このカテゴリ「報道」の記事一覧です。(全135件、20件毎表示)

2010年06月30日
今月号の「PANZER」誌で、陸上自衛隊の軽装甲機動車について「耐弾試験で前面が12.7mm弾に耐え、側面が7.62mm弾に耐えた」という記述がありました。以前からインターネット上で知られていた情報でしたが、商業誌で記述されたのは恐らくこれが初めてとなります。(※追記:PANZER誌の独自ソースではなく、インターネット情報がそのままPANZER誌に転載された可能性が高い事が分かりました。これでは雑誌記事ソースとは言えません…http://togetter.com/li/170832

「陸上自衛隊 軽装甲機動車」 柘植優介, 『PANZER』2010年7月号, p27
装甲厚は、防衛省/自衛隊からは公表されていないものの、試作車が耐弾試験において前面で12.7mm機銃弾に耐え(ガラス面も含む)、側面も7.62mmライフル弾に耐えた為、車重4.5トンから推定すると車体前面が8〜12mm、側面が6〜10mm程度であるものと思われる。フランスが開発したVBL装甲偵察車は車重3.6t、装甲厚が5〜11.5mmのため、これと同等か少し上くらいの防御力であろう。


PANZER2010年7月号

さてそこで問題となるのは、これとは全く異なる情報を何度も様々な軍事誌で披露し続けていた清谷信一氏です。清谷氏は「軽装甲機動車は5.56mm弾までしか耐えられない、7.62mm弾では撃ち抜かれてしまう」と主張していました。

(2010/02/28)軽装甲機動車は7.62mm弾で撃ち抜かれてしまう、だって?

しかし私自身は以前から「軽装甲機動車は正面は12.7mm弾に耐え、側面と後面は7.62mm弾に耐える」と聞いていたので、清谷氏の主張には懐疑的でした。


「新戦車は必要か」 清谷信一,コンバットマガジン2010年2月号,p129
しかもAPCは装甲が薄く、7.62mm弾に耐えられるレベルT程度の耐弾性(軽装甲機動車は5.56mmまで)で、戦車に随伴するのは難しい。
コンバットマガジン2010年2月号,p129


「自衛隊に海兵隊を創設せよ」 清谷信一,軍事研究2009年3月号, p46
また軽装甲機動車の装甲は五・五六mm弾に耐えられる程度で、七・六二mm弾には耐えられない(採用後に仕様が変更されているならば別であるが)。
軍事研究2009年3月号


清谷氏は「採用後に仕様が変更されているならば別であるが」と含みを持たせていますが、柘植氏は「試作車が耐弾試験において前面で12.7mm機銃弾に、側面も7.62mmライフル弾に耐えた」と書いており、採用前から耐えられるとしているので、二人の主張は真っ向から対立しています。

私は以前から柘植氏の記事と同じ情報を聞いていたので、今月号のPANZER誌を読んで軽装甲機動車の防御力について更に確信する事が出来ました。一方、清谷氏は何故「5.56mm弾にしか耐えられない」としたのか、一体どのような情報源からそのような事を聞いたのか、柘植氏の記事内容となぜ違うのか、説明して頂きたいと思います。

(※追記:PANZER誌の独自ソースではなく、インターネット情報がそのままPANZER誌に転載された可能性が高い事が分かりました。これでは雑誌記事ソースとは言えません…http://togetter.com/li/170832
06時12分 | 固定リンク | Comment (447) | 報道 |

2010年06月27日
これは微笑ましいニュースなのに・・・産経新聞社が発行する「夕刊フジ」の公式サイト「ZAKZAK」が日中友好を妨害しようと、伊丹市の陸上自衛隊中部方面総監部で行われた日中軍事交流の様子を捻じ曲げようとしています。


友好どころかピリピリ…自衛隊と中国人民解放軍が初交流:ZAKZAK
一行は応接室で角南俊彦総監(陸将)と懇談した後、部隊概要や武器・装備品の説明を受けた。その際、范上将は七四式戦車や自走りゅう弾砲について「射程は?」などと質問したが、自衛官は「お答えできません」と回答を拒否。すると、范上将は随行武官に中国語で「この砲の自走速度が16キロとは遅すぎるね」とやり返し、自衛官の顔が引きつる場面もあった。


先ずZAKZAKは誤報を流しました。人民解放軍の范長龍上将が質問したのは「自走りゅう弾砲(自走榴弾砲)」ではありません。自走榴弾砲は陸上自衛隊中部方面隊には配備されていません。この方面に有るのは「けん引りゅう弾砲(牽引榴弾砲)」の155mm榴弾砲「FH70」だけです。この砲は補助動力(スバル製1800cc水平対向エンジン)を積んでおり、短距離なら自走も可能ですが、長距離移動はトラックで牽引して運ばなければならない為、兵器分類としては牽引榴弾砲として扱われます。これは自衛隊のみならず世界各国全てでそのように分類されます。一方、自走榴弾砲とは装甲車の車体に榴弾砲を搭載したものです。なお自走榴弾砲があれば牽引榴弾砲は要らないというものではなく、ヘリコプターで吊り下げ輸送の出来る牽引榴弾砲は山岳戦で有利であり、陸上自衛隊は平原の多い北海道に自走榴弾砲を集中配備し、山が多い本州には牽引榴弾砲を中心に配備しています。155mm牽引榴弾砲「FH70」は英独伊共同開発ですが、日本は開発国よりも多くの500門近くを保有し、主力火砲となっています。


155mmりゅう弾砲FH70:陸上自衛隊公式サイト
中砲けん引車(FH70用)でけん引。補助動力装置(APU)を有しており最高速度16km/hで移動できる。操作人員は9人。略称FH70。


FH70の自走速度16km/hは陸上自衛隊が公表している情報です。射程についても開発元の英独仏が公表しているので(通常弾で24km、RAP弾で30km)、中国側は当然把握しているでしょう。つまり知っていながら聞いて来たのです。自衛隊側も秘密にする必要が無いのに秘密だと答えたのです。つまりこれは軍隊同士のお約束の会話なのです。

【牽引すると見せかけてトットコ自走撤収するFH70】


見て下さい、FH70の可愛い機動を。故に、ZAKZAKの書いた『范上将は随行武官に中国語で「この砲の自走速度が16キロとは遅すぎるね」とやり返し、自衛官の顔が引きつる場面もあった。』という情景は有り得ません。どう見ても自衛官の顔が引き攣るような場面ではありません。ここはにこやかに笑う所です。

范長龍上将「この砲(FH70)の自走速度が16km/hとは遅すぎるね」
随行の武官「人民解放軍のPLL-01榴弾砲なら18km/hは出せます!」
陸上自衛官「(微笑ましい会話だなぁ・・・)」


PLL01 (W88/89) 155mm Gun-Howitzer - SinoDefence.com
Mobility

An auxiliary power unit (APU) has been developed for the PLL01/W88 to provide limited self-propel capability. The 77hp APU can support the howitzer to travel up to 80km at a speed of 18km/h. When towed by trucks, the APU could also help the howitzer in cross-country travelling.

The PLL01 has a combat weight of 12,000kg (with APU) and 9,800kg (without APU). The howitzer can be towed by an air-braked 6X6 truck. The carriage has 4 large wheels and 2 small support wheels and is fitted with hydrostrut suspension system. The maximum road speed is 90km/h.


どう見てもピリピリしたり顔を引き攣らせるような場面ではありません。ここは皆で「こやつめ、ワハハハ」と笑うべき状況です。せっかく范長龍上将が一発ギャグを繰り出したというのに、ZAKZAKは何を勘違いしているんですか。范長龍上将がどんな兵器に質問し言及しているのか、理解していれば笑い話である事に直ぐ気付いた筈です。FH70が走っている様子はこんな可愛いのに・・・。

中国人民解放軍済南軍区司令員 中部方面総監部訪問:陸上自衛隊 中部方面隊 -JAPAN GROUND SELF-DEFENSE FORCE MIDDLE ARMY-

このように日中軍事交流は和やかに行われました。実に微笑ましい日中友好ですね。
21時49分 | 固定リンク | Comment (706) | 報道 |
2010年06月25日
6月19日に書いた記事『リディア・リトヴァクはソ連邦英雄でありロシア連邦英雄ではない』のコメント欄84番に、航空評論家の藤田勝啓氏が降臨され、英雄称号の件について訂正することを約束されました。



世界の傑作機「WW2ヤコヴレフ戦闘機」でリトヴャクの記事を書いた藤田です。ご指摘のとおり、彼女にロシア連邦英雄の称号が授けられたというのは間違いで、正しくはソ連邦英雄でした。ブダノヴァと混同してうっかり書いてしまいましたが、「うっかり」が言い訳にならないことはいうまでもなく、深くお詫び申し上げます。
あの記事の中には、ほかにひとつ確信が持てないまま書いてしまったことがあります。それはリトヴャクが乗機に百合を描いたという話で、写真がまったく存在しないので疑いながらも、Reina Penningtonの"Wings, Women, and War"に彼女の乗機の整備員だったPasportnikovaの証言が掲載されているので(ただし、「百合」とはっきり書いているわけではなく、「花」を描いたとしています)、通説に従いましたが、その後同じ連隊の整備員で、部隊の記録係となっているPoluninaが「百合を描いたというのはジャーナリストによる創作で、機体には2桁の番号だけを描いた」と証言している雑誌の記事(Aviation History March 2002 "Russia's Women Top Guns")を発見しました。現在その点についてさらに調査を進めており、はっきりと結論が出せるかどうか分りませんが、調査結果を航空ファンの本誌で発表させてもらうつもりでおります。そのときにロシア連邦英雄とソ連邦英雄の混同もお詫びしたいと思っております。
なお、ほかにおかしいと思われる部分がございましたら、ご指摘のほどをお願い申し上げます。間違いを指摘されるのは筆者にとってまことにありがたいことで、皆様のご協力が得られましたら、うれしい限りです。




また、イカロス出版では既に訂正が入っています。


MC☆あくしず公式ページ
MC☆あくしず Vol.17
お詫びと訂正
●別冊付録45ページ
リディア・リトヴャク中尉の説明文で「90年にはロシア連邦英雄の称号が送られている」となっておりますが、正しくは「90年にはソ連邦英雄の称号が送られている」です。

読者および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。


大変迅速な対応、ありがとうございます。以前にF-2戦闘機の件で岡部いさく氏が降臨、「世界の駄っ作機5」での訂正を約束された事や、イタリア軍パスタ伝説が間違いだった件で、MC☆あくしず編集部と野上武志氏が訂正漫画を掲載した事を思い出しました。今回もMC☆あくしず編集部さんは二日と経たずに素早く反応し対応されています。作り手に読者の声が届くというの素晴らしい事だと、改めて感じました。

(2007/06/18)伊軍パスタ伝説訂正漫画が「MC☆あくしず」Vol.5に掲載
(2009/10/15)岡部いさく氏『世界の駄っ作機5』の後書きでF-2戦闘機の記述訂正

なお、リディア・リトヴァクの英雄称号の件を最初に突っ込みを入れたのは私ではなく、mixiでの「CRS@空挺軍」さんです。彼が気付かなければ私は本をチェックもしていなかったでしょうから、今回の結果は全て彼のおかげです。
05時36分 | 固定リンク | Comment (63) | 報道 |
2010年06月19日
第二次大戦時のソ連空軍女性戦闘機パイロット、「リーリャ(百合)」ことリディア・リトヴァクは「ソ連邦英雄」であり「ロシア連邦英雄」ではありません。リディア・リトヴァクは行方不明となる最期の出撃から47年経った1990年に国葬が営まれ、当時のゴルバチョフ大統領からソ連邦英雄の称号を受けています。ソ連崩壊前の授与であり、リディア・リトヴァクの称号はソ連邦英雄です。この英雄称号はソ連崩壊後にロシア連邦英雄として制度が存続しますが、称号それ自体は授与時点のままであり、ソ連邦英雄を受けた者をロシア連邦英雄と呼称する事はありません。

Герой Советского Союза - Википедия
Герой Российской Федерации - Википедия

「ソ連邦英雄」と「ロシア連邦英雄」の名称は明確に区別する必要があります。しかし日本の軍事誌ではこの常識を知らない者が多数居ます。


文林堂; 世界の傑作機No.138『WWII ヤコヴレフ戦闘機』P93, 藤田勝啓 「スターリングラードに散ったユリ」
1980年代になって、ようやく彼女は地元の人によって埋葬された場所が発見され、それにより戦死と判定、ロシア連邦英雄(以前のソ連邦英雄)の称号が送られた。また、同じ時期にカーチャ・ブダノヴァにもロシア連邦英雄の称号が送られたのは、かつての時代を見直す運動によることだった。


間違いです、これは間違いです。ソ連邦英雄の称号はソ連が崩壊しロシアとなった今でもそのままソ連邦英雄と呼称します。勝手にロシア連邦英雄に切り替わったりしません。藤田勝啓氏はソ連邦英雄の称号が今は全てロシア連邦英雄と呼称されるようになったと勘違いされていますが、それは違うのです。授与された時がソ連時代ならば今もそれはソ連邦英雄なのです。リディア・リトヴァクは1990年に授与されたのでソ連邦英雄であり、1991年のソ連崩壊を挟んで、1993年にリディア・リトヴァクの同僚エカテリーナ・ブダノヴァ(愛称はカーチャ)がロシア連邦英雄を授与されています。リディア・リトヴァクはソ連邦英雄でありエカテリーナ・ブダノヴァはロシア連邦英雄です。両者の称号は区別されなければなりません。同じ物ではないのです。


イカロス出版; 「MC☆あくしず Vol.17」別冊付録「第二次大戦 世界の戦闘機エース列伝」P44のリディア・リトヴァクを取り上げたコラムより
90年にはロシア連邦英雄の称号が与えられている。


最近発売された「MC☆あくしず」最新号でも同じ間違いが見受けられます。恐らく「世界の傑作機」の藤田勝啓氏のコラムをそのまま受け売りした結果でしょうが、文責はイカロス出版編集部にあります。

・・・業界内で誰も気付かないまま間違いの再生産を繰り返すのでしたら、もはや読者が指摘して止める以外に無いでしょう。1990年にロシア連邦英雄は存在しません。リディア・リトヴァクはソ連邦英雄なのです。
20時03分 | 固定リンク | Comment (87) | 報道 |
2010年06月11日
アメリカ空軍は対ゲリラ戦用のCOIN機を再評価し、再配備するかどうか検討していました。まともな対空兵器を持っていないゲリラ相手なら、安価なCOIN機でも十分だと考えられたのです。しかしその結論は、UAV(無人機)の方がCOIN機よりも役立つとし、自軍への配備を取り止め、無人機の運用が出来ない友好国に対してのみ、安価なCOIN機を提供するという方針となりました。


UAVs Kill COIN Comeback - StrategyPage
May 11, 2010: Three years ago, the U.S. Air Force again became interested in evaluating prop-driven aircraft, with the intention of forming a squadron of suitable aircraft for "light attack" and COIN (counter-insurgency) duties. A competition between various contenders is to be held in two years. But now the air force has backed off on using these aircraft themselves. Instead, the competition will select the best aircraft for American allies who want such aircraft, especially if the U.S. is paying for it. The change in attitude is based on the feeling that the current combination of smart bombs and missiles, and aircraft (especially UAVs) to carry them, are adequate for current, or potential, needs.



英文記事タイトルを読むだけで内容は分かると思います。"UAVs Kill COIN Comeback"・・・直訳すると「無人機がCOIN機の復活を殺す」、これが全てです。いくらゲリラがまともな対空兵器を持っていないといっても、COIN機の低い生存性では不安がありますが、遠隔操作される無人機ならば例え撃墜されようとも自軍のパイロットは失われません。


UAVs Kill COIN Comeback - StrategyPage
But the air force would rather put more money into UAVs, which they believe can do everything a manned, prop driven aircraft can, and more (no crew risk, higher endurance). Better sensors and greater reliability have eliminated one of the major advantages of manned COIN aircraft.


無人機に搭載されるEO/IRセンサーの発達は、有人COIN機の利点である「人間の直接目視による観測」の優位性を埋めてしまいました。そして無人機の「人的リスクを気にする事無く攻撃できる」という利点が有人COIN機のコストが安いという特性を上回ると評価されています。

なお、アメリカの友好国へ提供するCOIN機に関しては、既にイラク空軍にAT-6テキサンUが提供されていますが、単発のCOIN機では生存性が心許ないと考えたのか、双発のOV-10ブロンコの再生産が検討されています。どの機種を本格的に生産するかどうかはまだ決まっていませんが、どちらにせよアメリカ空軍はCOIN機を自軍に配備する気は失せており、友好国の事情に合わせた機種が選定される事になるでしょう。

Togetter - まとめ『米軍で繰り返される問答「COIN機が必要だ」⇒「抗堪性が低い、要らない」』


さて、このCOIN機の関連で非常にタイミングの悪い人が一人・・・6月10日発売の「軍事研究」誌7月号で、軍事ジャーナリストの清谷信一氏が以下のような記事を載せています。


■「世界的に再評価進むターボプロップCOIN機」 軍事研究2010年7月号,清谷信一 108ページ
米空軍はテロとの戦いでCOIN機の部隊を編成する事を決定、LAAR(Light Attack/Armed Reconnaissance 軽武装攻撃偵察機)と称して、100機が調達される予定だ。


しかし前述の通り、アメリカ空軍のCOIN機再配備計画は潰れました。

(2008/11/24)ターボプロップの軽攻撃機では攻撃ヘリの代わりにはなれない理由

これまでの経緯は1年半前の記事と併せてご覧下さい。

日本の場合は島嶼での対ゲリラ・コマンドを考えた場合、航続力の高い機体が要求されるので、無人機か或いは有人機でも対潜哨戒機くらいじゃないと使い物にならないでしょう、COIN機は自衛隊の装備としては全く向いていないと考えます。アメリカ海軍はアフガンでP-3C哨戒機を対地支援(sustained combat air support over land)に使用していますし、海上自衛隊はP-3C用にマーベリック対地ミサイルを既に用意しているので、島嶼での対ゲリラ・コマンドならば哨戒機をそのまま攻撃に向かわせた方が効率が良いと思います。脅威レベルが高ければ哨戒機は勿論COIN機だって投入は無理ですし、その場合は無人機か戦闘爆撃機を投入する事になります。

やはり日本にCOIN機が必要であるとは思えません。COIN機は正規軍相手には全く通用せず、ゲリラが相手でも携行地対空ミサイルを持っているようなら投入自体が危険行為、そして日本にはフィリピンのアブサヤフ程度に相当する装備レベルの低いゲリラが跳梁跋扈しているわけではありません。日本がCOIN機を使うべき状況が何処にも無いのです。



T-6A_TexanII

A-1Skyraider

AH-64D

A-10

20時35分 | 固定リンク | Comment (351) | 報道 |
2010年06月05日
とある北朝鮮の超迫撃砲


北朝鮮・韓国緊迫でも…民主に危機感ゼロ 識者2人が警告:産経新聞
■「日本国内でテロも」

「ロシアの情報当局者によると『38度線北側に、北朝鮮はソウルに届く迫撃砲を万単位で並べて、カバーまで取り払っている』という。完全な臨戦態勢だ。いざ戦争となれば日本国内でテロもあり得る」

こう警告するのは、大宅賞ジャーナリストの加藤昭氏。


そうですかソウルまで届く迫撃砲ですかそうですか。非武装地帯を挟んで50-60km以上の射程がある超迫撃砲ですかそうですか。・・・迫撃砲がどのような兵器か全く理解していないジャーナリストに、それをチェック出来ずにそのまま掲載した新聞。ロシアの情報当局者から聞いた? 有り得ない、ロシア当局にそのようなレベルの低い者がいる筈が無い。こんな稚拙な記事に騙されるのは平和ボケした日本人だけです。

迫撃砲 - Wikipedia

迫撃砲は射程が短い兵器で、どのような迫撃砲を用いようと北朝鮮からいきなりソウルを砲撃できるようなものは存在しません。北朝鮮軍の兵器で、スカッド弾道ミサイルやフロッグ大型ロケット以外の、野戦砲でソウルまで届くものは以下の二系統だけです。170mmカノン砲と240mmロケット砲です。

M1989 170mm自走加農砲「コクサン」 - 日本周辺国の軍事兵器(北朝鮮)

M1979 170mm自走加農砲「コクサン」 - 日本周辺国の軍事兵器(北朝鮮)

M1991 240mm自走ロケット砲 - 日本周辺国の軍事兵器(北朝鮮)

しかしこれらは特別な長射程野戦重砲であり、170mmカノン砲の保有数は500門程度、240mmロケット砲の数もそう多くなく、170mmカノン砲と合わせて多く見積もっても1000門程度。万単位の火砲とは北朝鮮軍全体の保有数の話であり、ソウルまで届くのはごく一部です。ましてや迫撃砲で届くなどと・・・全くお話になりません。射程50-60km以上が必要になるんですよ?

史上最大の迫撃砲であるコレですら届きません。

【914mm迫撃砲リトル・デーヴィッド】


ロシア人のチューリップ迫撃砲でも届きません。

【2С4 «Тюльпан» 240mm自走迫撃砲】


唯一、迫撃砲でソウルまで届きそうなのはこれです。

Oka自走迫撃砲 - Wikipedia

ソビエト-ロシアの420mm自走迫撃砲「2Б1 Ока́」、戦術核砲弾を発射する為の特殊な迫撃砲です。

【陸上自衛隊 81mm迫撃砲】


普通の迫撃砲はこんなです。
12時16分 | 固定リンク | Comment (204) | 報道 |
2010年05月29日
金子秀敏氏という方は良く知らないのですが、この方は田中宇氏のような陰謀論者の類ですか? この記事を一読する限りは、そのように見受けられます。何の根拠も無く、何の知識も無く、一方的な妄想ストーリーを展開されています。


木語:辺野古の核貯蔵施設=金子秀敏 - 毎日新聞 2010年05月27日
それにつけても、米国はなぜ辺野古にこだわるのか。今年の春、佐藤栄作元首相の机の引き出しの中から発見された「沖縄核密約」にはこのようなやりとりがあった。

「(米国政府は)沖縄に現存する核貯蔵施設の所在地である嘉手納、那覇、辺野古及びナイキ・ハーキュリーズ基地を、いつでも使用可能な状態で維持し、重大な緊急事態の際には実際に使用できるよう求める」

「(日本国政府は)そのような事前協議が行われた場合には、これらの要件を遅滞なく満たすであろう」

末尾に最高機密の指定とニクソン大統領、佐藤首相の署名がある。

辺野古には核貯蔵施設があり、有事には核兵器をまた運びこむ密約である。貯蔵施設が今でもあるなら、沖縄の「抑止力」の正体はこれではないか。それなら米国が辺野古に固執する理由も見える。


それ=核兵器、と言いたいわけですか。メースBの時代から知識が止まってる感じですね。普天間基地の辺野古移設に拘るのは、辺野古弾薬庫にまだ巡航核ミサイル「メースB」が隠されているからだ・・・そんな陰謀論か何かでしょう。

MGM/CGM-13 (メース) - Wikipedia

メースBは40年前に退役した古い兵器です。今はもう沖縄に巡航核ミサイルを配備する時代ではありません。軍事技術の進歩で沖縄に置く必要が無くなったのです。グアムから発進する戦略爆撃機に搭載した空中発射巡航ミサイルで事が足ります。メースBは発射重量8トンもある巨大な巡航ミサイルなので爆撃機には搭載出来ませんでした。当時の技術ではそれが限界だったのです。しかし今では発射重量1.5トン前後でメースBの射程を上回る巡航ミサイルが存在しているので、爆撃機に積んでいく事が可能となりました。

核巡航ミサイルACMの発射ポイント 核巡航ミサイルALCMの発射ポイント

金子秀敏氏は「核兵器の投射手段」について勉強された方が良いと思います。アメリカの核戦略の基本中の基本です。核兵器それ自体の種類と運搬手段に付いて把握していなければ、アメリカの核戦略を語る資格は有りません。
02時11分 | 固定リンク | Comment (125) | 報道 |
2010年05月28日
内田樹氏という方は良く知らないのですが、この方は田中宇氏のような陰謀論者の類ですか? この記事を一読する限りは、そのように見受けられます。何の根拠も無く、何の知識も無く、一方的な妄想ストーリーを展開されています。


「それ」の抑止力 (内田樹の研究室) 2010年05月28日
韓国内の基地には「置けないもの」が沖縄には「置ける」ということである。
「それ」が抑止力の本体であり、「それ」が沖縄にあるということを日本政府もアメリカ政府も公式には認めることができないものが沖縄にはあるということである。


それ=核兵器、と言いたいわけですか。メースBの時代から知識が止まってる感じですね。普天間基地の辺野古移設に拘るのは、辺野古弾薬庫にまだ巡航核ミサイル「メースB」が隠されているからだ・・・そんな陰謀論か何かでしょう。

MGM/CGM-13 (メース) - Wikipedia

メースBは40年前に退役した古い兵器です。今はもう沖縄に巡航核ミサイルを配備する時代ではありません。軍事技術の進歩で沖縄に置く必要が無くなったのです。グアムから発進する戦略爆撃機に搭載した空中発射巡航ミサイルで事が足ります。メースBは発射重量8トンもある巨大な巡航ミサイルなので爆撃機には搭載出来ませんでした。当時の技術ではそれが限界だったのです。しかし今では発射重量1.5トン前後でメースBの射程を上回る巡航ミサイルが存在しているので、爆撃機に積んでいく事が可能となりました。

核巡航ミサイルACMの発射ポイント 核巡航ミサイルALCMの発射ポイント

内田樹氏は「核兵器の投射手段」について勉強された方が良いと思います。アメリカの核戦略の基本中の基本です。核兵器それ自体の種類と運搬手段に付いて把握していなければ、アメリカの核戦略を語る資格は有りません。
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2010年05月24日
全ては逆神の掌の上。事実は既に予測されていました。5月初めに北朝鮮の金正日総書記の中国訪問を事前に完璧に逆預言していた神浦さんの誤神託には、その他にこのようなものが仕込まれていました。

(2010/05/03)逆神ハ金正日ノ動向ヲ完璧ニ逆予言ス

『今回は軍部の独走というイメージが強い。』

韓国コルベット撃沈事件に関する推察です。これも勿論、誤神託だったのです。


哨戒艦攻撃、金総書記の指示か…米情報当局:読売新聞 2010年5月23日
米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は22日、韓国海軍哨戒艦「天安(チョンアン)」に対する北朝鮮の魚雷攻撃について、金正日(キムジョンイル)総書記の指示で行われたと米情報当局が分析していると報じた。

北朝鮮の「政治力学意識」に基づく分析だという。

同紙によると、魚雷攻撃は、金総書記の後継候補とされる三男の金ジョンウン氏の地位確立のために利用されたとの見方が米政府内で強まっている。


この一報を目にした時、「やはり逆神の誤神託が成就したのだ、逆預言が達成されたのだ」と鳥肌が立ちました。私はかなり以前から逆神の誤神託を参考に「韓国コルベット攻撃は金正日の指示によるものだ」と言い続けていました。全ては神浦さんの誤神託を参考にし、全面的な信頼を寄せていたからです。これはもう理屈ではありません。結果が全てです。神浦さんは軍事の逆神ですが、北朝鮮が絡むとその神通力は最大に発揮されます。その誤神託は、もう誰にも逃れる事が出来ません。【逆神】神浦元彰に対抗できる神通力を持つのは、もはや死神と称されるデスブログぐらいのものでしょう。
12時23分 | 固定リンク | Comment (115) | 報道 |
2010年05月09日
5月1日付(ネット版は4月30日)で朝日新聞が報じたノドン誤報の訂正が本日付の朝日新聞朝刊で行われました。

朝日新聞2009年5月9日

朝日新聞ソウル支局の牧野愛博記者が「ソウルの軍事情報筋」の話を鵜呑みにして書いてしまった事が伝わってきます。そしてとても往生際の悪い訂正の仕方に見えます。牧野記者の立場を守る為にはこれが限界だったのでしょうか。しかし液体燃料方式の弾道ミサイルを固体燃料方式に改良する事など有り得ません。それはもはや全てを造り直すのと同義であり、出来上がったものはノドンでは無い別の新型ミサイルとして扱われます。技術的に「ノドンの固体燃料化」など有り得ない話です。中身が全て変わるにも関わらず外装だけ使い回す事にも開発に制約が生じるだけで何の意味も見出せません。多段式ミサイルならば、どれかの段だけ別の推進形式のものに取り替える事も可能ですが、ノドンは単段式であり、それも有り得ません。どのように考えてもノドンの固体燃料化など有り得ません。


北朝鮮がノドンミサイル発射の動き、今月にも東海へ 朝日新聞報道 :東亜日報(2010年5月1日)
この当局者は、また「日本もメディアに報道されたノドンミサイルは固体ではなく液体燃料を注入するミサイルであることなどを考え合わせると、情報が正確なものとは思えない」と加えた。


韓国紙・東亜日報でも「ノドンが固体燃料式だなんて朝日新聞の情報は不正確だ」と報じられています。これはノドンが液体燃料形式である事は常識レベルの話である事、そして韓国でもノドン固体燃料化の話など聞いた事が無い、という反応である事が分かります。もしノドン固体燃料化の話が出ているなら新聞マスコミ、あるいは軍事研究所などのシンクタンクでそのような分析が行われていなければなりませんが、何処にもそのような話は見当たりません。韓国やアメリカのどの情報筋を見渡しても、全く聞いた事が無い話です。

もし北朝鮮が弾道ミサイルの固体燃料化に成功し、量産していることが判明した場合、これはもっと重大なニュースになっていないといけません。発射準備に時間の掛からない固体燃料方式では、発射前に撃破する事が大変に難しく、弾道ミサイルランチャー狩りが殆ど通じない事になり、先制攻撃で発射を阻止する事が不可能に近くなってしまいます。つまりミサイル防衛システムで撃墜する以外に対抗手段が無くなるのです。軍事的には凄まじく重大な意味を持ちます。その重大性を、朝日新聞はまだ認識できているとは思えません。

今回の朝日新聞の訂正は、Twitterで朝日新聞国際報道部に指摘が為され、それに対応する形で行われました。



連休中だったので訂正の対応が遅れたのは構わないのですが、もっときちんと訂正して欲しかったと思います。これでは不十分です。
20時08分 | 固定リンク | Comment (111) | 報道 |
2010年05月03日
2010年5月2日、逆神ハ誤神託ヲ告ゲル。


J-RCOM 神浦元彰 最新情報 2010.05.02
今回は軍部の独走というイメージが強い。北朝鮮で軍部が独走する時は、金正日が正常に判断できない時である。この様子から、もはや金正日が中国を訪問することは不可能になったのではないか。


2010年5月3日、逆神ノ誤神託ハ成就ス。


キム総書記 大連で確認される:NHKニュース
北朝鮮のキム・ジョンイル総書記が、3日、特別列車で中国入りしたあと、東北部の中心都市、大連のホテルにいたのが確認されました。キム総書記は、4年ぶりとなる中国訪問を開始しました。


見事。逆神、見事ナリ。
18時00分 | 固定リンク | Comment (95) | 報道 |
2010年05月01日
最初に・・・ロシア製巡航ミサイル「SS-N-27シズラー」とはNATOコード名で、ロシアでの正式名称は「クラブ」です。同様に「SS-N-22サンバーン」のロシアでの正式名称は「P-270モスキート」と言います。

以下は産経新聞の古森義久・ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員の記事です。米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員をインタビューした内容なのですが・・・記事内容は二重に間違ってます。


沖縄近海航行 中国海軍 新戦略の始まり (2/2ページ):産経新聞
また、今回の中国艦隊の保有兵器に関連して(1)キロ級潜水艦が搭載する超音速のSS−N22サンバーン艦対艦ミサイルが有事の際、日本の自衛隊艦艇への大きな脅威となる(2)ソブレメンヌイ級駆逐艦が搭載する超音速SS−N27シズラー艦対艦ミサイルも自衛隊への脅威となるほか、米軍艦艇への接近拒否の威力を発揮できる−ことを指摘した。


古森さん・・・逆です。キロ級潜水艦に搭載しているのがSS-N-27シズラー(クラブS)で、ソブレメンヌイ級駆逐艦に搭載しているのがSS-N-22サンバーン(P-270モスキート)です。それと、ロシアが中国に売却したSS-N-27シズラー(クラブS)は「3M-54E1」で、超音速は出せないタイプです。クラブSについては2年前にも産経新聞の記事を相手に同じ事を説明しています。

(2008/11/04)クラブS巡航ミサイルの通常型と簡易型の違い

この時はマッハ3突入弾頭型を通常型、亜音速型を簡易型としましたが、マッハ3突入弾頭型を特殊弾頭と考える方が分かり易いですね。それにしても産経新聞は、野口裕之さんも古森義久さんも中国が保有するクラブSの事を超音速タイプと誤解したままなのはどうにかなりませんか? 挙句の果てにサンバーンと取り違えるってどういうことですか・・・大きさ全然違うんですけど。なお米軍はサンバーンやクラブSを別に恐れていません。サンバーンのようなマッハ3クラスの対艦ミサイル相手なら模擬標的ミサイルを作成して迎撃テストを行っているので、対処する目処は立てています。

GQM-163 Coyote | Designation-Systems.Net

ただし特殊な加速をするクラブSマッハ3突入弾頭型を模した標的ミサイルは作れておらず、2年前にキーティング米太平洋軍司令官(当時)がクラブSマッハ3突入弾頭型を「対処できない」としたのは、「早く模擬標的ミサイルの予算を頂戴!」というパフォーマンスに過ぎません。しかし米空母打撃群からすればクラブSを加速前の巡航中に艦載戦闘機で捕捉すればどうという事は無いので、恐れてなどいません。加速突入を許してもぶっつけ本番でもイージス艦で対処できると思いますが、きちんと迎撃テストが出来ていないので少し不安がある、という程度の話です。そしてそもそも、中国の保有するクラブSのタイプ「3M-54E1」はロケット加速をしてきません。

なおロシア側ではサンバーンはちょっと大き過ぎる(本体重量4.5トン)ので、今後は小振りで性能は同等以上のP-800オーニクス(本体重量3トン)を採用していく方針です。とはいえオーニクスでさえも533mmランチャーから撃てるサイズではありません。一方でクラブは重量1.8トン、直径も533mmで、潜水艦の魚雷発射管からも撃てます。クラブの方が汎用性が高く小さめで使い易く、メーカー側では輸出を強く意識したミサイルとなっています。

はっきり言ってしまえばサンバーンを搭載したソブレメンヌイ級で米空母打撃群に攻撃を仕掛けに行くのは自殺行為に近いでしょう。その射程は空母艦載機の行動半径に比べ短く、発射する前に撃破されてしまいます。ロシア海軍ではソブレメンヌイ級は防空駆逐艦という扱いであり、攻撃を仕掛けに行く艦ではありません。中国海軍でも基本的には同じ運用です。クラブSを搭載するキロ級潜水艦は海中に潜っているので発見し難く、侮ってはいけない存在であることは確かですが、それは西側製潜水艦とサブ・ハープーン対艦ミサイルの組み合わせと同程度の性能という意味であり、何か驚異的な兵器を積んでいるというわけではなく、大騒ぎするようなものではありません。中国海軍自身もサンバーンやクラブ程度で米空母打撃群を接近拒否できるとは全く思っていません。現状の中国海軍よりも、ボロボロの状態のロシア太平洋艦隊の方がまだ遥かに上の対艦打撃能力を有しているのです。

産経新聞の政治的煽り記事は何時もの事なのでそれは仕方ありませんが、全く違うミサイルを取り違えて紹介したり、亜音速しか出ないミサイルを超音速だと紹介したりするのは止めて下さい。「キーティング司令の議会での発言の真意を読み取れ」とまでは要求しません。せめて事実を間違えずに報道して下さい。
09時22分 | 固定リンク | Comment (105) | 報道 |
2010年04月30日
これはまた怪しげな情報源に引っ掛かりましたね、朝日新聞は・・・。


北朝鮮、ノドン発射の動き 5月中に日本海へ?:朝日新聞
 【ソウル=牧野愛博】北朝鮮が近く、中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程約1300キロ)を発射する動きがあることが29日、分かった。軍事関係筋が明らかにした。米韓両国などは人工衛星で発射の兆候がある地点を把握しており、日本海に向けて発射する動きを見せているという。

 ノドンは準備が簡単な固体燃料を使っているほか、移動式の発射台を用いるため実際に発射するかどうかを事前に把握することは極めて難しいが、各種の情報を総合すると5月中にも発射する可能性が高いという。


ノドンは液体燃料の筈ですよ? もうこの時点で記事全体の信憑性を疑われてしまいます。朝日新聞の牧野愛博記者の情報源である「ソウルの軍事関係筋」が其処まで含めて言っていたなら、それは軍事関係筋ではない偽物に違いなく、この記事は根本から全て否定されます。固体燃料云々の部分が牧野愛博記者の勝手な付け足しの場合でも、やはり其処は誤報で確定です。

この記事は「日本の朝日新聞が報じた」という事で外電でも報じられています。

North Korea May Be Preparing to Test Missiles, Asahi Reports - Bloomberg.com

どうするんですかこれ。どう責任取るんですか。
10時59分 | 固定リンク | Comment (148) | 報道 |
2010年04月01日
相変わらず、共同通信と産経新聞のコンビは同じ間違いを繰り返しているようです。以下は共同通信が配信した内容を産経新聞が記事にしたものです。


米軍が弾道ミサイルを発射 サウジとの合同演習で:産経新聞
AP通信によると、西側軍事筋は31日、米軍が同日行われたサウジアラビア軍との合同演習で、核弾頭搭載可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)トライデントの発射演習を行ったと述べた。

イラン核問題をめぐる緊張が高まる中、米国はイランによる攻撃を念頭に、湾岸諸国で防衛能力の拡大を進めているとされる。

同筋は、演習が行われたのはサウジ国内と述べたが、具体的な場所などは明らかにしなかった。サウジの首都リヤド駐在の西側軍当局者は演習に、米国防総省のオレイリー・ミサイル防衛局長も参加したと語った。(共同)


US test-fires Trident missile in drill with Saudis : Associated Press
A Western military official says the United States has test-fired a submarine-launched ballistic missile capable of carrying nuclear warheads during a joint military exercise with Saudi Arabia.

The official said the Trident missile launch was carried out Wednesday in the kingdom but would not give a precise location. He spoke on condition of anonymity because of the sensitivity of the issue.


戦略原潜がサウジアラビア領海内でトライデント弾道ミサイルを発射演習?(元の英文に「王国で発射された」とある)・・・馬鹿馬鹿しい、AP通信はエイプリルフールの嘘記事をうっかり一日早く書いてしまったんだろう・・・と思っていたら、アメリカ国防総省(ペンタゴン)が本気になって全否定していました。AP通信はそれを受けて否定記事を配信、全米の各報道で記事になっています。


Pentagon denies military test-fires Trident ballistic missile in Saudi drill - Los Angeles Times
WASHINGTON (AP) - The Pentagton denied Wednesday that the United States test-fired a submarine-launched ballistic missile capable of carrying nuclear warheads during a joint military exercise with Saudi Arabia.

A Western military official in Saudi Arabia, speaking on condition of anonymity because of the sensitivity of the issue, said a Trident missile was launched Wednesday out in the kingdom. But Lt. Col. Jonathan Withington, a Pentagon spokesman, said there was no launch of Trident or any other missile during the exercise, which began last week.


トライデントどころか如何なるミサイルも発射していない、当然ミサイル防衛局のオライリー長官も立ち会っていない、いい加減な事を言うんじゃない・・・国防総省はブチ切れているようです。そもそも国防総省の説明が無くても怪しいと判断できなければいけません。アメリカの戦略原潜は北米大陸沿岸に潜んで射程1万kmのトライデント弾道ミサイルで敵国を狙い撃つものであり、イランを狙うのに中東へ接近する必要はありません。インド洋にすら展開する必要は無く、大西洋から余裕で届きます。AP通信の情報源の「西側軍事筋」や「西側軍当局者」が何処の馬の骨か知りませんが、記者自身に最低限の軍事知識があれば間違える事は無かった筈です。そしてAP通信の誤報をそのまま垂れ流した共同通信と産経新聞は、いい加減に学習して下さい。

(2010/03/15)核密約問題でマスコミは右も左も馬鹿ばかり

確かに今回の件で一番悪いのは誤報を発した元凶であるAP通信です。ですが共同通信と産経新聞は同じ間違いを繰り返しています。ちゃんと学んでいればAP通信の誤報に惑わされる事は無かった筈です。そして共同通信も産経新聞も、未だにアメリカ国防総省のAP通信への反論を報じようとしていません。外電をそのまま垂れ流し、外電が間違っていても誤報の訂正も行わない、そのような態度はあまりにも無責任です。

イランまでの射程距離
22時18分 | 固定リンク | Comment (118) | 報道 |
2010年03月26日
アメリカ海軍の新型戦闘機ボーイングF/A-18E/F「スーパーホーネット」は、元になったF/A-18C/D「ホーネット」の改良型です。殆ど別物と言えるほどの大改造を施し、大きさも二回りほど大きくなっています。F/A-18E/Fは正式ニックネームとは別に「ライノ(動物のサイ)」というニックネームでも呼ばれています。また「スーパーホーネット」と区別する為に、F/A-18C/D以前の型を「レガシーホーネット」と呼ぶこともあります。なおF/Aとは戦闘機/攻撃機の頭文字で、C型とE型は単座、D型とF型は複座となっています。

このF/A-18E/Fは、日本航空自衛隊の次期戦闘機(FX)候補の一つですが、実はあまり有力候補とは言えません。何故かと言うと、最高速度・加速力・上昇率のどれもが低い値だからです。ただでさえ原形機のF/A-18C/Dもそれらの値は良くなかったのですが、改良型のF/A-18E/Fは更に低くなってしまっています。


アフガン攻撃に備える? 米軍最新鋭兵器(上) | WIRED VISION(2001年10月11日)
スーパーホーネットは先行機種の『F/A-18C/D』より加速性能が悪く、70%も価格が高くなるため、批判する声もあがっている。


このように、軍事専門誌や航空専門誌では無い、単なるインターネット情報サイト「WIRED」の日本語版ですら報じられている事実です。アメリカでも日本でもインターネット上では広く知られている情報です。

しかしそれなのに、今月号の「航空情報」誌の特集記事「徹底考証-FX問題 進化するF/A-18は最適か」には、以下のような記述が存在していました。


Part1「F/A-18E/Fの機体構造を探る」 航空情報2010年5月号,桜井茂 26〜27ページ
加速力や上昇力などに優れている

スーパー・ホーネットの性能に関しては、ほとんど公表されていない。ボーイングはその最大速度をマッハ1.8としているが、実際にはマッハ1.6をわずかに超えられる程度で、比較的低速の機体ということになるが、これは機体が大型化し、また重量が増加していることが大きな原因だ。ただ推力重量比や翼面荷重などの数値をF/A-18CとF/A-18Eで比較すると、F/A-18Eの方が優れた値を示しているので、スーパー・ホーネットは加速性や上昇力に優れ、加えて低速度域での運動性に勝ると言って良いだろう。
 

桜井茂氏の記事の説明は、間違っています。翼面積が増えたことによる抵抗増、機体自体が大型化した事による抵抗増、そして重量増といった弊害は、エンジンの強化で推力重量比が向上すればカバーできるという目論見は崩れ去っています。そもそも最高速度が落ちている時点で加速力なども落ちていると予測すべきでした。

それではF/A-18E/Fスーパーホーネットの公表されている加速力の実際の数値や上昇性能などについて見て行きましょう。どうやら桜井茂氏は御存じ無かったようですが、スーパーホーネットの性能はGAO(アメリカ会計検査院;United States General Accounting Office)の報告書にバッチリ載っています。GAOは軍やメーカーが隠したがっている数字を必要に応じて容赦なく公表してくるので、要チェックです。


[PDF] GAO/NSIAD-99-127 DEFENSE ACQUISITIONS
Progress of the F/A-18E/F Engineering and Manufacturing Development Program

Poor climb performance above 30,000 feet. The F/A-18E/F’s best climb performance was in the low 30,000-foot range, with intermediate power.Although higher altitudes may have been possible, the climb rate was too slow to be useful in most tactical scenarios. Performance predictions indicate that combat and tactical ceilings for the newer F/A-18Cs (Lot XIX) are greater than that of the F/A-18Es when the aircraft are similarly loaded with weapons and fuel tanks. The E/Fs low tactical ceiling reduced the mission effectiveness of the aircraft when in the fighter escort configuration against high, fast-flying enemy aircraft by limiting the regions where the E/F could effectively launch its air-to-air missiles.

Low acceleration. The E/F’s maximum level flight airspeed was determined to be less than both the F/A-18C and other threat aircraft in similar fighter configurations at all investigated altitudes. This deficiency reduced the E/F’s effectiveness against high, fast-flying aircraft and provided insufficient airspeed when the E/F was attempting to exit a combat situation.


[PDF] GAO/NSIAD-96-98 NAVY AVIATION
F/A-18E/F will Provide Marginal Operational Improvement at High Cost

Aircraft acceleration affects an aircraft’s combat performance in a number of ways, ranging from how quickly the aircraft can reach its area of operation to its ability to close the gap in air-to-air engagements or to evade air-to-ground missiles. Navy data shows the following:

・ At 5,000 feet at maximum thrust, the F/A-18C accelerates from 0.8 Mach to 1.08 Mach in 21 seconds, whereas the F/A-18E will take 52.8 seconds.
・ At 20,000 feet at maximum thrust, the F/A-18C accelerates from 0.8 Mach to 1.2 Mach in 34.6 seconds, whereas the F/A-18E takes 50.3 seconds.
・ At 35,000 feet at maximum thrust, the F/A-18C accelerates from 0.8 Mach to 1.2 Mach in 55.80 seconds, whereas the F/A-18E takes 64.85 seconds.The F/A-18C accelerates from 0.8 Mach to 1.6 Mach in 2 minutes 12 seconds, whereas the F/A-18E takes 3 minutes and 4 seconds.


このように加速力は大幅な低下を引き起こしています。上昇率も落ちています。旋回率は向上しているので、低空低速での格闘戦能力は向上しているかもしれませんが、陸上基地配備で迎撃任務が主体の航空自衛隊FX候補としては、スーパーホーネットは不向きな機体です。邀撃任務には高い加速力、上昇率、最高速度の方が有利です。F-22は別格として、ユーロファイターやF-15Eと比べてもスーパーホーネットは大きく見劣りします。また増槽や兵装を機外に装備すると加速力や最高速の低下も著しく、戦闘状態では機内兵装のF-35にも加速力で負けてしまいます。

GAOの報告書は10年以上前の古いものですが、スーパーホーネットのこれらの問題点は改善されていません。これは不具合というよりは根本的な空力特性の問題で、ボーイングも諦めています。

よく「航空自衛隊は海軍機を採用する気が無い」と言われていますが、現実には「海軍機は加速力が低いものが多く、採用したくても出来なかった」というのが実際の話です。嘗ての傑作艦載戦闘機F-14トムキャットも加速力の低い機体でしたので、航空自衛隊に採用されることはありませんでした。

F/A-18E/Fスーパーホーネットは、邀撃戦闘機としてF-15J改に劣ります。加速力・上昇率・最高速度、どれを取ってもF-15J改の方が上です。そして対艦攻撃機としてF-2に劣ります。F-2は対艦ミサイル4発と翼下に大型増槽を2個も搭載して、対艦攻撃時の高い作戦行動半径を有しています。しかしスーパーホーネットは兵装ステーションの関係上、対艦ミサイルを4発搭載すると翼下に大型増槽を搭載できず、胴体中央の中型増槽一つだけになり、F-2と比較して航続距離が短くなります。

FXで現有機に能力で劣るものを得たいとは思えません。もしスーパーホーネットを得ようとするなら、その長所である高い爆撃能力とレーダー性能を前面に押し立てて、航空自衛隊に敵基地攻撃能力を与えたいといった新たな方針を定め、複座のF型のみ取得するといった考え方も有り得るかもしれませんが、しかし現状で空自が欲しがっているのは迎撃戦闘機であって爆撃機ではありません。FX候補機ではF-15EやF-35も戦闘爆撃機的な性格が強いですが、F-15Eは元々の機体の素性は制空戦闘機であり無理矢理に爆撃能力を与えた機体なので、主任務を迎撃に戻すことは簡単です。F-35はステルス能力による対空戦闘時のBVR(視界外)戦闘能力の高さがあり、機内兵装なので戦闘装備でも空気抵抗が増えずに加速力などが悪化せず、対戦闘機戦で高い性能を発揮することが出来ます。

一方、スーパーホーネットが対戦闘機戦で特筆すべきなのは低空低速での格闘戦だけです。新型AESAレーダーもありますが、これは他の候補機も同等のものが用意することが可能なので、アドバンテージにはなりません。しかし低空低速での格闘戦は、仮想敵機であるフランカーやファルクラムの得意なステージであり、わざわざ相手の土俵で勝負するのは不利な要素です。対戦闘機戦では自分の長所を生かしつつ相手の弱点を攻める事が基本です。例えば太平洋戦争で活躍したアメリカ海軍のF4Fワイルドキャット戦闘機とF6Fヘルキャット戦闘機は、格闘戦の強い日本軍機に対しては一撃離脱戦法を挑みましたが、ヨーロッパ戦線で急降下性能の高いドイツ軍機が相手の場合は格闘戦を挑みました。それを考えると、スーパーホーネットの格闘戦性能がいくら高くても、フランカーはそれより上だとしたら、積極的に格闘戦を挑むべきでは無いと思います。そもそも現代の空対空戦闘は、格闘戦に入る前にBVR戦でケリが付く事の方が圧倒的に多い筈で、それならばF-35の方が良いという話になります。


中国空軍、その脅威の正体: 大石英司の代替空港(2004年10月26日)
私は、十数年間、フランカー戦闘機の、様々なタイプのフライト・デモを見てきました。国内でも、イーグルのデモを見てきました。それで言えることは、恐らく、ドッグファイトとなったら、イーグル戦闘機に、勝ち目はまず無いだろうということです。

〜中略〜

現状、このフランカー戦闘機と互角に戦えるのは、F−18E/Fスーパーホーネットだけです。この機体は時々、フランカーにそっくりのマニューバーを見せます。フランカーがパワーと大きな舵でやってのけることを、スーパーホーネットはパワーとコンピュータでやってのける。
 このイーグル、フランカー、スーパーホーネット、三機種のマニューバーを見た人間となると更に限られます。日本では恐らく50人といないでしょう。ここ数年、フランカーは、Farnboroughでもパリでも飛んでいないから、ここ10年通っている人間しか、その実際の所の実力差は解らない。それを毎年欠かさず見てきた人間となると、私を含めても10人いないでしょう。私の他は、プロのカメラマンだけです。この中にもちろん自衛官は含まれません。

〜中略〜

繰り返しますが、イーグル戦闘機ではフランカーに勝てない。フランカーに今勝てるのは、スーパーホーネットだけです。それを皮膚感覚で知っている日本人は、残念ながら10人といないかも知れない。


作家の大石英司氏はスーパーホーネットの過大評価があまりに激しかったのですが、この一年後に2chマスコミ掲示板信濃毎日新聞スレッドにて、スーパーホーネットの加速性能が非常に悪い事が当人に伝わっています。



686 名前:大石 ◆rWiRYuenSI 投稿日:2005/08/30(火) 21:41:56 ID:al8VLX2D
> -- At 20,000 feet at maximum thrust, the F/A-18C accelerates from
> 0.8 Mach to 1.2 Mach in 34.6 seconds, whereas the F/A-18E takes
> 50.3 seconds

 俄には信じられない数字だけど、本当だろうか。
 なんでこんな極端な数字になるんでしょうね。


これでスーパーホーネットの実力を分かってくれたろうと思っていたのですが・・・


「F/A-18E/FはF-Xとしてどうか〈2〉」 航空情報2010年5月号,大石英司 40〜41ページ
航空自衛隊としては、別にタイフーンを嫌っているとか、その評価が低いということではないらしい。ただ単純に、アメリカ製でなければ嫌だ、という話が風の噂で聞こえて来る。ならばライノでも良いのではないか?

〜中略〜

ライノを拒否する理由が、「ラプターではないからだ」ということであれば、それはもう無理な相談というもの。

〜中略〜

ライノのスペックは、まだ存在しないF-35や買えなかったF-22と比較するから見劣りするのであって、イーグルやタイフーンと比較すると、そう捨てたものではない。

〜中略〜

何より、配備続行予定だった国産のF-2と比較して、まったく遜色がないスペックを持っている。


今月号の「航空情報」誌でご覧の有様でした。イーグルよりもライノ(スーパーホーネット)が圧倒的に強いと言っていた数年前と比べれば大人しい表現にはなっていますが、大石英司氏はライノの加速力の低さを把握している筈なのにその事には一言も触れずに、ライノ称賛ですか・・・ライノは単に加速が遅くて空自の評価が低いだけなのです。F-22がどうとか以前の問題です。他のFX候補機どころか、既存機であるF-2と比べても加速力や対艦攻撃能力で見劣りします。

航空自衛隊のFX候補の中では、迎撃戦闘機としてはF-22が別格の存在ですが、取得の可能性はもう殆どありません。次いでステルス能力によるBVR戦を重視するならF-35が挙げられ、それに拘らないで空戦能力の高い順ならユーロファイター・タイフーン、F-15Eとなります。対艦攻撃力ではユーロファイター・タイフーンが突出しています。兵装ステーションのバリエーションが豊富で、対艦ミサイル6本搭載すら可能とあり、F-2すら上回る攻撃力を秘めています。対地爆撃能力ではF/A-18E/F、特に複座のF型が高い能力を持っています。長距離爆撃で航続力を第一に考えればF-15E、ステルス侵攻爆撃能力を考えるならF-35ですが、F/A-18E/FのF-35に次ぐアヴィオニクス、F-15Eよりも小さなRCS面積、そして低空侵入能力の高さが優位点です。

つまり航空自衛隊の次期戦闘機(FX)候補として、迎撃能力や対艦攻撃力を重視するとF/A-18E/Fは候補から外れてしまいます。対地爆撃能力を重視するとした場合のみ、F/A-18E/Fは有力な候補の一つとなります。よって、航空自衛隊が今後一体何をしたいかで、FXが何になるか決まってくるのです。

ボーイングは現在、ライセンス生産を前提にF/A-18E/Fスーパーホーネットを強力に日本へ売り込みに掛けに来ています。F-15Eは韓国に纏まった数が売れていますので、日本にはF/A-18/Fを買って欲しい、そういう思惑のようです。(※F-15EもF/A-18E/Fもボーイング社の戦闘機)

日本政府および航空自衛隊・防衛省は、ロビー活動などに惑わされたりせず、FXで取得する戦闘機に一体何をさせる気なのか、明確なヴィジョンを定めた上で選定して貰いたいと思います。
21時17分 | 固定リンク | Comment (483) | 報道 |
私の知り合いである原子力技術者「へぼ担当」さんに無理を言ってお願いし、mixi日記からの転載を許可して頂きました。


【以下、本文】

---団藤保晴氏 「日経電子版の客寄せ特ダネ、いただけない素人騙し」の言説を検証する---


 団藤保晴氏による
「日経電子版の客寄せ特ダネ、いただけない素人騙し」
http://blog.dandoweb.com/?eid=91592
であるが、以下見過ごせない点が多い。個人的には趣味ではないが、事実誤認などがあまりに酷いため、その間違いを以下に指摘し、団藤保晴氏の言説を検証することとする。


>「ゲイツ、原発挑戦の真相」へと読み進ませて、原子力分野の素人さんには大変な原発が出来ると大いなる幻想を持たせたと思います。

 『原子力分野の素人さん』とは我々専門従事者が絶対に口にしない禁句であり、まかり間違っても、そのような失言を行えば、団藤氏のような新聞記者によって、『専門家の思い上がり』と徹底的に批判されるところ。
 では、『原子力分野の素人さん』ではない「らしい」団藤保晴氏の言説を以下に検証してみることとする。


1.核融合と核分裂の違いは無視?

>これが簡単に出来るくらいなら核融合実用化の大きな障害がひとつ取り除けるのだと申し上げたら、いかに困難な話なのか理解していただけるでしょう。

 残念ながら読み進んで行かなくても、この時点で団藤保晴氏は核分裂炉と核融合炉では一体何が違うのか、特に中性子のエネルギーについて全く理解していないがために、以下の言説がほとんど全て間違っていることが、この時点で既に予想することが出来る。

 確かに核融合炉に限らず、原子炉・核融合炉に用いられる原子力用材料では
「原子炉内で中性子照射に対する耐久性」
が問題になるのは明らかである。
 
 ただし、肝心なことはその中性子が一体どのような物なのか。相手を把握しなければ全く意味をなさない議論となる。
 本来なら、当該中性子の持つエネルギーに対する材料の感受性(専門用語では核反応断面積)を考慮しなければならないし、我々専門従事者にとってはそれが大前提のものとなる。
 しかし、ここはさわりとして極めて単純化した議論を行うこととする。
 
 中性子照射による損傷(ダメージ)は、核反応断面積が不変という極めて単純化した場合としても、
A.材料に当たる中性子のエネルギー
B.材料に当たる中性子の量
に依存するのは誰の目にも明らかである

 ところで、核分裂反応で発生する中性子のエネルギーは「2MeVを最大」
(注:実際には1MeV前後でピークとなるが、核融合炉との比較目安として保守的な値を用いる事とする)
とし、その下は引きずるような形で中性子のエネルギー分布を形成する。
 一方、核融合炉におけるD-T反応である
D + T → He + n (14MeV)
で発生する中性子のエネルギーは「14MeV」と、核分裂反応における最大の7倍にも達する。

 ここで野球のボールを中性子になぞらえて、ピッチャーの投げるボールで考えてみる。
 高校の初等物理学で習うように、運動エネルギーは速度の二乗に比例する。そのため、運動エネルギーで7倍の差があると、速度はルート7≒2.65倍異なることとなる。
 つまり、核分裂反応の最大のエネルギーである2MeVが、仮にプロ野球超一流ピッチャーが投げる時速150kmのボールだったとすると、核融合炉では最大でその2.65倍、つまり時速約400kmとプロペラ飛行機なみの早さとなり、同じ土俵で野球など、とても成立しないことが分かる。
 
 すなわち団藤氏の言説は、プロ野球で時速約400kmもの剛速球を投げるピッチャーが存在し、それで同じ野球が成立する、と豪語しているのと同じ事である。

 この有様では、「材料に当たる中性子のエネルギー」だけを考えただけでも、団藤氏の言説は失当であることは明らかである。
 本来は、これにその球数(中性子の当たる量)、打者の打率(中性子核反応断面積)を考え合わせなければならないが、野球で言うピッチャーの投げるボールの速さを考えただけで破綻してしまう言説は、さすがに如何なものかと考える。


2.「エネルギー=出力×時間」の物理原則を無視?

>協力を求められた東芝の「小型高速炉(4S)」はナトリウム冷却高速炉ながら、出力1万キロワット級とコンパクトさが売り物です。小さいが故に中性子の発生も少なくて、核燃料体交換無しに30年運転をうたいます。

 さらっと記載されているが、東芝の「小型高速炉(4S)」の特徴・特性を全く理解していないどころか、高校生レベルの物理すら理解しているか怪しいことが、この言説で読み取ることが出来る。
 
 そもそも、核分裂でも何にしても発生するエネルギーは、「出力×時間」の積であるのは、高校1年生レベルの初等物理学でも理解すべき事項である。

 そして、核分裂反応によって発生する中性子の量は、その核分裂数に比例し、エネルギー(注:出力ではない)もそれに比例するのは明らかである。つまり、「出力」が小さくても、その発生「時間」が長ければ、それだけ多くの中性子が発生することは明らかである。
 一方、団藤氏の当該言説は「原子炉出力」にとらわれて「小さいが故に中性子の発生も少なく」としているわけであり、当該炉における生涯のエネルギー発生量に思いが至っていないこと。
 すなわち、初等物理学でも理解すべき出力とエネルギーの関係を理解していないことが、ここで明らかである。


3.そもそも「原子炉」の何処の部分(材料)を問題にしたいのか?

>ところが、今回取り上げられた米テラパワー社の「TWR」は10万〜100 万キロワット級といいます。これで100年間連続運転すると原子炉は膨大な中性子線を浴びます。

 簡単に「原子炉」と記載されているが、「原子炉」のどの部分
(原子炉炉心を構成する核燃料等なのか、それを取り囲む原子炉(圧力)容器なのか、それともその他であるのか。)
を指すのか、問題にしたいのか、全くここでは理解できない記載である。


4.革新的原子炉CANDLEへの無理解

4.1 「炉の材料」って燃料被覆材のこと?


> その「革新的原子炉CANDLEの研究」はウランを「いっきに40%燃焼した場合、一般に使用されている材料では持たない。材料を変更し、温度を下げることによりこの燃焼度を達成することも可能であるが、温度を下げることは原子炉の性能を落とすことに繋がることから、ここでは、被覆材への高速中性子の照射量が限界になる前に被覆材を交換する方法を採用する。この作業は高い放射線レベルで行なうことになる」と記述しています。

>炉の材料がもたないから途中で交換する訳です。


 ここでようやく「炉の材料」という言葉が登場する。
 CANDLEを引き合いに出した段階で、善意に考えれば、
「被覆材への高速中性子の照射量が限界になる前に被覆材を交換する方法を採用する」
と有るように、団藤氏はここでは「核燃料被覆材」を問題にしたいことが、ようやくここで分かる。

<もっとも先の部分では行き詰まるため、ここではわざとぼやかしているのかも知れないが、団藤氏が意図するごまかしについては、簡単のため、まずはここでは触れないこととする。>

 しかし、核燃料の被覆材が原子炉における連続燃焼に耐えられないのであれば、現存している大半の軽水炉発電所(日本国内にある大部分の原発)やその他の発電所(もんじゅ)、研究炉のように
「核燃料を覆う被覆材を、核燃料丸ごと交換すれば良いだけ」
の話である。
 もっとも、日本国内に現存する原子炉では、核燃料被覆材の材料的限界を迎える前に、核燃料が燃え尽きて使えなくなる(燃えなくなる)ために、その限界を迎えることなく、トラブル無く交換されている。

 つまり、大多数の原子炉では

>炉の材料がもたないから途中で交換する

訳ではなく、燃料被覆材(一般には燃料被覆管)の限界を迎える前に、核燃料の寿命が来るように設定・設計している。
 そして、それが何らかの原因で破損でも起こさない限り、核燃料の核的寿命(反応度)が残っているのに、それをわざわざ残して交換するような、もったいないことは行っていない。
 当たり前ではあるが、それを行えば高く付くだけで、不経済そのものである。


4.2 そもそも団藤氏はCANDLE技術を全く理解していない?

 さらに言うのであれば、団藤氏はCANDLE技術の神髄である、以下の記載を意図的に無視しているか、それとも全く理解できていないこととなる

 団藤氏の紹介による「革新的原子炉CANDLEの研究」
http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0905nuclear_e_dev/r0905_sekimoto.html
の本文には、最も肝となる以下の記載がある。

「燃焼が進んで、燃焼領域が炉心の端まできた場合は、図5に示すように燃焼済領域を取り除き、燃焼の進行方向に新燃料を加える。こうすると CANDLE燃焼を再開できる。」

 つまり、団藤氏の言う「炉の材料」のところである「核燃料被覆材」は、CANDLE技術では

「『もたないから途中で交換する』のではなく、核燃料被覆材が持たなくなるまで(=寿命を迎えるまで)燃焼済領域を取り除き、燃焼の進行方向に新燃料を加えて、CANDLE燃焼を再開することで『使い回す』」

わけである。
 すなわち、この点において現状の使用済核燃料とともに核燃料被覆材を処分する方法に比べて、核燃料被覆材を使い回すという合理性がCANDLE技術には存在する。
<更なる革新性がCANDLEには存在し、くだんのTWRでもそれこそが神髄であるが、団藤氏の言説がそれ以前の時点に留まるため、ここでは割愛することとする。>
 
 しかし団藤氏は、団藤氏自身にとって都合の良い点である

>炉の材料がもたないから途中で交換する

という誤った結論(ミスリード)を導き出したいために、CANDLE技術の例を持ち出し、あろう事か継ぎ接ぎを行って、自説
(=そのような原子炉は成立しないとの主張)
に都合の良い点を持ち出したことは、ここで明らかである。
 
 以上より、CANDLE技術を良く読めば、CANDLE技術では団藤氏の主張である
「炉の材料がもたないから途中で交換する」
訳ではないことは明らかである。
 そして、団藤氏は自説に都合の良いように当該論文の抜き取り、継ぎ接ぎを行ったか、CANDLE技術の肝心要の部分を意図的に無視したか、それとも元々全く理解できていないことも明らかである。

 これは科学を語る際に、絶対に行ってはいけないことであり、科学を扱うジャーナリストとして、団藤氏は完全に失格と言える。


5.まとめ

> 言われるように100年間も連続運転して中性子線に耐える材料は、核融合炉開発で求められているものに近いのです。

 先の1.で言及したとおり、中性子照射に耐える材料開発は必要であるが、それに求められる条件は全く異なる。よって上記の言説は失当。


> もし耐えたとしても高度に放射化して非常に厄介な存在に化します。

 原子炉材料(核燃料被覆材や原子炉容器材料他)の放射化
(注:全ての原子核が放射化されるわけではない!)
は確かに問題であるが、それ以上に放射能そのものである「核分裂生成物」をガラス固化体等で安定化させている事実は、一体どのように考えるのか。

 私個人は放射化の問題を矮小化するつもりはないが、原子炉の運転で必ず発生する使用済核燃料と、核分裂の結果発生する核分裂生成物に言及せずして、放射化の問題のみを取り上げる態度は、不誠実と評価されても仕方がないのでは?

> これくらいは少し原子力を取材していれば見えてきます。

 以上の通り、どうしても気になる点だけを列挙しても、団藤氏の言及部分はほぼ全て失当、もしくは資料の歪曲、誤解または曲解でしかありません。

 よって、団藤氏が見えていると豪語する
 「これくらい」
は、本小文で「完全否定」されるほどのものであり、この程度の理解で原子力を
「理解した気になって」語ることは笑止、と言うのが、私個人の正直な感想です。
 だからこそ、団藤氏の一連の原子力に関する言説は問題だらけであり、真正面から論評する価値を見いだすことが出来ないものと愚考します。


 個人的には、いくら団藤氏が特オチを日経新聞に許したからと言って、その焦りのあまり、定評のある研究成果を継ぎ接ぎしたり、自己の未熟な知識をさらけだしたりするのは、格好の良いものではなく、科学を語るジャーナリストとしては失格である、と考えます。

 なお、上記小文についての文責は全て私個人にあり、私個人の勤務先、所属学会他の見解を代表するものではないことを、最後にお断りしておきます。


 皆さんは如何お考えでしょうか。


【転載終了】


以上、現役の原子力技術者「へぼ担当」さんの指摘でした。
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2010年03月22日
US-2飛行艇についての賛否両論を、「軍事研究」誌の記事から一つずつ紹介します。先ずは「積極的にUS-2の輸出を目指すべき」と主張する、小林春彦氏の記事からです。かなり長いので、要約を纏めておきます。


■「新明和・最新救難飛行艇US-2」 軍事研究2010年2月号,小林春彦 106〜115ページから要約
・防衛省が新たに調達するUS-2を捜索救難/消防任務の兼用型とし、改装費と空中消火活動の実費を消防庁が負担する方法はどうか。
・海洋基本法に基づく海洋基本計画に従い、離島を管理する為にも、関係省庁間の協力でUS-2の運用が出来ないか。
・離島防衛のための航空輸送手段として、US-2はV-22オスプレイより能力が高く、活用できないか。
・太平洋、東南アジアにおける災害遭難救助活動用にUS-2輸送部隊を設立できないか。


とにかく調達数を増やさなければ機体の単価は高いままで、消防飛行艇型の海外輸出を行う為にも国内調達数を増やせないか、という提案です。海外ではギリシャ空軍がCL-215消防飛行艇を運用している例があり、自衛隊が消防活動を行う案は有り得るものです。

次はUS-2飛行艇の調達に懐疑的な、清谷信一氏の記事からです。約1年前の掲載記事になります。US-2に関する記述は一部分なので、要約では無くそのまま引用しておきます。


■「自衛隊に「海兵隊」を創設せよ」 軍事研究2009年3月号,清谷信一 49ページ
兵員24名または機内貨物9トン、機外懸架で6.8トンを搭載し、時速460〜550kmとヘリコプターの二倍以上の速度で飛行し、航続距離が1100〜4200kmもあるオスプレイは、離島が多い我が国にとって、その戦力投射能力は魅力である。海自の救難機US-2もグロスの調達費は100億円程度であるので、これと比較すれば「高価」であるとは一概に言えまい。US-2の調達を中止して、「海兵隊」、救難機、特殊作戦用機として調達すれば訓練や運用のコストがかなり下がる可能性もある。US-2を「海兵隊」や特殊部隊用に増産するオプションもあるが、貨物の搭載量が限られており、またオスプレイのようなランプドアも無く、VTOL性能も無いため見劣りする。また直接着水するために機体やエンジンの劣化が早く、機体寿命も短いためにライフサイクルコストは高い。このためあまり魅力的な選択とは筆者には思えない。


清谷信一氏の主張と小林春彦氏の主張は真っ向から対立します。せっかく同じ軍事専門誌に掲載されているのですから、お二人の対談記事を用意されたら面白いと思うのですが、どうでしょうか。取り合えず此処では、小林春彦氏の記事のUS-2飛行艇兵員輸送型案の部分を引用して、両者の主張を比較してみましょう。


■「新明和・最新救難飛行艇US-2」 軍事研究2010年2月号,小林春彦 114ページ
(V-22オスプレイは)航続距離の面では空中給油の支援が不可欠なことや、最大積載量では短距離離着陸になること、更にはV-22のダウンウォッシュが海自最大のヘリコプターMH-53E以上とされていることなどは見落とされがちである。

これに対し、US-2から救難装備を取り外して輸送機型とした場合、搭乗できる人員は30名以上とV-22よりも多くの人員が輸送可能になる。当然ヘリコプターのように垂直離着陸は不可能だが、積載量に関わらず、短距離離着陸が可能であり、この点に関してはV-22と同じである。

したがって、離島への陸上部隊の緊急展開の手段としてUS-2とV-22を比べた場合、ホバリングと洋上への離着水の可否や、キャビンの与厚の有無、などの相違点が評価の材料となる。これらの相違点を踏まえたうえで、乗員の訓練や後方支援体制の構築といった新機種導入時の固有の制約を考慮すると、国内に飛行艇の豊富な運用実績があり、既に後方支援基盤の確立されたUS-2の方が、V-22よりも総合的に優位に立っていると言えるのではないだろうか。むしろV-22に関しては、まず平成22年度計画のヘリコプター搭載護衛艦(22DDH)向けの艦載機としての研究から取り組んだ方が良いように思われる。

一方、現在のUS-2は救難を主任務とし、輸送を副次任務としていることから、今の機体仕様のまま、離島への輸送や長期間活動中の洋上艦艇への輸送に活用できるが、カーゴドアや固縛具の追加、床面の強化によって輸送能力をさらに向上させることも技術的に可能である。これに加えて、US-2のマルチミッション化により輸送用途の拡大を図るのであれば、チャフ/フレア・ディスペンサーなどの携帯地対空誘導弾に対する自己防御装置の装備などが望ましい。もちろん、一連の改修には追加の経費が発生するが、既存機種の最低限の改造によって、わが国が離島防衛のための有効な航空輸送手段を入手できるのであれば、厳しい防衛予算の中でもコストパフォーマンスの点から十分に許容できるものと言える。


先ず私個人の感想を言わせて貰えれば、清谷信一氏と小林春彦氏の主張にはどちらも賛同できません。清谷信一氏の「US-2の調達を止めてV-22オスプレイを調達すべき」という主張は問題外です。恐らくV-22オスプレイの航続力、作戦行動半径を正確に理解されていないのでしょう。US-2飛行艇の作戦行動半径は1000海里(進出先で2時間の捜索活動を加えた上で)あります。一方、V-22オスプレイの作戦行動半径は370海里程度で、空中給油を2回行わなければUS-2の航続距離には並びません。航続距離で比較になっていないのです。救難飛行艇としてのUS-2は必要不可欠な存在です。

一方、小林春彦氏の主張するV-22オスプレイの強烈なダウンウォッシュの問題点に付いては、実は「軍事研究」誌の同じ号に掲載された青木謙知氏のオスプレイの記事(65ページ)で「(サイドバイサイドローター式の)V-22は機体中心とローターから発生するダウンウォッシュ中心がズレており、ダウンウォッシュは大きいが救助活動作業範囲の機体中心線付近ではそれほど強くない」という主旨の解説があり、V-22のダウンウォッシュは大きな問題点とはなっていないようです。

US-2飛行艇を兵員輸送に活用する案については、今ある機体を応用する程度ならともかく、本格的に使うにはなかなか難しいと思います。夜間に島から離れて着水してボートで隠密に上陸する特殊作戦ならともかく、敵の侵入に対処するには、強襲降下できる航空機か揚陸艦を持って来るべきでしょう。US-2飛行艇のマルチミッション化には賛成です。色んな役割を持たせて価値を高めれば、調達数も増やして貰えるかもしれません。

飛行艇は廃れてしまった種類の飛行機ですが、軍用飛行艇は日本とロシアではまだまだ元気です。ロシア海軍では救難用の新型飛行艇A-42アルバトロスを調達すると発表した際、将来的に対潜哨戒型のA-40も調達すると、ロシア海軍航空隊のクークレフ少将が述べています。

(2008/09/10)ロシア海軍が新しい救難飛行艇A-42アルバトロスを調達予定

このアルバトロス飛行艇は多目的水陸両用飛行艇と呼ばれ、旅客機型や貨物型、対潜哨戒型や捜索救難型など様々な用途の機体が提案されています。日本のUS-2飛行艇も、同様の方向性を模索すべきだと思います。まさかのUS-2対潜哨戒型なんていうのは、流石に無いでしょうけれど。
12時09分 | 固定リンク | Comment (147) | 報道 |
2010年03月19日
中三日開けての投稿が、また前回と同じネタになってしまうというのはどうなっているんだろう、日本のマスコミは・・・


論説ノート:続く核密約の実態=岸本正人:毎日新聞
確かに米国は91年、水上艦や攻撃原潜からの戦術核撤去を表明した。寄港による「持ち込み」の可能性は極めて小さい。

しかし、国際情勢の変化で艦船に戦術核を再配備する政策転換は皆無ではない。また、核抑止の中核をなす弾道ミサイル原潜は核を搭載している。有事の際の領海通過は、ないと言い切れない。


「無い」ものは「無い」

退役保管されている戦術核トマホークは廃棄処分されますので、無いものは積みようがありません。

(2010/03/01)核攻撃型トマホーク巡航ミサイルのW80核弾頭を廃棄する方針

また、戦略原潜に搭載する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「UGM-133 トライデントU D5」は1万km以上もの長大な射程を有しており、北米大陸近海から発射してロシアや中国まで十分に届くので、日本近海に戦略原潜が進出する必要はありません。戦略原潜とは防備の厚い自国近海に潜ませて敵国を狙い撃つ兵器です。平時でも有事でも日本寄港は有り得ません。

Lockheed Martin UGM-133 Trident II | Designation-Systems.net
>Range 11100 km (6000 nm)

・・・これでは本当に前回と同じ内容になってしまいます。書いてて面白くないし、読者はもっと面白くないでしょう・・・ひと工夫しなければ・・・というわけで、一目見て理解できるように図を用意してみました。図の中心点はアメリカ海軍のキットサップ基地(ワシントン州バンゴール)、戦略原潜の太平洋側の拠点です。


戦略原潜基地「キットサップ」

キットサップ海軍基地
※Googleマップで見るキットサップ海軍基地


射程1万1千kmのトライデントD5があれば、根拠地から直接発射してもロシアと中国の深奥部まで届きます。戦略原潜とは自国近海の防備の厚い海域に潜む兵器であり、日本近海まで進出する必要はありません。それなのに、日本のマスコミは・・・


【密約】非核三原則は見直さず 何のための調査だったのか (2/3ページ):産経新聞
しかし、日本への寄港を必要としない戦略型原潜の事故などによる一時寄港や、朝鮮半島情勢が緊迫した際に核爆弾を装備した航空機が日本を一時通過する可能性は排除できない。

核通過優先で領海制限 津軽、宗谷など5海峡:中国新聞 2009年6月22日(cache)
米政府は冷戦後、日本にも寄港した空母などから戦術核を撤去したが、「核の傘」の屋台骨である戦略原潜は今も核弾道ミサイルを搭載し、日本近海を航行しているとみられる。(共同通信編集委員 太田昌克)


このように間違えているマスコミばかりです。そもそも、この核密約問題を最初にスクープした共同通信の太田昌克編集委員からして、戦略原潜が日本近海をウロウロしていると酷い勘違いをしています。そして産経新聞に続いて毎日新聞まで同じ間違いを犯してしまい、日本のマスコミ全体のレベルの低さを露呈してしまいました。せめて読売新聞と朝日新聞は戦略原潜の運用方法を間違えることの無いように、お願いします。
19時25分 | 固定リンク | Comment (159) | 報道 |
2010年03月15日
本当は昨日更新する予定でしたが、産経新聞と民主党本部に問い合わせて返答があるまで待っていたので、今日の更新にずれ込みました。週末からは外れますが昨日のお休みの代わりと言う事でご了承下さい。

問題記事は14日の産経新聞の記事です。


「三原則順守、米に無理強いしない」岡田外相:産経新聞
岡田氏は同日のフジテレビの「新報道2001」では、社民党が求める三原則法制化に「内閣がそれぞれ決めること。将来にわたって縛ってしまうのがいいのか」と否定的な見方を示した。米国の核兵器については「戦略核を積んだ潜水艦は米大陸の周りにいる。いざというときにには米国から撃つか、潜水艦から撃つかということで(核搭載艦船が)日本に来ることはない」と指摘。有事の際の寄港も「ない」と断言した。


岡田外相の説明した戦略原潜の運用方法は正解です。アメリカ海軍の戦略原潜が搭載する戦略核兵器、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「トライデントD5」は約1万kmもの長大な射程を有しており、北米大陸近海から発射してロシアや中国まで十分に届くので、日本近海に戦略原潜が進出する必要はありません。戦略原潜とは防備の厚い自国近海に潜ませて敵国を狙い撃つ兵器です。平時でも有事でも日本寄港は有り得ません。そしてアメリカはブッシュ父政権時代に海軍戦術核兵器を退役させており、実戦配備されている海軍の核兵器は戦略核兵器であるSLBMのみとなっています。

ところが産経新聞は当初、「戦術核を積んだ潜水艦は〜」と記事に書いていました(cache)。しかし私はフジテレビの「新報道2001」を見ていなかったので、実際に岡田外相が「戦術核」と言い間違えてしまったのか、それとも産経新聞の誤記載なのか、判断が付きませんでした。そこで民主党本部と産経新聞の両方に問い合わせた結果、産経新聞は誤記載であることを認めて記事を訂正し、岡田外相の発言は「戦略核」で正しかった事が分かりました。

誤記載自体は単純ミスでしょうが、「戦術核」と「戦略核」では意味が決定的に違ってくる(アメリカ海軍の核戦力は戦略核のみ)ので、このようなミスは絶対にやってはならないものです。そしてなぜ産経新聞が岡田外相のこの部分の発言に拘っているかと言うと、数日前にこのような内容の記事を書いてしまっているからです。


【密約】非核三原則は見直さず 何のための調査だったのか (2/3ページ):産経新聞
しかし、日本への寄港を必要としない戦略型原潜の事故などによる一時寄港や、朝鮮半島情勢が緊迫した際に核爆弾を装備した航空機が日本を一時通過する可能性は排除できない。


アメリカ海軍の戦略原潜は北米大陸近海の海中を遊弋しており、日本近海に進出してくること自体が有り得ないので、日本の港への緊急寄港など全く考えなくて構いません。産経新聞はアメリカ海軍の戦略原潜の運用方法を理解していなかったという事になります。これはアメリカの核戦略を考える上で基本中の基本とも言える事なのに・・・もしかしたら「戦略核」と「戦術核」の違いも理解していなかったのかもしれません。だから14日の記事も誤記載してしまったのだとすると、産経新聞は核兵器について基礎的な事すら何も理解せずに核抑止力が必要だと唱えている、勉強不足も甚だしい新聞と言う事になります。

ですが勉強不足は産経新聞だけではありません。実は、そもそもこの核密約問題を最初にスクープした共同通信の太田昌克編集委員も同じ間違いを犯しています。


核通過優先で領海制限 津軽、宗谷など5海峡:中国新聞 2009年6月22日(cache)
米政府は冷戦後、日本にも寄港した空母などから戦術核を撤去したが、「核の傘」の屋台骨である戦略原潜は今も核弾道ミサイルを搭載し、日本近海を航行しているとみられる。(共同通信編集委員 太田昌克)


もうウンザリ・・・マスコミは右も左もこれまで一体何をやって来たんですか? 戦略原潜は自国近海に潜んで敵国を狙い撃つもの、これは30年前から40年前に確立された米ソの核戦力運用方法である筈です。冷戦時代から今の今まで、マスコミは右も左も同じように核戦略の基礎中の基礎を何にも理解していなかっただなんて、平和ボケとかいうレベルじゃないですよ。そんな有様で核廃絶や核武装を叫んでいるだなんて、話になりません。

今回の核密約問題にしても、右派は「核の持ち込みができるように三原則を見直せ!」と叫び、左派は逆に「非核三原則の厳正化、法制化を!」と叫んでいますが、政府はどちらもスルーして「従来と変更無し」で済ませています。理由は岡田外相が述べたとおり、もはや物理的に核兵器の持ち込みは有り得ないからです。海軍戦術核兵器は退役し、保管中のものも廃棄する予定で、もう無いものは持ち込めません。現役配備中の海軍戦略核兵器は北米大陸近海に潜む戦略原潜であり、日本近海にやってくる事はありません。

そして共同通信の太田昌克編集委員のスクープも空しく、日本の世論は核密約をさほど問題視せず、大事にはなりませんでした。アメリカ政府も「今更この話が公になっても無問題」と平気なもので、日本政府は物分かりの良い対応に終始しています。


密約当時の指導者「ある意味評価」…岡田外相:読売新聞
岡田外相は11日の参院予算委員会で、核持ち込みなどの「密約」を米国と締結した当時の岸、佐藤両内閣の判断は、冷戦下の国際情勢でやむを得なかったとの見解を表明した。

外相は「当時の指導者として苦渋の決断をされた。ある意味評価している」と述べた。特に、米軍が朝鮮半島有事で「事前協議」なしに在日米軍基地から出撃できるとした密約(1960年)について、「朝鮮戦争が終わって7年しかたっておらず、事前協議制度に(密約で)穴を開けざるを得なかった」と理解を示した。


岡田外相はこの核密約問題にあたって、戦略原潜の運用方法など核戦略の基礎をちゃんと勉強して臨んでいます。当時の戦略状況も把握し、現実的な判断を下し、非核三原則は従来通りで構わないとしています。つまり今回の核密約問題は「過去の歴史の暗部に光が当てられた」以上の意味は無く、マスコミの思惑とは裏腹に政治的には何も変わらず、問題視もされません。何の為の調査だったのか? 歴史の調査はそれだけで意味を持ちます。ただそれだけの話です。(つまり歴史資料として外交文書は保存され、一定期間後に公開されなければならない)

故に、マスコミは右も左も喚いていないで、少しは岡田外相のようにちゃんと核戦略の基礎を勉強して下さい。核密約問題での政府の対応は適切なものですが、それはちゃんとアメリカの核戦略を理解していれば当然そうなって然るべきものだからです。
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2010年03月12日
さて、金曜日の夜は週末の範疇でいいかな、と。この週は大きな事件も無く、平穏無事で何よりでした。それでは取り急ぎまして・・・


「ガラパゴス化する防衛調達の問題点」 軍事研究2010年4月号,清谷信一 73ページ
このように防衛装備に関しては官民で情報格差が極めて大きい。防衛装備の研究開発は技本が民間企業を指導する事になっているが、情報力の低い官が、情報力のある民間企業を指導するという歪んだ構図になっている。共通の認識を持って開発に当たる事は極めて困難である。故に技本は増加装甲の開発でも装甲と二次被害を食い止めるスポールライナーを混同するような初歩的なミスを犯す。武器禁輸を緩和して外国との共同開発を進めるべきとの声が多いが、技本の現状では海外の当局やメーカーとまともな意思疎通すら出来ないのではないかと心配になる。


※「技本」とは防衛省技術研究本部(Technical Research and Development Institute,TRDI)の事です。

いやそれにしても・・・スポールライナーの件について初歩的ミスを犯しているのは清谷氏の方では?

(2009/06/30)スポールライナーの件で清谷さんが防衛省技術研究本部に喧嘩を売ったでござるの巻
(2009/02/21)内張り装甲の定義
(2009/02/12)「見た事が無い」のに「別物である」と断言
(2008/12/31)内張り装甲とは結構、分厚いもの

清谷氏はスポールライナーを「内張り装甲」と定義する技本は間違っている、と言いたいようです。しかし清谷氏自身は戦闘車両の装甲について詳しいわけではなく、過去にスペイン軍のレオパルト2E戦車を見て以下のようなブッ飛んだ解説を行った前科があります。


レオパルト2E砲塔後部
砲塔後方の装備収納スペースには、横2列にモジュール型装甲が並べられて貼り付けられている。これはRPGなどを想定した装甲で、表面が×字型の凸になっているのは重量軽減のためである。(「丸」2007年6月号IDEX2007清谷信一レポート3ページ目)


一目見れば分かりますが、×字型の凸になっている物体はモジュール装甲などではなく、履帯に装着して使う着脱式のグローサー(grouser)です。滑り止めの爪ですね。詳しくは「レオパルト2Eのグローサと登坂力」で解説したとおりです。

技本にしてみれば、グローサーをモジュール装甲だと言い放つような清谷信一氏にだけは装甲について何か語ってほしくないような・・・技本はプロの軍事技術者集団です、それを相手に装甲技術にさして詳しくない軍事ライターが喧嘩を売るのは、いささか無謀な行為ではないかと思います。清谷氏は技本とまともな意思疎通すら出来ないのではないかと心配になります。
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