる唯一の手段である」。「『サダムを殺るのなら、やつの家族、共和国親衛隊、愛人を狙え』と、イスラエルから助言をもらった」。攻撃目標を決定するにあたり、自分は政治的な足枷を「気にしなくてすむと思う」。イラク空軍の「戦闘能力は不充分」であり、イラクの陸軍は「役立たず」であるといったぐあいだ。『ポスト』紙の記事の最後には、サウジの砂漠に駐留するF−15の部隊にたいして述べた、「アメリカ国民がこの作戦を支持するのも、ボディー・バッグに入れられた戦死者が帰還するまでの話だ」というデューガンの談話が載っていた。

 これら一連の記事で、デューガンはイラクを下すのは赤児の手をひねるようなものとの印象を与え、アメリカ軍の司令官はイスラエルからの情報を得ていると暗に述べ──アラブ諸国と手を組もうとするわれわれの努力を台無しにしかねなかった──大統領命令で禁じられているにもかかわらず、政治を軽視し、空爆が唯一の選択肢であるとほのめかして、政府が他の戦略をとれば国民がそっぽを向くとまで言ったのである。デューガンは今回の危機に際しては、指揮系統の外にいる将官で、そもそも作戦面についての論評をする立場にはなかった。その発言には、空軍に手柄を横取りさせようとの意図が明らかに見てとれた。一回の会見でこれほど多くの愚劣で軽率、かつ偏狭な発言が飛び出すことなど、考えられなかった。

 デューガンがフロリダの会議に出張中だとわかったため、私は熟睡中の彼をたたき起こした。「マイク、『ポスト』を読んだか」。「いいえ」。「では読んで聞かせよう」。私は一文ごとに読み上げた。デューガンは気にもしていない様子だった。
 次いでチェイニー長官に電話をかけた。彼も『ポスト』の記事を読んでいなかった。「困ったことになりました」と言って、私は事情を説明した。長官は記事を読んでからかけなおすと言って、電話を切った。電話はすぐにかかってきた。「こんなばかな話があるものか。まったくお粗末すぎる」というのがチェイニーのコメントだった。

(中略)

 翌朝、月曜日の七時四十五分、昨夜から今朝にかけて入手した情報を机の上に広げ、立ったまま目を通しながら、登庁する人びとをマジックミラー越しに見ていると、チェイニー長官から電話が入った。副長官のドン・アトウッドと一緒にいるから、来るようにという話だった。オフィスに到着して、私がドアを閉めるとすぐ、チェイニーは「マイク・デューガンを更迭する」と言った。
 「ディック、話し合いの余地はありますか」と、私はたずねた。
 「いや、デューガンは首だ。やつは信用できない」
 「更迭と言う処分が適当かどうか、確認しましょう」と言うと、チェイニーは表情をひどくこわばらせた。
 「君がこの部屋から出ていったら、すぐにデューガンに電話で解任を伝える」とたたみかけてきた。大統領も了解ずみだなと思ったが、そうと判明したのはもっと後になってからだった。
文字起こし「花ながみね軍曹」さん



一番の致命的は発言はTIME誌にも書かれてあるとおり、イスラエルからの助言を受けているとほのめかす事でした。当時、イスラエル軍の将官が親交のある米軍将校に勝手な助言を行っていた事は事実でしょう。ですが聞き流せば問題とならないのに、空軍参謀総長が肯定的にイスラエル側の意見を紹介していたら、それが作戦に採用されると見られて当然です。政治的にあまりにも不用意な発言でした。イスラエル自身にとっても、この戦争でイラクからスカッドミサイルによる攻撃を受けた事を考えれば、開戦前にイスラエルか関与しているような言質はなるべく取られない方が懸命です。フセイン個人や家族を空爆で暗殺しろと発言した事も問題ですし、空爆のみで戦争に勝利できると豪語する事も問題でした。そもそも権限も無いのに自分が政府からの足枷無く爆撃目標を選べると言った事も問題です。

デューガン大将の発言内容は殆どハッタリで、この戦争の手柄を空軍で独り占めにしたいという幼児的な欲求から来るものでした。一部では「デューガンは戦争前に機密の作戦情報を漏らしたから解任された」と勘違いしている人達もいるのですが、真相はこんなものです。利己的な欲求で空気の読めない発言を繰り返し、政府の立場を拙くさせた愚者は解任されて当然です。

政府見解と全く異なる主張を行った将官が即刻、解任される。この点においてデューガン空軍参謀総長と田母神前空幕長の更迭劇は共通しています。勿論、状況は全く同じではありませんが、政府の意向に沿わない意志を示した事で処断された意味で、同様のケースです。これについて「個人の見解だから」という言い訳は通用しません。政府にダメージを与えた、あるいは与えかけた時点で、それは処断されて当然です。
19時35分 | 固定リンク | Comment (80) | 平和 |
2008年11月07日
11月5日の記事「田母神論文を「幹部教育に適した内容」と評価する元空将・佐藤守の愚かさ」はUPと同時に佐藤守氏の記事へトラックバックを行い、正しく送れた事を確認済みでした。しかし今見たら佐藤守氏の記事「言論封殺、危険な兆候」のトラックバック欄がゼロに・・・



jdia120 2008/11/06 19:38

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削除しておいてください

不平文士の飲酒日記
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59.106.28.144

そろそろフィルタリングとテキストマイニングをしておかないと無秩序に成ります。

自由を守るとは
こういうことをしないと守れませんので。!!


佐藤守氏は自分の記事のコメント欄に投稿されたこの意見を見て、トラックバックを消した模様です。正直、この事を知っても、怒りよりも哀れみの感情しか出て来ないです。佐藤さん、「言論封殺、危険な兆候」と訴えておきながら、自分に対する異論反論を封殺するんですか。言ってる事とやってる事が矛盾してると何故気付かないんですか。コメント欄が荒らされたわけでもない、批判的なトラックバックが二つばかりあっただけで消してしまうとは・・・どこまで憶病なんですか。「自由を守るため」? 馬鹿馬鹿しい。一体何時、貴方達の自由が阻害されたのですか。言ってごらんなさい!


今一度、石破茂農林水産大臣の言葉を胸に刻んでください。


田母神・前空幕長の論文から思うこと:石破茂ブログ
「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。


「自由を守る」と称し、たった二つの反論トラックバックを消して言論弾圧を行うその姿勢は、自己陶酔の世界に浸りたいという愚かな欲求の発露以外の何物でもないでしょう。石破茂農林水産大臣の言葉は実に正しかった。佐藤守という「民族派」の愚かな行動が、それを証明してしまったのです。
23時54分 | 固定リンク | Comment (117) | 平和 |
2008年11月05日
あの論文内容を読んで擁護できる人の気が知れないです・・・せめて内容が、自衛官ならではの視点に基づいた説得力のある提言ならばまだしも、論文とは到底呼べない中学生レベルの稚拙な主張を擁護できる筈がありません。

ところがと言うかやっぱりと言うか、元航空自衛隊空将の佐藤守氏は田母神論文を全面擁護しました。佐藤守氏は以前から似たような政治思想を主張していましたから、同調するだろうなとは思いましたが、元空将がこんな事をすると「航空自衛隊はこの程度のレベルなのか」と世間一般に思われてしまうので非常に残念です。


言論封殺、危険な兆候 - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記
田母神論文を「学術的ではない」などと揶揄するコメントもあったが、学術論文ではなく「懸賞応募」論文であり、内容は私が見たところでは「幹部教育」に適した内容のものだと思っている。平易で理解しやすく、紙数に限りがある中で一般的な理解を求めた文である。素直に読んで見るが良いと思う。


「学術的でない」上に「間違いだらけ」で見るに耐えないと揶揄されているのですが、佐藤守氏は論文の正確性について論じる事から逃げて「学術論文じゃないから構わないんだ」と言い訳しています。まぁ、正確性について擁護できる筈も無いのですが・・・次の一点だけは決して許せません。

>内容は私が見たところでは「幹部教育」に適した内容のものだと思っている。

あんなものを「幹部教育」に使われてたまるかぁ!!!

思想信条面で同一方向にある人を応援したい気持ちは分からないでもないですが、こんな事だけは絶対に言っちゃいけない。間違いだらけの教材なんて使ってよいわけがないです。もし仮にこれを現実で実行したら、事実を正確に確認する作業の出来ない馬鹿を量産してしまいます。「間違い探しの教材」として使うなら構いませんが、正しい箇所よりも間違っている箇所のほうが遥かに多い教材なんて、問題を解くほうも大変でしょうに。


一方、ゲル長官は容赦がありません。


田母神・前空幕長の論文から思うこと:石破茂ブログ
石破 茂 です。 

田母神(前)航空幕僚長の論文についてあちこちからコメントを求められますが、正直、「文民統制の無理解によるものであり、解任は当然。しかし、このような論文を書いたことは極めて残念」の一言に尽きます。

〜中略〜

「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。

〜中略〜

加えて、主張はそれなりに明快なのですが、それを実現させるための具体的・現実的な論考が全く無いのも特徴です。

〜後略〜


田母神論文を肯定する人は、内容の正確性について触れたがる人は殆ど居ません。彼らは、何故このような稚拙な論文を擁護できるのでしょう?
22時29分 | 固定リンク | Comment (281) | 平和 |
2008年11月04日
田母神空幕長の論文問題については、第一報を聞いた時に「この人、最近も"そんなの関係ねぇ"発言で問題を起こしていたし、二度連続して問題を起こしたらもう処分されるだろうな」と思っていたらその日の内に更迭処分が決まる非常に迅速な対応で、どうしてそこまで速かったのか驚きましたが、論文内容を読んで開いた口が塞がらず・・・政治思想云々以前に論文としての体をなしていない幼稚な内容で、これなら政府の素早い決断も成るほど納得かな、と。

[PDF]日本は侵略国家であったのか 田母神俊

碌に主張の根拠も示さず、参考文献の引用も明記せず、書かれている事は正しい箇所よりも間違っている箇所のほうが遥かに多く、陰謀論だらけで見るに耐えません。年表や人名などの単純ミスも数多く、資料を読まずにウロ覚えで書いてチェックもしていない様子が見て取れます。これ、全然真面目に書いてない文章ですよ。腐っても幕僚ならCS(指揮幕僚課程)で論文の書き方くらいは理解している筈なのに、こんな片手間に書いた駄文で優勝賞金300万円・・・出来レースですね、この賞自体が。


【田母神】すべてはコミンテルンの陰謀ですが何か?:軍事@2ch掲示板
867 :名無し三等兵:2008/11/04(火) 00:06:17 ID:???
おまえら、根本的な問題を見落としているぞ。

時間がないからと資料をきっちりあたることもせず
自分の言動がいったいどのような影響を回りに与えるのか考慮せず
周りから「やめとけ」といわれても突っ走ったこの人

空自制服組のトップだったんだぞ。
時間も限られ、失敗も許されず、場合によっては政治的判断も迫られる有事の際にこの人が頂点に立って指揮をしていたかもしれないんだぞ。怖いって。


田母神空幕長が処分された理由は、自分の役職の立場を弁えずにシビリアンコントロールを逸脱した結果によるものですが、そもそも指揮官としての適正が無かったんじゃないかと。どうしてこんな人が昇進できたのでしょうね・・・
01時14分 | 固定リンク | Comment (439) | 平和 |
2008年10月30日
前回の記事「琉球王国の火力装備と平和国家の幻想」に対してこのような反論を受けました。ただ少し違和感を感じたので、一応、ツッコミ返しをしておきます。

「琉球王国は武器を持たない平和な国とサヨクが信じている」という説が流布されている件 - 風のはて

最初に言っておきたいのですが、私自身は「平和運動家」とは書きましたが「サヨク」とは書いていません。カタカナサヨクなどと、蔑むような物言いはしていない筈です。サヨク云々は「風のはて」管理人のumikajiさんが行ったアレンジです。何か早速コメント欄で誤解した人が居てちょっと困惑気味…

では本題に入ります。umikajiさんのコメント欄でも既に指摘されていますが、最近では革新系の元沖縄県知事・大田昌秀氏が「琉球王国は武器を持たない平和な国」と主張しており、これが琉球王国の幻想を広く流布する結果となっています。

『大田元県知事は沖縄の平和主義の根幹として琉球時代の非武装文化を重要視してますよ。ま、「琉球が武器のない国」が広まったのは彼の影響がけっこう大きいんですけどね。』

実際に大田昌秀氏は琉球王国、それも薩摩藩の侵攻前を「非武装だった」と誤解しています。

大阪市立大学の山崎孝史教授の報告書『戦後沖縄における社会運動と投票行動の関係性に関する政治地理学的研究』より。


[PDF] 第4章「解放」の方途としてのグローバル化―1990年代における沖縄革新政治の後退
15世紀における非武装の琉球王国は大田の歴史認識の中核の1つであり、彼は「沖縄の心」と呼ばれる沖縄県民の平和主義の起源をその時代にあるとした。


革新系の大田昌秀・元沖縄県知事は、沖縄の平和運動に大きな影響力がありました。その彼がこのような致命的な誤解をしていたことは、沖縄の反戦運動にとって不幸な事だったのかもしれません。まさか歴史認識の中核が幻想だった、平和主義の起源が幻想だった、だなんて・・・そして当然、この間違った幻想を信じてしまう人が出て来ます。

私は2年前に、mixiの2つのコミュニティで別々の人から同じ様な琉球王国についての幻想を聞かされており、この時の片方のやり取りが消印所沢氏の軍事板FAQに収録されています。その後も何度かこの事について質問され、この幻想はまだ広く信じられていると感じ、前回の記事を書きました。

だから「風のはて」のumikajiさんが言うような、私が何の根拠も無しに「サヨクが信じている、という説を流布している」というわけでは無い筈です。私は実際にこのテーマで複数の人と議論したり質問を受けたりしましたし、大田昌秀・元沖縄県知事ほどの著名な人が、歴史認識の中核に据え平和主義の起源とまで喧伝している以上、それを信じてしまう人が多数出てしまうのはある意味当然の結果でしょう。

ならばそのような琉球王国の幻想は、今度こそ完全にブチ壊されなければならない筈です。
22時49分 | 固定リンク | Comment (111) | 平和 |
2008年10月28日
琉球王国の火力装備についての話は、既に二度ほど消印所沢氏の軍事板FAQで掲載済みなのですが、もう少し詳しく纏めて見ます。よく平和運動家の間では「琉球王国は平和な国だった」「武器の無い、争いの無い国だった」とされる事があるのですが、実態はまるで違うというお話です。

鉄砲伝来"前に火器存在/中城城跡 " (琉球新報 2001年1月4日)

琉球王国には種子島の火縄銃伝来(1543年)よりも100年早く、中国製の鉄砲の一種「火矢(ヒャー)」が伝わっています。以下のサイトで発掘された弾丸の写真を見ることが出来ます。

琉球軍の武器》火器 - グスクの海

創作小説のサイトですが、資料用のページでは現物が紹介されています。火矢(ヒャー)で使用された瑚弾、鉄弾、石弾の写真と、大元の中国の火器の画像が載っています。以下はその中国の火器の発射動画です。





火矢(ヒャー)は銃身が短く、照準も付け難いので、命中精度も殺傷能力も火縄銃に比べると大きく劣ります。しかし発射音による威嚇効果は高く、そしてそれは戦場を支配する重要な要素でした。当時の銃火器に対する軍隊の考え方は、火縄銃ですら銃弾の殺傷効果よりも発射音による威嚇効果の方が重要だと認識されていました。

琉球・沖縄史年表 (Bali & Okinawa チャンプルー)

こちらの年表で確認すると、琉球は15世紀中頃に戦乱の時代に終止符が打たれ、1429年に琉球統一が為されます。その後暫くクーデター発生などの不安定な時期を迎え、1477年に尚真王が即位した頃に体制が安定しています。尚真王は翌1478年に刀狩りを行っており、秀吉の日本統一が1590年、刀狩が1588年なのと比べても、琉球の方が日本本土よりも約100年早く統一と刀狩を先行して行っていた事が分かります。

当然の話ですが「刀狩」とは武器を捨てて平和な国家を築こうとするものではありません。武器保有を為政者側のみに限定し、民衆の反乱を防ぐ政策です。それは日本本土も琉球諸島もやっていることに変わりはありません。ただ、100年ほど施行の時期がズレていただけです。

しかも尚真王が1478年行った「刀狩り」とされるものは、実は刀狩という意味合いのものでは無かったのではないかという話もあります。


武器のない国琉球?(1):目からウロコの琉球・沖縄史
琉球といえば、「武器のない国」としてイメージされる場合が多いと思います。平和を希求する尚真王が武器を捨て世界にさきがけて“非武装国家宣言”をしたとか、ナポレオンが武器のない琉球の話に驚いたというエピソードも、これらを根拠づけるものとしてよく引き合いに出されます。

しかし歴史を詳しく調べていくと、事実は全くちがうことがわかります。まず尚真王は武器も廃棄していないし、“非武装国家宣言”も出していません。刀狩りの根拠とされた「百浦添欄干之銘」(1509年)という史料にはこう書かれています。

「もっぱら刀剣・弓矢を積み、もって護国の利器となす。この邦の財用・武器は他州の及ばざるところなり」

刀狩り説は、これを「武器をかき集めて倉庫に積み封印した」と解釈していました。しかしこの文を現代風に訳すると、何と「(尚真王は)刀や弓矢を集めて国を守る武器とした。琉球の持つ財産や武器は他国の及ぶところではない(他国より金と軍備を持っている)」という意味になるのです。尚真王は武器を捨てるどころか、軍備を強化しているのです。


民衆から武器を取上げて反乱を防ぐ目的よりも、中央の軍隊を強化する目的の意味合いが強かったのではないか、とする考察です、歴史の資料を素直に読めば「武器を集めて廃棄ないし封印」するのではなく、武器を武器として利用する為に大量に掻き集めた、とする方が自然な解釈になります。或いは両方の意味合いがあったのかもしれません。

こうして戦乱の時代から統一を果たした琉球王国は最盛期を迎えますが、1609年に薩摩藩が侵攻、支配下に置かれます。薩摩藩の島津勢は3000人の兵力を船に乗せて差し向け、奄美大島を占領した後に沖縄本島に迫りました。この時、琉球王国の軍勢は那覇港を守る屋良座城、三重城の2つの沿岸城砦(海上砲台)から石火矢(ブリーチローディング式の大砲)による砲撃を敢行、島津勢に正面からの上陸を断念させることに成功しています。この砲台は元々、倭寇の襲撃に対抗する為のものでした。実際に交易が盛んであったが故に必要とされた火力装備だったのです。

石火矢 - Wikipedia

CANNON JOURNAL - Compilation Of Info On Bronze Asian And European Type Cannons (1500 - 1800's)

上のサイトの真ん中にある「Detailed drawing above showing parts of an Asian Breech Loading cannon.」というサンプル画像で、ブリーチローディング式の青銅製大砲「石火矢」の構造がよく分かります。大きな赤文字で「Sample」と描かれてありますが気にしないで下さい。(分かりやすい画像がこれしか見付からなかった…)

三重城 〜那覇を守る台場から望郷の場所へ〜

こちらは地図で屋良座城、三重城の位置関係が分かります。海上に突出した島に砲台が据え付けられた構造で、長い連絡路で陸地と繋がっています。

海上砲台からの砲撃を受けて一旦退避した島津勢は、迂回して今帰仁村と読谷村から上陸、首里城に迫りました。一旦着上陸されてしまうと火力と練度の差はどうにもならず、沖縄本島での戦いは約10日で決着が付きました。なお首里城は無血開城されますが、これは首里城が戦闘用の城砦ではなく宮殿に過ぎなかった為、篭城しても持ち堪えることが出来なかったからです。

なお、薩摩藩は琉球王国を支配下に置いた後、本格的な武装解除を行いませんでした。但し鉄砲、大砲の保有は禁止されています。


武器のない国琉球?(2):目からウロコの琉球・沖縄史
薩摩藩は琉球に軍隊を常駐させることはありませんでしたが、有事の際には薩摩からただちに武装した兵士たちが派遣されました。つまり琉球は近世日本の安全保障の傘に入っていたのです。琉球は薩摩藩の支配下に入っていたので、当たり前といえば当たり前です。

また琉球の貿易船が出港する際には、薩摩藩から貸与された鉄砲や大砲を装備して海賊の襲撃に備えていました。琉球国内では鉄砲以外の武器の個人所有は禁止されていませんでした。その証拠に、戦前には士族の所蔵していた武器の展覧会が開かれたこともあります。


しかしなんと薩摩藩から鉄砲と大砲をレンタルしていたそうなのです。海賊退治に必要最低限の火力装備は認められていたみたいですね。これには少し驚きました。

そして琉球王国に対する幻想はこうして広まったのではないか、とする考察も参考になります。



琉球の「武器のない国」というイメージはどのように作られ、広がっていったのでしょうか。それは琉球を訪れた欧米人の体験談が、19世紀アメリカの平和主義運動のなかで利用されていった経緯があります。好戦的なアメリカ社会に対し、平和郷のモデルとして自称琉球人のリリアン・チンなる架空の人物が批判するという書簡がアメリカ平和団体によって出版され、「琉球=平和郷」というイメージが作られました。このアメリカ平和主義運動で生まれた琉球平和イメージ、史料の解釈の読み違いから出た非武装説に加え、さらに戦後の日本で流行した「非武装中立論」や「絶対平和主義」が強く影響して、今日の「武器のない国琉球」のイメージが形作られていったのです。


「武器のない国琉球」のイメージとは、逆輸入として持ち込まれた幻想だったという事です。リリアン・チン書簡なる一種のプロパガンダが、100年以上経った今になっても影響し続けているのは興味深い話です。

「目からウロコの琉球・沖縄史」ブログ主の「とらひこ」氏は本を出しているので、紹介しておきます。

目からウロコの琉球・沖縄史―最新歴史コラム
誰も見たことのない琉球―〈琉球の歴史〉ビジュアル読本

今回、琉球の火力装備について調べるにあたって見つけてきたネット上の資料の多くが「とらひこ」氏の手によるものです。「グスクの海」に掲載されている写真も、中国式火砲の動画もです。実際「目からウロコの琉球・沖縄史」ブログを読んでいっても感心する事しきりで、これだけ面白ければ著作の方も質が高いのは間違いないでしょう。
23時29分 | 固定リンク | Comment (98) | 平和 |
2008年10月27日
元航空自衛隊空将の軍事評論家、佐藤守氏のブログ日記より。

「やっかみ」は見苦しい! - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記

この佐藤守氏の記事の主題は「総理大臣がホテルのバーに通おうが問題視する方がおかしい」というものです。これについては私も同意します。しかし以下の2つの台詞が少し気に掛かります。

1.「信頼する“産経”にしては」
2.「目が悪くなったのは貴様自身のせいだろう」

一つ目は産経新聞が総理のホテルのバー通いを批判した事に対しての失望、二つ目は佐藤守氏が現役戦闘機パイロット時代のエピソードで、佐藤守氏が視力が悪くてパイロットになれなかった下士官へ向けた言葉です。具体的に引用すると以下の通りです。



 金曜日か土曜日にしか飲めない環境だったので、ある金曜日に行われた飛行隊の送別会でしたたか飲んだ我々は、翌日の土曜日に出勤はしたものの、ほとんどダウン!という状況だった。フライトがない土曜日にはよく基地内の草刈が行われたものだが、この日はフライトルームの椅子に凭れて数人のパイロットが寝込んでいた。

 これを草刈を命じられて出かけようとした下士官(2曹)が見て、「よかな〜パイロットは。うまか飯と航空加俸バもろて、草刈ばさぼって寝ちょる!(いいな〜パイロットは。美味しい食事〈航空食〉と航空危険手当をもらっていながら、草刈をサボって寝ている。いいご身分ダ!)」と窓からのぞきながら言った。

 鎌を研ぎ草刈に出かけようとしていてこれを見た私は「貴様、今なんと言ったか!パイロットが旨い飯と危険手当もらうのが、そんなにうらやましいのなら、なぜ貴様はパイロットにならなかったのだ!」と問い詰めた。

 2曹は「目が悪かったけんパイロットにはなれんかった・・・」と言ったので、「目が悪くなったのは貴様自身のせいだろう。自分が努力もしないでパイロットになった他人を妬むモンじゃない!」と説教した。

 これを後で見ていた歴戦の勇士、柔剣道の名手で戦場で負傷して帰還した先任空曹が、「佐藤中尉殿が言われるとおり。○○2曹、謝れ!」と怒鳴った。

 そういわれると“だらしなく寝そべっている仲間の姿”に忸怩たるものを覚えないこともなかったが、我々は「ウイングマーク」を取るために、他人が遊んでいる時でも飲みまわっている時にも、ひたすら身体を鍛え、厳しく身を律して3年間過ごし、やっと一人前になった!という空中勤務者としての誇りがあったから、某2曹のみならず、地上勤務になった同期や幹部たちからこの種の「妬み」に耐え続けてきた。

 しかし、「いざ鎌倉」の時は間違いなく一番最初に日本海の藻屑になることは覚悟していた。そんな我々の気持ちも知らず、生意気言うな!と怒鳴り挙げた若い日のエピソードを思い出した。


この二つ目については、生まれつき乱視持ちのpr3氏が記事を書いています。実は私も乱視持ちなので、思いはほぼ同じですね…。

佐藤守氏のプライドについて。 - 黙然日記

先天的に目が悪い場合、自己責任とは言えませんし、後天的に目が悪くなった場合でも自己責任とは言い切れない場合もあります。航空自衛隊のパイロットが在職途中で目を悪くし、飛行資格が無くなるケースは意外と多く、中にはせっかく念願のパイロットになれたのに、勤務後僅か1年で急激に乱視が進行し、パイロットを続けらず、自分の夢を追えなくなったのならと除隊して牧師になったという人も居ます。(第二の人生の歩き方)…こういった元仲間に対しても、同じ様な言葉を向ける事は、果たして出来るのでしょうか。

また来年度から航空学生のパイロットになるために必要な「航空身体検査」の基準が緩和され、眼鏡やソフトコンタクトレンズの使用が許可(眼鏡はOKだった模様。ハードレンズやレーシック等の視力矯正手術は不許可)されるようになりましたが、それまでは裸眼視力1.0(近距離視力)が必要で、少しでも目を悪くするとパイロットにはなれませんでした。(注;遠距離裸眼視力は2004年に1.0以上が0.6以上に緩和、2006年に0.6以上が0.2以上に緩和)視力の基準緩和はここ数年の話。

もし自己責任の範囲で自分の目を悪くしたのだとしても、子供の頃に目を大事にしなかったのが原因である場合、その後にパイロットになりたいと思っても適う事が出来ません。努力で視力を劇的に回復することは困難であるのに、まだ幼い頃の自分の過ちを「自己責任だ、努力が足りない」と言われるのは酷な話です。生まれつき目が悪かったpr3氏でなくても、目の悪い人にとって佐藤守氏の発言は辛い言葉だった筈です。下士官の発言は上官に対して許されるものでは無いし、下品な揶揄ではありました。ですが、佐藤守氏の説教はとても残酷なものであり、二日酔いで寝込んで草刈をサボった事を合わせても、決して自慢して話すような過去の武勇伝ではない筈です。見苦しいものと自覚できないのでしょうか。


なおpr3氏のブログは見たところ産経新聞批判記事がズラッと並んでおり、産経批判に特化したブログのようです。それならば「信頼する“産経”にしては」という箇所に激しくツッコミを入れたいところでしょうに、それをやってしまえば視力に関する話が薄れてしまうので、手を引いているのでしょう。産経批判に特化しているブログだからこそ、このテーマで論争を行えば泥沼になってしまいます。

それでは、私がこれを取上げます。産経新聞は信頼に値する新聞であるかどうか、軍事的な分野から話をすれば軍事関係者にも理解して貰い易いと思います。

はっきり言ってしまえば産経新聞の軍事記事は、主要紙の中でも最も信頼する事が出来ません。あくまで比較対象としての問題ですが。産経新聞は基本的な軍事知識の欠如が原因の間違いに加え、煽りや誇張、都合の悪い事実の隠蔽など、かなり困った事を仕出かしています。

「ロシア太平洋艦隊は増強されておらず、中国海軍を恐れているわけではない」「産経新聞の野口裕之記者によるMLRSデマ報道」
「エムデンの艦載ヘリが海賊船を追い払ったわけではありません」
「エムデン報道で京都新聞に劣る産経新聞の姿勢」

今年の記事だけでもこんな感じで、他の新聞と比較してみても、産経新聞より朝日新聞の方が質が高いです。恐らく主要紙の中で軍事記事が質・量ともに一番なのは朝日新聞でしょうね。思想的な偏向はそれぞれの新聞社にあって当然で、新聞として優秀かどうかは正確な記事を早く提供する事、そして特ダネ記事が提供できるなら尚良しなのですが、特ダネについてはそうそう期待するものではありませんから、基本的な事項、「正確に速く報じる」事に新聞としての価値が見出せる筈です。その意味で産経新聞はあまり信頼する事が出来ません。同じ保守系の読売新聞は間違いは少ないのですが軍事記事自体が少なく、熱心に軍事記事を上げている産経新聞の努力は結構なのですが、出鱈目を流す頻度も高く、頭が痛い話です。

佐藤守氏のような元自衛官が産経新聞を愛読する気持ちは分かります。冷戦時代はマスコミの自衛隊叩きは今よりももっと激しく、袋叩きといってよいものでした。その中で唯一、積極的に自衛隊を擁護してくれる産経新聞の存在を好ましく思うのはある意味、当然かもしれません。ですがそれと「記事内容が信頼できるかどうか」は全く別問題です。それとも、「自分にとって心地良い記事が掲載されている安心感」を「信頼する」という意味で言っているのでしょうか。だとしたらそれはあまりにも軽い言葉に思えます。
20時42分 | 固定リンク | Comment (224) | 平和 |
2008年10月19日
もはや軍事マニアの間では説明する必要も無いかもしれない、生半可な軍事サイトよりも超詳しい反戦平和団体の軍港ウォッチ集団RIMPEACE「追跡!在日米軍」』より、横須賀港へのオハイオ入港の記事を紹介します。


原潜オハイオ、横須賀基地に寄港(08.10.16)
弾道核ミサイル24発を搭載していたオハイオ他の4隻は、対地トマホーク搭載・特殊部隊輸送の2つの任務に特化した原潜に生まれ変わった。2007年会計年度から2008年会計年度にかけて、4隻の改造が完了するスケジュールだ。
SSGNという名前になったオハイオ(SSGN726)は、改造第1号として太平洋艦隊に配属され、2007年10月にブレマートンから出港した。運用は3ヶ月に一度クルーの交代をする2クルー制で、3回の交代を予定している。計算上は、横須賀が1年間の航海の最後に近い寄港地となる。

搭載可能な対地攻撃用トマホークは最大154発だが、特殊部隊用の装備・ドライデッキ・シェルターを2つつけると、トマホーク搭載数は126発となる。

トマホーク発射と特殊部隊運搬の機能だけを図体のでかい元戦略原潜に持たせるのと、攻撃型原潜を数隻運用するのとどちらがいいのか、という議論が米軍内にもあるようだ。(Norman Polmar氏, Ships and Aircraft of the U.S. Fleet)
しかし、トマホーク最大154発を積んで海中に潜むオハイオのような艦が居ることは、「見えない砲艦外交」の最たるものだろう。


これは単純に日本語で出ている書籍やサイトを調べただけでは把握しきれない情報量で、彼らはアメリカ軍の公式発表など、英語の資料をきちんと把握している事が見て取れます。並みの軍事マニアよりもよほど詳しいですね・・・凄く感心する所なのですが、なぜこの手の反戦平和団体はこういった正確な情報を共有できないんでしょう、そこが何時も不思議です。


原潜オハイオからDDS取り外し(08.10.17)
2つのDDSのうちの一つが、寄港翌日の17日には原潜から外されて、12号バースに降ろされていた。DDSの取り外し、取り付けはクレーン一つで比較的簡単にできるようだが、外したあとの処理が気になる。
単なる点検のためとも思えない。DDSを横須賀基地に保管しておくという可能性もある。その場合はDDSを必要なときに必要な原潜に取り付けることで、特殊部隊の出撃基地の役割を横須賀が果たすことにも通じる。
いずれ出て行くはずのオハイオが、DDSを来た時と同じ2つ背負って出るのか、チェックが必要だろう。


この着眼点も非常に鋭いです。そしてこの発想は、DDS(ドライ・デッキ・シェルター)が一体何なのか、何のために取り外しているのか、兵器の使用目的を十分に理解していなければ、決して思い浮かばないでしょう。兵器の事についての知識が無ければ、それに反対する事も出来ないという良い見本です。医者が病気について詳しいように、反戦平和を訴える者こそ、兵器についての正しい知識が要求されるのだと思います。このリムピースと「長崎県平和委員会」「長崎港ウォッチング」はそれを実践している数少ない反戦平和団体だと思います。

なおオハイオは今年の2月に韓国の釜山港に入港していますが、この時はDDSを左舷側に1基のみ搭載していました。この時は入港時と出港時で搭載数の変化は有りませんでした。接岸中、DDS内部に収納する小型潜水艇SDV(SEAL Delivery Vehicle)を引き出して一般公開されていました。

USS Ohio SSGN 726 Docks In Busan, South Korea:Photo from Reuters Pictures

そしてオハイオはこれとは別にASDS(Advanced SEAL Delivery System)という潜水艇を装備する事が出来ます。これは読んで字の如くSDVが進化したもので、DDS無しで直接潜水艦とドッキングする小型潜水艇です。

ASDS(Advanced SEAL Delivery System):GlobalSecurity.org

SEALとは海軍の特殊部隊のことで、水中破壊工作部隊です。SDVやASDSはSEALを運搬する小型潜水艇ですが、SDVはオープン式で耐圧乗員区画が無く、兵士個人がスキューバを装着して水の中で搭乗する水中スクーターであり、海水温が低い場合には使えない為、密閉耐圧区画に搭乗するASDSが開発されました。つまり北朝鮮沿岸で冬季の特殊作戦を想定する場合、DDSとSDVの組み合わせは不向きです。それを考えると、今回オハイオがASDSを積んでいなかったのは戦争が近いわけではない証なのかもしれませんが、DDSにしろASDSにしろ、普通の貨物船でも輸送する事はできるので、別個に基地に運んで港でドッキング、あるいはASDSなら自走させて沖合いでドッキングさせる事もできるので、監視にも限界があります。

勿論、アメリカ軍もリムピースの動向は注視している筈です。ただ単に反対運動をしているだけの平和団体は軍隊にとって無害ですが、動向を一々チェックされる事は偵察行為に該当するので、それは敵国のスパイ行為と意味合いとしては変わらないからです。
23時59分 | 固定リンク | Comment (125) | 平和 |
2008年10月17日
巡航ミサイル原潜「オハイオ」が横須賀港に入港しています。元は弾道ミサイルを搭載する戦略原潜だったのですが、ロシアとの核軍縮条約START2で戦略原潜を削減する事になり、オハイオ級全18隻の内4隻からトライデント弾道ミサイル24発を撤去し、代わりにトマホーク巡航ミサイル154発を搭載する改装を施しています。

入港当初は反戦団体による抗議行動はありませんでしたが、今日になって行われています。それと同時に「詳しい専門家」が「非常に頓珍漢」な懸念を語っているのですが・・・


『オハイオ』横須賀基地入港 常態化に不安の声 市民団体、きょう抗議行動:東京新聞
米軍の戦略に詳しい特定非営利活動法人(NPO法人)「ピースデポ」特別顧問の梅林宏道氏は「オハイオは外見上、改装前の核搭載型との見分けがつきにくい。ミサイル発射の際、核攻撃を受けたと誤解した相手国が、核で報復する可能性もある」と懸念する。


正に杞憂です。そういう可能性は一切、無いです。だから全く気にしなくても構いません。というのも、そもそも弾道ミサイル搭載型のオハイオ級戦略原潜は、常時アメリカ本土近海に潜んで核パトロールを行っているからです。搭載する核弾道ミサイル「トライデントD5」は最大射程11000kmに達し、敵国に近寄って撃つ必要がありません。自国付近の安全な海域に潜んでいながらにして、ロシアだろうが中国だろうが主要仮想敵国の何処へでも攻撃する事が出来ます。

これに対し巡航ミサイルに積み替えた改オハイオ級は、搭載するトマホーク巡航ミサイルの中でも最新のタクティカル・トマホークで最大射程3000kmなので、ある程度は敵国の近海に向けて進出していないと攻撃する事が出来ません。つまり両者は活動領域が全く異なります。

それに「ミサイル発射の際、核攻撃を受けたと誤解」するという状況って、どんな場合を想定しているんでしょうか。戦略原潜は核弾道ミサイルしか積んでいないから戦略原潜からミサイルが発射されたら核攻撃だ、此処までは正しいとします。ですが、発射されたミサイルが何処へ向かうかも分からない状態で自国への攻撃だとどうやって断定するんです? 例えば、自国付近に潜んでいた敵潜水艦から放たれたから自国への攻撃だ、と認識する気なら、既に説明したとおり、長射程の弾道ミサイルを搭載する戦略原潜はそもそも敵国へ接近する必要がありません。

それに、発射されたミサイルが弾道ミサイルなのか巡航ミサイルなのか、誤認することは先ず有り得ないことです。自国への攻撃かどうか判断する為にはレーダー等の情報を見て判断するわけで、梅林宏道氏が懸念するような事態は、どのように想定しても発生する筈が無い話です。「改オハイオ級から発射された巡航ミサイルを弾道ミサイルと誤認して自国への核攻撃だと判断、核報復を行う」だなんて、そんな馬鹿げた話は漫画や小説でも採用できません。

このような方が「米軍の戦略に詳しい」と紹介されるだなんて、片腹痛いですね・・・。
21時14分 | 固定リンク | Comment (147) | 平和 |
2008年10月09日
ヨコスカ平和船団とはアメリカの軍艦に対する海上抗議活動を行うグループです。「私達の海を軍隊から取り戻す」と宣言するも、これまでアメリカ艦艇以外への抗議実績が殆ど無く、その点を批判されて頭を悩ませているご様子なのですが・・・


[AML 21553] ikeda kayoko なる人物への反論
私達はあらゆる核や戦争・軍事行動に反対し、平和を求めて行動することを望んでいます。中国・北朝鮮・韓国・ロシア等の国にたいしても同じ姿勢です。しかし、私達は海の好きな市民による小さな集まりです。働きながら船を出していますのでその行動には自ずと限界があり、優先順位があります。こうした事実を知りながら他の国の軍艦には反対しない、と難癖を付けるのは平和船団に対する妨害が目的だからでしょう。

1、平和船団のホームページは過去2年間「ネット右翼」の攻撃を受けてきました。掲示板を占拠し、言いたい放題荒らしまわっていましたので削除しました。彼らの表現によれば「炎上」したそうです。ところがその掲示板を勝手に捏造し、虚偽の「ヨコスカ平和船団掲示板」をインターネットで流していたことが最近判明しました。驚くべき反社会的犯罪です。(サービス会社に削除を依頼しています)
ikeda kayoko なる人物と虚偽の「ヨコスカ平和船団掲示板」を捏造し、妨害をしていた人物が同一犯とは断言しませんが間違いないでしょう。

2、虚偽の「ヨコスカ平和船団掲示板」には「朝鮮の船が来たときは民族衣装で歓迎する軍団が出現よく見るとあれ?以前抗議してた奴が歓迎してるじゃないか!」とのでっちあげがあちこちで書かれていますが、どんな証拠があってそうしたデマを流しているのか?嘘も100回言えば真実になる、とでも思っているのでしょうか?

3、AML 21249] Re: ヨコスカ平和船団からのお知らせ。 の中で「ところで、彼らの活動資金はどこから出ているのか知ってたら教えてください。」と書いていますが運営資金は船の所有者による自腹と身内からの小額カンパです。悪意ある勘ぐりは止めてください。

4、ikeda kayoko なる人物は真面目に話をしたいなら、Amlに対して妨害行為を止めなさい。そうでないなら出て行きなさい。


「中国・北朝鮮・韓国・ロシア等の国に対しても同じ姿勢」と言いながら「優先順位があります」と言い訳するのは、矛盾しているような・・・舞鶴港では共産党系市民団体がロシア軍艦にも抗議活動を行っており、舞鶴で出来て横須賀で出来ない、という根拠が今一よくわかりません。

参考:「舞鶴港にロシア艦艇来訪、反戦団体は抗議運動を実施」

例えば昨年は核保有国のインド海軍艦艇やパキスタン海軍艦艇が横須賀に入港していますので(パキスタン海軍は晴海港でした、訂正)、抗議活動を行う絶好のチャンスだったと思います。ロシア海軍艦艇も数年おきに来ていますし、今後は中国海軍艦艇の来訪も増えると思います。

>虚偽の「ヨコスカ平和船団掲示板」

それはこの掲示板の事でしょうか?

http://9007.teacup.com/omusubimaru/bbs

しかしこの掲示板は間違いなく、正規の「ヨコスカ平和船団掲示板」の筈です。

http://homepage1.nifty.com/heiwasendan/の2006年9月11日 23:42に記録された魚拓

2年前、「ヨコスカ平和船団」TOPページ最後に掲示板へのリンクがあり、URLが上記の掲示板のものと同一です。つまり、管理者が掲示板のリンクを外して放置しただけであり、掲示板自体は正規の物のままです。誰かの捏造や虚偽ではありません。

>同一犯とは断言しませんが間違いないでしょう。

「断言しません」と「間違いないでしょう」が同時に存在する意味不明な文章です。落ち着いて冷静になりましょう。既に述べたとおり、誰が犯人でもありません。それとも掲示板の削除を正当化するための工作活動ですか。・・・ではないでしょうね、それをやる気ならもっと早くやっている筈ですから・・・素で忘れてましたね? リンクを外して放置していた事を。


とはいえ、この「ikeda kayoko」なる人物は私も被害に遭っており、勝手に記事を引用リンク無しで使われてしまった事がありました。

[AML 19494] 岩国まで行って自分の目で確かめた上で間違えた人

元記事:「岩国まで行って自分の目で確かめた上で間違えた人」

この点については私も強く抗議しますので、「ikeda kayoko」さんは当ブログコメント欄で改めて転載許可願いを出して下さい。事後承諾で許可を出す用意がありますので、名乗り出てください。(本人が名乗り出られましたので許可を出しました)
23時31分 | 固定リンク | Comment (190) | 平和 |
先月30日、ロシア海軍ウダロイ級大型対潜艦「アドミラル・パンテレーエフ」とゴルイン級救助タグボート「SB-522」が舞鶴港に入港しています。

この話、全然気付かなかったですよ・・・海上自衛隊のサイトをちゃんとチェックしておくべきでした。しかし最近の新着情報が「今日のレシピ」ばかりで見るのを忘れていました。でもロシア紙を見ている最中に気付く事も出来ていた筈ですし、10/2にCRSさんが京都旅行している最中に「ロシア海軍歩兵と出会った!!!」という話を聞いた時に「舞鶴にロシア艦が来ている???」と発想すべきでしたね・・・全国紙も気付いてなかったようで、地元紙のみが報道しています。

ロシア大型哨戒艦、舞鶴入港 捜索救難共同訓練参加へ:京都新聞 2008年9月30日

なお反戦団体による寄港反対運動が行われていました。アメリカ艦以外にも行動する事で、きちんと筋は通した模様です。


ロシア軍艦入港に抗議 舞鶴4団体:京都民報 2008年9月30日
ロシア海軍大型対潜哨戒艦「アドミラル・パンテレーエフ」の入港に際し、舞鶴平和委員会など4団体は30日、同市前島ふ頭で入港に対する抗議を行い、約30人が参加しました。

呼びかけたのは同会のほか、舞鶴地労協、新日本婦人の会舞鶴支部、舞鶴原水協です。
4団体は、「今回の入港は親善・友好を目的にしているが、他国(グルジア)に侵攻する国の武器を搭載した軍艦は目的の主旨にふさわしくなく、入港は許せない」と表明。

メンバーは、入港してくる同艦に向かって「入港反対」「舞鶴港に外国軍艦はいらない」「軍艦より貿易船の入港を。平和の港にしよう」などと声を上げました。


抗議した4団体の全てが共産党系で、京都民報も共産党系です。舞鶴原水協は「パンテレーエフには対潜核爆雷が搭載されている!」とか抗議したんでしょうか。詳細は出ていないのが残念です。取り合えず、ロシア海軍は非核証明書などは提出していない模様。

なおパンテレーエフは2年前にも舞鶴港を訪れています。その時も抗議行動はありました。抗議理由は「外国軍艦の入港を拒否」、「核兵器を積載をしていない保証」が無いというもの。

ロシア海軍艦船 舞鶴入港拒否せよ:京都民報 2006年9月29日

この2年前でも京都民報は抗議運動の事を中心に取上げていますが(身内の活動なんだから当然ですが)、京都新聞の方はそうでもなかったようです(今年の記事は数行の言及あり)。


京都新聞 2006年10月4日(水)

ロシアの大型対潜艦を一般公開 舞鶴、海自北吸岸壁 市民ら1400人

ロシア海軍の艦艇として初めて舞鶴港に入港した大型対潜艦など2隻が3、4日の2日間、接岸中の海上自衛隊北吸岸壁(京都府舞鶴市北吸)で市民らに一般公開された。公開は1日2時間だけだったが、「珍しいロシアの軍艦を見たい」と市内や京都、大阪方面から2日間で約1400人が訪れ、岸壁には乗船を待つ人の長い列ができた。

公開されたのは大型対潜艦「アドミラル・パンテレーエフ」(7、300トン)と小型ミサイル艇。見学者は、乗組員の案内で対潜ミサイルなどが装備された対潜艦の甲板上を見学。「いつごろできた船か」などと質問したり、乗組員と記念撮影する市民もいた。

また乗船場所の岸壁では、乗組員のバンドがロシア民謡や「ふるさと」など日本の曲を演奏したり合唱。見事なダンスも披露して拍手を浴びた。

計4隻入港したロシアの艦艇は6日朝に出港。同日、若狭湾沖で海自隊と合同の捜索・救難訓練を行った後、帰国する。


こうしてみると、2006年も2008年も全国紙はロシア艦艇の来航を記事にせず、地元紙の京都新聞は記事にしているものの(京都新聞は左翼系にも関わらず)抗議運動にはあまり力を入れて紹介しておらず、熱心に記事を組んでいるのは活動家の身内の機関紙だけ・・・これではあんまりですので、全国紙もロシア艦艇の来訪を取上げて欲しいです。

それにしても、東京の晴海港や神奈川県の横須賀港に外国の軍艦、それも核保有国の軍艦が来た時には何も抗議運動が無かったのに(アメリカ艦除く)、京都の舞鶴港ではアメリカ艦にもロシア艦にも抗議行動が為されています。この差は一体、どうしたものでしょう。これまで晴海や横須賀には、インド、パキスタン、中国、フランス、イギリス、ロシアといった核保有国の外国の軍艦が来ていますが、特に抗議活動はありませんでした。しかし舞鶴で出来るなら、晴海でも出来そうなものなんですが・・・
03時51分 | 固定リンク | Comment (37) | 平和 |
2008年09月20日
伊勢崎賢治氏はアフガニスタンでのDDR(武装解除・動員解除・社会復帰)で大きな功績を上げた人です。NGOや国連職員として世界各地の紛争処理に携わり、「紛争屋」を自称しています。しかし武装解除で兵器と関わっている割には基本的な軍事知識での誤解(インド洋給油)も見受けられ、また現地武装勢力への異常な肩入れをしている様子は、首を傾げざるをえません。


緊急集会「ペシャワール会・伊藤さんの死を問う」−JanJan
◆伊勢崎賢治(軍閥武装解除の国連ミッションを担当した):
 犯人はタリバンではない。タリバンは社会運動。伊藤さん殺害は政治的犯行ではない。事故の意味あいが強い。私はアフガニスタン大使館にいた時から中村さんを畏敬の念で見ていた。「ペシャワール会」の情報収集力は在外公館が束になってかかってもかなわない。そこがやられたのだから事故です。


この部分だけを読んでも、伊勢崎氏の言いたい事が全く理解できません。特に理解できない点が二つあります。

>タリバンは社会運動

言っている意味が分かりません。狭義のタリバーンがイスラム神学生だとして、これは広義のタリバーンを意味するのでしょうか。それとも概念的な思想や民族運動の事を指すのでしょうか。しかし伊藤さん拉致殺害事件で問題となるのは狭義の意味でも広義の意味でも無く「組織集団としてのタリバーン」の筈です。

そもそも「社会運動」だとして、それがどうしたんです? 例えば「共産主義は社会運動」だとして、それで共産主義過激派のゲリラ活動が許されるわけではありません。単にそれだけでは何の免罪符にもならないでしょう。

>「ペシャワール会」の情報収集力は在外公館が束になってかかってもかなわない。そこがやられたのだから事故です。

誘拐殺人事件を「事故」と言い張る感覚が全く理解できませんし、事故だとする根拠が無茶苦茶です。このような理屈が言えてしまうなら、こうも言えてしまう筈です。

『「CIA」の情報収集力は各国情報機関が束になってかかってもかなわない。そこがやられたのだから事故です』

CIAとてまるで万能ではないどころか、幾つもの失態を重ねてきた事は周知の通りです。ですがその情報収集能力は各国情報機関が束になって掛かってきても敵わない実力を有している事は事実です。ならばペシャワール会の情報収集能力が幾ら凄かろうと、それを過信してはいけない筈です。それなのに「そこがやられたのだから事故です」などという主張は非常に危ういものを感じます。そのような理屈は全く通らないし、そんな事で事件から何も教訓を活かそうとしなければ「事故」は何度でも連続して起こり得るでしょう。

また、「犯人はタリバンではない」と言い張る事にあまり意味があるとは思えません。タリバーンのムジャヒド広報官は「我々が拉致したのだから責任は我々にある」と伊藤さん殺害の責任を認めています。それ以外の声明でも繰り返し犯行の指示を認め、最終的な首謀者は自分達であると宣言しています。拉致殺害実行グループの首謀者と目されるアフマド容疑者を捕まえてみない事には事件の真相は分かりませんが、1つだけ言えることがあります。タリバーン自身が犯行を認めた以上、それが事前だろうが事後だろうが、タリバーンは伊藤さん殺害の責任を背負いました。仮に殺害犯がタリバーンとの関連性が薄かったとしても、タリバーンは"組織として"伊藤さんの殺害を肯定してしまったのです。その事を伊勢崎氏も中村哲医師も認めようとしていない気がします。


これは単なる事故。誰もペシャワール会を批判はできない|ビデオニュース・ドットコム
伊勢崎氏は、アフガニスタンで日本のNGOとしては群を抜いて実績も経験も豊富なペシャワール会のスタッフが、このような不幸な事件に巻き込まれたことを悔やむ一方で、今回の事件は単なる事故であり、これを理由にアフガンの人々に貢献するNGO活動を批判するようなことがあってはならないと語った。


「ペシャワール会を批判するな」、と言うのと同時に、「タリバーンを批判するな」、と言っているのに等しい異常な弁護の仕方(「今回の事件は単なる事故だ」)である事に、気付いているのか気付いていないのか・・・最初から確信的にやっている主張なのかも分かりません。「タリバンは社会運動」と言い出している事からも、タリバーンに何らかの幻想を抱いている可能性が高いです。タリバーンに対し自分の勝手な期待の押し付けを行っているのではないでしょうか。

何故、誘拐殺人事件を「事故」などと言えてしまうのでしょう。何故、殺害犯を非難しないのでしょう。何故、殺害を肯定したタリバーンを非難しないのでしょう。まるで理解できません。

果たして「タリバンは社会運動」とは、何を指すのでしょうか。


●中村哲氏の語るタリバン 2007.10.21(日) サンデー・モーニング TBS
中村医師) アフガン農民そのものが武装勢力であるということを皆忘れていると思います。で、しかもタリバン、タリバンというけれども、このタリバンというのは土着のいわば国粋主義運動である、ということは、アフガン農民なら誰でもがタリバン的な要素があるということ。テロリスト集団とひとまとめにして言われますけれども、実際には人々の心に訴えるなにものかを持っているわけで、殆どの民衆はそれを支持しているんですね」

治安回復のための戦闘、増える兵士と民間人の犠牲、その連鎖の中でアフガニスタンの状況は難しい局面を迎えています。

関口) 中村さんがおっしゃるようにタリバンがテロリストを指すものという狭い捕らえ方ではなくて、タリバンってもっと沢山いるということでしょう、全部がテロリストじゃありませんよと。

伊勢崎賢治 東京外大教授) 違いますね、特に南東部では、中村先生がおっしゃったことはまったく真実でありまして、タリバンというのは裾野が大きいんですよね。
だから、南東部のパシュトゥン族の地域では全員タリバンといっても過言ではないですよね。


1年前、中村哲医師も伊勢崎氏も、広義のタリバーンを徹底的に拡大解釈し「あれもタリバンこれもタリバン」とタリバーンは草の根的にアフガン民衆に根付いている、「南東部は全員タリバンだ」とまで伊勢崎氏は言っています。そして中村哲医師の言う「土着のいわば国粋主義運動」というのが伊勢崎氏の言う「社会運動」なのでしょう。これで大体、分かりました。彼らの言う「広義のタリバーン」とはパシュトゥン民族運動とタリバーンをゴチャ混ぜにしています。


<アフガン拉致殺害>中村医師が遺体検分 悲しみこらえ|毎日新聞 8月28日
反政府武装勢力のタリバン報道官を名乗る人物が、犯行を認めていることについて、中村さんは「拉致グループはタリバンではない。タリバンがこんなことをするはずがない」と話した。

「我々が言うタリバンとは、マドラサ(イスラム神学校)でちゃんと教育を受けた、礼儀と道理を身につけた者を言う。しかし、9・11(01年の米同時多発テロ)後、偽タリバンが増えた。彼らは本当のタリバンではない」

タリバンが拠点とするアフガンとパキスタン国境地域で、ハンセン病治療や井戸掘りなどを20年以上続けてきた。国際的な非難を浴び孤立するタリバンとその母体のパシュトゥン民族を支え、タリバン側からも一定の理解を得ていると自負してきた中村さんの、タリバンへの「最後のメッセージ」にも聞こえた。【カブール栗田慎一】


栗田慎一;「国際的な非難を浴び孤立するタリバンとその母体のパシュトゥン民族を支え、タリバン側からも一定の理解を得ていると自負してきた中村さんの、タリバンへの「最後のメッセージ」にも聞こえた。」

アフガニスタンは人口構成の45%をパシュトゥン人が占めますが、タジク人は32%を占めており、他にハザラ人やウズベク人、少数ですがトルクメン人もいる多民族国家です。だからパシュトゥン人の事だけを支えた所で、アフガニスタン全体のことを支えている事にはなりません。中村哲医師や伊勢崎氏の主張は、パシュトゥン以外の他民族の事を考慮するものがあまり見受けられません。

中村哲;「我々が言うタリバンとは、マドラサ(イスラム神学校)でちゃんと教育を受けた、礼儀と道理を身につけた者を言う。」

1年前は「あれもこれもタリバン」と言っていたのに、伊藤さんが殺害された途端に狭義の意味に限定してくるのは、あまりにいい加減すぎると言うか・・・しかし結局、「伊藤さん誘拐犯は純タリバーンと判明」することになり、中村医師の苦しい主張は破綻します。

中村哲医師は「(タリバーンは)人々の心に訴えるなにものかを持っているわけで、殆どの民衆はそれを支持している」という主張は、タリバーンを美化し過ぎている嫌いがあります。中村哲医師に心酔している様子の伊勢崎賢治教授にも同じことが言えます。タリバーン寄りの立場で主張する、それ自体は問題がありませんが、おかしな理屈を振り翳してまで擁護する事は決してアフガニスタンの民衆の為にはならない筈です。
09時38分 | 固定リンク | Comment (177) | 平和 |
2008年09月16日
伊勢崎賢治『日本の国際協力に「武力」はどこまで必要か』の書評から。


『日本の国際協力に「武力」はどこまで必要か』を読んで|JANJAN
多くを紹介できないが、そのなかで日本の自衛隊が現在も行っているインド洋での給油活動について伊勢崎氏の考えを紹介したい。

――「はっきり言ってしまうと、給油活動はどうでもいい。役に立っている、たっていないは不毛の議論。役に立っていてあたり前。タダで油をあげているのですから」――。「給油活動は日本にしかできない、また軍事組織にしかできない活動であるかどうかです。民間業者でもできる。軍事活動のあらゆる分野が、どんどん民営化しているご時世・・・。こういう兵站(へいたん)分野は、その極みです――。だとしたら、こういう国際作戦に『官軍』を出す意義とは何なのか。――民間に任せれば回避できるリスクを、わざわざ背負おうとする動機は何なのか」――。


軍事的な観点から言わせて貰うと、『民間業者』では洋上給油活動は無理です。何故なら、『民間業者』は洋上給油可能な船舶を保有していないからです。洋上給油を行うにはスパンワイヤー装置といった専用設備が必要です。単なるタンカーをインド洋に送り込むだけでは何の役にも立ちません。内湾なら停船して補給も出来るかもしれませんが、波の高い外洋でお互いが停止した上での給油作業は大きな危険を伴いますし、洋上で停止した場合、容易に襲撃される状況を自ら作り出してしまいます。

民間タンカーを洋上補給艦に改装した例はあります。例えば中国海軍はウクライナから購入した民間タンカー(をベースに建造される途中だった元ソ連海軍向け給油艦)「ウラジミール・ペレグードフ」を洋上給油可能な補給艦「青海湖(チンハイフー)」(当初の名称は「南倉(ナンチャン)」。命名基準の改正により変更)に改装しましたが、これに3年の月日を掛けています。つまり軍の手が全く掛からない『民間業者』に洋上給油活動を行わせようとすると、先ずタンカーの改装を行わなければなりません。そして洋上給油訓練を行い、ようやく現場に繰り出せます。つまり数年の準備期間を見て貰わないと無理です。単なる物資の輸送ならば民間企業の船と船員でも構いませんが、"洋上給油"とは単なる兵站の問題ではなく、設備的、技術的な問題が絡んできます。果たして『民間業者』がこのような手間隙を掛けてタンカーを改造し、船員を訓練してくれるでしょうか。タンカー改造の補給艦「青海湖」の乗組員定数は125名ですが、これは民間タンカーの定数の5〜6倍の人員が必要である事を意味します。これ等は通常の業務であるタンカーの原油輸送には全く必要のないものであって、軍隊相手にしか顧客が居ません。

その事はアメリカ軍も良く分かっています。実は軍の補給艦を民間船員で動かす、というやり方をアメリカ軍が行っています。アメリカ輸送軍(USTRANSCOM)の指揮下にある海上輸送司令部(MSC)は、海軍から移管した船や民間チャーター船で兵站業務を行いますが、船の運用は一部の士官以外は民間船員で行います。サプライ級高速補給艦やヘンリー・J・カイザー級給油艦もMSC配下です。また兵站業務以外の海洋観測艦や弾道ミサイル追跡艦などもMSC配下で、これ等のような前線に出ない補助船舶は民間船員で動かすようになっています。

ですが単に物資を輸送するだけの船や事前集積船などはチャーター船で事が済みますが、洋上補給艦やミサイル追跡艦などは『民間業者』が持っているわけが無いので、海軍からMSCが譲り受けてMSC所属艦となり、民間船員を雇って運用しています。

伊勢崎氏の言う「兵站は民間に任せるようになってきている」という主張は大筋では正しいのですが、それは輸送トラックや輸送船、輸送機の話であって、民間業者が保有していない洋上補給艦などの運用は、アメリカ軍の運用形態のようなやり方が限度です。MSC所属という事はアメリカ輸送"軍"所属であり、結局は軍隊の船という事になります。現にMSC配下のサプライ級高速補給艦がインド洋で給油活動をしていたら、いくら船員の殆どが民間船員だといっても、政治的にも軍事的にもマスコミ的にも「アメリカ軍の補給艦」としか認識されません。

恐らく伊勢崎氏はMSC(海上輸送司令部)の運用を念頭に「民間業者でもできる」と主張したのではありません。輸送軍の船である以上、伊勢崎氏の持論である「官の手に拠らない、民間業者による民間支援」では無いからです。つまり単純に民間タンカーでそのまま洋上補給が出来ると勘違いしているのしょう。

もっと言ってしまえば、給油対象が他国の軍艦である以上、給油する側が仮に民間船であろうと「軍隊に協力している」事実に変わりはありません。このケースは民間に任せれば回避できるリスクでは無い筈です。

これと同じ間違いを犯した「軍事評論家」を一人、知っています。・・・神浦元彰さんです。J-Wing2007年10月号の連載コラム「オレに言わせろ!」(P.58)で、テーマ「テロ特措法延長反対は国際社会への裏切りか?」で記事内容にこうありました。

「日本が民間タンカーをチャータし、洋上で多国籍軍に給油や給水を行う」

まさかと思いますが伊勢崎さん、これを真に受けたんじゃ無いでしょうね・・・。
23時56分 | 固定リンク | Comment (144) | 平和 |
2008年09月15日
アフガニスタンでペシャワール会の伊藤和也さんがタリバーンに拉致、殺害された事件で、殺害された責任を殺害犯タリバーンよりも他者へ責任転嫁する動きが幾つか見受けられます。


アフガンで拉致された伊藤さんは誰に殺されたのか|菅原出
しかし、今回の警察部隊の行動は人質の存在を無視したものとしか思えない。海上保安庁特殊部隊SST元隊長の坂本新一氏は、「これは法執行機関が行う人質救出作戦ではなくて、軍隊のゲリラ掃討作戦ですね。しかも軍隊の訓練もまともに受けていないような民兵がやるような稚拙な対ゲリラ作戦のような荒っぽい手法です。あんなふうに攻めてきたら犯行グループは足手まといになってしまうので人質を殺害してしまうでしょうね」と述べている。


やはり疑っていた通りか! 伊藤さんを救うことはできたハズなのに・・・|シバレイのblog
それなのに、なぜ定石を無視して、現地治安当局は銃撃戦など始めたのか。やはり人命よりも対テロ戦争=反抗分子の根絶を優先した、米軍のやり方が現地治安当局の行動にも表れているように感じる。或いは、あえて「人命優先」を現場指揮官に厳命しなかったのだろうか?疑問は深まるばかりだ。日本政府ももっと強く「犯人逮捕よりも、まずは人命優先こそ重要」とアフガニスタン当局に働きかけるべきだったのではないか?


この人達は、アフガン警察が銃撃戦を行ったから伊藤さんは死んでしまった、アフガン警察の稚拙なやり方が問題だったと言いたいのでしょうが、一つ重大な事を忘れてしまっています。現地住民が自分達のライフルを手に取り、勝手に犯人を追って山狩りを始めてしまった事を。その数は数百名以上に達し、アフガン警察の投入した数を大きく上回っていました。

この話だけを見れば美談です。伊藤さんとペシャワール会がどれだけ現地の人に慕われていたかを示しています。ですが彼らは武装し、碌な統制が取れぬまま犯人を追い立てていきました。人質救出作戦を遂行する上で、現地住民の取った勝手な行動はマイナス要因でしかありません。100%善意の行動である事は分かります、ですがこれでは警察はまともな作戦が立てられなくなります。単純に追い駆けて撃ち合う羽目になったのは、当然の成り行きでした。警察が発砲しなくても民衆が発砲するのは時間の問題でしかありません。

実はこれと同じ様な状況が、ロシアの北オセチア・ベスラン学校占拠事件で起こっています。

ベスラン学校占拠事件 - Wikipedia

この大量人質立て篭もり事件は、人質となった子供を心配する親がライフルを手に持って大勢集まり、ロシア治安当局の制止を振りきって勝手に銃撃戦を行う事例が何度となく起こりました。そしてこれはロシア治安当局の強行突入の引き金となったという説があります。また群衆に紛れて脱出しようとした誘拐テロリストの何人かを、群集はこれを捕まえて惨殺しました。感情は理解できますが、人質となった我が子を心配して集まった"武装した一般人"達の行動は、ロシア治安当局の人質救出作戦を妨害するものでしかありませんでした。


わが子が中に…父親突入 決死の覚悟で「参戦」|2004/09/06 共同通信
【ベスラン(ロシア北オセチア共和国)6日共同】ロシア南部ベスランで起きた学校人質事件で、拘束されたわが子を救い出そうと、多くの父親が決死の覚悟で学校に突入、治安部隊の人質解放作戦を側面支援していたことが6日、分かった。“義勇軍”を組織して突入を強行し、命を落とした父親もいた。 地元の治安関係者によると、学校が占拠された1日、自分の子供が人質になったのを知り、居ても立ってもいられなくなった父親3人がカラシニコフ銃を片手に校舎に突進。しかし3人とも犯人に銃殺され、遺体は校庭に3日まで放置されていた。その後もわが子の安否を気にかけ、学校の周辺に集まる父親は増える一方。すきあらば警備網をかいくぐり、突入の機会を狙っていた。


話だけ見れば美談です。ですが「治安部隊の人質解放作戦を側面支援」していたとは、到底思えません。一般人の、統制の取れていない勝手な作戦行動が行われてしまえば、まともな救出作戦は出来なくなってしまいます。

だからこの話は美談にしてしまってはいけないのです。ベスラン学校占拠事件も、そして今回のアフガニスタン伊藤さん殺害事件も含めて、あらゆる人質誘拐事件で共通する事です。

ですが今現在、地元の大勢の民衆が伊藤さんを救おうとライフルを持ち立ち上がった事は、只の美談で済まされています。その一方でアフガン警察の不手際を責める声は上がっています。しかし勝手に山狩りを始めて犯人を追い立てた、武装した民衆を非難する声は聞こえてきません。再度言いましょう。

伊藤さんを慕っていた民衆が武器を持って犯人を追い立てた話を、単なる美談にしてしまってはいけません。そして警察の不手際を責める人は、警察を責める前にこの事を理解してください。警察の取れる作戦行動の選択幅を大幅に狭めたのは、善意の民衆であったという事を。


【追記】


アフガン邦人殺害:地元民1000人追跡 拉致から1時間、犯人らと銃撃戦
http://mainichi.jp/select/world/news/20080829dde041040049000c.html
>中村代表は「伊藤さんが地元の人々に慕われてきた証しだ。ただこの追跡で犯人たちがパニックに陥り、悪い結果になったのかもしれない」と唇をかんだ。

中村御大ですらこう言ってるのに。。。
この事件に関しては当初から数々の無茶な推論を展開してた御大ですが、この件に関しては現地を知ってるだけに、警察が・・・とは言い出さないみたいですね。


Posted by 名無しT72神信者 at 2008年09月16日 18:03:06


この毎日新聞の記事によると、犯人側との銃撃戦を最初に始めたのは武装住民と受け取れます。
22時42分 | 固定リンク | Comment (55) | 平和 |
2008年09月13日
タリバーンとはマドラサで学ぶイスラム神学生を意味するタリブの複数形です。武装勢力のタリバーンはこのイスラム神学生が中心でしたが、発足当初からそれ以外の勢力を取り込んでいたので、タリバーン(武装勢力)=タリバーン(神学生)ではありません。ここで言う"純タリバーン"とはタリバーン(神学生)の方を指します。


「殺すのか」伊藤さん何度も質問 アフガンで容疑者語る(1/2ページ)|朝日新聞
先月初めから学校の休暇で父親の出身地を1人で訪れ、事件前日の夕方、アフガン出身で同じマドラサに通うアフマドという男に偶然会い、犯行を持ちかけられた。

「殺すのか」伊藤さん何度も質問 アフガンで容疑者語る(2/2ページ)|朝日新聞
自分は単なる学生で(反政府勢力)タリバーンと関係はないが、アフマドがどこかの組織に関係しているかは知らない」と話した。


捕まったアディル・シャー容疑者の父親はソ連によるアフガン侵攻時にパキスタンに逃れたアフガン難民で、シャー容疑者は難民キャンプで生まれマドラサで学ぶ神学生となりました。つまり生粋の純タリバーン(イスラム神学生)という事になります。シャー容疑者の供述は逮捕後から二転三転しており(当初は「前日に伊藤さんを訪問」して下見を行っていた計画的犯行を供述)、信用性はあまりないのですが、出自に関して言えばパキスタン当局と確認が取れるのでほぼ確定しました。誘拐首謀者と目される逃走中のアフマド容疑者がタリバーン(武装組織)と何処まで関わり合いが深いかはまだはっきりとは分かりませんし(アフガン当局はタリバーン系組織の一員と発表)、アフガン当局が示唆する事件へのパキスタン情報部(ISI)の関与など、真相の解明にはまだ程遠いのですが、ほぼ事実と判明した「誘拐犯は純タリバーン」は衝撃でした。

マドラサの神学生による犯行となってしまうと、ペシャワール会の中村哲医師の主張が根底から崩れてしまいます。


<アフガン拉致殺害>中村医師が遺体検分 悲しみこらえ|毎日新聞 8月28日
反政府武装勢力のタリバン報道官を名乗る人物が、犯行を認めていることについて、中村さんは「拉致グループはタリバンではない。タリバンがこんなことをするはずがない」と話した。

「我々が言うタリバンとは、マドラサ(イスラム神学校)でちゃんと教育を受けた、礼儀と道理を身につけた者を言う。しかし、9・11(01年の米同時多発テロ)後、偽タリバンが増えた。彼らは本当のタリバンではない」

タリバンが拠点とするアフガンとパキスタン国境地域で、ハンセン病治療や井戸掘りなどを20年以上続けてきた。国際的な非難を浴び孤立するタリバンとその母体のパシュトゥン民族を支え、タリバン側からも一定の理解を得ていると自負してきた中村さんの、タリバンへの「最後のメッセージ」にも聞こえた。【カブール栗田慎一】


中村哲医師の言う「我々が言うタリバーン」の定義は言葉通りのタリバーン(神学生)であり、組織としてのタリバーン(武装勢力)を意味しません。しかし問題となるのは当然、組織としてのタリバーン(武装勢力)である筈です。組織としてのタリバーンは発足当初から様様な勢力を取り込んでおり、純タリバーンのみをタリバーンだとする中村哲医師の定義は、タリバーンを無理矢理に擁護する手段に過ぎませんでした。しかし皮肉にも、犯人はマドラサで学ぶ純タリバーンだったのです。

そしてこの事実は、マドラサがテロリストの温床となっている事を裏付けるものとなってしまいました。ペシャワール会がアフガン支援でマドラサの建設を進めている際にも出ていた批判です。

日本NGOがマドラサ建設 アフガンで「孤児のため」|中国新聞

【質問】マドラサの問題点は何か軍事板常板問題アフ【ガ】ーニスタンFAQ

現在アフガニスタンに展開中のアメリカ軍は、パキスタンへの越境攻撃を繰り返しています。その目標はタリバーンのテロリストキャンプとしてのマドラサでした。長距離砲撃(状況から見てGMLRSのM31単弾頭)と無人機による空爆を繰り返し、特殊部隊の越境侵入まで許可されています。


パキスタン:アフガン側から、またもミサイル 11人死亡|毎日新聞
パキスタン部族支配地域の北ワジリスタン管区のマドラサ(イスラム神学校)に8日、アフガニスタン側から飛来したミサイルが着弾。現地からの報道によると、少なくとも11人が死亡した。このマドラサは、アフガンの反政府勢力タリバン有力司令官のハッカーニ師が運営していたとされる。


対テロ戦争でタリバーンの拠点を潰す為にパキスタンへの越境攻撃を行う事は、アメリカでは以前から多くの人が提唱していました。その中には民主党の次期大統領候補バラク・オバマ氏が居ます。現政権が越境攻撃を実行し、対抗政党の次期大統領候補までもが越境攻撃を口にしている以上、マドラサへの攻撃は今後も止む事は無いでしょう。
15時47分 | 固定リンク | Comment (93) | 平和 |