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2009年05月27日
軍事界で【逆神伝説】を積み重ねる日本最強クラスの逆神・神浦元彰こと神浦さんが、アフガニスタンで使用された白燐弾について珍解説を披露、新たな誤神託を我々に託されました。やはり逆神は凄まじい・・・そして、これほどまでに私の主張を補強する援護射撃も類を見ないでしょう。実に心強いです。


Re:メールにお返事 2009年5月27日 | 神浦元彰J-rcom
届いたメール
  神浦さんご無沙汰しております。 まだ国内では報道されていないようですが、アフガン武装勢力が白リン弾を使用しているというニュースが入ってきました。

http://www.cnn.co.jp/world/CNN200905200007.html

その際確認された物にはロシア製迫撃砲に使用する物の他に、中国製のロケット弾もあります。 中国製63式107mmWPロケット弾

http://www.sinodefence.com/army/mrl/type63.asp

白リン弾をIEDとして使用しているという指摘もあるようです。 今回発見された白リン弾、特にこの中国製ロケット弾は、発煙弾として用いられるものではなく、当初から焼夷目的で製造されており、市街地で使用すれば明らかに国際法に違反します。「あくまで煙幕として使用した」という意見は当てはまりません。 以上ご報告差し上げます。 それでは。

コメント
 お返事が遅れて申し訳ありません。北朝鮮の核実験でここへの掲載が遅れてしましました。

写真を見るとかなり大量の発煙がでていますね。私がガザの映像で見た白リン弾は、ほとんど発煙が出ていませんでした。いかにも発煙効果より焼夷効果を狙っていることがわかりました。

この写真は発煙弾ではありませんか。発煙効果を十分に期待できます。米軍陣地に発煙弾を撃ち込み、米兵の視界を奪って接近し、至近距離から手榴弾や自動小銃で制圧する方法です。私にはそのように見えます。如何ですか。


どうやら私のところの5月23日の記事「アフガンで武装勢力が白燐弾を使用、中国製63式107mmWPロケット弾か」を読んだ方が、神浦さんにツッコミを入れて来たようで、それに対する返答なのですが・・・神浦さんは豪快な勘違いを行って盛大に自爆しているようです。

神浦さんは「写真を見るとかなり大量の発煙がでていますね」「この写真は発煙弾ではありませんか」「米軍陣地に発煙弾を撃ち込み〜」と解説しているのですが・・・しかし紹介されているCNN記事の写真説明文をよく見て下さい。

cnn_wp0.jpg

CNN記事の写真説明には「米軍は2008年10月、東部クナール州コレンガル渓谷でのタリバーン攻撃に白リン弾を使用した」とあります。

この写真は米軍が武装勢力へ向けて白燐弾を撃ち込んでいる様子を撮影したものです。つまり武装勢力が国際部隊に向けて白燐弾を撃ってきた瞬間の写真を用意できずに、代用したんですね。記事本文にはパクティカ州やバーミヤン、ナンガルハル州で白燐弾による攻撃を受けたとあるのに、写真説明文はクナール州コレンガル渓谷と全く別の場所です。CNN記事はタイトルが「アフガン武装勢力が白リン弾使用 国際部隊が指摘」である為、神浦さんは写真も武装勢力が白燐弾を撃ってきたものだと勘違いしちゃったんです。そして神浦さんは写真を見てこう判断されたわけですよね。

「写真を見るとかなり大量の発煙がでていますね。」
「この写真は発煙弾ではありませんか。」
「発煙効果を十分に期待できます。」
「米軍陣地に発煙弾を撃ち込み、米兵の視界を奪って接近し、至近距離から手榴弾や自動小銃で制圧する方法です。私にはそのように見えます。如何ですか。」


cnn_wp1.jpg

確かに写真を見れば大量の発煙が出ており、これは発煙効果を十分に期待できる発煙弾であると判断できます。誰でも同じ感想を抱けるでしょう。しかしここからが逆神の逆神たる真骨頂・・・「米軍陣地」は間違いで「武装勢力(タリバーン)陣地」であり、「米兵」ではなく「武装勢力(タリバーン)兵」であるというのが正解です。CNN記事の写真から判断できるのは、そういう事です。神浦さんは結果的に米軍の使用した白燐弾が攻撃用では無く、発煙弾であると説明した事になります。

また神浦さんは「ガザで見たのと違う」と思っているようですが、私が見る限りは基本的に同じものです。小さな白燐欠片が空中に舞っているところから見て、155mmM825A1白燐煙幕弾であると思われます。ただし使用場所が市街地では無く野外、それも山中渓谷の森林地帯なので、使用方法を変えてあるようです。つまり空中炸裂を狙ったものでは無く地表で爆発するように着発信管に変えたか、時限信管にしてもタイマーの起爆を遅らせてより地表スレスレに近いポイントで起爆させたか、そういった工夫を行っている様子が写真からは読み取れます。そうするのは何故かというと、樹木が密生した森林地帯だからです。開けた場所なら空中炸裂で広範囲に小さな白燐欠片を撒いた方が効率よく煙幕で覆えますが、森林地帯では密生する木々に邪魔されてしまい、小さな白燐欠片から発生する個々の少ない煙の量では満足に広がっていきません。そうなると開けた場所で満遍無く煙が充満するように調整された空中炸裂方式では、同じように森林地帯で使えば煙幕が隙間だらけになってしまいます。だから使用方法を変えて着発起爆あるいは起爆高度を低く調整する必要があります。これだと煙幕展開範囲は正規の空中炸裂よりも狭くなりますが、隙間は発生しなくなります。

纏めると神浦さんによる恐るべき誤神託は、「アメリカやイスラエルの使った白燐弾は攻撃用で、武装勢力の使ってきた白燐弾は発煙用」となります。そしてこれは誤神託である為、全く逆が真実となるのでしょう。なおCNN記事と同時に紹介されている「Sinodefence.com」には中国製63式107mm白燐ロケット弾の解説がありますが、英語なので神浦さんは読んでいない筈です。英語が出来ない上に翻訳ソフトでチェックする事もしないのが神浦さんのスタイルですから。
posted by JSF at 16:00 | Comment(79) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年05月23日
白燐弾とは一般的な兵器です。西側兵器体系でも東側兵器体系でも普通に砲弾の種類(発煙弾)として用意されているもので、当然ながら敵味方双方が保有し、使用しています。

アフガン武装勢力が白リン弾使用 国際部隊が指摘:CNN

Reported Insurgent White Phosphorus Attacks and Caches : United States Central Command

最近、アフガニスタンで武装勢力(タリバーンあるいはタリバーンと連携した武装勢力)が白燐弾を使用しているとの報告がISAFとアメリカ軍から為されました。現物はロシア製の82mmWP迫撃弾、122mmWP榴弾及び、中国製の107mmWPロケット弾などであると発表されています。(WP;White Phosphorus=白燐)

未使用のものが発見されたのとは別に、82mmWP迫撃弾は普通に迫撃砲から使用されているようです。122mmWP榴弾はIED(仕掛け爆弾)の中に通常榴弾と一緒に混じっていました。107mmWPロケット弾は、中国製63式107mmロケット砲のロケット砲弾を簡易型の単発式発射台に載せて、ゲリラ的に運用しています。正規の多連装ランチャーは、元の設計から山岳戦での使用を考慮してありますが、ゲリラ運用では目立ちすぎて使えないのでしょう。122mmWP榴弾を砲撃で使っていないのは、大きな榴弾砲は更に目立つからです。中国製63式107mmロケット砲は中東ではかなり普及している種類の火砲で、弾薬の調達も比較的容易です。アフガニスタンでも良く見かける兵器です。射程は短く命中精度も良くありませんが、コストが安く軽量で輸送も容易なため、中東のみならず世界各国に輸出されたベストセラー兵器です。(注;ロシア製、中国製とありますが、現地でライセンス生産された物を含みます)


Type 63 107mm Multiple Rocket Launcher - SinoDefence.com
Ammunitions

The weapon fires electrically initiated 107mm rockets fitted with HE-Fragmentation warheads. The Type 63-2 ammunition introduced in 1975 is a 18.8kg rocket containing a 8.3kg TNT warhead, which can produce a 12.5m radius blast when detonated. The maximum firing range is 8.5km.

The PLA has also developed an incendiary rocket fitted with a warhead containing White Phosphorous (WP) and Aluminium. Other types of rockets include HE anti-tank (HE-AT) and chaff dispensing round.


「PLA」というのは中国人民解放軍(People's Liberation Army)の略語です。63式は基本的にHE(高性能炸薬)の通常榴弾タイプを使用しますが、白燐弾タイプも開発されています。

アフガニスタンの武装勢力が使っている白燐弾なのですが、中でもこの中国製63式107mmWPロケット弾は煙幕弾として設計されておらず、攻撃兵器として設計されている点が問題です。シノディフェンスには「中国人民解放軍は白燐とアルミニウムを含む焼夷ロケットを開発した」とあります。白燐に加えてアルミニウム粉を混ぜているのは、殺傷兵器としての威力強化を意味します。アルミニウム粉はテルミット焼夷弾にも用いられますが、酸化鉄が記載されていないのでテルミット反応との複合効果弾ではないでしょう。なお通常の榴弾の炸薬(トリトナル炸薬など)にもアルミニウム粉は混ぜられています。発煙弾としての煙の発生にアルミニウムは特に関係が無い以上、63式107mmWPロケット弾は設計段階で煙幕弾ではない事になります。

つまり煙幕弾として設計された155mm砲用のM825A1白燐弾のような「あくまで煙幕として使用した」という言い訳が、63式107mmWPロケット弾では出来ないのです。ただし攻撃用でも国際条約上、野外において軍隊相手に使う分には特に制限はありません。しかし市街地ではその使用に制限(発煙弾は例外)があります。報告では、107mmWPロケット弾を市街地の中で発見したとしています。

なお最近、アフガニスタンでの白燐弾被害としては初めての事例が正式に報告されています。

(2009/05/10)NATO、アフガンで白燐弾を使用、初の民間人負傷者

NATO側は自分達が白燐弾を使用した事を認めましたが、民間人への誤射は否定しており、武装勢力側の攻撃によるものではないかとしています。


ちなみに今年1月のイスラエルによるガザ侵攻の際には、ハマス側からの白燐弾攻撃も確認されています。これはロケット砲撃とありますが、実際は迫撃砲からの白燐弾攻撃だという情報もあります。


イスラエルニュース(2009年1月14日)
*昨日もガザから19発のロケット砲撃。うち1発は初めて白リン弾が使われたが、空地に落ちたため負傷者は無かった。(H,Y)


なおイラクでも5年前に自衛隊のサマワ駐屯地に目掛けて白燐弾攻撃が行われた事がありました。こちらはロシア系の設計の82mm迫撃砲から発射された白燐弾であることが分かっています。


2発の弾痕を確認 サマワ陸自宿営地砲撃:共同通信 2004/04/08
【サマワ8日共同】イラク南部サマワの陸上自衛隊宿営地を狙ったとみられる砲撃で、派遣部隊は8日、宿営地北側の運河を挟んで2発の弾痕を相次いで確認した。砲弾は8センチ程度で、1発はりゅう弾、もう1発は黄リン発煙弾とみられる。  

政府は同日、部隊を狙った計画的な攻撃とほぼ断定した。地元警察当局によると、砲弾攻撃直前、宿営地付近で不審な小型車が目撃され、発車後間もなく爆発音がした。防衛庁によると、弾痕は宿営地近くの運河を挟んで、りゅう弾が宿営地の北東約1キロ、発煙弾が北東数百メートルの地点で発見された。宿営地の北約3キロでは、迫撃砲の一部や砲弾1発が入った弾薬箱が放置されているのが見つかった。砲弾の種類は不明。

発煙弾が着弾したとみられる場所には、半径40−60センチにわたって地面が焦げ、燃えた黄リンが残留していた。発煙弾については、殺傷力が弱いため部隊を混乱させる狙いだった可能性がある。


イラク、ガザ、今回のアフガニスタンでの確認により、紛争地域ならば大抵何処でも白燐弾は敵味方双方が使用するものと理解した方が良いでしょう。白燐弾はごく有り触れた兵器です。
posted by JSF at 23:23 | Comment(75) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年05月10日
アフガニスタン:NATOが白リン弾使用 8歳少女負傷か - 毎日新聞
【ニューデリー栗田慎一】国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は8日、アフガニスタン東部で3月にあった北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆で「白リン弾が使われ、8歳の少女が顔などに深刻なやけどを負った」と非難声明を出した。NATO軍側は白リン弾の使用は認めたが、民間人の負傷は否定した。アフガンで白リン弾の使用が明らかになったのは初めて。


空爆で白燐弾? 該当するとしたら、ヘリコプターから発射するハイドラ70ロケット弾のシリーズに、目標マーカー用の白燐弾頭の設定がありますが・・・航空機用の爆弾に白燐を使うものはもう存在しない筈です。ミサイルにも在りません。というかそもそも本当に空爆だったのですか? そこで大元の「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のサイトに掲載されていた記事をチェックしてみました。


Afghanistan: NATO Should ‘Come Clean’ on White Phosphorus | Human Rights Watch
NATO officials have said that according to their records, no rounds were found to have landed near the house, though have not denied using white phosphorus during this engagement. They have suggested that the Taliban may have fired the rounds, but have not provided any evidence for their claim. Today the International Security Assistance Force released information on four isolated incidents dated between December 2007 and May 2009 where they say insurgents used white phosphorus munitions.


「rounds」と書かれてありますから、これは空爆ではなく大砲の砲弾の事を指しています。恐らくは榴弾砲か迫撃砲によるものです。毎日新聞の栗田慎一記者は、もう少し英単語の意味をよく理解して日本語に翻訳してほしい所です。栗田記者の発信するこの地域(インド、パキスタン、アフガニスタン)の情報は、他紙を出し抜く特ダネ情報が多く、個人的に注目しています。


Taliban command of Afghan terrain makes fighting conditions difficult | Stars and Stripes
U.S. mortar teams fired more than 30 rounds of 60 mm high explosives and nearly 30 rounds of white-phosphorous smoke, according to Staff Sgt. Jason Calman, 27, of Las Vegas. Fire batteries at a nearby Canadian camp fired nearly 30 rounds of high-explosive 155 mm artillery rounds and another 18 rounds of white-phosphorous smoke. A NATO jet dropped a 500-pound bomb.


星条旗新聞には隠そうともせずアフガンでの白燐弾使用状況が兵士のコメントで詳細に載っていました。この戦闘例は南部のカンダハルであり、問題の8歳の少女が負傷した東部の戦闘とは別ですが、アメリカ軍の60mm軽迫撃砲で通常榴弾と白燐弾を30発ずつ混ぜながら発射、カナダ軍からは155mm榴弾砲から通常榴弾を30発、白燐弾を18発発射し、NATO軍のジェット戦闘機が500lb爆弾(高性能炸薬)を投下したとあります。

要するに、現地では日常的に通常榴弾と同時併用しながら白燐弾を使用しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが今回問題にしているのは、アフガニスタンで初めて白燐弾による民間人被害が確認された、という点なのでしょう。ですが星条旗新聞の様子から、普段から日常的に使用していたことが分かります。これまで何年も戦闘で使用していながら、初の民間人巻き添え例(確認できるのは一人だけ)ということは、普通に誤射であった可能性が高そうです。
posted by JSF at 23:57 | Comment(40) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年03月12日
最近発売された「軍事研究」2009年4月号はご覧になられたでしょうか?



表紙雑誌の紹介
軍事研究2009年4月号

軍事研究2009年4月号

雑誌
出版社: ジャパンミリタリーレビュー
月刊版 (2009/3/10)
ASIN: B001U8CV4Y
発売日: 2009/3/10
商品の寸法: 20.8 x 14.8 x 1.4 cm

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この最新号の58ページに、このような記事があります。



マスコミとネットがつくる超兵器
“シェイク&ベイク”と呼ばれる戦術
「白燐弾」の恐怖と真実
勘違いや放言がネットやメディアで増幅されてトンデモ伝説となってしまうのが昨今の風潮だが、イスラエルのガザ侵攻では白燐弾が“悪魔の超兵器”となってしまった。非人道行為を非難するなら、それは科学とロジックに拠らなければならない。白燐弾の構造と戦術を解説する。

<軍事評論家> 野木恵一



ジャパンミリタリーレビューのブログでも、簡易な見出しが紹介されていますので確認できます。

Japan Military Review「軍事研究」: 軍事研究 2009年4月号

この記事は本当にこの雑誌に掲載されているのです。内容は・・・タイトルと見出しで容易に推測できると思います。

『一匹の妖怪がパレスチナを徘徊している。白燐弾という妖怪が。』

『白燐弾に限ったことではなく、ここ数年マスコミが特定の兵器について、威力や効果を著しく誇大化する誤まった情報を伝え、それがネットで増幅されつつ広まる事例が目立つ。』

『そこで今回は白燐弾に関する誤情報を取上げて、真実を明らかにしたい。』

このような感じで続いていきます。そう、内容は、私がこれまで書いてきた白燐弾の記事と大部分が被っています。私がネット上で白燐弾の真実を明らかにし、野木恵一さんが軍事専門誌で白燐弾の真実を明らかにする。ネット社会とリアル社会の両方で、白燐弾に関する軍事的デマを叩き潰す。それが実現出来ました。私が一人ネットで吼えていたところで、現実の社会への影響力など微々たる物と認識していましたが、もはやそうではありません。リアルで、私の主張に同調してくれる人が現れました。私のやってきた事が、無駄ではなかった事に、報われた思いです。

軍事研究2009年4月号では、p58からマスコミの白燐弾の記事、p59からネットの白燐弾の記事がトンデモ記事として紹介されています。p59〜60には「あ、あの人のサイトの記事だよ」というのがズラズラと並んでいますので、心当たりのある方はチェックしてみて下さい。p60からは白燐弾デマ騒動の発端である、イタリア国営放送RAIの放映したファルージャ戦の話が始まります。RAIがインタビューしたジェフ・エングルハート兵士が出鱈目な証言をした事を暴き、p62からは燐に関する説明、p63からはM825A1白燐弾に関する説明です。p64からは「シェイク&ベイク」(燻り出し)戦術について、p66では科学的な誤りについての説明で、筆者自身が白燐弾の煙に捲かれた経験を踏まえながら、デマを暴いていきます。p67では国際法上の問題について語り、白燐弾が化学兵器に分類されず、焼夷兵器の定義からも除外される事を述べています。そしてp69で終わりです。

野木恵一氏は白燐弾のシェイク&ベイク戦術について、「パニックを起こさせる心理兵器として使われている」のではないかとしています。実際に煙幕弾をそういった目的で使う事については、白燐弾が騒がれだす2005年11月8日(RAIの白燐弾特集放送)以前に、マスコミ自身も認識しています。

2発の弾痕を確認 サマワ陸自宿営地砲撃 : 共同通信 2004/04/08
>発煙弾については、殺傷力が弱いため部隊を混乱させる狙いだった可能性がある。

サマワでの自衛隊攻撃に使われたこの発煙弾は黄燐(白燐)です。マスコミもおかしな先入観が無ければ、正しい認識が出来ていたのかもしれませんね。そしてシェイク&ベイクの項目の最後で、野木恵一氏はこう述べています。

『パニックを起こさせる心理兵器として使われているのであれば、相手が兵器に恐怖心を抱くほどに効果的になる。イスラエル軍の白燐弾使用を人道に反するとして糾弾し、その残虐性を言い立てている人々は、結果的には白燐弾の効果を過大に宣伝して、イスラエル軍の燻り出し戦術を助けているとの皮肉もいえそうだ。』

もしそうだとすると、白燐弾は見た目は派手だが、実は榴弾などよりも遥かに殺傷力が低いという事実を宣伝し、白燐弾は簡単な防御策で無効化できる(M825A1のような空中炸裂ならば貫通力は皆無)ので、これをパレスチナ側に徹底すれば、イスラエル軍の意図を挫く事が出来るのではないでしょうか。正しい知識を普及させる事こそが、最善なのではないか・・・そう思います。

そして野木恵一氏は最後にこう結んでいます。

『意図的にデマを流すのは問題外だが、善意や正義に立脚したつもりで誤りを流布させる行為も、長い目で見れば反戦運動人道運動にとってはマイナスではないだろうか。』
posted by JSF at 20:36 | Comment(121) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年03月05日
国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、国連との協議資格を持つ有力なNGO(非政府組織)です。その為に発言や報告書にはそれなりに重みがある筈なのですが、今回のガザ紛争に関する報告書を読み進めると、幾つかのおかしな記述が散見され、あまり良い仕事をしているようには見えません。

前回の記事「ガザで使用されたフレシェット弾について」でも指摘しましたが、アムネスティ報告書にはこの世に存在しない120mmフレシェット弾なるものが記載されてしまっています。ただこれについては105mmフレシェット弾との混同ですので、数値をうっかり間違えただけとイージーミスとして主張出来なくもないですが、一方でそういう言い訳が通用しない致命的な間違いも見付かっています。

(PDF) Fuelling conflict: Foreign arms supplies to Israel/Gaza | Amnesty International

PDFファイルの報告書9ページにある、照明弾に関する項目「Illuminating artillery shells」がこうなっています。



Amnesty International delegates encountered 155mm M485 A2 illuminating shells used by the IDF which had landed in built up residential areas in Gaza. These eject a phosphorus canister, which floats down under a parachute. At least three of these carrier shells were found which had landed in people’s homes. These shells are yellow and one had the following markings: TZ 1-81 155-M 485 A2. TZ is a known marking on Israeli ammunition.


アムネスティ報告書は、155mmM485A2照明弾の事をこう説明しています。

「These eject a phosphorus canister, which floats down under a parachute.」

「phosphorus = 燐」、つまりアムネスティは照明弾を白燐弾扱いしているのですが、間違っています。M485A2照明弾の反応薬剤は「sodium nitrate」 と「magnesium powder」、つまり硝酸ナトリウムとマグネシウム粉です。この組み合わせは現代で最も一般的な照明剤であり、M485A2は三個の子弾を内蔵し、それぞれが強烈な光を出しながらパラシュートによってゆっくりと降下し、周囲を照らし続けます。


照明弾

照明弾
posted by JSF at 00:45 | Comment(78) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年02月13日
まず最初に説明しておきますが、黄燐(黄リン)とは白燐(白リン)に不純物が混じったもの(白燐は徐々に赤燐へ変化していく為、表面に赤燐の皮膜が出来る。これで白く見えず、黄燐と呼ばれる場合がある)で、基本的には同じものと扱ってよいです。


2発の弾痕を確認 サマワ陸自宿営地砲撃 : 共同通信 2004/04/08
【サマワ8日共同】イラク南部サマワの陸上自衛隊宿営地を狙ったとみられる砲撃で、派遣部隊は8日、宿営地北側の運河を挟んで2発の弾痕を相次いで確認した。砲弾は8センチ程度で、1発はりゅう弾、もう1発は黄リン発煙弾とみられる。  

政府は同日、部隊を狙った計画的な攻撃とほぼ断定した。地元警察当局によると、砲弾攻撃直前、宿営地付近で不審な小型車が目撃され、発車後間もなく爆発音がした。防衛庁によると、弾痕は宿営地近くの運河を挟んで、りゅう弾が宿営地の北東約1キロ、発煙弾が北東数百メートルの地点で発見された。宿営地の北約3キロでは、迫撃砲の一部や砲弾1発が入った弾薬箱が放置されているのが見つかった。砲弾の種類は不明。

発煙弾が着弾したとみられる場所には、半径40−60センチにわたって地面が焦げ、燃えた黄リンが残留していた。発煙弾については、殺傷力が弱いため部隊を混乱させる狙いだった可能性がある。


「砲弾は8センチ程度で、1発はりゅう弾、もう1発は黄リン発煙弾とみられる。」

「発煙弾については、殺傷力が弱いため部隊を混乱させる狙いだった可能性がある。」


サマワで使用されたのは、旧ソ連製の82mm迫撃砲から発射された迫撃砲弾です。白燐弾(黄燐弾)がファルージャの件で騒がれだす以前では、マスコミの白燐弾に対する認識は、このようなものだったのですね。実際に殺傷力は弱いのですから、正しい認識です。しかしそれが何故かアメリカ軍やイスラエル軍が使用すると白燐弾は「悪魔の兵器」呼ばわりされてしまいます。この豹変振りは、幾らなんでもおかしいでしょう?

イスラエル軍がガザで白リン弾。 悪魔の兵器の実像は : 東京新聞

・自衛隊が狙われたら「殺傷力が弱い白リン発煙弾」
・米軍やIDFが使ったら「悪魔の殺戮兵器、白リン弾」

これでは冷戦時代の、東西両陣営の核兵器に対するダブルスタンダードなロジックと、何ら変わりがありません。

・アメリカの核兵器は汚い核である。
・ソ連(中国)の核兵器は綺麗な核である。

何十年経っても進歩の無い人達としか、言いようが無いです・・・
posted by JSF at 20:34 | Comment(159) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月30日
既に何度か書いている事ですが、イスラエル国防軍(IDF)の使用していたM825A1白燐弾は発煙弾(煙幕弾)として設計されており、通常榴弾や専用設計の焼夷弾と比べて殺傷力が大きく劣ります。(「有効範囲と散布密度」及び「焼夷能力と貫通力」)この事実も十分に広まってきたと思うのですが、それを受けて逆に「白燐弾は殺傷力が低いからこそ使っているのだ、榴弾は威力が高すぎるから使えないのだ」という意見が出ています。


白燐弾使用の何が問題か - 児童小銃 2009-01-17
それに対して週刊オブイェクトでは次のように反論している。対人殺傷を目的とした場合、白燐弾は効率が悪すぎる、殺傷目的なら普通の榴弾を使うはずだ、と。

だがこれは理屈がおかしいのではないか。いくら効率が良くても、いや効率が良いからこそ、民間人が多い人口密集地に榴弾を打ち込んだら大問題になる。白燐弾は煙幕弾だと言い訳できるのでそういう場所でも使える便利な兵器、ということなのではないか?

イスラエル軍は民間人の犠牲者が出ること自体は恐れていないようだが、言い訳できない形で民間人を殺傷することは避けていて、砲撃や爆撃は軍事目標に限定しているはずだ。しかしそれだと武装勢力がややこしい場所に紛れ込んだ場合は攻めあぐねてしまう。

そこでそのような場所では言い訳できる兵器として白燐弾を使っている、という可能性はないか? 効率が悪いので武装勢力を殺傷することは難しいだろうが、民間人の犠牲者を出すことで戦略爆撃的な効果を期待できるのではないか?

だとするなら、ガザ攻撃を認めない立場からは、言い訳できる兵器の言い訳を容認するわけにはいかない。攻撃ではないと称して攻撃できる抜け道は塞いでおかなくてはならない。そういう意味では白燐弾使用を非難するのは意味のあることなのではないかと思った。


「児童小銃」管理人rna氏は、根本的な部分で認識を誤っています。どういう事かと言うと、今回のガザ侵攻によるパレスチナ側の死者は1300名超、負傷者は5400名超という事態になっていますが、この死傷者の殆どは榴弾や爆弾による巻き添え被害の結果であり、白燐弾による死傷者は全体数から見て極一部であると言うことです。もし仮に殆どの死傷者が白燐弾によるものであったら、「榴弾を撃ち込んだら大問題になるから煙幕弾と言い訳できる白燐弾を使った」という主張も成り立つかもしれませんが、事実はそうではないのです。

そして、イスラエル国防軍のこれまでのやり方を十分に理解しているのであれば、彼らが必要とあらば人口周密地域の市街地に対して、榴弾による砲撃や戦闘機による爆撃を全く躊躇わない軍隊である事を忘れてはならない筈です。




ガザの市街地が次々と爆撃されていく様子です。これは明確に白燐弾によるものではありません。恐らくは航空機用の誘導爆弾です。




こちらは凄まじい爆発の結果、夜なのに辺りは昼間のように照らし出され、大火災が発生しています。一部の無責任な人達は「イスラエル軍が戦術核兵器を使った!」とまで騒いでいる動画です。しかし映像の様子を見ても核爆発の特徴は全くありません。恐らくはハマスの弾薬庫ないしカッサム・ロケット製造工場が爆撃され、盛大に誘爆を引き起こしたものだと思われます。

IDF Bomb Tunnels Gaza Egypt Border1
IDF Bomb Tunnels Gaza Egypt Border2
IDF Bomb Tunnels Gaza Egypt Border3
IDF Bomb Tunnels Gaza Egypt Border4

上の4つのYoutube動画は、ガザとエジプトとを繋ぐ密輸トンネルをIDFが貫通爆弾を用いて爆撃している様子です。密輸トンネルは農場に近い所にもあれば、市街地となっている場所にもあり、住宅が立ち並ぶすぐ横でも空爆が行われている事が見て取れます。

これがIDFの軍事行動です。市街地で平然と榴弾、爆弾を用いています。戦時国際法は市街地であっても軍事目標に対しては攻撃を認めています。そしてそもそも民間人を狙った攻撃は榴弾だろうが白燐弾だろうが全ての兵器で禁止されています。しかし誤射、誤爆は戦争犯罪ではありません。つまり「白燐弾ならば発煙弾だと言い逃れる事が出来る」という主張は、国際法的には何の意味もありません。そもそも通常の榴弾や爆弾は市街地で使用しても違法では無いからです。そしてIDFはその使用にさほど躊躇はありません。

実は「児童小銃」管理人rna氏の主張と似たような事を、軍事アナリストが主張している例もあるのですが・・・


殺傷能力高い「発煙弾」 ガザで使用? 白リン弾とは : 中日新聞 2009年1月16日付朝刊21面『特報』欄
「白リン弾は、ビルの間や鉄塔などに潜んでいる兵士を殺すのに効果的。ただ、爆破力はないので建物を壊すような被害が出ない。占領後に建物をそのまま利用できるというメリットもある」と指摘するのは軍事ジャーナリストの神浦元彰さん。

神浦さんは、イスラエル軍の意図を「一般の住宅地を通常爆弾で砲撃すると、一般市民が多数死んで大虐殺になり、国際世論の圧力に耐えられない。戦闘当初は市民は建物の中に隠れるので、白リン弾なら、外にいる兵士だけを殺すことができる。国際的に規制されていない発煙弾だと言い逃れられるという判断もあったんだろう」と分析する。


軍事界の【逆神】と呼ばれ、その軍事解説は十中、八九が外れてしまうという驚天動地の軍事アナリスト、神浦元彰氏の主張と言うだけでもう的外れだろうなという空気が漂ってきますが、実際にそんな感じです。




ガザは瓦礫の山です。そもそもIDFはガザを占領に行ったのではありませんから、占領後の利用など考えてもいない筈です。

ちなみにIDFは、ガザ侵攻中、発煙弾(煙幕弾)は榴弾と併用して使っている旨を発表しています。ただ、ガザ撤退まで白燐弾の使用を認めずただの煙幕弾だと言い張り、それ以前にIDFの女性報道官が明らかに軍事全般を理解しておらず、砲弾の構造の説明も無茶苦茶で、これはワザとやっている情報撹乱戦なのかと思ったぐらいなのですが、発煙弾と榴弾を交互に撃ち込んでいく砲撃パターンについては一般的な砲兵戦術ですし、IDFの言い分としては「白燐弾を攻撃用に単独で集中使用してはいない」となるのでしょう。勿論、IDF側の発表をそのまま鵜呑みにする事は出来ませんが、若干の裏付けとなる情報はあります。


[AML 23620] (ネヴ・ゴードン教授の論考)
2) イスラエルは、壊滅的なミサイルを発射する数分前に、意地悪な爆弾 −家を本当には破壊しない− を使用している。ここでもまた、イスラエル軍はもっとパレスチナ人を殺すことができるが、それをしないことを選択しているのだということを見せようとしている。


このネヴ・ゴードン教授が語る『意地悪な爆弾−家を本当には破壊しない−』とは、恐らくM825A1白燐弾の事・・・語られている情報が少ないので断定は出来ませんが、『壊滅的なミサイル』とは通常榴弾や航空爆弾の事であると仮定すれば、辻褄が合います。つまり発煙弾を先に撃ち込み、その煙へ向って通常榴弾による効力射を撃ち込むという情況になりますから、これは砲兵戦術として定番のものです。ただしネヴ・ゴードン教授自身はそれがどんな戦闘行動か理解していないようで、IDFがパレスチナ人を何か甚振っている様子と思っているようですが、そういう意味ではありません。

注;コメント欄でのバグってハニー氏からの指摘によると、ネヴ・ゴードン教授の言う『意地悪な爆弾』とはルーフ・ノッキング(Roof knocking、屋根叩き)という、IDFの爆撃警告法の事で、音だけ出る爆弾によるもので、白燐弾は関係ありませんでした。『壊滅的なミサイル』とは家屋破壊用の榴弾、爆弾のままで良いです。今回のガザ侵攻で損壊した建物は22,000棟にのぼるとのことで、破壊された戸数の割りに人的被害は少なく、建物3戸破壊あたり死傷者1名の割合でした。

また、以下の動画と解説は以前にも紹介したので再掲載になりますが、煙幕弾と照明弾を同時併用している事自体が、M825A1白燐弾を攻撃用として使っているわけではなく、目晦まし用として使っている事の証左となっています。また、あくまでこの動画の場合における使用状況についての話になります。





【質問】夜間に照明弾と共に白燐煙幕弾を使う意味は何でしょう? ガザでもファルージャでも同様の戦法が確認されています。これは威嚇効果、心理効果を重視した運用なのかと思うのですが、どうでしょうか。

【答え】このビデオクリップに限ればですが、煙によって光が散乱するために相手の視覚を一時的に奪うことによる組織抵抗の攪乱が期待できます。雪が降ってる時にハイビームにすると雪が光って(ハレーション効果)周りが何も見えなくなるようなものです。一般的な使用法ですね。因みにその効果は照明弾が上空にいた場合が一番効果が高いです。戦術的には、別の使用法もあります。自軍背後に使用することで自軍及び射撃光を相手の視覚から隠すこともできます。もっともその使用法は風向きを考えなきゃならないので使用できるシチュエーションが限定されますが。




動画では照明弾(照明専用設計のマグネシウム粉+硝酸ナトリウムの燃焼剤)と同時併用して白燐煙幕弾が使用されています。そしてこの同時使用戦法は2004年のイラク・ファルージャでも確認されており、今回のガザでも確認されました。これは目晦まし効果を狙った撹乱戦術として一般的な使用法のようです。そしてこの使い方なら現行の国際法には何も触れません。
posted by JSF at 22:51 | Comment(70) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月29日
今回のパレスチナ・ガザでの白燐弾問題は、以前のイラク・ファルージャで問題化したときと比べ、問題点が整理されています。


White Phosphorus (WP) | GlobalSecurity.org
Casualties from WP smoke have not occurred in combat operations.
「WP(白燐)煙からの死傷者は戦闘で生じていません.」

There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes.
「白燐煙に晒された状態が原因だと報告された死亡例はありません.」

Generally, treatment of WP smoke irritation is unnecessary. Spontaneous recovery is rapid.
「一般に,WP(白燐)煙焦燥の治療は不必要です.自発的回復は迅速です.」


週報 第336号(昭和18年3月24日号):週報でみる戦時生活
黄燐焼夷弾の白煙は10分くらい吸っても無害とのことで、防毒面は附けずに消火活動を行うとのこと。


この手の情報が出回るようになり、白燐の燃焼で発生する煙は強い毒性のガスなどでは無いことが理解され、煙を吸ったら一巻の終わりだ等というデマが平然と流されていたファルージャの時と比べ、白燐弾の問題点は焼夷効果について絞られてきたと言えるでしょう。「白燐弾は化学兵器とは見なされておらず、明確に国際的に禁止された兵器でもない」と朝日新聞や毎日新聞も報じているくらいです。

それでも国際法に違反している"疑いがある"と主張するグループが居ます。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は「白燐弾は特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の焼夷兵器の使用禁止または制限に関する議定書(第3議定書)に違反している"疑いがある"」としています。ですが、この条約をそのまま解釈した場合、白燐弾は定義の時点で除外される対象になっています。


焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

第一条 定義

この議定書の適用上、

1 「焼夷兵器」とは、目標に投射された物質の化学反応によって生ずる火炎、熱又はこれらの複合作用により、物に火炎を生じさせ又は人に火傷を負わせることを第一義的な目的として設計された武器又は弾薬類をいう。

(a) 焼夷兵器は、例えば、火炎発射機、火炎瓶、砲弾、ロケット弾、擲弾、地雷、爆弾及び焼夷物質を入れることのできるその他の容器の形態をとることができる。

(b) 焼夷兵器には、次のものを含めない。

(i) 焼夷効果が付随的である弾薬類。例えば、照明弾、曳光弾、発煙弾又は信号弾

(ii) 貫通、爆風又は破片による効果と付加的な焼夷効果とが複合するように設計された弾薬類。例えば、徹甲弾、破片弾、炸薬爆弾その他これらと同様の複合的効果を有する弾薬類であって、焼夷効果により人に火傷を負わせることを特に目的としておらず、装甲車両、航空機、構築物その他の施設のような軍事目的に対して使用されるもの

2 「人口周密」とは、恒久的であるか一時的であるかを問わず、都市の居住地区及び町村のほか、難民若しくは避難民の野営地若しくは行列又は遊牧民の集団にみられるような文民の集中したすべての状態をいう。

3 「軍事目標」とは、物については、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に貢献する物で、その全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況の下において明確な軍事的利益をもたらすものをいう。

4 「民用物」とは、3に定義する軍事目的以外のすべての物をいう。

5 「実行可能な予防措置」とは、人道上及び軍事上の考慮を含めその時点におけるすべての事情を勘案して実施し得る又は実際に可能と認められる予防措置をいう。


第二条 文民及び民用物の保護

1 いかなる状況の下においても、文民たる住民全体、個々の文民又は民用物を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

2 いかなる状況の下においても、人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

3 人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する方法以外の方法により焼夷兵器による攻撃の対象とすることも、禁止する。ただし、軍事目標が人口周密の地域から明確に分離され、焼夷効果を軍事目標に限定し並びに巻添えによる文民の死亡、文民の傷害及び民用物の損傷を防止し、また、少なくともこれらを最小限にとどめるため実行可能なすべての予防措置をとる場合を除く。

4 森林その他の植物群落を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは、禁止する。ただし、植物群落を、戦闘員若しくは他の軍事目標を覆い、隠蔽し若しくは偽装するために利用している場合又は植物群落自体が軍事目標となっている場合を除く。



まず第一条「定義」の部分をじっくり読んでください。そしてイスラエル国防軍(IDF)が使用している155mm榴弾砲用のM825A1白燐弾は、発煙弾(煙幕弾)として設計された兵器です。つまり焼夷効果を第一義的に狙って設計されておらず、付随的(副次的)な焼夷効果を持つ弾薬類は焼夷兵器とは見なさないという条約上の定義に従えば、M825A1白燐弾をこの条約で規制する事は出来ません。

法自体の不備であるという批判は、それは自由に主張する権利があります。ですがこの現行法では違法ではない以上、「国際法に違反している」と声高に主張する事は間違っています。その点は気を付けて下さい。

またこの条約は例外規定が多く、その為に単なる「禁止条約」ではなく「使用禁止又は制限条約」というまどろっこしい題名となっています。照明弾や発煙弾、信号弾が除外されるのは勿論、複合弾薬も許可されており、徹甲焼夷弾なども除外される事になります。つまり劣化ウラン弾には副次的な焼夷効果がありますが、除外されます。また一部のクラスター爆弾には炸薬とは別に発火性の高いジルコニウムが内蔵されていて焼夷効果を狙っていますが、これもオマケ的に追加された副次的な効果である為に焼夷兵器扱いにはなりません。

それでは次に、この条約の運用核心部分である第二条を見て行きましょう。

まず1の「いかなる状況の下においても、文民たる住民全体、個々の文民又は民用物を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。」という部分はあまり意味の無い前置き部分です。というのも、民間人や民間施設を"故意に狙って"攻撃してはいけないという事は、特に焼夷兵器に限った事ではなく、全ての兵器について指定されている事だからです。ですからこの部分は枕詞みたいなもので、読み飛ばしても構いません。

重要なのは2です。「いかなる状況の下においても、人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。」とはどういう事なのか。これは軍事目標であろうと人口周密地域にあるものを、焼夷兵器による空中投射による攻撃を行ってはならないとしています。実は基本的に人口周密地域であろうと軍事目標に対しては攻撃しても国際法に違反しません。それを焼夷兵器に関しては使用を禁止しようというのが、この条約の主旨です。

つまりこの条約は「焼夷兵器は残虐な負傷を伴うから禁止しよう」という主旨のもの"では無い"のです。もしそういう主旨ならばダムダム弾のように兵士に対しても使用を全面禁止するはずです。しかしそうではない、禁止対象は「人口周密地域」での使用という広い範囲である・・・これで理解できると思います。焼夷兵器は『延焼性』がある為に、仮に軍事目標だけを狙った攻撃が成功しても火災が発生し、周囲の民間施設を巻き添えにする可能性が高いから、使用を規制しようというのがこの条約の主旨なのです。

そこで3の部分です。空中からの投射ではなく、地上からの投射であっても、基本的に人口周密地域での焼夷兵器の使用は禁止されていますが、軍事目標が人口周密地域と分離され、民間人を巻き添えにしないように十分な予防処置が取られている場合なら、使用が可能となっています。つまり市街地の中であっても明確に分離された塹壕陣地内などであるならば、「焼夷兵器」である火炎放射器や焼夷手榴弾を投げ込んで敵兵を焼き殺しても合法扱いになる可能性が残されています。

そして2と3に共通する事ですが、この条約の条項だけでは野戦において敵軍に対して焼夷兵器を用いても違法となりません。

また4ですが、森林などの植物群落を無闇に焼き払う事を禁止していますが、敵が身を隠す目的で使っているなら焼き払っても構わないと許可されています。禁止する意味が無い文面に思えます。そして植物群落自体が軍事目標ならば許可されていますが、要するにケシ畑などを焼き払うのに焼夷兵器を使っても構わない、と言う事です。


ではこの条約をよく読んだ上で、M825A1白燐弾の話に戻ります。以前に「白燐弾が通常榴弾より殺傷力が劣る理由」で書きましたが、M825A1白燐弾は発煙弾(煙幕弾)として設計されて居る為に、「有効範囲と散布密度」及び「焼夷能力と貫通力」とう点で全般的に殺傷力に劣る兵器となっています。通常榴弾に対し破片密度で何十分の一という差を付けられており、対人殺傷という観点からは全く比較にならず、建造物に対する焼夷効果についても、専用設計の焼夷弾が建造物を貫通してから延焼させるのに対し、M825A1の白燐欠片は素のままで貫通力が全く無い為、ガザ侵攻中に火災が頻繁に発生したという事例も聞きません。一部では白燐弾による火災が発生しましたが、通常爆弾による火災(弾薬庫直撃による大炎上)も確認されており、白燐弾を使ったから火災がよく発生した、という事は、少なくとも現時点では言えそうにありません。

もしイスラエル国防軍(IDF)が人口周密地域を火災で焼き払おうとしていたなら、CCWの焼夷兵器に関する議定書の主旨に反していると言えます。しかし本気で焼き払う気なら空中炸裂など行わずに着発モードで建造物内部に突入させてから起爆させた方が、より確実に火災を発生させる事が出来た筈です。そして煙幕弾を煙幕として使っていただけなら、違法性はありません。
posted by JSF at 21:34 | Comment(120) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月21日
白燐は戦場に登場してから100年近く経ちますが、これまで化学兵器として扱われたことは一度もありません。数年前のファルージャの時はともかく、最近のガザの報道では「化学兵器では無い」という注釈は目立ってきました。朝日新聞や毎日新聞ですらそのように報道しています。

■イスラエル軍「白リン弾」使用か ガザの死者885人に (1月11日 朝日新聞)
http://www.asahi.com/international/update/0111/TKY200901110133.html
>化学兵器とはみなされておらず、国際条約上、明確に使用が禁止されてはいない

■ガザ侵攻:イスラエル軍が「白リン弾」使用…人権団体指摘 (1月11日 毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20090112k0000m030064000c.html
>白リン弾は国際条約で明示的に禁止された兵器ではなく、化学兵器ともみなされていない。

少なくても大手報道機関は国内外を含めて同じ様な報道です。デマ報道が駆逐されつつあることは良い事で、歓迎していたのですが、ところが・・・


蛮行 許しがたい イスラエルの国連施設空爆 国連スタッフら非難 (2009年1月17日(土)「しんぶん赤旗」)
UNRWAのガザ地区を担当するジョン・ギング部長は、イスラエル軍が残虐兵器である白リン弾を多用しているとされることに言及。白リン弾が放つ炎に水をかけた場合、強い毒性ガスが発生するために消火活動が困難をきわめていると語りました。


白燐に水を掛けると強い毒性ガスが発生・・・って、そりゃ何て名前のガスでどんな化学式ですか?


        ノ L____
       ⌒ \ / \
      / (○) (○)\
     /    (__人__)   \     3年前のデマ報道に逆戻りかお!
     |       |::::::|     | 
     \       l;;;;;;l    /l!| !
     /     `ー'    \ |i
   /          ヽ !l ヽi
   (   丶- 、       しE |そ  ドンッ!!
    `ー、_ノ       煤@l、E ノ <
               レY^V^ヽl

注) カテゴリ「白リン弾」の2005年11月17日の記事「謎の超兵器と化した白燐弾」、及び2005年11月26日の記事「ファルージャ白燐弾デマゴーグ」を参照。

あれだけ苦労してデマを駆逐して、今では朝日新聞や毎日新聞も「化学兵器ではない」と記事を書いて成果も出てきたのに、また逆戻りですかそうですか・・・もういい加減にして下さいよ。

以下は太平洋戦争時に配られた政府広報で、攻撃用の黄燐(白燐)焼夷弾に対処する方法を記したものです。


週報 第336号(昭和18年3月24日号):週報でみる戦時生活
黄燐焼夷弾の白煙は10分くらい吸っても無害とのことで、防毒面は附けずに消火活動を行うとのこと。


黄燐(白燐)が燃焼した際に生じる煙(五酸化二燐)の毒性とはこの程度です。「毒性が薄くても濃度が濃ければ危険だ」という意見もありますが、そんな事を言い出したら大抵のガスや煙にも毒性は有るので意味は無い主張です。例えば燐系とは別系統の六塩化エタン発煙弾(HC発煙弾)も毒性は低いのですが、中毒例はあります。太平洋戦争中に忠海製造所で製造していた救難用マーカーの九四式水上発煙筒(HC系)が数百本、一度に引火してしまう事故が発生し、六塩化エタンによる中毒者が数名出ていますが、じゃあHC発煙弾は毒ガスですかと言うとそうではないでしょう。ただ毒性があるから毒ガスだ、ただ煙が出るから煙幕弾だ、ではないのです。兵器としてどのように設計され、どのような効果が期待できるのか、兵器としての実用性を無視して勝手に認定したりしないで下さい。全く毒性の無いハロン消火剤ですら、密閉された潜水艦で使用された場合は酸素濃度低下で窒息死する事故が発生しました。しかし白燐弾を開けた野外でしかも空中炸裂させて酸欠なんて事態にはなりません。

なお攻撃用に設計された白燐弾と煙幕用に設計された白燐弾の殺傷能力の違いは「白燐弾が通常榴弾より殺傷力が劣る理由」で指摘したとおりです。焼夷弾子に貫通力を持たせる工夫をしたり(金属ケースに充填しないと脆い白燐は貫通能力が無い)、ゴムを一緒に充填して付着性を強化したり(逆を言えば白燐自体の付着性はそれほど高くないのでこのような工夫が必要になる)、そのような設計を一切行わず素の白燐欠片をバラ撒くだけのM825A1白燐弾は殺傷能力、引火性ともに低いのです。

また政府広報の週報第336号には焼夷弾の消火には「何より必要なのは大量の水」とあります。もし黄燐(白燐)に水を掛けて猛毒ガスが発生するなら、その事を注意する記述がある筈ですがそのようなものはありません。逆に発生する煙は毒性が低いから10分吸い続けても大丈夫、防毒マスクは付けずに消火活動を行え、と書かれている以上、消火活動の放水で猛毒ガスが発生するような事は有り得ないでしょう。

黄りん :滋賀県医務薬務課より黄りん(白リン)の特徴を抜き出してみます。

・アルカリ水溶液と反応して自然発火の有毒なホスフィン(りん化水素:PH3)を発生する。
・小規模火災の場合土砂等で覆って消火する。
・大規模火災の場合は霧状の水を多量に用いて消火する。
・棒状の水を注ぐと溶けた黄りんが細かい粒子となり、飛び散って危険である。

3年前のファルージャ白燐弾デマ騒動でも有毒ガス「ホスフィン」の名は出ましたが、見ての通り水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を掛けないと発生しないので、消火用の水でホスフィンが発生するようなことはありません。また水を用いた消化方法も、直線状の水流で高い水圧を掛けるなと言う注意書きであり、白燐そのものが飛び散ってくると言う話であって「強い毒性のガスが発生する」というのはウソです。これは浮遊性の高いゾルが発生するという事ではありません。あくまで飛び散った先が新たに発火する場合に消火作業が滞ると言う意味です。エアロゾルなら「飛び散る」という表現は有り得ません。他には燃焼し有害な強い刺激臭のある煙霧、つまり五酸化二燐の煙についても言及されていますが、既に述べられている通り、10分間吸い続けても平気な程度の弱い毒性です。

UNRWAのジョン・ギング部長が白燐の化学特性も知らずにデタラメな証言を行い、また再び白燐弾が「水を掛けると強い毒性ガスを発生する」という謎の超兵器と化そうとするとは・・・数年前にデマを叩き潰した努力は一体、なんだったんだ・・・
posted by JSF at 22:50 | Comment(417) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月19日
何時も通り白燐弾についてもトンデモ発言を繰り返している神浦さんですが、とうとうやっちゃいました。


イスラエルが堂々と使っている「白リン弾」の恐怖 : ゲンダイネット
「建物の周囲に潜んでいる人間を簡単に殺傷できるのですが、体内から焼かれるため遺体はキレイなままで残虐性が薄れる。それに、鉄筋造りのビルなどには全く効果がないのでインフラを破壊することがなく、占領後の統治がスムーズに運ぶ。人間を焼き打ちにする使い方を始めたのは、04年にイラク中部ファルージャを攻撃した米軍です」(前出の神浦氏)


遺体はキレイで残虐性は薄れるんですか。これまで白燐弾犠牲者の遺体損傷の酷さを訴えていた人達が困惑している様子が目に浮かびます。

取り合えず久しぶりに神浦さんのサイトを覗きに行ってチェックしたのですが、やっぱり他にも頭を抱えたくなるような記述で一杯です。どこから手を付けたらよいのだろう?


神浦元彰 最新情報(2009年1月15日)
それよりイスラエル軍の白リン弾を使った戦術に変化がでてきた。テレビのニュース映像では、イスラエル軍が白リン弾攻撃を行う前に、目標付近の風上に発煙弾を大量に発射し、目標一帯を発煙で遮って白リン弾攻撃を行うという戦術である。これは白リン弾をあくまで発煙弾と主張するためと、煙で視界を奪って白リン弾攻撃した方がハマスの恐怖心を高めることができるからである。目隠しをされて白リン弾攻撃から逃げ回れば恐怖心が一気に高まるからである。


いえ、その発煙弾が白燐弾そのものなんですが。別系統の発煙弾である六塩化エタン発煙弾(HC発煙弾)ならば煙の色が白燐弾と違いますので、見れば大体分かりますが、そういう映像は見当たりません。そもそも2種類の発煙弾を同じ場所に使用する意味がよく分からないのですが。白燐弾で煙幕、張れますよ?

・・・どうやら神浦さんは、白燐弾は発煙弾じゃないと思っている節があります。1月5日の記事で「仮に私はこれを”対人焼夷弾”と呼ぶことにする。」と書かれているように、何らかの新兵器が投入されたと思っているようです。しかも発煙弾ではない理由として「しかし写真では空中破裂をしている。」としています。どうやら榴弾砲用の発煙弾の空中炸裂が一般的な煙幕展開方法(参照:Smoke Projectiles)だとご存じ無いみたいです。・・・イスラエル軍の使用しているM825A1白燐弾は発煙弾として設計され、焼夷効果は副次的になります。この事を神浦さんにメールで教えて上げた方は何人か居たのですが、しかし幾ら説明しても理解してもらえなかったみたいです。


神浦元彰 メールにお返事(2009年1月12日)
その点では市街地の白燐弾はナパーム弾より残忍と考えています。


逆に神浦さんの脳内では、白燐弾がナパーム弾よりも残忍な超兵器にレベルアップしてしまいました。もう何がなにやら。私ならナパームで焼き殺される方がイヤだなぁ・・・「白燐弾が通常榴弾より殺傷力が劣る理由」でも書きましたが、通常榴弾や専用設計の焼夷弾と比べれば、発煙弾として設計されたM825A1白燐弾は攻撃力が低く、少なくともナパームよりは優しい兵器だと思います。


あと白燐弾と全然関係無いんですが、目についた明らかな間違いを放っておけず、ついでに突っ込んでおきますね。


神浦元彰 最新情報 (2009年1月17日)
[コメント]今から6週間以上前には、たとえ海賊船を見つけても、各国軍艦は監視する以外に手出しができなかった。それは公海の自由な航行を認めた国際慣例(国際法)があるからである。


いいえ、この説明は間違いです。国際法である海洋法条約第110条は全ての国の軍艦に公海上の海上警察権を与えており、海賊船の臨検・拿捕まで認めています。詳しくは月刊「健論」2000年8月増刊号・国連海洋法の解説・第10編 海洋の区分(8):公海の第2章 公海に対する管轄権の行使、第4節 例外(3):海上警察権を参照してください。
posted by JSF at 21:50 | Comment(165) | TrackBack(0) | 白リン弾
先日、日本テレビのニュースZEROで白燐弾に関するデマ報道・・・とまではいきませんが、ちょっとした誤報がありました。


いやまだ使ってますけど?


・・・いやまだ使ってますけど? 今年度も新たに白燐煙幕弾を新規調達したりしているんですけど・・・

防衛省装備施設本部の装備品に関する情報の調達予定品目の項目から、弾火薬室のPDFファイルにちゃんと書かれています。 

[PDF] 平成20年度 調達予定品目(中央調達分)(調達実施計画ベース)

・81mmM、JM42A1WP発煙弾
・120mmM、JM2WP発煙弾
・発煙黄りん手りゅう弾

Mというのはモーター(迫撃砲)の事で、WPとは(White Phosphorus)、つまり白燐弾の事です。黄りん(黄燐)とは少量の不純物を含む白燐の事で、色合いが少し違いますが英語圏では区別せず、両方ともWP扱いです。

74式戦車のスモークディスチャージャーが白燐で、90式戦車では赤燐を使っている事を「自衛隊は全部切り替えてもう使っていない」と早合点したんでしょうか、番組スタッフは。だとしたらお粗末過ぎるんですが・・・それと白燐にしろ赤燐にしろ、燃焼して発生する煙は同じ五酸化二燐が元になっています。
posted by JSF at 00:33 | Comment(90) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月18日
このAP通信の記事のタイトルを直訳すれば「赤十字国際委員会: イスラエル軍が使用した白燐弾は違法ではない」となります。コメントしたのは、地雷廃絶運動やクラスター爆弾規制で多大な貢献をして来たピーター・ハービー地雷/兵器ユニット管理部長です。

注;「the head of the organization's mines-arms unit」の適当な和訳が見付からなかったので、役職の部分の訳が正しいかどうかはちょっと自信がありません。


ICRC: Israel's use of white phosphorus not illegal | Associated Press
"In some of the strikes in Gaza it's pretty clear that phosphorus was used," Herby told The Associated Press. "But it's not very unusual to use phosphorus to create smoke or illuminate a target. We have no evidence to suggest it's being used in any other way."


白燐弾が煙幕や照明に使われるのは珍しい話ではなく、合法であり、イスラエル軍がそれ以外の目的で使用した証拠は何も無い、とハービー氏は述べています。人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの言い分を鵜呑みにせず、連日の報道を目に通した上でこう述べています。ハービー氏のこれまでの実績からすると白燐弾を激しく糾弾しそうなものですが、そのような態度は見せず、赤十字国際委員会は非常に慎重な態度を貫いています。ハービー氏は赤十字国際委員会の法規部兵器部門の法律顧問であり、戦時国際法などに精通しています。するとやはりCCWの焼夷兵器制限条約では、イスラエル軍の使用しているM825A1白燐煙幕弾が、焼夷兵器の定義の時点で除外されている事を十分に良く理解している(専門分野の人なのだから当然の話だが)のでしょう。なにしろ焼夷兵器に関する議定書の条項を字義通りに解釈した場合、使用方法以前に設計段階の時点で既に、焼夷効果が副次的な兵器は全て除外されてしまいます。

また、白燐弾は煙幕弾として使われたり照明弾として使われたりしているとありますが、以下のような使い方もあります。




【質問】夜間に照明弾と共に白燐煙幕弾を使う意味は何でしょう? ガザでもファルージャでも同様の戦法が確認されています。これは威嚇効果、心理効果を重視した運用なのかと思うのですが、どうでしょうか。

【答え】このビデオクリップに限ればですが、煙によって光が散乱するために相手の視覚を一時的に奪うことによる組織抵抗の攪乱が期待できます。雪が降ってる時にハイビームにすると雪が光って(ハレーション効果)周りが何も見えなくなるようなものです。一般的な使用法ですね。因みにその効果は照明弾が上空にいた場合が一番効果が高いです。戦術的には、別の使用法もあります。自軍背後に使用することで自軍及び射撃光を相手の視覚から隠すこともできます。もっともその使用法は風向きを考えなきゃならないので使用できるシチュエーションが限定されますが。




動画では照明弾(照明専用設計のマグネシウム粉+硝酸ナトリウムの燃焼剤)と同時併用して白燐煙幕弾が使用されています。そしてこの同時使用戦法は2004年のイラク・ファルージャでも確認されており、今回のガザでも確認されました。これは目晦まし効果を狙った撹乱戦術として一般的な使用法のようです。そしてこの使い方なら現行の国際法には何も触れません。
posted by JSF at 00:09 | Comment(184) | TrackBack(1) | 白リン弾
2009年01月17日
白燐弾は化学兵器禁止条約(CWC)のリストに載っていない為、化学兵器扱いされていません。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書V)」でも定義上、煙幕弾として設計された白燐弾(M110、M825等)は焼夷効果が副次的と見なされ、焼夷兵器扱いされません。

この事はカテゴリ「白リン弾」で過去記事を読んで頂ければ分かりますが、一番古い記事(2005/11/17)の時点で紹介済みです。それなのにこの事について語る度に『白燐弾は無害だとでも言うのか!』とか『白燐弾に焼夷効果は無いとかトンデモがまかり通っている!』などと過剰反応を受ける事がありました。しかし、私の過去記事では白燐の化学毒性や白燐煙幕弾の副次的焼夷効果にちゃんと触れていますし、消印所沢氏の「軍事板常見問題FAQ」で特集されている◆◆◆白燐弾デマゴーグ関連でも同様の事には触れられています。日本語のサイトで白燐弾に関して「謎の超兵器」と勘違いしないように呼び掛ける主旨の纏めサイトは、この私のブログと消印所沢氏のサイトの二つが中心となってやっているわけですから、無害だとか焼夷効果が無いなどの言説がネット上でまかり通る事は無い筈なのですが・・・多くの著名ブログやサイトの記事で言われていたなら「まかり通っている」で構いませんが、一部だけで主張された事をもって「まかり通っている」だなどと言う事は出来ない筈です。

3年前の日本での白燐弾デマゴーグは、白燐弾から有毒ガスのホスフィンが生じるという酷いデマでした。白燐からホスフィン(燐化水素)を発生させるには水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが必要で、単純に燃焼しただけでは発生しません。このデマの発生源は現代企画室出版『ファルージャ 2004年4月』という書籍の編訳者いけだよしこ氏がイラク人男性 Raed Jarrar 氏のブログの日本語化も手掛けていたのですが、その Raed blog のコメント欄に書かれていた Rei という人物の投稿が大元でした。この投稿を翻訳し、いけだよしこ氏のブログ(書籍と連動したもの)で紹介されたところ、ファルージャ問題に関心を寄せていた反戦派のサイトがこぞって紹介し、一気に広まったのです。今でも関連キーワードで検索すればかなりの数のサイトがヒットします。しかし実際には、白燐が燃焼して生じる煙は五酸化二燐であり、毒ガスのような害は生じないわけですから、このデマは否定されました。いけだよしこ氏は誤りを認めています。

また世界的に見てもファルージャでの白燐弾使用を糾弾したイタリア国営放送RAIの証言者、ジェフ・エングルハート元兵士の主張「白燐弾は爆発すると雲をつくりだし、その半径150メートル以内にいたらお終い」「煙に巻かれたら皆焼かれて死ぬ」というもウソである事が発覚しています。実はジェフ・エングルハート元兵士は野戦司令部付きの護衛要員で、前線に出ておらず、無線通信の会話で白燐弾の使用を聞いていただけで、実際の白燐弾の着弾状況は目撃していませんでした。つまり白燐弾の煙が超高熱の危険なガスであるかのような証言は空想による捏造だったのです。この元兵士の主張が元で、白燐が燃焼して発生する煙は数千度の熱を持つと誤解した人達まで出ていました。しかし日本でも世界でも、これら反戦派の流してきたデマは正され、今回のガザの件では白燐弾の煙の事を「猛毒ガスだ」「超高温ガスだ」等と問題視する主張は見られず、副次的に生じる焼夷効果を中心に問題視されています。


さて前置きが長くなりましたが、白燐弾の対人殺傷能力はどれほどのものか検証していきたいと思います。タイトルにある通り結論は「白燐弾は通常榴弾より殺傷力が劣る」のですが、これは3年前のファルージャの時にも何回か書いてきた事なのですが、今回はその根拠を詳しく挙げていきます。大まかに分けて二つの理由があり、「有効範囲と散布密度」と「焼夷能力と貫通力」という話になります。


【有効範囲と散布密度】

155mm榴弾砲用の白燐煙幕弾にはM110系列(地表炸裂を重視、ポイントマーカーに向く)とM825系列(空中炸裂を重視、広範囲の煙幕展開に向く)があるのですが、どちらも信管を着発起爆にするか時限起爆にするかで両方の使い方が可能です。今回取上げるのは、ファルージャでもガザで多用されている時限信管を用いた空中炸裂、M825A1白燐煙幕弾についてです。Smoke Projectiles : FAS.orgでM825A1の画像と構造が紹介されていますが、この煙幕弾は空中炸裂させた際に拡散しやすいよう、白燐は116個のウェッジに分けられています。充填されている白燐は総合計12.75lb(5.78kg)ですので、バラける白燐欠片は1個当たり50グラムほどになります。

M825A1は155mmクラスター砲弾M483A1(DPICM)と弾道性能が類似しています。M483A1は88個の爆発性子弾を内蔵しています。一方でM825A1の白燐の欠片は爆発性子弾でない為、クラスター弾とは呼びません。落ちてくる白燐の欠片は地表に着弾しても爆発せずにそのまま燃え続けて煙を出します。M483A1の子弾は地表に落ちてくると爆発し、子弾それぞれが人間を殺傷できる数十個の破片を撒き散らします。つまりM483A1は合計で数千個の破片を有効範囲内に撒き散らす事になります。一方、白燐から生じる煙はそれほど有害でない以上、M825A1で人間に危害を加えるには燃え上がる白燐欠片を直撃させないといけません。ですが、M825A1は有効範囲内に116個をバラ撒くだけで、散布密度が薄過ぎるのです。クラスター砲弾でなくても、単弾頭の通常榴弾の弾殻破片でも155mm砲弾クラスなら1500〜2000個の破片が飛び散ります。戦車砲用の散弾だと、120mm砲用のM1028キャニスター弾(Youtube動画)で約1100個のタングステン製ボール弾を内蔵しています。M825A1とは散布密度の桁が違う事になります。もちろん、発生する煙は広がっていくので煙幕弾としてみれば十分な密度です。

散布密度

例えば上記写真は数年前にパレスチナで白燐弾が使用された時のものです。使用砲弾が榴弾砲用なのか戦車搭載のスモークディスチャージャーなのか分かりませんが、どちらにしろもし上空で起爆しているのが白燐弾ではなく通常榴弾であった場合、この人は絶対に助かっていない筈です。降り注いだ何千個もの破片で切り刻まれ、引き裂かれているでしょう。ですから、人に向けて煙幕弾として設計された白燐弾を撃ち込む意味はありません。対人兵器としては通常榴弾を使った方が確実に効率良く殺せます。上記写真にしても、この人に向けて狙って撃ったわけではなく、巻き込まれている様子を示しています。


【焼夷能力と貫通力】

直接的に対人殺傷を狙った場合はあまりに殺傷効率の悪い白燐弾ですが、焼夷効果を利用して二次的な火災を生じさせた場合の殺傷効率を考えて見ます。すると煙幕弾として設計されたM825A1は、専用設計の焼夷弾ではない事の問題点が浮上してきます。上記で述べたとおり、M825A1の白燐欠片は1個50グラムほどで軽く、比重が1.82と小さい為に空気抵抗を受けやすく速度は急激に落ち、貫通力が殆どありません。空中で炸裂させても建造物の屋根を食い破れないのです。

太平洋戦争でB-29爆撃機から投下された集束焼夷弾は、その開発過程で日本家屋を再現し、焼夷子弾は屋根を突き破った後にちょうど畳の上で起爆するように設計されています。この焼夷子弾は金属ケースに焼夷剤(ナパーム)と炸薬を内蔵した構造で、クラスター弾扱いとなります。日本家屋を目標に専用調整された構造だったのです。

しかしM825A1は煙幕弾として設計されている為、このような攻撃用焼夷弾のような工夫は施されていません。しかもガザの難民キャンプは滞在が長期化しているため、難民キャンプといってもテントを張っている訳ではなく、コンクリート製の建造物を住居としており、M825A1の空中炸裂で生じる小さな白燐欠片で火事を引き起こす事を狙うのは、効率が悪いのです。建造物の屋根や壁を食い破ってから燃え上がれば延焼火災を引き起こしやすいのですが、それを期待できない以上、火災の発生確率は大幅に下がります。現実に火災は発生していますが大火災は発生しておらず、散発的な火災が起きているに止まっています。15日に国連のUNRWAの人道支援物資倉庫が白燐弾によるものと思われる攻撃を受けて炎上しましたが、ガーディアンの動画ニュースを見ると物資は倉庫内から倉庫外にまで連なって集積されている上、シャッターが全開状態であり、此処から白燐欠片が飛び込んできた可能性があります。

もし私がIDFの砲兵指揮官で、M825A1を攻撃目的に使えと命令されたら、時限信管の空中炸裂など行わせたりはしません。信管は着発信管で建造物に砲弾を突入させた後で起爆させます。或いは先に通常榴弾を叩き込み、建造物を破壊して瓦礫の山を造った後にM825A1を撃ち込む戦法も考えられます。白燐煙幕弾の限定的な焼夷効果を最大限に発揮するには、そうするしかありません。

しかし現実にはIDFはそのような戦術を取っておらず、盛大にM825A1白燐煙幕弾を空中炸裂させています。見た目は派手で凶悪な攻撃が行われていると思い込まれがちですが、事実はそうではありません。対人兵器として殺傷力が通常榴弾に大きく劣り、副次的な焼夷効果もあの使い方と場所では碌に発揮する事は出来ないのです。
posted by JSF at 05:51 | Comment(444) | TrackBack(0) | 白リン弾
2009年01月12日
今回のガザでも白燐弾に関する間違った報道を鵜呑みにした例は、数年前のファルージャの時と同様に発生しています。典型例としてブログ「米流時評」さんを例に上げてみます。記事本文から白燐弾に関する部分のみをピックアップしていくと・・・


米流時評 : 「ガザジェノサイド」イスラエルの大罪を告発する!
○ジュネーブ協定違反の化学兵器も使用!

○ジュネーブ条約では市街戦では使用禁止となっている、極めて致死性の強い化学兵器であり、被爆すると皮膚や肉が溶解してしまう、とんでもない代物である。

○白燐弾についてのまとめサイトより、白燐弾についての記述の一部:この兵器は極めて卑劣な兵器である。なぜなら、白燐はその物質がなくなるまで燃え続けるものだからだ。当事者が白燐の破片を受ければ骨に達するまで燃えるものなのである。燃焼は白燐の脂溶性と発火性により第2級または第3級に値する程度になる。

○新兵器をひたすら消耗したい軍部首脳の狂気だろう。


どれも間違いです。白燐弾は新兵器などではなく、ジュネーブ条約に違反していませんし、化学兵器禁止条約のリストにも載っていません。

化学兵器禁止条約に規定された表剤 : 経済産業省

第一次世界大戦が終了した直後に毒ガス使用規制条約が結ばれましたが、その際も白燐は規制の対象外でした。そして今に至るまで対象に追加される事もなく、国際条約上、白燐は化学兵器とは扱われておらず規制されていないのです。またジュネーブ条約そのものには白燐の使用禁止を明記した条項は存在せず、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」で人口密集域への焼夷兵器の使用を禁止されているのですが、イスラエル軍の使用したM825A1白燐煙幕弾は除外対象となっています。

●焼夷兵器とは、焼夷効果を第一義的な目的として設計された兵器をいう(第一条その1「定義」より)
●焼夷効果が付随的である弾薬類(発煙弾や照明弾)は焼夷兵器に含めない(第一条その1-b-iより)
 [参考:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

M825A1砲弾は Smoke Projectiles (発煙弾)として設計されており、この議定書の定義上、明確に規制対象外となっています。条文をそのまま読んで解釈すると、それ以外に解釈のしようが無いのです。


 注)水色の砲弾がM825A1白燐煙幕弾です。


白燐弾は焼夷兵器禁止条約から漏れており、化学兵器禁止条約からも漏れている為、現状では違法兵器ではありません。つまり、「条約違反だ!」と声高に叫ぶ事は間違っています。それはデマを流す行為ですので、止めて下さい。デマでは無い、正しい、と言うのであれば、法的な根拠を指し示して下さい。しかし数年前にもこれと同じ流れになっており、白燐弾は条約違反だとする側は最終的に「条約に書かれていなくても国際慣習法のもとで不法であると論ずることができる」というアクロバット的な論法を繰り出しています。しかし白燐弾は問題化したのがつい最近の話であり、昔からの慣習であるとはとても認められません。

「国際慣習法と白燐弾」 (週刊オブイェクト 2005年12月9日)

ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約、CCWの現状を問題視し、白燐弾を規制対象に入れようと運動するなら理解できます。ですがまだ規制されていないものを「条約で禁止された兵器」呼ばわりするのは、デタラメな行為であり、デマを流す扇動行為と見なされても仕方が無いでしょう。

・・・と言う事を簡潔に纏めて「米流時評」さんのコメント欄に書き込んできたのですが、最終的にコメントもトラックバックも全部消されてしまう結果となりました。消された事自体は了承済みですから気にしては居ませんが、最後までこちらの意図を読み取って貰う事が出来ず残念でした。一番気になったのは以下の点です。


http://beiryu2.exblog.jp/9173069/の2009年1月9日 05:48に記録された魚拓
White Phosphorusの市街地での使用が戦争犯罪であることは「11月のファルージャ攻撃」で米軍の大スキャンダルとなり米国ではすでに常識として定着していますが、日本では「極右」のブログで、これを無害として肯定する連中がいることを知り少々驚きました。

私は、右とか左とか、レッテルを貼られるのが大嫌いでして誰に言われたわけでもなく、いつも自分の直感と判断力を信じて、エントリーを書いていますが、今回の妨害は「声が大きい方が勝ち」というブログの悪い面のひとつの顕彰でしょうか。


おかしいですね、私は白燐弾が戦時国際法(国際人道法)の規制対象かどうか法律の話をしていただけで、一言も「白燐は無害だ」とは言っていないのに、どうしてこのようなレッテル貼りをされてしまうのですか? 「極右」というレッテルも酷いのですが、そういった根拠の無いデッチ上げのレッテルを相手に貼った直後に「私は右とか左とかレッテルを貼られるのが嫌い」と述べる態度を見て、理屈が通じる人では無いのだな、と思いました。「直感と判断力を信じ」とあるように、論理ではなく感情だけで書いているのでしょう。この方は欧米の報道で「条約違反の兵器だ」という記事を見て、そこで思考停止しています。実際にどの条約のどの部分が該当するか全くチェックを行わず、「常識だ」と繰り返すだけでは、生産的な議論を行う事は不可能です。どうして根拠となる原典を自分の目で見に行かないのですか? わざわざ目の前に提示したというのに・・・同じ様に誰も主張していない「白燐は無害だ」というレッテルは、大石英司ブログのコメント欄でも見受けられます。白燐が燃焼して生じる煙(五酸化二燐)は毒性は低いとする主張が、何故か白燐は無害だと主張していると誤解されてしまう例はこの他でもよく見受けられます。

この際だからハッキリさせておきますが、私は白燐弾を擁護してアメリカやイスラエルを擁護するのが目的ではありません。白燐弾に限らず、兵器本来の能力から大きく懸け離れた破壊・殺傷効果を喧伝し「謎の超兵器」をデッチ上げる行為は許さない、というのが行動原理です。ですから、正しい認識の議論の末に白燐弾が国際条約で禁止されるなら全く構いません。むしろ歓迎します。煙幕弾ならば他にも代替兵器は幾らでもありますし、自衛隊が困る事も特にありませんから。既に私は数年前のファルージャ白燐弾騒動で、反戦派が流していた「白燐が燃焼して発生するガスは猛毒だ」「半径150mの煙に入るとお終いだ」などというデマを叩き潰しました。勿論私一人で叩き潰したわけではなく、全世界で同じ様に反論を行った人達が多数現れて、反戦派の行き過ぎた誇張を修正していったのです。

だから、例えば今では白燐弾反対運動に積極的な日本の朝日新聞や毎日新聞ですら「白燐弾は国際条約に触れる兵器ではない」という事くらいは理解しています。それでも骨を溶かすとか誇張はかなり入っていますし、語るべきところを語っていない面もありますが、巷で流れているデマ報道よりはかなりマシなレベルになっています。


イスラエル軍「白リン弾」使用か ガザの死者885人に : 朝日新聞
白リン弾は、主に敵の目をそらす煙幕を張るために用いることが多いが、ざんごうなどに隠れている敵をあぶりだす際にも使われる。化学兵器とはみなされておらず、国際条約上、明確に使用が禁止されてはいないことから、米軍が04年にイラクで、イスラエル軍も06年のレバノン紛争で白リン弾を使った。

だが、高熱を発するためやけどだけでは済まず、体に深刻なダメージを与えることもあり「非人道兵器」との指摘も多い。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)も10日、ガザのような人口密集地での使用は国際人道法に違反すると訴えた。


ガザ侵攻:イスラエル軍が「白リン弾」使用…人権団体指摘 : 毎日新聞
白リン弾は国際条約で明示的に禁止された兵器ではなく、化学兵器ともみなされていない。だが、皮膚に触れると骨を溶かすほど激しく燃焼し続け、人体に深刻な被害をもたらすのが特徴だ。第二次大戦の空爆などにも使用され、消火が難しいことからその非人道性が指摘された。

現在は主に、発煙弾として使われているが、その使用の是非を巡って論争があり、元英軍少佐の軍事専門家、チャールズ・ヘイマン氏は英タイムズ紙(5日付)に「故意に市街地に投下すれば、国際刑事裁判所行きだ」と指摘している。

HRWは、白リン弾を焼夷(しょうい)弾と位置付け、人口密集地にある軍事目標や、民間人を焼夷兵器で攻撃することを禁じた「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)第3議定書」に違反する疑いがあるとした。さらに、市民被害最小化の予防措置をとるべきだとする国際人道法の義務に反する、と強調している。


国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「CCWの焼夷兵器に関する第3議定書に違反している"疑いがある"」と、違反していると明言していないことに着目してください。つまりHRWとてCCW議定書の除外規定の存在(そもそも白燐煙幕弾は焼夷兵器のカテゴリーに入らない)は十分に理解しています。つまりHRWのこれからの運動方針は除外規定の撤廃あるいは条約の改正であり、朝日新聞や毎日新聞には其処まで触れて欲しかったのですが、それでも「条約に違反している」というような間違った事を明言しなかっただけでもマシです。あとチャールズ・ヘイマン氏のコメントはさほど意味を持ちません。これはイスラエル軍が「あくまで煙幕弾として使った、故意に攻撃を行ったのではない」と言い張った場合、罪に問うことはほぼ無理だからです。ハーグ国際司法裁判所でも過去に前例がありません。戦時国際法(国際人道法)は誤爆・誤射を戦争犯罪と規定しておらず、違法では無いからです。

ですから白燐弾を規制したければ現行法のままでは無理なので、条約改正運動を起こさなければなりません。反戦派は白燐弾の性質と国際法を良く理解し、地雷やクラスター爆弾のように規制できるように運動を行わなければなりません。しかしもしアメリカやイスラエルを叩ければそれで良く、白燐弾の規制には興味が無い(規制した所であまり誰も困らないから遣り甲斐が無い)というのであれば、反戦派は人道を口にしつつ人道を蔑ろにしているものと見なされます。

というか数年前に反米目的でファルージャでの白燐弾使用を非難したロシア議会という前例がありますので・・・自分達の軍隊がチェチェンで白燐弾を使っていた事を盛大にスルーして、良い根性をしています・・・


最後にオマケですが、「脂溶性」については数年前の時点で既に指摘されている事です。「軍事板常見問題FAQ」の、◆◆◆白燐弾デマゴーグ関連より。

【珍説】「黄燐(白燐)には発火性と脂溶性があり,反応する酸素が無くても,人間の肉体と反応して燃えることができます」???

これを言い出した模型ブロガーさんは既に記事を修正済みなのですが、其処を参考に纏めサイトを書かれていたmasterlow(ますたろう)氏はそれに気付いておらず、間違いがそのままになっており、「米流時評」さんがそれを鵜呑みにしてしまった、という話になっています。masterlow(ますたろう)氏が内容を修正してくれれば良いのですが、有名なフーリガンである彼は昨年、サッカー場で相手チームのサポーターに暴行を働き警察に逮捕されたゴタゴタで、もう白燐弾について書く気は失せているのか、最近のガザでの話題にも食い付いていないので、彼の纏めサイトを覗く場合は最新情報ではない事に注意してください。
posted by JSF at 01:52 | Comment(305) | TrackBack(2) | 白リン弾
2009年01月08日
4年前のファルージャ白燐弾狂想曲の発信源はイタリア国営放送RAIでしたが、今回のイスラエル軍によるガザでの白燐弾使用に反応しているのは、元イタリア共産党機関紙(経営不振で今は民間の資本が入り民営化)のウニタ紙(l'Unita')でした。


ガザでの白リン弾の使用 ウニタ紙より | P-navi info : パレスチナ・ナビ編集員ビーのブログ
イスラエルは白燐クラスター爆弾*を使用している。これはジュネーヴ条約と1980年の関連国際議定書に基づき、対民間人および人口密集地域での使用を禁止された兵器である。 [*註 クラスター状の白燐弾か?]


初っ端から出鱈目のオンパレードで萎えるのですが・・・使われたのは確かに白燐弾(155mm M825A1 white phosphorus smoke shell)ですが、クラスター弾ではありません。クラスター弾とは親弾から多数の子弾が分かれ、それそれの子弾が爆弾としての機能を持つ物を言います。クラスター弾を禁止したオスロ条約では「爆発性子弾」と定義されています。白燐弾は空中炸裂させると幾つかの破片に分かれますが、通常の榴弾でも破片は発生するわけですから、破片の事をクラスター子弾扱いは出来ないのです。調整破片やベアリング弾でもクラスター子弾とは呼びません。ならば白燐の破片でも同じ事です。イスラエル軍が使用したM825A1白燐弾は空中炸裂させた際に分散するように、白燐は多数のウェッジで分けられていますが、意味合いとしては通常榴弾の調整破片と同じ発想です。なお第二次世界大戦で使われた「集束焼夷弾」のような構造ならばクラスター焼夷弾と呼べますが(それでも焼夷効果のみの弾子ならばオスロ条約の定義から外れる場合がある)、集束焼夷弾は現在、どの国の軍隊も保有していません。

恐らくこの勘違いは、M825A1白燐弾がM483A1DPICM弾(クラスター弾)の弾殻をベースにしており、弾道が類似するように設計されている事から、両者を混同した結果なのかもしれません。或いは単純にバラバラに別れたら何でもクラスター弾だと思っているのか・・・何だかそっちの方が有りそうな話ですね。

Smoke Projectiles | FAS.org(M825A1の画像)

次にジュネーヴ条約と1980年の関連国際議定書で使用を禁止された兵器との事ですが・・・完全に間違っています。この事は数年前の騒動の時に私が書いた記事「国際慣習法と白燐弾」でも触れています。ジュネーブ条約とはハーグ陸戦法規の23条に記された禁止項目「不必要の苦痛を与える兵器、投射物その他の物質を使用すること」を意味するのでしょうが、これまでこれに基づいて使用禁止が明確にされた兵器はダムダム弾しか例が無く、白燐弾が戦場で使用され始めたこれまで100年以上、議論の対象物として俎上にも上がった事がありません。

そして1980年の関連国際議定書とは、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」を指しているものと思われます。しかしこの議定書では、白燐弾は規制の対象外となっているのです。

●焼夷兵器とは、焼夷効果を第一義的な目的として設計された兵器をいう(第一条その1「定義」より)
●焼夷効果が付随的である弾薬類(発煙弾や照明弾)は焼夷兵器に含めない(第一条その1-b-iより)
 [参考:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

今回イスラエル軍がガザで使用した155mmM825A1白燐弾は煙幕を発生させる発煙弾として設計された兵器であり、焼夷効果が付随的である弾薬類である為、この議定書の適用上の「焼夷兵器」の定義自体から外れています。つまり使用制限を何も受けません。条約に該当しない兵器であるにも拘らず、「使用を禁止された兵器」と報道する事はデマゴーグ以外の何物でもありません。そのような事をするから、ファルージャの時も誰にも相手にされなくなったのです。先ずは事実を述べてから、条約の規制対象になるように運動する事、それが正しい筋道でしょう?なぜ平然と嘘を吐けるのですか。・・・恐らく記事を書いた記者は、CCW議定書の条文を読んでチェックとか全然していないんでしょう。反戦団体の主張をそのまま信じ込んだ結果がこれです。
posted by JSF at 22:29 | Comment(128) | TrackBack(1) | 白リン弾
2009年01月06日
イスラエル軍がガザに地上侵攻した際に、数年前に話題になった(その後、忘れ去られてしまった)兵器が投入されていました。これについて本当に忘れ去られてしまっていたらしく、あちこちで「この兵器は何だ?」という疑問の声が上がっていたので、同兵器の動画を付けて解説します。



404 名前:名無し三等兵 投稿日:2009/01/04(日) 22:49:52 ID:???
これはどういう兵器なんでしょう?クラスター爆弾?多弾頭ミサイル?
http://sankei.jp.msn.com/photos/world/mideast/090104/mds0901042233009-l2.htm


これは白燐(WP:White Phosphorus)煙幕弾です。



【WP White Phosphorus over Gaza 2009】



【White Phosphorus Artillery Shoot Fallujah 2004】


2009年のパレスチナのガザ地区で使われたものと、2004年のイラクのファルージャで使われたものが、全く同一である事が分かります。これは野戦重砲から発射する発煙弾で、煙幕やスモークマーカーとして使います。地表への着弾による爆発と、時限信管を用いた空中での爆発の2種類の使い方があり、イスラエル軍は空中炸裂で発生する煙そのものを利用した砲撃を行っています。

以下の動画は地表で炸裂させた場合です。



【M110 155mm White Phosphorus (WP)】


そして以下は155mm砲弾ではなく、戦車に搭載するスモークディスチャージャーからの燐系煙幕弾(74式戦車が白燐、90式戦車が赤燐で、発生する煙はどちらも同じ五酸化二燐)を発射する様子です。



【富士総合火力演習 2007】


これについては数年前に書いた「空中炸裂する白燐弾を検証」もご覧下さい。というよりは、カテゴリ「白リン弾」に掲載されている記事を見て頂ければ、数年前のファルージャ白燐弾狂想曲の様子を知る事が出来ます。あの時、あれだけ大騒ぎしていたのに、白燐弾について一過性で終わってしまいました。地雷やクラスター爆弾のように規制する動きはついぞ出て来ず、国際的にも国内的にも白燐弾騒動は急速に忘れ去られてしまっています。

これは白燐弾を非難していた反戦平和団体が、白燐弾の事を実態よりも遥かに強力な兵器として喧伝した結果「謎の超兵器」と化してしまい、その虚像が暴かれ、相手にされなくなった事によります。思えばあの時、常識的な範囲内での糾弾に徹していれば、白燐弾の規制は進んでいた筈でした。白燐に近い種類でありながら毒性が無い赤燐(ただし燃焼して発生する煙は同じ五酸化二燐であり、発煙や焼夷効果を問題視する場合は白燐と意味合いは大きく変わらない)や、六塩化エタン発煙弾(HC発煙弾)など、白燐煙幕弾の代替となるものは幾らでもあるので、例え使用が禁止されてもさほど困らないのです。
posted by JSF at 01:11 | Comment(144) | TrackBack(0) | 白リン弾
2007年04月12日
基本的に中東発のニュースソースは信用の置けないものが多く、注意して読まなければなりません。例えば3年前にイスラム・メモは「サマワで日本自衛隊員が2名死亡!」という酷い誤報を垂れ流した事があります。その時、私はこう書きました。


「イラクで自衛隊員死亡とのデマ情報流れる」[2004年10月16日]
「イスラム・メモ」は「バスラ・ネット」と同じくインターネット新聞で、情報源としての信用性は元々、皆無に近い。アルジャジーラのようなマトモな情報通信社と同列に扱う方が間違っている。それなのに安易に真に受けて大騒ぎする人達が多いのは何故だろう?

アルジャジーラはマトモな情報通信社・・・そう思っていた時期が、私にもありました。


「米軍が中性子爆弾使用」イラク元共和国防衛隊[4/9 U.S.FrontLine]
中東の衛星テレビ局アルジャジーラは8日、旧フセイン政権下のイラクで精鋭部隊とされた共和国防衛隊のハッサン・タハ・ラウィ元参謀総長とのインタビューを放映、ラウィ氏はフセイン政権崩壊直前の2003年4月、バグダッド国際空港での戦闘で米軍が「中性子爆弾と白リン爆弾を使用し、(イラク兵の)骨まで焼けた遺体があった」と証言し米軍を非難した。

あからさまな与太話を平気な顔して流すなよ・・・生放送じゃないだろうに・・・これじゃ東スポ並み・・・orz.

中性子爆弾とは核兵器で、水爆の一種です。爆発力よりも中性子線の発生を重視した設計ですが、核爆発そのものは規模は小さいものの当然、発生します。当たり前ですがそんなものを使ったらすぐにバレます。こんな事では、もう片方の白リン弾の証言までも怪しくなってしまいます。

アルジャジーラの信用性も、地の底に落ちましたね・・・え、前からだって? そりゃ失礼・・・。
posted by JSF at 21:58 | Comment(90) | TrackBack(0) | 白リン弾
2005年12月09日
イタリア国営放送RAIが白燐弾の被害として載せた写真が「証拠として疑わしい」との指摘が・・・その為、新たなる犯人探しも始まりました。


Behind the Phosphorus Clouds are War Crimes Within War Crimes [George Monbiot Tuesday November 22, 2005 The Guardian]
I asked Chris Milroy, professor of forensic pathology at the University of Sheffield, to watch the film. He reported that "nothing indicates to me that the bodies have been burnt". They had turned black and lost their skin "through decomposition". We don't yet know how these people died.

シェフィールド大学の法病理学教授クリス・ミルロイによれば、死体が黒いのも、皮膚が一部損失しているのも、腐敗が進行している状態を示すものであって、体が燃えたという証拠にはならない・・・非人道兵器だとの状況証拠として示されてきた肝心のRAIの写真が、疑問を持たれています。

そこでこの記事の筆者ジョージ・モンビオット氏(彼自身、検死医の資格を持つ)は、「これらの死体は白燐弾ではなく、サーモバリック弾によるものではないか?」と推測しています。サーモバリック弾はアフガニスタンやイラクで既に投入されており、ファルージャでも使用された可能性があります。しかしこれらの写真の死体がサーモバリック弾によるものだという証拠はありません。

サーモバリック弾(HIT:High-Impulse Thermobaric)は地下坑道や建造物等の閉塞された場所への攻撃に使われます。弾体から燃料(固形火薬)を放出し、霧状になったところで点火。大規模な爆発を引き起こす兵器です。爆圧は通常の榴弾より低くなりますが、爆風は広範囲に広がります。弾体から中身を放出してから爆発させるので、弾殻破片は飛び散りません。つまり破片で切り裂かれるような事にはならず、爆風で皮膚が焼け爛れる・・・といった死体を作り出す事はできるかもしれません。

全てはまだ憶測です。ミルロイ教授によれば写真の死体は焼死体である証拠は示されていないと判断されています。ならば通常榴弾など、他の兵器によって為された死体である可能性もあるのです。肝心の証拠写真が怪しくなったこの騒動は、今一度、科学的な検証を重ねる必要があるでしょう。


それにしても、11/20に愛・蔵太さんの所で「次なる超兵器はナパームBかサーモバリック弾」とコメントしていたのが早速、現実になったんですね。白燐弾、白燐弾とあれだけ騒いでおきながら今更違うかもしれないって、一体・・・
posted by JSF at 23:01 | Comment(56) | TrackBack(3) | 白リン弾
「条約に書かれていなくても国際慣習法のもとで不法であると論ずることができる」という主張が一部で出てきました。しかし白燐弾については慣習法という概念から見るならば尚更、当て嵌まらないでしょう。

何故なら慣習法とは「慣習のうちで、強制がなくても、人々に法として意識され守られているもの」という事です。つまり皆がその対象についてどう扱うか意識し、コンセンサスが得られている場合を指します。しかし白燐弾については、寝耳に水でした。



【珍説】
通常兵器であっても、陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ陸戦条約)およびその条約付属書のもとで、ファルージャにおける白燐兵器の使用は不法であると論ずることができる。

第23条:不必要の苦痛を与える兵器、投射物その他の物質を使用すること。



【事実】
その条項は対象兵器の範囲が非常に曖昧なので「ダムダム弾の禁止に関するハーグ宣言」で明確に名指しされたダムダム弾以外の兵器に関しては個々に該当するかどうか判断されます。ショットガン*1やアンチマテリアルライフル*2の対人使用をこの条項に当て嵌めるべきだという解釈論*3は以前からよく聞きますが(つまり慣習法的なものと言える)、しかし白燐弾に関しては今までそのような議論を聞いた事がありません。

また特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」では定義上、白燐弾はそもそも焼夷兵器に該当しません。*4(しかも、そもそもアメリカはこの議定書を批准していない)もし仮に焼夷兵器であるとしても、議定書は焼夷兵器の軍事目標への攻撃を禁止していません。使用条件の制限はあります。*5

前述のショットガンやアンチマテリアルライフルの対人使用(対人狙撃)を禁止しようという解釈論にしても、榴散弾*6や機関砲による掃射*7での対人使用は除外されており、地上からの火砲による焼夷攻撃がハーグ陸戦協定に触れる可能性は低い。

なおもう一度言いますが、CCWの定義上、白燐弾は焼夷兵器に該当していません。



*1 散弾銃の事。

*2 12.7mm以上の大口径狙撃ライフル。以前、対戦車ライフルと呼ばれていた種類を指す。

*3 戦場でのショットガン、アンチマテリアルライフルの対人使用禁止は条約を広義に解釈したもので、現状では自主規制に近くあまり守られていない。違法使用と訴えられた例自体も無く、CCWで明確に禁止規定を制定しようという動きは未だ実現していない。

*4 焼夷兵器の定義とは、焼夷効果を第一義的な目的として設計された兵器をいう(第1条その1)。焼夷効果が付随的である弾薬類(発煙弾や照明弾)は焼夷兵器に含めない(第1条その1-b-i)。

*5 人口周密地域で焼夷兵器を空中から投射する事(つまり空爆を指す)の禁止(第2条その2)。人口周密地域で空中からの投射以外の焼夷攻撃を行う場合、民間の巻き添えを最小限に留めるための実行可能な全ての予防措置をとる事(第2条その3)。
[参考:焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)

*6 弾体に散弾を詰めた榴弾。砲弾型と航空機投下型爆弾がある。現在は廃れ気味。

*7 フルオート射撃で薙ぎ払う事。
posted by JSF at 22:54 | Comment(109) | TrackBack(1) | 白リン弾
2005年12月05日
11月17日に白燐弾に関する記事を書いてから2週間以上経ちますが、今まで巷に出回っていたデマ情報(発生する煙は猛毒ガスのホスフィンだとか、半径150mに広がる煙の中に居たら終わりだとか、燃焼温度は5000度だとか)を信じる人も減ってきて、ようやくマトモな話が出来る土壌が生まれたと思います。しかしその一方で・・・


燐兵器 [益岡賢のページ]
チェルシー・ブラウン&益岡賢
2005年11月28日

米軍が行った2004年11月のファルージャ攻撃についてイタリアのテレビが報じて以来、米軍が燐兵器を使ったことが話題になっています。

比較的まっとうな扱いの報道やネット上の紹介がある一方、米国の宣伝を自ら買って出る「自主的スターリン親衛隊おこちゃま版」型、あるいは「『荘子』列禦寇篇痔を舐むただし金さえもらえない」型の記事も散見されます。

米国のイラク侵略と不法占領自体がそもそも国際法に違反した犯罪ですから、その枠組みの中で米軍が犯した犯罪を指摘することは屋上屋を重ねるようなものですが、とりあえず、国際法の専門家の協力を得て、多少官僚的に、法的な論点を整理しておきます。

一見して『えっ、2chネラーの煽り?』と見紛うかのようなクオリティの文章です。米国の片棒を担ぐスターリン親衛隊という発想にも付いて行けません。っていうか意味が分かりません。

益岡賢氏といえば『ファルージャ 2004年4月』という本を、いけだよしこ氏と共同編訳された人ですが、益岡氏といけだ氏が共同運営するブログコメント欄でのいけだ氏の誠実な対応(例1例2)と比べてそのあまりのギャップの激しさに興味深いものを覚えます。

益岡氏は白燐弾問題で擁護的な記事を『アメリカの手先』であるかのように考えておられるようですが、それは認識を誤っています。軍事屋さん達は「白燐弾」を、化学屋さん達は「白燐」を、それぞれ正しい知識の元に擁護しているだけなのですから。白燐弾を不正確な情報で「謎の超兵器」にデッチ上げて糾弾することは『まっとうな扱いの報道やネット上の紹介』ではありません。益岡氏は、共同運営管理するブログがデマ情報の発信源となっていた事実について、一体どう思っているのでしょうか。



【閑話休題】

“超兵器”になった「白リン弾」市民メディア・インターネット新聞JANJAN

JANJANの記事から当ブログへの参考リンクが貼られるという、不思議な事を経験。これを書いた東堂一記者に今後お願いしたいのは、田中大也記者の記事「非武装中立論」の問題点のように真正面からJANJAN読者層への問題提起を図って欲しい、と言う事でしょうか。色んな場所で盛り上がってきた白燐弾騒動ですが、なるべく正確な情報で論じ合って欲しいものです。
posted by JSF at 23:48 | Comment(36) | TrackBack(0) | 白リン弾
2005年11月29日
白燐弾が空中炸裂している様子をGIFアニメにした二つの資料を見つけました。(画像掲載許可を得ました)この二つは昼と夜、使用されている弾の種類の違いなど相違がありますが、実に興味深い比較が出来ると思いますのでご覧下さい。


白燐煙幕弾
富士総合火力演習2002

…化学兵器?
ファルージャ2004


注目すべきは富士総合火力演習2002です。数万人居る観客席の目と鼻の先で白燐弾を炸裂させています。風向きの関係で観客席も一瞬、煙に巻かれています。・・・あれ、おかしいな。白燐弾が噂通りの恐怖の化学兵器ならば大事件になっている筈ですが・・・しかしもちろん、この時に観客席で死傷者は発生していません。そう、「恐怖の超兵器白燐弾」の正体とはこんなものなのです。

もちろん派手に燃えて飛び散っている白燐欠片を直接浴びれば火傷をするでしょう。しかしそれは、通常榴弾が炸裂した時に飛び散る弾殻破片の殺傷効果範囲よりも危害半径が狭いのです。そして、白燐が燃焼した時に発生する煙を浴びたところで、人体発火や骨まで溶けるというような奇怪な現象は発生しません。煙は広がるがこれでは人を殺せず、燃える白燐片は遠くまで届かない。それはつまり、白燐弾は通常榴弾よりも殺傷力で大きく劣るという事の証左です。

GlobalSecurity.org:White Phosphorus (WP)
「Casualties from WP smoke have not occurred in combat operations.」
「There are no reported deaths resulting from exposure to phosphorus smokes.」

このように白燐弾からの煙による死亡例は存在しません。
そして白燐の直撃による死傷を否定してはいません。
しかしそれならば、通常榴弾の直撃の方が殺傷効果は高い。



煙覆後の突撃発揮は自衛隊の基本訓練なんですがね。
当然煙を出すのはWP弾なわけで、これがそんな猛毒ガス出すのなら使えるわけが無いのに・・・

各国軍は自国の歩兵をもう毒ガスに突っ込まして殺そうとしている、とでも言ってみればいいのにw
Posted by hige at 2005年11月27日 17:09

hige氏は現職の陸上自衛官です。白燐弾が非人道兵器と言われても困惑するしかないでしょう。
陸上自衛隊の偉い人もきっと困惑しています.富士総合火力演習での最後の見せ場、観客席の目の前にズラリと並べた戦車から煙幕弾を一斉発射・・・毎年やっている定番なのだけど。

Google画像検索「戦車 煙幕」
Google画像検索「総合火力演習 煙幕」

自衛隊にとって白燐弾とは、今まで一般市民の目の前で炸裂している様子を公開し続けてきた兵器であり、突然今更になって大量破壊兵器だとか非人道兵器だとか言われても青天の霹靂というものです。
posted by JSF at 01:54 | Comment(113) | TrackBack(2) | 白リン弾
2005年11月26日
「燃焼温度は5000度だ」「酸素の少ない水に触れるとホスフィンを出す」・・・白燐弾に関して出回っていたこのデマゴーグの発生源は、メールフォームに寄せられた情報によるとこういう事らしいです。


現代企画室出版『ファルージャ 2004年4月』という書籍の編訳者いけだよしこ氏がイラク人男性 Raed Jarrar 氏のウェブログ(英語)の日本語化も手掛けていたのですが、その Raed blog のコメント欄に書かれていた Rei という人物の投稿(2004年11月10日頃)が大元だということです。つまり「燃焼温度5000度」は単純な翻訳ミス。「ホスフィンを出す」については Rei という人物も燐の化学反応を理解しておらず(或いは知っていた上でミスリード)、翻訳時にも気付かれなかったというのが事の顛末です。いけだ氏が自身のサイトのコメント欄で釈明しています。

このメールを送ってくれた方はいけだ氏のコメント欄「Unknown (2005-11-19 13:23:12)」と同じ方でしょうか。いけだ氏のブログで私のブログの文章を引用してくれるのは構わないんですが、引用元がここである事を明記して貰えていたら面倒が少なくて良かったのですが。

さて Raed blog の原文を確かめようとしましたが Raed blog は現在コメント欄を閉鎖しており、閲覧できない状態でした。どちらにせよ、間違った情報を翻訳ミスをした上で紹介していたようです。それ自体はよくある事なのでしょうがない面もありますが、一年間もこの間違った情報が信じられ続けていた事自体が驚きです。この Rei のコメント和訳は何十ものブログで取り上げられ、恐らく何万、何十万人と閲覧者が居たにも関わらず、1週間前に「謎の超兵器と化した白燐弾」で指摘するまで誰も気付かなかっただなんて・・・有り得ないですよ普通。




【関連】
posted by JSF at 02:58 | Comment(25) | TrackBack(1) | 白リン弾
2005年11月17日
最近(11/13)、メールフォームへ「イラクで米軍が化学兵器の白燐弾を使用したと大騒ぎになっているのですが、ご存知でしょうか?」という情報がありました。それを見て「白燐(WP)弾なんて古くからある兵器を今更になって大騒ぎ?」と驚いたのですが、そもそも何時の間に化学兵器扱いになったのか理解に苦しみます。条約で禁止されている物質では無かった筈ですが・・・

試しに白燐弾で検索を掛けてみると、反戦運動家の間では既に恐怖の大量破壊兵器という扱いになっていて頭を抱えたくなってきました。その中でも特に広まっているおかしな言説にツッコミを入れておきます。元は何処かのブログのコメント欄に書かれたものらしいのですが、あちこちのブログに転載され、かなり有名になっているものです。





【珍説】
 白燐榴弾を人のいるところに投げているとは常軌を逸している。火器というよりは化学兵器になってしまう。米軍が使っているであろうM-15白燐榴弾は,爆発半径は17メートルあって,燃焼温度は5000度だ。身体に付着した破片を取り去ると,空気に触れて自然発火する。だから取り去る前に怪我をした箇所を水につけなければならない。破片はすぐに水にひたさなければならない。

 白燐(黄燐)は酸素の少ない水に触れるとホスフィンを出すが,これがおそろしいガスだ。煙を吸入すれば,「phossy jaw」と呼ばれる症状が起きる。口に傷ができるがそれは治ることなく,顎の骨自体が砕けてしまうこともある。白燐(黄燐)は少量(小匙1杯未満)摂るだけで,吐き気,嘔吐,肝臓障害,心臓障害,腎臓障害,ひどい眠気をもよおすし,時には死に至ることもある。


【回答】
 M15 White Phosphorus Grenade は古く、後継のM34に切り替わっている。また、5000度というのは白燐の燃焼温度としては高過ぎる。恐らく華氏5000度の事だろう。これは摂氏2760度に相当する。(アメリカでは気温の単位に摂氏ではなく華氏、ファーレンハイトを用いる)

 そして、「酸素の少ない水に触れるとホスフィン(PH3 燐化水素)を出す」とのことだが、白燐(P4)の一般的な保存方法は水中に漬ける事であり、水に触れても問題は無い。(問題があったら化学室の薬品棚は大騒ぎだ)白燐が燃焼して出来る煙は十酸化四燐であり、固体では乾燥剤として用いられる物質である。・・・ところで「酸素の少ない水」とは一体何を指すのだろうか。溶存酸素量の少ない水?しかしそんな事は化学反応に影響は無い。

 それともまさか、酸素の少ない水→酸素原子のない水=水素という意味なのだろうか。確かに燐と水素を直接反応させればホスフィンは発生するが、白燐弾から発生させるには難しそうだ。




もし「酸素の少ない水」の件がそうだとするならば華氏5000度の件と合わせ、この文章は引っ掛け、釣りである可能性が高い。この巧妙な珍説は一年前のファルージャ掃討戦の際に Rei という人物が書いたものらしい。・・・まさかと思うが、私の知っている人物に同名の方がいるのだが・・・いや、よくある名前だし関係無い筈・・・


米軍、イラクで「白リン爆弾」使用認める 「通常兵器」と[2005/11/17 CNN]
ワシントン――米国防総省は15日、昨年11月のイラク・ファルージャ大攻勢の際、高熱で人体を焼くことのできる白リン爆弾を武装勢力拠点に対し使ったことを認めた。イタリア国営放送(RAI)の報道を部分的に認めたものだが、白リン爆弾を市民にも無差別に使ったとするRAI報道は否定した。また白リン爆弾は化学兵器ではないと強調している。

国防総省のベナブル報道官は、見えにくい標的を浮き上がらせるなどのために白リン爆弾を使ったほか、武装勢力拠点に対して発火性の高い武器として使ったこともあると認めた。

一方で、「市民に対しては使っていない」と繰り返した。さらに、白リン爆弾は通常兵器で、米政府が批准している国際条約で禁止されているものではないと述べた。

米軍も色々と苦労しているらしい。突如として白燐弾が非人道兵器だと言われても、苦笑いするしかないだろう。世界中の軍隊がそう思っているに違いない。標定用スモークマーカーとしてのWP弾なら自衛隊も保有している。これは古くから在る一般的な弾であり、軍人は問題があるとは夢にも思っていないだろう。

追記・白燐弾と化学兵器・焼夷兵器の定義
posted by JSF at 22:50 | Comment(247) | TrackBack(12) | 白リン弾