このカテゴリ「平和」の記事一覧です。(全164件、20件毎表示)

2008年09月03日
本当はこのネタはすぐ記事にする予定だったのですが、グルジア戦争など大きな事件が立て続けに起こったので後回しにしていました。


防衛省 クラスター弾禁止に危機感 代替兵器 予算要求へ|赤旗 8月13日
日本は現在、(1)車両から発射する多連装ロケットシステム(MLRS)用のM26ロケット弾(2)戦闘機から投下するCBU87B(3)大砲から発射する155ミリ多目的りゅう弾(4)ヘリから発射する70ミリ対戦車ロケット弾―の四種類のクラスター弾を保有しています。防衛省は、このうち(1)(2)の代替として、子爆弾を持たない単弾頭型の爆弾を検討しています。


この情報は他の大手紙に先駆けて、日本共産党の機関紙である赤旗が報じています。実は赤旗は軍事関連の報道に力を入れており、思想面でのバイアスが掛かった内容を無視して事実関係に絞ってみれば、意外と正確で早かったりします。嘗ては90式戦車の試作車両をスクープするなど、敵国ソ連を利するスパイ行為まで働いていた赤旗は、動機は不純ですが力の入れ具合だけは本物です。とはいえ今回の記事内容は基本的に防衛省発表に基づくもので、大手紙も書こうと思えば書ける筈でした。しかし他には一切の反応が無く、情報の第2陣は北海道新聞でした。


道内配備のクラスター弾 単弾頭化研究へ 防衛省が概算要求|北海道新聞 8月26日
防衛省は二十五日、道内などに配備するクラスター(集束)弾の処分要領を策定し、来年度の概算要求に調査・研究費など数十億円を盛り込む方針を固めた。単純に廃棄するだけでなく、一部は単弾頭化して再利用することで、処分費用の圧縮につなげる。

特に真駒内と北千歳、上富良野の道内三駐屯地を含む全国五駐屯地に配備する多連装ロケットシステム(MLRS)は、六百個以上の子弾を内蔵、他のクラスター弾と比べ殺傷能力が著しく高いため処分技術の研究を優先し数年内に廃棄か単弾頭化する。処分プラント建設や海外企業への処分委託も検討する。


この数日後に毎日新聞が記事を書いています。


概算要求:防衛省がクラスター爆弾代替整備費など計上|毎日新聞 8月29日
防衛省は29日、09年度予算の概算要求の内容を決定した。クラスター爆弾禁止条約への署名を控え、陸上、航空両自衛隊が保有しているクラスター弾の廃棄方法の調査費2億円▽代替措置として、子爆弾をばらまかない単弾頭のロケット弾などの整備費73億円を計上した。


しんぶん赤旗は8月12日までの政府の方針を元に自力で取材した内容を肉付けした記事を書き、北海道新聞は8月25日までの情報で記事を書いています。毎日新聞は8月29日に政府が決定した内容を簡素に記事にしています。これを見ると赤旗の取材の力の入れ具合が分かります。一方、毎日新聞の記事はどの新聞でも書ける内容です。しかし報道すらしていない産経新聞や読売新聞は、この話題には興味そのものがあまり無いのでしょう。朝日新聞はWeb記事はありませんが30日付の紙面で載せています。軍事評論家の神浦元彰氏が自サイトで朝日新聞の該当記事を紹介しているので、それを更にこちらでも見てみましょう。


防衛省概算要求 クラスター弾対処に着手 調査費など計上(朝日 8月30日朝刊)|神浦元彰 最新情報8月分
代替兵器としては、陸自の5部隊に配備されている多連装ロケットシステム(MLRS)のクラスターロケット弾(子弾644個内蔵)は、子弾のない単弾頭のロケット弾を導入するために約57億円を計上。空自の戦闘機に搭載するクラスター爆弾(子弾202個内蔵)に換えて、精密誘導でピンポイント攻撃が可能なJDAM爆弾(レーザー誘導)を約17億円で導入する。


上の引用部分は朝日新聞の該当記事のところです。ちなみに神浦さんの解説部分がリンク先の8/30の後半にありますが、何時ものように間違いだらけなので気にしないで下さい。取り合えず朝日新聞記事の気になった点は・・・

>JDAM爆弾(レーザー誘導)

これ単純に「JDAM爆弾(GPS誘導)の間違いですよね、この記事を書いた朝日新聞の記者が中途半端な軍事知識しか持っておらず、精密誘導兵器=レーザー誘導と勘違いしたのだと思いますが・・・しかし逆にある程度の知識がある人はこの記述を見て深読みして勘違いするかもしれません。

「まさか空自はLJDAM(Laser JDAM)の導入を? 最新鋭機材じゃないか!」

実はGPS誘導のJDAMに更にレーザー誘導キットを取り付けて、GPS誘導もレーザー誘導も両方出来る「LJDAM」という物があります。逆にレーザー誘導爆弾のPavewayにGPSユニットを加えた「Enhanced Paveway」という物も有ります。とはいえ知る限り航空自衛隊にLJDAM導入の話は出て無いので、朝日新聞の記事が間違っているだけだと思います。

なおどうしてこのような物が作られているかと言うと、GPS誘導とレーザー誘導では一長一短があり、それを補う為に複合しているわけです。単純に点目標を狙うだけならどちらも出来ます。その場合は投下後に照準を行い続ける必要のあるレーザー誘導よりも、投下後は発射母機が自由に逃げる事の出来るGPS誘導のほうが有利です。しかしGPS誘導は移動目標の攻撃には向いていません。GPS誘導だけで移動目標を狙う場合、目標の未来位置を予測せねばなりませんが、レーザー誘導ならば目標が移動していても、単純にレーザー照射し続ければ当たります。また細かい箇所(建造物の窓など)を狙う場合もレーザー誘導の方が向いています。GPS誘導では座標を割り出す必要があり、建造物の座標は分かっても窓の座標を正確に把握するのは困難です。

航空自衛隊はレーザー誘導爆弾の導入をこれまで行っておらず、対地攻撃用の誘導爆弾はGPS誘導のJDAMだけでした。今回のクラスター爆弾廃棄の決定で、JDAMを更に導入するという決定だけのようです。レーザー誘導爆弾の導入を行う気が無いのは、命中までレーザー照射を続ける必要性があり、生存性が低くなるのを嫌っているようなのですが(他にGPS誘導爆弾の方が3分の1以下のコストで済むというのもある)、それならばGPS誘導の滑空爆弾や赤外線画像誘導の対地ミサイルの導入を図っても良いものなのですが、今回はそれらよりも陸上自衛隊のMLRSの弾薬を何とかするほうが先であると、見送られました。

新型普通爆弾(XGCS-2)|Missle&Arms

自衛隊は滑空式の精密誘導爆弾を既に研究しており、予算さえ付けば量産も可能なのですが、研究のみで終わっています。クラスター爆弾廃棄の決定でXGCS-2が復活するかとも思っていたのですが、そうはいきませんでした。

なおアメリカ軍の滑空誘導爆弾「AGM-154 JSOW」もそうですが、この種の誘導型滑空爆弾は1発数千万円のコストが掛かり、ミサイルよりは安いのですが、自由落下方式のレーザー誘導爆弾やGPS誘導爆弾よりは高いです。この辺りも導入が進まない理由の一つではあります。なおクラスター爆弾のコストはJDAMよりも安価でした。

>子弾のない単弾頭のロケット弾を導入する

MLRSについては、赤旗や北海道新聞、毎日新聞の情報を見ても分かるとおり、クラスター弾頭の単弾頭化を計画しています。しかし初期に導入していた弾薬は固体ロケットモーターの劣化も進んでいますから、あまり古いものは単弾頭に改造してもそうは持ちません。故に改造するのは調達年度の若い物で、古い物は廃棄していきます。

それならば単弾頭化と並行してGMLRSのM31ロケット弾を新規購入すべきなのですが、GMLRS計画は米英仏独伊の共同開発計画でそれぞれの国が出資金を出しており、計画に参加していない日本が購入しようとしても後回しにされてしまいます。またGPS誘導の為には座標データを弾頭に入力する必要があり、発射機の改修を必要とします。クラスター弾の廃棄決定も急な話だった事もあり、今はそれだけの予算が組めないので、取り合えず既存のM26クラスター・ロケット弾を単弾頭化することを優先になったようです。

陸上自衛隊もこれでは代替にならないことを分かっている筈です。単純な単弾頭化で無誘導ロケットのままでは、クラスター弾頭で無くなった事の差をカバーできないので、誘導タイプの単弾頭を調達する必要性は認識している筈です。しかしM31の導入の話はあまり出ない・・・以前、クラスター弾の規制が論じられる前の時点ではGMLRS導入の話はチラホラ出ていたのですが、最近は聞きません。

もしかすると暫くはM26の単弾頭化で凌ぎ、将来は国産の精密誘導ロケット(既に知能化弾システムの研究は為されている)を装備していく計画なのかもしれません。
21時48分 | 固定リンク | Comment (73) | 平和 |

2008年08月30日
というわけで昨日の続きです。


<アフガン拉致殺害>中村医師が遺体検分 悲しみこらえ|毎日新聞 8月28日
反政府武装勢力のタリバン報道官を名乗る人物が、犯行を認めていることについて、中村さんは「拉致グループはタリバンではない。タリバンがこんなことをするはずがない」と話した。

「我々が言うタリバンとは、マドラサ(イスラム神学校)でちゃんと教育を受けた、礼儀と道理を身につけた者を言う。しかし、9・11(01年の米同時多発テロ)後、偽タリバンが増えた。彼らは本当のタリバンではない」

タリバンが拠点とするアフガンとパキスタン国境地域で、ハンセン病治療や井戸掘りなどを20年以上続けてきた。国際的な非難を浴び孤立するタリバンとその母体のパシュトゥン民族を支え、タリバン側からも一定の理解を得ていると自負してきた中村さんの、タリバンへの「最後のメッセージ」にも聞こえた。【カブール栗田慎一】


例え拉致グループが中村哲医師の定義するタリバーンではなかったとしても、タリバーンの広報が犯行を認めてしまっている以上、拉致事件の責任はタリバーンが背負います。タリバーンは今回の事件に限らず、以前から外国人の拉致殺害事件を度々起こしています。昨年にも韓国人が集団で誘拐され、2名が殺されています。

2007年タリバン韓国人拉致事件 - Wikipedia

中村哲医師の言う「タリバンがこんなことをするはずがない」とは、「拉致事件を起こすようなタリバーンは真のタリバーンではない」という意味なのか、それとも「タリバーンがペシャワール会を狙う筈がない」という意味なのか・・・果たしてどちらなのでしょうか。

前者であるなら主張する意味がありません。タリバーン自身が犯行声明を出している以上、仮に実行犯がタリバーンと繋がりが薄かったとしても、タリバーンの命令により犯行が行われ、犯行結果についてタリバーンが責任を負うとタリバーン自身が認めてしまっているからです。「タリバーンがこんなことをしました」と自ら主張している以上、中村哲医師が幾ら「タリバンがこんなことをするはずがない」と連呼しても、そのような主張は通りません。後者であるならば、意味は通るのですが・・・どうしてペシャワール会だけが特別なのか、と問われた時に答えることが出来るのでしょうか?

また中村哲医師はタリバーンを言葉通りの意味である「イスラム神学生」に限定していますが、これは政治勢力・軍事勢力としてのタリバーンを意味しません。一時期、アフガニスタン国土の9割を掌握していたタリバーンが全員イスラム神学生でしたと思い込むのは間違いです。


タリバン構成員@アフガニスタン
タリバンの構成員は4種類に区分けされる

(1)アフガニスタン難民キャンプに育ち、 JUI (ジャマアティ・ウレマ・イスラーム)所属の神学生:パシュトゥン族
(2)パキスタン国内に住む旧ムジャヒディン(ソ連侵攻時代の聖戦士):パシュトゥン族、イスラーム諸国等からの義勇兵の残党
(3)身分を隠したパキスタン軍統合情報部所属の兵士:パキスタン人(本国の指示)
(4)オサマ・ビンラディン氏を慕うアラブ系義勇兵:アラブ人

なお、4系統を統一した組織や司令はなかった。そのため米英軍による、アフガニスタン侵攻(2001年10〜12月)で、敗戦が濃厚になってきた11月下旬には、サッサと脱走してしまい、総崩れになってしまった。


中村哲医師の定義に合致するのは(1)だけです。ですが内戦でアフガン諸勢力と戦う為に必要な戦力をイスラム神学生だけで動員できるはずもなく、義勇兵(イスラム聖戦士、ムジャヒディン)も多数参加し、パキスタンからの義勇兵の参加どころかパキスタン正規軍の直接介入(陸軍2個旅団と空軍戦力)による援護も受けて、それでも足りずに子供兵(チャイルドソルジャー)まで投入し、総力戦で北部同盟を追い詰めていきました。つまり中村哲医師の言う「9・11テロ後に偽タリバンが増えた」という指摘は少し的外れで、それ以前からずっとイスラム神学生以外の多くの人員も「勢力としてのタリバーン」の一翼を担って来たのです。それらの人達はマドラサに通っていなくてもタリバーンの一員であり、「偽タリバーン」扱いするのは失礼でしょう。また、タリバーンがビンラーディンとアルカイーダを招き入れたのは9・11テロ以前であり、テロ数ヶ月前の2001年2〜3月にはカンダハルやカブールでアフガン外部からのアラブ人がどっと増えている事が山本芳幸氏によって報告されています。

なお、中村哲医師はマドラサ(イスラム神学校)に通う純タリバーン(イスラム神学生)に相当な思い入れがあるようで、ペシャワール会はアフガン現地でマドラサの建設を進めています。NGOが学校を建設する例は多いのですが、非イスラームのNGOがマドラサを建設しようとしているのは、この例だけです。


日本NGOがマドラサ建設 アフガンで「孤児のため」|中国新聞
アフガニスタンとパキスタンで活動する福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」がアフガン東部ナンガルハル州シェワ地区で、イスラム神学校「マドラサ」の建設を進めている。旧政権タリバン幹部を養成し過激派の温床とも批判されるマドラサだが、同会は「地元の要望が強く、貧困層の子供や孤児の養育が目的」としている。


これはタリバーンに塩を送っているようなもので、テロリスト予備軍養成学校と成り果てる危険性があります。子供にイスラームを教え込むのではなく、普通の学校の勉強を教え込む方がアフガニスタン全体の為にもなる筈なのですが・・・貧困から抜け出す為には知識が必要です。ペシャワール会は農業知識や灌漑知識を現地農民に分け与えて支援をしている筈です。それを彼ら自身の手で出来るよう、彼らを教育できる学校を建設する事は非常に良いことの筈なのに、なぜ神学校なのでしょうか。タリバーンに都合のよい事をしているのは、何故なのでしょうか。軍事板常見問題アフ【ガ】ーニスタンFAQより【質問】マドラサの問題点は何かを参照すると、マドラサの危険性について良く分かると思います。



【オマケ】

>「彼らは本当のタリバンではない」

海原「(ガラッ)このタリバンを育てたのは誰だぁっ!」
山岡「俺が本当のタリバンを教えてやる」


>「彼らは本当のタリバンではない」

クラウザーさん 「俺が本当のタリバンのやり方を教えてやる・タリバンタリバンタリバンタリバンタリバン」
DMCファン    「出た・・・・クラウザーさんの一秒間に十回のタリバン発言」


>「彼らは本当のタリバンではない」

日本共産党「ソビエト連邦は真の共産主義ではない!」
19時10分 | 固定リンク | Comment (289) | 平和 |
2008年08月29日
アフガニスタンでペシャワール会の伊藤和也さんが拉致、殺害された事件の記事で、毎日新聞が記事の隠蔽工作を行いました。中村哲医師の発言部分をゴッソリ削除したのです。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080829k0000m040129000c.html

この毎日新聞の記事は、最初にUPされた時のタイトルは

アフガン拉致殺害:中村医師が遺体検分 悲しみこらえ - 毎日jp(毎日新聞)

だったのですが、現在は同一アドレスでタイトルが

アフガン拉致殺害:中村医師「ご両親に申し訳ない」 - 毎日jp(毎日新聞)

に変更されており、内容も大きく変更されています。WEB上にUPされた当初は以下のような文章が載っていました。



反政府武装勢力のタリバン報道官を名乗る人物が、犯行を認めていることについて、中村さんは「拉致グループはタリバンではない。タリバンがこんなことをするはずがない」と話した。

「我々が言うタリバンとは、マドラサ(イスラム神学校)でちゃんと教育を受けた、礼儀と道理を身につけた者を言う。しかし、9・11(01年の米同時多発テロ)後、偽タリバンが増えた。彼らは本当のタリバンではない」

タリバンが拠点とするアフガンとパキスタン国境地域で、ハンセン病治療や井戸掘りなどを20年以上続けてきた。国際的な非難を浴び孤立するタリバンとその母体のパシュトゥン民族を支え、タリバン側からも一定の理解を得ていると自負してきた中村さんの、タリバンへの「最後のメッセージ」にも聞こえた。


この部分の文章は現在、記事中に存在しません。

ただ、消し忘れたのか知りませんが、記事の写真に付いている説明書き部分には現在も、



「タリバンではない」。そう語ったペシャワール会の中村哲代表=アフガニスタン・カブールのアフガン政府軍空港で2008年8月28日、栗田慎一撮影


という解説が残ったままです。その為、記事本文に書かれていないことが説明にあり、記事のバランスがおかしな事になっています。なおこの記事は署名記事であり、

【朴鐘珠、カブール栗田慎一】

とあるのですが、最初にUPされた時は「栗田慎一」の名前のみで「朴鐘珠」の名前はありませんでした。既に毎日新聞の記事はGoogleキャッシュは削除されているのですが、cybozu.netの毎日新聞転載記事にはまだキャッシュが残っており、確認できます。

該当記事のGoogleキャッシュ

現在の該当記事

やはり改竄前には【カブール栗田慎一】としかありませんね・・・つまり「朴鐘珠」記者が、カブールから送られてきた栗田慎一氏の記事を丸ごと書き換えた上で、写真だけ残したという事になります。(写真の説明書き部分は改竄し忘れか)

毎日新聞は何故、栗田慎一氏の記事の根幹ともいえる部分を丸ごと消してしまったのでしょうか。

・・・中村哲医師の、異常なまでのタリバーン擁護を、報道すべきではないと判断したのでしょうか。それとも栗田慎一氏が中村哲医師の発言を捏造したので撤回したのでしょうか。どうも前者の可能性が高いように思えます。中村哲医師は911テロの報復戦争以前からタリバーン擁護を繰り返しており、これくらいのことは平然と言ってのける人物です。

現地に居た専門家の情報が正しいとは限らない (2007年8月14日)

これは一年前に書いた記事ですが、後半で「軍事板常見問題」の消印所沢氏が書いた「アフ【ガ】ーニスタンFAQ」の項目から、中村哲医師に関する部分をピックアップしています。これを見るだけでも中村哲医師のタリバーン擁護があまりにも度を越している事が見て取れる筈です。



〜取り急ぎここまで
03時40分 | 固定リンク | Comment (329) | 平和 |
2008年08月19日
この記事を読んでニヤニヤしてしまったのは、私だけではない筈です。なお京都民報は日本共産党京都府委員会の機関紙のようなものです。


食料自給率下がれば軍備が必要という考えも 向日市・六向区で学習会|京都民報 2008年8月18日
元神戸税関職員の柳澤尚さんは、現在の日本の食料自給率は「砂漠の国の自給率」。農業でもっとも大切な水の豊かな日本で、なぜここまで食料自給率が低いのか、中国からの輸入餃子問題にもふれながら港での検疫体制が「安全検査」から「モニタリング検査」になり食の安全が保てない現状を報告。「自給率が下がれば外国からの食料供給を維持するために軍隊が必要だという考え方にも通じるので、『9条の会』のみなさんも「食と農」の問題にぜひ関心を持ってほしいと話しました。


そっか、あれから2年も経つんだ・・・

2年前に私は以下のような記事を書きました。当時は小田実さんがご存命で、9条の会の代表としてコメントを残しています。

食料自給率と自衛戦争|2006年06月12日

小田実;「資源もなく、食糧自給率の低い日本は、自衛できない。国を守るためには、戦争のない世界をつくるという理想こそが現実的で、その土台にあるのが平和憲法だ」

JSF;「世界大戦時のイギリスは食料自給率30%で戦争を勝ち抜いた。歴史的に実践例があり、可能」

勿論、食料自給率が高い方が自衛しやすいのは確かで、戦後のイギリスは自給率UPに力を注いでいます。ですが、自給率が低くても戦争を勝ち抜けた事例としては確かな話です。強力な自国の海軍戦力がシーレーンを守り抜き、更に強力な海軍戦力を持つアメリカ軍の支援が得られたからこその結果です。

9条の会は、2年前の私の指摘を受けて食料自給率と戦争についての見解を180度変えられたのでしょうか? そうでなかったとしても、2年前の小田実さんの見解は、9条の会自身の手によって否定される事になります。柳澤尚さんの「自給率が下がれば軍隊が必要になる」というだけでは途中の説明が無さ過ぎる気もしますが、新聞記事ですので短く纏まってしまっているのでしょう。少なくとも2年前の小田実氏の「自給率が低ければ自衛できない」という意見よりは、よほど真実に近付いています。

勉強会って、本当に大切ですね。
19時23分 | 固定リンク | Comment (181) | 平和 |
2008年07月17日
アメリカ海軍のオリヴァー・ハザード・ペリー級フリゲートはミサイルランチャーを降ろしてしまい、ミサイルフリゲートと名乗れなくなった現在、このクラスは海上臨検行動専用艦である・・・この事は3年前に書いた記事と、今年5月に書いた記事でも述べましたが、ようやくこの事実がマスコミや市民団体にも伝わり始めました。実に目出度い事です。


米フリゲート艦、下関に親善寄港 - 毎日jp
米海軍第3艦隊のミサイルフリゲート艦「サッチ」が14日、下関港に寄港し、市関係者らの歓迎を受けた。友好親善が目的で、18日まで児童の養護施設や地元の海上自衛隊などと交流する。

空母ロナルド・レーガンの打撃群に所属。76ミリ単装砲や対潜用ヘリなどを備え、高い攻撃力を誇る。艦長のデビッド・ハース海軍中佐は「下関は初めてで楽しみにしている。歴史や文化を学びたい」と歓迎に応えた。

一方、今回の寄港を巡って、市民団体が「イージス艦や原子力空母の入港へエスカレートすることを恐れる」と抗議声明を出した。


USSサッチの公式サイト USS THACH (FFG 43) を見れば分かりますが、TOPページの画像でミサイルランチャーが撤去済みであることを確認できます。なお艦名は太平洋戦争中にゼロ戦対抗戦術「サッチ・ウィーブ」や神風特攻対抗戦術「ビッグ・ブルー・ブランケット」を考案したジョン・サッチ提督からです。

「76ミリ単装砲や対潜用ヘリなどを備え、高い攻撃力を誇る」

Mk.13ミサイルランチャーが既に撤去済みであることを理解しています。偉いぞ毎日新聞! ・・・と評価したい所だったけど、「高い攻撃力を誇る」って何の冗談なのかな? ふざけてるのかな? 軽いギャグのつもりなのかな? 「読者は馬鹿だから76mm砲程度でも高い攻撃力だと信じて疑わない筈」とでも思っているのなら、あまりにも酷い思い上がりじゃないかな? っていうか記者さんは76mm砲が一体なんだか分かってないんじゃないかな? あと対潜ヘリが高い攻撃力って意味不明なんだけど、どうしたらいいのかな? っていうか、自身が良く分かっていない対象を「高い攻撃力」と断定するのはアホの子がする事じゃないかな? ところで「誇る」って一体何処の誰が誇っているのかな? 76mm砲で高い攻撃力だと誇っているような愉快な軍人が本当に居るのかな? 存在しない架空のものをデッチ上げるのは捏造って言うんじゃないかな? 妄想全開で記事を書いて楽しいのかな?

ああ、脱力した・・・この記事を書いた記者さんは「高い攻撃力を誇る」って言葉を何かの枕詞か定型文と勘違いしてるんだろうけど、こう書いておけば市民の皆さんは怖がるだろう、兵器に嫌悪感を抱くだろうという狙いなんだろうから、性質が悪いなぁ・・・もうそういう時代じゃないのに。

言うまでもない事ですが、76mm砲はフリゲートや駆逐艦に搭載する主砲としては小さな部類で、沿岸警備隊の巡視船に搭載されている場合もあります。対空防御兵器としては優秀ですが、「高い攻撃力」などと形容されるようなものではありません。

「イージス艦や原子力空母の入港へエスカレートすることを恐れる」

USSサッチが核兵器を搭載出来っこない事を良く理解しています。偉いぞ市民団体! ・・・ってまぁ、もしMK.13ミサイルランチャーが有ったってコレからはトマホーク巡航ミサイルを撃てないのだから、ランチャーが有ろうが無かろうが核搭載なんて出来っこないのだけれど・・・そもそもトマホーク搭載用の核弾頭は退役済みで、対潜ヘリ搭載の核爆雷なんて代物もとっくに退役済みだし・・・しかしエスカレート理論ですか。ベトナム戦争時にアメリカが唱えたドミノ理論みたいな主張ですね。

USSサッチ自体を非難しようにも、非難できる要素が無いので今後のまだ見ぬ未来を想定して恐れる。でもイージス艦が来たら何の問題があるのでしょう。搭載されているトマホークに核疑惑をぶつける気でしょうか。何時も通り、核搭載型トマホークが退役している事を無視して・・・でも市民団体も今後は大変です。もし弾道ミサイル防衛用のスタンダードSM3を搭載したイージス艦に対して寄港反対を唱えたら、裏切り者奴扱いされて激しく叩かれかねないですから。

それと下関港は水深12-13mバースまでしかないので、原子力空母の接岸は出来ません。原子力空母の接岸には最低14m、なるべくなら15m以上の水深が必要で、下関港に寄港する場合は港内の洋上で停泊するしかなく、友好親善を名目に入港する気なら接岸できないとあんまり意味無いですから(艦そのものを市民に見せる必要がある)、気にしなくて良いんじゃないでしょうか。新たに作っている人工島も13m岸壁ですし。

なお下関港にペリー級フリゲートを入港させる意味は、この港が対北朝鮮海上臨検行動時の臨検港の一つとして指定されているからです。
03時06分 | 固定リンク | Comment (150) | 平和 |
2008年07月08日
隔週で刊行される経済誌の「経済界」7/15号で、軍事アナリスト田岡俊次氏が連載コラム『軍事の「常識」「非常識」』で以下のような主張を行っています。


クラスター爆弾禁止条約で明るみに出た自衛隊の失態:『経済界』 2008年7.15号
クラスター弾の調達費用は276億円だが、日本は1両約20億円のMLRSの自走発射機を100両も買い込んだ。弾をすべて破棄するとその分2千億円も無駄になります。


いやだから・・・どうして弾薬(M26クラスターロケット弾)を破棄したら発射機(M270)が無駄になるんですか? 新しく単弾頭のロケット弾(M31ユニタリーロケット弾)や、禁止条約の対象外となる「最新型」クラスター弾頭を配備すれば済む事でしょう。発射機は使い回せます。どのみち陸上自衛隊で初期に配備されたMLRS用の弾薬は経年劣化で更新時期が来ており、禁止条約とは無関係に弾薬は入れ替える必要が出ていました。陸自では3年前からGMLRS購入の話が出ています。M26ロケット弾を廃棄したらMLRSが全部使えなくなるとか、与太話ですよ。移行猶予期間は8年もあるのだから、その間に入れ替えていけば済む話です。

以前、東京新聞が「MLRS全廃へ」という無責任なデマ記事を書きましたが、田岡氏の記事はそれと同様です。幾らなんでも酷すぎるんじゃないでしょうか。

MLRSを全廃? 東京新聞は何か勘違いしているのでは・・・ (2008/5/31)

東京新聞以外でも、毎日新聞が「発射用の車両も合わせると「全面禁止」の「損失」は莫大だ。」等とMLRS全廃の話を書いており、禁止に反対の産経新聞ですらMLRS全廃を仮定にした記事を書き、唯一まともに条約対象外のMLRS用「最新型」クラスター弾配備検討の報道を行った読売新聞でさえ、MLRS用単弾頭ロケット弾の話をしていません。朝日新聞は知りませんが、元朝日記者の田岡氏がこの有様では、期待できそうに無く・・・日本のマスコミ陣は全て、MLRS用の単弾頭ロケット弾M31の存在を知らない、という異常な事態となっています。しかしM31ユニタリーロケット弾は3年前から実戦投入されており、秘密兵器でもなんでもありません。GMLRS(M30/M31)開発計画自体は10年以上前から行われています。私はダブリン会議の決定を受けた最初の記事「クラスター爆弾、対戦車誘導型以外を全面廃棄へ」で、真っ先にMLRS用単弾頭ロケット弾M31(XM31)を導入すべきだと書いています。ですがこれはMLRSの弾薬に付いて知っている人なら誰でも発想できる事であって、主要新聞の記者が誰一人気付かず、軍事評論が専門の田岡氏ですら理解していないというのは少し信じられない思いです。

どのみちMLRSクラスター弾頭型は廃棄される方向にあった (2008/6/4)

この記事でも紹介したように、アメリカ軍は2006年の段階で、MLRS用クラスター弾の製造を取り止め、将来の調達予定が単弾頭のM31になると発表しています。アメリカ軍はMLRSの弾薬をM31ユニタリー弾を主力とする気です。現在、アフガニスタンとイラクに展開している米英軍のMLRSは、装填されている弾薬を全てM31にしています。

田岡氏は『経済界』誌で「最新型」クラスター弾はコストが高くなると評した後、「単弾頭のロケットにするなら簡単だが、効果は乏しい」と述べていますが、上記のようなアメリカ軍の決定を知っているならとても出てこないセリフの筈です。また、M31ロケット弾が実戦で著しい効果を上げており、現地部隊の評価も高い事も知らないのでしょう。

MLRS単弾頭M31ロケット弾の実戦動画 (2008/6/29)

田岡氏は記事で、MLRSは住民の居るところでは使えない、対テロ戦では役に立たないと書いていましたが、上の実戦動画で見るようにM31ロケット弾ならば積極的に市街戦に投入できます。

また田岡氏は、「最新型」クラスター弾は実質対戦車専用であり歩兵の制圧を考えたら単弾頭ないし燃料気化弾頭などと併用する必要があることも説明していませんでした。「最新型」クラスター弾は確かにコストは高いのですが、汎用に使える弾薬ではない以上、元々数は必要ではありません。そのあたりの説明も欲しかった所ですが・・・それは経済誌ならば無理に説明する必要は無いかもしれません。ですが、アメリカ軍が既にMLRS用の弾薬を単弾頭と入れ替えている事実を知らず、「単弾頭は効果が乏しい」とだけ評して流すようでは、話にならないです。なおGMLRSのM31ロケット弾はGPS誘導の為、誘導兵器としてはかなり安く、1発あたりの調達費用はM26ロケット弾に比べて大きく変わらない程度で収まります。「経済界」誌の記事では、新型弾調達に巨額の費用が掛かる、と書いてありましたが、実際の代替計画では少数の新型弾と多数の単弾頭を調達する事になるので、巨額の費用とはなりません。既に述べましたが弾薬の廃棄・更新は禁止条約とは無関係に行う時期にきており、代替費用そのものは余計な出費ではありません。

なお、進化するGMLRSはとうとう最大射程85kmを達成しました。


Kojii.net - 今週の軍事関連ニュース (2008/07/08)
米陸軍は、ニューメキシコ州の WSMR (White Sands Missile Range) で実施した GMLRS (Guided Multiple Launch Rocket) の試射で、射程 85km という新記録を作った。これまでの最大記録は 70km。GMLRS はすでに 750 発あまりの実戦使用を記録、命中精度の高さと付随的被害の少なさを実証したとしている。今回の試射は Unitary Production Verification Test として実施したもので、発射器には HIMARS (High Mobility Artillery Rocket System) を使用した。この GMLRS と HIMARS は、精密誘導兵器の分野で顕著な業績を挙げた民間企業に与えられる、William J. Perry Award for Precision Strike を 2007 年に受賞している。(Lockheed Martin)


「Unitary Production Verification Test」とあるので、M31単弾頭ロケット弾のテストの事です。記事に出ているHIMARSとはMLRSの小型版で、ランチャー数を半分にしてトラックの架台に載せたもので、C-130輸送機での空輸が行えます。
23時35分 | 固定リンク | Comment (114) | 平和 |
2008年06月30日
共産党の機関紙・しんぶん赤旗がクラスター爆弾に関する記事を書いています。内容はオスロ・プロセスのダブリン会議で規制の対象外とされた「最新型」クラスター爆弾の配備を検討している防衛省を批判するものですが、赤旗はダブリン会議の流れを全く把握していない様子が見て取れます。


最新型クラスター/全面禁止の願いを無にするな:6月29日「しんぶん赤旗」
もちろん、最新型であっても民間人を殺傷することに変わりはありません。NGOの「クラスター爆弾連合」も、「自爆装置を備えた新世代のクラスター爆弾であっても、不発に終わることが多く、とても容認できない人的被害をもたらす」と指摘しています。アメリカがつくる最新型爆弾は不発弾として残る率が「1%以下」といわれますが、わずかであろうと不発弾になった子弾が子どもなど民間人を殺傷するのを許していいはずがありません。


赤旗の記事は「最新型」と「改良型」の違いを理解しておらず、ゴッチャにしています。この二つの定義はダブリン会議中に設定されたもので、5/30の当ブログ記事「クラスター爆弾、対戦車誘導型以外を全面廃棄へ」で説明したとおり、「改良型」とは子弾に自爆装置または無能力化装置のみを備えたものを指し、「最新型」とはそれに加え子弾10個未満、子弾1個4kg以上、目標識別機能といった条件があります。そして会議で定義として決められたこの区分は言葉通りの「最新型」という意味ではなく、実質上はずっと以前からも存在している対戦車用スマート子弾を指します。

赤旗は勘違いしていますが、NGOクラスター爆弾連合が言う「自爆装置を備えた新世代クラスター爆弾」やアメリカの最新型爆弾「不発率1%以下」というクラスター爆弾は、ダブリン会議で決められた定義で分類した場合「改良型」の事を指しています。「最新型」の配備を批判している最中に混同して「改良型」の話をされては、論旨がグチャグチャになってしまい、論評のしようがありません。記事としてのレベルが低過ぎます。ダブリン会議の内容をチェックすらせずに書いているのでしょうね。

「最新型」クラスター爆弾が規制の対象外とされたのは、同条件に適合する物を開発中のドイツなど欧州諸国の思惑が指摘されますが、既に述べた通り「最新型」とは実質上、対戦車用兵器であり対人戦闘には用いられません。(仮に「最新型」を敵歩兵集団の中に放り込んでも効果が低く、通常榴弾を放り込んだ方がよほど効果的)そもそもの使用条件からして民間人を巻き込む恐れは少ないのです。機構上も不発弾が出難く子弾数も10発未満ですので、不発弾発生数については自爆装置または無能力化装置が付いていない通常榴弾よりもむしろ低くなります。

要するに、「最新型」クラスター爆弾は従来のクラスター爆弾どころか、単なる通常爆弾よりも民間人を犠牲にし難い、比較的安全な兵器(安全な兵器と言う表現もどうかと思いますが、あくまで通常爆弾との比較)だから、規制対象から除外されたのです。

例えば対人地雷は禁止されましたが、対戦車地雷は禁止されていません。人が踏んでも反応しない対戦車地雷とて、トラックが踏めば起爆しますので民間人を全く巻き込まないわけではありませんが、これが規制されていないのは、対戦車地雷による民間人の被害発生が少ないので無視しても特に問題無いとされたからです。同様に「対戦車」用である「最新型」クラスター爆弾は規制されません。

以上の点を良く理解して下さい。最新型を非難する事は何の意味もありません。「全面禁止を目指せ」というスローガンはナンセンスでしかないのです。それとも、そんなことは理解した上で日本の防衛力を削ぐ事さえ出来れば何でも構わない、という目論みなのかもしれませんが。


さて、実は日本でも「最新型」クラスター爆弾が既に研究されています。

知能化弾システムの研究試作(平成13年度 政策評価書):PDF

知能化弾システム

イメージ図にMLRS用と思われるロケット弾の図があります。知能化弾がどれだけのサイズになるか分かりませんが、アメリカで開発中止になったMLRS用のXM29ロケット弾がSADARM自己鍛造弾を6発収納していましたので、同程度は積み込めるでしょう。

ただ知能化弾システムは詳細が不明で、政策評価書を見る限りは他に迫撃砲から撃ち出すものと、対ヘリコプター地雷(空中散布可能なものかは不明)が描かれていますが、なぜか155mm砲弾型は見当たらず、本当にMLRS用ロケット弾で運用する気なのかも確実な情報だとは言えません。ですがこれが正式採用できるのであれば、外国から買わずに済ませる事が出来ます。

またイメージ図には敵戦車のみならず敵上陸用舟艇をも攻撃する様子が描かれていますが、スマートタイプのクラスター爆弾を用いた洋上目標への攻撃方法は2005年からアメリカ軍でもテストされており、洋上を背景にした目標を識別できるようにアルゴリズムを改造した誘導システムが機能し、自己鍛造弾でも上陸用舟艇を撃破できることが確かめられています。
23時40分 | 固定リンク | Comment (67) | 平和 |
2008年06月29日
GMLRS(GPS誘導MLRS)の単弾頭(ユニタリー)タイプ、M31ロケット弾は2〜3年前からイラクやアフガンで実戦投入されており、クラスター弾頭ではない単弾頭である事、GPSによる精密誘導能力、長い射程(従来型の倍以上、70kmの射程)により、市街戦への積極的な投入が行われています。






イラクのある都市(おそらくタル・アファルではなく、ラマディの可能性が高い模様)、米軍部隊が3階建ての建物の屋上にいるスナイパー(狙撃手)から攻撃を受けている。M2ブラッドレー歩兵戦闘車(左手前)とM1A2エイブラムス戦車(左奥)が何度か砲撃を加えるが、敵スナイパーには効果が無い。その数分後、突如として建物が爆発に切り裂かれスナイパー達は取り除かれた。爆発の衝撃でスナイパー達は空中に吹き飛ばされる様子が見て取れる。M31ロケット弾による支援砲火だった。

クラスター弾頭のような面制圧兵器ではない事、GPS誘導による精密砲撃により、味方を巻き込む危険性が少なく、近接航空支援の代わりに使えるという事です。CEPが10m以下なので、もうロケット弾ではなくミサイルと呼ぶべき存在になっています。射程もかなり長くなっているので、これを活かすには前線観測班や無人偵察機の情報が必要となってくるでしょう。M26ロケットからM31ロケットに弾薬を入れ替えた場合、MLRSを使った戦術は根本から変わらざるを得なくなります。戦術次第ですが、命中精度の高さは使い方によっては大変有効に機能するでしょう。
21時25分 | 固定リンク | Comment (79) | 平和 |
今回のスパイクさんの記事、ツッコミどころの多いですね・・・取り合えず、私が書いた「ノルウェー防衛ではクラスター爆弾が使い難い(市街地付近ないし市街地そのもので上陸戦闘が行われる為)」という主張(6/9の記事)への反論らしき部分を取り上げ、スパイク通信員こと田中昭成氏が根本的な認識不足に陥っている事を指摘します。

ところでスパイクさん、貴方は「今後、引用元を明確にする」(6/14の記事)と言っていたのに、今回名指ししていないのは何故ですか。私の書いた「自国の港湾部へのクラスター爆弾攻撃がし難い」という話への反論でしょう、貴方のコレは。


クラスター爆弾の欠点について|スパイク通信員の軍事評論
上陸作戦には、上陸用の海岸の他に、必ず補給拠点となる港湾が占領されます。こうした港湾を占拠した敵に対して、クラスター爆弾を用いるのは有効です。多少、民間施設に被害が出るとしても、船から降ろされた兵士や装備が集結しているのなら、まとめて殲滅するチャンスです。


砂浜のような開けた海岸に上陸して橋頭堡を築いている敵に対しては、クラスター爆弾は有効な兵器です。ですが、港湾を占拠した敵に対しては大した効果は有りません。港湾は倉庫や施設などがあり遮蔽物が多く、開けた砂浜とは状況が違います。そしてクラスター爆弾の子弾は当然ですが1発あたりの打撃力がかなり小さく、ちょっとした遮蔽物で効果は激減してしまうのです。いくら成型炸薬弾頭なら装甲板を貫通できるといっても、倉庫の屋根の上で爆発すれば内部には効果がありません。建造物の上ではなく路上で炸裂したとしても、クラスター子弾の破片効果は手榴弾とさほど変わらず大きな破片は発生しないので、ちょっとした壁で防がれてしまいます。爆風効果についても同様です。

クラスター爆弾は市街地で使うべきではない兵器ですが、それは不発弾問題から来る人道上の理由以前に、純粋に戦術兵器としての性格が、市街戦に投入するには全く向いていない兵器だからです。港湾部は市街地と考え方は同じで、もう其処は開けた野外ではなく、野戦と同じ感覚で戦闘する事は出来ません。第二次世界大戦でドイツ軍とソ連軍が市街戦闘を行った時、頼りになったのは1発あたりの破壊力が大きな重砲でした。ドイツ軍に至ってはスターリングラードの戦訓から、巨大な38cmロケット弾を発射する近接支援車両(シュツルム・ティーガー)を開発しています。敵が潜む建造物ごと破壊できる火力が必要とされたのです。つまり、市街戦で要求される能力はクラスター爆弾とは正反対なのです。

この戦訓は現在にも生かされており、アメリカ軍はMLRS用にクラスター弾頭ではない単弾頭タイプを以前から開発しており、数年前から実戦投入しています。GMLRSのM31ユニタリー弾頭は、GPS誘導による精密砲撃と単弾頭の組み合わせで、積極的に市街戦闘へ投入できる能力を有しています。更にM31には、垂直に近い角度で落下していく飛行モードの追加が予定されています。これはビルの谷間に隠れている敵を真上から攻撃する事が出来ます。実際にイラクやアフガンで投入されているM31は使い勝手が良く、前線で戦闘中の味方部隊が手を焼いていたビルの屋上にいる敵スナイパーを直撃で排除するなど、近接支援が可能な精度(味方部隊を巻き込まない)を有しています。

クラスター爆弾とはあくまで開けた野外で効果を発揮する兵器です。市街地では前述のとおり、森林地帯でも威力は半減します。成形炸薬弾頭の子弾は姿勢制御にバリュート(バルーン・パラシュート)や長いリボンを有しており、容易に木の枝に引っ掛かってしまいます。

今回のスパイクさんの失敗は、港湾(市街地)へのクラスター爆弾攻撃が出来ない理由を、味方の市民の上にクラスター爆弾の雨を降らす事が出来ない人道上の理由だけだと勘違いした所にあります。だから「民間施設に被害が出るとしても攻撃するチャンスだ」等と、人道さえ無視すれば効果的なんだと思い込んでしまったわけです。ですが実際には建造物など遮蔽物の多い場所ではクラスター爆弾の効果は激減してしまうので、港湾部への攻撃は榴弾で行うべきです。既に実績のあるM31ロケット弾やATACMS単弾頭型(アメリカで開発中)を配備する方が有効です。あわよくば停泊している敵輸送船そのものを狙う場合でも、クラスター爆弾ではたとえ当たっても殆ど効果がなく、意味がありません。

ノルウェーは自国で開発した新型艦対艦ミサイル「NSM」(JSM)を洋上の敵艦のみならず港湾に停泊中の敵艦、及び対地攻撃をもできるようにしています。元々、IIR(赤外線画像)シーカーの採用はフィヨルド地形を読み取って縫うように飛ぶ為なのですが、アクティブレーダー誘導方式では港湾に停泊した敵艦への攻撃が困難なのに対し、赤外線画像誘導方式ならば敵艦や地上目標を選択攻撃できるという利点を得ています。つまり日本もこれに習い敵に奪取された港湾部を攻撃するなら、88式地対艦ミサイルを対地攻撃できるように改修する(誘導装置を赤外線画像シーカーにする)、ASM-2空対艦ミサイルを対地攻撃できるように改修する(実際に計画がある)、NSM対艦ミサイルをノルウェーから購入するのも選択に入ります。


今回のスパイクさんの記事で、私に関わり合いのある部分への反論はこれぐらいですね。スパイクさんのこの6/28の記事は、他の部分もツッコミどころ満載なのですが、一々上げていたらキリが無いのでこの辺にしておきます。(残りはコメント欄でツッコミ入るでしょうし)
03時00分 | 固定リンク | Comment (30) | 平和 |
2008年06月20日
もう産経新聞に軍事報道を行う資格があるのかどうか・・・煽りさえできれば事実なんてどうでも良いのでしょうか。


【軍事情勢】クラスター禁止は国土防衛の危機 野口裕之|産経新聞iza
代替火砲導入となると、さらに非現実的だ。MLRSの1個発射機当たりの瞬間制圧面積は、155ミリ自走砲を主力とする1個特科(砲兵)連隊(1100人)の火力に匹敵。従って、現有5個MLRS大隊(90発射機/1500人)を廃止するのなら、90個特科連隊(9万9000人)の増強が必要となる。1分間に発射可能な弾薬重量でも、155ミリ自走砲と比べると3倍近くの開きがある。人員で計算し直すと、1個MLRS大隊(300人)の瞬間交戦能力は3個特科連隊(3300人)に相当。現有5個MLRS大隊を解隊すれば、その穴埋めに15個特科連隊(1万6500人)を新設せねばならない。


これは大隊と連隊をゴッチャにしていますね。例えば後半の弾薬重量の話ですが、「1分間に発射可能な弾薬重量で(MLRSは)155mm榴弾砲の3倍」と書いた直後に「1個MLRS大隊は3個特科連隊に相当」と平気な顔をして書いています。ですが1個特科連隊は複数の大隊で構成される単位ですから、もうこの時点で計算が間違っています。投弾量で3倍なら、1個大隊の3倍は3個大隊ではないのですか? なんで3個連隊になるんですか。部隊の編成はそれぞれで異なってきますが、陸上自衛隊の特科連隊は完全編成で60門。3個特科連隊180門で1個MLRS大隊18発射機の10倍となり、「155mm榴弾砲の3倍」という前提と話が合いません。

また数値を詳しく計算してもおかしな点が出てきます。MLRSのM26ロケット弾の弾頭重量は約150kg(ロケットモーター込みの総重量は約300kg)、155mm砲弾は約50kg。 155mm榴弾砲(75式自走155mm榴弾砲)が1分間に6発の発射速度だとして、MLRSは1分掛けて12発(装填数全て)を撃ち尽くす為、1分間に発射可能な弾薬重量はMLRSが150×12=1800kg、155mm榴弾砲が50×6=300kgで6倍の開きが有ります。(ただ、6倍でも2個特科連隊に満たない)・・・まさかと思いますが、「1発あたりの弾頭重量」と「1分間に発射可能な弾頭重量」を混同している可能性が・・・高そうですね。1発の差の時点で3倍ありますから。

そしてMLRSのような多連装ロケットランチャーは再装填に時間が掛かります。持続砲撃では通常の火砲と比べ、どうしても劣ってきます。

「MLRSの再装填時間について」

155mm榴弾砲も毎分6発という数値を何十分と持続できるわけではありませんが、それでも多連装ロケットランチャーよりは上回ります。

産経の記事は「瞬間交戦」「瞬間制圧」と瞬間に限定して話をしていますが、瞬間に火力を集中する砲撃の得意な多連装ロケットと持続砲撃が得意な通常火砲を比べて、瞬間火力でお互いを同等に揃えた場合、持続砲撃では通常火砲がMLRSを圧倒する事になります。それは対等な代替とは言いません。


次は制圧面積での話です。これは制圧可能な範囲をどれだけに設定するかで大きく変わってくるので、計算の前提次第でどうとでも変わってくるのですが、

榴弾の威力範囲:大砲と装甲の研究

ここを参考に、155mm榴弾砲の1発の威力半径は近似値で39m、面積で4775平方mとします。ただしこれは対人・対軽車両のみの効果範囲です。

一方MLRSは、12発で12〜20万平方mを制圧します。

M26 Multiple Launch Rocket System (MLRS):GlobalSecurity
>The average ground pattern of a 12-round ripple, with some overlapping of warhead patterns, varies from about 120,000 to 200,000 square meters, depending upon the range.

155mm榴弾砲は1分間に6発、制圧範囲は2万8千平方m。MLRSは1分間に12発、制圧範囲は12〜20万平方m。その差は4〜7倍であり、産経新聞の言う、

「MLRSの1個発射機あたりの瞬間制圧面積は、155ミリ自走砲を主力とする1個特科連隊の火力に匹敵」

という事にはなりません。1個特科連隊とは完全編成で60門であり、60倍の制圧面積を発揮しないと産経新聞の言うような数値にはなりません。仮に155mm榴弾砲の威力半径を約半分の半径20mに見積もっても、1発あたりの制圧面積は1256平方m、6発で7536平方mで、MLRS1基あたりはこれの15〜26倍となり、充足率の低い特科連隊でも及びません。

1個特科大隊は隷下の中隊の規模や数によって違ってきますが、10〜20門で構成されます。155mm榴弾砲の威力半径を30m程度で見積もるとちょうど大隊規模の制圧面積がMLRSの1発射機分に収まります。やはり産経新聞は大隊と連隊を混同している可能性が高いです。

結局、産経新聞の言う、

「現有5個MLRS大隊(90発射機/1500人)を廃止するのなら、90個特科連隊(9万9000人)の増強が必要となる」

という主張は間違いであると言う事になります。大隊と連隊を混同し、1発あたりの弾頭重量と1分間に発射可能な弾頭重量を混同する。MLRSは5個大隊で90発射機と書いているのに、155mm榴弾砲の数は書こうともしない。そして計算の算出根拠を碌に示さない。こんな事でまともな数値が出て来る筈がありません。ですがこの産経新聞の記事はizaだけでなく産経新聞本紙にも「専守防衛に空白 クラスター爆弾全面禁止合意」という記事で載り、一部インターネットではこれで紹介された数字が正しいかのように吹聴されています。

「また産経新聞か」
「また野口裕之記者か」

溜息が出ます。もういい加減にして欲しいですね・・・


そもそも、クラスター弾頭は子弾のそれぞれが対装甲貫通力を持つのに対し、榴弾の効果範囲は対人・対軽車両のみ(威力半径39mの場合)ですから、単純な制圧面積での比較はあまり意味がありません。対人・対装甲兼用の汎用クラスター子弾の使い勝手の良さと、通常榴弾(直撃及び大破片なら装甲貫通が期待できるが、自然発生数が数個程度と少ない)や対装甲専用誘導クラスター(今回の規制の対象外。対人には殆ど効果が無い)との差をきちんと説明し、その上で制圧面積の差を説き、瞬間火力と持続砲撃の違いを説明し・・・一般新聞でそのような専門的な説明が難しいことはよく分かります、ですが基礎的な部分での数値計算間違い(というよりは単位を理解していない)で成り立った数値を振りかざし、一般人相手に煽るような記事は許されません。というか野口裕之記者のこの記事は、その他の内容もあまりに稚拙で、読んでいて恥ずかしくなってくるんですが・・・一般読者の軍事素人を煽るならこの程度の記事でいいや、と思っているなら読者を馬鹿にし過ぎです。

ちなみに対装甲限定で話を進めた場合、MLRS用の対装甲誘導子弾SADARM搭載型ロケット弾「XM29」(開発中止)は、SADARM自己鍛造弾を6基搭載する予定でした。そしてSADARMは155mm榴弾砲には2基、入ります。1発あたりの差が3倍なので・・・結局はこれは弾頭重量の差と同じ話になります。
22時21分 | 固定リンク | Comment (135) | 平和 |
2008年06月19日
MLRSのM270発射機がM26ロケット弾を全弾12発を発射し、その再装填に要する時間について調べてみました。MLRSは6発を一纏めにしたキャニスター・モジュールのランチポッド方式なので、1本ずつロケットを積み込む場合よりも短時間で再装填が行えます。つまり撃ち終わったモジュールを抜き出し、新品のモジュールを挿し込み・・・といった作業で、6本組ロケットを2回の抜き挿しで交換できるので、1本ずつ積み込む場合の3分の1の回数で済む事になります。

参考までに、普通に1本ずつ差し込んで装填する方式の、ロシアの多連装ロケットランチャー「BM-30 スメルチ」は、300mm12連装ロケットを再装填するのに36分掛かります。

それではMLRSの場合は・・・

M270 MLRS Self-Propelled Loader/Launcher (SPLL) :GlobalSecurity
M270 MLRS Self-Propelled Loader/Launcher (SPLL) :FAS
M270 Multiple Launch Rocket System - Wikipedia

上記英語サイトはどれも元の資料は同一のようで、全て「Reload Time 9 minutes」とあります。 再装填時間は9分です。

MLRS - Wikipedia

日本語版ウィキペディアでは「再装填時間: 8分」とあります。

MLRS - Weapons School
>乗員1名でも3分以内に再装填を完了できる。

こちらでは3分以内となっています。・・・随分と数値が違いますね。

MLRS自走多連装ロケット・システム - 戦車研究室
>全弾発射後の再装填時間はわずか93秒で終了する。
>〜中略〜
>M270A1 AVMRLでは、射撃統制装置が近代化されると共に、
>発射機のメカニズムの改良で、ロケット弾の再装填時間が
>従来の93秒から16秒に短縮されている。

こちらではM270発射機で93秒、M270A1で16秒としています。

16秒は幾らなんでも有り得ないんじゃ・・・抜いて挿して抜いて挿して、4行程を16秒と言う事は一つの作業を僅か4秒で? ランチポッドは2トン以上あるのに?

そこでMLRSに関する、93秒ないし16秒の記述がある英語サイトを調べてきました。


M270A1 LAUCHER - FAS
The ILMS provides a tremendous capability as well. It is designed to reduce fire mission and reload cycle times. This is achieved by providing a faster drive system that moves simultaneously in azimuth and elevation. The ILMS will decrease the traverse time from stowed position to worst case aim point by approximately 80 percent (from 93 to 16 seconds). The ILMS also decreases the mechanical system reload time over 30 percent. The reduced time spent at the launch and reload points increases the survivability of the launcher crew and associated rearm personnel.


M270A1 an MLRS launcher with leap-ahead lethality - BNET
M269A1 ILMS. This materiel change dramatically improves responsiveness. ILMS allows the launcher to move simultaneously in both azimuth and elevation. It reduces the stow-to-aim point time of 93 seconds (worst case) to just 16 seconds--a reduction of 83 percent. Additionally, reload times improve nearly 38 percent, decreasing from 260 seconds to approximately 160 seconds.


Multiple Launch Rocket System - Army Technology
The IFCS provides additional capacity to accommodate complex munitions and modern computer electronics, including video display, onboard navigation with global positioning system, architecture for ultrafast signal processing and advanced mission software. ILMS reduces the time to aim the launcher to 16 seconds (compared to 93 seconds). The reloading time is cut from four to three minutes.


どうやら93秒や16秒といった数字は、全弾再装填時間の事を意味するのではなく、照準に要する時間の事を指していることが見て取れます。ここまで何となく理解したのですが、詳細をよく理解できなかったので、プロのライターの井上孝司さんに説明して貰いました。



>The ILMS will decrease the traverse time from stowed position to
> worst case aim point by approximately 80 percent (from 93 to 16
> seconds).

旋回・俯仰を同時にこなすことで、発射位置に指向するためにかかる時間を短縮。最長のケースで 93 秒 (つまり、もっと速い場合もある) だったのが、16 秒になったと。

>The ILMS also decreases the mechanical system reload time over 30 percent.

↑だから、それに加えて再装填の時間も 30% ほど速くなったのですね。


つまりFASの記述を基準にすると、M270の再装填時間が9分掛かるとすると、M270A1 AVMRLは6〜7分で再装填できるということのようです。ただ装填に要する時間と、其処から発射位置に指向するのに要する時間は別物ですから、厳密に考えると若干違ってきます。また「4分→3分」 (Army-Technology)は、ランチポッド1基分の抜き差しの話だと考えれば理解できます。左右両方で8分→6分ならMLRS1基分の再装填時間なのでしょう。「260秒→160秒」(BNET)も同様。FASの30%という数値よりも若干高い38%ですが、これは元の資料が違っていた可能性があります。

そうなると日本語サイトの「Weapons School」「戦車研究室」は、MLRSの再装填時間を誤まって記述していた事になります。・・・2つとも著名なサイトで皆が良く引用しているだけに、数値の間違いは影響が大きいです。実を言えば私も今回調べてみるまで、勘違いしていました。
21時04分 | 固定リンク | Comment (51) | 平和 |
2008年06月17日
対人地雷やクラスター爆弾の代替兵器として、既に存在している「水際地雷」が挙げられます。これは敵上陸部隊に対してかなり効果的な兵器ですが、敵上陸中のワンチャンスしか使える機会が無く、上陸直前の短い準備期間にどれだけ設置できるかも問題で、使用が限定される兵器です。この兵器は水陸両用車両による敷設の他に、ヘリコプターによる空中投下も出来ます。

水際地雷|Missle&Arms

しかし、例によって存在そのものを消し去ろうとする人達も居ます。


美浜の自然を守る会〜水際地雷反対
5月30日にはダブリンの国際会議でクラスター爆弾の全面禁止条約が採択され、最後まで態度を保留していた日本も条約受け入れに踏み切りました。1997年の対人地雷禁止条約に続いて喜ばしいニュースです。これまで何度も無辜の人々を大量に殺してきた水際地雷(機雷)も禁止の方向に向かっていくことを願ってやみません。


地雷や爆弾と比べて、機雷がどれだけの市民を殺害してきたと言うのでしょうか。地雷の規制にしてもクラスター爆弾の規制にしても、対人殺傷を目的とする兵器が規制されています。対舟艇・対水陸両用車両の水際地雷が禁止されることは無いでしょう。物が大きいので戦闘終結後の廃棄処分も楽ですし、そもそも水際地雷は通常の機雷のように航路や港湾入り口に設置して海上交通を遮断するものではないですから、国民生活への影響も無いです。確かに機雷が全面禁止になれば日本にもメリットはありますが(海上封鎖される危険性を減らせる)、でもどちらみち仮想敵国は全て乗ってこないでしょうから、意味が有りません。仮に機雷を禁止する条約が出来ても特殊過ぎる用途の水際地雷は除外対象としてしまえば良いですし、そもそも機雷を禁止しようという動きが国際的に全くありません。近年、機雷で民間人に多くの被害が出ているなら別ですが、そのような自体そのものがありません。

ちなみに無辜の人々を巻き込みかねない浮遊機雷(何処へ流れていくか分からず処理も困難)に関しては、既に国際条約で制限があります。ハーグ第8条約の「自動触発海底水雷敷設条約」です。

自動触発海底水雷ノ敷設ニ関スル条約|Paganus@homepage

浮遊機雷は投入後1時間で無力化することが義務付けられています。しかし沈底機雷や繋維(係維)機雷は規制されず、水際地雷T型(沈底式)、水際地雷U型(係維式)は国際法で制限を受けません。沈底機雷と繋維機雷が同じ扱いなのは、繋維機雷も結局はアンカーで海底に止まっているだけで、別に杭打ち固定されているわけではない為、機雷自体が海底に鎮座している場合と同じだからです。

旧日本海軍は浮遊機雷を艦隊決戦兵器として使おうとした事があります。「一号機雷」と呼ばれるもので、2個の浮遊機雷をワイヤーで連結し(追記訂正;2個以上繋げていった。基本は6個1組)、ワイヤーを敵艦が引っ掛けると両舷に機雷が接触して被弾します。結局この兵器は使い物にならないとして御蔵入りしたのですが、条約に従ってきちんと投入後1時間で無力化する構造でした。


ぜひ知ってもらいたい基本情報|美浜の自然を守る会
もし、水際地雷敷設訓練場にされたならば、地雷を敷設して上陸を阻止する側と、上陸用舟艇で上陸しようとする側に分かれての大規模演習にエスカレートする危険があります。そして、そうなると、アメリカ軍との合同演習場になる危険も考えられます。

また、日本に大艦隊でもって侵入しようとするような国が全く見当たらない現在、このような訓練を始めるということは、国土防衛というよりも、将来日本が他国へ侵入することを想定しての訓練ではないかという疑念がぬぐえません。


他国は水際地雷のような特殊装備は持っていないので、水際地雷を突破する訓練をしても他国へ侵入する為には全く役立ちませんが・・・どうして防衛訓練を侵攻訓練だと言い張るのでしょうか。しかも現在の条件での話をしていながら将来の話をしていたりと、ご都合主義な設定です。「将来日本が〜」と言うなら「将来他国が〜」とも言える筈です。

ロシアが復活する可能性、急速な勢いで軍拡を続ける中国、北朝鮮とて少数の特殊部隊による上陸の可能性は有ります。将来における可能性を言い出すのであれば、そちらにも目を向けてはどうでしょうか。
06時26分 | 固定リンク | Comment (93) | 平和 |
2008年06月16日
陸上自衛隊がスウェーデン製の指向性散弾「Fordonsmina13 (FFV013)」を導入したのは、1998年に対人地雷が禁止されるよりも前の話です。導入当初は「指向性散弾地雷」と呼称していましたが、対人地雷禁止条約成立後は「指向性散弾」とだけ呼んでいます。兵器としてはアメリカ製のクレイモア散弾地雷のように、昔からある類のものです。遠隔操作で起爆し、扇状の広範囲にベアリング弾を撒き散らします。

Fordonsmina 13 - Wikipedia

クレイモア地雷 - Wikipedia

なお対人地雷禁止条約では手動の遠隔操作で起爆するものを規制の対象外としてある為、既に保有していたFFV013は廃棄する必要がありませんでした。しかしこれは操作を行う兵士が現場に近い場所で監視していないと使えない為、監視センサーと無線指令を組み合わせたシステムとして新たに再構成し、対人障害システムとして進化させています。

対人障害システム - Wikipedia

「障害T型」は80式対人地雷(地中埋設後、起爆するとスプリングにより弾体が飛翔し、空中で炸裂する跳躍地雷)を遠隔操作式にしたもの、「障害U型」はFFV013をそのまま利用しています。どちらも監視センサーと無線装置、中継器を経て指令装置で起爆制御します。

これ等は禁止された対人地雷の代替として扱われていますが、限定的な補完にしかなりません。相手が歩兵と軽車両だけなら、この役割の代替はある程度可能です。ですが対人地雷はそれだけが役割なのではなく、「対戦車地雷の除去作業を妨害して遅らせる」という目的が有ります。というよりは大部隊の敵に対する対人地雷の使い方とは、正にこれこそが主要な役割と言ってよいです。対戦車地雷は対人地雷よりも発見が容易ですし、人が踏んでも起爆しませんから、人の手による除去作業は比較的安全に行えます。近年の対戦車地雷は不用意に解体しようとすると自爆する構造になっていますが、それでも対戦車地雷の周囲に対人地雷が埋まっている場合より、何も無いほうが除去作業は格段に楽です。

しかし指向性散弾ではこの役割が出来ません。指向性散弾は剥き出しで設置する必要があり、しかも指令爆破でないと対人地雷禁止条約に抵触します。つまり発見されやすく、発見される前に起爆してしまわないと敵に打撃を与えられません。効果範囲がかなり広いので、どんどん早めに起爆させる運用になります。これでは対戦車地雷の周囲に指向性散弾を設置しても、直ぐに先に無くなってしまいます。これが対人地雷なら何処に埋まっているか分からない恐れがあり、安全確認の為に大きく時間を取る必要が出てきます。

「障害T型」のような地中埋め込み式の跳躍地雷による指令爆破の場合でも、センサー部分は地上に剥き出しで、センサーと地雷は有線で繋がっています。秘匿性は剥き出し設置の指向性散弾よりも優れますが、やはり通常の対人地雷よりも発見は容易です。通常の対人地雷ならば金属部分をなるべく使わず探知機に引っ掛かり難く出来ますが、センサーと無線に金属部分を使わないなんて事は出来ませんし、地中に埋める事も出来ません。有線部分も発見を容易にしてしまいます。そしてセンサーを発見、破壊されたらそれと繋がっている地雷は無効化されてしまいます。また跳躍地雷自体も内蔵する散弾やスプリングなど金属部分が多く、発見されやすいでしょう。

また手動指令爆破方式の為、管理できる数に限りがあります。それに監視装置で確認してから起爆させる為、目標と爆発物が触接している状態は望めません。その為、「障害T型」にしろ「障害U型」にしろ広範囲に散弾を撒き散らし、起爆した際の制圧範囲は通常の対人地雷(爆風のみで散弾を内蔵せず弾殻破片効果も無い)よりも広く、少ない数でカバーする事が求められました。しかしそれは「敵に除去作業という手間を取らせて進撃速度を遅くさせる」という効果はあまり期待出来ない事を意味します。

つまり対人障害システムとは、少数の敵特殊部隊による浸透行動への対処ならば、警戒監視装置が組み込まれている事を含めて極めて効果的な兵器ですが、装甲車両を含む大部隊による敵正規軍の侵攻へ対処するものとしては、効果がかなり限定されてしまう兵器です。対人地雷を対戦車地雷と組み合わせて使う兵器としてみた場合、対人障害システムはこれを代替できるものではありません。


地雷 - Wikipedia
ただ、外国などからの侵略行為に対し日本の長い海岸線を対人地雷なしに(対戦車地雷を高感度で使用する方法もあるが)どのようにして守るかについては自衛隊をはじめ新たな防衛方法が模索されており、予てより航空自衛隊等が保有しているクラスター爆弾、乃至、新たに開発した対人障害システムを対人地雷の代替とするようであるが、これも極めて限定的な補完にしかならないため、防衛力の空白が懸念されている。


現時点のウィキペディアの地雷項目で「対人地雷の代替としては極めて限定的な補完にしかならない」と記述されている理由を説明したのが、今回のエントリーの主旨です。えらく長くなりましたが、「どうして極めて限定的な補完にしかならないのか」という説明を行ったサイトは何処にも無く、解説してみました。ある程度の軍事知識を持った人ならば、感覚で「指向性散弾では対人地雷を代替しきれない」と直ぐに理解できるのですが、理由を並べて見ると結構理解しなければならない要素が多く、軍事に関心のない人がこのエントリーだけで理解できるかどうかは難しいかもしれません。

フィンランドはオスロ・プロセスの会議上で「クラスター爆弾を対人地雷の代替として使い続けたい」と発言していました。日本もそのつもりでした。対人障害システムのような兵器は対戦車地雷と組み合わせて使うには対人地雷よりも相性が悪く、敵装甲部隊相手に効果が薄い為、クラスター爆弾で敵装甲部隊を直接広範囲に渡って打撃を与えてしまおうと考えた為です。つまり対人障害システムの欠点部分をクラスター爆弾で補おうとしたのです。この二つを併せても対人地雷を代替しきれるものではありませんが、無いよりはマシです。

しかしご存知のとおり、クラスター爆弾は廃棄される事になりました。

そうなると別種の面制圧兵器でクラスター爆弾を代替するか、既存の対人障害システムを上回る新兵器を考案する必要が出て来ます。しかし制約の中で効果の高いものを考案するのは容易ではありません。
05時32分 | 固定リンク | Comment (92) | 平和 |
2008年06月14日
ある意味予想通りの反論が返って来ました。「スパイク通信員こと田中昭成氏は何か勘違いしていないか」を受けて、スパイクさんからのお返事です。ただ、事前に予想していたよりは反論のトーンはかなり弱い印象です。


JSF氏からの反論について
私はJSF氏の意見だけに対して反論を書いたのではありません。それは私が書いた文章をよく読んで頂ければ分かるはずです。

〜中略〜

確かに、「週刊オブィエクト」には6月4日の記事として、ノルウェーとフィヨルド地形に関する記述があります。私もこの記事を読みました。しかし、私が書いたのはこの記事に対してだけではありません。「クラスター爆弾」というキーワードで検索してみれば、この種の意見はいくつも見つかります。

〜以下略〜


私はてっきり、「貴方のサイトの事を言っているのではない。貴方の6/4の記事は読んでいない」と言ってくるものだと思っていましたが、スパイク氏は「貴方の記事だけに反論しているのではない」という返答で、それはつまり私の記事も含まれているという事になります。それならば問題はありません、後はお互いの記事内容を読んで、妥当かどうか見比べてみればいいのです。「地形状、ノルウェーはクラスター爆弾への依存度が低い」という事が確かであるならば、スパイク氏の6/9の記事の最後の主張部分は間違っていた、という事になります。しかしスパイク氏は肝心のその部分の検証は一切行おうとせずに、「他にもノルウェーの地形に言及した人はこんなに居る」と検索で見つけてきた例を並べ立てるだけで、私の記事の中味には一切、手を触れようとしていません。それは、問題の核心部分から逃げているように見受けられます。


JSF氏からの反論について
確かに、「週刊オブィエクト」には6月4日の記事として、ノルウェーとフィヨルド地形に関する記述があります。私もこの記事を読みました。しかし、私が書いたのはこの記事に対してだけではありません。「クラスター爆弾」というキーワードで検索してみれば、この種の意見はいくつも見つかります。先に引用した西村真悟衆議院議員のサイトには「クラスター爆弾が無くなっても当面、国防上の脅威を感じない北欧やイギリス、フランスそしてイタリアなどの諸国とは我が国の位置が違う。」という記述があります。この発言はフィヨルド地形を直接指しているわけではありませんが、こうした見方が存在するという事実があり、私が引用したウィキペディアの記事にも日本の海岸線の特性に関する記述があります。


これは北欧を含む欧州全体の事を指しているわけですから、フィヨルド地形とは全然無関係な話でしょう。「冷戦終結でソ連の脅威が無くなった欧州とは違い、日本は中国や北朝鮮の脅威がある位置に居る」という意味の筈です。つまり西村議員は戦略的な環境と言う意味で『位置』について発言したのであり、戦術的なレベルでの話となる『地形』の話はしていません。第一、北欧とはノルウェーだけを指すわけではありませんし。(その意味でクラスター爆弾廃絶に反対だったフィンランドについて触れていない西村議員の主張は若干不適切)

スパイク氏は戦略論で語られた「位置」と戦術論で語られた「地形」をきちんと区別できていないようです。これらは全く次元が違う話であることを理解して下さい。


JSF氏からの反論について
私の意見が複数の人たちに対するものであることは、「人たち」という表現を用いたことからも明らかです。疑問なのは、JSF氏が私の記事を読んだ時に、なぜそれが自分だけに向けられた意見だと断定できたのかです。JSF氏が主張するとおり、私が書いたこととJSF氏が書いたことはかぶる部分はあっても、若干異なっています。指摘した内容が違うのだから、自分の意見への反論だとは考えないはずです。それを私を名指しで反論しているのには、何か理由があったのだと考えざるを得ません。


「書いたことは被る部分はあっても若干異なっている」というなら、今回スパイク氏が例として挙げている「艦長日記へようこそ!」「白砂青松のブログ」のコメント欄での書き込みとて、スパイク氏の6/9の記事の指す主張とは若干異なっています。西村議員の主張に至っては被る部分すら無く、まるで無関係です。

大勢の意見を一纏めに対象にした書き方が、それぞれの個人の主張と若干異なってくるのは当然のことでしょう。スパイク氏の6/9の記事の内容は「地形状、ノルウェーはクラスター爆弾への依存度が低い」と主張している人全てを対象にしています。対象を特定せず「人たち」と範囲を広げている以上、それらの「人たち」全てから反論を受ける可能性があって当然の話です。相手を名指しさえしなければ反論を受けないだろうと思い込むのは、単なる甘えに過ぎません。

スパイク氏の為すべき事は「地形状、ノルウェーはクラスター爆弾への依存度が低い」という事が正しいかどうか、これに対する検証作業の筈でしょう。何故、やろうとしないのですか?


JSF氏からの反論について
ところで、JSF氏もまた私の意見を曲解しています。私は「ノルウェーは海岸線が上陸作戦に適さないフィヨルド地形だから、クラスター爆弾への依存度が低く」と書いたのであり、JSF氏が私が書いたと主張する「ノルウェーへの上陸は困難だからクラスター爆弾の依存度は低い」と書いた覚えはありません


「海岸線が上陸作戦に適さない」=「上陸作戦を行うには困難がともなう」、意味合いとしては同じ筈です。『曲解」という言葉は、意味を捻じ曲げて解釈するというモノであって、使っている単語が違っていたらイコール曲解だ、とはなりません。脊髄反射で鸚鵡返しをしても何の意味も無いのです。


JSF氏からの反論について
私は「週刊オブィエクト」は内容が参考にならないと考えているので、たまにしかアクセスしません。T-72戦車を神として崇拝すると自認する人と軍事の議論ができるとは考えないからです。


私は「T-72戦車を神として崇拝する」というジョークと、それに無関係な軍事考察とを分けている筈ですから、T72神ネタのみを持って「週刊オブイェクトの内容は参考にならない」とするのは当たらないと思います。ネタにマジレスされても困るなぁ・・・フザけているのは確かですが、私はこのブログを趣味でやっているのであって、プロの軍事ライターではないのですから。


JSF氏からの反論について
JSF氏が反論をしたいのなら、議論を確実なものにするために、まず自分の意見に対する反論かどうかを、私に確かめてからにして欲しかったと思います。こうしたトラブルを防ぐために、今後は引用元を明確にすることにしますが、JSF氏にも注意と配慮をお願いしたいものです。そうしないと意味のない泥仕合になるだけです。


確かめるまでも無くスパイク氏は「地形状、ノルウェーはクラスター爆弾への依存度が低い」という説を否定なさっていたので、私はスパイク氏の指摘が間違っている事を具体的に説明しました。そしてスパイク氏は私の意見を含めた主張に対して言及した事を認めているのですから、「JSF個人に宛てたのではない」という言い訳は通りません。いっそ私が「地形状、ノルウェーはクラスター爆弾への依存度が低い」という主張の代表としてスパイク氏に反論した、と受け取ってもらって結構です。

「意味の無い泥仕合」をしたくないのであれば、これ自体は簡単な話で、お互いの主張の核心部分を突き合わせて検証すればよいだけの事なのです。私は、ノルウェーのクラスター爆弾依存度が低い理由を、「迎撃に使えば自分達の街を巻き込むから」とし、その理由を「敵の上陸地点が市街地と近接する」それは、「フィヨルドという地形状」に起因すると答えています。この事は第二次大戦中のドイツ軍によるノルウェー上陸作戦「ヴェーゼル演習」を良く知っていれば簡単に理解出来ることです。

「もしドイツ軍侵攻時、ノルウェー側にクラスター爆弾があったら?」

この条件をシミュレートすれば理解できます。もしクラスター爆弾があっても、使う機会が非常に少なかったであろう事が理解できるはずです。それなのにスパイク氏は「(フィヨルドを理由にする人は)ヴェーゼル演習を忘れています」と言いました。しかしヴェーゼル演習がどういう作戦だったか、理解していないのはスパイク氏こそではないでしょうか。


・・・結局、スパイク氏は内容の正否については一切言及して来ず、言い訳ばかりに終始している感じです。


追伸;今後は引用元を明確にされるという事で、それはとても良い事だと思います。
02時00分 | 固定リンク | Comment (108) | 平和 |
2008年06月09日
以前クラスター爆弾規制に関する話の中で、ノルウェーは日本と同様に海岸線が長いにも拘らず、オスロ・プロセスを呼び掛けたのは何故なのかという点について話しました。(日本はクラスター爆弾保有の理由に「長い海岸線の防御」を理由に掲げていました)


どのみちMLRSクラスター弾頭型は廃棄される方向にあった (2008年6月4日)
ノルウェーは、自国の海岸線が長いもののフィヨルドという断崖絶壁の地形状、上陸可能地点が極めて限定されており、また数少ない平坦な上陸可能地点は必然的に人口密集域であり、侵攻側も迎撃側も多大な困難を伴う戦闘を強いられます。上陸側は奇襲上陸が望めず敵前強襲上陸を強いられ、迎撃側は戦力の集中は容易でも戦場が市街地に近すぎ、クラスター爆弾のような面制圧兵器は使い難いのです。


ところがこの部分が、田中昭成氏の手に掛かると以下のように曲解されてしまいました。


平和を望む人限定「スパイク通信員の軍事評論」
ところで、クラスター爆弾禁止条約を推進したノルウェーは海岸線が上陸作戦に適さないフィヨルド地形だから、クラスター爆弾への依存度が低く、その廃絶を主張しやすいのだという意見を展開する人たちがいます。これは、第2次世界大戦でドイツ軍が上陸作戦(作戦名 ウェーゼル渡河演習)でノルウェーに侵攻したことを忘れています。こうした下手な理屈は議論を停滞させるものです。


私は「ノルウェーへの上陸は困難だからクラスター爆弾の依存度は低い」などと書いた覚えはありませんが。また「ヴェーゼル演習」については当然知っていますし、むしろそれを十分に念頭に置いて書いていたつもりです。6月4日に書いた記事では、

「フィヨルド地形は上陸可能地点が極めて限定される」
「希少な平坦な上陸可能地点は必然的に人口密集域」
「戦場が市街地に近すぎ、クラスター爆弾は使い難い」

以上のように解説しました。ノルウェーの地図を見れば分かりますが、主要都市は沿岸部にあります。海岸線はフィヨルドにより切り立った地形の上、ノルウェーの国土は内陸に入ると直ぐに山岳地帯になるので、陸地伝いによる侵攻は時間が掛かり過ぎます。実際に過去のドイツ軍も「ヴェーゼル演習」ではオスロ、ベルゲン、トロンヘイム、ナルヴィクなどの沿岸都市を占領する際に、個別の上陸部隊をそれぞれ差し向け、同時に侵攻しています。

上陸作戦は上陸直後の無防備な状態で密集している時が一番危険です。その為、なるべく敵の少ない箇所を選んで奇襲上陸し、体勢を整えてから侵攻する必要があるのですが、ノルウェーのような条件で上陸となると上陸可能地点は極めて限られているので強襲上陸に成らざるを得ません。しかも上陸できそうな平坦な地形は、つまり希少な居住に適する地形は必然的に人口密集域であり、港に直接乗り付けて上陸作戦を行うような事が「ヴェーゼル演習」では実行されています。それは市街地付近ないし市街地そのもので上陸戦闘を行う事を意味します。この状況下で例えクラスター爆弾が有っても使えるのか、と説うています。

上陸側とて好き好んで強襲上陸を仕掛けたいわけではありません。しかし地形状、そうなってしまうのです。迎撃側も好き好んで市街戦をやりたいわけではありません。しかし洋上撃破に失敗したら自動的に市街地付近に上陸されてしまうのです。ノルウェーは地形の問題で国防上、誰も居ない開けた野外で敵主力と交戦し、撃退するというシナリオが築けません。もし迎撃に面制圧兵器を使った場合、自分達の街を巻き込む事になります。

だから、ノルウェーはクラスター爆弾をあまり必要としていなかったのです。もし有っても使える機会が極めて少ないのです。日本と同じ「長い海岸線」であっても、ノルウェーは全く状況が異なります。


田中昭成氏は、私が6月4日に書いた記事を全く読み取れていなかったように見受けられます。
22時31分 | 固定リンク | Comment (82) | 平和 |
2008年06月08日
燃料気化爆弾といえば、これほどまでに誤解された兵器もないと思います。一時はマスコミの間でデイジーカッターの事を燃料気化爆弾だと解説するようなデマがまかり通ったり、一部では「核兵器に匹敵する威力だ」とまで極端な過大評価をされています。

そして中には、物理的に全く有り得ない効果範囲を主張する人達も居るわけでして・・・


[解説]燃料気化爆弾 [StopUSwar]
この爆弾が爆発すると、衝撃波によって地上の構造物はことごとく破壊され、数km四方が火の海となる。さらにその激しい燃焼によって周辺地域では急激に酸素が奪われる。たとえ、塹壕や地下に隠れていたとしても、数km以内に存在する人間は高温の炎と窒息効果によってことごとく死に至る。また、酸素の減少と凄まじい上昇気流によって生じた急激な気圧低下は、内臓破裂等を引き起こす効果があるとも言われている。気化爆弾には、いくつかのタイプがあるが、最大のものでは、その効果範囲は半径8kmである。


半径8kmの効果範囲・・・この記事を書いた人は、果たしてその数値の持つ意味の重さを理解しているのでしょうか? これだけの被害半径は、メガトン級の核爆弾でようやく達成できる数値です。(爆風効果範囲を対人殺傷で評価した場合)また、付随効果(酸欠、窒息など)の説明も間違っています。というかこの解説からは正しい個所を禄に発見できません。一体、どんな資料を参考にしたのでしょうか。噂では結構著名な軍事誌がソースらしいのですが・・・

一方ロシアは昨年、史上最大の燃料気化爆弾「Папа всех бомб」の危害半径を発表しました。

ロシア軍、大型燃料気化爆弾「Папа всех бомб」を開発

この時にロシア側から公表された数値は「殺傷半径300m」とありました。

・・・改めて読み返してみると、意外と狭いですね。一方で「核爆弾に匹敵する」と主張しているのはお約束ギャグでしょうか。低出力核兵器の中にはデイビークロケットのような0.01〜0.02キロトン級という物も実在していた為、そう言えないこともないのですが、しかしこれは通常爆弾10発分程度の威力に過ぎません。

また燃料気化爆弾は爆風範囲は通常爆弾より広いのですが、通常爆弾が持っている弾殻の破片効果はありません。爆風による殺傷半径はその全域が効果範囲ですが、破片効果は遠くへ行けば行くほど放射状に隙間が広がります。しかし到達距離は爆風より大きくなります。その為、破片効果の存在しない燃料気化爆弾の制圧範囲は見た目の派手さに比べてそれほど大きくありません。
06時46分 | 固定リンク | Comment (66) | 平和 |
2008年06月07日
以前紹介したサーモバリック弾系統以外で考え付きそうなのが、古来から存在する散弾系の弾薬です。

榴散弾(榴霰弾) - 大砲と装甲の研究
散弾(Canister) - 大砲と装甲の研究

榴弾が弾殻破片で殺傷効果を得るのに対し、榴散弾は散弾を内蔵しています。また、飛び散る散弾の形状を矢型状にして貫通力の増加と起爆後の射程の延伸を狙ったフレシェット弾というものもあります。散弾(Canister)はショットガンと同じく、砲口から直接散弾が飛び出していきます。







動画は戦車砲から発射する散弾です。これは対歩兵近接防御目的に使うもので、遠距離にいる目標には榴散弾を用います。しかし日露戦争の頃には主役だった榴散弾は、起爆位置を正確に出来ない事や塹壕等の陣地攻撃には不向きだったので、今では榴弾に取って代わられ、戦車用の対歩兵装備として散弾(キャニスター)とフレシェット弾タイプの榴散弾があるくらいです。現代ではVT信管の存在で砲弾を最適位置で起爆させられるのですが、榴散弾が砲兵火力として復活する兆しはありません。フレシェット弾タイプで個々の弾子を大型化するなどの工夫を試みても、クラスター爆弾の代替は難しそうです。また前大戦中に日本海軍が使用した三式弾のような焼夷榴散弾タイプは、特定通常兵器使用禁止制限条約の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」に引っ掛かります。


Dart bombs 'killed four Palestinians':BBC NEWS
The Palestinian Health Minister, Riyad Zanoun, said Israel had fired flechettes, which he said were illegal under international law.

Leading defence journal, Jane's Defence Weekly, says the use of flechettes in war is not prohibited by the Geneva Convention.


上記BBCニュースで、イスラエル軍が使用する105mm戦車砲用フレシェット弾の詳細な解説図が載っています(注;図にはM546とあるが実際に使用されているのはM494で、信管の位置も間違いがあり、実際には前部にある)。効果範囲だけ見るとクラスター爆弾並みに思えますが、ちょっとした遮蔽物で効果は半減するので、カタログスペックどおりには行かないようです。

一部ではキャニスター弾やフレシェット弾はジュネーブ条約の「戦闘においては敵に不必要な苦痛を与えない」とする取り決めに違反する、と主張していますが、ジェーン誌の解説にあるように別に国際法違反の兵器ではありません。ジュネーブ条約のこの規定で明確に禁止されたのはダムダム弾のみで、散弾系が禁止対象の範疇に入りそうだと嫌疑が掛けられたのは、微細な散弾が人体に命中すると治療で取り出す事が出来ないから(不必要な苦痛を与える)であって、散弾の粒が十分に大きい場合、問題がなくなります。つまり歩兵用の散弾銃は粒が細かいので戦場での使用は条約違反の疑いがありますが、大砲で発射する散弾は粒が巨大なので(当たれば大抵即死、助かっても摘出は容易)条約には触れません。不必要な苦痛を与えない、という事は、必要な苦痛なら与えても良い、ということであって・・・
21時49分 | 固定リンク | Comment (50) | 平和 |
2008年06月04日
実は、オスロ・プロセスのダブリン会議によるクラスター爆弾の実質上全面廃棄の決定とは無関係に、MLRS用のクラスター弾頭型ロケットは廃棄される方向にあったようです。


Lockheed Martin MLRS Rockets (M26/M30/M31) - Designation-Systems.Net
In January 2006, the U.S. Army announced that the majority of (possibly all?) future purchases of tactical MLRS rockets will be M31s with unitary warhead. Production of the bomblet-equipped M30 will not be continued, because the dud rate of the M85 DPICM bomblets could not be brought below 1%.


「2006年1月に、アメリカ陸軍は戦術MLRSロケットの大多数(恐らく全て?)の将来調達予定が単一弾頭のM31になると発表しました。 クラスター子弾を装備したM30の生産は続けられません。何故なら搭載するM85クラスター子弾の不発率を1%以下に持っていく事ができなかったからです。」

アメリカは2001年1月というかなり早い段階で、「2005年以降に生産するクラスター爆弾の不発率を1%以下とする」という内部規定を発表しています。しかしMLRS用の新型ロケット弾M30に内蔵されているM85子弾(従来型のM26に内蔵されるM77子弾に自爆機能を付けた物)が不発率1%以下に抑えることが出来なかった為、今後の生産はM31単弾頭ロケットに絞られていく、と2006年1月の時点で発表されているのです。そしてM85子弾に代わる新設計のMLRS用クラスター子弾開発の話は出ていません。つまりこのままでは、MLRS用の弾薬からクラスター弾頭型は消えていく運命にありました。

この事の裏を取るべく元記事や他のソースを探していたのですが、自分では見つける事が出来ず、アメリカ在住の「バグってハニー」さんに見つけて来て貰いました。


719 2008年06月04日 06:24 バグってハニー in 軍事板常見問題mixi支隊
元になった記事は見つからなかったです。www.army.milのプレス・リリースは2006年1月まで遡れなかったのですが、Armada Internationalという軍事雑誌に同趣旨の記事はありました。

Rocket Revolution by Ian Kemp
http://www.armada.ch/07-2/article-full.cfm
The US Army announced in January 2006 that as the dud rate of the M85 DPICM bomblets could not be brought below one %, most if not all GMLRS rockets bought in the future would be M31s.

ただ、M31ユニタリーがイラクで目覚しい戦績を挙げている旨の記事はたくさん見かけました。今後ますます市街地での戦闘が多くなることが予測されること、民間人を含むコラテラル・ダメージが無視できなくなってきたこと、精密誘導の信頼性が向上したことなどの理由からクラスター弾頭にこだわる理由がなくなったみたいですね。米陸軍はロッキード・マーティンにM31の開発と納入をずいぶん急がせたみたいです。

ところで、米軍は2003年のイラク侵攻以降一切クラスター爆弾を使用していないそうです。それで、米国はこのクラスター爆弾制限会議には参加してないのですが、去年、不発率が1%以上のクラスター爆弾の輸出・譲渡を禁止する国内法を制定していて、
Cluster Munitions Civilian Protection Act of 2007
http://feinstein.senate.gov/07releases/r-cluster-bombs0215.htm
実質的にクラスター爆弾の輸出を全面停止してますね。ですから、FAQの

【質問】 クラスター爆弾禁止ということは,敵上陸部隊が進攻してきた時,自国のみで防衛が不可能になったと言うことでしょうか?
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq05g02g.html#12782

の回答にある

『アメリカはこの条約に署名しないことを公言しているので,有事の際にはアメリカからロケット弾の提供を受ける,という抜け道はある.発射装置そのものは規制の対象にはならないので,普段は自走発射機だけ持ってて有事の際にロケット弾だけ国外から提供してもらえばいい (在日米軍基地は国外です.法律的に)』

というのは間違いですね。いちおう、大統領には米国の安全保障にとって緊急の事態においてはこの条項を拒否する権限はあるようですが...。まあ、だから日本がこの条約案に反対したところで現在保有しているクラスター爆弾の更新時期がきたらやっぱり困っちゃうでしょうね。それで、制限条約には米国が参加してないので意味がないとかいう人がいるんですけど、これはまったくの嘘で、対人地雷条約が発行してから米国はただのひとつも新たに地雷を埋設してないことからも分かるとおり、こういう条約は参加していない国にも使用をためらわせる大きな心理的負担になりうるわけです。ちなみにここ10年で地雷を使用したのはビルマ(と報道によってロシア)だけだそうです。

英国はどうかというとこちらもおばかな(dumb)クラスター爆弾BL755(航空自衛隊のCBU-87/Bに相当すると思うのですが)とM26を去年の時点ですでに退役させています。
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/may/28/military.defence1
さらに、9名の退役将軍(湾岸戦争で"砂漠の鼠"第7機甲師団を率いたPatrick Cordingley少将、前NATO司令官Jack Deverell卿など)が連名で英国政府にクラスター爆弾宣言条約に参加することを呼びかける書簡を公開しています。
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/letters/article3957464.ece
ゴードン・ブラウン首相は頭がおかしい、とかいう人をよく見かけるのですが、MoDが制限条約に反対する中、彼は「英断」を下したわけですが、その影にはこういう援護射撃もあったようです。

NATOもアフガニスタンではクラスター爆弾を一切使用してないです。まあ、だから今回の制限条約の話が出る前からクラスター爆弾はすでに使えない兵器に成り下がっていたわけで、こんな中で日本だけ反対すれば日本は空気読めない子なわけで、福田首相の決断はしごく妥当ではないかなあと。日本はまったくの防御用に使用することを想定していたのでずいぶん異なる文脈にあることは確かですが。


ただし「対人地雷条約が発行してから米国はただのひとつも新たに地雷を埋設してない」という点については、当たり前の話だと思います。毎日新聞も社説で「対人地雷禁止条約にも米国は参加していないが、イラク戦争で地雷は使わなかった。」と書いてますが、実はこれは反クラスター爆弾NGOの纏め役トーマス・ナッシュ氏の主張そのままで、実は当ブログで1年半前に言及済みだったりします。


反クラスター爆弾キャンペーン(2006年11月23日)
そもそも地雷という物は防御に使う兵器なんです。敵軍に攻め込まれた時に初めて出番がやってくる物であり、攻勢作戦では特に使う必要がありません。そして最近のアメリカやイスラエルは攻勢作戦しか行っていません。だから「条約発効後は対人地雷を使っていない」なんて事は当然なんですよ。アメリカが対人地雷禁止条約に参加していないのは「38度線の防御でどうしても地雷が必要だから」という理由で、韓国を守る為なんです。

受動的な防御兵器の地雷に対し、クラスター爆弾は能動的な攻撃兵器(ただしこれは通常の爆弾でも同じ意味合いの話)です。だから禁止条約参加国以外は、使う時には使うかもしれない。トーマス・ナッシュ氏の希望的観測は、このことを理解していない、或いは知っていて触れていない恐れがあります。


イラク戦争は侵攻作戦でしたので、米側が地雷を使う意味がありませんでした。また大規模戦闘終結後の治安維持戦闘でも、むしろ武装勢力側が地雷や仕掛け爆弾(IED)を多用して米軍を攻撃しています。地雷とは防御的な兵器である事を忘れてはなりません。

また「日本はまったくの防御用に使用することを想定していたのでずいぶん異なる文脈にある」という点も確かです。イギリスは周辺国が全て友好国であり、ソ連も崩壊し(ロシアは復活しつつありますが以前のソ連ほどではない)、自国に攻め込まれる危険性が以前と比べて大幅に減少しています。イギリスは日本と同じ島国という条件ですが、日本は完全に後方ではなく領土の一部が前線に掛かっている違いが有ります。

そしてオスロ・プロセスの最初の開催国であり、クラスター爆弾禁止の旗振り役であるノルウェーは、自国の海岸線が長いもののフィヨルドという断崖絶壁の地形状、上陸可能地点が極めて限定されており、また数少ない平坦な上陸可能地点は必然的に人口密集域であり、侵攻側も迎撃側も多大な困難を伴う戦闘を強いられます。上陸側は奇襲上陸が望めず敵前強襲上陸を強いられ、迎撃側は戦力の集中は容易でも戦場が市街地に近すぎ、クラスター爆弾のような面制圧兵器は使い難いのです。日本はクラスター爆弾保有に対し「長い海岸線」を理由の一つにしていますが、それに対する反論で「ノルウェーだって長いじゃないか」という意見もあるのですが、上記のように海岸地形が全く異なるので同列には扱えません。

ですが、オスロ・プロセスのダブリン会議決定以前にMLRS用のクラスター弾頭型が廃棄される方向にあったことと、ダブリン会議での全廃への方向の流れ(英仏独だけでなくフィンランドですらも賛成に廻った)を見る限り、日本単独で反対してもどうにもならなかった事は確かです。今回の会議では自爆機能をつけた「改良型」ならば保有が認められると思っていたのですが、会議が始まった当初から雲行きが怪しく、会議中盤から終盤に掛けて「最新型」(実質的に対戦車専用)以外は全面廃棄という方向になり、異議を唱えているのが日本だけとなった時点で、私はもう諦めていました。ダブリン会議は全開一致方式ではなく、多数決方式だからです。会議の途中で席を立って帰るという選択は戦前の日本でならいざ知らず、戦後の日本では考えられません。批准をなるだけ遅らせて粘るという戦法も、会議参加国で日本以外に同調する国が皆無と言う状況では、早いか遅いか、若干違うくらいのものでしょう。外的および内的圧力は相当なものになり、抑えきれません。ならば韓国のように最初からオスロ・プロセスの会議に参加すべきではなかったのかもしれませんが、これは結果論に過ぎず、会議参加を決めた前政権を責めるのも酷な話です。最終的な責任は決断した現政権にあります。ですが会議の流れや、会議以外での状況を見る限り、MLRSについてはどのみちクラスター弾型は無くなってしまう方向は避けられませんでした。

会議とは無関係にMLRS用弾薬の生産国アメリカが「今後のMLRS用弾薬の生産はM31単弾頭ロケットに絞る」としている以上、会議の結果がどうあれ、どのみちMLRS用の弾薬からクラスター弾頭型は消えていく運命にあったのです。
21時15分 | 固定リンク | Comment (101) | 平和 |
2008年06月01日
現状でクラスター爆弾以外の「面制圧兵器」となると、真っ先に思い浮かぶのが燃料気化爆弾、サーモバリック弾の系統です。

燃料気化爆弾 - Wikipedia
サーモバリック爆薬 - Wikipedia

もう呼び方としては「サーモバリック弾」で統一した方がよいのかも知れませんが、まだまだ世間には良く知られていない兵器の為、燃料気化爆弾という呼称も使われ続けています。この種の兵器はロシアが開発に熱心で、チェチェン紛争で投入され成果を挙げています。







ただしこのTOS-1ブラチーノは遠距離砲戦用ではなく、有効射程は3500mまでで、近距離での敵歩兵掃討を狙った仕様です。遠距離砲戦用のBM-30スメルチ自走多連装ロケットシステムには9M55S弾頭という射程70kmのサーモバリック弾が用意されており、この種の兵器を地対地ロケットで運用する事に無理はありません。なおスメルチにはクラスター弾頭、単弾頭、サーモバリック弾頭に加え、対戦車誘導弾頭も用意されています。

TOS-1 - Wikipedia
BM-30 - Wikipedia
08時20分 | 固定リンク | Comment (171) | 平和 |
クラスター爆弾を装備する以前の日本の防衛について、装備した後との決定的な違いを一つだけ語ります。


意味のない防衛計画〜「クラスター爆弾」について - いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」
>はてなブックマーク - クラスター爆弾、対戦車誘導型以外を全面廃棄へ 週刊オブイェクト

毎回文句を言う人たちが大勢いるみたいですが、それがないとどうなるっての?
クラスター爆弾が装備される前には、日本の防衛はどうだったんですか?
そもそも、持ってなかったじゃないですか。それとも、持ってないと防衛できない、と?(笑)


それでは、日本の防衛をクラスター爆弾が装備される前の状態に戻しても良いのですか? それはつまり、対人地雷の復活を意味するのですが。



【追記】

意味のない防衛計画〜「クラスター爆弾」について(追記) - いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」
追記:6/1 10時半ころ

JSF氏から「決定的な違いを一つだけ」語っていただきました。わざわざウチのようなオメガ級寂びれブログの要望にお応えいただき有難うございます。

〜中略〜

軍事・防衛関連の豊富な知識を有するであろう、その道のオタクの方々とかJSF氏をもってしても、これだけしか答えられない、というものと理解いたしました。


いいえ、勘違いしないで欲しいです。私がこの一点のみにお答えしたのは、「怒りのぶろぐ」さんが記事中で私のブログに言及した部分が其処だけだったからです。他の部分は大勢の方がコメント欄でツッコミを入れていますし、わざわざ私が言及するまでも無いかと。

では、追記のその後の指摘に関して一応言及しておきますが・・・



a)以前、対人地雷を保有していた
b)クラスター爆弾の方が対人地雷よりも優れた兵器だ

この2点を示したところで、クラスター爆弾保有を肯定する理由や他の防衛手段に優先することの説明にはならないわけですが、最も答えやすい部分だけ答えたのではないかと訝りたくなりますね。


まず(b)がおかしいです。私はそのような事は一言も言っておりません。まず「怒りのぶろぐ」さんが『クラスター爆弾を装備する以前はどうだったんですか?』と仰られていたので、私は『クラスター爆弾を装備する以前は地雷を装備していました』、と答えました。要するに地雷が有るのならクラスター爆弾は要らなかったのです。地雷が禁止されたので、しょうがなくクラスター爆弾を導入したのです。

これにより、追記前の「怒りのぶろぐ」さんの主張部分、



毎回文句を言う人たちが大勢いるみたいですが、それがないとどうなるっての?
クラスター爆弾が装備される前には、日本の防衛はどうだったんですか?
そもそも、持ってなかったじゃないですか。それとも、持ってないと防衛できない、と?(笑)<


という部分が全て無力化されたのです。・・・この事を理解できていますか? できていないのでしょうね。


【追記2】

クラスター爆弾の補足編 - いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」
・対人地雷を保有していたことから「クラスター爆弾は要らなかった」にも関わらず導入
・「対人地雷が禁止されたので、しょうがなく導入」ではなく、それ以前から導入
・対人地雷の代替兵器はクラスター爆弾とは別(指向性散弾)に存在
・使用目的は対人地雷とは異なる


このあたりの指摘については、実は一年前の時点で言及済みです

「対人地雷の代わりにクラスター爆弾を使いたい」という事の意味 (2007年5月24日)

対人地雷禁止の流れは、1980年の段階でCCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)の議定書Uから始まっています。(1987年からCBU-87/B導入開始)これに加えてCCWの枠外で始まった禁止運動の動きは1992年に本格化し(同年、MLRS導入開始)、そして1999年の対人地雷禁止のオタワ条約へと繋がっています。

禁止条約に加盟する以前に、将来に加盟する事をある程度見越して代替用の兵器を前以て確保しておくという保険は、ごく普通の事でしょうね。そうでないといざ加盟する時に大慌てする事になりますから。今回のクラスター爆弾禁止でも、イギリスはM31ユニタリー弾頭を数年前から確保済みで、ドイツは条約制限内の「新型」クラスター弾を生産しています。日本も数年前からGPS誘導爆弾JDAMを導入開始済みです。

【追記3】

アメリカがオスロ・プロセスとは関係無く、2001年の時点で「2005年以降に生産するクラスター爆弾の不発率を1%以下にする」と表明した事、またMLRSの新型M30ロケットのM85子弾が1%以下の不発率をクリアできず、生産中止の方向になり、単弾頭のM31ロケットの生産に絞っていく事を2006年に決めた事。

以上の出来事をよく理解してください。正式に規制される前に自主規制を行う事は良くある事です。
01時03分 | 固定リンク | Comment (128) | 平和 |