このカテゴリ「報道」の記事一覧です。(全135件、20件毎表示)

2008年06月25日
前回の記事「エムデンの艦載ヘリが海賊船を追い払ったわけではありません」で指摘した産経新聞の記事の問題点は2点です。

一つ目はエムデン号艦載ヘリの活躍を事実と違う、勝手な空想で語った事。
二つ目はエムデン号が海賊船を捕捉した時、臨検できなかった事を語らなかった事。

前回はヘリコプターの件を中心に語りましたので、今回は臨検についての話をします。話のインパクトとしては、勝手な空想を事実であるかのように語ったヘリの件のほうが強烈なのですが、新聞記事のあり方として考えると、事実を事実として語ろうとせず、恐らく故意に語ろうとしなかった臨検の件のほうが、本当は問題がより大きいと私は考えます。

エムデンの件は日本でもニュースで報じられています。毎日新聞も報じていますし、この件を論説記事として書いた新聞社は二つあります。一つは問題の産経記事ですが、もう一つは地方紙の京都新聞です。


五代目エムデン号:京都新聞 凡語[2008年04月26日]
▼「海賊取り締まりもできないのか」。批判はあっても現代ドイツの軍艦は軽々に動かない。二度の大戦の反省が生み出した制約は強固なのだろう。力ずくの米国流と、違うところだ


ドイツの体験を学ぶチャンスだったのに:中静の「日本国」を考える
日本だけがこれを適用しないのは、自衛権が明記されていない憲法の解釈によるためだ。それに伴い、海賊などに対処する「平時の自衛権」や「自国民侵害」対応がすっぽり抜け落ちてしまった。海自は海賊行為になすすべがないのである。


下の中静さんのブログの内容は、産経新聞の論説記事「【一筆多論】中静敬一郎 メルケル首相ありがとう」と同内容です。二つの記事は全国紙と地方紙の違いはありますが、保守寄りの産経新聞と革新寄りの京都新聞の違いを見て取る事が出来ます。それぞれの記事の主張の結論は、京都新聞はエムデンが海上臨検しなかった事を敢えて評価する内容です。産経新聞は海上自衛隊が臨検できるように法整備しようという内容です。

これだけなら保守と革新という政治思想の立場の違いに過ぎませんが、産経新聞には非常に奇怪な点があります。京都新聞が伝えている「エムデンが海賊船を臨検できなかった」という事実が、スッポリ抜け落ちているのです。「ドイツの経験を踏まえ、日独がどうするか」と言うのであれば、避けるどころか格好のテーマとなる筈なのに、産経は無視しました。

ドイツとて日本ほどではないにせよ法の制約があり、海賊を満足に取り締まる事が出来ないという事実があるにも関わらず、日本だけが手足を縛られているかのように語り、海賊相手になすすべがないと訴える。そして紹介するドイツの例は憲法改正、軍隊創設、非常事態導入、NATO域外派兵の話だけで、海上臨検行動が大きく制約されている事を語ろうとしない。

産経新聞のやり方は奇怪極まるものです。何故、エムデンが臨検できなかった事を隠す必要があったのでしょう。堂々と紹介した上で、「ドイツにも日本と同様の問題がある。共にどうするか考えていこう」と締めれば良いだけの話ではないですか。これこそが真の意味で「日独がどうするか」という話であって、エムデンが海賊船を臨検できなかった事は、議論の中心となるべき話の筈です。そうでなければエムデンの件を持ち出すのは著しく不自然です。

何故、産経新聞がこのような不思議な事をしたのか。それは恐らく、記事で主張したかった事は本当は「海上自衛隊も臨検行動すべし」ではなく(主張したかったとしても優先順位が低い為)、もっと大きな声で主張したかった事柄を邪魔しないようにした為だと思われます。それはきっと「ドイツにお礼を言おう」なのでしょうね。

エムデン号艦載ヘリの活躍を事実よりも著しく誇張して語った事は、読者の感謝の気持ちを増幅させる効果があります。エムデン号が海賊船を捕捉しながら臨検できなかった事を語らなかったのは、これを語ると感謝の気持ちが減少してしまうからです。

つまり産経新聞記事の二つの問題点はどちらも「ドイツにお礼を言おう」という目的に向かって突き進んだ煽り行為であり、それさえ達成できれば他の主張は犠牲にしてもよいという記事だったのです。そしてこの扇動目的は、相対的にお礼を言わなかった者への批判へと繋がります。別に政府批判をするのは構いません。マスコミは積極的に政府のやり方を批判しチェックするべきです。ですが、事実を捏造したり、事実を隠そうとしたり、卑怯な手段で読者を煽ろうとするのは言語道断です。

その意味で京都新聞のエムデンに関する記事は正々堂々としていました。執筆記者はエムデンの事を良く調べ、初代エムデンが第一次大戦で有名な活躍をした艦である事(初代エムデンの通商破壊戦は一種の冒険活劇として当時の新聞紙面を敵味方問わず賑わせた)、現在インド洋で展開している艦は5代目エムデンである事を紹介し、5代目エムデンが日本タンカー救援に駆けつけた事、海賊船を停船させながら自国の法の制約で臨検できなかった事を述べています。事実を憶測無しに伝え、その上で自らの主張を行っています。私は京都新聞の記事の主張は支持しませんが、記事そのものの姿勢は、産経の煽り記事などよりも真っ当なものであると評価します。

初代エムデンの事を詳しく説明した事は、非常に良かったと思います。初代エムデンは通商破壊戦で伝説を作った艦です。水上戦闘艦による通商破壊とは、言ってみれば国家が戦争で行う海賊行為です。その名を受け継ぐ5代目エムデンが、今は通称保護の為に活動し海賊船と対峙していた事は、この艦名の歴史的経緯を知ることで意義深い話として見ることができるでしょう。エムデンの名は、戦争を行った過去のドイツと、現在の国際秩序を担うドイツの変遷を象徴しています。
23時26分 | 固定リンク | Comment (138) | 報道 |

2008年06月23日
行き過ぎた誇張は捏造と変わらないのではないか。マスコミの常套手段ではありますが「また産経新聞か」というセリフを連発する羽目になるのはどういう事でしょうね?


【一筆多論】中静敬一郎 メルケル首相ありがとう:産経新聞
4月21日未明、日本郵船の15万dタンカー「高山」はイエメン・アデン沖の公海上で、海賊船に40分間追い回され、5発の対戦車ロケット砲を発射された。至近弾により船尾に直径20_の穴があき、あわやというそのとき、急行したのはドイツ駆逐艦「エムデン」だった。

エムデンが飛ばしたヘリコプターを見るや、海賊船は一目散に逃げた。日本人7人ら乗組員人は窮地を脱した。ドイツのメディアは大々的に報じた。


同内容は中静氏のブログ『中静の「日本国」を考える』の記事「ドイツの体験を学ぶチャンスだったのに」でも掲載されていますが、私はこの記述に違和感を感じました。

「エムデンが飛ばしたヘリコプターを見るや、海賊船は一目散に逃げた」

そのような事実は、初めて聞きました。私には楽天広場時代からの古い知り合いにドイツ在住の考古学者の方が居ますが、その方は当時(4/22)、こう書いていたからです。


インド洋の海賊 - アルタクセルクセスの王宮
日本の報道であまり触れられてないけど、タンカー発信するSOSを受けて、近くにいたドイツ海軍のフリゲート艦「エムデン」が、救出のためヘリコプターを派遣して現場海域に向かわせたそうだ(記事)。ヘリが到着したときには海賊船は逃げていた後らしいけど。


「ヘリが到着したときには海賊船は逃げていた後」

・・・中静さんの書き方とはかなりニュアンスが違います。ヘリが追い払ったわけではなく、ヘリが到着した時には既に逃げた後だったと。其処で私はartaxerxesさんにメールで詳しく確認を取りました。返信は以下の通りです。



 さてご質問の記事、記事リンクを日記本文中に示しておきましたが、その中では
“Als der Helikopter am Ort des Geschehens eintraf, warendie Piraten mit ihrem Schnellboot schongeflüchtet."
「ヘリが着いたとき、海賊はすでに逃げた後だった」とあります。ヘリを見て逃げたとは書いてありませんね。
 連邦軍広報官は「海賊抑止としては十分だった」と評価する一方、対テロ戦争という本来の活動とは違うが許容される範囲だ、とコメントしたそうです。


 同じ事件の別の記事ですが、
http://www.handelsblatt.com/News/Journal/Vermischtes/_pv/_p/204493/_t/ft/_b/1420348/default.aspx/deutsche-fregatte-vertreibt-piraten.html
 やはりヘリが到着した際に海賊は去った後のようです。ローター音くらいは聞いたのかもしれませんが、明言されていません。

 あと最後のところに、「ドイツ連邦軍の発表に対し、イエメン国営通信(SABA)は自国の沿岸警備隊が日本のタンカーを救ったと報じている」とあります。
 もしかしたらこの件は(実際に救った)ドイツがイエメンに花を持たせたのかもしれません。それに日本がお礼を言うのは野暮かもしれませんね。


中静敬一郎さん、もう私は飽き飽きですよ・・・前回のエントリ「産経新聞の野口裕之記者によるMLRSデマ報道」でも書きましたが、多くの読者は馬鹿だからこの程度の内容で煽っておいたら爆釣だ、と思っているならトンでもない思い上がりですよ?


それともう一つ、中静さんの記事では触れられていませんが、エムデンは容疑船を発見しますが、相手の同意を得られなかったので臨検が出来ませんでした。ドイツの法律はそうなっているからです。日本も海上臨検には多くの法制上の制約がありますが、ドイツにだってあるんです。その事に触れずに「ドイツの体験に学べ」ですって? もう何を言っているのやら・・・片手落ちに過ぎますよ。


タンカー襲撃:独海軍が容疑船発見も臨検できず:毎日新聞
独ポツダムの派遣軍司令部によると、エムデンは21日、高山からの通報でヘリ1機を派遣。ヘリ到着時には小型船の姿はなかったが、エムデンが武装集団とみられる貨物帆船とモーターボートを発見。この際、砲撃に使ったとみられる対戦車ロケット砲が船に装備されているのも確認したが、追跡は多国籍軍本部に委ねたという。


ドイツでも日本でも、海上臨検行動に関する法整備を整える必要があるでしょう。ところで、

「ジグザグ航行で逃げた」被弾のタンカー [産経新聞 4/21]

事件当時の記事で、産経新聞自身がエムデンについて一切触れておらず、タンカーが自力で逃げたと書いているわけですが・・・



>ヘリ到着時には小型船の姿はなかったが、エムデンが
>武装集団とみられる貨物帆船とモーターボートを発見。

つまりヘリはタンカー高山の所まで到着したが、海賊船は発見できてない。その後、エムデンが発見している。

ヘリから海賊船が見えず、海賊船からヘリが見えている状況なんて有り得ないので(対潜ヘリは捜索レーダーを積んでいる)、やっぱり海賊船はヘリを見てから逃げ出したわけでは無さそうだ。

というか逃走中の海賊船と出会ったら、ヘリは当然そのまま張り付いて追いかける筈だろ。

Posted by 名無しT72神信者 at 2008年06月24日 00:08:45


だよなぁ・・・

エムデンの艦載ヘリが現場に着いた時には、既に海賊船は去った後でした。ヘリはこの時、海賊船を発見できなかったわけです。それなのに「海賊船はヘリに気付いて逃げ去ったのだ」と主張する場合、ヘリは海賊船と触接していながら間抜けにも見逃した、と主張するのと同じです。産経新聞は「ドイツありがとう」と言いながら、すごく失礼な事を主張している事になります。中静さんはそんなつもりは無かったのでしょうけど、結果的にそうなります。

軍事的に見れば、対潜ヘリは対水上捜索レーダーやFLIR(赤外線前方監視装置)を積んでおり、対空レーダーを装備していないであろう海賊船がヘリを発見しておきながら、ヘリ側が海賊船を見逃す可能性はまず有り得ません。

ですからやはり、ヘリが着いた時は既に海賊船は現場から去った後だったのでしょう。
22時03分 | 固定リンク | Comment (128) | 報道 |
2008年06月09日
久々に朝日新聞が頓珍漢な軍事記事を載せました。清谷信一氏とタッグを組んで、新型戦車の批判を行っています。もうこの手の話はお腹一杯なのですが、大手全国紙が掲載した以上、影響は大きいので火消しは行っておいた方が良いのでしょうね。

先ずは第一面より。


日曜ナントカ学「世界の流れに逆らう戦車開発」|朝日新聞日曜版「be on Sunday」2008年6月8日
 陸上を走る乗り物で、つくるのに莫大なお金がかかるもの。
 そのひとつは戦車だろう。
 陸上自衛隊のいまの主力戦車「90式」は1両10億円前後。最新鋭の東海道・山陽新幹線N700系は約46億円するが、こちらは16両でのお値段だ。
 近代戦車は、敵の陣地を突破する新兵器として第一次世界大戦に登場した。英語でtank(タンク)というのは、英国で秘密裏に開発された時「水の運搬車(タンク)だ」と偽ったのが由来だという。
 登場から100年近い今年2月。防衛省は、次世代の「新戦車(TKX)」の試作車を公開した。
 戦車の技術開発はすでに頭打ちの感があり、どの国も新しい型の開発を見送っているなかでとのこと。各国の軍事関係者は色めき立った。
 前傾したくさび形の砲塔には120ミリの大型主砲。小型乗用車約10台分に相当する1200馬力の水冷エンジンは、約44トンの車体を時速70キロまで引っぱる。暗視装置や赤外線感知装置を積んで、闇夜や大雨で視界がきかなくても、たちどころに敵を見つけ出せる。
 兵器の研究や試作を行う防衛省の技術研究本部は02年、戦後4代目の「日の丸戦車」の開発を始めた。コンセプトは「小型軽量化」と「情報ネットワーク化」あし掛け7年の開発で、いまの90式より一回り小さくして重さも6トン軽くした。テロなど新たな敵にも備え、迅速に動ける。戦車同士や司令部間を情報ネットワークで結び、車内のディスプレーで情報を共有することもできる。
 IT化は世界の時流だが、軽量化は、対戦車ロケット弾などに備えて、装甲と言われる戦車を砲弾から守る金属板を厚くして重くなる一方の欧米とは逆の発想だ。それだけに国内外の評価は高いという。
 投入した金額も破格だ。開発費だけですでに484億円。量産化すれば、さらに1両あたり10億円近い費用がかかる。
 日本の戦車の価格は世界最高クラス。いまの90式でさえ、米国の主力戦車M1の約3倍。これがいま北海道を中心に約300両あり、旧式も含め全国に戦車は約900両ある(07年末)。再び高価な戦車を買い続けることになる可能性がある。
 英国の防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー特派員で、戦車に詳しい清谷信一さんは疑問を投げかける。
 「欧米は同じ車体の改良を重ねて性能アップするのが常識。冷戦後、どの国も新型開発を手控えている今、なぜ日本が先手をうつのか」
 世界の流れに逆らうような新型の戦車開発。そこには日本独自のお家事情があるようだ。

文・谷田邦一

2面にもう一つの話


先ず問いたいのですが、清谷氏も谷田記者も、どうしてロシアの新型戦車T-95の事を無視するのですか? ロシアは欧州じゃないとでも言う気なのでしょうか。それとイタリアが開発中の新型戦車アリエテMk.2が忘れ去られている気がしますが、これはまぁ構わないとして、ロシア軍の最新鋭戦車、無人砲塔のT-95は無視できるような存在では無い筈です。

ロシア新型戦車T-95、2009年に配備予定

ロシアが完全な新型戦車を欲した理由は「旧型改修戦車は新型戦車に敵わず、そして旧型改修戦車の大量保有は新型戦車の導入を遅らせる要因となり、結果的に陸軍の弱体化を招きかねない」というものです。

新型戦車の導入と近代化改修の是非

つまり「同じ車体の改良を重ねて性能アップするのが常識」という意見を真っ向から否定したのがロシアであり、その成果が新型戦車T-95なのです。日本のTK-Xが2010年から生産開始なのに対し、T-95は2009年からの生産を予定しています。予定は未定で決定ではありませんが、T-95がTK-Xとほぼ同時期に出現する事はほぼ間違いないでしょう。

現在、欧米と日本の中で、戦車を完全新規で自主開発生産できる国は、日米英独仏伊露の7ヵ国です。この内、日伊露の3ヵ国は新型戦車の開発を行い、米英独仏の4ヵ国は既存戦車の改修で済ませています。こうしてみると既存戦車の改修が世界の潮流というわけでも無い事が分かります。これに加えイスラエルや中国、韓国などの動向も含めると、世界の潮流は更に変わってきます。

>量産化すれば、さらに1両あたり10億円近い費用がかかる。

公開時の報道では「1両7億円」と紹介された筈ですが、10億円とはどういう事ですか、谷田記者。

陸自新型戦車TK−X公開

別に「7億円で収まるとは思えない、10億円くらいする筈だ」という主張ならば構いません。ですが防衛省側が7億円と想定していると伝えられているにも関わらず、7億円という数値を隠し、何の説明も無く10億円とだけ書いては、報道機関としての姿勢が問われると思います。

>日本の戦車の価格は世界最高クラス。いまの90式でさえ、米国の主力戦車M1の約3倍。

これはM1A1戦車が大量調達されていた最後の時期、つまり最も安くなっていた頃に1両あたり約250万ドル(当時のレートで約3億8千万円)で米軍に納入されていた場合と、90式戦車の調達当初の価格11億円(最も高い時期)とを比較したものです。90式戦車は量産効果が出た今現在では、1両あたり7億9千万円で調達されています。最も安い時期同士で比べれば大体、2倍の差です。M1戦車の平均調達価格は300〜400万ドル、90式戦車は9〜10億円ですから、平均で見ても2倍程度です。

なおM1A1戦車をM1A2SEPに改修した場合、改修費用だけで400万〜500万ドル、つまり5〜6億円以上掛かります。新造時の価格と併せれば約10億円掛かっています。M1A2SEPと同世代のドイツのレオパルト2A6戦車やフランスのルクレール戦車は1両10億円を超えているので、仮にTK-Xが防衛省の説明通り1両7億円で調達できた場合、日本の戦車の価格は同世代の中で最も安くなります。

それでも全体としてみれば90式戦車→TK-Xで計15億円の費用が掛かり、M1A1→M1A2SEPで計10億円なので、既存の戦車を改修した方が安く上がるのは確かです。ですが差は1.5倍と更に縮まり、しかもその場合、中古戦車の改良版と新造戦車とを比べる事になります。そして前述のとおり、ロシアは「既存戦車の改良型は新型戦車に敵わない」と評価を下しています。これは既存戦車の発展余裕性との兼ね合いや、戦略環境上の要求も絡んできますが、基本的に古い物の改修よりも全くの新型の方が性能が高い事は、ある意味当然の話です。


それでは第二面に移ります。


日曜ナントカ学2「改良思想なく、短い寿命」|朝日新聞日曜版「be on Sunday」2008年6月8日
 実は日本の戦車には、「改良」という発想がない。過去一度試みたことがあるが、コストがかかり過ぎて断念。日本の戦後3代の戦車はいずれもフルモデルチェンジだ。
 欧米の戦車の寿命は50年以上だが、日本は約30年と短い。英防衛専門誌特派員の清谷信一さんは「いまの車両の改良や延命を考えるべきではないか」と提案する。
 ところが「検討したものの改良は難しい」というのが防衛省側の言い分だ。
 技術研究本部の担当者は「特殊な装甲で、分解して改修後に組み立て直すと、費用がかさむ上に中途半端なものしかできない。費用対効果から見送った」と説明する。

 受注数7割減

 航空機や艦艇に比べ、日本の戦車は国産率が高い。世界トップクラスの工業技術を持った国でないと自前の戦車を作るのは難しい。部品も多く関連産業のすそ野は広い。
 一方で今、弾道ミサイル防衛の導入に押され、戦車などの陸上装備の予算は圧迫されている。戦車など戦闘車両の受注数は20年前の3割にまで激減した。受注激減のしわ寄せが「千社以上」と言われる国内下請けの関連業者に及んでいる。軍事評論家の福好昌治さんは新戦車の開発を「業者を保護するための公共事業的な意味合いでは」と見る。
 兵器としての戦車の位置づけは時代とともに大きく変わってきている。
 最初は銃弾や砲弾が飛び交う戦場で歩兵を支援する手段だった。その後、第二次世界大戦からは陸軍の主役になり、地上作戦は戦車を中心に組み立てられるようになる。
 旧ソ連の侵攻を想定していた90年代までは、日本にも約1200両あった。しかし、冷戦が終わり地上戦が起きる可能性が遠のくと、「時代遅れの兵器」と無用論さえ語られるようになった

 増える「強敵」

ところが01年の米同時多発テロ以降、市街地での対テロ・ゲリラ戦に備える手段として見直されるようになった。米軍は、イラクに多数の戦車を投入している。
 「現代戦には、一人で扱える携帯型の対戦車ロケット砲(RPG)のような強力な個人火器が登場するようになった。防御できるのは装甲が厚い戦車しかない」
 戦車に詳しく、陸上自衛隊の制服組トップの陸上幕僚長をつとめた富澤ひかる(日へんに軍)・東洋学園大客員教授は戦車の有用性をこう解説する。本格的な戦車戦がなくなっても、攻撃力や防御力、機動力をもつ戦車は島嶼作戦や市街地戦に活用できるという。
 陸自で長年、戦車の研究に取り組んできた赤谷信之・元富士学校機甲科部長も「強力な戦車をもっていることは、周辺国への抑止力になる」と強調する。
 しかし、一発で戦車をしとめる強力な対戦車ミサイルや、空中から高速で攻撃できる対戦車ヘリコプターの登場によって、戦車は多くの「強敵」を抱えるようになった。
 専門家の間でさえ、戦車の必要性をめぐり議論が分かれる時代だ。福好さんは新戦車について「まだ遅くない。開発だけにとどめ、技術研究の成果は残すが、量産化はしないという選択も一案ではないか」と指摘している。


今時になって「対戦車ミサイル」や「対戦車ヘリ」を理由とした戦車不要説を出してくるだなんて、何十年も周回遅れの話でしょう。対戦車ミサイル万能論から来る戦車不要論が幅を利かせていたのは30〜40年以上前の話で、今では廃れています。トップアタック兵器が増えてきた現在でも、それを理由とする戦車不要論の声はまだ小さいものです。(アメリカ軍は開発中の軽量戦車MCSに対戦車ミサイル迎撃用のアクティブ防護システムを積む予定)またむしろ対戦車ヘリについては近年の戦争で携行対空ミサイルなどの対空兵器に対する脆さが露呈し、イラク戦争では不用意に防空網に突っ込んだアパッチ30機が大損害を受けて撃退されたりと、評価を下げています。

なお「TK-Xは量産するな」と言っている軍事評論家の福好昌治さんとは一体どういう人なのか調べてみたら、こういう人でした。

自衛隊・ここまで暴露(バラ)せば殺される|著:福好昌治 あっぷる出版社

章タイトルだけでどのような中味か手に取るように分かりますね・・・

>日本の戦後3代の戦車はいずれもフルモデルチェンジだ。

74式戦車はマイナーチェンジ型のB,C,D,E,F,G型がそれぞれ存在していますし、90式戦車にもB型が存在します。74式G型が所謂「74式改」で、4両造ってテストしてみましたが費用対効果が悪く、90式戦車の新造が優先されています。61式戦車はマイナーチェンジが無く、スモークディスチャージャーが追加装備されたぐらいです。


全体的に見てこの記事の内容は、軍事ライターの清谷信一氏が普段から言っている事とあまり変わりがありません。本人もコメントしていますが、何時も通りロシア軍の新型戦車T-95に触れていないあたりはどうなのでしょうか。T-95は開発中止になるとでも思っているのでしょうか。


この記事を書いた朝日新聞の谷田邦一記者は、1999年4月から2001年3月までの2年間、防衛大学校の総合安全保障研究科(大学院、修士コース)を学んでいます。


防衛大学『留学』記
谷田邦一の略歴
1959年生まれ、早稲田大学政経学部卒
83年 産経新聞入社
90年 朝日新聞入社
91年 〜 東京本社社会部で防衛庁記者クラブに
常駐し防衛問題を担当
(海上自衛隊のペルシャ湾掃海作業、
カンボジアPKOなどを取材)
94年 〜 西部本社社会部 (朝鮮半島危機など取材)
96年 〜 那覇支局 (沖縄問題を取材)
97年 〜 東京本社社会部遊軍 (防衛問題担当)


総合的な安全保障の分野では、戦車の戦場における存在価値や各国戦車の動向などは教えないでしょうから、仕方が無いのかもしれませんが、ロシアの新型T-95戦車の存在くらいは把握して欲しかったと思います。
03時56分 | 固定リンク | Comment (242) | 報道 |
2008年05月29日
冗談のつもりで言ったのに、相手がそれを本気にして真面目に考え込んでしまうってことがありますよね。今回はそんなお話です。


米イージス艦:「オカーン」一部公開 灰色のベール、巨大“ハイテク艦” /高知:毎日jp
次に案内されたのは操舵(そうだ)室。広報官によると、最大速は時速30ノット(56キロ)以上。「フェラーリくらいの速度は出る」のだとか。速度は軍事秘密なのか、比喩(ひゆ)とも冗談ともつかない。


これは高知県の宿毛湾港に寄港した米海軍イージス艦「オカーン」のヘザー・ベンキー広報官と、取材に行った毎日新聞高知支局の千脇康平記者との問答です。

「フェラーリくらいの速度は出るよ」

冗談に決まってるじゃないですか・・・フェラーリって時速300kmくらい出ますよ、そんな速度が出せる船があったら見てみたいです・・・空でも飛ばない限り(WIG艇)、船はそのような速度は出せません。これ、軍事常識以前に一般常識なのでは?

「最大速は時速30ノット(56キロ)以上」

"以上"とあるので、この速度以上を出せるかもしれません。軍事機密とはここです。はっきりとしたスペックを表示せず、能力を隠しているわけです。

ただし、オカーン(アーレイ・バーク級駆逐艦)はそれまでの駆逐艦と違い、船体の長さに比べて幅が大きいという特徴があり、高速を出すのに向いていません。馬力や排水量は判明していますので、そこから船型を勘案すれば、30ノット以上といってもじゃあ35ノット出せるか、というと無理です。オカーンより排水量が軽く船体が細長い阿賀野級巡洋艦(太平洋戦争時の軍艦)が、オカーンと同じ10万馬力の出力で35ノットでした。だからオカーンに上乗せがあるとしてもプラス1〜2ノット程度の話で、"以上"とあるからといって「フェラーリくらいの速度が出せるよ」という冗談を真面目に考え込んでしまうのは、ちょっとアレです。

船体のL/B比とかの専門知識を知らなくても、船がフェラーリ並みの時速300kmも出せるわけが無い、これは冗談なんだな、と判断する思考回路くらいは、普通に持っていて欲しいものです。
18時45分 | 固定リンク | Comment (266) | 報道 |
2008年05月28日
これは酷い。


【断 潮匡人】スクープと称した勘違い:産経新聞
5月18日放送の「ザ・スクープSP」(テレビ朝日系列)で鳥越俊太郎キャスターが嘉手納基地の米F15戦闘機を解説した。

「ミサイルを8発積んでるんですけど全部、空対空なんです(中略)空中戦しかないんです。ということは日本でいま考えて空中戦をするような現実にあるかというと、中国も来ないでしょうし、北朝鮮だって、そんな立派なもの持ってないし、F15って結局何のためにあるかって言うと、アフガニスタンだとかイラクとか、そして将来のイランのためにあるんだ。そう考えると(中略)米軍って日本の安全のためにあるのかしらという疑問が頭の中をかすめる」


何処から突っ込めばいいの、コレ?

嘉手納基地のF-15C戦闘機が制空用で爆撃用じゃないことを理解していながら、こんな無茶苦茶な主張を・・・予め設定している結論に向かって無理矢理爆走する様子は、見ていて頭が痛いです。

>中国は来ないでしょうし

現実には中国軍の哨戒機や電子情報収集機が日本の防空識別圏に侵入してきたり、数年前には原潜が領海を侵犯したりと、中国軍は敵対的意識を持って日本までやって来てるんですけど・・・鳥越さん的には中国軍機に対するスクランブル発進とか、漢ちゃん(中国原潜の愛称)なんかは無かった事に?

それでも中国空軍の主力戦闘機がMiG-19だった時代なら「中国の戦闘機は日本までやって来れない」と言えたでしょうけれど、今や中国空軍には航続力の高いSu-27系列の大型戦闘機があり、空中給油機もあるので、物理的にやって来れます。もう昔のように存在自体を無視するような真似は出来なくなっています。

>北朝鮮だって、そんな立派なもの持ってないし

北朝鮮はMiG-29戦闘機だって持ってるのに、酷い言い草なのです。

MiG-29戦闘機(ファルクラム)(北朝鮮) - 日本周辺国の軍事兵器

5年前には米軍の偵察機相手に元気にスクランブル発進してきたのですよー。

あと最近、ロシア軍が日本領空を侵犯してるんですが、鳥越さん的には無視みたいですね。

>F15って結局何のためにあるかって言うと、アフガニスタンだとかイラクとか、そして将来のイランのためにあるんだ

17年前の湾岸戦争の時、嘉手納基地のF-15戦闘機はペルシャ湾には展開していません。あの時、湾岸に集結した制空部隊は米本土のF-15C戦闘機部隊でした。嘉手納の部隊は、湾岸戦争終結後のイラク南部監視飛行(サザンウォッチ)に数機程度を出していたくらいです。なおアフガン対テロ戦争やイラク戦争では「戦闘機同士の空中戦」自体が発生していないので、空中戦しか出来ないF-15Cは活躍できなかったのですよ。だから「米軍嘉手納基地のF-15は日本防衛用じゃなくて中東侵攻用だ」と言うのは、的外れなのです。

ところで、この手の人たちは「米軍嘉手納基地のF-15は台湾防衛用だ」と連想しないのは何ででしょうね。



冒頭の8発は最大搭載数で、通常は4発しか積まない。しかも米空軍のF15E(ストライク・イーグル)は爆装可能で対地攻撃作戦の主力。「空中戦しかない」わけではない。

E型は別というなら、さらに論旨不明だ。


この個所は潮匡人さんの鳥越さんに対するツッコミ部分なのですが、鳥越さんは「ザ・スクープSP」で嘉手納基地の米F-15戦闘機を解説したわけですから、C型(及びD型)限定の話であり、嘉手納基地には存在しないE型の話は鳥越さん的にはしてないと思います。つまり鳥越さんの主張は凄く論旨不明なんです・・・あとF-15は何時も何時もフル装備のAAM×8という装備をしているわけではないというのは確かなんですが、通常は4発ってわけでもないです。自衛隊の場合、スクランブル任務で中距離AAMを搭載しないのは、警告で接近する必要があるのでBVR(視界外)戦闘用のミサイルは使う機会が無い為です。平時のスクランブル任務だと短距離AAM×2の装備で行きます。

潮匡人さんの主張で私的に気になった個所は上記二点くらいです。それに比べて鳥越さんのアレな事といったら・・・
00時00分 | 固定リンク | Comment (108) | 報道 |
2008年05月19日
前回の記事の補足になります。コメント欄を読むまで自分もはっきりとは気付いていなかった事を纏めて見ました。

いちぎ-てき 0 【一義的】
>意味が一種類だけであるさま。一つの意味にしか解釈できないさま。一意的。

だいいち-ぎてき 1 【第一義的】
>まず第一に考えなければならないさま。根本的。

そして改めて「primary」の意味を調べてみると・・・

プライマリー 【primary】
>最初の。本来の。初歩の。第一位の。

つまり「primary」は「一義的」ではなく「第一義的」と訳したほうがより的確です。ですが「一義的」にも「第一義的」と同じ用法で使う場合があるので、どちらを取るかで解釈が違ってくるのです。(私は「第一義的」な意味で「一義的」を理解していました)


日本語Q&A 形容詞関連(3) [日本語Q&A
Q27 日本の商社で発電設備の海外輸出をしている日本人です。
昨今の会社経営上のリスクマネージメント強化によって、社内書類を書くこと(作成すること)が増えています。 そんな中で、契約上の責任の存在を言い表すときに「一義的」という言葉を多用するのですが、自分は今まで、 例えば「一義的な責任はA社にある」とすれば、「後にも先にも責任はA社にしかない」と思っていたのですが、社内管理部の方々は「順序的にまずはA社に責任はあるが、」と使用しているように感じます。

【質問】 
@ 本来の正しい意味。
A 最近の日本語では上記の例の後者のように使用することがあるのですか?


A  『一義的』の意味
(1) 1つの意義しかないこと
(2) 第1番の意義であること。一番重要な意義であること。

正直に申しまして、私は会社に勤めた経験がなくて 『一義的』という言葉を使うこともありません。
それで、お答えできるだけの知識がないのですが、 私見を述べさせていただきます。
「一義的な責任はA社にある。」の意味は、 『責任はA社にだけある』だと思います。根拠はなく、直感的にそう思うということです。

もし、「順序的にまずはA社に責任はある。」 という意味で使うなら、「第一義的な責任はA社にある。」という具合に 『第』をつけた方が良いかと思います。
しかし、こういう問題は、正しいか正しくないかではなくて 多くの人がどう思うかですね。
共通認識がなければ、言葉はその役割を果たせません。

[日本語調査結果(107)]をご覧下さい。


そして[日本語調査結果(107)]を見ると、正しく用法を理解している人が少なく、「一義的」と「第一義的」を上手く使い分けるのは難しそうです。この二つの言葉の意味の違いを理解している人が少ない以上、使う側が気をつけても意味が無く、「* この結果から見ても、『一義的』は使うべきでない言葉のように思います。」とコメントされています。

そこで前回の記事で紹介した、田岡俊次氏の発言を再掲します。


思いやり予算、そろそろやめませんか
田岡:アメリカが日本を守っているのではなくて、自衛隊が米軍を守ってきてあげたというのが本当のところだ。それで、1997年に日米防衛協力の指針を改定して、防空や日本周辺の船舶の保護に関しても、敵が上陸してきたときの阻止・撃退に関しても、英文では、自衛隊が“primary responsibility”、一義的責任を負うとはっきり書かれている。僕に言わせれば、何ら新しい規定ではなくて現実を追認したものだが、これはアメリカが何もしなくても違反にならないということになる。

この一義的責任という言葉は、日本の防衛協力の指針には入っておらず、「自衛隊が主体的に対処する」となっている。意味も全く違ってしまうので、一義的責任と訳すべきところだが、いかにも外務省的知恵でごまかしてしまった。

本当は、米軍は日本を守らないというのが97年の防衛協力の指針だ。


つまり田岡氏は“primary responsibility”の“primary”を、「一つの、唯一の意味」と理解しているようなのです。ですが前述のように“primary”とは「一番目の、最初の」という意味であり、「一義的」ではなく「第一義的」と訳したほうが的確です。その意味で外務省が“primary”を「主体的」と訳したのはむしろ悪くない翻訳で、特に間違っていません。

田岡氏が「一義的」の事を「第1番の意義であること」と理解しているのならそれで構いませんが、文章を読む限りそうではなく、「唯一の意味」としている事が見て取れます。これは英語の翻訳ミスもあるのですが、日本語の用法ミス、解釈ミスも重なっているのでしょう。確かに「唯一の」という意味で理解すれば「米軍は日本を守らない」事になりますが、実際には「日本が1番目、アメリカが2番目」の責任を持つと言う意味なのですから、“primary responsibility”という表現に特に問題はありません。

というか、自国の防衛を自国の軍隊が率先して行うのは当たり前の事じゃないですか? それなのに間違った曲解の挙句、「アメリカが何もしなくても違反にならない」「米軍は日本を守らない」と言い出すのは、あまりにも酷いアジテーションです。改訂された日米防衛協力の指針には、日本防衛に関するアメリカの役割がきちんと書かれており、田岡氏のような解釈は到底できるものではありません。
19時19分 | 固定リンク | Comment (100) | 報道 |
2008年05月17日
"元帥"こと田岡俊次氏が、何やらまたヤラかしちゃった模様。テーマは在日米軍への思いやり予算の批判で、それ自体は以前から田岡氏の持論だし何時も通りだなぁ、と思っていたのですが・・・内容をザッと読んで見てすぐに首を傾げるような記述に気付きました。・・・何だこりゃ?


思いやり予算、そろそろやめませんか
2008年5月14日 ビデオニュース・ドットコム
ゲスト:田岡俊次氏(軍事ジャーナリスト)

また、米軍に守ってもらっているからやむを得ない、と外務省の人は思っているが、在日米軍の中で日本を守っている部隊は一兵もいない。在日米軍の地上部隊は補助部隊を除くと2千人くらいなのに対し、自衛隊は15万人程度いる。戦車も自衛隊が900輌以上持っているのに対し、在日米軍は1輌も持っていない。航空機も自衛隊が373機持っていて、在日米軍は42機だ。このように日本が米軍に防衛を頼んでいるというのはおかしい。

むしろ、沖縄に米軍がいたのは日本を守るためではなく、冷戦中に米軍自身が安全だったからだ。


在日米軍は42機って・・・何言ってるんですか?
自衛隊が373機と書いてあるって事は、これは戦闘機(支援戦闘機を含む)の数の事ですよね。そうすると在日米軍の戦闘機の数は・・・

沖縄県嘉手納基地に米空軍のF-15が約50機。
青森県三沢基地に米空軍のF-16が約50機。
山口県岩国基地に米海兵隊のF/A-18とAV-8Bが約50機。
神奈川県厚木基地に米海軍のF/A-18が約50機。(空母艦載機)

細かい数値は覚えていないのですが大体これ位のはずです。全部で200機くらい居ますよね。例え海軍の艦載機はカウントしない、ハリアーは軽攻撃機だからカウントしない、そもそも海軍と海兵隊は全部無視という条件にしても、嘉手納と三沢に居る空軍戦闘機だけで約100機居ます。一体、42機という数値は何処から来たんでしょう。

42機という数値は最初はタイプミスか何かかと思いました。ですが5/13のJANJAN記事「米原子力空母配備反対、そもそも米軍は日本に不要」でも田岡氏の発言を引用する形で同じ事が書かれています。田岡氏のこの記事は元々、5月2日に収録されたビデオニュース・ドットコムのインターネット放送「マル激トーク・オン・ディマンド 第370回(2008年05月03日)」です。視聴は有料なので私自身は確認していないのですが、YahooコラムとJANJAN記事の両方で「42機」と紹介されていますので、二重チェック出来てる以上、実際に田岡氏が42機と発言した事はほぼ間違い無いようです。

どうも田岡氏は、嘉手納基地のF-15戦闘機だけ数えて、三沢基地のF-16戦闘機の事を忘れているようです。氏の展開している持論からすると、北海道へ即時投入出来る位置にある三沢基地の航空戦力の存在は邪魔かもしれませんが、現実にあるものを無視されても困りますよ・・・。

また、戦車の件ですが、在日米軍が戦車を配備せず纏まった陸戦兵力を日本に張り付けていない理由は、日本が「島国だから」の一言で大体説明が出来ます。例えばイギリスに駐留している在英米軍も、主に航空戦力のみで機甲戦力は配備されていません。日本やイギリスのような島国に対して上陸作戦を仕掛けるには侵攻側も多大な準備が必要であり、上陸作戦そのものも難しく、その後の補給線維持も労力が要ります。つまり地続きの相手国を電撃戦によって一瞬で屈服させるような真似は出来ないのです。つまり島国の防衛は時間的な余裕が生まれます。米軍の展開速度ならば相手が動き出してから増援を送っても間に合うと計算できれば、日本やイギリスのような島国に大規模地上戦力は置かず、その分の戦力をドイツや韓国のような地続きの最前線に張り付かせる方が、遊兵を少なくできて効率が良いのです。在日米軍の戦力構成は日本防衛に適していない(陸上戦力)という指摘は、それはある意味当然の話で、日本防衛用・救援用戦力はハワイ駐留の陸軍師団が担うからです。沖縄の海兵隊は、台湾有事や朝鮮半島へ対処する役割を担っています。

航空戦力については、嘉手納にF-15を置き三沢にF-16を置いている理由を、両戦闘機のスペックから理解できると思います。F-15は制空用で航続力が長い。F-16は戦闘爆撃機であり、航続力は(F-15に比べて)短い。つまり台湾有事や沖縄島嶼戦ならば爆撃任務は殆ど無いので、制空専用のF-15が向いています。台湾上空で制空任務を行う可能性も考えると、脚は長い方が良い。一方F-16は、北海道にソ連軍が上陸した後に爆撃で叩きに行けます。航続力については三沢からなら北海道は近いので、F-16でも十分です。また三沢は朝鮮半島有事にも対処しやすいです。厚木の海軍機は横須賀の空母に、岩国の海兵隊機(AV-8B)は佐世保の強襲揚陸艦に搭載する関係上、便利なように位置的に近い場所へ配備されています。こうして見ると航空戦力は適切な配置が為されており、北海道防衛が疎かにされているようには見えません。



田岡:アメリカが日本を守っているのではなくて、自衛隊が米軍を守ってきてあげたというのが本当のところだ。それで、1997年に日米防衛協力の指針を改定して、防空や日本周辺の船舶の保護に関しても、敵が上陸してきたときの阻止・撃退に関しても、英文では、自衛隊が“primary responsibility”、一義的責任を負うとはっきり書かれている。僕に言わせれば、何ら新しい規定ではなくて現実を追認したものだが、これはアメリカが何もしなくても違反にならないということになる。

この一義的責任という言葉は、日本の防衛協力の指針には入っておらず、「自衛隊が主体的に対処する」となっている。意味も全く違ってしまうので、一義的責任と訳すべきところだが、いかにも外務省的知恵でごまかしてしまった。

本当は、米軍は日本を守らないというのが97年の防衛協力の指針だ。


自衛隊が一義的責任を負うのは当たり前の話です。もし在日米軍が日本防衛の一義的責任を負うのであれば、自衛隊の作戦指揮権を在日米軍が握る事になります。例えば韓国軍は戦時下において自動的にアメリカ軍の指揮下に入ります。ドイツ軍はNATO指揮下に入ります。まさしく米軍との一体化ですが、田岡氏はそれをお望みなのでしょうか。韓国はアメリカから作戦指揮権を返して貰う方針ですが、返却後は韓国防衛の一義的責任も、同時に韓国に帰って来ます。



また、台頭する中国や暴発の危険をはらんだ北朝鮮の脅威に対応するためには在日米軍が必要との主張に対しても、実態を見れば、朝鮮半島から徐々に米軍は引き上げており、米国が、中国や北朝鮮、ロシアなどをもはや重大な脅威とはみなしていない事は明らかだ。むしろ、日本が気前よく思いやり予算などを払ってくれるので、米国は経費削減目的で軍隊を日本に駐留をさせているのが実態なのだと、田岡氏は怒る。


在韓米軍や在日米軍はこれから削減されますが、それは「米国が中国や北朝鮮、ロシアなどを重大な脅威とはみなしていない」という結論には結び付きません。アメリカ軍は世界規模のトランスフォーメーション(米軍再編)を行っている最中です。この構想は前線張り付け部隊を減らしますが、即応展開能力の著しい向上を狙っており、前線から部隊を引き上げていることが敵国の脅威が減った事を意味するわけではありません。

どうも田岡氏は、自分の願望を勝手に事実と認定しているように見受けられます。思いやり予算への批判自体は大いにすべきだと思うのですが、在日米軍など必要無いという主張は、最低でもこの地域の大きな火種である朝鮮半島と台湾海峡が完全に解決した後でないと現実的に実行できるものではない、議論以前の段階だと思います。
08時06分 | 固定リンク | Comment (90) | 報道 |
2008年04月25日
実は4/7に書いた記事「月刊誌『FACTA』ロシア軍批判記事について」を受けて、FACTA編集部から「会って話がしたい」と連絡がありました。最初は直接編集部からではなく、編集部外の澁川修一氏(以前、タカラ「ギコ猫」騒動の時に論文を書かれた方)を介しての連絡でした。というよりFACTA編集部と付き合いのある渋川氏が、当ブログの記事を編集部に紹介した事が始まりです。渋川氏はFACTAを定期購読しており、問題の記事を読んで「いくらなんでもこれはないだろう」と感じたそうで、その後に当ブログの記事を読んで、渋川氏自らの懸念と供に私の記事のURLも添えて編集部に伝えられたそうです。これが4/9で、私の返信は「何を目的に話すのか説明も無くただ会いたいと言われても応じられない」「事実確認ならメールやブログ記事のやり取りで事足りるのではないか」としました。その後、4/12に渋川氏から再度連絡があり、少し日は開くが正式な連絡で取材理由が説明されるので、それまで待って欲しいとのことでした。

そして4/23に、FACTA編集部の高山さんという方から正式な取材依頼が私の所に来ました。FACTA記事と記事の筆者であるゴードン・トーマス氏に対する意見を聞きたい、という内容でした。しかし返事を書く前に、FACTA編集長の阿部重夫氏のブログでこの事が取上げられています。


阿部重夫編集長ブログ:FACTA online(2008年04月24日)
ロシアの魂とは何かについて、私には何もわからない……

〜中略〜

が、世の中には日々研鑽を積んでいる人々がいて、そのサイトのひとつ「週刊オブイェクト」で弊誌のロシアの兵器に関する記事が批判されているらしい。このサイト、兵器愛好家の筆になるものらしく、どこにでも目利きは存在するのだと感心した。FACTAとしては、誤報というご指摘は歓迎する。

編集長が全知全能ではないように、弊誌もまた全能ではない。どこかに誤報がまじる可能性は常に意識している。メディアは情報の非対称性に派生する。それゆえ誤報は正確な情報のシーズになる。だから、誤報とのご指摘には、根拠とその情報源をご教示いただくようお願い申し上げます。

すでにこのサイトの筆者にお会いする機会を与えていただくよう申し入れているところです。もし、ご快諾いただけるようなら、このサイトでインタビューを収録したいと思います。


誤報であるという指摘の根拠と情報源は4/7の記事で既に示しています。というか、ロシアが中国に武器を売っているのであって、ロシアが中国から武器を買ってなどいない、という事実は別段兵器に詳しくなくても一般常識レベルの範疇ですし、「大半の兵器製造年は40年前に遡る」という指摘に対しても、ロシアの主力兵器の殆どはそれより新しいものであることを根拠を付けて示しました。故にこれについて新たに話す事はあまり無いので、もし細部について知りたいのであれば幾つか質問を出してそれに答えるという形ですぐに終わります。メールでもコメント欄でも簡単に済む話です。

それよりも私の関心は、この誤報がどの段階で形成されたかに興味があります。当初は記事の執筆者のゴードン・トーマス氏がある程度マトモな方だと判断していたので、記事がおかしくなったのはMI6(正式名称SIS)の報告書自体がおかしい可能性を考えましたが、流石にイギリスの情報機関がロシアと中国の武器取引関係を勘違いする事は有り得ないので、英文の和訳ミスの可能性も考えました。しかし4/17の記事「FACTA寄稿のゴードン・トーマス氏はトンでも記者だった?」にあるとおり、記事執筆者自身の信憑性自体が疑わしくなっています。しかし私はゴードン・トーマス氏自身について特に詳しいわけではありませんので、ゴードン・トーマス氏について何か語れるというわけでありません。ですが、日本語記事の元となった英文記事を読めば、記事自体がおかしいのか翻訳ミスなのか判断できます。

4/17に既に書きましたが、FACTA編集部と阿部重夫編集長にお願いしたいのですが、ゴードン・トーマス氏の記事「ロシア軍はポンコツだらけ 領空侵犯飛行もハッタリか」の和訳前の英文記事を公開して欲しいのです。私相手に取材するよりも先に、この作業をお願いします。私はゴードン・トーマス氏の記事にあるMI6(正式名称SIS;Secret Intelligence Service)の「ロシア軍最新リポート」なるものが本当に実在するかどうかに注目しています。イーロン・アッシャー氏がGCHQ(Government Communications Headquarters)に問い合わせたように、ゴードン・トーマス氏が記事で書いたような内容の報告書が本当に実在するかどうか、SISに直接問い合わせるべきだと思います。またゴードン・トーマス氏の英文記事の内容次第によっては、SISに問い合わせるまでもなく「おかしい」と判断できるかもしれません。それはある程度の軍事知識を持っていれば、誰にでも評価が可能です。

ゴードン・トーマス氏の英文記事を示して貰えれば、FACTA記事がなぜ誤報となってしまったのか原因が分かります。SISのリポートがおかしいのか、ゴードン・トーマス氏がおかしいのか、FACTA編集部の翻訳ミスなのか、あるいはそれら幾つかの要因の複合なのか(この可能性が高い)、これを検証するには英文記事が無ければなんとも言えません。先ずその英文記事を示して頂きたいのです。
01時03分 | 固定リンク | Comment (89) | 報道 |
2008年04月17日
以前に紹介したFACTA記事「ロシア軍はポンコツだらけ 領空侵犯飛行もハッタリか」を執筆したゴードン・トーマス氏ですが、当初はそれなりにマトモな方だと判断していたのですが、どうやら違っていたようです。



ゴードン・トーマス氏 Mr Gordon Thomas:講師ご紹介:FACTAフォーラム
Gordon Thomas - Wikipedia

この辺りを見る限り、著名な方であることは確かなのですが、アメリカ在住のバグってハニーさんの指摘によると、「イギリス版ノビー(落合信彦)じゃないか?」との指摘がありました。


バグってハニー in 「軍事板常見問題 mixi支隊」
39865478.jpg


ゴードン・トーマス氏の名前どっかで見かけたなあと思ったらやっとわかった。

チベットFAQの所沢さんのNo.12の投稿。人民解放軍がチベット僧に変装して暴動を仕込んだことをGCHQ(政府通信本部、英国の諜報機関)が偵察衛星で確認したという記事を書いたのもこのトーマス氏ですよ。それでこの記事に思わせぶりな写真(上掲)をくっつけたのがブログ界をにぎわせることになったのですが、もちろん、この写真は2008年の暴動とは関係ありません。参照:
http://www21.tok2.com/home/tokorozawa/faq/faq18m02r.html#11067

それで、このトーマス氏の記事とそれに組み合わせられた写真を検証したイーロン・アッシャー(Ehron Asher)というチベット仏教徒でもある個人ブロガーのエントリをみつけました。
http://people.tribe.net/thinkpossible/blog/b019e6d5-f576-4a04-9106-f0d73070e5f1

どうもイーロンによるとトーマス氏はトンデモ自称諜報専門家みたいですねえ。まず、メインストリームメディアには一切寄稿していない。Canada Free PressとかWorld Net Daily’s G2 Bulletinとか聞いたことないのばかり(あとFACTAね)。特に問題なのがAmerican Free Pressで、イーロンによるとこれは反ユダヤ/ネオナチのメディアなんだそうです。私が調べた限りでも、トーマス氏はその著作でダイアナ妃の事故死にモサドが絡んでいるとか他にも電波飛ばしてるみたいですね。

それで、イーロンは気合が入っていてこの件でGCHQに問い合わせております。GCHQ広報担当者アラン・トンプソン(Alan Thompson)氏の回答がふるっているので、下に転載しておきます。

"Thank you for your email. It is GCHQ’s long-standing policy to respond that we are able to neither confirm nor deny in respect to enquiries on intelligence matters. I would simply add that I am not aware of Gordon Thomas making any approach to GCHQ prior to publishing on this subject; such an approach would invariably be directed through the Press Office. I hope that is of some help."
お問い合わせありがとうございます。残念ながら、GCHQでは諜報に関するあらゆるお問い合わせには肯定も否定もしないという姿勢を堅持しておりますので、ご質問には直接お答えすることができません。しかし、ゴードン・トーマス氏に関しては一言申し添えておきます。メディアからの取材はすべて広報担当を通して行われることになっているのですが、私の知る限りトーマス氏が当該記事に関してGCHQに接触したという事実はありません。私どもの回答が微力ながら一助となりますことを切に願っております。
−−−

英語らしくないまどろっこしい表現ですが、婉曲的にトーマス氏はGCHQの名をかたって記事を捏造していると主張しているようにも私には読めますねえ。「GHCQによると」とか「MI6の報告書によると」とか、なんかノビィ節を炸裂させているだけのような気がしてきました。


って事はアレですか、「そもそもMI6(正式名称はSIS)の報告書など存在していなかった」可能性もあるわけですか。GCHQ(Government Communications Headquarters)についての記事は捏造だそうですから。・・・FACTA記事は根本から間違っている恐れが出てきたのか・・・ゴードン・トーマス氏のFACTA記事の元の英文を確認して、SISに問い合わせた方が良いかもしれません。ただ、その英文記事は見当たりません。FACTA編集部が持っているなら、それを公開して貰いたい所です。
21時21分 | 固定リンク | Comment (23) | 報道 |
2008年04月07日
「FACTA(ファクタ)」という予約購読制の月刊経済紙が、ロシア軍について出鱈目な記事を書き散らし、あっさりそれを真に受けた人も居るようなので(この方)、この場に置いて訂正を入れる事にします。

それにしても『選択』*といい『エルネオス』*といい、予約購読制の経済紙というものは軒並みこの程度のレベルなんでしょうか。

さて、その問題のFACTAの記事なんですが、内容の尽くが間違いです。記事を書いた記者は、諜報関係に強い著名なノンフィクション作家のゴードン・トーマス氏ですが、ネタ元のMI6の報告書が駄目駄目なのと、編集部の翻訳ミスで大変に程度の低い記事になってしまっています。


ロシア軍はポンコツだらけ 領空侵犯飛行もハッタリか (FACTA 2008年4月号)
英対外諜報機関MI6は、ロシア軍に関する最新リポートの中で、同軍はプーチン大統領が自慢するほどの武力を持ち合わせていないと断定した。100万人強の兵を擁し、中国、米国などに続く世界第5位の規模だが、その実力はもはや冷戦時代のような脅威ではないという。その理由は、第一に刷新すべき旧式の武器が使用されていること。実際、大半の兵器製造年は40年前に遡り、一部の野砲に至っては第二次大戦末期にベルリンを包囲した旧ソ連赤軍が用いた122ミリ榴弾砲のままで、改良されていないのだ。

金属性のヘルメットも、ロシア軍兵士がベルリン包囲の際にかぶっていたもので、デザインはスターリングラードの攻防戦当時のままという。かつて人気の高かった旧ソ連製ドラグノフ(SVD)狙撃銃は44年前に製造されたもので、英国軍兵士が現在、携行している狙撃銃に及びもつかない。また、91年には1389基あった大陸間ミサイルも489基に減少。さらに空母も25年前に就役したもので、随分前から改装すべき状態にあったという。

電子機器や無人機、大砲などの兵器輸入を頼る中国も、自国の優位を保つために最新鋭兵器をやすやすとロシアに手渡すはずがない。中国への武器依存が、ロシア軍需産業を危機に陥れているのは確かであり、MI6は「凋落の一途」と指摘している。


あらゆる箇所で間違いがあり、何処からツッコミを入れたらよいのやら悩む所なんですが、最も決定的に間違っている箇所は、MI6の報告書を引用した中での最後の部分です。



電子機器や無人機、大砲などの兵器輸入を頼る中国も、自国の優位を保つために最新鋭兵器をやすやすとロシアに手渡すはずがない。中国への武器依存が、ロシア軍需産業を危機に陥れているのは確かであり、MI6は「凋落の一途」と指摘している。


中国から兵器を手渡して貰わなければならないほど、ロシアは落ちぶれちゃいませんよ。というか逆でしょう、中国はロシアから兵器を購入しているが、ロシアは自国の優位を保つ為に最新兵器を中国に渡していないのです。

流石にMI6がロシアと中国の関係を取り違えるような、馬鹿な報告書を書くはずが有りません。ゴードン・トーマス氏もこの程度の事を理解できない筈が無い。つまりFACTA編集部が致命的な翻訳ミスをしたものと思われます。翻訳云々以前に、FACTA編集部はロシアと中国の基本的な関係すら知らなかったのでしょうか。もう何もかも手遅れな気がします・・・



実際、大半の兵器製造年は40年前に遡り、一部の野砲に至っては第二次大戦末期にベルリンを包囲した旧ソ連赤軍が用いた122ミリ榴弾砲のままで、改良されていないのだ。


大半の兵器が40年前の製造年? 酷い嘘だ、ロシア軍は名誉毀損で訴えても良い位です。これは全くの出鱈目。ロシア軍の多くの兵器はもっと後に生産された物ばかりです。数字上の主力戦車はT-72ですが、最も古い車両でも30年前の生産です。主力戦闘機のMiG-29やSu-27も配備開始から20年ちょっとですし、防空軍のMiG-31にしても量産開始は約30年前、主力攻撃機のSu-24も初飛行からまだ40年経っていないのです。海軍の駆逐艦や潜水艦にしても、艦齢40年だなんて老朽艦は稼動していない筈。第一、そんな古い潜水艦は潜望鏡深度ですら浸水しかねないです。

牽引式の122mm榴弾砲にしても、大戦型の古いタイプは幾らなんでも使っておらず、戦後に開発された「D-30」「D-74」が配備されている筈です。



金属性のヘルメットも、ロシア軍兵士がベルリン包囲の際にかぶっていたもので、デザインはスターリングラードの攻防戦当時のままという。


ケブラー製のヘルメットが登場している事は無視ですかそうですか。



かつて人気の高かった旧ソ連製ドラグノフ(SVD)狙撃銃は44年前に製造されたもので、英国軍兵士が現在、携行している狙撃銃に及びもつかない。


なんで歩兵の主力武装であるアサルトライフルの話をせずに、狙撃ライフル限定なんだろう・・・ああそうか、イギリス野郎は自国の欠陥ライフルSA80(L85)の話は棚に上げたいんですね。もうロシア軍はこの部分だけでMI6の報告書をせせら笑っていいです。

それにロシア軍はセミオートのドラグノフでは精度向上が望めない為、ボルトアクションのSV-98という新型狙撃ライフルを新たに採用しています。イギリス軍の狙撃ライフルL96A1もボルトアクションなのですから、比べるべきなのはSV-98の方でしょう。

SV-98:HyperArms
L96A1:HyperArms

両者の性能は伯仲しているか、むしろ後から登場してきたSV-98の方が優秀かもしれません。



また、91年には1389基あった大陸間ミサイルも489基に減少。


それはアメリカと話し合って一緒に核軍縮した結果でしょ? 



さらに空母も25年前に就役したもので、随分前から改装すべき状態にあったという。


2006年から2007年までドックに入ってましたが何か?
そして今では元気一杯に行動しているわけですが何か。

ロシア空母「アドミラル・クズネツォフ」特設報道部

・・・すみません、これ本当にMI6の報告書なんですか? まるで素人が書いたかのような報告書なんですが。ちょっとねぇ・・・

MI6報告書以外の部分では、軍事アナリストのルキヤノフ氏が「ロシアは向こう5〜7年のうちに中国に対抗できなくなる」と警告を発していると書かれていますが、これは言ってしまえば危機感を煽って軍事予算を確保する為の方便です。将来には実際の大きな脅威と成り得るでしょうが、5〜7年は少し期間が短すぎて現実味が無いでしょう。

そして最後の記事の締めに一言だけ。確かにTu-95は旧式爆撃機ですが、同年代のアメリカ軍のB-52爆撃機だって今も立派に現役なのですよ。B-52は、なんと2045年まで使用されるそうです。初飛行は1952年なんですけどね。
23時50分 | 固定リンク | Comment (203) | 報道 |
2008年03月28日
昨日のエントリーの続きになります。「丸」の清谷信一氏の写真記事「スパニッシュ“レオパルド”2E IDEX2007」の3ページ目の解説文に、更に間違いが発見されたということで、改めて調べ直してきました。・・・これにより清谷氏の記事のこのページは、技術的な解説部分での正しい個所が何も無くなってしまいました。


ユーロパワーパック?
パワーパックはユーロパックと呼ばれるMTU社のMB873Ka501、12気筒1500馬力のディーゼルエンジンとレンク社のトランスミッションHSWL354の組み合わせで、現在MBT用として最も評価の高いパワーパックである。(「丸」2007年6月号より引用)


レオパルト2Eのパワーパック(MB873Ka501+HSWL354)は、ユーロパワーパックではありません。レオパルト2Eは従来型のパワーパックを採用しています。ユーロパワーパックとはMTU社のMT883エンジンと、Renk社の自動変速トランスミッションHSWL295TMの組み合わせを指します。

EuroPowerPack - Wikipedia

MTU社のエンジン、MB873Ka501はレオパルト2シリーズ初期から搭載されている古いエンジンの系列で、元はアメリカ・ドイツ共同開発戦車のMBT70(Kpz.70)の為に開発されていたものです。つまり基本設計は40年も前のもので、MBT70計画が中止にされた後、MB873エンジンはレオパルト2に転用されました。

MB873は総排気量47700cc、重量2.3トンです。これに対し新型のMT883エンジンは総排気量27400cc、重量1.7トンとなっており、馬力は同等以上のまま小型軽量化されています。また、ユーロパワーパックはエンジンと変速機の配置を工夫しスリム化させ、エンジンが小さくなったこと以上にパワーパック全体の大きさをコンパクトに纏め、従来の組み合わせ(MB873+HSWL354)と比べユーロパワーパック(MT883+HSWL295)は40%小型化を果たし、エンジンルームは前後で1mも余裕が生まれています。
20時53分 | 固定リンク | Comment (46) | 報道 |
2008年03月27日
「丸」2007年6月号に掲載された、軍事ライター清谷信一氏の写真記事「スパニッシュ“レオパルド”2E IDEX2007」の説明文におかしな記述があると、「TK-Xのハッチと装甲について」のコメント欄で指摘を受けたので、実際に丸の該当号を入手して確認し、纏めて見ました。なお写真はクリックで拡大できます。

【問題の記事】
「丸」2007年6月号IDEX2007清谷信一レポート3ページ目

記事はアラブ首長国連邦の首都アブダビで開かれた国際兵器見本市IDEX2007に出展された、スペイン軍向けレオパルト2Eを取り上げたもので、全4ページの中で3ページ目が問題の部分です。


レオパルト2E(×字物体の正解はグローサ)

砲塔後方の装備収納スペースには、横2列にモジュール型装甲が並べられて貼り付けられている。これはRPGなどを想定した装甲で、表面が×字型の凸になっているのは重量軽減のためである。(「丸」2007年6月号より引用)


砲塔後部側面と砲塔後部にびっしりと貼り付けられた×字型の物体が見えます。しかしこれは装甲ではなく、冬季の凍結路面で使用する着脱式のグローサ(grouser)です。グローサとは履帯表面の突起のことで、突起が大きければ泥濘地を掻き分けて進む時や凍結路面で食い込ませてスリップを防ぐ時に効果が得られます。しかし大きすぎれば舗装路や固い土の上では邪魔になるので、舗装路では着脱式ゴムパッドを装着したりと、状況に応じて付け替えて対応します。

レオパルト2A4

レオパルト2A4以前ではグローサを車体前面に装着していました。上の写真のA4型では車体前部中央に予備履帯を、その左右に着脱式グローサを装着しています。この車両は履帯に着脱式ゴムパッドを装着済みで、そのゴムパッドがボロボロになっている事が分かります。また、グローサの大きさが履帯シュー片の接地面と大きさが同一であることも確認できます。

「あんてーくし!」で紹介されている、フィンランドのパロラにある戦車博物館に展示されていたレオパルト2A4の記事で、グローサの拡大写真を確認できます。→車体を見学

andreaslarka.netでもフィンランド軍のレオパルト2A4が紹介されています。こちらの車両は車体前部に加え、砲塔正面左側にボックスが装着されています。勿論これは装甲などではなく(中空装甲としての意味合いもありますが、それが目的ではない)、この箱の中には更に着脱式グローサが入っています。また他の荷物も入れることが出来ます。

見ての通り着脱式グローサは予備履帯よりもかなり薄い物で、追加装甲としての意味は殆ど有りません。せいぜい小口径の機関砲弾相手に、ほんのちょっとだけ意味があるかな、という程度です。×字型の凸部分にHEAT弾頭のピエゾ信管が命中すれば数cmほどスタンドオフ距離を狂わせる事が出来ますが、面積的に全く期待が出来ません。

それなのにグローサを指してRPG-7(対戦車ロケット)想定のモジュール装甲だと紹介し、「表面が×字型の凸になっているのは重量軽減のため」ともっともらしい説明を付けているのは、一体どういうつもりなのでしょうか。着脱式グローサ自体を知らなかったのはまだ構いません。知らない人は多いと思います。何なのか分からず追加装甲だと推測したのも自然な成り行きです。ですが表面の×字型の説明に至っては理解が出来ません。単純な勘違いや誤解というレベルを超えた次元に入り込んでいっている気がします。ただの勘違いや誤解ならば一々論うようなものではありませんが、これは、間違えてしまった理由が分かりません。

もしこれが全て清谷氏の思い込みから来た妄想解説ならば、氏の信用性自体の問題に関わってきます。勘違いや誤解でのミスではなく、意図的な捏造と見なされるからです。もう一つの可能性として考えられるのは、他人にウソを教え込まれてそのまま信用してしまった場合です。ですがレオパルト2Eの開発元クラウス・マッファイ・ヴェクマン社の広報がそのような意地悪を行うとは考え難いです。誰かが冗談で言った事を真に受けてしまったのでしょうか。


レオパルト2E登坂力(正解は60%)

スロープを登る2E。登坂力は30パーセントである。(「丸」2007年6月号より引用)


実際にはこの戦車の登坂力は60パーセントです。それともこのスロープの勾配が30パーセントである、という意味なのでしょうか。しかしそれなら登坂“力”とは言わない筈です。

勾配を示す単位には角度とパーセントがあり、通常はパーセントを用います。(千分率のパーミルを用いる場合もある)

パーセントで示す場合は水平100mに対して垂直に何メートル上がるかで表し、1m上がれば勾配1%となります。勾配100%は45度の傾斜角、60%で31度、30%で17度の傾斜角です。

gradability.gif

現代戦車の登坂力は大体どの車種も60%以上です。登坂力60%は傾斜角31度で、殆ど30度ですから、パーセントと角度を取り違えてしまう勘違いはよくあります。恐らく、清谷氏の記事は登坂力30度を30%と取り違えたのか、或いは戦車の登坂力ではなくスロープの勾配を指し示しているかのどちらかです。


以上のように「丸」2007年6月号に掲載された清谷氏の記事「スパニッシュ“レオパルド”2E IDEX2007」の3ぺージ目は、上の写真の説明文も下の写真の説明文も両方間違っています。下の登坂力に関しては単なる勘違いだろうし、殊更に論う気はありませんが、上のグローサに関する説明文は幾らなんでもおかしな話で、ちょっと訳が分かりません。
07時23分 | 固定リンク | Comment (92) | 報道 |
2008年03月09日
文藝春秋「諸君!」2008年4月号に、三菱リージョナルジェット計画に対する批判記事が載っています。執筆者は軍事ジャーナリストの清谷信一氏。内容は「MRJプロジェクトは挫折する」と批判的な内容で、「トヨタの方が成功する!?」と、三菱がやるよりもトヨタやホンダがやった方が成功するだろうとしているのですが、当のトヨタはつい最近、MRJプロジェクトに参加すると発表、清谷氏の言説はプチ【逆神】としての要素を発揮しつつあります。

なおリージョナルジェット(地方都市間を結ぶジェット機)とは100人乗り未満の小型旅客機を指し、航空大手のボーイングやエアバスのラインナップには無い存在の為、中小新興メーカーに参入の余地があり、近年注目を浴びているセグメントです。カナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルの二社が先行して市場を占めており、これにドイツのドルニエが参入しようとしてその前に倒産。それ以外ではロシアと中国が計画を進めており、日本の三菱が続こうとしています。

さて、問題はこの「諸君!」記事内容についてです。軍事ジャーナリストが書く航空記事として、決してやってはならないレベルの間違いが幾つか散見されるのですが、特に問題がある部分を紹介しておきます。引用元は「諸君!」 4月号 p140〜p150、「国産旅客機開発のために「挙国一致体制」を確立せよ」、清谷信一氏の執筆した記事からです。


諸君!:国産旅客機開発のために「挙国一致体制」を確立せよ (p146)
昨年7月3日付けの日経新聞1面は自衛隊機の民間転用について「競合するボーイング、欧州エアバスが旅客機を転用しているのに対し、トラックをそのまま積めるなど積載能力が高い」と報じているが、現在の航空貨物はその殆どが規格化されたコンテナないしパレットで輸送される。誰が好き好んで貨物本体よりも大きく嵩張るトラックごと空輸しようか。そもそも軍用輸送機であるCXは民間機と比べて頑丈につくられており、その分生産コストも高い。また高翼機であるので低翼の旅客機を転用した輸送機に比べ速度が遅く、燃費も悪い。故に傑作軍用輸送機であるC-130ハーキュリーズやC-17グローブマスターVなども殆ど民間に転用されていない。経済専門紙がこのような与太を1面に掲載してはいけない。

新明和工業のUS-2は現用のUS-1Aの後継で、世界にあまり例のない海自独自の最新鋭の大型飛行艇である。海自の1機あたりの調達コストは約70億円であり、おいそれと消防や民間で出せる価格ではない。実は海自にしてもUS-2を調達する必要性は低い。そもそも軍が救難用に飛行艇を運用しているのは我が国だけである。他国はこのような任務にはヘリコプターを使用している。米軍ですら装備していない贅沢な(あるいは必要性のない)機体を装備する合理的理由は見あたらない。


まず前半部分の航空自衛隊次期輸送機CXの件についてですが・・・信じられません、軍事ジャーナリストがCX最大の特徴を知らないだなんて、有り得ない話です。

CX最大の優位点は民間航空路を使用可能な高速性にあります。CXの巡航速度はマッハ0.8を超えており、現行の旅客機ボーイング767や737と同程度以上の速度を達成しています。防衛省は以前からCXについて、民間航空路を使用可能な高速力である事を公表しています。そしてこのコンセプトの先見性は、アメリカ軍の新型中距離輸送機計画AMC-Xの仕様要求に、民間航空路への対応、つまり高い巡航速度が盛り込まれたことからも分かる筈です。

これまで軍用輸送機は高翼配置で胴体が太く、速度が遅いものでした。高翼配置は床面を広く取るためで、低翼配置では床面設計に主翼桁構造を考慮する必要があるのに対し、自由な設計が出来ます。代償として高翼では主翼に降着装置を設置しようとすると脚が長くなりすぎるので、胴体横に張り出し部分を設けて降着装置を取り付ける必要が出てきます。太い胴体に張り出し部分の存在は空気抵抗の増大を意味し、必然的に速度は遅くなる・・・ここまでの説明は良いでしょう。

ですがCXは1クラス上の強力なエンジンを搭載する事により、高い巡航速度を達成しました。これは軍用輸送機史上でも初の試みであり、そのコンセプトの正しさはアメリカですら続こうとしていることで証明されています。確かに空気抵抗の大きさはそのままですから、燃費はスマートな旅客機ベースの機体に比べれば悪いでしょう。ですが機体容積は大きいので燃料タンクも大きく、航続力に不足はありません。燃費面での経済性の悪さは、規格外の嵩張る大型特殊貨物を輸送できる能力との代償であり、そういった輸送のニーズがあれば存在していける可能性があります。アントノフAn-124ルスランという大型の軍用輸送機が民間転用され、規格外の特殊貨物輸送で活躍している事を忘れてはなりません。現在の航空輸送の殆どが規格化されたパレットやコンテナ輸送であるからこそ、規格外の荷物を輸送する際の選択肢が少なく、新規参入の余地が有ります。数はそう売れるものではないですが、ニッチ需要に入り込める条件は存在します。

しかし清谷氏は規格外貨物の輸送ニーズについて全く言及しておらず、日経新聞がトラックをそのまま積めると書いた事を曲解し、以下のように述べています。

清谷:「誰が好き好んで貨物本体よりも大きく嵩張るトラックごと空輸しようか」

まさか、貨物列車のピギーバック輸送と混同するとは・・・日経新聞がトラックをそのまま積めると書いたのは、後部ランプ・ドアを使い車両が自走でそのまま搭載できる、という意味です。例えば規格外貨物が輸送できる輸送機の中で、An-124なら同様に車両を自走させて積み下ろしが出来ますが、A300-600STではそのような真似が出来ません。日経新聞は川崎重工の説明の通りに記事にしただけであり、別に「貨物をトラックに積んでそのトラックごとCX輸送機で運ぶ」等とは書いていません。「トラックをそのまま積める」としか書いていないのに、勝手に「貨物をトラックごと空輸」と勘違いした清谷氏の勇み足です。

清谷:「経済専門紙がこのような与太を1面に掲載してはいけない」

おいおいマジで・・・いやその、↑コレどう突っ込めばいいんだろう。


では後半部分の救難飛行艇に関する話です。清谷氏は「救難飛行艇など使わずにヘリコプターを使え」と説いていますが、一体どのクラスの救難ヘリと比較してるのでしょうか。カナダ軍が救難用に購入したアグスタウェストランドEH101は機体単価1億ドルを超えており、救難飛行艇US-2と同程度以上の価格がした筈です。アメリカ空軍の次期救難ヘリCSAR-XはボーイングHH-47に決まりましたが、価格は競合機種のEH101より安かったとはいえ、それに近い価格です。第一、航続力や進出速度では飛行艇とヘリコプターは比較になりません。

また清谷氏の飛行艇に対する「米軍ですら装備していない贅沢な(必要性の無い)機体」という認識は誤っています。というのも、飛行艇はロシアが装備しており、決して贅沢な装備などではないからです。(追記説明;ロシア軍とウクライナ軍はベリエフBe-12チャイカ飛行艇の救難型を運用中)ロシア非常事態省はジェット救難飛行艇ベリエフBe-200アルタイルを運用していますし、ロシア海軍は以前、ジェット哨戒飛行艇ベリエフA-40アルバトロスを20機発注しており、それは資金難で実現していないのですが、昨今の原油高によるロシア財政の復活により、再び採用される可能性が出てきています。(追記説明;A-40の捜索救難型A-42の採用が決定)

アルバトロスは潜水艦と火事のハンターだ - ノーボスチ・ロシア通信社

A-40とBe-200は元の設計を流用した兄弟機です。Be-200旅客機型は、過去に日本に対し、小笠原諸島への航空路に提案された事もあります。

それでは最後に、清谷氏の記事の最後に近い部分から、一体今まで書いてきたことは何だったのだろうと脱力全開する部分の紹介です。


諸君!:国産旅客機開発のために「挙国一致体制」を確立せよ (p149〜p150)
リージョナルジェットの国産開発にしてもほかにやりようがあったろう。例えばPXへの転用を前提にすれば、かなりの開発費及びリスクを減らすことができたはずである。PXのエンジンは4発で、旅客機としては運用コストの安い2発の方が適しているため主翼の再設計が必要であるが、それでも単独開発よりは格段に安く上がる。実際、PX開発に際してはそのような構想も存在した。


対潜哨戒機PXの民間旅客機転用を目的としたYPXという案は実際にあります。小型民間輸送機等開発調査という名目で検討されているのですが、しかし清谷氏の言うようなリージョナルジェットとの関連性は有りません。何故なら、大きさのクラスそのものが違うからです。PXはボーイング737と同クラスの大きさの機体であり、リージョナルジェットはその下のサイズです。その差は重量で倍近くに達し、リージョナルジェットのサイズで対潜哨戒機を作ろうとすれば、従来機のP-3C哨戒機よりも性能の低いものが出来上がります。リージョナルジェットサイズの対潜哨戒機は小さ過ぎ、PXサイズの旅客機はもはやリージョナルジェットではありません。リージョナルジェットとPXを纏めようなど、誰も思わなかったでしょう。

またPXのサイズが737と同クラスである以上、YPXはボーイングやエアバスがこれから繰り出す737後継機と勝負する事になり、MRJよりも成功する確率は遥かに低くなります。確かにPXは対潜哨戒機としては成功作となるでしょう、アメリカ軍の次期哨戒機P-8Aが開発費高騰で失敗プロジェクトと化している事を尻目に、安い開発費と機体単価を達成したPXですが、民間旅客機として売れるかどうかは懐疑的です。防衛調達で成功している以上、民間販売はオマケで、別に売れなくても構わない態度で行うなら好きにすればよいかもしれませんが、日本の航空産業の将来を掛けたプロジェクトとするには冒険的に過ぎます。

つまり清谷氏は、リージョナルジェットが何なのか、PXの機体サイズがどれだけなのか、よく理解していないのでしょう。清谷氏は記事の146ページでも「PX旅客機転用はMRJと競合する」と書いているのですが、最初にこれを読んだ時は「政府支援の資金面で競合する」という意味に解釈していましたが、上記の149〜150ページ引用部分を見て、PXとMRJを機体サイズですらゴッチャにしていることがよく分かりました。これでは軍事雑誌や航空雑誌に掲載することなどとても出来ないレベルで、「諸君!」のような航空技術に無知な編集部の雑誌でしかチェックを通らない筈です。この記事を読んだ読者層も詳しい人は殆どいないわけですから、内容をそのまま信じ込んでしまいかねず、問題があります。

CXの件にしろUS-2の件にしろPXの件にしろ、軍事ジャーナリストがこのような記事を雑誌に掲載してはいけません。航空や軍事の専門誌ではないから編集のチェックは入らない、だからといって好き勝手に与太を飛ばして良い筈が無いでしょう。

三菱や日経新聞が文藝春秋社に抗議してきたら、一体どのように言い訳するつもりなのでしょうか?



なおこの件は別方面からのアプローチでCHF氏も記事にしています。そちらもご覧下さい。

■再び民間転用の話 - CHFの日記
05時18分 | 固定リンク | Comment (250) | 報道 |
2008年02月27日
イギリスのロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が毎年発行する、世界各国の軍事情勢を記した年次報告書「ミリタリーバランス」。これをどう読み取り、理解すべきかを、二つの新聞社の例を見比べて考えてみたいと思います。

先ずは朝日新聞社の週刊誌「AERA」より。・・・記事タイトルの後半部分を見た瞬間に首を傾げる人も大勢居るかもしれませんが、取り合えず本文を読んで見て下さい。


中国空軍の作戦機が「急減」 米国は売り込みを狙うか? (AERA 2/25号)
ロンドンにある「国際戦略研究所」が発行する年鑑『ミリタリーバランス』は世界各国の軍事力や配備を示す標準的資料として広く使われている。その2008年版が届いたのでさっそく目を通すと、中国空軍の作戦機数(爆撃機、戦闘機、攻撃機の計)が07年版の2643機から1762機に33%も急減していて、笑いを誘われた。

以前は逆の現象があった。04年版の1900機から05年版で2643機に急増。06、07年版も同じ数字を載せていた。とっくに退役と見て、かつてリストから外したIl28軽爆撃機(ソ連での初飛行1948年)やMiG19戦闘機(同53年)などの超旧式機700機以上を05年版で“復活”させ、一挙に中国空軍を拡大したのだ。

『ミリタリーバランス』の主要なネタ元は米国の国防情報庁が出す『秘指定なし・外国軍戦闘序列(兵力、編成、装備の意味)』で、各国の研究所などにも送られるが、米国防総省の意図を感じさせるデータも交じる。超旧式機の大量復活は、中国空軍の作戦機が急減する中で、素人に増強の印象を与えるための苦肉の策だったろう。

今回はあまりに古い飛行機を再び外したため、突如900機近く減ったのだ。しかし、なおMiG19改造の対地攻撃機Q5が400機余、MiG21(57年初飛行)の派生型700機余など旧式機が1300機以上リストに残っている。実戦で役立つのは戦闘機Su27、同30の計約220機など400機程度で、日本、韓国、台湾とほぼ同等、質の向上はどこの空軍にも共通する要素だ。

05年版で「急増」させた動機は容易に推測できるが、今回「急減」させた背景は何か。米国が対ソ戦略上の「チャイナ・カード」として中国軍の近代化に協力した冷戦時代後半には、米国で中国軍事力の弱体ぶりが論じられた。いま米国は対中貿易赤字の増大に悩む。私の頭を横切るのは、米国が中国に対し、最も競争力の強い工業製品である武器、とりわけ軍用航空機の売り込みをはかっているのではないか、という疑念だ。


興味深い事に、この記事は、タイトル後ろ半分と記事最後の数行"だけ"が的外れな内容です。つまりそれ以外、本文中の全文章量の9割以上が、概ね正しい分析と考察が為されているのです。そしてこの記事を書いた人は、何故か署名が見当たらないのですが、恐らく、田岡俊次さんでしょう。AERAで軍事記事担当はこの人ですし、「笑いを誘われた〜」等、文体も氏らしいです。田岡氏は軍事知識については高いものを持っています。ただ、思想や願望で偏向フィルターが掛かるのか、途中までの考察は良く出来ているのに最後の結論で的外れな事をしてしまう事が多々あり、巷で【逆神】と呼ばれてしまう事にもなりました。田岡元帥(田岡氏の愛称は"元帥")の「私の頭を横切るインスピレーション」は、信用しない方がいいでしょう。この方は私情を挟まず冷静な分析が出来ていたら、もっと高い評価を得ている筈です。

このAERAの記事は、最後の数行の「アメリカは中国に戦闘機を売るのではないか」という考察部分は現状、可能性がかなり低い事なので、無視してよいと思います。ロシアが完全復活し、成長する中国の脅威を上回る勢いで軍拡を始めたのあれば、再び対露カウンターパートとして対中接近も有り得ますが、今の所はまだそのような兆候はありません。原油高でロシア財政が潤っているにしても、短期間で嘗てのソ連のような勢いを取り戻せることは無いでしょう。

つまりAERAのこの記事は「ミリタリーバランスが中国の戦闘機数を急減させた理由」について、分からなかったのだと思います。田岡氏も可能性が低い事は承知の上で、無理矢理に理由を捻り出したのかもしれません。(しかし本気で戦闘機を売るかもしれないと思っている可能性を否定できないのが元祖「軍事の逆神」たる所以か)ですから、この記事で重要な部分は最後の結論ではなく、全体の9割を占める解説「ミリタリーバランスはカウント対象をリストから外したり入れたり、数値を急変動させることがある」という部分です。ミリタリーバランスの数値が急変動しても、実数、実戦力が急変動しているわけでは必ずしも無い。このAERAの記事は、ミリタリーバランスの読み取り方を読者に伝えています。数値の急変動に米国防総省の意向が関わっているかどうかは推測の域を出ませんが、否定は出来ません。ただ常に意向が反映されている訳ではないでしょうし、全ての部分で米国の息が掛かっているわけでもないでしょう。ミリタリーバランスは膨大な量の資料である為、個々で見ると単純な勘違いでのカウントミスも多く散見されます。その意味でも「権威ある報告書といえど、数値を盲信すべきではない」とする姿勢は正しい有り方だと言えます。

そして次に産経新聞社による、ミリタリーバランスとその所属研究員のインタビューで構成された記事ですが・・・


「ロシアが恐れているのは中国だ」 (産経新聞 2/17)
08年版の同年次報告書では、太平洋艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は4隻。巡航ミサイル搭載型などの原潜(SSN/SSGN)が10隻。ディーゼル電気推進対潜潜水艦(SSK)9隻の計23隻だった。07年版(潜水艦計15隻)と比べると、米国を攻撃目標とする戦略潜水艦のSSBNの増減はなかった。一方、中国など周辺国を対象にする戦術潜水艦のSSN/SSGNは1隻減っていたものの、SSKは新たに9隻が配置されていた。


これは2/5の産経新聞記事とほぼ同内容です。産経新聞はミリタリーバランス07年版と08年版を見比べて「SSNが1隻減ったがSSKが9隻も増えた」と解釈しています。ですがそれが誤りであることは、ロシア海軍に詳しいシア・クァンファ氏のInfinite Justice〜ロシア・ソ連海軍〜」による、以下の指摘により明らかです。

ロシア太平洋艦隊、潜水艦8隻増強?(爆笑)
ロシア太平洋艦隊のディーゼル潜水艦(SSK)現況
懲りない産経(失笑)

私もこれに合わせ、「ロシア太平洋艦隊は増強されておらず、中国海軍を恐れているわけではない」という記事を書きました。仮にロシア太平洋艦隊がSSKを増強していたとしても、戦術的な用途、戦略的、政治的、地形状の問題から見て対中国用とは考えられず、ましてや数値自体がおかしいのであれば問題外としか言いようがない・・・産経新聞が担ぎ出してきた国際戦略研究所(IISS)の元英陸軍大佐クリストファー・ラントン上級研究員にしても、おかしな主張が見られます。例えばラントン氏は2/17の記事で、

「2年前にロシアは戦略爆撃機を中国に売却した」
「機密扱いの装備を与えることで、航空電子工学などの分野で中国の開発意欲をそごうとしたのだ」

などと、事実ではない事を主張しています。ロシアは2年前に中国へ戦略爆撃機売却の商談を持ち掛けましたが、購入契約は成立していません。しかも提案された機体はロシア軍で余剰となったベアやバックファイアといった旧式機であり、機密装備とは到底言えません。どうもこの方は陸の専門家であって、海や空への知識は全く無いのではないだろうかと懸念します。



おっ。ミリタリー・バランス2008年版が出てるんですね。

この産経の記事は単に2007年版で太平洋艦隊のSSKが割愛されていたのに記者が気付かなかっただけみたいです。

2007年版の編成一覧はこんな感じ。

Pacific Fleet
(中略)
EQUIPMENT BY TYPE
SUBMARINES 15
STRATEGIC • SSBN 4
TACTICAL 11 SSN/SSGN

2008年版の配備一覧はこんな感じ。

Pacific Fleet
(中略)
EQUIPMENT BY TYPE
SUBMARINES 23
STRATEGIC • SSBN 4: 3 and 1 in reserve
TACTICAL 19: 4 SSN/SSGN and 6 in reserve; SSK 6 and 3 in reserve

一方、2007年の装備一覧ではSSKは全部で19隻となっているのに、編成一覧には6(北方)+1(黒海)+2(バルチック)しか記載されていなくて全然足りないことに気付くべきだったと思います。ミリタリー・バランスはときどきトリッキーですけど、軍事記者だったら一年でロシアの潜水艦が8隻も増えるはずがないという勘を働かせなきゃならんかったでしょうね。結局、中国「脅威」論でそう思い込んじゃったんでしょうね。

ラントン氏のインタビューもどうなんですかね。インタビュアーが思い込みでインタビューを捏造するというのはありがちですけど。全体的に同氏はロシアが中国に対して軍事的に対抗するのは難しいしそのつもりもない、ということを言わんとしているような気がしますけど。




結局は、こういう事です。産経新聞はミリタリーバランスの数値を盲信し、「ロシア太平洋艦隊のSSKが突然、9隻も増えた」と信じ込み、IISSの研究員で中国脅威論を唱えてくれる人を担ぎ出し、無理矢理に「ロシアは中国を恐れて潜水艦を増強した」などという記事をデッチ上げた・・・デマ、捏造、デッチ上げ・・・あまり言いたくは無いですが、産経新聞が仕出かした事はそう評価する以外には有り得ません。

これは単純に知識が無い故に飛び付いてしまった結果なのか、最初から理解した上で何も知らない一般人を扇動しようとしたのか、どちらなのか。恐らく前者です。バグってハニー氏は「軍事記者だったら一年でロシアの潜水艦が8隻も増えるはずがないという勘を働かせなきゃならんかったでしょうね」と言いましたが、この記事を書いた産経新聞ロンドン支局の木村正人記者は、軍事記者ではなく軍事知識は皆無なのでしょう。だったら記事を載せる前に上役がチェックすればよいのですが、上も判断できる知識が無ければそのまま記事が出来上がります。

これだから、産経新聞の軍事記事は信用がなりません。同時期にミリタリーバランスを引用した記事を書いた朝日新聞社AERAと比べて見ても、その差は歴然としています。産経の記事は前提段階で既に間違っている故に、全体の何もかもがデタラメであり評価としてはマイナスで、デマ記事と称されても仕方がありません。一方AERAの記事は最終的な考察が少し的外れであっても、過程の9割は意義のある内容で、それなりに高い評価が出来ます。朝日はミリタリーバランスの読み方を心得ています。

産経新聞はミリタリーバランス08年版の記事から都合の良い部分だけを抜き出し、捻じ曲げ、無茶苦茶な扇動記事を仕立て上げました。一方でミリタリーバランスに書いてある都合の悪い部分(中国空軍の作戦機数が07年版から33%も急減)を無視しています。このような態度は大なり小なり何処の新聞社でもあるかもしれませんが、産経の姿勢はあまりにも露骨で不愉快です。



112. 
産経が、またやってくれました。

FujiSankei Businessより。

http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200802230004a.nwc
[ロシア製主力戦闘機 中国、一貫生産に成功]

中国がロシア製Su-27のフルコピーに成功した、という内容ですが・・・

>【用語解説】スホイ−27
>旧ソ連時代に開発された機体で、「第4世代機」と呼ばれる新鋭機には及ばないものの

Su-27が「第4世代機」である事も知らないのか、"Sankei"は(笑)


ちなみに「露ノーボスチ通信」の記事では、こういう一文がある。
http://en.rian.ru/russia/20080221/99765686.html

China announced that the engine had been successfully tested on a modified Su-27K fighter, but Russian experts believe it is not reliable enough to start the full-scale production of the aircraft.
(中国は、エンジンが改装済のSu-27K戦闘機でテストに成功したと発表した。しかしロシアの専門家は、航空機の一貫的な生産を始めるという事は、十分な信頼性が無いと見ている)


都合の悪い箇所は無視
それが産経クオリティ




115.
>112に補足

フジサンケイビジネスアイ(FujiSankei Business i)の
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200802230004a.nwc
[ロシア製主力戦闘機 中国、一貫生産に成功]について

フジサンケイが引用したとする「露ノーボスチ通信」の元記事では、
中国がSu-27をフルコピーした事を疑問視する文章が有ったのに、
(フジサンケイは)無視した事は、112で述べた通りだが、

更に、中国(ロシア)サイドからも、こんな話が出ている。

http://military.china.com/zh_cn/top01/11053246/20080222/14686222_1.htmlから抜粋

しかしロシアの航空機エンジン製造会社の関係者は、WS-10の大量生産は出来ないと考えている。
彼は、こう言った。
2007年、中国は、改良型AL-31FMエンジンの購入に関する問題を議論した後に、新しいバッチのAL-31FNエンジン(AL-31Fの改良型)の供給で同意した。


「露ノーボスチ通信」からの引用と言いながら、テメエの主張に都合の悪い箇所は省き、
中国・ロシア側の情報は無視・・・

やっぱ、ダメダメ、ですね〜




もうインターネットの時代に、引用先の都合の良い部分だけ抜き出し都合の悪い部分を伏せるといった旧来の情報操作のやり方は、通用しません。誰でも簡単に元記事を辿れて、チェックできるのですから。これがネットの無い時代であれば、シア氏のような一部の人間しか真実を知ることは無かったでしょう。ですが今ならば、大勢の人に知らしめる事が出来ます。

産経のみならずマスコミは、もはや時代が変わった事を理解して頂きたいと思います。
04時55分 | 固定リンク | Comment (135) | 報道 |
2008年02月06日
またしても産経新聞が軍事記事で誤報してしまったらしい・・・意外なように思われるかもしれませんが、日本のマスコミで軍事記事の正確性に最も欠けているのは産経新聞であり、まだ朝日新聞や東京新聞の方が正確です。あくまで比較の問題ですが。


露太平洋艦隊増強「恐れるのは中国」 英国際戦略研:産経新聞
【ロンドン=木村正人】英国の国際戦略研究所(IISS)は5日、世界の軍事力を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス2008」を発表。ロシア海軍で太平洋上の作戦を担当する太平洋艦隊に、この1年間に戦術潜水艦8隻が増強されたことが分かった。IISSの軍事専門家は「太平洋でロシアが恐れるのは米国ではない。中国だ」と極東の海軍力が急に強化された理由を分析した。


記事の内容は、IISSによると「ロシア太平洋艦隊は一年間でSSN(原子力攻撃型潜水艦)は1隻減ったがSSK(通常動力潜水艦)が9隻も増強!」とあり、クリストファー・ラントン上級研究員から「ロシアはアメリカではなく中国を恐れている」とのコメントを得ていますが・・・まず数がおかしいです。


ロシア太平洋艦隊、潜水艦8隻増強?(爆笑) :Infinite Justice
むろん突っ込みどころはココ(笑)

>この1年間に戦術潜水艦8隻が増強されたことが分かった。
>SSN/SSGNは1隻減ったものの、SSKは新たに9隻が配置されていた。

・・・・・1998年以降、太平洋艦隊に新たな潜水艦は配備されていませんが(失笑)


どうも産経新聞は数の計算を間違えているとしか・・・

それにロシアが中国を恐れるなら陸空を増強する筈で、海軍、それもSSKのみを重点的に増強するという方向性は有り得ない筈です。現代戦でSSKの主な使い道は防御的な哨戒任務であり、中国海軍がロシア沿海州の沿岸まで攻め込んでくる状況でなければ増やす意味がありません。遠隔地で中国艦船を襲撃したければSSNを増強する筈です。そして、中国がロシア沿岸を攻撃する状況が見えてきません。攻撃したければ陸路から侵攻すればよいことで、海から攻め込もうとしたら日本海の制海権を握らねばならず、対馬海峡の通航を安全に確保する必要があり、日本や韓国が中国に協力しなければ実現不可能です。

つまり、仮にロシア太平洋艦隊がSSKを増強していたとしても、対中国用とは考えられません。戦術的な用途として考え難いですし、戦略的、政治的、地形状の問題から見てもおかしな話です。ましてや、それ以前の問題としてSSKの数の認識自体がおかしいと言うなら・・・

それに中国海軍の新型SSBN、SSNはロシアからの技術協力で建造されています。

094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型) - 日本周辺国の軍事兵器
093型原子力潜水艦(シャン型/商型) - 日本周辺国の軍事兵器

ロシアが真に中国海軍を恐れているなら、原潜の技術移転など行わないし、キロ級を売ったりもしないでしょう。最近、ロシアと中国の軍事協力関係はギクシャクしていますが、それは中国を脅威と認識しているというよりは商取引上の問題であり、対中を意識して戦力を増強する理由には成り得ません。それにもしそのようなことになれば海軍の増強よりも中露国境線と、お互いに影響を強めつつある中央アジア方面の陸上戦力と航空戦力を重視する筈です。
21時16分 | 固定リンク | Comment (145) | 報道 |
2008年01月26日
昨年末に「月刊誌『選択』MD批判記事について」という記事を書きましたが、今回はそれとほぼ同様な案件です。『エルネオス』も『選択』と同様の予約購読制月刊経済紙で、例によって守屋絡みでMDを叩いてみたらしく、しかしその批判内容は三流週刊誌以下のレベルで、こちらとしては頭を抱えるしかないと言うか・・・これで高級紙だそうですから、「選択」の時と同様に「エルネオス」に書いてあったからという理由だけで信じ込む人が出て来て・・・


●前代未聞の「巨額不良品」、MDシステム購入の裏:『エルネオス』 2008年1月号
北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」の迎撃を想定した日本のMDは、米国の早期警戒衛星、情報収集衛星といった「宇宙の目」、青森県に配備したXバンドレーダーといった「地上の目」から得られる情報が欠かせない。しかし、「情報提供しようにもシステムが未完成。実は米軍内でさえ、MDに使えるような情報網は整備されていない」と防衛省幹部。

しかし日本のイージス艦には、相応の成果を出している米国のイージス艦と同じシステムが搭載されるから安心ではないのか。「それはイージス艦の持つフェイズド・アレイ・レーダーの高い性能に支えられているにすぎない。MDはシステムといえるものではなく、イージス護衛艦、PAC3はそれぞれのレーダーで探知するしかない」(同幹部)。

防衛省は総額1兆円を投じ、平成20年度までにMD配備を終了する。だが、これは初期投資にすぎず、欠点修正の投資は無限に続く。

「実はMD導入の旗振り役は、収賄事件で逮捕された守屋武昌・前事務次官」と前出の幹部。守屋氏の“仲間”、日米平和・文化交流協会の秋山直紀・専務理事が毎年開催する日米安全保障戦略会議は、MD推進が目的の会合。いわくつきの集いなのだ。秋山氏は久間章生・元防衛相の訪米に毎年同行し、米国防総省や米軍需産業との橋渡しを務めた。前代未聞の巨額不良品購入か――。


所属も名前も階級すらも明かされていない「防衛省幹部」が言うには「米軍ですらMDに使えるような情報網は整備されていない」「MDはシステムといえるものではない」だそうですが、何が足りないのか、本来ならどうすべきなのか、技術論が何も語られておらず説得力に欠けます。只でさえ匿名情報で信憑性が低いのに、語られている内容を見ても専門知識を持って解説されているようには思えません。どう見ても素人の書いた証言・・・架空の人物か、実際に防衛省関係者だとしてもMDについては専門外なのか知りませんが、三流週刊誌と同レベルの記事内容で信憑性の欠片も有りはしません。

なおアメリカ軍のMD情報網ですが、弾道ミサイルの情報を処理する移動可能な統合戦術地上基地「JTAGS」(FASの解説より)は現在5セットが存在し、既に3セットが実戦配備段階にあり、つい先日に4セット目が在日米軍三沢基地に送られ稼動開始しました。


米軍幹部「JTAGS既に運用状態」:東奥日報
米軍三沢基地に配備された弾道ミサイル情報処理システムJTAGS(ジェイタグス=統合戦術地上ステーション)の部隊編成式が二十二日、同基地内で開かれ、式典に出席した米軍幹部は、国内初のJTAGSが既に運用状態にあることを明らかにした。


今回の配備は在韓米軍への配備に次ぐものです。エルネオスに語った「防衛省幹部」はJTAGSの事を知らなかったのでしょうか。そもそも、JTAGSが無くても早期警戒衛星からの情報は前線部隊にデータリンクされるので、一体何を持って「情報網は無い」「システムではない」などと言っているのか・・・MDは情報ネットワークシステムそのものです。システムで動かないならMDの意味はありません。


新防空システム、年内にも稼働・弾道ミサイル捕捉可能に:日経新聞
防衛省は不審な戦闘機などの侵入に備える新しい防空警戒システムの運用を年内にも始める。探知・追尾機能の向上により高速で飛来する弾道ミサイルの捕捉が可能となるのが特徴。実戦配備が始まったミサイル防衛(MD)システムの有効性を高める狙いだ。国内の各航空方面隊司令部や在日米軍との連携も強化し、中国やロシアなどで整備が進む新鋭戦闘機への対応力を強める。

運用が始まるのは自動警戒管制システム(ジャッジシステム)。2004年度から現行システムの改良を進めており、08年度末までに約510億円を投じる。09年度の本格運用を見込む。


自衛隊の防空警戒システムは、従来のバッジ・システム (Base Air Defense Ground Environment、BADGE System) からジャッジ・システム(Japan Aerospace Defense Ground Environment、JADGE System)に切り替わりつつあります。既に一年近く前に入間基地へ配備されました。


またエルネオスはMD配備について「初期投資にすぎず、欠点修正の投資は無限に続く」と言いますが、どうしてこれが問題とされるのか理解が出来ません。何故なら投資が無限に続くのは当たり前の話だからです。兵器システムに「完成」が無いのは、何もMDに限った話ではないでしょう? 戦闘機だって戦車だって潜水艦だって、新しい装備を開発し、更新していくのです。未来永劫、半永久的にそれは続きます。一般の家庭でマイカーを定期的に買い換えるのと同じ事です。MDだって同じ事。これをおかしいと言うなら、「貴方のお家では何十年も自動車を買い替えないのですか?」という事になります。自動車そのものが要らないというなら構いませんが、必要とされている限りは買い替えは必ず行われる事なのです。


それと守屋絡みで守屋が関係したものは全て問題だ、とするのは短絡的な物の見方です。それとも読者をそうミスリードして、ドサクサ紛れにMDを叩いているのでしょうか。勿論、防衛利権として不必要な金の流れが発生した事は批判されてしかるべきですが、守屋が便宜を図ったものは全て不要だ、ということにはなりません。必要なものもあれば不必要なものもあります。

例えば守屋絡みの事件で筆頭の案件と言えば次期輸送機CXのエンジンですが、これは守屋の件があろうとなかろうとGE社製CF6−80C2エンジンで決まりでした。性能、実績、信頼性、整備性、どれを取っても文句の付けようの無い選択です。CF6−80C2エンジンは自衛隊の使用するE-767AWACS早期警戒管制機、KC-767空中給油機にも搭載されており、同エンジンを次期輸送機CXにも採用する事は整備面でも最良の選択なのです。

CXのエンジンで「便宜を図った」というのはGE社との契約企業が山田洋行から日本ミライズに移ったおかしな過程にあり、エンジンそのものの選定がおかしいわけではありません。故に、守屋が逮捕されようが山田洋行どうなろうが日本ミライズが潰れようが、次期輸送機のエンジンはGE社製CF6−80C2エンジンのままです。

ただ、次期汎用護衛艦(19DD)のエンジン選定問題などは守屋の思惑通りに進んでいたら問題があったでしょう。汎用護衛艦は現行の「むらさめ」型、「たかなみ」型が非常におかしなエンジン選定をしているだけあって、19DDも同じ轍を踏みかねない状態にあり、守屋の逮捕で計画が白紙に戻ったことは歓迎します。でも、ATACMS導入の件(これも守屋絡み)はそのまま実行されてても良かったかもしれません。韓国もATACMS(短距離戦術弾道ミサイル)を既に導入している以上、日本が導入しても文句は出ない筈でしたし。
21時52分 | 固定リンク | Comment (132) | 報道 |
2007年12月27日
最近、幾つかの掲示板で月刊誌『選択』12月号の記事からの引用投稿が目に付きました。結構あちこちで目にしたので、手当たり次第にコピー&ペーストされているようです。しかし、その記事の内容があまりに的外れだったのでツッコミを入れようと思い、そのコピペ自体が正確に引用されているかどうか現物の記事を確認したかったのですが、この雑誌は予約購読制で一般書店の店頭には置いていないのです。流石に一年分の契約は無理なので、とりあえず掲示板にコピペされていた内容の問題部分をそのまま持って来る事にします。


●ミサイル防衛でも日本は「進貢国」― 守屋前次官のもうひとつの「犯罪」:『選択』 2007年12月号
(前略)

だが、MDは米国による開発進展に合わせて、毎年リニューアルされるから現段階はほんの初期投資に過ぎない。SM3は将来、日米で共同開発している発展型のSM3に替わる。

そして信じられない話だが、PAC3は米国がドイツ、イタリアと共同開発している「MEADS」にシステムごと入れ替わる見通しだというのだ。そうなればPAC3はシステムごと使えなくなり、航空機を迎撃するための旧式のPAC2に戻す必要が出てくる。その後、「MEADS」を新規購入する必要があるから、1兆円で収まる話ではないのである。

防衛費が50兆円を超える米軍ならともかく、5兆円にも満たない日本にとっては大打撃となる。MDは、終わりなき米国への資金提供。まさに「米国を支援する」と言う守屋の思惑通りになる。

(後略)


この記事を書いた人は「MEADS」と「PAC3」の関係を全く理解していません。中途半端にMEADSの事を知ったはいいが、其処から妄想だけで勝手な事を書き殴っているだけです。MEADSの事を理解している人ならば、PAC3が使えなくなるからPAC2に戻せとか、日本もMEADSを購入する必要があるとか、そんな結論には絶対に至らない筈です。

何故ならMEADSの中味はPAC3だからです。

中距離拡大防空システム(MEADS:Medium Extended Air Defense System)は米独伊で共同開発している防空システムで、ミサイル弾体にPAC3改良型(PAC3MSE)を使用します。このPAC3改良型は、従来のPAC3に対しロケットモーター直径と操舵翼面積を拡大し、射程を1.5倍にするものです。元々PAC3システムの性能向上の為に改良が行われ、それをMEADSにも流用する事になっています。

MEADSは全てのシステムが直接車両搭載式で完全自走可能であり、ランチャーは垂直発射方式です。これは機動性と即応展開性に優れ、味方野戦軍を防空しながら戦場で移動する任務に優れています。車両牽引式で半固定型のパトリオット・システム(PAC2、PAC3)と違う点は其処です。つまりミサイル弾体は同じ物を流用するけれど、入れ物が異なるのです。

結局の所、アメリカ軍のPAC3がMEADSに入れ替わったところで自衛隊のPAC3が使えなくなるわけではありません。ミサイル本体の製造は続きますので実戦や訓練で射耗しても補充は出来ますし、部品の個別製造ができるレーダー・管制装置の補用部品が無くなると言う事も考えられません。(運用を止めたアメリカ軍のパトリオットの部品も大量に余る)むしろ心配すべきはPAC2の代替でしょう。アメリカ軍は広域防空システムであるPAC2を必要無いと考え、弾道ミサイルから航空機、巡航ミサイルなどあらゆる空中目標に対処する事が出来るPAC3とその発展型だけで対空ミサイルシステムを統一する気です。(とはいえMEADSによる更新は旧式化した改良ホークとの入れ替えに重点が置かれ、パトリオットとの入れ替えはパトリオットの運用寿命の終わりに連れて緩やかに進行して行く為、ホークはもうすぐ消えていきますがパトリオットが無くなるのはまだ先の話です)

しかし雑誌『選択』12月号記事では「PAC3は使えなくなり、PAC2に戻す必要が出てくる」等と書かれています。事実は逆で、「PAC2が使えなくなり、PAC3しか無くなる」のです。これでは的外れもいいところです。

そして当然、次の『その後、「MEADS」を新規購入する必要があるから、1兆円で収まる話ではないのである』という主張も、見当外れとなっています。自衛隊がMEADSを新規購入する可能性は、全くといってよいほど有り得ません。

実は日本は以前、MEADS開発計画への参加を求められていましたが、多国間共同兵器開発計画は武器輸出に触れると見なされる為、参加を断念しています。そしてMEADSと同様のコンセプトの地対空ミサイルシステムを、独力で国産開発してしまっているのです。

03式中距離地対空誘導弾(中SAM):Missiles & Arms

全システムの直接車両搭載方式、垂直発射ミサイルランチャー。アメリカ軍がMEADSを必要とした理由を具現化しています。違いは搭載ミサイルの方向性で、MEADSが射程20〜30km程度に対し、03式中SAMは射程50km以上となっています。ただし03式中SAMは対弾道ミサイル交戦能力があるとは聞いていません。(恐らく、有ったとしてもPAC2GEMのような限定的なもの)

03式中SAMがある以上、自衛隊は新規にMEADSを装備しようなどと思わないでしょう。MEADSと比べMD能力に劣りますが、MD用にはPAC3があればよいということになります。また、将来PAC2の後継に03式中SAMの射程延伸型を採用する可能性も考えられます。PAC3が使えなくなる事を心配する必要は当面ありませんが、PAC2については何れ考える必要が出て来ます。いっそのこと全く新規に、イスラエルのアロー・システムやロシアのS300、S400のような大型対空ミサイルを開発し、弾道ミサイルも航空機も両方迎撃できるシステムで、PAC3と併せて二段構えとしてもいいかもしれません。或いはPAC2の後継にTHAADを選び、航空自衛隊の高射群は弾道ミサイル防衛に専門化し、陸上自衛隊の高射特科部隊に広域防空任務を担わせるやり方も考えられます。

大気圏外で弾道ミサイルの迎撃を行う「SM3」「GBI」「THAAD」といったシステムは、弾道ミサイル防衛の主役と呼べるものです。大気圏内で迎撃するシステムだけでは、中距離弾道ミサイル以上には対処しきれません。しかし、それだけを装備していたのでは今度は航空機や巡航ミサイルへの対処が出来ないので、結局は両方が必要になります。

アクティブレーダーホーミングによる見通し線外目標への対処能力を持つ03式中SAMは、地形に隠れ地表を這うように飛んでくる巡航ミサイルの迎撃に優れています。

Japan Tests New SAM in Texas, with Anti-Cruise Missile Capability:MissileThreat
23時58分 | 固定リンク | Comment (150) | 報道 |
2007年12月19日
        l^丶
        |  '゙''"'''゙ y-―, あ ふんぐるい むぐるうなふ すとらま
        ミ ´ ∀ `  ,:'       
      (丶    (丶 ミ   いあ    いあ
   ((    ミ        ;':  ハ,_,ハ   ハ,_,ハ
       ;:        ミ  ';´∀`';  ';´∀`';, ,
       `:;       ,:'  c  c.ミ' c  c.ミ  
        U"゙'''~"^'丶)   u''゙"J   u''゙"J

          /^l
   ,―-y'"'~"゙´  |   それ  すたばてぃ うがふなぐる ふたぐん
   ヽ  ´ ∀ `  ゙':
   ミ  .,/)   、/)    いあ    いあ
   ゙,   "'   ´''ミ   ハ,_,ハ    ハ,_,ハ
((  ミ       ;:'  ,:' ´∀`';  ,:' ´∀`';
    ';      彡  :: っ ,っ  :: っ ,っ
    (/~"゙''´~"U   ι''"゙''u  ι''"゙''u

∩(・∀・)∩いあ!すとらま!すとらま!

究極邪神STALMAの翼 - 冷却プラズマ空洞アクティブステルス技術



ロシア空軍司令官「Su50はF22をしのぐだろう」:朝鮮日報
「ロシアのSu(スホーイ)50は米国のF22ラプターをしのぐ第5世代戦闘機になるだろう」

これはロシア空軍のアレクサンドル・ゼリン司令官が15日、国営ロシア・ノーボスチ通信社とのインタビューで「第5世代戦闘機の設計が完了、戦闘機の原型製作準備に着手した」と明らかにした際の発言だ。同氏はまた、「2009年の初試験飛行と実戦配備を経て、10年以降は大量生産が可能」との見通しも語った。ロシアの第5世代戦闘機事業は今年10月、インドと共同開発協定が締結されてから本格化した。戦闘機専門メーカーのスホーイ社と、インドのヒンドゥースタン航空社が共同開発中で、製造はロシア極東の工業都市コムソモルスク・ナ・アムーレで進められている。

〜中略〜

一方、Su50はレーダー波を吸収してしまう低温プラズマ膜を機体の周囲に形成する方式を採用している。


これは別に、ロシア空軍のアレクサンドル・ゼーリン参謀長総司令官がプラズマステルス・システムをSu-50(PAK FA)に搭載すると明言したわけではありません。ノーボスチ通信(РИА Новости)の記事を漁ってみたのですが、それらしき記事は見当たりませんでした。"Александр Зелин(アレクサンドル・ゼーリン)" "ПАК ФА(PAK FA)" "Сухой(スホーイ)" "Су50(Su50)" "плазма(プラズマ)" と関連キーワードで探してみても、「Россия приступила к созданию образца истребителя пятого поколения」でゼーリン参謀長総司令官がSu-50に言及している記事が見つかるくらいです。

要するに、朝鮮日報の記事は前半がノーボスチ通信の引用部分で、後半の機体の解説は朝鮮日報の付け足しなのでしょう。確かにロシアではプラズマを使ったアクティブステルスの研究が行われていますが、実用化できるかどうか眉唾な面があり、数年後に試作機が飛ぶ予定の機体に採用されますと言われても俄かには信じ難いです。

アメリカではプラズマを利用したアクティブ防御システム(所謂、バリアー)も研究されていますが、実用に耐え得る代物ではなく、将来の課題として終わっています。現状のステルス技術(機体形状でステルス効果を得る)とは別のステルス技術は、このロシアのプラズマステルスの他にもフランスやアメリカで研究されていると噂されていますが、近い将来に実用化しそうだという話は聞きません。

とはいえ秘密兵器というものは当然、普段から秘密にされているので、ある日突然に発覚するものではありますが・・・
21時44分 | 固定リンク | Comment (58) | 報道 |
2007年11月17日
何をどう間違えたらこんな事になるのやら・・・orz. もしやと思いますが、S-300対空ミサイルの配備とゴチャ混ぜにしてしまったのでは。


ロシア:軍幹部が新型対空ミサイルの中距離化を示唆 [11/14 毎日新聞]
【モスクワ杉尾直哉】タス通信などによると、ロシア軍幹部は14日、ロシアが配備を進めている新型対空ミサイル「イスカンデルM」の射程を現在の300キロから500キロ以上に伸ばし、中距離ミサイルに改良する可能性を示唆した。

中距離ミサイル(射程500〜5500キロ)は米露の中距離核戦力廃棄条約で全廃されたが、米国が計画する東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備に反対するプーチン露大統領は条約脱退の可能性に言及しており、軍からも米国への圧力を強める狙いとみられる。

また、軍幹部はベラルーシがロシアから購入し20年までに配備を計画する対空ミサイル「イスカンデルE」が、東欧MD配備への「対抗措置の一つとなる」と語った。


ロシア軍のミサイル「Искандер」イスカンダルはNATO名がSS-26、短距離弾道ミサイルのことです。対空ミサイルではありません。毎日新聞は「タス通信など」とロシア報道を引用した形で伝えていますが、しかしタス通信は対空ミサイル等とは伝えておりません。

タス通信のサイトで"Искандер"を単語検索して出て来る記事は今の所二つですが、内容は一緒です。その中身に「対空ミサイル」を意味する単語は見当たりませんでした。


Россия поставит в Белоруссию ракетные комплексы "Искандер":ИТАР-ТАСС
Поставки российских оперативно-тактических ракетных комплексов "Искандер" Белоруссии может стать одним из вариантов асимметричного ответа России на развертывание в Европе элементов ПРО США.


оперативно-тактических ракетных комплексов "Искандер" ・・・戦術ミサイルとは紹介していますが、この書き方では対空ミサイルではありません。対空ミサイルならば「зенитный ракетный комплекс」 あたりの語句が該当しますが、それらしいものも見当たりません。そうなるとロシア報道がおかしいのではなく、毎日新聞が翻訳過程で何らかのミスをしたものと思われます。

イスカンダルが弾道弾型の地対地戦術ミサイルであることは公然の事実であり、射程の関係上、SRBM(短距離弾道弾)に分類されるものです。このミサイルはIRBM(射程500〜5500kmの中距離弾道弾)を禁止するINF条約に抵触しないように設計され、射程500km未満のSRBMとなっています。また、輸出仕様はMTCR(ミサイル技術管理レジーム)に抵触しないように、射程300km未満に抑えられています。

輸出仕様「Искандер-Э」(イスカンダルE) 射程300km未満
本国仕様「Искандер-М」(イスカンダルM) 射程500km未満

ロシア本国仕様のイスカンダルMがこれ以上の射程延伸を図れば、INF条約違反となります。ロシア本国から直接ポーランドを叩くには、射程600km以上が必要です。一方、輸出仕様のイスカンダルEはポーランドに隣接するベラルーシに置けるので、わざわざMTCRに違反してまで射程を延伸する意味はありません。同様にロシア軍がベラルーシに駐留して配備する場合も射程延伸の必要は有りません。

イスカンダルは弾道ミサイルですが、ロケットモーター燃焼後に操舵翼を用いて軌道を変更することが出来ます。(これはアメリカ軍のATACMSでも可能)此れをもって「如何なるMDをも突破できる」と称していますが、そもそもイスカンダルは射程が短く、射高も低く、飛行時間も少ないので、宇宙空間での迎撃を想定しているGBIやSM-3では迎撃できません。そうなると近距離防空用のMDであるPAC-3が相手になるわけですが、この迎撃ミサイルは敵弾道ミサイルが落ちてくるギリギリで迎撃する為、途中の飛行経路を多少誤魔化されても、最後に自身のレーダーで捉えさえすれば射撃できます。SRBMの飛行軌道変更は元々、発射地点の逆探知を防止する為に備わった機能であり、対MD突破用ではありません。勿論、軌道変更した方が何もしない場合よりも迎撃され難くなるのは確かですが、結果的に備わったものです。

ロシア軍はポーランドのアメリカ軍MD基地建設への対抗として、イスカンダルのベラルーシ輸出と、本国仕様の射程延伸を図ろうとしています(後者はINF条約脱退をチラつかせる為のポーズに過ぎない)。ポーランドのMD基地に配備されるのはGBIというMDシステムで、現状の装備の中では最も射程と射高が高く、イランのIRBM(中距離弾道弾)を迎撃するという名目です。これは射程の短いSRBM相手には対処できないので、アメリカ側は敢えてGBI自衛用にこの基地にPAC3を配備しないことで、対ロシア用ではない事をアピールするかもしれません。但しその時はポーランド軍にPAC3ないし開発中のMEADSを供与して、ベラルーシへのイスカンダル輸出を牽制するでしょう。GBIと違いPAC3は移動式なので、結果的に基地配備と変わりがありません。


【追記】
ロシア語の先生から「毎日新聞の言う"ロシア軍幹部"とは、地上軍ミサイル部隊のヴラジミール・ザリツキー少将のことではないか」との指摘がありました。

«Искандер» прикроет ракетную «брешь» России:Правда

CNN(日本語版)にもありました。

ベラルーシにミサイル配備とロシア、米MD計画に対抗:CNN

プラウダの記述を見ても、イスカンダルが対空ミサイルだとは書かれていません。この記事で、イスカンダル(SS-26)はОка(SS-23 スパイダー)に比較されて語られている(INF条約で廃棄されたSS-23の代替兵器が、射程を縮めたSS-26)以上、弾道ミサイルの話であり、対空ミサイルだという記述は見受けられません。ザリツキー少将は最初から自軍の弾道ミサイルの話をしています。

毎日新聞は一体何を見てイスカンダルが対空ミサイルなどと誤報してしまったのでしょうか。
12時15分 | 固定リンク | Comment (74) | 報道 |
2007年10月09日
今日は某mixiコミュで話題になった笠井潔の著作『国家民営化論』(光文社)の一節について簡単に語ってみようと思います。



笠井潔といえば、奈須きのこ著の小説「空の境界」(講談社)の後書き解説で、思想家以外には全く意味不明の内容を書き殴っていた(この本の読者層にとって大半が意味不明な代物)せいで不評を買ったこともありますが、元々そういう人ですから・・・

では笠井潔『国家民営論』に置ける「軍隊民営化構想」を引用します。ただし書かれた年代(1995年)が冷戦崩壊直後である事から、現在の状況にそのまま当て嵌めるわけにはいかないでしょう。



ポスト冷戦の国際社会では、交戦権の行使による国際紛争の解決は、もはや非現実的である。その意味で、国民国家に対応する国民軍=正規軍の必要はない。擬似的な正規軍である自衛隊は廃止される。ただし、日本を戦場とするケースもふくめて、先にも述べたように地域紛争の危険性は残されている。冷戦体制が崩壊した結果として、むしろその可能性は一般的に増大している。

では、地域紛争に備える軍事組織を、日本は常備すべきだろうか。むろん侵略を防止するためには、あらゆる外交的な努力が行なわれる。だが、それが失敗したときのことも、あらかじめ想定しておかなければならない。

日本に対する侵略には、武装した諸個人による市民軍の結成で対処するべきだろう。携行火器の操作法など、平時から無料で訓練を受けられるシステムを完備し、また非常の際の部隊編成や指揮系統、等々、そのためのマニュアルは事前に研究される必要がある。

ただし、戦争や軍用機や軍用艦船などの巨大兵器は不必要である。たとえば南ヴェトナム民族解放戦線の軍隊が装備していた水準の兵器、ようするに対ヘリ・対戦車ミサイルを最大限とする大小の携行火器で十分だろう。それなら特別に訓練された兵士集団を常備する必要はない。一億二千万の武装した市民軍が徹底抗戦するとき、この国を征服できる軍隊など、世界のどこに存在しうるだろう。すくなくとも二十万の自衛隊よりも防衛力として強力であることはまちがいない。

地域紛争や侵略に巻き込まれた他国を、国際的な義務として救援しなければならない場合は、どうだろう。現在の国連PKOの具体的事例に、それが適合するケースであるかどうかは、むろん別問題である。

そのようなときは、先にも述べたように武装ボランティア軍を編成して対応するべきである。他国の市民を救援するために、戦場に出かけるなど御免だという日本国民が圧倒的で、ボランティア軍の編成が困難である場合には、湾岸戦争のときのように資金提供で協力するしかない。国際的な侮蔑や非難を被ることになろうと、それは甘受せざるをえない。

以上のように外交関係を除外して、たとえ一国内でも、ほとんどの国家機構を民営化し、市場に解体することは可能である。数年前から盛んに論じられている規制緩和や民営化は、ラディカルな自由社会を形成する端緒として位置づけられ、実現されなければならない。


実は一年以上前に同じ場所で同じような内容(主張者は元過激派のA氏)のテーマで議論したことがあります。これは軍隊の民営化(民間軍事会社)というよりは、『市民軍構想』と呼ぶべきもので、一億総ゲリラ戦を想定したものでしょう。これはA氏や笠井氏だけの主張ではなく、多くの人が唱えていた理論でもあります。べトナム戦争でのアメリカ軍の敗退、アフガン戦争でのソ連軍の敗退から着想したのでしょうが、この構想には一目で分かる重大な欠陥があります。そう・・・もし敵が地上戦を行う気が無かったとしたら?

「日本は島国なので海上封鎖されたらお手上げ」

市民軍構想では戦闘機や護衛艦などの大型兵器は存在しない為、敵国が海上封鎖を仕掛けてきたら対抗手段がありません。潜水艦で商船を沈め、港湾を機雷で封鎖し、駆逐艦で海上臨検を行ってしまえば、一年半と持たずに日本本土で餓死者が出始め、降伏せざるを得ないでしょう。その後、悠々と占領すればいい。

また、対空ミサイルも携行タイプ程度しか存在しないので、射程外の高々度から戦略爆撃機が爆撃にやって来ます。地上軍の支援を行う気が無ければ、低高度爆撃は行う必要が無いのです。レーダーを警戒する必要が無いなら、尚更低空を飛ぶ意味がありません。

そもそも日本を占領する目的にしても、「航空基地を確保する為」とか、「海峡の自由な通行を確保する為」に半島などの小さな区画の限定占領が目的だったり、本土から離れた島嶼の占領だったり、日本本土全面占領を目的としない場合もあるわけです。そういった事例に市民軍では対処できません。対島嶼戦ではどうにもならない。標的が無人島だったりしたら無抵抗ですし、対馬のような大きな島でも増援が送れなければ抵抗は不可能。占領個所が本土の海峡付近(半島の一部)だとしても、狭い個所に正規軍が抵抗線を張って要塞化すれば、ゲリラ戦の手法では手出しすら出来ません。

結局、日本という島国の地理的条件では、市民軍隊構想は命取りもよいところです。そもそもゲリラ戦の損害は民間人を巻き込む悲惨なもので、日本のような人口の大きな国での防衛戦ならば、(全面的な地上戦闘に持ち込めても)数十万から数百万の戦死者を覚悟しない限り、市民軍は敵正規軍を撃退できません。

ただ単に「自衛隊を解体しろ」で終わらず、代替案を出してきたところまでは良かったのですが、やはり構想に無理があります。元過激派のA氏も、最終的には「日本の防衛には最低限の海軍と空軍が必要」と納得してくれました。

また、「軍隊の民営化」という言葉には、傭兵や「民間軍事会社」という意味もある訳ですが、今回はこれには触れていません。


オマケ(元々、ボランティアとは「志願兵」の意)

「武装ボランティア軍の例」
23時36分 | 固定リンク | Comment (132) | 報道 |