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2009年10月12日
そんな・・・まだ60歳だったのに・・・お悔やみを申し上げます。

NHKニュース 軍事評論家 江畑謙介さん死去

江畑さん以上に、軍事戦略を総合的に的確に解説できる評論家は、日本には居ませんでした。代わりとなる人なんて居ません。知識だけでなく評論に対する真摯な姿勢は特筆すべきもので、日本で最も尊敬されていた軍事評論家でした。

Amazon.co.jp: 江畑 謙介 - 和書: 本

江畑さんの書かれた著作は初心者が読んでも分かりやすく、どれもお勧めが出来ます・・・ああ。

もう二度と新たな本は出ないし、テレビで解説するその姿も見れないのですね・・・
18時28分 | 固定リンク | Comment (209) | 報道 |

2009年10月10日
以下は日本ビジネスプレスに掲載された、宮家邦彦氏の記事です。


中国が軍事力で米国を圧倒する日 正面装備だけに目を向けると見誤る :JBpress(日本ビジネスプレス)
軍事に詳しくない中国専門の記者はミサイルの射程など攻撃能力の向上ばかり書いている。しかし、日米の軍事専門家は正面装備よりも、中国軍の戦略の変化、戦術の高度化、統合運用、訓練、通信など解放軍部隊の実際の作戦能力に関心があるはずだ。


このように宮家邦彦氏は「軍事に詳しくない中国専門の記者」を馬鹿にしています。ではこの人は戦略や戦術、作戦能力について詳しいのかと言えば、そうではありませんでした。


中国が軍事力で米国を圧倒する日 正面装備だけに目を向けると見誤る :3ページ目
これら膨大な資料を分析した米軍関係者が危惧するのは、次のような中国の「非対称型」戦術能力だと思われる。

1.前方展開基地や空母機動部隊に対する同時多発的ミサイル攻撃

在沖縄米軍基地、特に空軍関係者の悪夢は中国による何十発もの通常弾頭中距離ミサイルによる同時多発型攻撃だ。最近中国製ミサイルの命中精度は飛躍的に向上しており、一発でも滑走路に命中すれば、空軍基地としての機能は一瞬にして麻痺する。

この点は中国沿岸に近づく空母機動部隊についても同様だ。一度に数十発ものミサイルを発射されたら、今のミサイル防衛システムではとても対応できない。弾道ミサイルであろうと、巡航ミサイルであろうと、完全な防御が不可能な点に変わりはないのだ。



「同時多発的ミサイル攻撃」とは普通は同時飽和攻撃と呼ばれ、非対称型戦闘ではなく、ミサイル戦術としては古くからある正攻法で、当たり前の戦法です。これは何十年も前にソ連軍が巡航ミサイルを用いて考案していた戦法です。ソ連軍のそれは、海中・海上・空中の様々な種類の発射プラットフォームを用い、異なる方向から大量に巡航ミサイルを発射しますが、全てがなるべく同時に着弾するように発射タイミングを調整することが肝心な作業で、これにより防御側の迎撃システムの処理能力を上回る事を狙っています。

どうも宮家邦彦氏は「弾道ミサイルを用いている点が相手の意表を付いており、非対称戦術なのだ」と言いたいようですが、どのような種類の兵器を使おうとも、基本となる使い方が一緒であるならば同じ戦術です。巡航ミサイルであろうと弾道ミサイルであろうと「同時飽和攻撃」という戦術は同じものです。しかし宮家邦彦氏は「同時多発テロ」と同種のものだと勘違いしている恐れが高いです。しかしミサイルによる同時飽和攻撃とテロによる同時多発事件は、両者は全く意味が異なる代物です。

そして弾道ミサイルの場合は巡航ミサイルとは違い、発射プラットフォームの種類が限定され、廻り込むような機動も出来ない為、単純に沢山発射するという事しか出来ず、弾道ミサイル防衛で強力に守られた陣地を攻撃する事は有効では無くなる可能性が高いでしょう。何故なら、狭い陣地に目掛けて飛んで来る敵弾道ミサイルを迎撃するということは、自動的にヘッドオンで目標を捕捉できるという事を意味しており、市街地を広域防空することの困難さに比べれば、遥かに簡単になるからです。しかも僅かに逸らしさえすれば任務成功なので、直撃による完全破壊すら必要ありません。

在日米軍の嘉手納基地に配備されているパトリオット部隊は1個大隊で、これは4個中隊で構成されており、1個中隊6基編成で計24基のランチャーがあります。1基のランチャーは最大で16発のPAC3を装填する事が出来るので、384発まで即応弾を準備して置けます。レーダー管制システムの処理上限があるので384発を全て一度に発射できるわけではありませんし、現在はPAC3とPAC2の混成で、なおかつ24基のランチャーに普段からミサイルをフル装備しているわけでもありませんが、有事の際には当然、予備弾を含めて弾薬の補給は行われます。

PAC3は本来は対短距離〜準中距離弾道弾用ですが、ヘッドオンでの迎撃が確約されているなら中距離弾道弾相手にも対処は可能です。それでも不安があるというのでしたら、既に米フォートブリス基地ではPAC3よりも能力の高い「THAAD」を装備した部隊が編成されています。嘉手納展開のパトリオット部隊はフォートブリス基地からの出向であり、将来的にTHAAD部隊と入れ替える、あるいは追加で増強配備すれば、嘉手納基地は世界でも最高の密度で弾道ミサイル防衛が存在する事になります。数十発程度の弾道ミサイルぐらい、処理しまうことがそれほど困難であるとは思えません。なにしろ基地配備のMDに加え、MD能力のあるSM-3搭載イージス艦が沖縄近海を遊弋している筈なのですから。

なお「通常弾頭」の弾道ミサイルはMIRV(複数個別誘導突入体)のものはありません。核弾頭ならある程度小さくても威力は約束されていますが、通常弾頭は炸薬量をなるべく確保しないといけないからです。クラスター弾のような意味での多弾頭はありますが、これは拡散し過ぎるのを防ぐために高度が十分下がってから子弾を撒く為、対空ミサイルが命中すれば拡散前に破壊できます。また、核弾頭のMIRVにしても同じ地点に複数の弾頭を落とすものではなく、複数の目標に個別に落とすものです。これは同じ場所に複数の核弾頭を落とした場合、最初の核爆発の電磁パルス放射で味方の核弾頭の起爆装置がショートする為で、「兄弟殺し」効果と呼ばれています。

それと宮家邦彦氏は「一発でも滑走路に命中すれば、空軍基地としての機能は一瞬にして麻痺する」と書いていますが、核弾頭ならともかく、中距離弾道弾の弾頭重量1トン程度の爆発孔ならば直ぐに復旧できます。たかが1発の通常弾の命中程度で軍事基地が無力化されると本気で思っているなら、考えが甘過ぎますし、理解した上で書いているなら素人を騙す行為で話になりません。

また滑走路が使えなくなったらどうする、というのでしたら、アメリカ軍は次期主力戦闘機F-35ライトニング2に垂直離着陸型のF-35Bを用意する予定であり、海兵隊がハリアーの後継に、空軍がA-10の後継に導入する予定です。嘉手納基地配備のF-15戦闘機は将来的にF-35Aに更新される予定です。F-35Aは通常の滑走離着陸機ですが、岩国基地の海兵隊のF-35Bや米本土の空軍のF-35Bを何時でも嘉手納に呼び寄せる事が出来ます。垂直離着陸機ならたとえ滑走路が穴ボコだらけになろうとも、運用には関係有りません。また嘉手納どころかもっと西方の先島諸島に展開させることも可能です。地方空港どころか道路を滑走路代わりに運用可能です。

そして対艦弾道ミサイルについても、移動する空母を狙い打つ場合、巡航ミサイルならば目標を発見するまで燃料が尽きるまで探し回る事が出来ますが、上昇段階で燃料を消費し尽くす対艦弾道ミサイルではそれが出来ません。発射してもその多くが目標を捉えきれずに無意味に海に落ちることになるでしょう。幾ら固定目標に対する命中精度が向上しても、それが移動目標に対する命中精度の向上には直結しません。弾道ミサイルと巡航ミサイルでは兵器としての本質的な違いがあり、命中精度の差は覆せません。

対艦弾道ミサイルは、発射されたその中の一部が目標に辿り着けます。しかし終末誘導能力でも巡航ミサイルには大きく劣る上に、外れたら旋回して戻って来て再突入が出来る巡航ミサイルと違い、一回こっきりです。少数の対艦弾道ミサイルが突入して来ても、MDがあれば防がれてしまいます。しかも対艦弾道ミサイルの終末突入体は移動目標を捜索・誘導攻撃する為に速度を大きく落とさざるを得ない為、MDどころか通常の対空ミサイルシステムまでもが迎撃に参加できます。都市防空ではないので直撃による完全破壊は必要なく、近接爆破により僅かな損傷を与えるだけで無力化させることが可能です。

宮家邦彦氏は「弾道ミサイルであろうと、巡航ミサイルであろうと、完全な防御が不可能な点に変わりはないのだ。」と言いますが、100%防げる保証が無ければ意味が無いとする極論はマトモな意見と言えません。はっきり言ってしまえば中国軍の企図する通常弾頭の弾道ミサイル同時攻撃は、往年のソ連軍による巡航ミサイル同時飽和攻撃と比べれば、脅威レベルはまだまだ低いものです。将来的にどうなるかは、それはまだ分かりませんが、現状のミサイル防衛も格段の進歩を遂げており、更に現状のPAC3とSM-3Block1が、THAADとSM-3Block2に更新されれば、中国の中距離弾道ミサイルをほぼ完全に封じ込める事も不可能とは言えなくなるでしょう。少なくとも予定されている性能は、それを可能とするだけのものがあります。

なお念の為に言っておきますが、嘉手納基地へのPAC3配備は対中国ではなく対北朝鮮を名目にしていることをお忘れなく。
15時09分 | 固定リンク | Comment (152) | 報道 |
2009年10月07日
朝日新聞GLOBEの特集「中国、海軍大国への胎動」はとても読み応えがあり、なかなか気合の入った記事です。執筆している峯村健司記者は、空母の建造ドックがある通称・空母島に潜入して危うくスパイ容疑で捕まりそうになったほどで、単なる海外報道の引用ではなく、自分の足で取材した貴重な記事が書かれています。

なのですが・・・各国の空母の比較図・・・手抜きの上に縮尺がおかし過ぎて、良い記事が台無しになりかねないです。何とか訂正できないものでしょうか。

問題の比較図は、特集記事「空母建造へと傾く中国 [Part2] 経済成長が促す「抑止力」の正当性」に付属しているこれです。

[世界各国の現役空母]

世界各国の空母の比較図の筈なのに、手を抜いて艦影(シルエット)の形は全てニミッツ級で統一されています。イタリアのカブール級などの艦影図を探してくるのは難しかったから、新たに作図せずに誤魔化したのでしょう。それはしょうがない面があるとして、問題は比率です。明らかに実際の縮尺とは異なる比率です。これは注意書きに「満載排水量で艦影作成」とある通り、艦の重さの比率を平面図にそのまま表した事によります。インヴィンシブルは2万トンだから10万トンのニミッツの5分の1、だから艦影図の長さも5分の1・・・

ところが「重さ」は「長さ」の三乗に比例します。同じ形で長さが2倍になれば、体積は三乗で2×2×2=8倍になります。つまり重さは8倍。逆に言えば重さが8倍になってようやく長さが2倍です。重さが5倍の場合は、長さが1.71倍でないといけないのです。朝日新聞の比較図はこの計算をしていないばかりに、排水量の小さな艦が実際の長さよりも異常に短くなってしまっています。そもそもそんな事をしなくても、最初から全長の数値で比較していればそれで済む話なのに・・・

もし、各国の海軍艦艇全ての総トン数をシルエットで表すような用途なら、そのまま長さに置き換えても特に問題はありません。それはあくまで架空のイメージ図ですから。しかし今回はダメです。各国海軍の空母○○という、現実に存在しているものを実際の比率とは異なる長さで表してしまっては、何の比較にもならないからです。読者に誤った認識を与えてしまう事になりかねません。

今回の朝日新聞の犯した間違いがどんなものかを、分かり易く表現した人がコメント欄に居ましたので紹介します。



例えば180cm80kgの大柄な男性と
150cm40kgの小柄な女性を比較するとき
女性を90cmのシルエットで描くようなもんだね
それじゃ幼児だよ

直観的に不自然ってこともわからないのか


Posted by 名無しT72神信者 at 2009年10月07日 07:10:18



以下に、参考比較用に朝日新聞の比較図の一部を切り出して引用して置きます。

間違った空母比較図・朝日新聞


次に上記の空母と同じ種類のものを同一縮尺で並べて見ます。


ニミッツ
 アメリカ▼ ニミッツ級

エンタープライズ
 アメリカ▼ エンタープライズ

インヴィンシブル
 イギリス▼ インヴィンシブル 

シャルル・ドゴール
 フランス▼ シャルル・ドゴール 

クズネツォフ
 ロシア▼ アドミラル・クズネツォフ


このように、朝日新聞の比較図が実際の縮尺とはまったく異なる事が分かると思います。実はエンタープライズがニミッツ級よりも全長が長い事が分かります。それなのにニミッツ級の方が重いのは、船体幅が増えたのと装甲が強化された為で、喫水も深くなっているからです。

それと、朝日新聞の資料の数値は海人社の「世界の海軍2009-2010」を参考にしたようですが、これ本当に満載排水量で揃えたのですか? クズネツォフはもっと重かったし、ドゴールはもう少し軽かったように思うのですが・・・朝日新聞が数値を読み間違えたのか、「世界の海軍2009-2010」が間違っているのか、手元に無いので分かりませんが、どちらにせよ縮尺だけでなく数値もおかしいように思えます。

※)コメント欄の指摘によると、海人社の資料には確かにそのように書かれているようです。

しかしロシア国営通信ノーボスチ(英語版)の記述では、空母クズネツォフは満載排水量66,600〜67,500トンとあり、58,500トンよりも1万トン近くも重い数値です。

Admiral Kuznetsov. INFOgraphics. | 'RIA Novosti'

なお、空母ドゴールについてはフランス国防省公式サイトに満載排水量42,000トンと表記されており、正しいようです。

Porte-avions Charles de Gaulle (R 91) | defense.gouv.fr

最後にオマケ。

朝日新聞の変な空母比較図・「メダカの学校」軽空母編

小さ過ぎるw 正常な縮尺で見比べると・・・

ニミッツ
 アメリカ▼ ニミッツ級航空母艦

アーレイ・バーク
 アメリカ▼ アーレイ・バーク級駆逐艦

ラファイエット
 フランス▼ ラファイエット級フリゲート

ヴィズビィ
 スウェーデン ヴィズビィ級コルヴェット

ゆら型輸送艦
 日本 ゆら型輸送艦

LCAC
 LCAC(エアクッション型揚陸艇)

駆逐艦、フリゲートどころかコルヴェットより小さい・・・比率からいけば、朝日新聞のチャクリ・ナルエベトは正常な縮尺でのLCAC並みの大きさになってしまいます。
05時25分 | 固定リンク | Comment (115) | 報道 |
2009年08月01日
去年6月23日に千葉県犬吠埼沖で巻き網漁船第58寿和丸が転覆、沈没した事故で、沈没原因がはっきりせずに様々な憶測が飛んでいましたが、その中で最も目を引く説が「潜水艦当て逃げ説」でした。

(2008/07/15)田岡俊次が漁船転覆事故で潜水艦当て逃げ説を唱えるも、海事関係者からは珍説扱い
(2008/07/23)生存者の新証言で潜水艦当て逃げ説が本当に浮上

最初はどうかと思われましたが、生存者の新たな証言(ただし、何かに衝突したという証言では無い)でこの説が疑われ始め、その後の事故原因調査でも検証が為されたのですが、その中間報告がこの度、公表されました。


寿和丸、「一発大波」で転覆か 千葉沖事故の安全委調査:朝日新聞
08年6月に4人が死亡、13人が行方不明となった千葉県犬吠埼沖での漁船第58寿和丸(135トン)=福島県いわき市=の沈没事故で、運輸安全委員会は31日、調査の経過を公表した。最終報告までには「さらに時間を要する」としているが、調査関係者は、油の流出量が少ないことなどから「突発的な大波で転覆して沈んだ可能性が高い」との見方を示した。

安全委が現場海域を調べたところ、油の流出量は15〜23リットルだった。何らかの原因で船底に穴があいた場合、数トンから数十トンの燃料が漏れるはずで、調査関係者は「船体の破損は考えにくい」としている。

また、同委によると、当初は複数の方向からの波や風がぶつかって大きな波になる「三角波」の影響が指摘されていたが、調査の結果、現場の波の向きと風の方向がほぼ一致しており、一定の周期で突発的に大きな波が発生する「一発大波」が影響した可能性が高いという。

一方、生存者の証言は、「右方向から波を受け、同じ右方向に転覆した」でほぼ一致しているという。このプロセスを解明するために、さらに気象や波の状況などを検証する必要があるとしている。

寿和丸は波が高いため、犬吠埼の東約350キロで操業をやめて漂泊中、転覆して沈没した。乗組員20人のうち、3人は僚船に助けられて無事だった。行方不明の13人は、08年11月に死亡認定された。


正式な報告書が運輸安全委員会の公式サイトで掲載されています。ただ報告は簡素なもので、航空写真による推定から「流出した燃料は15〜23リットルでごく少量」とだけあります。

第五十八寿和丸沈没事故経過報告:運輸安全委員会

流出した燃料がごく少量であった為、船体破損は考えられず、潜水艦との衝突の可能性は低いという判断は調査関係者に対する報道の取材結果です。沈没地点が深過ぎて潜水調査は行われていませんが、現時点で潜水艦との衝突を匂わせる要素が特に存在しないとなっています。

千葉沖の漁船沈没17人死亡、船体に大きな損傷なし:産経新聞
>生存者や僚船乗組員の聴取でも潜水艦や障害物などに衝突したとの証言はなく、
>安全委は大波の直撃を受けたことが主因とみて調査を続ける。

未だ沈没原因の完全な特定には至っておらず、生存者の証言である「右方向から波を受け、同じ右方向に転覆した」という状況の再現は出来ていません。しかし潜水艦衝突説を補強する新証拠が一切出て来なかった上に、逆に否定する状況が示されたことで、沈没原因である可能性はほぼ否定されました。

寿和丸事故、衝突ではなく大きな波が原因か 運輸安全委:日経新聞
>当初、潜水艦と衝突した可能性も取りざたされたが運輸安全委は可能性は低いと判断。
>原因になったとみられる波の再現実験を進めている。

ただし、本当に燃料の流出は少量だったのか、という検証は必要です。1年前の報道では「燃料タンクに穴があいた」「生存者は油まみれだった」というものがあり、本当に20リットル程度の流出で済んだものかどうか、報告書の詳しい内容が公表されるように望みます。
03時31分 | 固定リンク | Comment (66) | 報道 |
2009年07月23日
軍事に疎いのは日本マスコミだけではありません。海外マスコミも結構、酷いものです。例えばこのニューズウィークの記事は、ミサイル防衛とロシアの対空ミサイルについて何も理解していません。


ミサイル防衛システムは最後の切り札:ニューズウィーク日本版
Russia's Diplomatic Poker Face
イランのミサイル防衛に手を貸すぞ、という脅しで各国から譲歩を引き出してきたが
[2009年7月22日号掲載]

アメリカとロシアは7月6日、核兵器削減に向けて合意した。しかし公式声明には重要な問題が抜け落ちていた。高度ミサイル防衛システムをロシアがイランに提供する契約についてだ。実際に提供されれば、アメリカやイスラエルがイランの核施設を攻撃することが今よりずっと難しくなる。

契約が成立したのは07年だが、まだ引き渡しは行われていない。ロシアはこのミサイル防衛システムを利用して、さまざまな国から譲歩を引き出そうとしている。


翻訳ミスか何かと思いましたが、英語版も同様の内容の記事でした。ただ、日本版ほどはミサイル防衛と何度も連呼はしていません。

A Missile System Strains U.S.-Russia Relations | Newsweek

この記事の問題点を挙げて行くと、

○ロシアがイランに供与すると言われているS-300PMU1(ないしPMU2)はミサイル防衛システムではない。アメリカのPAC2GEM+のような限定的な対弾道ミサイル対処能力はあるが、PAC3やSM-3、THAADやGBIといった専用のミサイル防衛システムとは比べ物にならない。

○イランの核施設をイスラエルが攻撃する場合、弾道ミサイルは使用しない。これは弾道ミサイルにはピンポイント精密攻撃能力が無い為。よって、イランがミサイル防衛システムを核施設防御用に配備する意味が存在しない。

○S-300PMUは基本的に対航空機用の高性能な長射程地対空ミサイルであり、これは戦闘爆撃機にとってかなり厄介な存在ではある。つまりこれをイランが導入する事は確かに核施設の防御レベルを飛躍的に向上させる事が出来るが、既に述べたようにこれはミサイル防衛システムではないし、イランが核施設防御用にミサイル防衛システムを配置する意味が存在しない。イランは対航空機用の高性能な長射程地対空ミサイルを欲しがっているのであり、ミサイル防衛システムが欲しいわけではない。

S-300PMU2 "Favorit" ミサイルシステムが使用する48N6E2ミサイルは、対航空機が相手なら最大有効射程200kmを誇ります。しかし対弾道ミサイルが相手では限定的な対処能力しかない為、最大有効射程は40km程度に落ちます。サイドスラスターを持たない空力操舵のみの大型対空ミサイルである以上、空気が薄い高高度では機動性を確保できません。


(2009/05/13)ロシア版MD、S300&S400ミサイル・コンプレクスについて
48N6系列は限定的な弾道ミサイル対処能力が与えられています。とはいえPAC2でも改良型のPAC2GEM+で限定的な弾道ミサイル対処能力は与えられており、これを持ってMDと呼ぶ事は通常ありません。


以前にも書きましたが、ロシアのS-300やS-400は様々な種類の対空ミサイルを使い分けるミサイルシステムです。だからS-300ならば全てがミサイル防衛システムであるというわけではありません。S-300Vの「9M82」&「9M83」、或いはS-400の「40N6」ならばミサイル防衛システムと呼べるものとなります。しかし「5N55」系列には弾道ミサイル対処能力は無く、「48N6」系列と「9M96」系列には限定的な弾道ミサイル対処能力しか与えられていません。本来は対航空機用だからです。S-300とその発展型S-400には、大まかに分けて5系統の使用ミサイルが有り、今後も3系統が使われ続けていく為、輸出されるミサイルがどの系統か把握していないと、どんな役割のものか理解する事は出来ません。

イランが欲しているロシアのS-300ミサイルシステムは、イスラエルの戦闘爆撃機を撃墜する目的のもので、弾道ミサイルを撃墜する為のものではないのです。それなのに記事に「イランのミサイル防衛」と書くのは、イランが何のつもりでS-300を欲しがっているかと言う動機が全く伝わってこない記事です。それどころか、ミサイル防衛システムという言葉が持つ重大な政治的意味を理解しておらず、安易にこの言葉を流行語のように駆使する危険性について、警鈴を鳴らす必要があるでしょう。

もしイランが本格的な弾道ミサイル防衛システムを欲している場合、それは核施設防御用ではなく(核施設攻撃には戦闘爆撃機による爆撃と巡航ミサイルが使用される為、ミサイル防衛に出番は無い)、都市部の広域防空用であり、本格的な核戦争に向けた準備と見做されます。

イランはイラクとの戦争中、「都市の戦争」と呼ばれる、お互いに弾道ミサイルを都市に向けて撃ち込み合う、戦略ミサイル爆撃を経験して来た過去が有り、弾道ミサイル防衛の重要性について最も理解が深いかもしれません。しかしイラクはアメリカに打ち倒され脅威が急減しています。今やイランに通常弾頭の弾道ミサイルを撃ち込んでくる可能性のある国家は見当たりません。ただし、イスラエルとの関係が最悪の可能性に至った場合、核弾頭の付いた弾道ミサイルが飛んでくる可能性があります。

つまり「イランのミサイル防衛」というものが実際に計画として存在した場合、イランはイスラエルとの全面核戦争に備えているという状況を指し示しています。

ニューズウィークがS-300PMUを「イランのミサイル防衛」と書いた事は、大きな誤りです。それは48N6E2ミサイルのスペック的な意味だけでなく、イランとイスラエルの意図を大きく捻じ曲げてしまう書き方となってしまっています。

限定通常攻撃か、全面核戦争か。

そこまで意味が違ってくる事を、よく理解した方が良いでしょう。
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2009年07月13日
な・・・なんじゃこりゃ?


露大統領 空母早期引き渡し指示 対印「遅れたら重大な結果」:フジサンケイ・ビジネスi
ロシアのメドベージェフ大統領は2日、同国の艦艇建造会社セブマッシュに対し、インドに引き渡すことになっているロシア海軍の改キエフ級航空巡洋艦(航空母艦)「アドミラル・ゴルシコフ」の近代化改装を急ぐよう指示した。大統領は「空母を早くインドに届けなければ重大な結果を招く」と述べた。

同艦(インドでの呼称は「ビィクラマディティア」)の引き渡しは大幅に遅れている。改装契約は、ロシアとインドの広範な防衛産業協定の柱だが、良好な印露関係の対立点にもなっている。2004年に締結した契約は改修費が16億ドル(約1500億円)、08年に引き渡しとなっていた。ところが、引き渡し遅延に加え、ロシア側はいまや総工費を28億ドルと見積もっている。

セブマッシュの幹部は2日、通常動力から原子力動力への変更、戦闘機が離着陸できるよう甲板の滑走路を改修するなど、同艦の工事規模が大きくなり、複雑化したことが遅延の理由と説明。引き渡しは2012年末になるとの見通しを示した。


馬鹿な・・・

「通常動力から原子力動力への変更」

ヴィクラマーディティヤにそんな計画は無いですし、セヴマシュの幹部がそんな事を口走る筈がありません。ヴィクラマーディティヤは蒸気タービン機関であり、インドに引き渡す前にボイラーを新型のものに変更しています。セヴマシュの幹部はその事を言ったに過ぎない筈です。それなのにフジサンケイの記者は、動力変更=原子力化と勝手に早合点し、このような酷いデマ記事が生まれてしまったわけです。

そもそも、後から改造して原子力機関に変更することは困難を極めます。どうしてかというと、原子力機関は放射線を遮断する隔壁の為に、通常動力よりも大きくなってしまうからです。蒸気タービン機関から原子力機関に変更しようとしても、タービンはそのまま使えるから残すとして、石油焚きボイラーの容積に同出力の原子炉を収める事は不可能です。原子力機関は石油燃料を必要としないというメリットがありますが、燃料タンクは機関部容積とは無関係な位置にある為、動力交換の際には利用できません。

つまりもし蒸気タービン機関から原子力機関に動力を変更する場合は、船体中央を丸ごと半分に切ってから原子炉区画分を継ぎ足し、船体を大型化させてしまいます。その後に溶接して繋ぎ合わせてようやく完成です。

そのような大手術を施した場合、重心バランスの調整の問題点もさる事ながら、改装費用が大きく跳ね上がってしまうので、とてもではないですが費用対効果に見合うとは思えません。そもそもインド海軍の活動領域はインド洋であり、大西洋や太平洋で軍事作戦を行う事は殆どありません。ずっと潜り続けられるというメリットがある原子力潜水艦ならともかく、空母の場合は長距離遠征をする気がないのであれば原子力機関である必要性は殆どありません。つまりインドが無理をして原子力空母を欲しがる理由そのものが無いのです。

フジサンケイの記者は、「取材対象が言ってもいない事を勝手に付け加える」という、報道の姿勢として大きく問われる行為を行いました。この早合点からくる間違いは、少しでもその分野の基本知識(造船工学、原子力工学、インド海軍の戦略環境など)があれば気付いていた筈なのですが・・・
18時30分 | 固定リンク | Comment (130) | 報道 |
2009年07月09日
ご本人のコメントを頂けるとは、まさか思ってもいませんでした。7月6日に書いた記事『岡部ださく「世界の駄っ作機4」に記載されたヘンな支援戦闘機の話』のコメント欄122番です。



すみません、本人です。
いろいろなご指摘、ありがとうございます。
実は「駄っ作機4巻」の巻末は、2003年10月の
連載100回記念のコラムを、そのまま訂正せずに
収録してしまったものです。
当時はF−2にもいろいろ言われていまして、
あの部分は、そのころの認識を反映したものでした。
巻末特別編の冒頭に、当時の記事であると記載してあるので、その点は時代の「」つきでご理解
いただけるものと、甘く考えておりました。
やはり、その後の改修などで改善されている、と
書き添えるか、改訂しておくべきでした。
(本巻掲載にあたり一部改稿、とあるのは、
コラム冒頭の、そして単行本第4巻の〜、
という部分です)
第5巻が刊行になりますときには、あとがきで
F−2の記述について、読者の方々から
ご指摘を受けたと述べたうえで、然るべく訂正
したいと考えております。

MAMORUの一文は、認識不足を反省して、
F−2の名誉回復を多少は意図しておりました。
別に「防衛省準機関誌」だから、あのように
書いたわけではありません。MAMORUと
駄作機巻末コラムには、執筆時期に大きな差が
あったものとご理解ください。
動画は拝見いたしました。コメカミをグリグリは
自分ですることとさせてください。


「駄作機」は、まあ”居酒屋ネタ”では
ありますが、それでも何とか皆様の考察や議論の
出発点の足がかりにでもなってもらえれば、
という願いが、実は密かにあります。
「岡部はああ書いてるけど、そうでもないぞ」、
「こう見ると、評価は全然違ってくるぞ」と、
談論風発していただければ、駄作よばわりされた
飛行機も浮かばれることと、せめてもの
罪滅ぼしとさせてください。

「蛇の目」では計画機も書いていますが、
あちらは「ヘンな飛行機を考えるもんだね」と
お読みいただきたいと思っておりました。
シリーズ番外編の扱いになっているために
誤解を招いてしまったようですが、
「蛇の目」には”駄作機”以外の飛行機を書く、
としておりまして、トーネードもタイフーンも、
決して駄作機として書いたわけではありません。計画機や設計案はあくまでも案や計画で、
駄作とも何とも評価のしようがありません。
それでも紹介したいと思って、書いております。

出典や資料は、なにしろ元が模型雑誌のコラム
でして、雑誌掲載時には付しておりません。
単行本化するときには、書くべきかもしれませんが、
実は初出から単行本化までにだいたい3年近い
間隔がありまして、どんな資料で書いたか、
リストアップするのがとても面倒なもので…。
だいたいプトナム系とかドカヴィアを中心に、
インターネットではAerofileなどを参考に
しています。

そんなわけで、言い訳ばかりの長文で、
言葉の足りない部分もあると思いますが、今後も
このサイトをはじめ、皆様の鋭い視線が常に
あることを肝に銘じて、精進したいと思います。








Posted by 岡部ださく/岡部いさく at 2009年07月09日 02:00:36


岡部いさく氏はF-2戦闘機の誤認識について訂正すると言って下さいました。ありがとうございます。次の新刊でこの事を言及してくださるだなんて・・・これでF-2戦闘機の誤認識を大きく解く事が出来ます。そして「岡部いさくが書いた」という、最高のソースを得ることが出来ます。

MAMOR7月号で岡部いさく氏はこのように書かれています。F-2について“いさくの目”という短評です。

「ホントはいい機体なのに、あちらこちらから不具合だ何だとあれこれ言われ、あげくに調達も当初予定より減らされて、なんとも不憫。いつかきっと、みんなわかってくれる日が来るよ。」

その日は近いと思います。F-2に対する正しい認識を広め、不具合は多くが既に直っている事を、皆の共通認識に出来る日は近いと思います。

これで岡部いさく氏がF-2擁護派の仲間入りをしました。もう「F-2を擁護しているのはワスコー中将と週刊オブイェクトだけ」という揶揄は、過去のものとなりました。

後はどれだけF-2擁護派を増やしていけるか、ですね。
19時39分 | 固定リンク | Comment (279) | 報道 |
2009年07月06日
岡部いさく氏は、TVなどに登場する事もある著名な軍事アナリストとしては珍しいタイプの人で、評論家というよりはむしろマニアに立ち位置が近い方です。その岡部いさく氏がモデルグラフィックス誌(模型雑誌)上でペンネーム「岡部ださく」で連載している「世界の駄っ作機」は単行本が4冊+特別編が1冊出ていて、高い人気を得ています。

その最新単行本「世界の駄っ作機4」の巻末特別編、217ページにこうありました。



まぁ、21世紀に実戦配備されつつある戦闘機でも、大きなミサイルを4発吊るすと主翼がもたないくせに、原型機の4〜5倍の値段だとかいうヘンなのもあるらしいぞ。いや、どこの国の何ていう支援戦闘機かよく知らないけど。


・・・どこの国の何ていう支援戦闘機なんでしょうね。





少なくともコイツは違うようです。大きな対艦ミサイルを4発吊るしてバビューンと飛び回っているのですから。

ただ岡部さんを擁護すると、この特別編は連載100回記念で収録された2003年10月号の記事なので、当時はまだ直っていると知られていなかったので、その当時に記事を書いた事は仕方が無いと思います。ただ、今回単行本として出す時に内容を修正していなかったのは、非常に残念です。

あと値段の件ですが、F-15Jのライセンス生産でもアメリカ軍へのF-15C調達価格の3倍になってますから、元の数倍になるのは開発が成功していても織り込み済みだった筈です。F-2は確かに高くなっています。予定調達価格は1機80億円だったところが、1.5倍の120億円になってしまいました。言うなれば「原型機の2.5〜3.5倍の価格を予定していたが、実際には4〜5倍になってしまった」というのが問題点であって、元々原型機より数倍は高くなる前提を説明せずに4〜5倍とだけ書くのは、ちょっと良くない説明だなと思いました。


さて、これで「最近発売された3つの書籍でも相変わらずF-2が欠陥機扱いされていました。」の解説が全て終わりました。

※「大きなミサイル4発吊るすと主翼がもたない」・・・大日本絵画、岡部ださく著の「世界の駄っ作機4」より。

※「全力を出すと空中分解するのでまともな空戦は出来ない」・・・ビジネス社、石破茂/小川和久著の「日本の戦争と平和」より。

※「双発のF-15とほぼ同じ重さなのにエンジンは一つだけ」・・・原書房、ジム・ウィンチェスター著、松崎豊一監訳 (翻訳) の「図説世界の「最悪」航空機大全」より。

上記3つの書籍の主張は全て間違いです。F-2は対艦ミサイル4発を主翼に吊るして元気に飛んでいますし、三沢のアメリカ第五空軍のF-16と空戦訓練を行い、当時の司令官ワスコー中将はF-2の空戦能力を高く評価(星条旗新聞記事)しています。そしてF-15と同じ重さという記述については、誤解とかそういう以前の問題で、資料を読み間違えただけでしょう。数値の読み間違えで最悪航空機呼ばわりされるのは勘弁願いたいです。





最近ではこんな動画も上がっています。F-2に対する誤認識が徐々に正されつつあるように願いたいところです。
22時32分 | 固定リンク | Comment (158) | 報道 |
2009年07月01日
綺麗な語りで【セクシーボイス】の異名を持つ軍事アナリストの小川和久氏は、まともな分析を行う評論家として知られています。ただし、その能力には限定があります。小川氏は、戦略論など大きな事柄についての分析は無難で的確なのですが、戦術論になると的外れな主張を繰り返し、兵器レベルに至っては話にならないほど知識も理解も足りていません。

こういった傾向は日本で最も権威のある軍事アナリスト、江畑謙介氏にも言える事が出来ます。ただし江畑氏の場合は個々の兵器に関する認識が少し甘いだけで、戦術論以上、戦略論レベルでは高い考察力を示されます。評論家はマニアではないので、細か過ぎる知識までは必要とされないのです。

軍事の世界というのは様々な分野の集合体です。軍事史とは人類の歴史そのものですし、兵器の事を知るには理系的な知識で全ての分野が必要とされます。例えばNBC兵器を理解するには物理・化学・生物の知識がそれぞれ必要ですし、戦術面で地形を読み取るには地理の知識も必要です。海外の文献を読む為には外国語が出来て当然ですし、ありとあらゆる学問と深く関わってきます。その為、軍事の全ての分野に明るい超人のような人間は少なく、評論家もマニアもそれぞれの得意分野があり、これを外れると的確な解説が出来なくなるのです。

軍事アナリスト小川和久氏を信用して良いのは戦略レベルまでで、戦術論レベルや兵器レベルとなると、途端に的外れな主張を行うようになります。


海賊をよけて通れば自衛隊は必要ない:あつこば(小林アツシ)のブログ
小川和久のアナライザー「過去の教育を活かさない海賊対策」
http://www.choujintairiku.com/ogawak/
http://www.choujintairiku.com/ogawak/ogawak27.html

趣旨としては、
○海賊対策として被害を避けるのであれば1年前でもできたはず
○それは、民間だってできないわけじゃない。
○海上保安庁のヘリで情報収集をして、怪しい船を見つけたら、海賊達が持っている肩撃ち式ロケットRPG-7の射程外を通るように連絡すればよい。
というものでした。


変な理屈:徒然な日々に
 何時ものようにネットを見てて見かけた変な理屈について今回は。

 『小川和久のアナライザー』というHPの『過去の教育を活かさない海賊対策』という動画なんですが、その主張の要点を纏めると…

 1)ソマリア沖への海自派遣は議論不足。
 2)海保を派遣してヘリによる哨戒を行い、危ない船を見つけたら民間船舶にそこを避けるように言えば良い。
 3)インド洋派遣のように海自の補給艦を護衛艦付きで出せば補給の問題も無い。
 4)何故ならRPG-7の射程は920m程であり、7.62mmの軽機関銃は600m程に過ぎないから範囲に入らなければよい。
 5)装甲板が無い海保の警備船や海自の護衛艦が撃たれたらなんて言うのは軍事マニアの弁である。
 6)緊急避難や正当防衛で民間船舶が武器を使っても良い。
 7)海保は世界で2番目で、装備の新しさはアメリカ以上だし、特殊部隊も持っているのに海保を出さないのはおかしい。

 とまぁ、こういう無茶苦茶なものなんですね。

 一応この人陸自出身で、陸海空自衛隊に関する本も出しているはずなんですがねぇ?


これを読んで動画を見て、頭を抱えたくなりました・・・RPG-7の射程範囲を避ければいい?もうこれは、無誘導ロケットランチャーの使い方を何にも理解していないとしか思えません。

ハッキリ言ってしまうと、RPG-7の射程なんてゼロに等しいと理解しなければならないのです。揺れる船上から発射して確実に当てる為には、100m以内に近寄る必要があります。巨大なタンカーが相手でもです。過去の事例でも数十mどころか十数mまで接近して撃ってきた例の方が多い筈です。射程範囲という概念を論じる必要すらなく、これは目の前に接近してから初めて攻撃するものなのです。「RPG-7の射程を避ければいい〜」というのは、兵器のスペックだけ把握して使い方を何も理解していない証拠です。

そしてこの襲撃を避ける事は困難です。海賊は大型の母船と小型の襲撃艇を使っており、小型のボートに強力なエンジンを載せた襲撃艇は非常に速く、鈍足なタンカーは勿論、高速な貨物船や旅客船ですら速度面で振り切る事が出来ません。そして海賊船は母船も襲撃艇も普通の漁船と見分けが付け難いので、ヘリコプターからの洋上の監視は絶対ではありません。怪しい船を全て避けることは物理的に不可能です。「怪しい船を避ければいい〜」という主張は、現場の状況を何も理解していないとしか思えません。

簡単に纏めると、「RPG-7の射程を論じること自体が無意味。なぜならばこれはゼロ距離近くにまで肉薄してから撃つ兵器であり、海賊は高速ボートで接近してくるので、遅い民間船は避ける事が困難である」・・・よって小川和久氏の主張は間違いです。

海賊船が獲物を見付ける前にヘリコプターからの通報で避ければいい、最初から見つからなければ平気だ、という反論も有効ではありません。漁船を装って待ち伏せされたら判別は困難ですし、小型快速艇で獲物を探し回られたら逃げ回っていても何時かは捕捉されてしまいます。それどころか鈍足なタンカーは海賊の母船よりも遅いのですから、「怪しい船を避けて逃げる」という方法だけで海賊対策になる筈が無いのです。

海軍のヘリコプターならば、搭載機銃や小型対艦ミサイルで応戦する事が可能で、不測の事態にも対応できます。しかし海上保安庁のヘリコプターは非武装で、何もできません。また、海上保安庁の巡視船は洋上補給能力が無く、その訓練もしていません。それなのに海上自衛隊の補給艦から補給を受ければいいというのは、無茶苦茶な主張です。とても軍事アナリストのセリフとは思えないです。

※「撃たれたら装甲板が無いなんてのはですね、これはもうなんていうか軍事マニアかですね、ド素人の話ですよね。」

小川氏はこの動画で上のようなセリフを吐きました。兵器の使い方に関して言えば、ド素人は小川さん、貴方の方です。いや、兵器のスペックだけ把握して使い方を理解していないなんていうのは、レベルの低い軍事マニアのする事でしょうね。


次に紹介するのは、小川和久氏の著作「日本の戦争力」(アスコム)の中で、「対地攻撃型パトリオットで北朝鮮の砲兵は一瞬で全滅だ」とか奇妙なことが書かれている様子です。


「日本の戦争力」 著;小川和久、出版社;アスコム
「米軍の新構想では、そのように、撃ち返す手段にパトリオットを使うわけです。パトリオットはマッハ5で飛んでいき、ピンポイントで発射地点を直撃します。これによって、戦術核を使わなくても、せいぜい数千門が1発目しか撃てずに終わってしまいます。ですからソウルは火の海になりません。」


最近、新潮社から文庫版が出たようですが、私が持っているのは2005年11月24日にアスコムから発売された大きい本の方です。ただ何処かへ行ってしまって、買ってきた当時に消印所沢氏のmixiコミュニティに自分で書き写した該当部分を再確認して来ました。

何度読んでもこの記述は、どうかしてますね・・・確かに地対空ミサイルは弾道ミサイルに改造する事が出来ます。計画は中止されましたが米海軍にはランドアタック・スタンダードミサイル(SM-4)という構想もありましたし、韓国軍も古いナイキ地対空ミサイルを弾道ミサイル「玄武」に改造しています。ですが弾道ミサイルは基本的に命中精度が低く、ピンポイント攻撃は出来ません。GPSなどを付けてピンポイント攻撃を可能にする事は出来ますが、数千門もある北朝鮮の火砲を瞬時に破壊できるような能力はありません。数千門もの野戦砲をどうやって位置把握するのですか? 陸上用早期警戒管制機E-8ジョイントスターズや各種無人偵察機を駆使しても、とてもではないですが数が多過ぎて捕捉しきれません。第一、対抗手段にこちらも数千発の戦術弾道ミサイルを用意するのですか? このクラスの大きさのミサイルでそれは、戦術単位として凄まじい量なのですが・・・あまりにも非現実的です。

更に言えば米陸軍には短距離戦術弾道ミサイルとして、既にATACMSという専用設計で開発されたものがあり、GPS搭載型もあります。新規にパトリオット改造の短距離戦術弾道ミサイルを開発する筈が無く、実際にそのようなものは配備されていません。MD迎撃用の訓練標的弾としてパトリオット改造のスカッド弾道ミサイル模擬弾「PAAT標的ミサイル」というものは用意されていますが、それだけです。

この件については軍事アナリストの兵頭二十八氏も触れています。兵頭氏も兵器に関しては詳しい方ではないのですが、自身でその事を認めて、知り合いの軍事マニアに聞いてみるという柔軟性を発揮されておられます。分からない事は人に聞く、という事は重要ですね。


兵頭二十八の放送形式:書評余禄・他 2006年01月21日
 この前、小川和久氏著(聞き手・坂本衛氏)『日本の戦争力』(アスコム2005-12刊)を、読みました。
 特記すべき目新しい主張は発見できませんでしたけれども、これまでの小川氏の活動の総解説のようになっており、編集者の手間のかかった概括的でハンディな資料集とお見受けしました。

〜中略〜

本書268頁〜270頁に、次のような記述が見られます。

 「そこでアメリカは、小型戦術核ではなく地対地のパトリオット・ミサイルを使うシステムの導入を図っています。湾岸戦争で活躍したパトリオットは飛んでくる航空機やミサイルを撃つ『地対空』ミサイルですが、これを地上から敵の地上部隊を撃つ『地対地』ミサイルに転用するものです。すでにシステムの開発は終わっており、近々配備が始まる予定です。《改行》敵の大砲や多連装ロケットが初弾を発射すると、その瞬間にレーダー(対砲レーダー)でキャッチして発射地点に撃ち返すというのは、どこの陸軍でもやっていることです。」「米軍の新構想では、そのように、撃ち返す手段にパトリオットを使うわけです。パトリオットはマッハ5で飛んでいき、ピンポイントで発射地点を直撃します。これによって、戦術核を使わなくても、せいぜい数千門が1発目しか撃てずに終わってしまいます。ですからソウルは火の海になりません。」「やや問題なのは、北朝鮮の240ミリ多連装ロケットでしょうか。」「これは鎌首をもたげて一連の発射(20発)が終わるまでに44秒かかり、……《中略》……約4分で次の発射準備が整うわけですが、この4分間以内にパトリオットが命中するというのがアメリカの構想です。」

 このようなシステムが本当にあるのかどうか、兵器オタクではないわたくしはとても気になりましたのでグーグルで調べたところ、一件だけ、次のようなテキストがヒットしました。ある企業広報誌の2004年1月号の対談記事です。

 「小川   だから『ソウルは火の海だ!』という話になると、みんな『うわあ!』と思う。けれども、攻撃の兆しが出たらアメリカは、今までなら核攻撃をする。北朝鮮に伝え、中国の了解も得ている。中国に近いところでは核兵器は使わない。しかし核兵器を振りかざすのはイメージがよくないから、今は通常兵器による抑止システムで、来年から配備する予定のパトリオットという地対空ミサイルの地対地型が出来た。北朝鮮には長距離火砲や多連装ロケットがたくさんある。その一発目を発射する。すると、発射した瞬間に対砲レーダーがピンポイントで発射地点を割り出すわけです。その場所にパトリオットが全部ピンポイントで飛んで行く。北朝鮮は一発目は発射することができる。ただそれを発射した直後に、もう次は撃てなくなる。」

 このパトリオットの地対地型については英文での検索も試みてみましたが、どうもよく分かりませんでしたので、知人の軍事マニアのT君に手紙で尋ねてみました。彼はたちまち次のような情報を教えてくれました。

 ──冷戦末期の1988年の春頃、米陸軍の軍団レベルのSSM案として、パトリオットを改良する「T16」という地対地ミサイル案が、「ランスII/T22」(MGM-52「ランス」の改良案)とともに、存在した。後者は射程250kmで、高度な自律慣性誘導装置によりランスの6倍の精度を持たせる。前者もそれと同等の性能を目指したと思われる。この二つの案がその後どうなったかは不詳。確かなのは、2003年10月1日に、ソウル近郊ソンナム空軍基地とソウル市内で行なわれた韓国軍創設55周年記念軍事パレードにおいて、韓国陸軍の装備として米国製のMGM-140「ATACMS」が初公開された。これは射程が150〜300km(弾種による)あり、DMZから平壌の敵司令部まで到達可能で、米陸軍では、射程130km、CEP150mのLanceの後継SSMと位置づけている。自走発射機はMLRSをそっくり流用して2発連装で搭載する。韓国がいつからこれを持っていたかについては、『軍事研究』1998年2月号に、韓国は99年8月までにATACMSを111発購入する予定だと報ずる記事がある。さらに2000年7月に講談社から出た『最新朝鮮半島軍事情報の全貌』には、確かにそれらしい白黒写真がある、と。また03年のパレードには電子光学センサー搭載の国境警戒用無人偵察機も参加しており、これとATACMSがリンク運用される可能性もあるだろう──。

 いやはや、マニアは凄いものですね。わたくしのおつむりでは到底これらを記憶しておくことはできないのであります。しかし、要するに、塹壕陣地から発砲を始めた敵砲兵を即時に制圧できるような非核兵器はアメリカの最新技術力をもってしても実現し得ないのである、という、かねてから抱いておりました「相場値」は、これで再確認できたような気がいたします。


やはりパトリオット地対地型など計画だけで実物は存在せず、ATACMSがその役を担っているようです。地対空ミサイルからの改造品よりも専用設計の弾道ミサイルの方が性能は良いのは当然の話で、そしてATACMSの性能は皆さんがご存知のように、北朝鮮の数千門の火砲を瞬時に破壊できるような能力は無く、そもそも米韓軍は数千発ものATACMSを用意しておりません。そして米韓軍の保有する対砲レーダーの数は、現状で韓国軍が十数基と在韓米軍に幾つかあるだけで、とても数千門の敵火砲の初弾だけで全ての敵位置を把握して瞬時に反撃など出来る筈も無いです。

兵頭氏は軍事アナリストというよりは思想家に近く、兵器に関する知識は詳しいわけではないです。その兵頭氏ですら「おかしい」と感じて詳しい知人(軍事マニア)に連絡を取ったのに、「北朝鮮の数千門の火砲はこれで瞬時に全滅だ、ソウルは火の海にならない」などとお花畑な魔法兵器の存在を信じて疑わない小川氏は、どうかしているでしょう。アメリカの新構想だと有りもしない物をデッチ上げて、軍事的デマを流した小川氏の行為は問題視されて然るべきです。


そして最後に、小川和久氏の国会答弁について見て貰います。


第162回国会 外交防衛委員会 第5号 平成十七年三月三十一日(木曜日)
○参考人(小川和久君)「第二点、これは航空自衛隊が導入を進めてまいりましたF2型の対地支援戦闘機、これが石破防衛庁長官の時代にもうこれ今後の調達はしないということが決まったわけであります。これは、まず大変な欠陥機であります。これはもうパイロットだれに聞いても、本音を言う人は、こんなもの欠陥機で困るよと。」


私はこの証言がデタラメであると思います。何故なら、F-2戦闘機のどこがどのように欠陥機であるのか、具体的な説明が何も無いからです。それともしくは、恐らく小川氏はF-2配備初期にパイロットからの不満を聞いたところで止まっており、後に不具合が解消されたという続報を把握していないのではないかと思います。既に述べたとおり、小川氏は兵器に関して無知である事を曝け出しています。F-2についても、正しく性能を把握しているとは、とても思えません。

最近発売された、ビジネス社・石破茂/小川和久著の「日本の戦争と平和」でも、小川氏は「全力を出すと空中分解するのでまともな空戦は出来ない」などと書いています。それではF-2が三沢の米空軍とDACT(異機種間戦闘訓練)を行った件をどう説明するのか、米空軍のF-16は本気を出していないF-2相手に負けたとでも言うのか、第五空軍司令がF-2を高評価(USFJ Commander takes a spin in Japan's new F-2 fighter)しているのは何なのか、それと小牧基地の基地祭で、対艦ミサイル4発と増槽2本を抱きながらデモフライトで急激な機動(F-2対艦フル装備)を見せたF-2は幻か何かか、小川氏の主張するF-2評はこれらの情報に対して説明する事が出来ていません。
23時46分 | 固定リンク | Comment (233) | 報道 |
2009年06月30日
一連のスポールライナーの件で軍事ライター清谷信一氏が、とうとう防衛省技術研究本部(英語略称・TRDI、日本語略称・技本)に喧嘩を売りました。では先ず本題に入る前に、スポールライナー(内張り装甲)についての過去記事をご覧下さい。

(2008/12/31)内張り装甲とは結構、分厚いもの
(2009/02/12)「見た事が無い」のに「別物である」と断言
(2009/02/21)内張り装甲の定義

これは技本の開発した三種類の軽量装着型付加装甲の中の一つ、「内面取付型付加装甲」に関する話です。詳しくは過去記事を見て貰うとして、清谷氏は以下のような主張をしています。

※「スポールライナーと内部装甲はよく混同されるが、別物である」-軍事研究2009年3月号p43 清谷信一

しかしこの主張は、はっきりと否定されました。


今さらだけど、「内張り装甲」の定義 - 下総ミリタリースクエア
 内張り装甲

 内張り装甲とは、装甲裏面に内張りしたアラミド繊維(ケブラーなど)とプラスチックの複合材などである。装甲裏面からの剥離物を受け止める耐弾性向上効果(スポールライナー)のほかに、図1.5.2-12に示すように破片の飛散角度を小さくするといった残存性向上効果(スプラッシュライナー)が存在する。

― 弾道学研究会編「火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)」財団法人防衛技術協会刊 ―


この本は火器弾薬に関する日本で唯一の教科書です。この本に書かれている定義は、日本のこの分野における定義とイコールです。そしてスポールライナーは「内張り装甲」の項目の中に記されています。これで清谷氏の主張は完全に否定され、止めを刺された・・・その筈でした。

しかし大モサ師匠ことTFR師は、清谷氏の行動をこう予測していました。


69 名前:TFR ◆IBMOSAtBIg 投稿日:2009/02/22(日) 12:17:34 ID:???
>64
> そして最後の止めを刺された清谷。もう完全に終わったな・・・

      ッ'"'"~゛"/^l'ツ"'フ
   ヾ         ヾ.  それはキヨタニさんに対する過大評価だと思うもさ。
   ミ       ´ ∀ `ミ  彼に羞恥心や自制というものがあると考えるのは
  彡        _     ミ  おかしなこともさ。
(~.,,._,,.,.,,_,,,.,.,,.,.,,,.,.~)⌒/⌒(^)
           ⌒ ⌒

> >― 弾道学研究会編「火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)」財団法人防衛技術協会刊 ―

「兵器技術のガラパゴス日本における定義など意味を成さない」くらいの事は言うと思うもさよ。


そしてこの予測は4ヶ月後に見事的中したのです。

それでは清谷氏による「スポールライナーの件で防衛省技術研究本部に喧嘩を売ったでござるの巻」の、始まり始まり〜


コンバットマガジン2009年8月号p119 レア・ミリタリー・テクノロジー 第19回「装甲車の防御力の強化」 清谷信一
スポール・ライナーと装甲

 また技本はこの「内面取付型付加装甲」をスポール・ライナーと称している。先に述べたようにスポール・ライナーと装甲は用途が異なる。実際に増加装甲やスポール・ライナーを製造、あるいは使用している外国の装甲や装甲車両のメーカーはそのように認識している。本号で筆者はトルコの見本市IFEFのリポート(P.68〜)を掲載しているが、その会場でいくつかのメーカーの人間に「内面取付型付加装甲」の写真を見せた。ダイ二ーマの製造元であるDSMダイニーマ社のテクニカル・アプリケーション・マネージャーのウィリアム・ルーバース氏は「これはスポール・ライナーではない」と明言した。他の関係者も同様の意見だった。また筆者が10年ほど前、かつて軽装甲機動車の開発にかかわった陸幕広報室の二佐から「軽装甲機動車の開発時にスポール・ライナーを付加しようという案があったが、コストが高くなるから止めた」という話を聞いた。彼はスポール・ライナーの装着は弾丸などの貫通を防ぐ目的ではないと明言していた。陸自と技本と認識が異なるらしい。

 別に国際機関が用語の定義をしているわけでもないので、何をどう定義しようがそれは自由だが、国際的な常識とあまりに異なる定義をしていると、外国との無用なパーセプション・ギャップを招くだけである。技本は海外の研究者や、メーカーともっと積極的に交流を持ったほうがいいのではないだろうか。


清谷氏はスポールライナーに関して「日本の軍事業界の定義は間違っている、技本はおかしい」と力説しています。あれから数カ月の間があったのは、自説に都合の良い証言をしてくれる人を捜し回っていたからなのでしょう。記事の他の内容は、コンバットマガジン2009年2月号での主張の繰り返し(内面取付型付加装甲について、こんな装甲見たこと無い、恐らく道路法の制限を意識したものだ)と、相変わらず根拠の無い「陸上自衛隊の装甲車両の防御レベルはSTNAG4569でレベルT程度」「軽装甲機動車に至っては5.56mm弾にしか耐えられない」という主張(記事中では根拠を示さず「知られている」との記述のみ)があって、何時も通りの清谷氏でした。

なお記事中で清谷氏の言うスポールライナーとは、「厚さは兵員輸送車の場合5〜10mm程度が相場であるようだ」とあり、かなり薄いものを想定していて、技本の「内面取付型付加装甲」のような分厚いものはスポールライナーではない、と主張されています。

しかしそれでは、アメリカ陸軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車の分厚いスポールライナーの件は無視するんでしょうか。どう見ても数十ミリ単位はある厚さで、5〜10mmというレベルではありません。M2A2以降に付加されたものです。

M2ブラッドレー歩兵戦闘車、被害

M2ブラッドレー車内スポールライナー

このブラッドレー歩兵戦闘車に装備されている内張り装甲は、アメリカではスポールライナーであると明言されています。陸軍もメーカーも同様に、そのように呼んでいます。

また実は防衛省の準広報誌「MAMOR」2009年5月号に軽量装着型付加装甲の特集記事が掲載されていて、内面取付型付加装甲に関しては「ロシアのT-72戦車の砲塔内部に取り付けられたスポールライナーなどを参考にした」と技本の中の人の証言も交えて明言されています。

ロシア戦車の内張り装甲の写真 - 大砲と装甲の研究

それはつまり、日本の「内面取付型付加装甲」をスポールライナーではない別物だと言い張る場合、同時に「ロシアのT-72戦車の砲塔内側のスポールライナー」についても同様に別物だと言い張る事になります。

清谷氏はロシアの技術者にも喧嘩を売るつもりなのでしょうか? 

アメリカのブラッドレー歩兵戦闘車のスポールライナー、ロシアのT-72戦車のスポールライナー、これらと日本の「内面取付型付加装甲」は同系列の存在です。それを「別物である」と称するなら、その根拠を清谷氏は提出すべきでしょう。清谷氏なりの「スポールライナーの定義」をお聞かせ頂けると幸いです。なお上述の通り、「5〜10mm」という範囲を大きく超えるスポールライナーは米露に実在しますので、これは定義とは成り得ません。

「内面取付型付加装甲」の写真を軍事関係者に見せて「これはスポールライナーでは無い」という証言を得ても、それだけじゃ何の意味も無いんです。どうしてそのような判断に至ったのか、根拠が何も示されていないのですから。スポールライナーと内張り装甲が別物であると言い張るのでしたら、両者の境目は何なのか、定義を示す必要があります。

果たして、もしブラッドレーやT-72のスポールライナーの写真を見せた後で、「日本で開発したこれはT-72の奴を参考にしたんだ」と解説した上で内面取付型付加装甲の写真を軍事関係者に見せた場合、清谷氏の望む回答が返って来ることは、きっと無かったでしょうね。

内面取付型付加装甲

20mmダイニーマ・スポールライナー

下の写真は20mm厚のダイニーマ製スポールライナー。中央に着弾していますが、大きいワッシャーを噛ましていないために上部のボルトが着弾の衝撃でライナーに食い込んでいます。

上の写真の内面取付型付加装甲と比べても、一枚あたりの厚さは似たようなもの(写真の内面取付型付加装甲は3枚重ね)です。

参考資料はNATOの報告書から、オランダ軍による試験結果です。


[PDF] Ballistic Protection Against Armour Piercing Projectiles Using Titanium Base Armour
The target configurations consist of a very hard outer layer, a Ti-6Al-4V base armour and sometimes a polyethylene composite spall-liner.


チタンベースの装甲材に関する論文で、これにポリエチレン製複合スポールライナーを張る場合がある、としています。
23時04分 | 固定リンク | Comment (90) | 報道 |
2009年06月29日
何か怪しいな、と思ったら、それが本当かどうか一次ソースか或いは、可能な限りそれに近い情報をチェックすることが重要です。ウソをウソと見抜けるように皆で努力しましょう。

ロシアで海賊を “合法的に死傷させる” ツアーが問題に - ロケットニュース24(β)

正当防衛の名の下に海賊を殺傷するツアーを、ロシアの旅行代理店が企画していると糾弾するこの記事は、何もかもがウソでした。

ソマリア海賊狩りツアーはデマか - 火薬と鋼

意図的なネタとして作られたウソ記事を、伝言ゲームの途中で本当の記事だと勘違いして、そのまま本当の事だと誤まって伝えられていきました。

もし「ロシア人ならやりかねない」と思って何も検証する事もなく鵜呑みにしたのであれば、それはロシアに対して大変に失礼な行為です。今回の場合は大元はロシア語の記事ではなく、英語で書かれた嘘ニュースサイトが出発点だったのですから、ロシア語の原文をチェックする必要すら無かった筈です。

怪しいネタなのに何の疑いもなくダボハゼのように飛びつく行為は、恥と思ってください。

そしてつい最近、当ブログのコメント欄でも似たような事が有りました。



81: 今話題のアメリカ下院での軍事予算ですが、
下院の決議案にこんな文言があるそうです。
http://aviation-space-business.blogspot.com/2009/06/f-22_27.html

*ミサイル防衛庁に対し、合衆国のミサイル防衛をNATO加盟国とその他欧州各国に限定する

知らなかったんですが、大問題じゃないですか?
日本向けのノドンすらアメリカ軍は絶対防衛するなよと言ってるわけですよね?
以前横須賀の配備されてるイージス艦は、中距離弾道ミサイルしか撃ち落とせないんだから、
日本向けに決まってると書かれていましたが、
アメリカは日本を攻撃するミサイルなんて撃ち落とす気は無いんじゃないですか?



86: >84
原文は >81 と逆の意味だよ



87: 81の元の文章はこれ。

Restrictions on the Missile Defense Agency limiting U.S. engagements with NATO and European allies regarding missile defense.

81が紹介している日本のサイトは翻訳ミスしてるね。

×ミサイル防衛庁に対し、合衆国のミサイル防衛をNATO加盟国とその他欧州各国に限定する

○ミサイル防衛庁に対し、NATO加盟国とその他欧州各国が合衆国と約束しているミサイル防衛を制限する規制

これGBIの東欧配備計画を一時、制限する(ロシアとの交渉中はストップさせる)という意味でしかない。




このケースは「翻訳ミスで意味が真逆になってしまった」という例です。外国語を翻訳した事がある人ならよくわかると思いますが、これは案外に多いケースです。プロの翻訳家ですら、しばしば行ってしまう類のミスです。

今回、この翻訳ミスを行った「航空宇宙ビジネス短信・ターミナル2 軍用機、軍事技術、防衛産業」というブログは、アメリカの有名な航空機専門誌「Aviationweek」の英語サイトから記事を和訳しているブログのようです。ただ、翻訳のミス自体は責めるつもりはありません。前述のように意外とやってしまいがちな事ではあります。問題は、記事に元の英文記事へのリンクが無いことです。その為、確認を取る作業が遅れてしまっています。

元の「Aviationweek」の英文記事はこれです。

Japan Could Be Offered $290 Million F-22 | AVIATION WEEK
* Restrictions on the Missile Defense Agency limiting U.S. engagements with NATO and European allies regarding missile defense.

書かれている意味はコメント87で述べられているとおり、欧州配備予定のミサイル防衛(GBI欧州型)を制限する(ロシアとの交渉が終わるまで)という意味です。「航空宇宙ビジネス短信」の翻訳とは意味が正反対です。

おかしな話なのに、元の英文記事をチェックせずに騒いだコメント81のような態度は、「ウソをウソと見抜けない人」の行為です。2ch軍事板のスレッドでも同じような事を書いていた人がいます。同じ人かどうかは知りませんが、本当かどうかを確かめもせずにデマを広めるような行為は、謹んで貰いたいものです。
19時14分 | 固定リンク | Comment (121) | 報道 |
2009年06月27日
神浦さん・・・なんて恐ろしい人だ・・・いや、彼は人では無く神なのだ・・・神業を駆使して、当然・・・またしても誤神託が成就したのだ・・・逆神の神通力はますます、高まりを見せている!

Jwings 8月号(6月21日発売)の58ページ、神浦元彰の軍事ジャーナル「オレに言わせろ!」第72回目「自衛隊に敵基地攻撃能力は必要か?」にこうありました。



 韓国だって同じだ。首都ソウルは、北朝鮮の短距離弾道ミサイル(スカッド)や地対地ロケットの射程内にあり、かねてより強烈な軍事的脅威にさらされている。なのに、なぜ敵基地攻撃論は高まらないのか・・・。
 一見すると、敵基地攻撃論を本当に必要としているのは、アメリカや韓国のはずなのに。
 この疑問への回答はこうだ。米韓軍は北朝鮮のミサイル基地を攻撃したくとも、出来ないのである。それは北朝鮮の銃口が両国の頭に突き付けられているからだ。

〜中略〜

 もし地下の北朝鮮軍陣地からBC兵器が発射されれば、ソウル市街、在韓米軍、軍事境界線に近い韓国軍部隊は壊滅的な打撃を受ける。これが米韓両軍の頭に突きつけられた北朝鮮の銃口なのである。

〜中略〜

 米韓軍の持ち駒すべて使っても、巧妙に作られた北朝鮮の地下陣地を瞬時に破壊する事は不可能だ。
 だから米韓軍による敵基地(先制)攻撃論は沸き起こらない。そんな中で日本だけが敵基地攻撃論を活発化すれば、北朝鮮が持つBC兵器の威力を宣伝しているようなものである。米韓は即座に日本に対して「敵基地への先制攻撃は止めてくれ」と言い出すだろう。
 そんな朝鮮半島事情を知ってか知らずか、先制攻撃を唱える自民党・国防族を米韓軍は苦々しく思っているに違いない。


この主張は神浦さんの公式ページ「最新情報」でも再三行われており、5月27日及び6月11日にも確認できます。

※「しかしアメリカ軍と韓国軍が共同しても、北朝鮮のミサイル発射や核施設を攻撃できないのである。」
※「しかし韓国軍や米軍からは、なぜ敵基地攻撃論が出てこないか理由を考えて欲しい。」

そして逆神の誤神託は6月21日発売のJウィングで最高潮に達しました。神通力が限界点まで高まった直後・・・その力は開放されたのです。


韓国の国防計画、「先制打撃」を初明示 北朝鮮核・ミサイルを想定:日経新聞 6月26日
韓国国防省は26日、2020年まで軍の近代化を推進する「09―20国防改革基本計画」を発表した。北朝鮮による核・ミサイル攻撃という有事を想定し「先制打撃」の概念を初めて明示し、北朝鮮全域のミサイル基地を打撃できる能力の確保などを盛り込んだ。聯合ニュースによると関連事業費は599兆3000億ウォン(約44兆5000億円)を見込む。

現計画は盧武鉉(ノ・ムヒョン)前政権時の05年に策定したが、最近の核実験や弾道ミサイル発射など「脅威への対応能力を再評価し必要な戦力を確保」(李相憙=イ・サンヒ=国防相)するため大幅に修正した。核・ミサイルによる攻撃を受ける前に「できるだけ敵地域で攻撃を遮断、除去」する先制攻撃能力の増強を目指す。


国防部「北核・ミサイル発射直前に打撃」:中央日報
国防部は有事時、北朝鮮が核や弾道ミサイルなどの大量破壊兵器を発射する際、その前に打撃できる能力を備えられるよう能力を高める計画を発表した。

国防部は26日に発表した「国防改革2020調整案」で「核、弾道ミサイルなど北朝鮮の非対称的脅威を敵(北朝鮮)地域で最大限遮断・除去するために精密な打撃・迎撃能力を拡充する計画だ」と明らかにした。

調整案は2005年に作られた「国防改革2020」を最近、北朝鮮の核・ミサイル脅威の高潮と経済状況などにより新たに構成した。国防改革予算は2005年に立案された621兆3000億ウォンから22兆ウォン減った599兆3000億ウォンに調整された。

調整案によると北朝鮮が核または弾道ミサイルで韓国を攻撃する兆しが見えれば▽多目的実用衛星、偵察機、無人偵察機、弾道弾早期警報レーダーなどで監視偵察▽F−15Kと合同遠距離攻撃弾などで(先に)精密打撃▽それでも韓国に飛んできた北朝鮮のミサイルは海上迎撃誘導弾と地上パトリオットミサイルで迎撃する−−という概念を盛り込んだ。またミサイルが韓国地域に落ちた場合に備え、個人及び部隊別に防護体系を強化するなど、4段階で対応する。防護体系には核爆発時に出る強い電磁気波(EMP)に対する対備策も含まれている。

こうした対応に向け、国防部は現在、北朝鮮の平壌(ピョンヤン)−元山(ウォンサン)以南までである韓国軍の精密打撃能力を2020年まで北朝鮮全地域に拡大する計画だ。海上迎撃誘導弾では米国が開発中のSM−6または海上用PAC−3の導入を検討中だ。

北朝鮮特殊戦部隊に対しては無人地上監視体系(UGS)と多機能観測鏡などで探知した後、遠隔運営統制弾と昼夜間の照準鏡が結合された武器で浸透を阻止することにした。北朝鮮の西海(ソヘ、黄海)側侵犯に備えて2018年までペンリョン島など西海5度に配置した4000人を削減することにした基調を修正し、2020年まで3200人のみ減らすことにした。

国際平和維持活動のために3000人規模の海外派兵常備部隊も置くことにした。海外派兵常備部隊はそれぞれ1000人で、常備部隊と交代用である予備部隊、別途指定部隊で構成されている。

調整案には再び急増するサイバー脅威に備え、情報保護司令部も来年初めに創設することにしたほか、各指揮官と将兵たちの安保意識向上を担当する精神全力開発院が早ければ来月、国防大学に新設される。


逆神、Sugeeeeee!!!

ここまで凄いだなんて・・・信じられない思いです。以前、確かに私はこう書きました。

『しかし、逆神が断言すれば世界に方向性が与えられてしまうのです。まだ見ぬ未来、不安定な要素を孕む事象に対し、逆神の絶対断言が飛び出せば、世界は必ず逆の方向に転ぶのです。』

まさに神業。恐るべし逆神。北朝鮮も韓国も、全ては誤神託の意のままなのか・・・
20時53分 | 固定リンク | Comment (189) | 報道 |
あの国はまたやってしまったのか・・・韓国では「世界で○番目!」というフレーズが国民を挙げて大好きみたいですが、その多くが出鱈目な主張だったりします。あと、「世界一の性能!」というフレーズもですね。


世界で2例目の潜水艦攻撃ロケット魚雷…性能は世界一:中央日報
水上艦から発射され動力飛行し、水中の敵潜水艦を攻撃する新型のアスロック(ASROC:Anti−Submarine Rocket、艦載用対潜兵器の一つ)「ホンサンオ(紅鮫)」が22日、国内で開発された。

国防科学研究所(ADD)が開発したホンサンオは、垂直発射型(VLS)の対潜ロケットとしては米国に続き、世界でも2例目となるが、性能は世界最高だ。


K-ASROC「赤鮫」(韓国型アスロック) :日本周辺国の軍事兵器

この「垂直発射型対潜ロケット開発は世界で2例目」という嘘は、韓国の国防科学研究所(ADD; Agency for Defense Development)がそう発表したもので、韓国マスコミはそれをそのまま報道したものです。誰もこの間違いをチェックしていない(わざと知らん振りしている)のは、あの国ではいつもの事です。

彼らは、日本の開発したVL式の新アスロック(07式垂直発射魚雷投射ロケット)の存在を無視しています。日本の新アスロックは2年前の2007年に正式採用済みです。韓国の国防科学研究所がこれの存在を知らなかった筈が無く、知っていながら意図的に無視して自国のマスコミに発表したのでしょう。

平成19年度 政策評価書(事後の事業評価):日本防衛省

防衛省の平成19年度政策評価で事後の事業評価の項目の2番目に「新アスロック」の名前があります。平成19年(西暦2007年)には開発が終了済みの新型兵器です。正確には平成19年度なので、平成20年の3月までも入りますが、どちらにせよ既に正式採用されてから一年以上経過しています。韓国ADDが日本の"公表されている"新型兵器について知らなかった筈が無く、本気で知らなかったら情報収集能力の無さが疑われてそちらの方が問題でしょう。

新アスロック

07式垂直発射魚雷投射ロケット

また実を言えば同種の対潜ミサイルはロシアにもあります。ロシアはこれまで水上艦からの対潜ミサイルを、VLS(垂直発射ランチャー)ではなく艦上のチューブ型発射筒に搭載する形式でしたが、新型の「RPK-9メドヴェカ(SS-N-29)」は発射筒の他に垂直発射形式も考慮されて設計されているそうです。


RPK-9 Medvedka SS-N-29 - GlobalSecurity.org
The system can be modified and suited for installation on customer's operational ships to provide inclined or vertical launch on request.


メドヴェカは輸出も考慮されており、顧客が望むならばVLS方式も可能なようです。ただし、今のところはまだ搭載する計画も無いので、これについては無視しても別に構いはしないでしょうが・・・日本の07式アスロックについて無視する行為は、おかしな話です。日本は順次、この新型に切り替えていく予定なのですから。

※追記;ロシアのSS-N-27シズラー(3M54クラブ)巡航ミサイルの対潜ミサイル型「91RTE2(91РТЭ2)」が水上艦用の垂直発射方式対潜ミサイルでした。射程は40kmに達します。

またdragoner氏によると、韓国の国防科学研究所(ADD)は、昨年に東京で行われた防衛省技術研究本部発表会に招かれて講演したのですが、使用言語は韓国語、資料の解説文も韓国語で、この場が外国である事を全く考慮していない自己満足な行為をしています。日本語で講演しろとは言いませんが、せめて英語で説明文を書いてくれないと、その場にいる誰も理解できずにやるだけ無意味です。これでは自国の技術を誇示する事にすら失敗しており、やり方があまりにも下手過ぎます。

そして韓国マスコミも、国防科学研究所(ADD)の発表について、疑問の眼差しを向けています。以下は2006年の韓国日報の記事です。元はハングルの記事ですが日本語に翻訳しました。


[地平線] 武器開発能力 | 韓国日報
しかし自尊心に水を差す報道もたびたび聞こえる。国産対空ミサイル「天馬」は納入前から全面改良中で、携帯対空ミサイル「神弓」は夜間作戦が不可能であり、国産対空砲「飛虎」の命中率は旧型エリコン砲にも大きく及ばない、などの指摘が国会で提起された。

昨年には、10年以上かけて開発された長魚雷「白鮫」と短魚雷「青鮫」に、実戦配備後に深刻な欠陥が発見され、海軍が開発企業に損害賠償を要求したこともあった。これらはいずれも、開発成功発表当時には例外無しに「世界最高性能」と広報された兵器だ。


韓国は兵器の国産化を始めたばかりで、出来上がるものは初めてのものばかりですから、不具合は出て当たり前であり、失敗だってあるでしょう。それは当然の事なのに、背伸びをして「世界で○番目に開発した!」「世界最高の性能だ!」と主張しても、世界は相手にしてくれません。いろんな種類の兵器の開発に新たに挑戦しているADDのチャレンジ精神が旺盛なのは認めますが、自国民に嘘をついてまで誇大広告をする行為は、控えるべきだと思います。

韓国式VLアスロック「ホンサンオ(紅鮫)」は、全ての能力面において日本式VLアスロック「07式垂直発射魚雷投射ロケット」に大きく劣ります。射程、そして弾頭部の短魚雷の性能、どちらも07式垂直発射魚雷投射ロケットの方が上です。また専用VLSを必要とするホンサンオ(紅鮫)に対し、07式垂直発射魚雷投射ロケットは既存のMk.41VLSにそのまま搭載可能です。使い勝手の点でもホンサンオ(紅鮫)は劣ります。

肝心の弾頭部の短魚雷の性能についても、ホンサンオ(紅鮫)の弾頭部はチョンサンオ(青鮫)であり、前述のように配備初期段階で重大な欠陥が発見されています。またチョンサンオ(青鮫)の駆動形式は電動モーター駆動であり、速度45ノット、航走距離12kmです。一方、07式垂直発射魚雷投射ロケットの弾頭部である97式短魚雷は、リチウムと六フッ化硫黄の燃焼によるクローズドサイクルエンジンを採用しており、これはアメリカのMk.50短魚雷と同様の形式です。97式短魚雷とMk.50短魚雷は同等の性能であり、速度は60ノット、航走距離20kmと推定され、水深1000mの深々度に潜航する敵潜水艦をも攻撃可能です。

つまり、韓国の新型短魚雷チョンサンオ(青鮫)の性能は世界レベルの一世代前の性能でしか無く、日本の97式短魚雷やアメリカのMk.50短魚雷に大きく劣ります。しかしロシアやアメリカの原潜を相手にする気でなければ、十分な性能です。中国の原潜が相手なら問題ありません。北朝鮮の潜水艦が相手なら、アスロックどころかボフォース対潜ロケットや爆雷のような無誘導兵器でも十分です。アメリカも冷戦が終結してロシア潜水艦との交戦の可能性が減った今は、Mk.50の性能が過剰過ぎる(値段が高価過ぎる)として、廉価版のMk.54(Mk.46の推進システムにMk.50の弾頭の組み合わせ)を開発しています。

ということは、ホンサンオ(紅鮫)以前にチョンサンオ(青鮫)を「世界最高性能」と称した韓国の国防科学研究所(ADD)は、嘘を吐いていることを承知の上で国内マスコミに発表していた事がほぼ確定的です。日本の新型兵器がマイナーだと言い訳しても、アメリカのMk.50を知らなかったなどと言える筈が無く、そんな事を主張し続けるなら、アメリカからも嘲笑されてしまうでしょう。

そろそろ韓国の軍事マニアは、自国の軍に対して抗議すべき時が来ているように思えます。
16時42分 | 固定リンク | Comment (174) | 報道 |
2009年06月24日
F-2に関するデマ情報が書かれた「最近発売された3つの書籍」。その中でも、最も分かりやすい間違いが書かれた書籍がこれです。



表紙書籍の紹介
taizen.jpg

図説 世界の「最悪」航空機大全

ジム・ウィンチェスター著
松崎豊一監訳

ISBN4-562-04236-4
A5判
2520円
2009/2/20刊

原書房


この本にはF-2戦闘機も「最悪」航空機として紹介され、そのF-2紹介ページの最後にはこのように締められていたのです。

『最終的に完成したのは、ほぼF-15イーグルと同じ重量の航空機だったが、エンジンは一基しかなかった。』・・・『図説 世界の「最悪」航空機大全』 142ページより

私はそのF-2の章最後の締めの部分を読んだ瞬間に、立ち読みして開いていた本を閉じ、静かに書棚へ戻し、何事も無かったかのように立ち去りました。

「Amazonで注文しなくて正解だった・・・」

F-2A戦闘機の空虚重量は約9.5トン、F-15C戦闘機の空虚重量は約13トン、どうしてこの二つが「ほぼ同じ重量」なのか、理解できません。F-2の機内燃料4750L(約3.5トン)を足した数値が13トンですから、これとF-15Cの空虚重量で見比べたミスである可能性があります。当然ですが空虚重量(empty weight)とは燃料を含みませんし、同一条件で比較しないと対比させる意味がありません。

ところがF-2戦闘機に関して日本語のサイトや英語のサイトをチェックすると、F-2戦闘機の空虚重量を「12トン」と記述するサイトがチラホラあり、著者のジム・ウィンチェスター氏はこれら誤情報を読んで思い込んでしまった可能性があります。

F-16 Versions - F-16 FSX/F-2 :: F-16.net
Weights: 21,000 pounds empty, 26,450 pounds combat, 48,720 pounds maximum takeoff.

有名な「F-16.net」では、F-2の空虚重量について21000ポンド(9525キログラム)と紹介されています。

F-2 Attack Fighter, Japan - Air Force Technology
Empty Weight 12,000kg

ところが「Air Force Technology」ではF-2の空虚重量について12000kgと、間違った数値が記載されてしまっています。こちらも有名なサイトです。

そして『図説 世界の「最悪」航空機大全』(原書名「The World's Worst Aircraft」)の著者ジム・ウィンチェスター(Jim Winchester)氏はイギリスのロンドン在住で、有力な航空誌に寄稿する著名な軍事航空機の評論家です。どうにかしてこの誤解を解かなければ、F-2に関するデマが英語圏に流れっ放しです。なんとかしてウィンチェスター氏に連絡が付く方法は無いものでしょうか・・・「Air Force Technology」にも訂正要求しないと・・・もちろん、原書房も可及的速やかに正しく改訂して下さい。著者は勿論の事、翻訳者の松崎豊一氏や編集者の誰も気付かなかったというのは・・・

数値の記載ミスは、どんな本にも有り得る事です。勘違いも誰にでもある事です。私もごく最近までF-22戦闘機の空虚重量を思いっきり勘違いしていました(ロッキード社の公式サイトをチェックして気付く※)。しかしF-2の問題点では「重量超過」などこれまで一度も話題に出ていなかった事なのに、どうしてほぼ同じ規模のエンジンを積みながら双発のF-15と単発のF-2がほぼ同じ重量になってしまうのか、何故おかしいと誰一人気付かなかったのか・・・もし同重量なら致命的な欠点でしょう、でも事実は違います。

なお日本の防衛省関連の出しているデータでは、F-2の空虚重量は約10トンと四捨五入された大雑把な数字が掲載されています。そして三菱重工のF-2紹介ページでは重量の表示がありません。

(PDF)平成20年度ライフサイクルコスト管理年次報告書:防衛省装備施設本部

F-2戦闘機 | 三菱重工

防衛省と三菱重工はF-2戦闘機の詳しい空虚重量を公式サイトに掲載して下さい。日本人向けだけでは無く、世界の人に見て貰う為に。その為には日本語のPDFファイルじゃ駄目ですし、目立つ所に置いて欲しいです。世界中でF-2戦闘機に関するデマ情報が広がっており、もう手遅れかもしれませんが、今からでも誤解は解く必要がある筈です。メールか何かでお願いしてみようと思います。



※F-22、意外と重かったです。

F-22 Raptor Specifications | Lockheed Martin
Weight empty 43,340 lb /19,700 kg

F-35A - CTOL Specifications | Lockheed Martin
Weight empty 29,300 lb /13,290 kg

日本の著名サイトではF-22の空虚重量を14トンとするところが幾つかあり、私も最近までそうだと思い込んでいました。だからジム・ウィンチェスター氏をあまり笑えません。記事に書かなくて良かったです。実はもうちょっとで載せる寸前でした。

またF-35はA型でこの重量で、垂直離着陸タイプのB型は14トンを超えます。ハリアー(空虚重量6トン級)のような軽攻撃機の運用を前提にしている軽空母では、F-35Bのような重量級の機体は運用困難である事は、数値だけからでも理解し易いです。
19時30分 | 固定リンク | Comment (248) | 報道 |
2009年06月21日
冷戦終結後、アメリカとロシアは核軍縮条約START2の話し合いの過程で、海軍戦術核兵器の全廃を決めました。これは両国の海軍が保有する核兵器を戦略核兵器のみに絞るもので、具体的に言うと戦略原潜が搭載するSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に搭載された核弾頭のみにする、という取り決めです。START2条約は調印されましたが批准されず、正式に発効されたわけではありませんが、両国はお互いに出来る範囲で話し合いの結果を核軍縮に反映させる事としました。海軍戦術核兵器の全廃はその範囲であり、アメリカは艦船に搭載していた核攻撃型トマホーク巡航ミサイルを地上に降ろし、退役させて封印しています。

ということは逆に言えば、それ以前のアメリカ海軍の駆逐艦や巡洋艦、攻撃原潜は核攻撃型トマホークを搭載しており、当然ながらそのまま日本の港に寄港していた事になります。

以下は共同通信の配信した記事です。日本の海峡が公海部分を残しているのは核搭載艦通過の為だという、元外務事務次官の証言を得た記事なのですが・・・


核通過優先で領海制限 津軽、宗谷など5海峡:中国新聞
政府が宗谷、津軽など五つの重要海峡の領海幅を3カイリ(約5・6キロ)にとどめ、法的に可能な12カイリ(約22キロ)を採用してこなかったのは、米軍の核搭載艦船による核持ち込みを政治問題化させないための措置だったことが21日、分かった。政府判断の根底には、1960年の日米安全保障条約改定時に交わされた核持ち込みの密約があった。複数の元外務事務次官が共同通信に証言した。

〜中略〜

米政府は冷戦後、日本にも寄港した空母などから戦術核を撤去したが、「核の傘」の屋台骨である戦略原潜は今も核弾道ミサイルを搭載し、日本近海を航行しているとみられる。(共同通信編集委員 太田昌克)


最後の段落で記事を台無しにしてしまうとは、悲惨な・・・

共同通信編集委員の太田昌克さんは、戦略原潜の運用方法を全くご存知ないようですね。アメリカの戦略原潜は日本近海を航行したりはしません。これはどういう事かというと、現代の戦略原潜は敵国に近寄って核弾道ミサイルを発射する必要が無いからです。アメリカの潜水艦発射弾道ミサイル、UGM-133トライデントU(トライデントD5)の射程距離は11000km、アメリカ本土近海からロシアと中国の全土を攻撃射程圏内に収めています。自国周辺の守りの厚い海域から発射し、敵国を攻撃する兵器なのです。

Lockheed Martin UGM-133 Trident II | Designation-Systems.net

というわけですから、アメリカの戦略原潜が日本の海峡を通過して日本海に入り込む必要性はまったく存在しません。来てもいません。戦略原潜オハイオ級の一部の艦は核軍縮の為にトライデント弾道ミサイルを降ろし、代わりに通常弾頭型トマホーク巡航ミサイルを大量に積み込む巡航ミサイル潜水艦となり、改装なった1番艦オハイオが昨年、横須賀と韓国の釜山に寄港したりはしていますが、これはもう既に戦略原潜ではありません。核兵器は積んでいません。

(2008/10/17)ピースデポ梅林宏道の原潜オハイオに対する頓珍漢な懸念

ところで共同通信編集委員の太田昌克さんはこの記事で、現在アメリカ空母が核兵器を積んでいない事を認めて下さいました。この件は色々と活用できそうです。

冷戦時代にアメリカ海軍艦艇が核兵器を積み込んでいた事は今更な話ですし、海峡の件も公然の秘密という奴で、以前から言われていた事に過ぎません。第一、海峡通過を気にする以前に、横須賀は第七艦隊の艦艇が常駐しているわけで、この時点で当時から非核三原則は画餅に過ぎませんでした。

共同通信は今更なネタを使って過去の件でスクープだとしたいようですが、勢い余って現代の進行形の事象で自爆して下さるとは、日米の両政府に塩を送っているようなものでしょうね。
23時40分 | 固定リンク | Comment (75) | 報道 |
2009年06月01日
実は北朝鮮が二回目の核実験を行う一ヶ月半前に、既に逆神の誤神託はちゃんと出ていた事が分かりました。その内容は非常に力強い明確な断言で、この誤神託は強烈な神通力を有している事は間違いないものでした。

なんということだろう、ちゃんとチェックしておけば良かった・・・何処まで恐ろしいんだ、逆神・・・こういう大事な事は自身の公式サイトに載せて欲しかったですよ・・・流石にビデオニュース・ドットコムまではチェックの手が回りませんでした。

以下は動画より文字起こししたものです。


インタビューズ (2009年04月12日)
あの「飛翔体」騒動は一体何だったのか
軍事ジャーナリスト、田岡俊次氏・神浦元彰氏インタビュー

 神浦元彰氏(48分)
※33分18秒〜33分55秒

「例えば、北朝鮮がですね、核兵器の小型化。要するに、弾道ミサイル、ノドンに載せられるようなですね、1トン以下の大きさにする、小型化するというのは、恐らくしないと思います。その必要は無いんですよ。で、また、1トン以内のですね、小型化に成功した場合はですね、必ずですね、核実験によって検証しないといけないんです。本当に小型化が成功したかどうかって・・・これやってないんですよ。やろうともしていないんです。ね、ですから、北朝鮮が、小型化の、その〜弾頭を、開発したとか、配備したとか、っていうのは、100%嘘です。有り得ないです。」

※36分43秒〜37分03秒

「最初の話題に戻りますけど、あの〜、核兵器の、小型化というのは、北朝鮮は、その努力もしていないし、技術力も無いと。それから、それに小型化に必要な核実験もしていないと。という事が言えるので、恐らく・・いえ絶対に、ノドンにですね、積む事など不可能、到底不可能です。」


・・・「恐らくしないと思います」という言葉の時点で覚悟を決めなければならないのかもしれませんが、まだその時点では断言ではないのです。しかし「やってないんです。やろうともしていないんです」と北朝鮮のこれからの行動を断言するという、神浦さんの勝手な妄想が炸裂した時点で、これが未来予言と化し、誤神託として発動する事が運命付けられていたのです。「やってないんです」までなら過去の事実の提示ですが、「やろうともしていないんです」では未来の予測を指し示します。

そして5月25日、北朝鮮は二回目の核実験を強行・・・

もう一度、誤神託を読み解き、正しく解釈すると恐るべき事態が進行しつつある事が分かります。「北朝鮮は、核の小型化を達成し、1トン以下に収め、ノドンへの搭載を行っている」となります。何てことだ・・・もうノドンに核弾頭が搭載されている事は、確定事項として見なければなりません。既に我々は最悪の事態に直面していたのか・・・


実験成功時には核兵器の小型化も可能…南北の均衡崩れる恐れも:中央日報
北朝鮮の2回目の核実験で、韓半島における南北間の戦略バランスが崩れる可能性が指摘されている。一般的に2回目の核実験に成功すれば核兵器を本格生産できる技術的な基盤を持てるとみるためだ。2回目の核実験は核兵器小型化と質的な改善のためのテストだ。それで垂直的核拡散という。これに対し初めて核兵器に接する1回目の核実験は水平的核拡散という。

最近のケースを見ると、インドは1974年に1回目の核実験に続き、98年に2回目の核実験を実施した後、核兵器を小型化した。パキスタンも80年代半ばに核物質を抜いた核爆発装置の爆発実験を20回にわたり実施した。これを基に98年に本当の核実験を行った。パキスタンはこの際に核兵器を小型化した。2006年に続き2年ぶりに2回目の核実験を行った北朝鮮も同じプロセスを経るものとみられる。今回獲得した核データは核兵器の安定性と兵器としての信頼性を確保するのに重要な資料となる。

北朝鮮が25日に実施した核実験に成功したならば、今後弾道ミサイルに搭載できる重さ1トン以下の核弾頭を生産できるようになる見通しだ。北朝鮮はプルトニウム40キログラムを保有しており、小型化により10基以上の核弾頭を生産できるものと推定されている。北朝鮮が10基以上の核兵器を持つ中小型核保有国に変身する可能性が大きいということだ。中小核保有国は攻撃を受けた後に核で報復できる能力を持つ。


なお逆神・神浦元彰さんが躍起になって「ノドンは怖くない、搭載可能な小型核弾頭を開発したとか、配備したとか、100%嘘」とアピールしていたのは、3月31日に「北朝鮮が核の小型化に成功し、ノドンに搭載を行っている」という国際調査機関の報告書が上がっていたからです。


北朝鮮:核小型化に成功、「ノドン」搭載…国際調査機関:毎日新聞 2009年4月1日
【ジュネーブ澤田克己】安全保障問題を専門とする国際シンクタンク「国際危機グループ」(本部・ブリュッセル)は31日、北朝鮮が核爆弾の小型化に成功し、日本を射程に入れる中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程約1300キロ)用の核弾頭を配備した、との報告書を公表した。関係国政府の内部メモに基づく情報という。事実ならば日本にとって重大な脅威となる。

報告書はまた、ノドンの実戦配備数を最大320基と見積もった。韓国政府は北朝鮮が保有する核兵器数を6〜8個と推定しているが、うち何個が弾頭化されたかは不明だ。


神浦さんにとって、この報告書はよほど信じたくないものだったのでしょう。確かに一度きりの核実験、それも部分失敗だったのでは、まだ小型化に成功していないと判断するのは常識的なものだったのかもしれません。しかし、逆神が断言すれば世界に方向性が与えられてしまうのです。まだ見ぬ未来、不安定な要素を孕む事象に対し、逆神の絶対断言が飛び出せば、世界は必ず逆の方向に転ぶのです。

北朝鮮は二度目の核実験で、核の小型化を達成しました。

もうそれは覚悟せねばなりません。
00時01分 | 固定リンク | Comment (121) | 報道 |
2009年05月26日
凄い、神浦さんは凄い!

常人にはとても出来ない軍事解説、まさしく神の領域!逆神!

またしても北朝鮮核実験で誤神託を降されました!


北核実験・識者談話:時事通信
◇日本への脅威増大
 軍事評論家で拓殖大客員教授の江畑謙介さんの話 北朝鮮がこの時期に核実験を強行したのは、4月5日の長距離弾道ミサイル発射を非難した国連安全保障理事会の議長声明に対する、反発の意思表示と思われる。より強硬な態度を示して瀬戸際外交をさらに強めても、もはや失うものはないという判断だろう。2006年の最初の地下核実験は失敗だったという説が強いが、今回は発生した地震の規模が前回より大きく、成功した可能性がある。北朝鮮が弾道ミサイルに搭載できる核弾頭を持った恐れが強まり、日本にとっての脅威は大きく増大したといえるのではないか。
◇核実験偽装の可能性も
 軍事評論家の神浦元彰さんの話 本当に核実験かどうかは、米軍などによる大気測定の結果が出るまで約1週間かかるため、まだ分からない。核実験に必要な、放射能が地上に漏れないよう「ふた」をする工事や、測定用ケーブルの敷設をした形跡が確認されていない。地下の廃坑に大量の火薬を仕掛け、核実験を偽装した可能性も否定できない。核実験だったにせよ偽装にせよ、北朝鮮の行動は最近、説明がつかない。金正日総書記の判断力に問題が生じ、党と軍部が協調できなくなっている状況も考えられる。


日本最高権威の軍事評論家・江畑謙介と軍事界最高の神力を持つ逆神・神浦元彰の談話をこれ見よがしに並べるとは、時事通信、よくやってくれました。実に意義深い記事です・・・

>地下の廃坑に大量の火薬を仕掛け、核実験を偽装した可能性も否定できない。

ロシアの報道によれば今回の北朝鮮の核実験は10〜20キロトンの爆発力とされています。

核爆弾の20キロトンの爆発力とは、TNT火薬20キロトン相当を意味します。20キロトンとは2万トンを意味します。今回の逆神・神浦元彰の主張によれば、今回の北朝鮮の偽装核実験?は実に2万トンもの火薬を用意した事になるのですが・・・現実的にそんな大量の火薬を狭い坑道内部に用意して炸裂させるなんて、有り得ない話です・・・誤神託は実に恐ろしい。時事通信の記者は笑いを噛み殺していたに違いありません。

なお3年前の伝説はカテゴリ【逆神】神浦元彰をご覧下さい。
00時31分 | 固定リンク | Comment (158) | 報道 |
2009年05月22日
5月17日に放送されたTBSのサンデーモーニングで、岸井成格・毎日新聞特別編集委員が、ソマリア海賊対策で海上自衛隊のP-3Cがジブチに派遣される事について、非常に的外れな解説をしていました。



○岸井成格『特にあのー、P-3Cの所で、ちょっと気になるんですが、あれは、実際の任務って何があの飛行機の目的かと言うと、対潜哨戒機なんですよ。潜水艦の情報を得るっていうのが、あの飛行機の目的なんですよ、元々。いわゆる警戒でね、上空を飛ぶというのは全然違うんですよ、役割が。少なくともそういうものを派遣するってことは、次のステップを考えてるって事ですよね?』

○関口宏『何だろ、目加田さん』

○目加田説子 『なんか不気味ぃ、ですよねぇ・・・(以下略』


対潜哨戒機は潜水艦相手にだけ使うものじゃないんですけど、何を言ってるんだろうこの人達・・・ソマリア沖海賊対策で各国は対潜哨戒機を出していますけど、これらの国にも「海賊相手に対潜哨戒機を出すのはおかしい!何か裏がある筈だ!」とか馬鹿げた陰謀論を唱えたいわけですか? だったらフランスやスペイン、ドイツにも聞いてみて御覧なさい、「なんで海賊相手に対潜哨戒機を出すんですか」って。

アメリカ・・・P-3C×3機
スペイン・・・P-3C×1機
フランス・・・アトランティック×1機
ドイツ・・・P-3C×1機
日本・・・P-3C×2機

海上自衛隊のP-3Cが合流すれば、ジブチ展開の対潜哨戒機は全部で8機になります。なぜ各国が対潜哨戒機を出しているかというと「航続力が長く、長時間滞空して警戒でき、水上捜索力に優れ、通信能力が高いから」です。これに対抗できる存在は、広域海上監視システムを搭載した大型無人機くらいですが、まだ開発段階ですので投入できません。

対潜哨戒機は主任務が対潜水艦であるといっても、哨戒任務に関する事なら大抵の事はこなせます。もちろん対水上艦が相手でも使えますし、イギリス軍に至っては以前、ニムロッドMR.2対潜哨戒機をイラクとアフガニスタンに派遣していて、1機を事故で失っています。この事故の時の報道でマスコミはなんで対潜哨戒機が陸地奥深くのアフガニスタンで活動していたのか理解できなかったようで、中には「英軍の"偵察機"が墜落」といった見出しの記事さえありました。実はこのニムロッドMR.2はカナダのL-3ウェスカム社製「MX-15」EO/IRセンサーが搭載された改良型だったのです。MX-15は可視光カメラ、赤外線カメラ、レーザーレンジファインダー、レーザーイルミネーターを一つに纏めたシステムで、対水上目標でも対地上目標でもどちらの状況でも昼夜を問わず目標監視が可能です。各国の海軍、陸軍、空軍、沿岸警備隊などに採用され、固定翼機、ヘリコプター、無人機など種類を問わず搭載されています。レーザーイルミネーターはレーザー誘導ミサイルの誘導も可能なのでしょうが、それよりも受信カメラをレーザーの波長と同期させて目標を鮮明に映し出す目的のもので、夜間に船体に書かれた船名を読み取る事も可能です。センサー類の進化は陸上用と水上用の区別を無くしており、対潜哨戒機による陸上哨戒任務を可能としているのです。

別に岸井氏のような的外れな認識に備えてものではないのですが、実はもうとっくの昔に防衛省はP-3Cの事を「対潜哨戒機」とは呼ばずに、単に「哨戒機」あるいは「固定翼哨戒機」と呼ぶようにしています。防衛大綱や中期防衛力整備計画での文書で記述は、既にそうなっています。北朝鮮の不審船を一番最初に発見するのは、何時もP-3Cの仕事でした。能登半島沖では威嚇爆撃まで行っています。九州南西沖でも不審船を最初に見つけたのはP-3Cです。対潜哨戒任務だけでなく対水上哨戒任務も重要な役割であるとの認識から、P-3Cが対潜任務だけの機体ではない事を示す為に単に「哨戒機」と呼ぶようにしているのです。

元々、海上自衛隊のP-3Cには対水上艦攻撃用にハープーン対艦ミサイルとASM-1C対艦ミサイルがありますが、不審船対策としてマーベリック・ミサイルを新たに用意しています。FRP船や木造船はレーダー反射が小さい為、レーダー誘導の対艦ミサイルは外れやすいので、目標照準から終末誘導まで全てレーダーを使わない赤外線画像誘導式のマーベリックの方が向いています。また小型の船を相手に通常の対艦ミサイルでは威力が大き過ぎるというのもあります。とはいえマーベリックの弾頭重量はハープーンの半分強で135kgあるので、依然としてオーバーキル気味ですが・・・また、イザとなったら対地攻撃も出来るので離島警戒にも使えます。相手がスティンガーのような携帯式地対空ミサイルを持ち込んでいても、アウトレンジ出来ますから。

基本的に今回のソマリア海賊対策で派遣される海上自衛隊のP-3Cの任務では、マーベリック・ミサイルの出番はありません。あくまで洋上監視と情報伝達が任務です。ただし、独シュピーゲル誌によると海賊が23mm機関砲を入手したという情報があるので、もしそれが確認されれば必要となるかもしれません。
03時33分 | 固定リンク | Comment (213) | 報道 |
2009年05月09日
最近、産経新聞がMD関連記事で、月刊誌『選択』2007年12月号のMD批判記事と同じ間違いをしています。マスコミさんは学習能力無いのかな・・・いい加減、同じ間違いの指摘を行うのはウンザリなんですけど。


「ポストPAC3」急務:産経新聞 2009年5月5日
PAC3のライセンス生産は日米合意に至るまで曲折があった。日本側は生産設備を整え、自前で修理できる利点からライセンス生産を要求。防衛産業の技術基盤向上に寄与するとの判断も働いていた。最先端の技術譲渡に難色を示していた米側も容認姿勢に転じ、ミサイル防衛(MD)が日米同盟の深化の象徴であることを裏づけた。

ただ、「PAC3の次を検討することも急務」(防衛省幹部)。米国は約20年後を目標に、PAC3の後継となる中距離拡大防空システム(MEADS)をドイツやイタリアと共同開発しており、これが自衛隊の装備として適しているか疑問視されるからだ。

MEADSでは、地上部隊を防護するため、発射機などを縦横無尽に移動させる機動性に重きが置かれている。イラク戦争のような地上戦に生かすための能力向上とみられ、PAC3で政経中枢の拠点防護を想定した自衛隊の運用構想には、現時点でそれほどの機動性は求められていない。

ライセンス生産では、PAC3を含め装備品に占める国産化比率が低下傾向にある。防衛費も7年連続の減少で、防衛産業は苦境に陥っており、防衛生産基盤の維持は深刻な課題だ。PAC3の後継には、「陸上自衛隊の新中距離地対空誘導弾(新中SAM)のような純国産装備品の改良を図るべきだ」(自衛隊幹部)との指摘もある。


MEADSがPAC3の後継? いいえ、それは意味合いがまるで違います。なぜならMEADSの中味はPAC3なのですから。

分かりやすく説明します。MEADSは「パトリオット対空システム」の後継ですが、ミサイル本体はPAC3改良型のPAC3MSEをそのまま使います。このPAC3MSEはPAC3の直径を若干大型化したものですが、現行のパトリオット対空システムからでも勿論撃てます。MEADSがパトリオット対空システムと大きく異なるのは完全自走式であるかどうかの違いで、トレーラー牽引の可搬式(半固定)であるパトリオット対空システムと異なる点は其処で、MEADSは戦場で移動する味方野戦部隊の防空任務がより行い易くなっています。でも中のミサイルはパトリオットと同じ物を使っているんです。ただし大きなPAC2系は装填できず、PAC3系のみを装填可能です。

航空自衛隊が地対空ミサイルの後継をどうするか悩んでいるのはPAC3ではなく、PAC2の方です。PAC2とPAC3はまるで大きさが異なるミサイルで、射程も違い、対航空機用にはPAC2の方が適しています。自衛隊はPAC2の後継をPAC3としているのではありません。同じパトリオット対空システムから発射する2種類のミサイルは現在、役割分担されています。PAC3は配備したばかりなので取り合えずその後継を考える必要は当面ありませんが、問題は古くなったPAC2の方です。アメリカ軍は野戦防空にPAC2のような長射程は要らないと考え、PAC3系のミサイルを使用するMEADSで野戦防空システムを更新しようと考えています。しかし野戦防空ではなく拠点防空や都市防空を担当する航空自衛隊は高い移動能力・即応展開力は必要無く、PAC2の後継にMEADSを採用する意味が全く有りません。どうせ中味のミサイルは同じなのですから、現行のパトリオット対空システムのランチャーにPAC3MSEを装填すれば、移動能力以外はMEADSと迎撃性能に変わりは無いからです。

実は陸上自衛隊は日本独自に新開発した野戦防空システム「03式中距離地対空誘導弾(03式中SAM)」を配備済みです。産経記事中で「新中距離地対空誘導弾(新中SAM)」と呼ばれているもので、これはMEADS開発計画がアメリカ単独ではなくドイツ、イタリアといった欧州各国と共同開発されている兵器である為、MEADS計画に参入する事は多国間兵器共同開発となり、武器輸出禁止の問題に触れるため、日本はMEADS計画への参加を諦めた上で、完全自走式の野戦防空システムを一国で自力で作り上げました。ただし03式中SAMは対弾道ミサイルよりも対巡航ミサイルへの迎撃性能を重視した設計で、BMD(弾道ミサイル防衛)としては現状のままでは使えません。

ところで産経記事のMEADSを解説した部分で、「約20年後を目標に」ってどういう意味なのでしょうか? 実際のMEADSの配備開始予定は2012年で、3年後には始まる予定です。もしかして産経が言いたかったのは「20年以内に更新完了を目標に」という意味なのでしょうか? ちょっと書き方が変ですね。


今回の産経新聞記事でタイトルに「ポストPAC3急務」とあるのを見て、導入したばかりのミサイルで次のポスト急務もヘッタクレも無かろう、それともTHAADやSM-3地上型の話でもするのかな?と思いましたが、本文を読んで呆れるより他はありませんでした。

MEADSの中味がPAC3であることを理解していないし、ポスト急務なのはPAC3ではなくPAC2の方だし、03式中SAM(新中SAM)の開発経緯からいって自衛隊がMEADSを導入する事はあり得ません。「疑問視」というレベルの話ではなく、「検討すらされない」話です。

もし産経新聞が「ポストPAC2急務」というタイトルの記事で、S300Vやアロー・システム、THAADやSM-3地上型といったものを引き合いに出した上で新型国産云々を語るなら良かったのですが・・・それを行える人が居る様には見えません。
00時46分 | 固定リンク | Comment (54) | 報道 |
2009年04月06日
昨日の記事「テポドン2、衛星軌道投入に失敗か。時事通信は大誤報」でお伝えしたとおり、時事通信はインタファクス通信を引用する形で、ロシア外務省のネステレンコ情報局長が発言してもいない「北朝鮮は衛星を軌道に乗せた」「衛星の軌道は特定された」というコメントを捏造。また時事通信以外にも産経新聞などが同様の記事を書いた上、各TV局も今朝の報道番組で同様の内容を放送。あたかもロシアが北朝鮮のテポドン2による衛星打ち上げが成功したことを確認したかのようなデマ報道を流しました。

実際にはネステレンコ情報局長は「テポドン2は予告どおり東に向けて正常に飛翔した」と述べただけであり、ペイロードは人工衛星として打ち上げられた事は認めていても、衛星が地球周回軌道に乗ったかどうかについて一切言及しておらず、軍の専門家の情報分析結果を待つと述べていました。昨日の時点でロシア軍が把握していたのは、テポドン2の第一段ブースターが正常に作動し、東に向けて飛んでいった事だけです。

そして今日、ロシア軍の分析結果が出ました。


北朝鮮の衛星軌道投入、露軍高官も「失敗」:読売新聞
ロシア軍参謀本部の高官は6日、北朝鮮が地球を周回する軌道への「人工衛星」の投入に失敗したと述べた。

インターファクス通信が伝えた。

ロシア軍は北朝鮮の弾道ミサイル発射を監視していたが、この高官は「宇宙空間を監視する我々のシステムは北朝鮮の衛星を記録していない。軌道上に衛星はない」と説明した。


これまでに「ロシアは衛星が軌道に乗った事を確認した」と報じた日本マスコミは、ロシア外務省のネステレンコ情報局長に正式謝罪し、訂正報道を行うべきでしょう。それが行われない場合、今回のロシア軍参謀本部の見解とネステレンコ氏の発言(日本マスコミが捏造)が食い違い、ネステレンコ氏が嘘を言ったと誤解されてしまいます。ネステレンコ氏及びロシア国の名誉を回復する為に、日本マスコミは謝罪しなければなりません。デマの責任は時事通信だけにあるわけではありません。産経新聞、TV局なども同様のデマを流しており、それらのマスコミにも同じ責任があります。

テポドン2発射前日の日本政府の誤報をあれだけ叩いていたマスコミが、自身の重大な誤報には知らん振りをしているようでは、何の説得力もありません。そのようなダブルスタンダードは認められませんので、ロシアへの謝罪や訂正報道を行わないのでしたら、貴方達には日本政府の誤報を叩く資格は一切存在しない事を肝に銘じて下さい。

衛星軌道投入に失敗した北朝鮮の衛星を、事実と正反対の「軌道に乗った」と報道する事は、北朝鮮を利する行為であり、利敵行為です。日本国への裏切り行為と見なせます。またロシア側が言ってもいないことを捏造する行為は、ロシアに対する名誉毀損以外の何物でもないでしょう、嘘を吐いたのは日本マスコミなのに、訂正報道が行われなければロシアが嘘を吐いたと誤解されてしまいます。

各マスコミは責任を持ってロシアへの謝罪と訂正報道を行って下さい。
21時00分 | 固定リンク | Comment (159) | 報道 |