2010年01月20日
SPA!で記事になり話題となった現役陸自幹部のトンデモ妄言の数々。

[PDF]総力特集 大マスコミが報じない隠された真実|新型インフルはウイルステロだった!ホメオパシージャパン株式会社

これに対するツッコミは、幻影随想の黒影さんが最もよく纏まっています。

SPA!のトンデモ記事および池田一等陸佐の免疫学に対する無知を切る:幻影随想

ホメオパシーについてはこの記事も読んでおくとよいでしょう。数あるトンデモ疑似医療の一つです。

ホメオパシー - Wikipedia
ホメオパシー - Skeptic's Wiki
幻影随想: ホメオパシーヤバイ

自衛隊も24万人近い人が居るのですから、中にはトンデモな人が混じっていても仕方が無いかもしれませんが、幹部、それも隊内で教育に携わる人がトンデモだったら、その害悪の影響が隊内に広まってしまう事になり、看過できる問題ではありません。池田一佐は陸上自衛隊小平学校の教官です。以前紹介した「平和宇宙戦艦」でも同じような問題が起きています。自衛隊は、こんな事を続けていたら隊全体の正気が疑われてしまいます。

即座に人事的な処理を行うように、願います。

なお現役のある一尉に池田一佐の事を聞いてみたところ、以下のようなコメントが返ってきました。



語りたくない人物が話題にw

昔自衛隊内の機関紙(幹部自衛官用)に、
「水は話しかけると美味しくなるのですよ」
という内容のすさまじい投稿を載せて以来、注目していた。

つか、そういう類の投稿しかしていない。
科学・実証を第一と考える小官からしたらある意味アンタッチャブルな人<池田1佐


・・・池田一佐は「水からの伝言」の信奉者だった模様。トンデモ疑似科学のオンパレードでくらくらして来た・・・隊内では以前から有名人だったみたいです。

水からの伝言 - Wikipedia
「水からの伝言」を信じないでください
水はなんにも知らないよ (著)左巻 健男


【追記】
1月23日に産経新聞が書評で池田整治氏の著作を好意的に紹介。


【書評】『マインドコントロール』池田整治著:産経新聞
GHQ(連合国軍総司令部)による自虐史観の刷り込み、宗教を隠れ蓑(みの)とした謀略、水道水の塩素を巡る米軍との衝撃的なやりとり、添加物(化学物質)で汚染された食卓、インフルエンザなどのウイルス兵器で脅される世界、大和王朝成立の本当の背景、戦争のたびに儲(もう)ける支配層による仕組み作り、江戸の素晴らしさを否定された日本人への罠(わな)など、これまで普通の日本人が陰謀史観だと思い込まされていた事象の一つひとつを、独自のコメントで引っくり返していきます。


内容は憂国ネタで陰謀と電波に塗れた代物です。
21時21分 | 固定リンク | Comment (286) | 国士 |

2009年05月29日
北朝鮮はテポドン2の発射に続き、二回目の核実験を行い、周辺地域の軍事的緊張を高めています。我が国はこれに対応し、新たな軍備を調達し新たな手段を得ようとしています。これまで対北朝鮮を理由にミサイル防衛のような防衛的装備が配備されてきましたが、新たに敵基地攻撃能力の獲得が提言されました。敵地へ侵攻し目標を破壊する装備を調達せよ、というのです。


防衛大綱・自民素案「北策源地攻撃に海上発射の巡航ミサイル」:産経新聞
年末の防衛計画大綱改定に向け、自民党国防部会がまとめた素案概要が25日分かった。4月の北朝鮮弾道ミサイル発射を受け、海上発射型の巡航ミサイル導入など敵基地攻撃能力の保有を提言。米国を狙った弾道ミサイルの迎撃など4類型について政府解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認める方向性も示した。

政府は敵基地攻撃は、敵のミサイル攻撃が確実な場合は憲法上許されるとするが、北朝鮮まで往復可能な戦闘機や長射程巡航ミサイルがない。素案は弾道ミサイル対処で、ミサイル防衛(MD)システムに加え「策源地攻撃が必要」と明記。保有していない海上発射型巡航ミサイル導入を整備すべき防衛力とした。

MDでは、自前の早期警戒衛星開発やPAC3より広い空域での迎撃が可能な「THAAD」(高高度地域防衛)システムの導入検討を提言。公海上に展開するイージス艦防護を念頭に、公海上の自衛隊艦船・航空機への不法行動にも武器を使用して対処できるよう検討することなどを打ち出した。

素案は日米協力や国際貢献のため、(1)公海上での米軍艦艇防護(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃(3)駆けつけ警護(4)他国部隊の後方支援−の4類型について、集団的自衛権行使に向けた国民理解を深める必要性を強調。複数国による戦闘機などの共同開発を視野に武器輸出3原則を見直し、米国以外の企業とも共同研究・開発、生産を解禁する考えを示した。


記事本文にあるとおり、提出時期的にこの素案は北朝鮮の核実験を踏まえたものではなく、テポドン発射までを踏まえた内容のものです。あくまで提言の段階に過ぎず、防衛大綱に反映させる事が決定ではありませんし、第一その前に総選挙があるので与野党が引っくり返れば白紙となるものです。

ミサイル防衛については新たに「THAAD」の導入が提言されており、日本のMD計画の方針としては初めてその名が出てきました。もっと以前から導入する話は出ていましたが、マスコミが報じたのはこれが初出です。

また武器輸出三原則の緩和については、日米で共同開発中のMD計画「SM-3Block2」が関係してきます。日本は既にF-2戦闘機をアメリカと共同開発する際、武器輸出三原則を緩和していますが、F-2戦闘機自体は日本のみが配備調達する機材でした。しかしSM-3Block2は日本とアメリカが配備する他にオーストラリアが調達予定であり、新たにイスラエルも調達する可能性があります。現在のシステムのままだとイージス艦を保有している国以外には配備できませんが、「地上配備型SM-3」という計画案もつい最近になって提案されており、これが実現化すればSM-3を調達しようとする国は更に出て来る可能性があります。そうなると日本が開発に携わった兵器があちこちの国に売られていく事になるので、F-2戦闘機の時よりも更に武器輸出三原則を緩和する必要性が出て来ているのです。

MDを理由にした集団的自衛権の行使の問題については、これもSM-3Block2が関係してきます。どのみち、北朝鮮からアメリカ本土に向けて発射される弾道ミサイルは北極圏付近を通過していくコースになるので、日本が配備予定のMDでは位置的に迎撃する事は不可能ですが、ハワイやグアムに向けて発射される弾道ミサイルならば日本上空を通過するコースを通るので、最大迎撃高度が高いSM-3Block2ならば条件次第で撃墜することが可能ではないかと思われているからです。開発中のSM-3Block2の性能は今だ謎に包まれていますが、Block1よりも2倍以上の最大射程・射高を持っていると推測され、最大射程(水平距離)1000〜2000km、最大射高(高さ)500km以上と予測されます。

北朝鮮からハワイを射程に収める弾道ミサイルは射程7000kmの準ICBMであり、最大到達高度は約1200km、日本上空付近を通過する際は高度500〜800kmを飛んでいく為、日本海に前進配備したイージス艦ならば僅かながら迎撃のチャンスが生まれます。グアム向け弾道ミサイルならば射程3500kmあれば届くので、このギリギリの性能の弾道ミサイルならばSM-3Block2による迎撃が十分に可能ですが、ハワイ向け用の準ICBMをロフテッド軌道(極端に高い弾道軌道)でグアムに撃ってきた場合は対処が困難になります。

何れにせよ、基本的にIRBM(中距離弾道ミサイル)までの迎撃を想定しているSM-3Block2にとって準ICBM(大陸間弾道ミサイル)との交戦はよほど好条件でないと難しく、日本付近での中間迎撃はアメリカとしてもあまり期待はしていないでしょう。むしろ弾着地点付近で待ち構えて迎撃した方が対処し易いように思えます。或いはSM-3Block2は将来、更に格段の性能向上を遂げる計画があるのかもしれませんが、現時点では北朝鮮の脅威とMDを口実に政治的な要求を通そうとする要素が強く、技術的に本気でアメリカ(ハワイ、グアム)向けの弾道ミサイルを撃墜する気があるのかは見えてきません。


さて前置きが長くなりましたが、肝心の「MDに加え策源地攻撃が必要」という部分、具体的には海上発射型巡航ミサイルが上がっていますが、敵基地攻撃能力の整備についての話になります。

「策源地」とは本来、前線に物資を送り込む後方の補給拠点を意味します。しかしこの素案で使われているのはもう少し広い意味で、「攻撃しようと準備している場所」の事を指しています。敵国が弾道ミサイル等を日本に向けて撃とうと準備している場合、これを攻撃して脅威を排除する事は自衛権の範囲内であり、憲法に抵触しないと国会で答弁したのは1956年、当時の鳩山一郎首相です。しかし専守防衛の理念とぶつかる考え方の為、自衛隊はこれまで本格的な敵基地攻撃能力の獲得は行ってきませんでした。

それを今になって、北朝鮮の核とミサイルの脅威を背景に、弾道ミサイルの脅威を排除する手段として検討しようという動きです。ただし、これが弾道ミサイルの脅威を排除する主役には成り得ません。あくまでMDが主役であり、敵基地攻撃能力はその補佐、或いは弾道ミサイル以外の脅威を排除する手段として獲得する能力です。

弾道ミサイルを発射前に叩く事では防ぎきれない前例として、湾岸戦争での「スカッド狩り」が挙げられます。あの戦争では、アメリカを中心とする多国籍軍は数千機の作戦機を投入してイラク上空の航空優勢を確保、上空には戦闘爆撃機を常に待機させ、対地用早期警戒管制機「E-8ジョイントスターズ」で地上を見張り、スカッドを搭載した移動式弾道ミサイルランチャー(TEL;Transporter-Erector Launcher 輸送-起立-発射機)を発見次第に空爆、撃破を行いました。更には潜入した地上特殊部隊による大口径対物ライフルの狙撃でスカッドを破壊するなど、あらゆる手段を用いて破壊を試みたものの、イラク軍は日中はTELを隠し、バルーンデコイやTELに擬装したタンクローリーなど囮を配置し、夜間になると行動しゲリラ的な発射で弾道ミサイル攻撃を行っています。攻撃が夜間になったのは相手への心理的効果もさることながら、イラク軍自身が見つかりやすい日中は行動不可能だった面があります。

結果、湾岸戦争でイラク軍による弾道ミサイル攻撃はイスラエルに向けて約40発、サウジアラビアやバーレーンなどに向けて撃たれたものを含めると約90発が発射に成功しています。砂漠で監視しやすいイラクですら、この有様です。山間部の森林地帯である北朝鮮の国土では、TELの発見はより困難となるでしょう。アメリカ軍の圧倒的な戦闘爆撃機の数とE-8ジョイントスターズの存在、近隣に航空基地を確保した優位性を持っても、イラクでのスカッド狩りは成功率が非常に低かったのです。

しかし、アメリカ軍を中心とするスカッド狩りは成功率が低くても重要な成果を果たしていました。航空優勢を確保されてしまったイラク軍は、その行動は大きく制約され、大規模な纏まった行動が出来なくなり、それぞれが身を隠しながらゲリラのような散発的な弾道ミサイル攻撃を仕掛ける以外に取れる手段が無くなってしまったのです。

つまりそれは、多数のミサイルを一斉に発射して相手の防空網を突破する「同時飽和攻撃」が大変仕掛け難くなった、という事を意味しています。戦闘攻撃機が敵地上空で睨みを利かすことは、味方の対空迎撃部隊の負担を大幅に減らす効果を見込む事が出来ます。つまり現在で言えばMD部隊の迎撃成功率を高める効果が期待できるのです。

湾岸戦争では、戦闘攻撃機によるスカッド狩りも、パトリオットPAC-2によるスカッド迎撃も、どちらも成功率は低いものでした。しかし当時のPAC-2は弾道ミサイル対処能力が無かったものを無理矢理使った結果であり、あれから20年近く経った現在では専用の弾道ミサイル防衛用装備であるPAC-3、SM-3、THAADなどが登場しており、技術的には格段の進歩を遂げています。キネティック弾頭のような大気圏外で迎撃する兵器など、あの当時では夢物語のSF兵器に近しいもので、時代の流れというものを感じさせます。しかし一方、スカッド狩りのような手法は格段の進化を遂げているようには見受けられません。強いて言うならUAV(無人機)による監視と攻撃が挙げられるくらいで、確かに進歩はしていますが、それではE-8ジョイントスターズを上回る働きを期待できるかというと、やはりそれは違うように思えます。

MD(ミサイル防衛)と敵基地攻撃能力、どちらに弾道ミサイルへの対処の主軸を置くかは、自明の理だと思います。しかし、どちらか片方が有れば片方は無くても安心というものではなく、敵基地攻撃能力による敵同時飽和攻撃の抑制を行い、MDの迎撃成功率を高めるという効果を見込めるからこそ、両方が必要だという主張に繋がるのです。

敵基地攻撃能力を敵の脅威排除の主軸に置く事は出来ません。専守防衛の理念に反するという理由以前に、物理的に日本単独では実行不可能だからです。日本の航空自衛隊の乏しい攻撃戦力で、それ以前に目標を発見する能力すら低く、近場の韓国の航空基地を利用できるわけでも無いのに、一体何が出来るというのですか? 湾岸戦争でのスカッド狩りのような真似は、あくまでアメリカ軍が主軸でやってもらう話です。日本や韓国はそれの補佐を行う役割です。アメリカ軍と同じような事を単独で行うには、膨大な航空戦力が必要になります。それを本気で整備しようとしたら、MD費用どころではない金額が吹き飛んでいく事になります。

更に言えば「巡航ミサイル」ではスカッド狩りには向いていません。トマホーク巡航ミサイルのような長距離巡航ミサイルは、固定目標を攻撃するもので、移動式ミサイルランチャーを攻撃する為のものではありません。亜音速で長距離を飛行するトマホークは、発射から着弾まで数時間掛かる代物で、移動するTEL相手に撃っても何の意味もありません。しかも貫通能力が殆ど無い為、弾道ミサイルを収めた固定サイロ目掛けて発射しても、サイロが耐爆仕様の強化型ならば何の打撃も与えられません。トマホーク巡航ミサイルにはチタニウムを使用した弾殻強化の貫通タイプもありますが、可能なのはビルなど普通の建造物を貫通するのがやっとの代物で、本格的な耐爆バンカーや強化サイロには通用しません。つまり自民素案の「海上発射型巡航ミサイル」で破壊できる弾道ミサイルは、テポドンのような固定式暴露型発射台のものに限られます。しかしそれは実験用の試射台であり、実戦で使われるような代物では無い筈です。つまり「策源地攻撃が必要」という部分の策源地とは、弾道ミサイル以外の目標を狙う気でいると考えていると思われても仕方は無いでしょう。其処まで深く考えておらず、敵基地攻撃なら巡航ミサイルだな、と短絡的な発想を行っただけかも知れませんが。

本気でスカッド狩りの真似事を行う気なら、理想は戦略爆撃機を含む多数の作戦機を上空で待機させ、目標を発見次第に誘導爆弾で撃破する戦法が良いでしょう。しかし勿論、そんな贅沢な手段はアメリカ軍以外には出来ません。そして無人攻撃機は発展途上であり、このような作戦を行わせるような技術レベルには達しておらず、現有の機材では補佐的な事は出来ても主軸は期待できません。通常の有人戦闘爆撃による攻撃編隊の編成は、例えEA-18Gグロウラーのような電子戦機を加える事が出来ても、自衛隊の戦力では用意できる数が知れていて、100基単位の敵弾道ミサイルを撃破していくには難しい面があります。ステルス攻撃機ならば制空部隊も電子戦機も省けるので、自衛隊の全戦闘機がステルス化すれば非ステルス機による攻撃部隊よりも攻撃に割ける機体の数が増えますが、航続距離や空中給油機の数の問題も有るので、劇的に増えるわけではありません。

そもそもどうやって目標を発見するのか、難問です。日本にはE-8ジョイントスターズのような機材は無いのです。普通の有人偵察機や無人偵察機で代用できるような代物とは、思えません。

また韓国の基地を使って近場から反復攻撃を仕掛けたいのですが、政治的に自衛隊機が韓国を拠点に作戦行動を行うのは難しいでしょう。軍同士のレベルなら問題は無いし有事の際の協定も結んでいるとされていますが、政治的なわだかまりと国民感情が自衛隊=日本軍の展開を許すとは思えません。

そうなると「航空母艦を使って北朝鮮近海に接近、艦載機で反復攻撃」「航続力の高いステルス戦略爆撃の投入」などという、これまたアメリカ軍くらいしか実行できない贅沢な装備が必要となり、日本では実現不可能です。

今の所、敵基地攻撃能力でこれが効率的だ、と言える装備を思い付く事が出来ません。だからこそMDを重視すべきだと思っていますが、既に述べたように敵基地攻撃能力とMDを組み合わせると相乗効果を発揮できるので、有効な敵基地攻撃能力は保有すべきと考えます。ですがハープーンBlock2、ASM-2データリンク型、XGCS-2、マーベリック、JASSM、トマホーク、SDB、どれもスカッド狩りの決定打とは言い切れるものがありません。

「自衛隊はミサイル策源地への攻撃能力を獲得すべきだ」と唱える方は、具体的にどのような装備が良いのか、意見を聞かせてください。
23時19分 | 固定リンク | Comment (476) | 国士 |
2009年02月19日
前回の記事の90式改さんのコメントについて補足説明をしておきます。第一次世界大戦で地中海に派遣された日本海軍の駆逐艦に関するエピソードです。


2月6日はブログの日? - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記
ちなみに駆逐艦「榊」が「魚雷の直撃を受け」たと山口記者は書いているが、私が聞いた話では、船団に向かって走る魚雷の航跡を発見した「榊」は、間に合わないと見て「艦ごと魚雷に体当たりをした」のが真実だという。この「わが身を省みない勇敢な」行為を見ていた船団が感謝しなかったはずはない。「武士道」の国から来た軍隊を思い知ったに違いないからである。

英国出身の作家・C・W・ニコル氏は「海自がインド洋に派遣されているが、派遣の是非を論じる前に世界が称賛したこんなに勇敢で誇り高い日本人がいたという事実をもっと学んで欲しい」と言っているそうだが、肝心要の日本政府が、未だに「村山談話」を踏襲(とうしゅう)しているようでは、自衛隊員はおろか、国民にも誇りと勇気が持てるはずはない。


佐藤元空将が「私が聞いた話」としている部分の正体は、扶桑社刊「新しい歴史教科書」に記載されている明確な間違い箇所です。意図的な捏造と思われても仕方の無いほど、事実を捻じ曲げて美談に仕立て上げた個所であり、2001年に「新しい歴史教科書」が初めて世に出た際に、真っ先にツッコミが入っている筈なのですが・・・


『中学社会 新しい歴史教科書』2001年4月検定合格版(扶桑社刊)244〜245ページ
1917(大正6)年になって、ドイツの潜水艦が商船を警告もなく無制限に攻撃する作戦を開始すると、その暴挙にアメリカは参戦、日本は駆逐艦隊を地中海に派遣した。

地中海での作戦中、ドイツ潜水艦から魚雷が発射された。その魚雷の発見が一瞬、遅れたときに、日本駆逐艦は連合軍船舶の前に全速で突入して盾となり、撃沈されて責務を果たした。犠牲になった日本海軍将兵の霊は、今もマルタ島の墓地に眠っている。


まず日本海軍地中海派遣艦隊(第二特務艦隊)は、1隻の戦没艦も出しておらず、駆逐艦『榊』が魚雷攻撃を受け大破したのが最大の損害ですが、『榊』は艦首と艦橋を吹き飛ばされながらも何とか帰還しています。故に撃沈の事実はありません。

しかも被雷時、『榊』は護衛作戦を終えた後の帰還中であり、僚艦『松』と2隻のみで行動しています。守るべき船団など存在していませんでした。連合軍船舶の盾となったという美談は有り得ません。

そして『榊』を攻撃したのはオーストリア=ハンガリー二重帝国の潜水艦『U27』です。ドイツ潜水艦ではありません。

戦闘詳細は江戸屋敷01「駆逐艦榊の被雷」をご覧ください。また失われたオーストリア・ハンガリー二重帝国海軍 : 「ウィーン軍事史博物館」見学・その6では、『U27』の縦断面模型の写真が置いてあります。


・・・「新しい歴史教科書」の駆逐艦『榊』に関する記述は、歴史的事実を捻じ曲げて美談に仕立て上げた、悪質な捏造です。そしてそれは何年も前に指摘されて、もうとっくに終わっていた話だとばかり思っていましたが・・・しかも佐藤氏はC.W.ニコル氏を引き合いに出していますが、そのC.W.ニコル氏が編集に携わった「日本海軍地中海遠征記―若き海軍主計中尉の見た第一次世界大戦」(著者・片岡覚太郎、河出書房新社)にも、駆逐艦『榊』は被雷時に船団護衛中では無かった事が明記されているのです。片岡覺太郎氏(最終階級は中将)は駆逐艦『榊』の僚艦『松』の乗組員で、これは体験手記であり事実が書かれてあります。日本海軍が1938年に纏めた「近世帝国海軍史要」でも『榊』と『松』は護衛作戦を終えた後の帰還中に、2隻でいる時に、潜水艦による襲撃を受けた事が記載されています。

この史実と全く異なる駆逐艦『榊』の美談捏造は、「新しい歴史教科書」以前には見受けられず、デマの元ネタの根源は「新しい歴史教科書」です。元空将がこんなものをあっさり信じ込まれては非常に困ります。「私が聞いた話」で終わらず、ちゃんと確認してください。C.W.ニコル氏のコメントの都合の良い部分だけ抜き出さず、そのコメントが記載されている本を全部読んでいれば、避けられていた事態の筈です。

自衛隊員や国民に誇りと勇気を持てと仰られるのは結構ですが、嘘と虚飾に塗れた誇りなど必要ありません。
01時49分 | 固定リンク | Comment (158) | 国士 |
2008年12月29日
前回の記事「核兵器シェアリングという幻想」は少し説明が長くなってしまいましたが、NATO方式の核兵器シェアリングを一言で言い表すと「アメリカがNATO加盟国に短射程戦術核兵器を使用直前に譲渡し、攻め込んできた敵軍を吹き飛ばす為のもの」です。短射程戦術核兵器である以上、敵国が持つ長射程戦略核兵器に対する抑止力とは成り得ません。ではどうしてこんな事を、核兵器をわざわざ手渡す必要があるのでしょうか。アメリカ軍がそのまま使ってしまった方が手早く効率的な筈です。核兵器シェアリングという回りくどい事をする意味・・・それは短射程戦術核兵器という存在の意味を理解すれば、その理由が分かります。

自国自身が、自己の判断で、自国領土内で、攻め込んできた敵軍に、核攻撃を行う。

これが短射程戦術核兵器を譲渡する事の意味です。攻め込んできたソ連軍に対し、アメリカ軍が核攻撃を行った場合、戦場となった国は大被害を受けます。アメリカ軍の行動がNATO指揮下のものであり、NATO加盟国が納得済みであったとしても、被害を受けた国の国民はとても納得できないでしょう。例え戦争に勝てたとしても、核攻撃を行ったアメリカは恨まれる事になります。味方殺しの罪・・・核兵器シェアリングとは、この味方殺しの罪を一緒に背負うという意味があります。アメリカ一国に罪を背負わせるのではなく、NATO全体で背負っていく為に・・・故に核兵器を使用直前に配備国へ譲渡し、配備国の責任の下に使用します。自国領土に核を落とす決断を、自国自身の手で行う為に。これほどまでの悲壮な覚悟を持っていなければ、核兵器シェアリングに参加することなど出来ません。お手軽に核武装できる手段だと勘違いしている人が居ますが、それは甚だしい間違いです。

構想自体が「自国領土内での迎撃戦闘に核兵器を用いる」という前提であるが故、核兵器シェアリングで譲渡される兵器は短射程のものに限られます。敵国の中枢部を直撃できる長射程の核兵器は、そもそもこの核兵器シェアリングという構想の目的外のものです。実は「アメリカ本土を攻撃できるような核兵器は譲渡されない」というのは副次的な意味での結果であって、それが第一の理由ではありません。その為、アメリカ本土さえ安全ならいいだろうと「日本とアメリカが核兵器シェアリングを行い、アメリカ本土は攻撃できないが中国の主要部に届く射程の核兵器を用意する」という選択は、出来ません。核兵器シェアリングとは配備国の意思で自国領土内で核兵器による迎撃戦闘を行うものである以上、敵国領土を攻撃する目的の核兵器は最初から有り得ません。そのようなものは存在自体が既に核兵器シェアリングという概念から外れてしまっているのです。

その為、もし日本に核兵器シェアリングを適用するとしても、NATOで行われているB61戦術核爆弾の譲渡は出来ないかもしれません。B61をNATOで使う場合には、ソ連中枢に叩き込もうとする国は無いでしょう。大規模地上戦闘が始まっている時点で、既にそのような目標はアメリカの戦略核兵器によって叩かれた後である上に、目の前に迫ってきている敵地上軍を何とかするほうが先決だからです。一方、日本の場合、中露への爆撃は無理でも北朝鮮への爆撃はどうにか可能であり、北朝鮮は大規模途洋侵攻をして来ないわけで、そうなると北朝鮮の長射程核兵器に対して、B61を核抑止力・核報復手段として使おうとしたがるでしょう。しかしそれは核兵器シェアリングの意味から逸脱してしまいます。よって、アメリカはNATO加盟国にB61を譲渡しても日本には譲渡しない可能性が高いです。その場合、日本が核兵器シェアリングで許される核兵器は、対空核ミサイルや榴弾砲用の戦術核砲弾などの、国内での迎撃戦闘にのみ使用できる物に限られます。

ところで・・・


【著者が語る】報道されない近現代史
アパグループCEO・元谷外志雄氏
(産経新聞出版・1575円)
FujiSankei Business i. 2008/5/24

本書では、米国が独、伊など5カ国に核抑止力のための政策として提供している「ニュークリア・シェアリング(核分担)」の有効性を説いた。これは、米国が戦時には核を保有しない同盟国に核兵器を提供する仕組みで、メディアは知らせようとすらしない。


まさか田母神前空幕長の元ネタはこの本なのか、それともアパの元谷社長に教え込んだ側なのか、それとも二人とも別の人の主張を鵜呑みにしているのか知りませんが・・・まさか核兵器シェアリングで長射程戦略核兵器が得られるとか、勘違いしていないでしょうね?
23時30分 | 固定リンク | Comment (38) | 国士 |
2008年12月28日
田母神前空幕長が「核ミサイルの発射権を日本に与えてくれという(米軍との)交渉は、私はできると思う」と主張したのは、NATO方式の核兵器シェアリングという構想を念頭に置いています。NATOの核兵器シェアリングとは、平時は駐留アメリカ軍が保管している核兵器を、有事の際に必要に応じて配備国へ譲渡し、使用権限を与えるという方式です。起爆コードは使用直前までアメリカ軍が管理します。現在受け入れ国はベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの五カ国で、カナダやギリシャは既に離脱しています。

当然の事ながら決定権はアメリカ政府にあり、そして万が一にも譲渡した核兵器がアメリカ本土に向けられる事が無いように、長射程ミサイルなどは除外されます。つまり直接アメリカ本土を狙えるICBM級の長射程兵器は除外されますし、隠密裏にアメリカ本土に接近できる潜水艦に搭載できる兵器も除外されます。具体的に現時点で、譲渡される予定の核兵器はB61戦術核爆弾となっています。以前にはMIM-14ナイキ・ハーキュリーズ地対空ミサイルやCIM-10ボマーク地対空ミサイルの核弾頭型、AIR-2ジニー空対空核弾頭ロケット、MGR-1オネスト・ジョン地対地ロケット核弾頭型も譲渡対象の兵器でしたが、どれも射程は短い戦術核兵器で、中距離弾道弾どころか短距離弾道弾よりも射程は短いものばかりです。B61戦術核爆弾に至っては、単なる自由落下爆弾です。

B61 (核爆弾) - Wikipedia
MIM-14 (ミサイル) - Wikipedia
ボマーク (ミサイル) - Wikipedia
AIR-2 (ミサイル) - Wikipedia
MGR-1 (ロケット) - Wikipedia
Nuclear Weapon Effects Calculator(核兵器威力計算)

基本的にこれらの戦術核兵器は、押し寄せる戦車部隊を吹き飛ばしたり、爆撃機の大群を一網打尽に吹き飛ばす為に有ります。都市への攻撃や敵ミサイルサイロへの攻撃など、戦略目標を狙うには破壊力が劣り(それでも広島型原爆の数十倍の破壊力だが)、射程などを見ても全く不向きです。つまりこれは冷戦時代に考えられていた実戦での戦術核兵器の応酬に対抗する為のものであり、核抑止力を発揮する為にあるのではありません。地続きのヨーロッパなら戦争時の使い道は多いのかもしれませんが、大陸と海を隔てた日本の場合、あまり意味がありません。

例えば日本が現在のNATO核兵器シェアリングと同条件で、有事の際は在日米軍からB61戦術核爆弾を受け取り、使用できるとします。運用するのはF-15やF-4、F-2といった戦闘機となるわけですが、作戦行動半径の関係上、空中給油機を随伴させたとしても、ロシアや中国の奥地への攻撃はまず無理で、弾道ミサイルのサイロを叩きに行く事は出来ません。また威力不足で、硬化サイロを破壊できない可能性があります。それ以前に防空網を突破できるだけの戦力を送り込めそうに無く、ステルス戦略爆撃機にB83戦略熱核爆弾(2メガトン)でも積んで行くなら話は別ですが、B61戦術核爆弾程度では、ロシアや中国に対する抑止力とは成り得ないでしょう。北朝鮮ならば空中給油が出来ればなんとか空爆が行える範囲ですので、対北朝鮮限定ならばそれなりに意味はあるかもしれません。日本がNATO方式の核兵器シェアリングを行うという事は、得られる効果はこれが限度です。前空幕長ならこんな事ぐらい当然理解しているだろうからともかく、支持者の方で核兵器シェアリングに賛同している人は、この事をきちんと把握しているのでしょうか? 

アメリカがNATO諸国に許した核兵器シェアリングの兵器は基本的に全て迎撃用です。地対空ミサイルや空対空ミサイルの核弾頭タイプは敵爆撃機編隊迎撃用ですし(MIM-14は対地攻撃モードもあるが)、B61戦術核爆弾も、押し寄せる敵戦車群に放り込む事を想定しています。MGR-1地対地ロケットもその射程の短さから、侵攻してくる敵前線部隊相手にしか使えません。IRBM(中距離弾道弾)やICBM(大陸間弾道弾)、長射程の巡航ミサイルなどの兵器は、分担の対象にはなっていないのです。例えば冷戦時代、西ドイツ空軍が運用していたパーシング中距離弾道ミサイルは、ミサイルの発射権限と核弾頭はアメリカ軍の管轄下にあり、戦時でも西ドイツへの譲渡はされません。西ドイツのパーシング部隊は一度、アメリカ軍管轄の核弾頭を戦時に譲渡される体制を試した事がありますが、やはり駄目だと5年で中止されています。イタリアが計画していたポラリス弾道ミサイルを搭載する戦略ミサイル巡洋艦構想はミサイルが丸ごとアメリカの管轄下にあり、発射権限もアメリカ軍が握っています。

もし中国やロシアへの核抑止力が欲しいのであれば長射程兵器が必要ですが、この場合は核兵器シェアリングではなく、嘗ての西ドイツ空軍のパーシング部隊やイタリア海軍の戦略ミサイル巡洋艦構想のような方向で無いと、アメリカは許可しないでしょう。北朝鮮相手でも、B61のような自由落下の戦術核爆弾で長距離爆撃を行うのは大変で、しかも戦略目標を狙う気なら効果は低く、核兵器シェアリングは割に合いません。

しかも現状、NATOの核兵器シェアリングは冷戦時代の遺物だとされ、撤廃される方向で話が進んでいます。B61戦術核爆弾も古く、一部で延命されているものの、全体の多くは寿命に近付いています。もう核兵器シェアリングという考え方自体が消えてなくなる寸前にあるのです。それなのに日本が今更になって申し込んだりしたら・・・

田母神;「核ミサイルの発射権を日本に与えてくれ!」
米空軍;「分かった、君の国は専守防衛だったな、だったら地対空ミサイルのパトリオット核弾頭型で良いか? それとも君には馴染みのナイキが良いかな? 是非とも長沼に配備してくれ」

きっとアメリカさんとしては冗談だと思ってこんな返答を行うだろう、と思うのですがどうでしょうか。
22時00分 | 固定リンク | Comment (117) | 国士 |
2008年12月27日
今度はとうとう、根拠ゼロで99%支持ですって・・・一体、何処の国の独裁者の支持率ですか?


田母神氏「制服99%が支持」 講演で影響力強調 : 共同通信
政府見解の歴史認識を否定する論文公表で更迭された田母神俊雄前航空幕僚長が23日、熊本市内で講演し「制服自衛官の99%が私を支持していると思う」と自身の影響力を強調した。

講演に先立ち記者会見した田母神氏は「(講演では)一民間人の立場で話すが、前空幕長として見られるだろう」と発言。「日本は自衛官に発言させまいとする力が常に働いているが、自衛官はもっと自分の思ったことを言っていい」とぶちまけた。

講演では「専守防衛は抑止力にならない。自分の国がより強い方がより安全だ」「核ミサイルの発射権を日本に与えてくれという(米軍との)交渉は、私はできると思う」などと、核武装を容認する考えを並べ立てた。


制服自衛官が99%支持していると思う、というのは流石に本気で言っているのではないでしょう、もし本気で言っているなら頭がおかしくなっていると見るべきでしょうね。つまり何の根拠も無く99%という数字を出してハッタリをカマしたわけですが、もうその時点で「私は寝言を言っています」と宣言したようなもので、お笑い芸人としては良いかもしれませんが、政治的センスは微塵も感じられず、煽動家としても上手くはいかないでしょう。このまま放って置けばピエロで終わります。もうこの人を話題に上げる価値すらも見い出せなくなりつつありますね・・・今後はよほどのことが無い限り、取り上げる事は無いでしょう。

あと一点だけ。

「核ミサイルの発射権を日本に与えてくれという(米軍との)交渉は、私はできると思う」

何ですかコレ? 自主核武装の話をしているんですか、それとも核兵器シェアリングの話をしているのですか、どっちですか? そしてどちらだとしても厚顔無恥な話でしょう。あれだけアメリカを陰謀論だの何だので悪し様に罵り、アメリカに隷属するのはイヤだ、自主国防がしたいと言い張っておきながら、イザ核武装の際にはアメリカは日本に全面協力してくれるはずだ、OKしてくれる筈だ・・・あのですね、自分がアメリカの立場に立って見て下さい。もし日本がそんな事を言ってきて、呑むと思いますか? 日本がアメリカに核を向けないという保障が無い限り、危なっかしくてそんな事できるわけが無いでしょう?

日本の核武装論者に多く見られる傾向ですが、普段反米的主張を繰り返している癖にこういう時だけアメリカは助けてくれると信じきっているのは、甘えでしかありません。楽観主義にも程があるんじゃないですか?

もし日本が核を持てるとしたら、非核三原則を無くした上で、核兵器シェアリングですらないプラン・・・かつて1960年代にイタリアが実際に計画した「戦略ミサイル巡洋艦構想」ぐらいならまだ現実味があるかもしれませんがね。これはイタリアが用意するのが巡洋艦という容器だけで、アメリカの核弾道ミサイル(UGM-27ポラリスを4基)とその発射権限を有するアメリカ軍人を乗せる方式でした。この戦略ミサイル巡洋艦構想は既存の巡洋艦「ガリバルディ」をポラリス搭載改修まで行いながら肝心の核ミサイルを実装せずに終わりましたが、寸前まで行ったプランです。容器自体は別にディーゼル潜水艦でも構いません。

でもこのプランだと発射権限は日本が握れないので、自主国防論者の人には支持されないでしょう。そうでなくても単体プランとして見ても今の日本に適用するのはかなり無理がある話で、必要性があるとは思えませんし、国民の支持は得られません。ましてや「核ミサイルの発射権を日本に与えてくれ」などと、余計に通用する話では無い筈です。

Giuseppe Garibaldi (incrociatore 1961) - Wikipedia

これはイタリア版ウィキペディアのページですが、巡洋艦ガリバルディ改装後の弾道ミサイル・ポラリス搭載セルの写真「La sistemazione per i missili Polaris.」と、模擬発射試験の写真「Lancio di simulacro inerte di missile Polaris.」を見る事が出来ます。
23時33分 | 固定リンク | Comment (152) | 国士 |
2008年12月16日
五百籏頭 真(いおきべ まこと)・・・日本国、防衛大学校長。
朱 成虎(Zhu Chenghu)・・・中華人民共和国、国防大学防務学院長。

両者は似たような役職に在ります。違いといえば朱成虎防務学院長は空軍少将の身分を持っているのに対し、五百籏頭校長は元は神戸大学の教授で、防衛大学校長へは招かれて就任しており、将官の地位は無く防衛省職員(自衛隊員)という扱いです。また防務学院とは中国人民解放軍国防大学の内部部局の一つです。防務学院長は国防大学の中の一つの学部長という役職です。今回は田母神論文騒動について、五百籏頭校長と朱成虎学院長の例を紹介します。

先ずは週刊フライデー12月26日号に掲載された田母神前空幕長インタビュー記事から、五百籏頭真・防衛大学校長に関する部分です。


FRIDAY 2008年12月26日号 田母神俊雄《前航空幕僚長》【激白】「過剰な文民統制が日本を滅ぼす」
一方では2年前に防衛大学校長が、新聞紙上で自衛隊のイラク派遣反対の意見や小泉総理(当時)の靖国神社参拝反対の意見を公表しました。防大校長も自衛隊員ですが、その発言の責任を問われる事はありませんでした。防大校長が政府の政策に真っ向から反対しているのに対し、私は私の歴史認識を述べただけなのです。この扱いの差は一体何なのでしょうか。


田母神前空幕長はどうやら勘違いをしているようで、五百籏頭真・防衛大学校長が田母神論文騒動以後に毎日新聞にコメントした最近の批判記事と、2年前の小泉内閣メールマガジンに掲載された内容とを取り違えてゴッチャにしている模様です。しかも内容自体をよく確認していないのか、「防大校長が政府の政策に真っ向から反対している」等と、事実とは異なる見解を述べています。


小泉内閣メールマガジン 第248号 (2006/09/07)
ちなみに私はイラク戦争が間違った戦争であると判断し、筋目の悪い戦で米国と一緒してもきっと後味悪い結果になると憂慮した。間違った戦争であることは、その後ますます明瞭となったが、イラクに派遣された自衛隊に悲劇は起こらなかったし、日米関係も悪化しなかった。

それどころか、小泉首相は自らの任期中に陸上自衛隊をサマワから見事に撤収した。しかも対米関係をこじらせることなく、ブッシュ政権から称賛を浴びながら。この魔術に対しては脱帽する他はない。


五百籏頭校長はイラクで大量破壊兵器が見付からなかった以上、間違った判断の元に開戦した事はますます明瞭になった・・・とは述べていますが、小泉政権がアメリカを支持し自衛隊をイラクに送り込んだ判断は結果的に正しかったと力説しています。靖国参拝に関して言えば、これは政府方針ではなく小泉首相個人の判断であり、これを批判したところで政府方針に反する事にはなりません。そして発行元が首相官邸からである小泉内閣メールマガジンに掲載されている以上、内容は官邸側でチェック済みであることは当然の話で、この件が問題になる要素は最初から存在しません。

つまり田母神前空幕長が言う『防大校長が政府の政策に真っ向から反対しているのに対し、私は私の歴史認識を述べただけなのです』という部分は最初の前提条件からして誤認であり、田母神論文騒動と対比できるものでは有りません。また、田母神論文の歴史認識が政府の政策と真っ向から反対している点を認めようとしないのはおかしな態度です。

そして『この扱いの差は一体何なのでしょうか』という投げ掛けについても、空幕長と防大校長では身分も立ち居地も違う、という事が言える筈です。防衛大学校は士官養成学校であると同時に学問と研究の場でもある為、学者の主張は学問の自由の範囲である程度容認されます。一般国立大学の教授が幾ら政府方針に反する主張を唱えても解任されたりはしません。防衛大学校はそれより制約はありますが、研究の名目で政府方針と異なる見解を述べる事は可能です。ですから仮に防衛大学校長が学者として一つの戦略論として「イラク派遣をすべきではない理由」という論文を出しても許容される可能性はありますし、田母神論文も防衛大学校の学者として出した論文であるならば、許容されていた可能性はあります。ただ逆に「こんなものは論文とは認められない」と、政府方針云々以前の次元で、学術的要素の問題で学者としての資質が問われてクビにされる可能性は高まりますが。

そこで例となるのが中国の朱成虎・国防大学防務学院長の場合です。朱成虎防務学院長は以前から先制核攻撃論を持論として度々陳述しており、その内容はすこぶる過激なものです。中国政府の基本方針が先制核攻撃の否定であるのに対し、朱成虎防務学院長の主張はそれを完全に逸脱しています。

中国は人口が多く地形も複雑なので、全面核戦争に突入しても人民が生き残る確率は他国より高い。世界人口が激減した場合でも中国の優位性は確保される。その為には中国主導で全面核戦争を引き起こせるだけの量の核弾頭を装備すべきだ・・・といった内容です。これは例えばロシア人が「核の冬が起きた場合、寒さに強いロシア人が最終的に生き残るので全面核戦争を是非ともしよう」と冗談で言うのに匹敵する内容ですが、中国の人口の多さと地形の複雑さによる核戦争下における生存性の高さは事実で、中国に世界中を攻撃できる核ミサイルの十分な数が有りさえすれば、世界を半ば滅ぼした後に勝利を手にする事が出来る・・・その勝利にどのような意味があるのかはともかく、戦術論としての先制核攻撃論は一面の真理が存在しています。あくまで学者による研究としての先制核攻撃論である為、それまで政府方針と異なっていても全く処分はされず、野放し状態でした。

ただ、朱成虎防務学院長は少し調子に乗りすぎたようで、英語に堪能な同学院長は香港で英米の大手マスコミを集めて会見を開き、その場でアメリカを名指しし、台湾問題でアメリカ軍が介入してきたら、それが通常兵器によるものであっても、中国は核攻撃による報復攻撃を行うと表明したのです。これが2005年7月14日の出来事です。アメリカ政府は朱成虎防務学院長の発言が中国の政府方針とは異なる事を理解して特に相手にせず、中国政府も何時もの事だと放置していましたが、大手マスコミの目の前で名指しで主張した為に騒動になり、アメリカ議会は下院が中国政府に対し朱成虎防務学院長の発言の撤回と免職を要求する決議を採択しました。

中国政府は暫く相手にしていませんでしたが、アメリカ議会からの圧力に抗しきれず、最終的に以下のような対応を取っています。朱成虎防務学院長は、アメリカ議会から免職要求を受けた初めての人民解放軍の将軍です。

Booming China promises peace and goodwill - Guardian
China punishes general for talk of strike at U.S. - International Herald Tribune

朱成虎防務学院長の受けた処分は、今後の昇進に響く様、"administrative demerit"(管理欠点とでも訳すのか)を書類上で報告しておく、というものです。発言の撤回はされず、地位的には免職もありませんでした。処分内容は正式な発表が無く、表向きにアメリカの圧力要求に屈したと認めるわけにはいかないのでしょう。処分されたとされる情報は全て匿名の軍情報筋からです。その為、何処まで本当に実行された事なのか不確実な部分もあるのですが、中国マスコミや欧米の大手マスコミが報じている以上、それを中国政府が黙認している以上、何らかの処分があったことは確かな事だと思います。朱成虎防務学院長は以前から過激発言が目立つ為、国防大学の戦略研究部門から軍事訓練部門(防務学院)へ移され、過激な発言がなるべく出来ないように隔離されていたとされています。

いくら国防大学の教授としての研究であるから政府方針と違っていても構わないといっても、モノには限度があったのが朱成虎防務学院長のケースです。
20時44分 | 固定リンク | Comment (144) | 国士 |
2008年11月26日
田母神前空幕長が統幕学校長時代に呼んできた講師陣の面子を見て・・・本当に駄目だこれは、と思いました。アパ論文問題よりも重大で深刻な事態です。

統幕学校「歴史観」講義内容判明 講師に桜井よしこ氏ら  : 朝日新聞

統幕学校講義、田母神論文と共通点も 防衛省、内容公表 : 日経新聞

コミンテルン陰謀論を教えている講師がいる・・・とてもじゃないですが軍隊の将官に施す教育ではありません。何処の民族右翼過激派の勉強会ですか、これは。もうこの件は田母神の個人的な問題じゃなくなりました・・・トップダウンでこんな事が発令されて教育されていたのでは、組織そのものの責任問題になります。佐藤守・元空将が田母神論文を「幹部教育に適した内容」と評していたのは、こういった背景があったからなのですね。そりゃ論文を書いた当の本人が幹部教育を主導していたら、似たような内容の教育が行われていて当然でしょうね。

「歴史観」科目廃止も=統幕学校の幹部教育で防衛省 : 時事通信

当然ですがそのような教育方針自体がおかしいのであって、科目自体が無くなるか、講師の選任方法が統幕学校長の独断で行えないように多重チェックを通し監視する事になります。科目自体要らないと思いますけどね。先の大戦の歴史について学ぶ事は、失敗を教訓として活かし次の未来へ繋げる事の筈です。不要な戦争を回避する事、あるいは不幸にも戦争になった場合に負けたりしない事。それが軍人の役目でしょう。それなのに「日本は悪くなかった」という教育を施して何の意味があるんですか。負け戦をしたという、ただ一点の事実だけで、それは罪です。愚かにも負け戦からの教訓を得ようとせずに開き直っているようでは、次の戦争も負けるでしょう。

なお田母神前空幕長は隊内誌「鵬友」04年3月号で以下のような事を述べています。


航空自衛隊を元気にする10の提言〜パートU 田母神俊雄
7 身内の恥は隠すもの

身内の恥は隠すものという意識を持たないと自衛隊の弱体化が加速することもまた事実ではないか。反日的日本人の思う壺である。

自衛隊の精強化を望まない人たちは、どんなことにでも隠蔽体質とか言って攻撃をしてくるであろう。念のために断っておくが私は公開すべきものを隠せと言っているわけではない。各級部隊指揮官が、もはや何もかも公開しなければならないと思い、部隊や隊員を保全するという意識が低下しているのではないかと心配しているのである。情報公開法が我が国や自衛隊の弱体化を目論む人たちに利用される可能性についてもっと注意を払うべきだと思うのである。自衛隊は我が国有事に際し部隊の行動を秘匿しながら作戦を実施しなければならない。そのために常日頃から保全を意識した隊務運営を心がける必要がある。公開を要しない事項については徹底的に秘匿するということで、有事のための訓練をしていると思えば良い。秘匿すると決めたことを秘匿できないようでは作戦遂行に大きな支障が出る。指揮官はそれが出来るまで部隊を鍛えるべきである。もし現状でそれが不可能ならば、これを作戦実施上の重大な問題として認識しておくことが必要である。もし秘密が漏れたならば、なぜ漏れたのか、誰が漏らしたのかを徹底的に追求しなければならない。それが秘密漏洩の抑止力になる。それは国家のため、国民のために必要なことなのだ。自衛隊の秘密保全の態勢は、諸外国の軍と同様に完璧であることを求められている。私たちは航空事故ゼロを目指すと同じように秘密保全についても完璧を目指して努力すべきなのだ。


軍事機密は非公開が当然であり、軍事に関する事は徹底的に隠匿してくださって結構です。ですが、身内の恥を隠すのも有事の時の軍事機密保全の練習になるから、普段から軍事に関係無いことでも積極的に隠匿しろ、ですって?

ああ、この愚か者をクビにするのが遅過ぎました。

空自学校長が部下にセクハラの疑い 更迭、報道発表せず : 朝日新聞

空自空将補セクハラ:空将補を懲戒へ 浜田防衛相に報告せず : 毎日新聞

これも田母神前空幕長の方針だったのですね。・・・本当に馬鹿じゃなかろうか・・・結局のところ、田母神前空幕長の歴史観とは、「日本の恥は隠すべきであり、それを公開するのは自虐史観である」という事なのでしょう。あまりにも小物臭くて涙が出てきます。とても人の上に立つ器じゃないです。どうしてこんな人を出世させてしまったんだろう・・
23時06分 | 固定リンク | Comment (417) | 国士 |
2008年11月11日
2003年にドイツ陸軍軍特殊部隊KSK(Kommando Spezialkräfte)の司令官ラインハルト・ギュンツェル准将が、反ユダヤ主義的発言を行ったCDU(キリスト教民主同盟)のマルティン・ホーマン議員に共鳴、激励の手紙を送った事で解任されたケースが存在します。

German general axed in Jewish row - BBC (Tuesday, 4 November, 2003)


独国防相、反ユダヤ主義発言礼賛の総司令官を解任 (2003年11月5日 読売新聞)
【ベルリン=宮明敬】ドイツのシュトルック国防相は4日、反ユダヤ主義的発言に共鳴したラインハルト・ギュンツェル独連邦軍特殊攻撃部隊(KSK)総司令官(59)を解任した。

KSKは、アフガニスタンでアル・カーイダやタリバンの残党掃討に従事、ドイツ軍として戦後初めて欧州域外での戦闘に参加したエリート部隊。

ドイツでは最近、保守系最大政党、キリスト教民主同盟(CDU)に所属するマルティン・ホーマン連邦議会議員(55)が、第2次大戦でユダヤ人を虐殺したドイツ人がいつまでも「加害者民族」のレッテルを張られることに反発して、「(多数の犠牲者が出た)ロシア革命の経緯を見れば、(多くが革命側に加わった)ユダヤ人を『加害者民族』と呼んでも差し支えない」と語り、ユダヤ人団体や左派政党から激しい非難を浴びていた。ギュンツェル総司令官はホーマン議員に手紙を送り、「我が国ではめったに聞けない勇気ある発言。国民の多くも同じ考えだ」と称賛したという。
 
四日夜のテレビ番組で手紙の内容が公表されることが分かったため、国防省は即刻、解任に踏み切った。


ホーマン議員は当初、CDU党内でメルケル党首から戒告処分を受けていました。他に受けた処分は所属する内政委員会を除名されただけで、比較的軽いものでした。しかしギュンツェル准将の手紙で問題が再燃し、ギュンツェル准将がシュトルック国防相によって即座に解任された事から、ホーマン議員も最終的に党除名処分へと追い込まれました。

ギュンツェル准将解任から一年ほど経った時に、ドイツ在住のartaxerxesさんから聞いたのですが、ギュンツェル准将は在任中の1995年にも「私の隊員にはスパルタ人、ローマ人、武装SSのような規律を要求する」と演説して批判を浴びていたそうです。軍を辞めた後は学生組合(Burschenschaft)などでの講演活動などを続けていて、「ホロコーストの唯一性といった歴史観は戦勝国に強制されたものだ」などと発言し、益々主張が先鋭化されて右翼勢力の偶像となっています。

田母神俊雄・前航空幕僚長も、これからそういった道を歩んでいくのでしょう。ただし論文内容からして、前途は多難であることは間違いないでしょうが。
01時30分 | 固定リンク | Comment (120) | 国士 |
2008年11月10日
田母神論文問題で比較参考になる例として、湾岸戦争直前に解任された米空軍参謀総長マイケル・デューガン大将のケースがあります。『政府見解と全く異なる見解を将官が勝手にベラベラ喋って更迭される』という点で、田母神前空幕長の更迭と同じものです。

デューガン大将の更迭について、TIME誌が18年前当時の記事内容をWebに掲載しているので紹介します。


Ready, Aim, Fired - TIME
By Bruce van Voorst/Washington. Monday, Oct. 01, 1990

Last week Cheney fired the highly decorated Air Force chief, General Michael Dugan, for "poor judgment at a sensitive time" in speaking indiscreetly on secret and diplomatically touchy issues relating to the gulf crisis.


開戦直前の緊迫した状況で、デューガン大将は無分別な発言を繰り返し、ディック・チェイニー国防長官によって空軍参謀総長を解任されました。チェイニーに対しこの問題を可及的速やかに処理するよう進言したのは、コリン・パウエル統合参謀本部議長です。

パウエルが1993年に退役した後に出版した自伝「My American Journey」にこの時の様子が詳しく語られています。角川書店からの邦訳版の文庫「マイ・アメリカン・ジャーニー 統合参謀本部議長編」129p〜133pから抜粋して紹介します。



  翌朝早々に目をさまし、コーヒーを飲もうとして台所へ行くと、食卓にはすでにアルマがおり、『ワシントン・ポスト』の一面を見ろという。「戦争となれば空爆頼み」という大きな見出しがあった。この時期に公表されるのは最も好ましくない内容だった。そうでなくても、大統領は空軍力を過大に評価しているふしがあった。

(中略)

 『ポスト』紙の記事の元は、マイケル・デューガン大将だった。つい三ヵ月前に、ラリー・ウェルチの後任として空軍の参謀長に就任した男だ。デューガンもサウジから戻ったばかりで、同行の記者団を前に、数時間ぶっ通しで公式会見を行っていた。たいへん勇気ある行為ではあるが、やや慎重さに欠けていた。デューガンは以前にも二度ほど、政府の方針に反する発言を記者団に語ったことがあり、注意してはいた。イラクがクウェートに侵攻して一〇日もたたないころから、デューガンは空爆の有効性を公言してはばからなかった。

 デューガンの発言を『ポスト』紙が引用した例をいくつかあげてみる。「空爆は米軍がとりうる唯一の手段である」。「『サダムを殺るのなら、やつの家族、共和国親衛隊、愛人を狙え』と、イスラエルから助言をもらった」。攻撃目標を決定するにあたり、自分は政治的な足枷を「気にしなくてすむと思う」。イラク空軍の「戦闘能力は不充分」であり、イラクの陸軍は「役立たず」であるといったぐあいだ。『ポスト』紙の記事の最後には、サウジの砂漠に駐留するF−15の部隊にたいして述べた、「アメリカ国民がこの作戦を支持するのも、ボディー・バッグに入れられた戦死者が帰還するまでの話だ」というデューガンの談話が載っていた。

 これら一連の記事で、デューガンはイラクを下すのは赤児の手をひねるようなものとの印象を与え、アメリカ軍の司令官はイスラエルからの情報を得ていると暗に述べ──アラブ諸国と手を組もうとするわれわれの努力を台無しにしかねなかった──大統領命令で禁じられているにもかかわらず、政治を軽視し、空爆が唯一の選択肢であるとほのめかして、政府が他の戦略をとれば国民がそっぽを向くとまで言ったのである。デューガンは今回の危機に際しては、指揮系統の外にいる将官で、そもそも作戦面についての論評をする立場にはなかった。その発言には、空軍に手柄を横取りさせようとの意図が明らかに見てとれた。一回の会見でこれほど多くの愚劣で軽率、かつ偏狭な発言が飛び出すことなど、考えられなかった。

 デューガンがフロリダの会議に出張中だとわかったため、私は熟睡中の彼をたたき起こした。「マイク、『ポスト』を読んだか」。「いいえ」。「では読んで聞かせよう」。私は一文ごとに読み上げた。デューガンは気にもしていない様子だった。
 次いでチェイニー長官に電話をかけた。彼も『ポスト』の記事を読んでいなかった。「困ったことになりました」と言って、私は事情を説明した。長官は記事を読んでからかけなおすと言って、電話を切った。電話はすぐにかかってきた。「こんなばかな話があるものか。まったくお粗末すぎる」というのがチェイニーのコメントだった。

(中略)

 翌朝、月曜日の七時四十五分、昨夜から今朝にかけて入手した情報を机の上に広げ、立ったまま目を通しながら、登庁する人びとをマジックミラー越しに見ていると、チェイニー長官から電話が入った。副長官のドン・アトウッドと一緒にいるから、来るようにという話だった。オフィスに到着して、私がドアを閉めるとすぐ、チェイニーは「マイク・デューガンを更迭する」と言った。
 「ディック、話し合いの余地はありますか」と、私はたずねた。
 「いや、デューガンは首だ。やつは信用できない」
 「更迭と言う処分が適当かどうか、確認しましょう」と言うと、チェイニーは表情をひどくこわばらせた。
 「君がこの部屋から出ていったら、すぐにデューガンに電話で解任を伝える」とたたみかけてきた。大統領も了解ずみだなと思ったが、そうと判明したのはもっと後になってからだった。
文字起こし「花ながみね軍曹」さん



一番の致命的は発言はTIME誌にも書かれてあるとおり、イスラエルからの助言を受けているとほのめかす事でした。当時、イスラエル軍の将官が親交のある米軍将校に勝手な助言を行っていた事は事実でしょう。ですが聞き流せば問題とならないのに、空軍参謀総長が肯定的にイスラエル側の意見を紹介していたら、それが作戦に採用されると見られて当然です。政治的にあまりにも不用意な発言でした。イスラエル自身にとっても、この戦争でイラクからスカッドミサイルによる攻撃を受けた事を考えれば、開戦前にイスラエルか関与しているような言質はなるべく取られない方が懸命です。フセイン個人や家族を空爆で暗殺しろと発言した事も問題ですし、空爆のみで戦争に勝利できると豪語する事も問題でした。そもそも権限も無いのに自分が政府からの足枷無く爆撃目標を選べると言った事も問題です。

デューガン大将の発言内容は殆どハッタリで、この戦争の手柄を空軍で独り占めにしたいという幼児的な欲求から来るものでした。一部では「デューガンは戦争前に機密の作戦情報を漏らしたから解任された」と勘違いしている人達もいるのですが、真相はこんなものです。利己的な欲求で空気の読めない発言を繰り返し、政府の立場を拙くさせた愚者は解任されて当然です。

政府見解と全く異なる主張を行った将官が即刻、解任される。この点においてデューガン空軍参謀総長と田母神前空幕長の更迭劇は共通しています。勿論、状況は全く同じではありませんが、政府の意向に沿わない意志を示した事で処断された意味で、同様のケースです。これについて「個人の見解だから」という言い訳は通用しません。政府にダメージを与えた、あるいは与えかけた時点で、それは処断されて当然です。
19時35分 | 固定リンク | Comment (80) | 国士 |
2008年11月07日
11月5日の記事「田母神論文を「幹部教育に適した内容」と評価する元空将・佐藤守の愚かさ」はUPと同時に佐藤守氏の記事へトラックバックを行い、正しく送れた事を確認済みでした。しかし今見たら佐藤守氏の記事「言論封殺、危険な兆候」のトラックバック欄がゼロに・・・



jdia120 2008/11/06 19:38

以下のトラックバックは
削除しておいてください

不平文士の飲酒日記
IPアドレス
59.106.108.77
週刊オブジェクト
IPアドレス
59.106.28.144

そろそろフィルタリングとテキストマイニングをしておかないと無秩序に成ります。

自由を守るとは
こういうことをしないと守れませんので。!!


佐藤守氏は自分の記事のコメント欄に投稿されたこの意見を見て、トラックバックを消した模様です。正直、この事を知っても、怒りよりも哀れみの感情しか出て来ないです。佐藤さん、「言論封殺、危険な兆候」と訴えておきながら、自分に対する異論反論を封殺するんですか。言ってる事とやってる事が矛盾してると何故気付かないんですか。コメント欄が荒らされたわけでもない、批判的なトラックバックが二つばかりあっただけで消してしまうとは・・・どこまで憶病なんですか。「自由を守るため」? 馬鹿馬鹿しい。一体何時、貴方達の自由が阻害されたのですか。言ってごらんなさい!


今一度、石破茂農林水産大臣の言葉を胸に刻んでください。


田母神・前空幕長の論文から思うこと:石破茂ブログ
「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。


「自由を守る」と称し、たった二つの反論トラックバックを消して言論弾圧を行うその姿勢は、自己陶酔の世界に浸りたいという愚かな欲求の発露以外の何物でもないでしょう。石破茂農林水産大臣の言葉は実に正しかった。佐藤守という「民族派」の愚かな行動が、それを証明してしまったのです。
23時54分 | 固定リンク | Comment (117) | 国士 |
2008年11月05日
あの論文内容を読んで擁護できる人の気が知れないです・・・せめて内容が、自衛官ならではの視点に基づいた説得力のある提言ならばまだしも、論文とは到底呼べない中学生レベルの稚拙な主張を擁護できる筈がありません。

ところがと言うかやっぱりと言うか、元航空自衛隊空将の佐藤守氏は田母神論文を全面擁護しました。佐藤守氏は以前から似たような政治思想を主張していましたから、同調するだろうなとは思いましたが、元空将がこんな事をすると「航空自衛隊はこの程度のレベルなのか」と世間一般に思われてしまうので非常に残念です。


言論封殺、危険な兆候 - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記
田母神論文を「学術的ではない」などと揶揄するコメントもあったが、学術論文ではなく「懸賞応募」論文であり、内容は私が見たところでは「幹部教育」に適した内容のものだと思っている。平易で理解しやすく、紙数に限りがある中で一般的な理解を求めた文である。素直に読んで見るが良いと思う。


「学術的でない」上に「間違いだらけ」で見るに耐えないと揶揄されているのですが、佐藤守氏は論文の正確性について論じる事から逃げて「学術論文じゃないから構わないんだ」と言い訳しています。まぁ、正確性について擁護できる筈も無いのですが・・・次の一点だけは決して許せません。

>内容は私が見たところでは「幹部教育」に適した内容のものだと思っている。

あんなものを「幹部教育」に使われてたまるかぁ!!!

思想信条面で同一方向にある人を応援したい気持ちは分からないでもないですが、こんな事だけは絶対に言っちゃいけない。間違いだらけの教材なんて使ってよいわけがないです。もし仮にこれを現実で実行したら、事実を正確に確認する作業の出来ない馬鹿を量産してしまいます。「間違い探しの教材」として使うなら構いませんが、正しい箇所よりも間違っている箇所のほうが遥かに多い教材なんて、問題を解くほうも大変でしょうに。


一方、ゲル長官は容赦がありません。


田母神・前空幕長の論文から思うこと:石破茂ブログ
石破 茂 です。 

田母神(前)航空幕僚長の論文についてあちこちからコメントを求められますが、正直、「文民統制の無理解によるものであり、解任は当然。しかし、このような論文を書いたことは極めて残念」の一言に尽きます。

〜中略〜

「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。

〜中略〜

加えて、主張はそれなりに明快なのですが、それを実現させるための具体的・現実的な論考が全く無いのも特徴です。

〜後略〜


田母神論文を肯定する人は、内容の正確性について触れたがる人は殆ど居ません。彼らは、何故このような稚拙な論文を擁護できるのでしょう?
22時29分 | 固定リンク | Comment (281) | 国士 |
2008年11月04日
田母神空幕長の論文問題については、第一報を聞いた時に「この人、最近も"そんなの関係ねぇ"発言で問題を起こしていたし、二度連続して問題を起こしたらもう処分されるだろうな」と思っていたらその日の内に更迭処分が決まる非常に迅速な対応で、どうしてそこまで速かったのか驚きましたが、論文内容を読んで開いた口が塞がらず・・・政治思想云々以前に論文としての体をなしていない幼稚な内容で、これなら政府の素早い決断も成るほど納得かな、と。

[PDF]日本は侵略国家であったのか 田母神俊

碌に主張の根拠も示さず、参考文献の引用も明記せず、書かれている事は正しい箇所よりも間違っている箇所のほうが遥かに多く、陰謀論だらけで見るに耐えません。年表や人名などの単純ミスも数多く、資料を読まずにウロ覚えで書いてチェックもしていない様子が見て取れます。これ、全然真面目に書いてない文章ですよ。腐っても幕僚ならCS(指揮幕僚課程)で論文の書き方くらいは理解している筈なのに、こんな片手間に書いた駄文で優勝賞金300万円・・・出来レースですね、この賞自体が。


【田母神】すべてはコミンテルンの陰謀ですが何か?:軍事@2ch掲示板
867 :名無し三等兵:2008/11/04(火) 00:06:17 ID:???
おまえら、根本的な問題を見落としているぞ。

時間がないからと資料をきっちりあたることもせず
自分の言動がいったいどのような影響を回りに与えるのか考慮せず
周りから「やめとけ」といわれても突っ走ったこの人

空自制服組のトップだったんだぞ。
時間も限られ、失敗も許されず、場合によっては政治的判断も迫られる有事の際にこの人が頂点に立って指揮をしていたかもしれないんだぞ。怖いって。


田母神空幕長が処分された理由は、自分の役職の立場を弁えずにシビリアンコントロールを逸脱した結果によるものですが、そもそも指揮官としての適正が無かったんじゃないかと。どうしてこんな人が昇進できたのでしょうね・・・
01時14分 | 固定リンク | Comment (438) | 国士 |
2008年10月27日
元航空自衛隊空将の軍事評論家、佐藤守氏のブログ日記より。

「やっかみ」は見苦しい! - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記

この佐藤守氏の記事の主題は「総理大臣がホテルのバーに通おうが問題視する方がおかしい」というものです。これについては私も同意します。しかし以下の2つの台詞が少し気に掛かります。

1.「信頼する“産経”にしては」
2.「目が悪くなったのは貴様自身のせいだろう」

一つ目は産経新聞が総理のホテルのバー通いを批判した事に対しての失望、二つ目は佐藤守氏が現役戦闘機パイロット時代のエピソードで、佐藤守氏が視力が悪くてパイロットになれなかった下士官へ向けた言葉です。具体的に引用すると以下の通りです。



 金曜日か土曜日にしか飲めない環境だったので、ある金曜日に行われた飛行隊の送別会でしたたか飲んだ我々は、翌日の土曜日に出勤はしたものの、ほとんどダウン!という状況だった。フライトがない土曜日にはよく基地内の草刈が行われたものだが、この日はフライトルームの椅子に凭れて数人のパイロットが寝込んでいた。

 これを草刈を命じられて出かけようとした下士官(2曹)が見て、「よかな〜パイロットは。うまか飯と航空加俸バもろて、草刈ばさぼって寝ちょる!(いいな〜パイロットは。美味しい食事〈航空食〉と航空危険手当をもらっていながら、草刈をサボって寝ている。いいご身分ダ!)」と窓からのぞきながら言った。

 鎌を研ぎ草刈に出かけようとしていてこれを見た私は「貴様、今なんと言ったか!パイロットが旨い飯と危険手当もらうのが、そんなにうらやましいのなら、なぜ貴様はパイロットにならなかったのだ!」と問い詰めた。

 2曹は「目が悪かったけんパイロットにはなれんかった・・・」と言ったので、「目が悪くなったのは貴様自身のせいだろう。自分が努力もしないでパイロットになった他人を妬むモンじゃない!」と説教した。

 これを後で見ていた歴戦の勇士、柔剣道の名手で戦場で負傷して帰還した先任空曹が、「佐藤中尉殿が言われるとおり。○○2曹、謝れ!」と怒鳴った。

 そういわれると“だらしなく寝そべっている仲間の姿”に忸怩たるものを覚えないこともなかったが、我々は「ウイングマーク」を取るために、他人が遊んでいる時でも飲みまわっている時にも、ひたすら身体を鍛え、厳しく身を律して3年間過ごし、やっと一人前になった!という空中勤務者としての誇りがあったから、某2曹のみならず、地上勤務になった同期や幹部たちからこの種の「妬み」に耐え続けてきた。

 しかし、「いざ鎌倉」の時は間違いなく一番最初に日本海の藻屑になることは覚悟していた。そんな我々の気持ちも知らず、生意気言うな!と怒鳴り挙げた若い日のエピソードを思い出した。


この二つ目については、生まれつき乱視持ちのpr3氏が記事を書いています。実は私も乱視持ちなので、思いはほぼ同じですね…。

佐藤守氏のプライドについて。 - 黙然日記

先天的に目が悪い場合、自己責任とは言えませんし、後天的に目が悪くなった場合でも自己責任とは言い切れない場合もあります。航空自衛隊のパイロットが在職途中で目を悪くし、飛行資格が無くなるケースは意外と多く、中にはせっかく念願のパイロットになれたのに、勤務後僅か1年で急激に乱視が進行し、パイロットを続けらず、自分の夢を追えなくなったのならと除隊して牧師になったという人も居ます。(第二の人生の歩き方)…こういった元仲間に対しても、同じ様な言葉を向ける事は、果たして出来るのでしょうか。

また来年度から航空学生のパイロットになるために必要な「航空身体検査」の基準が緩和され、眼鏡やソフトコンタクトレンズの使用が許可(眼鏡はOKだった模様。ハードレンズやレーシック等の視力矯正手術は不許可)されるようになりましたが、それまでは裸眼視力1.0(近距離視力)が必要で、少しでも目を悪くするとパイロットにはなれませんでした。(注;遠距離裸眼視力は2004年に1.0以上が0.6以上に緩和、2006年に0.6以上が0.2以上に緩和)視力の基準緩和はここ数年の話。

もし自己責任の範囲で自分の目を悪くしたのだとしても、子供の頃に目を大事にしなかったのが原因である場合、その後にパイロットになりたいと思っても適う事が出来ません。努力で視力を劇的に回復することは困難であるのに、まだ幼い頃の自分の過ちを「自己責任だ、努力が足りない」と言われるのは酷な話です。生まれつき目が悪かったpr3氏でなくても、目の悪い人にとって佐藤守氏の発言は辛い言葉だった筈です。下士官の発言は上官に対して許されるものでは無いし、下品な揶揄ではありました。ですが、佐藤守氏の説教はとても残酷なものであり、二日酔いで寝込んで草刈をサボった事を合わせても、決して自慢して話すような過去の武勇伝ではない筈です。見苦しいものと自覚できないのでしょうか。


なおpr3氏のブログは見たところ産経新聞批判記事がズラッと並んでおり、産経批判に特化したブログのようです。それならば「信頼する“産経”にしては」という箇所に激しくツッコミを入れたいところでしょうに、それをやってしまえば視力に関する話が薄れてしまうので、手を引いているのでしょう。産経批判に特化しているブログだからこそ、このテーマで論争を行えば泥沼になってしまいます。

それでは、私がこれを取上げます。産経新聞は信頼に値する新聞であるかどうか、軍事的な分野から話をすれば軍事関係者にも理解して貰い易いと思います。

はっきり言ってしまえば産経新聞の軍事記事は、主要紙の中でも最も信頼する事が出来ません。あくまで比較対象としての問題ですが。産経新聞は基本的な軍事知識の欠如が原因の間違いに加え、煽りや誇張、都合の悪い事実の隠蔽など、かなり困った事を仕出かしています。

「ロシア太平洋艦隊は増強されておらず、中国海軍を恐れているわけではない」「産経新聞の野口裕之記者によるMLRSデマ報道」
「エムデンの艦載ヘリが海賊船を追い払ったわけではありません」
「エムデン報道で京都新聞に劣る産経新聞の姿勢」

今年の記事だけでもこんな感じで、他の新聞と比較してみても、産経新聞より朝日新聞の方が質が高いです。恐らく主要紙の中で軍事記事が質・量ともに一番なのは朝日新聞でしょうね。思想的な偏向はそれぞれの新聞社にあって当然で、新聞として優秀かどうかは正確な記事を早く提供する事、そして特ダネ記事が提供できるなら尚良しなのですが、特ダネについてはそうそう期待するものではありませんから、基本的な事項、「正確に速く報じる」事に新聞としての価値が見出せる筈です。その意味で産経新聞はあまり信頼する事が出来ません。同じ保守系の読売新聞は間違いは少ないのですが軍事記事自体が少なく、熱心に軍事記事を上げている産経新聞の努力は結構なのですが、出鱈目を流す頻度も高く、頭が痛い話です。

佐藤守氏のような元自衛官が産経新聞を愛読する気持ちは分かります。冷戦時代はマスコミの自衛隊叩きは今よりももっと激しく、袋叩きといってよいものでした。その中で唯一、積極的に自衛隊を擁護してくれる産経新聞の存在を好ましく思うのはある意味、当然かもしれません。ですがそれと「記事内容が信頼できるかどうか」は全く別問題です。それとも、「自分にとって心地良い記事が掲載されている安心感」を「信頼する」という意味で言っているのでしょうか。だとしたらそれはあまりにも軽い言葉に思えます。
20時42分 | 固定リンク | Comment (224) | 国士 |
2006年11月14日
核武装論の是非を問う。議論をそのものを排除してはならない。核武装に反対するならば、議論の場で堂々と否定すればよい・・・私は日本が独自に核武装することについては反対ですが、議論そのものまで封殺しようとする旧時代的な動きには反対です。

それに対し民主党の小沢さんや鳩山さんは、過去に核武装についての議論を容認すべきだと訴えていたのに、いざ政府を叩けそうだとなると簡単に前言を翻して議論そのものを否定しようとするのは・・・まぁ、相変わらずの行動だな、としか。そして国民世論の動向を読み間違える、と。(これも相変わらずのパターン)


初陣2勝、政権に弾み 衆院補選 [10/23 朝日新聞]
中川昭一自民党政調会長や麻生外相の核保有議論をめぐる発言を批判したが、流れを変えられない。「(核保有発言に)世論や報道が反応しなくなっている」。小沢氏は18日、こうぼやいた。

日本テレビ2006年11月定例世論調査 [11/13]
[ 問15] 政府・自民党内で、日本の核保有をめぐる議論が出ています。安倍総理は、「核は保有しない」「非核三原則は守る」とした上で、核の議論を容認する考えを明らかにしています。あなたは、核について具体的な議論をすることについてどう考えますか?

(1) 積極的に議論すべきだ 25.4 %
(2) 議論があってもよい 46.6 %
(3) 議論をする必要を感じない 12.1 %
(4) 絶対に議論すべきでない 9.7 %
(5) わからない、答えない 6.2 %


核武装の論議についての容認が72%、これは別に驚くような数値ではありません。実は冷戦時代の真っ盛りの頃の似たような調査でも、核武装の“可能性自体”は否定しない、という意見が5割ありましたから、北朝鮮の核実験という昨今の情勢を考えれば十分予測できる数字です。

何故、民主党が世論の動向を読み間違えたのかは、条件反射的な政府叩きや党内左派への配慮もあるでしょうが、それ以上に「独自の調査能力の欠如」が大きいと思います。自民党は独自に世論調査を行っている事が既に知られています。今回の閣僚の核武装論容認発言も、事前に得た国民世論のデータを踏まえた上で発言を行っていると考えるべきです。

民主党はこのままでは政権交代など覚束ない事は間違いなく、二大政党制の先輩たち(英国の労働党、米国の民主党は政権奪取の折にライバル政党の政略を真似てより強化する場合がある)に学ぶ事もないのでしょう。


さて、そこで議論自体をすべきでないと主張する方を紹介して見ます。


議論すること自体の問題:la_causette
そのことは、「国土防衛の手段として核兵器を独自に保有」しようとしている北朝鮮政府に対してそれは「選択が許されない政策」だとしてこれを止めさせようとしている国際社会を裏切るような話なので、非難囂々となることは仕方がないことです。

ところが前述のように国内世論は7割が容認していますし、国際世論でも非難轟轟とはなっていません。何故なのか? 実は、20年前にヨーロッパで同じような先例があるからなのです。

それは、ソビエト連邦が新型中距離核ミサイル「RT-21M(NATOコードSS-20 SABER)」を配備したことから始まる狂想曲でした。このIRBM(中距離弾道弾)としては大柄なSS-20は、ヨーロッパ全域を射程に収めた上にMIRV化し、三つの核弾頭を搭載する非常に強力な核戦力であり、只でさえ核戦力に差を付けられていたと思っていた西側諸国は恐慌状態に陥りました。「SS-20に対抗する為、我が国にNATOの新型核ミサイルを配備しろ!」という要求がNATO・・・いえアメリカに出されました。当時左派SPD政権のシュミット首相のドイツからさえも。

そこでNATO、アメリカは決断を下します。

「ソ連に対しSS-20の撤去を要求する」
「SS-20の脅威に対抗する為に、パーシング2を配備する」
「ただしSS-20を全廃させれば、パーシング2も撤去する」

こうしてドイツに中距離弾道弾パーシング2(終末誘導に画像認識装置を装備し、IRBMとしては驚異的な命中精度を誇る)と核攻撃型トマホーク巡航ミサイル(G型)が配備されました。ソ連の軍拡に対し軍拡で対抗しつつ、同時に軍縮(お互いにゼロにする)を提案するという zero-zero offer ,いわゆるゼロオプションの提示です。SS-20の配備を非難し撤去を要求しておきながら、自身もパーシング2を配備する為に『二重決定』として知られています。

そしてこれはご存知のとおり、中距離核戦略全廃条約(INF条約)へと発展し、外交戦略として大きな成功を収め、核軍縮の道筋を開きました。只単に相手に放棄を迫っても聞く耳を持たれないから、こちらも対抗戦力を用意するという手法の有効性を指し示しています。

果たしてこれが現在の朝鮮半島核危機に参考になるかどうかは分かりませんが、一つの事例として議論の材料となるべきものであることは、確かです。日韓の核武装化、在韓米軍・在日米軍の再核武装化などの選択儀を議論の対象として排除しないという事です。
20時44分 | 固定リンク | Comment (72) | 国士 |