2006年11月14日
核武装論の是非を問う。議論をそのものを排除してはならない。核武装に反対するならば、議論の場で堂々と否定すればよい・・・私は日本が独自に核武装することについては反対ですが、議論そのものまで封殺しようとする旧時代的な動きには反対です。

それに対し民主党の小沢さんや鳩山さんは、過去に核武装についての議論を容認すべきだと訴えていたのに、いざ政府を叩けそうだとなると簡単に前言を翻して議論そのものを否定しようとするのは・・・まぁ、相変わらずの行動だな、としか。そして国民世論の動向を読み間違える、と。(これも相変わらずのパターン)


初陣2勝、政権に弾み 衆院補選 [10/23 朝日新聞]
中川昭一自民党政調会長や麻生外相の核保有議論をめぐる発言を批判したが、流れを変えられない。「(核保有発言に)世論や報道が反応しなくなっている」。小沢氏は18日、こうぼやいた。

日本テレビ2006年11月定例世論調査 [11/13]
[ 問15] 政府・自民党内で、日本の核保有をめぐる議論が出ています。安倍総理は、「核は保有しない」「非核三原則は守る」とした上で、核の議論を容認する考えを明らかにしています。あなたは、核について具体的な議論をすることについてどう考えますか?

(1) 積極的に議論すべきだ 25.4 %
(2) 議論があってもよい 46.6 %
(3) 議論をする必要を感じない 12.1 %
(4) 絶対に議論すべきでない 9.7 %
(5) わからない、答えない 6.2 %


核武装の論議についての容認が72%、これは別に驚くような数値ではありません。実は冷戦時代の真っ盛りの頃の似たような調査でも、核武装の“可能性自体”は否定しない、という意見が5割ありましたから、北朝鮮の核実験という昨今の情勢を考えれば十分予測できる数字です。

何故、民主党が世論の動向を読み間違えたのかは、条件反射的な政府叩きや党内左派への配慮もあるでしょうが、それ以上に「独自の調査能力の欠如」が大きいと思います。自民党は独自に世論調査を行っている事が既に知られています。今回の閣僚の核武装論容認発言も、事前に得た国民世論のデータを踏まえた上で発言を行っていると考えるべきです。

民主党はこのままでは政権交代など覚束ない事は間違いなく、二大政党制の先輩たち(英国の労働党、米国の民主党は政権奪取の折にライバル政党の政略を真似てより強化する場合がある)に学ぶ事もないのでしょう。


さて、そこで議論自体をすべきでないと主張する方を紹介して見ます。


議論すること自体の問題:la_causette
そのことは、「国土防衛の手段として核兵器を独自に保有」しようとしている北朝鮮政府に対してそれは「選択が許されない政策」だとしてこれを止めさせようとしている国際社会を裏切るような話なので、非難囂々となることは仕方がないことです。

ところが前述のように国内世論は7割が容認していますし、国際世論でも非難轟轟とはなっていません。何故なのか? 実は、20年前にヨーロッパで同じような先例があるからなのです。

それは、ソビエト連邦が新型中距離核ミサイル「RT-21M(NATOコードSS-20 SABER)」を配備したことから始まる狂想曲でした。このIRBM(中距離弾道弾)としては大柄なSS-20は、ヨーロッパ全域を射程に収めた上にMIRV化し、三つの核弾頭を搭載する非常に強力な核戦力であり、只でさえ核戦力に差を付けられていたと思っていた西側諸国は恐慌状態に陥りました。「SS-20に対抗する為、我が国にNATOの新型核ミサイルを配備しろ!」という要求がNATO・・・いえアメリカに出されました。当時左派SPD政権のシュミット首相のドイツからさえも。

そこでNATO、アメリカは決断を下します。

「ソ連に対しSS-20の撤去を要求する」
「SS-20の脅威に対抗する為に、パーシング2を配備する」
「ただしSS-20を全廃させれば、パーシング2も撤去する」

こうしてドイツに中距離弾道弾パーシング2(終末誘導に画像認識装置を装備し、IRBMとしては驚異的な命中精度を誇る)と核攻撃型トマホーク巡航ミサイル(G型)が配備されました。ソ連の軍拡に対し軍拡で対抗しつつ、同時に軍縮(お互いにゼロにする)を提案するという zero-zero offer ,いわゆるゼロオプションの提示です。SS-20の配備を非難し撤去を要求しておきながら、自身もパーシング2を配備する為に『二重決定』として知られています。

そしてこれはご存知のとおり、中距離核戦略全廃条約(INF条約)へと発展し、外交戦略として大きな成功を収め、核軍縮の道筋を開きました。只単に相手に放棄を迫っても聞く耳を持たれないから、こちらも対抗戦力を用意するという手法の有効性を指し示しています。

果たしてこれが現在の朝鮮半島核危機に参考になるかどうかは分かりませんが、一つの事例として議論の材料となるべきものであることは、確かです。日韓の核武装化、在韓米軍・在日米軍の再核武装化などの選択儀を議論の対象として排除しないという事です。
20時44分 | 固定リンク | Comment (72) | 平和 |

2006年10月15日
昨年11月頃から始まった一連の白リン弾騒動のキッカケとなった、イタリア国営放送RAIがまた新型残虐兵器を創造したみたいです。日本では早速、しんぶん赤旗が同調してニュースにしています。(他マスコミは反応無し)

ところでこの謎の兵器・・・以前、「超兵器警報発令!」で話題になった兵器の、真の正体かもしれません。


実験段階の米軍残虐兵器 イスラエル軍が使用か ガザで7月発覚 伊国営放送報道 [10/14 しんぶん赤旗]
 【パリ=浅田信幸】イスラエル軍がレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラと戦火を交えていた時期に、同軍がパレスチナのガザ地区で、実験段階にある米国製の新兵器DIMEを使用した疑いが濃厚になっています。イタリア国営放送RAIニュース24が十日、ドキュメンタリーで報じ、反響を広げています。

 RAIによる調査は七月半ば、ガザの病院医師の訴えから始まりました。少なくとも六十二例で、足が切断された状態で病院に運び込まれるという、これまでの兵器からは「説明のつかない」傷害が発端でした。

 シュハダ・アルアクサ病院のワヒド医師は、足の切断が「まるでのこぎりで切ったように骨まで切断されていた」と語っています。切断された部分はやけどの跡があり、生存者の場合は病院に運び込まれた時点で出血していませんでした。まるで被害現場から病院までの三十分足らずの間に出血が止まるよう工夫された兵器のようだとも指摘しています。

 もう一つ医師たちを不思議がらせたのは、切断部分から金属片が見つからなかったこと。傷害部位から摘出されたのは、粉末状の塊でした。

 化学的検査を実施した北イタリアのフェラーラ大学のバカロ博士は、この粉末状物質が「非常に高密度な炭素」であることを突き止め、合わせてタングステンなどの物質を検出しました。これが米空軍の兵器開発ホームページに紹介されている実験段階のDIMEと呼ばれる新兵器ではないかとの疑いを強めました。

 DIMEは破壊力を強める一方、爆発の被害をせいぜい数メートルの範囲にとどめるために工夫された兵器です。

 残虐兵器使用の疑惑は人道支援団体などが提起してきました。イスラエルは「国際条約で禁じられた兵器は使用していない」と主張しています。


アメリカで開発中の新兵器がイスラエル軍の手に渡り、ガザに投入されたという話は・・・まぁ、可能性としては無くはないです。ですが、仮にその兵器がDIMEだとして、なぜ残虐兵器呼ばわりされないといけないのでしょうか。『爆発の被害をせいぜい数メートルの範囲にとどめるために工夫された兵器』とは、むしろ爆発時に周囲を巻き込む付随被害を極小に抑える為の人道的兵器なのではないでしょうか。

例えば以前に、燃料気化爆弾の事を批判する人達がいました。燃料気化爆弾とは爆圧そのものは通常爆弾よりも弱いのですが、非常に広い爆風範囲を得ている兵器です。つまり、赤旗の説明によるDIMEとは性格が逆の兵器です。爆風の被害範囲が広くても駄目、狭くても駄目とは・・・一体、どんな兵器なら使って良いのですか?

そこで早速、前回の白リン弾騒動の時にもいち早く特集記事を組んで馬鹿げた騒動の終息に貢献した Globalsecurity.org が、今回も同じようにDIMEの特集記事を組んでいます。


Dense Inert Metal Explosive (DIME) [globalsecurity.org]
The Air Force is demonstrating a low collateral damage warhead, allowing a "behind-the-wall" threat prosecution with a highly localized lethal footprint. The warhead case consists of a low-density, wrapped carbon-fiber/epoxy matrix integrated with a steel nose and base. The low-density composite case can survive penetration into a one-foot hardened concrete wall. Upon detonation, the carbon-fiber warhead case disintegrates into small non-lethal fibers with little or no metallic fragments, thus significantly reducing collateral damage to people and structures. The warhead explosive fill is a dense inert metal explosive containing fine tungsten particles to provide a ballasted payload with sufficient penetration mass. The tungsten displaces energetic material so as to reduce the total energetic used. The net results are higher dynamic energy impulse all within a small lethal footprint.


どうやらDIMEとは、炭素繊維の弾殻にタングステン粉末を含んだ爆薬のようです。炭素繊維の弾殻は爆風で粉微塵になり、通常爆弾のような鉄の破片を撒き散らしません。(爆弾の殺傷範囲はこの破片で決まる。破片が無い場合の殺傷範囲は爆風効果に依存し、範囲は破片効果よりもかなり狭くなる)DIMEに装填された重金属であるタングステンの粉は、爆風効果だけではあまりにも殺傷範囲が狭くなる事をカバーする為のものではないか、と思います。破片に比べ粒子状の金属粉は飛び散ってもすぐに勢いが無くなり、ある程度まとまった量でないと打撃力にはなりません。つまり極近距離でしか効果を発揮できないのでしょう。(私の理解が足りないかもしれません、もう少し調べてみます)なぜタングステンなのかというと、比重が重いこともさることながら、他の金属・・・例えば鉄の粉では燃えて無くなってしまうからです。

そして開発目的はやはり、付随被害を抑える為でした。


「The AFRL's Munitions Directorate dense inert metal explosive (DIME) concept team successfully demonstrated an effective mechanism to reduce collateral damage, helping the warfighter to prevent the loss of public support and more importantly, the loss of innocent life.」


イスラエル軍は以前からこの手の余計な被害を与えない兵器に熱心で、レーザー誘導爆弾から爆薬を取り除き、コンクリートを詰めた「コンクリート爆弾」なる物を以前から使用しています。これは建物の窓すら狙える精密誘導弾ならば、弾体の直撃だけで任務を達成できる場合があり、これならば爆発せずに付随被害を無くすことができるというものです。

しかし、場合よってはコンクリート爆弾では任務遂行が難しい局面もあります。かといって通常の爆薬が装填された爆弾では、周囲を巻き込む恐れがある・・・そういった時に、このDIMEのような特殊爆薬が使えると便利なのでしょう。爆薬の性格上、多用される兵器ではありません。タングステン自体も高価ですし。

タングステンは鉛よりも化学毒性が低いとはいえ、やはり重金属である以上、健康にはあまりよくないです。しかし、よほど大量に集中使用されない限りは大丈夫でしょう。そもそもこれを心配するくらいなら、戦場で遥かに大量に使用されている銃弾の弾(鉛製)の毒性を心配すべきです。なお、どう解釈してもDIMEは国際法で禁止された兵器には該当しそうにありません。

・・・しかし、そもそもガザで使用された兵器は本当にDIMEなんでしょうか? もう少し検証が必要だと思います。
20時31分 | 固定リンク | Comment (79) | 平和 |
2006年10月11日
北朝鮮が核実験を行ったと表明したので、もしかしたらと思いましたが・・・連載延長が決まったそうです。


『教えて!山田先生 -短期集中軍事講座-第5回』
軍事講座は全5回の予定でしたが、連載を延長し、
次回は北朝鮮の核をめぐる疑問や問題について、聞いていきます。
また、このコラムへのご指摘、および質問についても、
先生からの回答を掲載する予定です。お楽しみに!


質問にきちんと回答してくれるそうです。これは意外でした、やはり性格は真面目な方なんですね。せっかくのよい機会ですから、色々と質問メールを出してみたいと思います。

・・・とはいえ、突っ込み所が多すぎて何処から質問したらよいか分からない・・・第4回と第5回のMD特集も、目を疑うような記述が満載ですし・・・とりあえず、ここのコメント欄に「教えて!山田先生」の連載でおかしな点をひたすら書き込んでみる事にします。(あまりにも長くなりそうなので本文に書くと読み辛くなりそうなので)

20時13分 | 固定リンク | Comment (30) | 平和 |
2006年10月08日
前回、「山田朗教授は軍事学講座を開くべきではない」と指摘してから約一ヶ月。ついに連載コラム第4回で訂正記事が入りました。コラムの最後の方に載っています。しかし残念な事に、その訂正記事もかなり間違いだらけで・・・訂正記事に更に訂正を入れなきゃならないかもしれません。

ではザッと指摘してみます。


『教えて!山田先生 -短期集中軍事講座-第4回』
(訂正)

 第3回目の講座で私は、日本の航空自衛隊のF−2支援戦闘機(戦闘爆撃機)は、アメリカのF−16をベースに開発されたものだが、9条のしばりもあって航続距離が2000キロの抑えられている、と説明しましたが、これは、F−2支援戦闘機ではなく、その前に開発されたF−1支援戦闘機の間違いでした。

 2000年度から配備されているF−2支援戦闘機は、4000キロの航続距離を有しており、F−1の段階の航続距離の制約を大きく突破しています。F−1支援戦闘機は現在でも配備されていますが、次第に退役中です。日本の戦闘爆撃機は、憲法の制約上、大きな航続距離を持ち得ない、という原則が守られていると思いこんでおりましたが、実態は、さらに憂慮すべき方向に進んでいたということです。

 なお、航続距離と「戦闘行動半径」の関係についてのご質問もありましたが、一般に、軍用機の「戦闘行動半径」とは、その飛行機の最大航続距離の3分の1程度と説明されています(ただし、「戦闘行動半径」とはあくまでも目安であり、どのような戦闘をおこなうかで、実際の行動半径はかなりかわってきます)。

>第3回目の講座で私は

いえ、第1回目の講座の筈です。・・・お願い先生、訂正を入れる時くらい読み返してください。

>これは、F−2支援戦闘機ではなく、その前に開発されたF−1支援戦闘機の間違いでした。

F-1支援戦闘機の最大航続距離は約2600kmです。2000kmではないですよ。ちなみにF-1以前に航空自衛隊が支援戦闘機として使っていたのはF-86Fセイバーですが、航続距離は約1900kmです・・・ってまさか、山田先生。

貴方もしかしてF86FとF-2を勘違いしていたんですか? 幾らなんでも古過ぎです。

>2000年度から配備されているF−2支援戦闘機は、4000キロの航続距離を有しており、F−1の段階の航続距離の制約を大きく突破しています。

そもそも「F−1の段階の航続距離の制約」なんてものは存在しません。普通に設計して、普通にあれだけの航続距離になっただけです。特に短いわけじゃないですよ。F-1導入が決定する前の選考時に対抗馬となった、アメリカ製のF-5戦闘機と殆ど同じ航続距離です。勿論、アメリカには9条の縛りなど無いわけで・・・。

>F−1支援戦闘機は現在でも配備されていますが、次第に退役中です。

いいえ、今年3月9日にF-1支援戦闘機は全機退役しました。

>日本の戦闘爆撃機は、憲法の制約上、大きな航続距離を持ち得ない、という原則が守られていると思いこんでおりましたが、

というより、そもそも原則の存在自体が山田先生の思い込みなのでは?

>実態は、さらに憂慮すべき方向に進んでいたということです。

ところで、F-2開発をF-16ベースにするという決定は、20年位前の話ですよね・・・

>一般に、軍用機の「戦闘行動半径」とは、その飛行機の最大航続距離の3分の1程度と説明されています

すると山田先生。貴方の連載第1回目の記述と整合性が取れなくなるわけですが・・・(F-15に爆装させて北朝鮮まで2往復させるとか)

【追記】
それに、F-2の最大航続距離は4000kmですが対艦ミサイル4発搭載した状態での戦闘行動半径は830km、つまり5分の1程度です。


うーん、先生やっぱりまずいですよ・・・根本的に専門外の分野なんですから、手を出すのは止めた方が・・・せっかく戦間期の研究で名声を得ていたのに、こんなつまらないことで評価を下げてしまっては勿体無いです。
22時43分 | 固定リンク | Comment (35) | 平和 |
2006年09月11日
日本近代史、特に軍事史を専門とする明治大学の山田朗教授は、昨年あたりから護憲派運動にも積極的に携わるようになりました。憲法9条を守りたいと思っているのに、いざ戦争問題や軍事問題の論争になった時に「どうも自信がない」と思っている人の為に、昨年10月に『護憲派のための軍事入門』(花伝社)を出版したのです。

ところが問題がありました。現代の戦争については、山田先生の専門分野では無かったのです。


 映画人九条の会 講演録
 マガジン9条 山田朗さんに聞いた(その1)
 マガジン9条 山田朗さんに聞いた(その2)


いけません。内容は、何処を読んでもツッコミ所満載です。これでは護憲派の皆さんに誤った知識を植え付けてしまう・・・それにしても、分野がちょっとでも違うとここまで学者さんは駄目になってしまうのか・・・。

そんな山田朗先生ですが、マガジン9条の企画で北朝鮮のミサイル発射問題について新たに連載を始めていました。(全5回予定。現在2回目)


 『教えて!山田先生 -短期集中軍事講座-第1回』


さて、早速読み進めて見ます。





あ、結構マトモになってる。山田先生、ずいぶんと勉強したんだろうなぁ。
細かい点で間違いもあるけど、大筋では良い感じだ、凄く進化してる。





と、思った私が馬鹿でした。


『教えて!山田先生 -短期集中軍事講座-第1回』
しかし、このF2にも現状では「専守防衛の縛り」がきいています。F2はアメリカのF16(航続距離4,000km)を改良した戦闘機ですが、航続距離をF16の約半分(2,000km)にしています。つまり、F2は少しの改良で対地攻撃ができるので、航続距離を短くすることで、それをできないようにしているのです。


そんなの初耳だよ、ティーチャー。

勿論、「航続距離をF16の約半分(2,000km)にしています。」なんて事実は存在しません。山田先生、一体どんな資料を読んだのですか・・・護憲派の皆にこんな嘘を教えてしまったら、護憲派にとって凄く損です。F-2の航続距離はF-16に劣るなんて事はありません。これは明確な間違いです。間違いを全くしない人間などこの世には居ませんが、これは信じられないミスです。少なくとも、素人相手に軍事学講座を開く人間が行って良いレベルでは、ありません。

・・・この部分が書かれた周辺の内容も間違いが多いですが、突っ込みを入れる気力が涌きません。連載第1回目からこれでは、先が思いやられます。これって、編集部に教えて上げるべきなのでしょうか・・・・。信じられない事に今現在、検索で「F-16 航続距離」「F-2 航続距離」と入れてみると、「教えて!山田先生」がトップに来るんですよ。あまりにも拙い状況です。
06時19分 | 固定リンク | Comment (106) | 平和 |
2006年09月09日
テクニカルライター・井上孝司さんのサイトに載っていた「松下電器はパソコン兵器の回収を、だって !?」を思い出してしまうネタを一つご紹介。


最速スパコンにPS3セル 米、核兵器の模擬実験で [9/7 共同]
エネルギー省核安全保障局は6日、最大演算速度が「世界最高」という一ペタフロップス(1秒間に1000兆回)のスーパーコンピューターの設計・製造をIBMに発注したと発表した。核兵器の模擬実験などに使うのが目的で、スパコンの頭脳部にはソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が今秋発売するゲーム機「プレイステーション(PS)3」にも使われる高性能半導体「セル」を採用。セルがスパコンに搭載されるのは初めてという。

スパコンは「ロードランナー」と命名。実際の核爆発を伴わない模擬実験などを通じて、米国が保有する核兵器の信頼性や安全性を検証するために使うという。

セルはIBMがソニーグループや東芝などと共同開発。高い映像処理能力を持ち、模擬実験などに適していると判断されたとみられる。


とはいえ、PS2の時点で既に兵器転用が可能として輸出に規制が掛かっているのですけどね。PS3も同様に規制されるのでしょう。・・・もし何処かの市民団体が上の共同通信の記事を見て、「ソニーはPS3の回収を!」「ソニーは軍需産業だ!」とか言い出したら笑い話なのですが、松下のタフブックを回収せよと叫ぶ奇妙な人達もいる事は確かなので、絶対出てこないとも限らないのが心配ですねぇ。
21時22分 | 固定リンク | Comment (32) | 平和 |
2006年08月21日
最近mixiで拾ってきたネタをピックアップ。


 【珍説】
 「1980年代の初め、イランはアメリカの利害を損なう湾岸地域における最大の脅威だと見られていた。そこでアメリカ政府と同盟国はイラクをそそのかしてイランに侵攻させた。その際、イラク軍に隣国イランを打ち砕くためのハイテク兵器を大量に与えたのだ。」
ジョエル・アンドレアス著「戦争中毒」(合同出版)p26

 【事実】
 いいえ、当時のアメリカがイラクに対しハイテク兵器を大量に供給した事実はありません。 当時のイラク軍の主要装備は、ソ連・フランス・中国の兵器が殆どです。

ジョエル・アンドレアス氏は漫画家の反戦運動家だそうです。左方向の小林よしのりみたいな感じでしょうか。・・・よしりんの「戦争論」はツッコミ所満載でしたが、アンドレアス氏の「戦争中毒」もこの様子ではツッコミ所満載のようです。ちなみに「戦争中毒」の日本語翻訳者は、きくちゆみ氏です。



 【珍説】
 パキスタン人医師、アリ・リンド氏は「トマホークやJDAMなど飛んでるすべての爆弾は劣化ウラン鉱によって作られている」と『Dawn』紙読者に警告している。
http://smile.poosan.net/mangamegamondo/annex/du.html


 【事実】
 頭大丈夫でしょうか、この医者。

・・・よくイラクやパレスチナで「現地の○○医師の証言が〜」とか紹介されるんですが、お医者さんだからって正気とは限らない事が良く分かる事例です。関連:「超兵器警報発令!」


【珍説】
 イラクはクエート侵攻前にフセイン大統領がアメリカ大使にあって、打診しています。これに対しアメリカ大使、エープリル・グラスピーは「クエートとの国境紛争についてアメリカ政府は貴方に言うことはない」と伝えているのです。アメリカはクエート侵攻をとめなかったのです。だが侵攻が始まるとイラク軍を徹底攻撃しています。



【事実】
 ↓これを良く読みましょう。

■「湾岸戦争はアメリカ大使がそそのかした」???
 【珍説】
 アメリカのグラスビー駐イラク大使が湾岸戦争直前にフセインに対して「クウェイトを侵攻しても黙認する」と述べ.クウェイト侵攻を行わせ.イラクを悪者にした.

 【事実】
 大使は「アメリカはイラク・クウェイト間の国境紛争(ワルバ島など)には関知しない」と述べただけである.
 これは,アメリカの友好国が国境問題を抱えている場合に,その問題に対してアメリカがとる態度としては通例のものである.
 例えば日本の場合,竹島問題や北方領土問題,尖閣諸島問題を抱えているが,アメリカのとっている態度はやはり「関知しない」である.
 大使の発言を,サダム・フセインが勝手に「黙認」と受け取った可能性は勿論あるが,その場合でも,勘違いしたサダム・フセインに責任の大部分は帰するであろう.

エイプリル・グラスビー大使の件は定番過ぎかもしれません。イラク戦争の時にこれを言い出す人がワンサカ出てきて、食傷気味です・・・。湾岸戦争後から十数年も経っているのに、なんで誤解したままの人が多いのか・・・つまり、何処かの誰かがデマの拡大再生産を繰り返しているのでしょうね。

23時40分 | 固定リンク | Comment (61) | 平和 |
2006年07月23日
謎の超兵器がまた出てきました。
今回は以前の白リン弾とは違い、未来の超SF兵器的な様相を呈しています。


イスラエル軍がガザで化学兵器使用か 死傷者が異常な火傷受ける [7/11 アルジャジーラ]
パレスチナ医療関係者が11日、明らかにしたところによると、ガザのシファ病院で手当を受けた患者と安置された遺体の火傷が異常であり、イスラエル側が化学兵器を使用しているという疑惑が高まっている。

アル=サッカ博士は、同病院に搬送されてきた遺体のほとんどがばらばらになり、完全に焼けていたとして、アルジャジーラニ対して、「負傷者の体すらほとんど完全に焼けただれています。非常に醜くく変形してしまっており、これまでに見たこともないほどです」と話した。

同博士は救急医療主任で、親族でも遺体を識別できないほどであり、「遺体のX線写真を撮っても、その人の命を奪った砲弾の破片はかけらも見つかりません「と説明、遺体は化学品で焼かれたようにみえると付け加えた。

「イスラエルは今次の新作戦で新しい化学兵器ないし放射線兵器を使っているのは確かです。負傷者の25%以上は16歳未満の子どもですよ」と。

遺体の特徴は以下の三点。

 ○遺体がバラバラ
 ○焼け爛れている
 ○砲弾の破片はない

歩兵携行タイプの小型サーモバリック弾で同様の効果は見込めると思うので、化学兵器や放射線兵器(何それ?)を疑うよりはまずこっちを疑った方がよいんじゃないかと。しかしガザ掃討戦程度の任務でサーモバリック弾なんて使うのでしょうか。・・・そういえば、ロシア軍の特殊部隊が以前に北オセチアのべスラン小学校占拠事件で同種の兵器をテロリスト相手に使用した事例(人質が居るのに無茶苦茶な)がありますから、意外とホイホイと使える兵器なのかもしれません。

【追記】この謎の兵器はDIMEと呼ばれる高密度不活性金属粒子爆弾と判明。

しかし一部の人達は、上の記事と以下の記事とを結び付けて、レーザー砲かなにか電磁波兵器?が使用されたと主張するのです。


アメリカ、新兵器をイラクで使用 [7/21 AML]
ビデオで報道された兵器の効力から考えて、「レーザー」という一般名称では括りきれない「光速」技術が使われていると考えられる。また、説明不可能な理由で破裂したとみられる遺体の様子から見て、マイクロ波も利用していると考えられる。

ところが、何かの光線に曝され(これが死因である)、長さ1メートルほどに縮んだ後で、なんらかの形で銃撃を受けた死体を画面で見たが、これに対してはいかなる科学的な説明も思いつかない。目撃者がバスが「濡れ雑巾のように」くちゃっと変形して、フォルクスワーゲンの乗用車くらいに縮んでしまったと述べているのを、どう解釈していいのかもわからない。しかし、私は、非常に強力な型のマイクロ波ではないかと思う。

人体が長さ1m程度に縮んだとか、バスが乗用車サイズまで圧縮されたとか・・・もうその状況を達成するには、電磁波兵器じゃ説明が付きません。重力波兵器の使用を疑った方がいい。グ、グラビティブラスト?

・・・なんだか、アメリカ軍のパナマ侵攻を扱ったバーバラ・トレント監督のドキュメンタリー映画「The Panama Deception」を思い出しますね。これは1993年度アカデミー賞ドキュメンタリー部門最優秀賞受賞作品で、NHKも放映した真面目な記録映画なのですが、次の一点だけ耳を疑うような証言があります。





↓これ。

本当に放映された話
懐かしのコンバットコミック「ユタカテレビ」より

『アメリカ軍は新兵器「レーザー光線」まで使ったんだ!』
『光線を浴びてドロドロに溶けてしまった人もいるよ』
『レーザー光線は車もまっぷたつにするんだ!』

「米軍てのはそんなすげー軍隊だったのか・・・」
「ジャンキー(中毒患者)なんじゃないのこの人?」


ただ真相はちょっと違ってまして、この証言者はジャンキー(麻薬中毒患者)などではなくパナマ大学のサイモン教授です。この件はレーザー誘導爆弾の攻撃を勘違いしたらしく、誘導用レーザーが硝煙を通過する際に光の筋として見えてしまいその直後に爆発、目撃者は飛行機と爆弾に気付かずにレーザー砲による攻撃を受けたと勘違い。その後、噂に尾ひれがついて広まって現地マスコミが報道し、大学教授まで信じ込んでしまったというお話です。目撃者の証言を鵜呑みにするとトンでもない事になるという、よい事例でしょう。


アメリカが攻撃型レーザー兵器を開発している事は確かです。イスラエルもヒズボラのカチューシャロケット迎撃用に、アメリカと共同でTHEL(戦術高エネルギーレーザー)を開発中です。また、電磁波を応用した無力化兵器(催涙ガスやゴム弾と同じ使い方の非殺傷兵器)なども開発中です。しかし、アメリカのレーザー兵器開発は何十年も前から行われていますが、未だに実用化は出来ていません。せいぜい出来たのは目潰し用のレーザーぐらい。(失明者を大量に出すのは残酷とすぐに国際法で禁止された)人体を一瞬で焼き尽くしてしまうようなレーザー砲があるとしたら、それはとても凄まじい出力のレーザーになるでしょう。・・・そんなものが既にあるならミサイルディフェンスは百発百中でしょうし、レーザー核融合も簡単に出来そうなものですが・・・そんな話は聞かないですね。「レンジでチン」タイプのマイクロ波電磁波兵器にしても、どうも以前に「電磁波で地震(津波)をおこす兵器」を真面目に語っていた連中と同じ匂いがします。


さて、AMLで配信されている記事には次のような一節があります。無力化非殺傷兵器についての話です。

>痛撃電磁波の配備は、明らかに国際法違反である。
>国際法は、苦痛を与えることを第一の目的とする兵器を禁じている。


これは嘘ですね、ハーグ陸戦法規23条第5項にあるのは「不必要な苦痛を与える兵器の禁止」ですから。英文だと「To employ arms, projectiles, or material calculated to cause unnecessary suffering.」ですから、どう解釈しても抵触しません。

それにしてもこのAMLの記事内容、非殺傷兵器と謎の超破壊兵器を混同するような書き方で、どうもいけませんね・・・紹介にあったビデオや写真も見てみましたが、何が問題なのか理解できませんでした。問題がある、と主張する人は該当個所を纏めて示してほしいものです。
18時40分 | 固定リンク | Comment (61) | 平和 |
2006年06月21日
最前線の国境の町で行われた無防備宣言条例化運動は、否決されました。(この運動についての問題点はカテゴリー:無防備を参照)


町平和条例案を否決/6月竹富町議会最終本会議[6/20 八重山毎日新聞]
6月定例竹富町議会(川満栄長議長)は19日の本会議で、無防備地区宣言を盛り込んだ竹富町平和条例案の表決を行い、賛成少数で否決した。


しかし、これが最後の無防備宣言運動キャンペーンとは思えない・・・第二、第三の無防備宣言地域条例化を狙う市民運動家達は、まだ蠢いているのだ・・・(何故か怪獣映画ラストシーンのノリで)。

実際、「数撃ちゃ当たる」方式で数十の地域で運動が為されていますから、何処かでまかり間違って条例化されてしまうことも否定できません。その中で国境最前線の町・竹富町で順当に否決されたのは今後の流れを決定付けるものとなるでしょう。

さて、竹富町に限らずこの運動に賛成していた人達へ。是非とも意見交換がしたいので、ここか八重山毎日新聞のコメント欄へおいで願えると幸いです。八重山毎日のコメント欄には、既に何名か運動員の方が書き込まれているようですが・・・。
21時24分 | 固定リンク | Comment (57) | 平和 |
2006年06月12日
去る6月10日、憲法「九条の会」が初の全国集会を開きました。
さて・・・この集会の公演内容、ツッコミどころが満載なのですが、とりあえずこのブログらしく軍事的な側面に絞ってツッコミを入れたいと思います。


九条の会:戦争放棄の堅持訴え…初の全国集会[6/10 毎日新聞]
作家の小田実さんは「資源もなく、食糧自給率の低い日本は、自衛できない。国を守るためには、戦争のない世界をつくるという理想こそが現実的で、その土台にあるのが平和憲法だ」と呼びかけた。


>資源もなく、食糧自給率の低い日本は、自衛できない。

結論から言います。歴史的に実践例があり、可能。

イギリスは第2次世界大戦終結時、食料自給率は30%程度でした。戦前の自給率も低いもので、今の日本と同程度(40%台)でした。(その頃にイギリス本土で自給できていた食糧は牛乳のみ)そして勿論、当時のイギリス国内からは石炭は出ても石油は出て来ません。戦前のイギリスは主要な食料及び資源を海外からの移入に大きく依存していたのです。

しかし歴史の通り、彼等は世界大戦を戦い、勝利しました。戦後のイギリスは、大戦中にドイツ軍のUボート(潜水艦)に苦しめられ食料不足に陥った経験から食料自給率の改善を目指し、今では高い自給率を維持しています。それに比べ、日本も戦争末期にアメリカ軍の通商破壊戦、潜水艦とB-29による港湾への機雷投下で餓死者を出す寸前まで追い詰められながら、今日の食料自給率が低い現状は確かに批判されてしかるべきでしょう。

ですが、第2次大戦時のイギリスは本土に資源も無く低い食料自給率のまま戦い、勝ち抜いて生き残った事は歴史上の事実です。海上護衛戦・・・海軍が自国の商船を守る事で、それを達成しました。海軍とは正にその為に存在します。


なお参考までに、お隣の韓国の食料自給率は約50%、そして意外な事に専守防衛の自衛戦争を国是とし、他国の救援を望めない永世中立国スイス連邦の食料自給率は結構低く、60%程度です。(以前はもっと低く、40%台という時期もありました)これは山国で農地が限られている為です。代償として有事の際に畜産を止めて牧草地を農場に転換する計画や、平時から備蓄食料を貯め込んでおく事など周到に計画を練り上げています。
21時23分 | 固定リンク | Comment (88) | 平和 |
2006年03月19日
日本法務省外局公安調査庁「平成18年「内外情勢の回顧と展望」より
第3 平成17年の国内情勢
 3 共産党・過激派等 (3) 市民層への浸透に力を注いだ過激派


〈MDSは,イラク民主化勢力支援や「無防備地区宣言」運動を通じて,市民を結集〉


 社会主義社会の実現を標榜する「民主主義的社会主義運動」(MDS)は,イラクの「民主化勢力」代表を招いて反戦集会を開催するなど,独自の存在感を示した。特に,MDSが進めるイラク反戦運動では,市民層の結集を図る受け皿として,各地に「イラク市民レジスタンス連帯委員会」を立ち上げ,イラク市民の戦争被害などを紹介する各種イベントを実施して,同連帯委員会の会員拡大に努めた。

 また,MDSは,政府の有事体制づくりに反対する運動として,ジュネーヴ諸条約追加議定書を根拠に,「無防備地区宣言」条例の制定運動に取り組み,東京・荒川区など8自治体の住民らで運動体を組織し,それぞれ条例制定の直接請求に必要な法定数を超える署名を集めた。さらに,MDSは,各地の運動体で構成する全国ネットワークが,著名人らを呼び掛け人として運動推進を呼び掛ける「1,000人アピール」への賛同人集約や学習会に取り組むなど運動の伝播に努める中,運動に協力した市民に,傘下団体の集会への参加を呼び掛けたり,機関紙の購読や組織への加盟を働き掛けた。

無防備宣言運動の中心となっているのは「左翼過激派MDS」ということが、公安の報告書に載りました。

とはいえこの事は以前から指摘されていた事です。平成16年10月号「正論」で時沢和男氏が「中核を担うのは新左翼セクト」で詳しく述べています。公安の報告書に載った事で、これが裏付けられたと言えます。「市民層への浸透に力を注いだ過激派」と名指しされたMDS。

これが無防備宣言運動の正体です。
22時42分 | 固定リンク | Comment (84) | 平和 |
2006年01月26日
先島諸島(八重山群島、宮古群島、尖閣諸島からなる)は事実上、日本の最前線です。そんな場所にある竹富町(西表島など)では、沖縄県内で現在唯一、無防備地域宣言条例制定へ向けて運動が行われています。


竹富町平和条例/3月末から署名活動へ[八重山毎日新聞]

思わずトラックバックして来ました。三つ投下は少しやり過ぎました・・・コメント欄はメンバー登録制らしいです。

無防備地域宣言条例制定向け署名活動へ[八重山毎日新聞]

昨年の時点で議論が白熱していたみたいです。この時にコメント欄をメンバー制にしたんでしょうか。


八重山毎日新聞のサイトは構造がブログそのままですね。読者参加型とはいえ地域住民ではないのにコメントしたりトラックバックしたりするのはちょっと気が引けますが、この問題は日本全国に影響するものなので私も議論に参加して見たいと思います。(運動当事者達は議論をしようとしてくれないし、某SNSの無防備宣言トピックも止まってしまったし、他に議論が出来そうな場所が見当たらない)

竹富町での無防備地域宣言条例案が完成の模様:南の島の何でもあり
00時56分 | 固定リンク | Comment (32) | 平和 |
2005年12月14日
以前にも述べましたが、無防備地域宣言についての論争は赤十字の解説(ICRC:Commentary)により全ての決着を見ることになるでしょう。赤十字の解説に「地方自治体が宣言する場合、軍当局との完全な合意を得なければならない」とある以上、自衛隊との合意を得ていない宣言は無効であり条約違反となります。


“Of course, if the declaration comes from a local civil authority, it must be made in full agreement with the military authorities who alone have the means of ensuring that the terms of the declaration are complied with.”
ジュネーブ条約とは赤十字国際委員会(ICRC)の提唱により締結されたものです。そしてICRCはジュネーブ条約の番人と言える存在で、同条約が履行されているか監視する立場にあります。ICRCの解説は条約の公式見解です。"Commentary"とは解説、注釈であり"解釈"ではありません。他の意味を捻り出す余地は無いのです。

しかし、無防備地域宣言推進派はこれを覆す論理を模索し続け、とうとうこんな事を言い出しました。




【珍説】
自衛隊は軍隊(military)ではないから自衛隊当局は「軍事当局 (military authorities)」ではない。故に存在しない軍事当局の了解を得る事無く無防備宣言する事が可能???


【事実】
当たり前の話だが国際法上、自衛隊は軍隊として扱われる。国際社会は日本国内の特殊事情(言葉遊び)など考慮してくれない。

そもそもジュネーブ条約には"military"という単語が頻繁に見受けられ、第一追加議定書だけでも100個近く存在する。もしこれら全てについても「自衛隊は軍隊ではないので従う必要が無い」とした場合、条約に参加している意味そのものが無くなってしまう。こんな主張は通用しない。条約不履行と見なされてしまうだろう。

一つの無茶を通そうとする余り全てを失ってしまうのは本末転倒と言わざるを得ない。



このような主張はどうやら無防備宣言推進派の間では定番らしく、Another Type of "Letter from Ceylon": 無防備都市宣言 その3でも紹介されていました。以下は明治大学政治経済学部助教授の生方卓氏の見解です。



次にthe military authorities の問題ですが、この追加議定書は、the military authoritiesを持っていない国もありえるということを想定しておりません。日本は憲法上はthe military authoritiesを持っていないのですから、宣言のために「軍事当局の了解」を不必要とするのではないでしょうか?

他方、自民党の今度の憲法改訂案のように、日本が「軍」を持つことになれば、事態は一変します。だからこそ、この改訂案は大変危険なのだということになるのではないでしょうか。

換言すれば、第9条とジュネーブ条約とはむしろ相互補完的な関係にあるということだと考えておりますが、いかがでしょう?

生方氏は更に発展させて憲法九条改正問題とのコラボレーションを行っています。しかし、いかがでしょうかと言われても・・・もし改憲案通りに「自衛隊」が「自衛軍」になったとしても、「Self Defence Force」という英語表記は全く変わらないであろう事に何故気付かれないのでしょうか。

それ以前の問題として、現在の自衛隊当局も国際法的には軍事当局と見なされます。そうでなければそもそもジュネーブ条約自体に参加できていないのです。
23時22分 | 固定リンク | Comment (48) | 平和 |
2005年12月11日
ジュネーブ条約で定められた無防備地域宣言を地方自治体の条例として制定しようとする運動の矛盾点は以前にも紹介しましたが、簡単に纏めるとこうなります。

条件的問題:敵軍が接触した地帯の付近で占領の為に開放されている地域。宣言先は敵軍。
権利的問題:地方自治体は自国軍への指揮権が無いので、合意が無い限り宣言はできない。

この通り、平時に条約として宣言できる性質のものではないし、宣言には自国軍との全面的な合意が必要であり、そもそも航空機による空爆やミサイル攻撃には無力です。ところが、無防備宣言運動家の間ではミサイル攻撃にも有効だとする解釈を唱える者もあります。「軍隊が接触した地帯」の部分を長射程のミサイルや火砲で攻撃できる範囲と捉えれば、弾道ミサイルにだって有効だ―――そんな主張です。


さて、それでは「軍隊が接触した地帯」とは具体的にどれくらいの距離を指すのか調べてみる事にします。ジュネーブ条約第1追加議定書26条によれば「軍隊が接触した地帯」とは「地上から直接砲火に晒されている地域をいう」となっています。


ジュネーブ条約第1追加議定書 [赤十字国際委員会(英語)]
"Contact zone" means any area on land where the forward elements of opposing forces are in contact with each other, especially where they are exposed to direct fire from the ground.
"接触地帯"とは、敵対する軍隊の先遣部隊が互いに接触している陸上の地域、特に先遣部隊が地上から直接砲火に晒されている地域をいう。

この条文を「地上から直接、砲火に晒されている」と途中で勝手に読点を打って読んだ場合なら、地上から発射される全ての兵器を指す解釈も出来ます。しかしそれは誤りです。

『直接砲火』(direct fire)とは直接照準射撃を意味し、間接照準射撃(indirect fire)を含まないという事を意味するのです。故に間接射撃である弾道ミサイルは条約の定める地上からの直接砲火ではありません。

間接射撃とは山なりの弾道で、目標を直接視認できない遠くの目標も味方や障害物を飛び越えて攻撃できます。(榴弾砲、迫撃砲など)。直接射撃とは近くの目標を直接視認して射撃するもので、弾道は水平に近くなります(戦車砲、自動小銃など)。直接照準で最も有効射程の長い戦車砲(戦車砲に限らず平射砲全般)でも直接視認という条件上4〜5kmほどが限界なので、「軍隊が接触した地帯」とは数km以内に接近した場合を指す事になります。

このように無防備地域宣言を出すには、軍隊がすぐそばまで近付いて迫っているという条件が必要になります。「付近」という言葉の解釈については必要無いでしょう、これを拡大解釈して数百km離れていても「付近」と言い張るのは無理があります。



権利的問題についてはこちらを参照。


ICRC:Commentary(赤十字国際委員会による注釈)
' Who must send the declaration? '

2283 In principle the declaration must be sent by the authority capable of ensuring compliance with the terms of the declaration. In general this will be the government itself, but it may happen that in difficult circumstances the declaration could come from a local military commander, or even from a local [p.704] civil authority such as a mayor, burgomaster or prefect. Of course, if the declaration comes from a local civil authority, it must be made in full agreement with the military authorities who alone have the means of ensuring that the terms of the declaration are complied with.

赤十字国際委員会による説明では、「基本的に宣言を行う事ができるのは政府。しかし困難な状況ならば地方自治体が宣言する事もできます。もちろん地方自治体が宣言する場合、軍当局との完全な合意を得なければなりません」となっています。

注)ジュネーブ条約は赤十字国際委員会が提唱して作られたものですので、本家本元の見解です。
08時27分 | 固定リンク | Comment (46) | 平和 |
2005年12月09日
イタリア国営放送RAIが白燐弾の被害として載せた写真が「証拠として疑わしい」との指摘が・・・その為、新たなる犯人探しも始まりました。


Behind the Phosphorus Clouds are War Crimes Within War Crimes [George Monbiot Tuesday November 22, 2005 The Guardian]
I asked Chris Milroy, professor of forensic pathology at the University of Sheffield, to watch the film. He reported that "nothing indicates to me that the bodies have been burnt". They had turned black and lost their skin "through decomposition". We don't yet know how these people died.

シェフィールド大学の法病理学教授クリス・ミルロイによれば、死体が黒いのも、皮膚が一部損失しているのも、腐敗が進行している状態を示すものであって、体が燃えたという証拠にはならない・・・非人道兵器だとの状況証拠として示されてきた肝心のRAIの写真が、疑問を持たれています。

そこでこの記事の筆者ジョージ・モンビオット氏(彼自身、検死医の資格を持つ)は、「これらの死体は白燐弾ではなく、サーモバリック弾によるものではないか?」と推測しています。サーモバリック弾はアフガニスタンやイラクで既に投入されており、ファルージャでも使用された可能性があります。しかしこれらの写真の死体がサーモバリック弾によるものだという証拠はありません。

サーモバリック弾(HIT:High-Impulse Thermobaric)は地下坑道や建造物等の閉塞された場所への攻撃に使われます。弾体から燃料(固形火薬)を放出し、霧状になったところで点火。大規模な爆発を引き起こす兵器です。爆圧は通常の榴弾より低くなりますが、爆風は広範囲に広がります。弾体から中身を放出してから爆発させるので、弾殻破片は飛び散りません。つまり破片で切り裂かれるような事にはならず、爆風で皮膚が焼け爛れる・・・といった死体を作り出す事はできるかもしれません。

全てはまだ憶測です。ミルロイ教授によれば写真の死体は焼死体である証拠は示されていないと判断されています。ならば通常榴弾など、他の兵器によって為された死体である可能性もあるのです。肝心の証拠写真が怪しくなったこの騒動は、今一度、科学的な検証を重ねる必要があるでしょう。


それにしても、11/20に愛・蔵太さんの所で「次なる超兵器はナパームBかサーモバリック弾」とコメントしていたのが早速、現実になったんですね。白燐弾、白燐弾とあれだけ騒いでおきながら今更違うかもしれないって、一体・・・
23時01分 | 固定リンク | Comment (57) | 平和 |
「条約に書かれていなくても国際慣習法のもとで不法であると論ずることができる」という主張が一部で出てきました。しかし白燐弾については慣習法という概念から見るならば尚更、当て嵌まらないでしょう。

何故なら慣習法とは「慣習のうちで、強制がなくても、人々に法として意識され守られているもの」という事です。つまり皆がその対象についてどう扱うか意識し、コンセンサスが得られている場合を指します。しかし白燐弾については、寝耳に水でした。



【珍説】
通常兵器であっても、陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ陸戦条約)およびその条約付属書のもとで、ファルージャにおける白燐兵器の使用は不法であると論ずることができる。

第23条:不必要の苦痛を与える兵器、投射物その他の物質を使用すること。



【事実】
その条項は対象兵器の範囲が非常に曖昧なので「ダムダム弾の禁止に関するハーグ宣言」で明確に名指しされたダムダム弾以外の兵器に関しては個々に該当するかどうか判断されます。ショットガン*1やアンチマテリアルライフル*2の対人使用をこの条項に当て嵌めるべきだという解釈論*3は以前からよく聞きますが(つまり慣習法的なものと言える)、しかし白燐弾に関しては今までそのような議論を聞いた事がありません。

また特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」では定義上、白燐弾はそもそも焼夷兵器に該当しません。*4(しかも、そもそもアメリカはこの議定書を批准していない)もし仮に焼夷兵器であるとしても、議定書は焼夷兵器の軍事目標への攻撃を禁止していません。使用条件の制限はあります。*5

前述のショットガンやアンチマテリアルライフルの対人使用(対人狙撃)を禁止しようという解釈論にしても、榴散弾*6や機関砲による掃射*7での対人使用は除外されており、地上からの火砲による焼夷攻撃がハーグ陸戦協定に触れる可能性は低い。

なおもう一度言いますが、CCWの定義上、白燐弾は焼夷兵器に該当していません。



*1 散弾銃の事。

*2 12.7mm以上の大口径狙撃ライフル。以前、対戦車ライフルと呼ばれていた種類を指す。

*3 戦場でのショットガン、アンチマテリアルライフルの対人使用禁止は条約を広義に解釈したもので、現状では自主規制に近くあまり守られていない。違法使用と訴えられた例自体も無く、CCWで明確に禁止規定を制定しようという動きは未だ実現していない。

*4 焼夷兵器の定義とは、焼夷効果を第一義的な目的として設計された兵器をいう(第1条その1)。焼夷効果が付随的である弾薬類(発煙弾や照明弾)は焼夷兵器に含めない(第1条その1-b-i)。

*5 人口周密地域で焼夷兵器を空中から投射する事(つまり空爆を指す)の禁止(第2条その2)。人口周密地域で空中からの投射以外の焼夷攻撃を行う場合、民間の巻き添えを最小限に留めるための実行可能な全ての予防措置をとる事(第2条その3)。
[参考:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

*6 弾体に散弾を詰めた榴弾。砲弾型と航空機投下型爆弾がある。現在は廃れ気味。

*7 フルオート射撃で薙ぎ払う事。
22時54分 | 固定リンク | Comment (109) | 平和 |
2005年12月05日
11月17日に白燐弾に関する記事を書いてから2週間以上経ちますが、今まで巷に出回っていたデマ情報(発生する煙は猛毒ガスのホスフィンだとか、半径150mに広がる煙の中に居たら終わりだとか、燃焼温度は5000度だとか)を信じる人も減ってきて、ようやくマトモな話が出来る土壌が生まれたと思います。しかしその一方で・・・


燐兵器 [益岡賢のページ]
チェルシー・ブラウン&益岡賢
2005年11月28日

米軍が行った2004年11月のファルージャ攻撃についてイタリアのテレビが報じて以来、米軍が燐兵器を使ったことが話題になっています。

比較的まっとうな扱いの報道やネット上の紹介がある一方、米国の宣伝を自ら買って出る「自主的スターリン親衛隊おこちゃま版」型、あるいは「『荘子』列禦寇篇痔を舐むただし金さえもらえない」型の記事も散見されます。

米国のイラク侵略と不法占領自体がそもそも国際法に違反した犯罪ですから、その枠組みの中で米軍が犯した犯罪を指摘することは屋上屋を重ねるようなものですが、とりあえず、国際法の専門家の協力を得て、多少官僚的に、法的な論点を整理しておきます。

一見して『えっ、2chネラーの煽り?』と見紛うかのようなクオリティの文章です。米国の片棒を担ぐスターリン親衛隊という発想にも付いて行けません。っていうか意味が分かりません。

益岡賢氏といえば『ファルージャ 2004年4月』という本を、いけだよしこ氏と共同編訳された人ですが、益岡氏といけだ氏が共同運営するブログコメント欄でのいけだ氏の誠実な対応(例1例2)と比べてそのあまりのギャップの激しさに興味深いものを覚えます。

益岡氏は白燐弾問題で擁護的な記事を『アメリカの手先』であるかのように考えておられるようですが、それは認識を誤っています。軍事屋さん達は「白燐弾」を、化学屋さん達は「白燐」を、それぞれ正しい知識の元に擁護しているだけなのですから。白燐弾を不正確な情報で「謎の超兵器」にデッチ上げて糾弾することは『まっとうな扱いの報道やネット上の紹介』ではありません。益岡氏は、共同運営管理するブログがデマ情報の発信源となっていた事実について、一体どう思っているのでしょうか。



【閑話休題】

“超兵器”になった「白リン弾」市民メディア・インターネット新聞JANJAN

JANJANの記事から当ブログへの参考リンクが貼られるという、不思議な事を経験。これを書いた東堂一記者に今後お願いしたいのは、田中大也記者の記事「非武装中立論」の問題点のように真正面からJANJAN読者層への問題提起を図って欲しい、と言う事でしょうか。色んな場所で盛り上がってきた白燐弾騒動ですが、なるべく正確な情報で論じ合って欲しいものです。
23時48分 | 固定リンク | Comment (36) | 平和 |
2005年11月29日
白燐弾が空中炸裂している様子をGIFアニメにした二つの資料を見つけました。(画像掲載許可を得ました)この二つは昼と夜、使用されている弾の種類の違いなど相違がありますが、実に興味深い比較が出来ると思いますのでご覧下さい。


白燐煙幕弾
富士総合火力演習2002

…化学兵器?
ファルージャ2004


注目すべきは富士総合火力演習2002です。数万人居る観客席の目と鼻の先で白燐弾を炸裂させています。風向きの関係で観客席も一瞬、煙に巻かれています。・・・あれ、おかしいな。白燐弾が噂通りの恐怖の化学兵器ならば大事件になっている筈ですが・・・しかしもちろん、この時に観客席で死傷者は発生していません。そう、「恐怖の超兵器白燐弾」の正体とはこんなものなのです。

もちろん派手に燃えて飛び散っている白燐欠片を直接浴びれば火傷をするでしょう。しかしそれは、通常榴弾が炸裂した時に飛び散る弾殻破片の殺傷効果範囲よりも危害半径が狭いのです。そして、白燐が燃焼した時に発生する煙を浴びたところで、人体発火や骨まで溶けるというような奇怪な現象は発生しません。煙は広がるがこれでは人を殺せず、燃える白燐片は遠くまで届かない。それはつまり、白燐弾は通常榴弾よりも殺傷力で大きく劣るという事の証左です。

GlobalSecurity.org:White Phosphorus (WP)
「Casualties from WP smoke have not occurred in combat operations.」
「There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes.」

このように白燐弾からの煙による死亡例は存在しません。
そして白燐の直撃による死傷を否定してはいません。
しかしそれならば、通常榴弾の直撃の方が殺傷効果は高い。



煙覆後の突撃発揮は自衛隊の基本訓練なんですがね。
当然煙を出すのはWP弾なわけで、これがそんな猛毒ガス出すのなら使えるわけが無いのに・・・

各国軍は自国の歩兵をもう毒ガスに突っ込まして殺そうとしている、とでも言ってみればいいのにw
Posted by hige at 2005年11月27日 17:09

hige氏は現職の陸上自衛官です。白燐弾が非人道兵器と言われても困惑するしかないでしょう。
陸上自衛隊の偉い人もきっと困惑しています.富士総合火力演習での最後の見せ場、観客席の目の前にズラリと並べた戦車から煙幕弾を一斉発射・・・毎年やっている定番なのだけど。

Google画像検索「戦車 煙幕」
Google画像検索「総合火力演習 煙幕」

自衛隊にとって白燐弾とは、今まで一般市民の目の前で炸裂している様子を公開し続けてきた兵器であり、突然今更になって大量破壊兵器だとか非人道兵器だとか言われても青天の霹靂というものです。
01時54分 | 固定リンク | Comment (113) | 平和 |
2005年11月26日
「燃焼温度は5000度だ」「酸素の少ない水に触れるとホスフィンを出す」・・・白燐弾に関して出回っていたこのデマゴーグの発生源は、メールフォームに寄せられた情報によるとこういう事らしいです。


現代企画室出版『ファルージャ 2004年4月』という書籍の編訳者いけだよしこ氏がイラク人男性 Raed Jarrar 氏のウェブログ(英語)の日本語化も手掛けていたのですが、その Raed blog のコメント欄に書かれていた Rei という人物の投稿(2004年11月10日頃)が大元だということです。つまり「燃焼温度5000度」は単純な翻訳ミス。「ホスフィンを出す」については Rei という人物も燐の化学反応を理解しておらず(或いは知っていた上でミスリード)、翻訳時にも気付かれなかったというのが事の顛末です。いけだ氏が自身のサイトのコメント欄で釈明しています。

このメールを送ってくれた方はいけだ氏のコメント欄「Unknown (2005-11-19 13:23:12)」と同じ方でしょうか。いけだ氏のブログで私のブログの文章を引用してくれるのは構わないんですが、引用元がここである事を明記して貰えていたら面倒が少なくて良かったのですが。

さて Raed blog の原文を確かめようとしましたが Raed blog は現在コメント欄を閉鎖しており、閲覧できない状態でした。どちらにせよ、間違った情報を翻訳ミスをした上で紹介していたようです。それ自体はよくある事なのでしょうがない面もありますが、一年間もこの間違った情報が信じられ続けていた事自体が驚きです。この Rei のコメント和訳は何十ものブログで取り上げられ、恐らく何万、何十万人と閲覧者が居たにも関わらず、1週間前に「謎の超兵器と化した白燐弾」で指摘するまで誰も気付かなかっただなんて・・・有り得ないですよ普通。




【関連】
02時58分 | 固定リンク | Comment (25) | 平和 |
2005年11月17日
最近(11/13)、メールフォームへ「イラクで米軍が化学兵器の白燐弾を使用したと大騒ぎになっているのですが、ご存知でしょうか?」という情報がありました。それを見て「白燐(WP)弾なんて古くからある兵器を今更になって大騒ぎ?」と驚いたのですが、そもそも何時の間に化学兵器扱いになったのか理解に苦しみます。条約で禁止されている物質では無かった筈ですが・・・

試しに白燐弾で検索を掛けてみると、反戦運動家の間では既に恐怖の大量破壊兵器という扱いになっていて頭を抱えたくなってきました。その中でも特に広まっているおかしな言説にツッコミを入れておきます。元は何処かのブログのコメント欄に書かれたものらしいのですが、あちこちのブログに転載され、かなり有名になっているものです。





【珍説】
 白燐榴弾を人のいるところに投げているとは常軌を逸している。火器というよりは化学兵器になってしまう。米軍が使っているであろうM-15白燐榴弾は,爆発半径は17メートルあって,燃焼温度は5000度だ。身体に付着した破片を取り去ると,空気に触れて自然発火する。だから取り去る前に怪我をした箇所を水につけなければならない。破片はすぐに水にひたさなければならない。

 白燐(黄燐)は酸素の少ない水に触れるとホスフィンを出すが,これがおそろしいガスだ。煙を吸入すれば,「phossy jaw」と呼ばれる症状が起きる。口に傷ができるがそれは治ることなく,顎の骨自体が砕けてしまうこともある。白燐(黄燐)は少量(小匙1杯未満)摂るだけで,吐き気,嘔吐,肝臓障害,心臓障害,腎臓障害,ひどい眠気をもよおすし,時には死に至ることもある。


【回答】
 M15 White Phosphorus Grenade は古く、後継のM34に切り替わっている。また、5000度というのは白燐の燃焼温度としては高過ぎる。恐らく華氏5000度の事だろう。これは摂氏2760度に相当する。(アメリカでは気温の単位に摂氏ではなく華氏、ファーレンハイトを用いる)

 そして、「酸素の少ない水に触れるとホスフィン(PH3 燐化水素)を出す」とのことだが、白燐(P4)の一般的な保存方法は水中に漬ける事であり、水に触れても問題は無い。(問題があったら化学室の薬品棚は大騒ぎだ)白燐が燃焼して出来る煙は十酸化四燐であり、固体では乾燥剤として用いられる物質である。・・・ところで「酸素の少ない水」とは一体何を指すのだろうか。溶存酸素量の少ない水?しかしそんな事は化学反応に影響は無い。

 それともまさか、酸素の少ない水→酸素原子のない水=水素という意味なのだろうか。確かに燐と水素を直接反応させればホスフィンは発生するが、白燐弾から発生させるには難しそうだ。




もし「酸素の少ない水」の件がそうだとするならば華氏5000度の件と合わせ、この文章は引っ掛け、釣りである可能性が高い。この巧妙な珍説は一年前のファルージャ掃討戦の際に Rei という人物が書いたものらしい。・・・まさかと思うが、私の知っている人物に同名の方がいるのだが・・・いや、よくある名前だし関係無い筈・・・


米軍、イラクで「白リン爆弾」使用認める 「通常兵器」と[2005/11/17 CNN]
ワシントン――米国防総省は15日、昨年11月のイラク・ファルージャ大攻勢の際、高熱で人体を焼くことのできる白リン爆弾を武装勢力拠点に対し使ったことを認めた。イタリア国営放送(RAI)の報道を部分的に認めたものだが、白リン爆弾を市民にも無差別に使ったとするRAI報道は否定した。また白リン爆弾は化学兵器ではないと強調している。

国防総省のベナブル報道官は、見えにくい標的を浮き上がらせるなどのために白リン爆弾を使ったほか、武装勢力拠点に対して発火性の高い武器として使ったこともあると認めた。

一方で、「市民に対しては使っていない」と繰り返した。さらに、白リン爆弾は通常兵器で、米政府が批准している国際条約で禁止されているものではないと述べた。

米軍も色々と苦労しているらしい。突如として白燐弾が非人道兵器だと言われても、苦笑いするしかないだろう。世界中の軍隊がそう思っているに違いない。標定用スモークマーカーとしてのWP弾なら自衛隊も保有している。これは古くから在る一般的な弾であり、軍人は問題があるとは夢にも思っていないだろう。

追記・白燐弾と化学兵器・焼夷兵器の定義
22時50分 | 固定リンク | Comment (275) | 平和 |