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2010年04月16日
沈没した韓国海軍ポハン級コルベット「天安」の尾部が引き揚げられ、沈没原因の調査が始まっています。海中に沈んでいた当初は切断面が綺麗だと報道されていましたが、実際にはギザギザに引き裂かれており、疲労破壊の可能性はほぼ無くなった上に、弾薬が誘爆した形跡も無く、内部爆発の可能性も無くなりました。そして艦底の鉄板の折れ曲がり具合から、外部爆発である事が特定できています。


哨戒艦沈没:「魚雷による水中爆発の痕跡」|朝鮮日報
軍の1次調査で暫定結論
船底の鉄板が外側から内側に折れ曲がる

軍当局は15日、引き揚げられた哨戒艦「天安」の船尾に対する1次調査の結果、「天安」は魚雷などの直接打撃を受けたのではなく、水中爆発での「バブルジェット(一種の水大砲)」によって船が真っ二つに切断された可能性が高い、という暫定結論を下したという。また、「天安」に外部衝撃を与えた手段は、機雷より魚雷の可能性がはるかに高いと判断していることも分かった。

国防部の高官は同日、「船尾調査団が1次調査を行った結果、魚雷などが『天安』の側面に直撃したという形跡は発見されなかった。その代わり、『天安』の底部水中で魚雷などの強力な爆発が発生、バブルジェットによって船に大きな衝撃が加わり真っ二つに割れたという痕跡を見つけた」と話した。通常、魚雷が船に直撃した場合、大きな穴が開くなどの跡が残る。

調査団は、水中爆発が船の真ん中ではなく、中心部から左寄りの位置で発生した可能性があるとみて、詳しく調査している。調査団はまた、「天安」の船底の鉄板も外側から内側に折れ曲がっていることを確認、今回の事故原因が内部爆発ではなく、外部衝撃だという暫定結論を下したという。

この日姿を現した「天安」の船尾は、左舷が右舷より6メートルほど長い状態で斜めに切断され、左舷甲板が逆V字型に上に突き出していたことから、強力な爆発が艦艇下部で発生し、上部に向かったとみられる。

民間と軍の合同調査団も同日、本格的な調査活動に着手した。現場の調査団は軍関係者26人と民間人10人、米国の調査要員2人で構成された。

ユ・ヨンウォン軍事専門記者



現段階では確定には至りませんが、魚雷の磁気信管作動による艦底水中爆破である可能性が高いという暫定結論が出ています。事故ではなく攻撃であり、その攻撃方法と攻撃を仕掛けた国をどう特定していくかが鍵になります。

韓国聯合ニュース写真特集「哨戒艦"天安"沈没」
23時29分 | 固定リンク | Comment (244) | 軍事 |

ロシア軍はポポフキン国防次官(装備担当、上級大将)の決断により、たとえ一時的にであっても国外から兵器を購入し、国内の兵器開発力が回復するまでの繋ぎとすることを決めました。具体的には先ずイスラエルから無人偵察機を購入する事と、フランスからミストラル級強襲揚陸艦を購入する方針です。どちらも2008年に勃発したグルジア戦争でその必要性を認識し、可及的速やかに調達する事が求められました。

この動きは周辺国に大きな影響を与えました。特に強襲揚陸艦ミストラルの購入は、ロシア軍の上陸作戦能力を飛躍的に向上させる事に繋がる為、バルト三国など周辺国は懸念を表明しました。それらの声に対し、ロシア側は「あくまで自衛的兵力である」と、以下のように反論しています。


"Мистраль" обеспечит безопасность Курильских островов : Lenta.Ru
Министерство обороны России намерено использовать десантные вертолетоносцы класса "Мистраль" для обеспечения безопасности Курильских островов и Калининградского эксклава, пишет газета "Коммерсант" со ссылкой на слова заместителя министра обороны Владимира Поповкина. В экстренных случаях корабли будут обеспечивать масштабную переброску войск в эти регионы.
(ロシア国防省はクリル諸島とカリーニングラード飛び地領の安全保障に備える目的としてミストラル級強襲揚陸艦を使う事をコメルサント紙がウラジーミル・ポポフキン国防次官の言葉として伝えました。)


ロシアは強襲揚陸艦ミストラルを逆上陸用の防衛的兵器であると主張しています。これがなければクリル諸島やカリーニングラードに多数の兵士を張り付けて防衛しないとならず、今のロシア軍にはその余力が無い為、「取らせてから取り返す」方式しかないという説明です。孤立した土地にいくら多数の兵力を張り付けても、相手が十分に準備した上で先制攻撃してきたら持ち堪える事は困難で、どちらにしろ増援が必要になるからです。それならば張り付け戦力を最低限にして、増援用戦力を整備すれば兵力単位の自由度が増します。孤立した土地への張り付け戦力は動かし難く、別の場所の有事には投入できないので軍全体の負担が大きいのです。また、逆上陸以外には自国民を脱出させる為に使う事も強襲揚陸艦の重要な役割になります。港に接岸して避難民を収容していると、艦自体の港湾脱出が危うくなりかねないのですが、沖合に停泊してヘリコプターで反復輸送すればその危険性を大幅に減らせます。アメリカ軍はベトナム戦争でのサイゴン撤退作戦「フリクエント・ウィンド」で、洋上待機する複数の空母にヘリコプターが反復輸送を行い多数の人員を脱出させています。

"Курильских островов"・・・クリル諸島(北方領土)
"Калининградского эксклава"・・・カリーニングラード=飛び地領

クリル諸島(北方領土)とカリーニングラード(飛び地)

ポポフキン国防次官はロシアが持つ東西の孤立した土地、孤島であるクリル諸島と飛び地であるカリーニングラードの両方に付いて言及していますが、報道はクリル諸島(北方領土)の方を強調しています。これはミストラル級調達第一隻目は先ず最初にロシア太平洋艦隊に配備される予定だからです。


Окончательное решение по "Мистралю" будет принято в ближайшее время : РИА Новости
В случае положительного решения первые корабли этого типа планируется направить на Дальний Восток, на укрепление Тихоокеанского флота,
(肯定的な答えが出た場合、太平洋艦隊を強くする為、同型(ロシア向けミストラル級)の最初の艦は、極東地域の指揮下に置かれる計画です。)


これは太平洋艦隊の艦艇を修理維持できず、北方艦隊に比べ大きく戦力が低下しているからです。ロシアはソ連時代にイワン・ロゴフ級という大型揚陸艦を三隻建造し、うち二隻を太平洋艦隊に配備しました。しかし太平洋艦隊の1番艦「イワン・ロゴフ」は除籍され、2番艦「アレクサンドル・ニコラエフ」は予備艦扱いになり、北方艦隊に所属する3番艦「ミトロファン・モスカレンコ」のみが稼働しているのが現状です。その為、新しく取得するミストラル級を太平洋艦隊に先に廻す必要があります。

«Иван Рогов»・・・イワン・ロゴフ級大型揚陸艦(満載排水量14,000t)
イワン・ロゴフ

«Мистраль»・・・ミストラル級強襲揚陸艦(満載排水量21,500t)
ミストラル

ロシアの立場からからすれば、これはあくまでイワン・ロゴフ級の更新用であり、他国から文句を言われる筋合いはない、という事になります。そもそも極東方面ではイワン・ロゴフ級を上回る大型揚陸艦が次々と就役しており、ミストラル級でも用意しなければバランスが取れない状況になっています。

日本・・・「おおすみ」級(満載排水量14,000t)×3隻
韓国・・・「ドクト」級(満載排水量18,850t)×1隻(2番艦計画中)
中国・・・「昆侖山」級(満載排水量17,600t)×1隻

日本の「おおすみ」級は固有のヘリコプターを持ちませんが、ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」級2隻と連携運用すれば強襲揚陸作戦が可能になります。更にイタリアの新型多目的空母「カブール」に匹敵する能力を備えた満載排水量27,000tの拡大型ヘリコプター護衛艦(22DDH)の予算も通り、順当にいけばこれを2隻造る事になります。「ひゅうが」級2隻と合わせ、ヘリコプターを用いた強襲揚陸が可能な艦として数えると、日本はヘリ揚陸艦×4、ドック揚陸艦×3という強力な戦力を保有する事になります。ヘリコプター護衛艦の半数は本来の対潜任務に専念させるとしても、使える大型揚陸艦は5隻となります。ヘリコプター護衛艦と多目的空母は専用の揚陸艦よりは輸送能力が劣るので、それを割り引いて考えたとしても、合計でミストラル級3〜4隻分の戦力はあるでしょう。日本はこれを専守防衛用(逆上陸用)及び国際貢献用(災害派遣用)と称して整備しています。

「おおすみ」型輸送艦
oosumi401.jpg
「ひゅうが」型護衛艦
hyuga.jpg
「22DDH」計画艦
gachar_de_22ddh.jpg

韓国のドクト級揚陸艦は、ほぼミストラル級に匹敵する能力を有しています。韓国は自国が朝鮮戦争で負けなかったのは、マッカーサーの大博打「仁川(インチョン)上陸作戦」が成功したからだという事を身に染みて理解しています。その韓国軍が強襲揚陸作戦能力の獲得を目指すのは当然で、これもまた国家防衛用(逆上陸用)及び国際貢献用(災害派遣用)と称して整備しています。

「ドクト」級強襲揚陸艦
Dokdo.jpg

中国の「昆侖山」(071型ドック揚陸艦)は1隻のみで、試作艦の意味合いが強いです。これまで中国海軍は台湾攻略用に中型揚陸艦や小型揚陸艇の数を揃える事を重視して来ましたが、もっと遠距離での揚陸作戦を可能とする大型揚陸艦の整備に着手し、これがその第一弾という事になります。

「昆侖山」(071型ドック揚陸艦)
kunrun.jpg

極東地域ではこの他に、佐世保にアメリカ海軍第七艦隊の強襲揚陸艦1隻とドック揚陸艦3隻の計4隻が居ます。アメリカ海軍の強襲揚陸艦は「ミストラル」級の2倍の大きさで、ドック揚陸艦は「昆侖山」級とほぼ同じ大きさです。

今から30年前の当時、ソ連太平洋艦隊にイワン・ロゴフ級大型揚陸艦とキエフ級航空巡洋艦が配備された時は、日中韓の海軍の揚陸作戦能力は著しく低く、アメリカ海軍第七艦隊を除けば極東地域ではソ連太平洋艦隊が突出して高く、当時叫ばれていた「北方脅威論」の象徴としてイワン・ロゴフ級大型揚陸艦「イワン・ロゴフ」「アレクサンドル・ニコラエフ」、キエフ級航空巡洋艦「ミンスク」「ノヴォロシースク」は日本人に恐れられていました。キエフ級の本来の役割は長距離巡航ミサイルによる対艦攻撃と搭載ヘリコプターによる対潜任務ですが、ヘリコプター搭載艦として揚陸作戦の支援も可能です。しかしイワン・ロゴフ級2隻とキエフ級2隻の揚陸能力は今日の目から見れば、日中韓の海軍がそれぞれもうすぐ獲得できる程度の能力という事になります。これは日中韓の海軍力が拡大してきた事、そして1980年代のソ連軍を対象とする「北方脅威論」が誇張され過ぎたものであった事の、両方の要素があります。

«Минск»・・・キエフ級重航空巡洋艦「ミンスク」(満載排水量41,400t)
minsk_world.png
※除籍後、屑鉄として韓国に売却され中国に転売される。

なにしろソ連‐ソビエト連邦は、1991年には消滅してしまうのです。崩壊に至るまで衰退は、既に1980年代から顕著になっていました。ソ連はアフガン侵攻で手一杯で、とても極東に攻め込む余力は無く、むしろ逆に攻め込まれる事を心配していました。アメリカのように二正面作戦を行える国力は有していなかったのです。この事はソ連崩壊後の資料公開で明らかとなります。ソ連は本気で日本人がクリル諸島を取り返しに来る事を警戒していました。フォークランド紛争(1982年)でアルゼンチンが行った事を、日本は行って来ないと何故言えるのか? ロシア人は日本の憲法9条など信用していませんでした。そして同じ事が今現在も言えます。ロシアは2年前のグルジア戦争からこう理解しています。

「グルジアのような軍事的弱小国が戦争を挑んできた。領土紛争とはそういうものだ。日本がクリル諸島を奪い返しに来ないと何故言える? ましてや日露戦争、太平洋戦争で日本は大国相手にばかり挑んできた。 平和憲法? そんなものを信用できるものか。」

常識的に考えれば、日本人がまともな政治判断をしている限りは、平和憲法の通り軍事力に訴えて北方領土を奪い返しに来る事は無いでしょう。しかし、グルジアのサーカシビリ大統領のような愚かな判断(アメリカが助けてくれると勝手に期待してロシアに戦争を仕掛けた)をする指導者が出て来ない保障など無いのです。可能性としては非常に低い話です。でも例えば今の日本の首相は何を考えているのか全く分からない、理解不能な面があります。とはいえ鳩山首相の方向性はグルジアのサーカシビリ大統領というよりは、ウクライナのキエフ市長レオニード・チェルノベツキー(Леонид Черновецкий)に近いのですが・・・鳩山首相は宇宙人に例えられますが、キエフ市長も宇宙的な人だったりします。

キチガイなキエフ市長:MURAJIの戯れ言

「"宇宙人リョーニャ"(レオニードの愛称)に匹敵する"宇宙人ハトヤマ"を総理大臣に据えてしまう日本国民が、次にサーカシビリと似たような人物を選ばないと何故言える? 選挙でマトモな判断が期待できるのか?」

そうロシア人に問い掛けられてしまったら、返答に困ってしまうのも確かです・・・。


さて以上は「ロシアから見たミストラル級配備の意義」です。あくまでロシア視点なので日本人には理解し難い面もあるかもしれませんが、ロシア人は結構本気で強襲揚陸艦を防御的な役割で必要だと考えているようなのです。孤立した地域が奪われた時に奪い返す為の役割と、孤立した地域から人員を脱出させる為の役割を考えています。ロシアがミストラル級を取得しようと思い立ったきっかけはグルジア戦争からですが、懸念しているのは黒海方面だけではなく、クリル諸島とカリーニングラードの維持もかなり気にしているのです。ロシア人から見れば日本自衛隊の揚陸能力の向上は著しいですし、仮に逆上陸用の戦力があってもウラジオストクから救援に行くには宗谷海峡を突破せざるを得ず、強力な空中援護と水上艦の護衛が無ければ辿り着く事すら難しいのです。地形的に見てロシアが北方領土を維持する事は大変難しく、もしロシアが核兵器を使わないのなら、現状の戦力では自衛隊が本気で北方領土を奪い返しに来たら、ロシアに勝ち目はありません。アメリカ軍抜きで勝敗は決します。

kuril_zouen.png

つまり逆説的な話ですが、宗谷海峡の安全通行を確保しなければクリル諸島の救援はおぼつきません。艦隊整備の関係と流氷の問題で、カムチャッカ半島に水上艦の根拠地を置くのは無理ですし、間宮海峡廻りで迂回して来るのも流氷の時期には無理です。つまりクリル防衛には北海道の海峡周辺へ限定侵攻し、安全通行を確保し、その上で救援に向かうのが最も確実です。地球温暖化で間宮海峡とオホーツク海の流氷が気にならなくなれば戦略も変わってきますが、現状では「もし日本が北方領土奪還作戦を掲げて攻めてきたら、ロシア軍はお返しに全力で北海道に攻め込む」という作戦が有り得ます。ロシアは2年前のグルジア戦争で、紛争地域の南オセチアとアブハジアを大きく超えてグルジア本領奥深くまで攻め込みました。同じように領土紛争で係争地以外への侵攻は十分に有り得るケースです。

しかし、それを行うには水陸両用戦能力の大幅な拡充が必要で、太平洋艦隊に廻すミストラル級1〜2隻程度では全く十分ではなく、陸海空全体の質の向上が求められる事になります。
20時25分 | 固定リンク | Comment (216) | 軍事 |
2010年04月12日
航空自衛隊のF-2戦闘機で99式空対空誘導弾(AAM-4)を運用できるように、搭載レーダーJ/APG-1の探知距離を延伸する改修を行う事になっていますが、このレーダー改修に付いての詳細はこれまで判明していませんでした。外観や重量を大きく変えずに、電子機器とソフトウェアの変更で性能向上を図るという事しか伝えられていませんでしたが、「軍事研究」誌の今月号でJ/APG-1(改)のレーダー視程に関する話が語られていました。


「防空力拡張:新要撃機F-2/FX&KC-767タンカー」 軍事研究2010年5月号,軍事情報研究会[監修:河津幸英] 134ページ
結果、J/APG-1火器管制レーダー(改)の「空対空射撃」能力は、どの程度向上するのか。一説では、F-X候補機でもあるボーイングF/A-18E/Fスーパーホーネット戦闘攻撃機の積むレイセオン製AN/APG-79AESAレーダー以上とも言われる。


驚くべき内容です・・・「一説では」と、あやふやな情報なので確定には程遠いのですが、もしこれが事実なら・・・射程の長いAAM-4、加速力と機動性に優れる機体、そしてこのJ/APG-1(改)の性能があれば、ストライクイーグルやユーロファイターとも互角以上に渡り合える空戦能力をF-2戦闘機は獲得する事になります。現段階ではまだ信じられません・・・後追い情報が続いて裏付けが取れるまで半信半疑ですが、一応の報告です。


J/APG-1
21時06分 | 固定リンク | Comment (356) | 軍事 |
2010年04月10日
昨日お伝えした「T-95終了のお知らせ」にある通り、ロシア国防省のポポフキン国防次官の説明した内容にはT-95以外の幾つかの車両も開発中止または調達中止とありました。それらは以下の通りです。

・「オブイェークト195」
・「コアリツィアSV」
・「BMD-4バフチャーU」
・「2S25スプルートSD」
・「BMPT」
・「ブルラク砲塔」

それでは今回はこれらのお亡くなりになった水子兵器の解説を行っていきたいと思います。


obiekt195.jpgT-95 (Объект 195)

開発名称オブイェークト195、正式採用されればT-95と呼ばれる筈だった無人砲塔の試作戦車。全く公開されず謎のまま開発中止の決定が下り、最大の謎とされた搭載する主砲(135mmないし152mmと伝えられている)の詳細もいまだ不明です。重量は50〜55トンという情報が出回っていますが、これは従来のロシア戦車が45トン前後なのに比べると大きく重くなっており、大口径砲と合わせ第4世代戦車の先駆けとなるかと思われていました。しかしロシア軍はこれを冷戦時代に計画された古い思想の戦車であり、既存戦車の延長線上にあるものでしかないとしてオブイェークト195計画を中止、配備計画を取り止め、全く異なる新思想の設計の戦車を新たに開発する事に決めました。

これは恐竜的進化を遂げて来た戦車の終点と再出発を意味するのかもしれません。


 
152mmtwin.jpgКоалиция-СВ

152mm垂直二連装自走砲「Koalitsia-SV」。何故このようなアニメに出て来そうなSFメカニック的な主砲搭載形式なのかというと、実はちゃんとした理由があります。最近の最新鋭自走砲ではMRSI(Multiple Rounds Simultaneous Impact:多数砲弾同時着弾)砲撃が出来るように砲弾の装填速度を高めようという流れがあるのです。

MRSI砲撃とは先ず最初に山なりの曲射弾道で砲撃し、徐々に砲の仰角を下げて、装薬の量も調節しながら、段々と低い弾道で同じ個所に目掛けて発射していきます。山なりの弾道は着弾までの時間が長く、低い弾道は時間が短い為、上手く調節すれば一連の砲撃が全て同時に着弾できるように調整する事が出来ます。これは非常に効果的な制圧砲撃が可能となるのですが、砲弾の装填速度が間に合うように早くしなければならず、自動装填装置の高性能化が必要となります。米日独は苦労して高性能自動装填装置を開発しました。→ YouTube - Crusader MRSI

「一方、ロシアは主砲を2門搭載して砲撃速度を高めた」



BMD4.jpgБМД-4 "Бахча-У"

空挺歩兵戦闘車BMD-4。愛称の「バフチャーU」のバフチャーとはメロンかスイカか。確かスイカだったと・・・なんでこんな愛称なんだっけ? ※個人的にロシア語の先生(女性)に聞いてみたら「タネがいっぱい入っているから瓜?」と言われました。確かに砲塔バスケットを見たらタネ=砲弾がいっぱい詰まっており、車両ではなく砲塔に与えられた愛称だったようです。トゥーラ機械設計局(КБП)のサイトで写真がありました。→КБП, Боевой модуль «БАХЧА»

ロシア語でБМДとは空挺戦闘車(Боевая Машина Десанта)を意味し、輸送機から直接空中投下が可能な空挺軍の主力となる筈だった装甲車です。BMD-3の改良型で、100mm低圧砲2A70と30mm機関砲2A72を搭載し、地上軍(陸軍)のBMP-3並みの火力を誇ります。ロシア軍は空挺部隊が陸軍から独立しており、「空挺軍」を名乗っています。→YouTube - БМД 4 Бахча


 
2s25.jpg2С25 "Спрут-СД"

2S25スプルートSD空挺自走対戦車砲。BMD-3の車体をベースに50口径125mm滑腔砲2A75を搭載し、対戦車戦闘を担当する予定でした。愛称のスプルートとはロシア語でタコ(蛸)の意味です。※スプルートには蛸の他に「貪欲な怪物」という意味もあり、海の魔物「クラーケン」に近いかそのものを意味するようです。

・・・なんでこんな名前なんだろう、牽引式対戦車砲の方がスプルートと呼ばれているので(2A45牽引式対戦車砲。2A75と同系統)、その流れだと思いますが、どの辺が蛸なんでしょうか?



2a45.jpg2А45М "Спрут-Б"

もしかして脚ですか? でも8本も無いよ?



bmpt.jpgБМПТ

歩兵掃討戦闘車BMPT。ロシア語でБМПТとは戦車支援戦闘車(Боевая Машина Поддержки Танков )の意味で、主力戦車を支援しつつ、戦車の苦手な高所に居る敵歩兵を大仰角の取れる機関砲で撃退し、搭載する対戦車ミサイル(サーモバリック弾頭も選択できる)で遠距離の敵(敵歩兵が対戦車ミサイルを持っていた場合の対処)も攻撃可能です。T-72の車体を流用しており、歩兵戦闘車などよりも重装甲です。搭乗員は5名とT-72戦車より2名多いですが、これは周囲を警戒する眼を増やすための方策であり、死角が殆ど存在しません。対ゲリラコマンド専用の車両で、これから多くなる対テロ戦で威力を発揮するものと思われていましたが、追加調達は無くなりました。



obiekt188m_turret.jpgБурлак‐новая танковая башня

新型砲塔「ブルラク」計画。既存戦車T-72、T-80、T-90に搭載可能な新型砲塔ですが、採用は中止されてしまいました。ブルラクとは「船曳人夫」の事らしいのですが、どうしてそういう名称となったのかよく分かりません。(どうも船曳人夫の被っていた帽子のスプーンに由来するみたいです)

この砲塔はT-90改良型"Объект 188М"で用意されたものです。

ロシアでは「既存戦車の改修で凌ぐ事は国防力の低下を引き起こす」と何年も前から批判の声が多く、余計なお金を使うよりは新型戦車(T-95ではない全くの新型)が登場するまで我慢するという方針となりました。既存戦車の改修には必要以上のお金を掛けない事に決めたのです。




以上が今回の大胆な決定でお亡くなりになられた水子兵器たちです。ロシアはソ連時代から続く古い系統の兵器と決別し、全く新しい世代の兵器を生み出そうと決断しました。冷戦時代のドクトリンを捨て去るのです。その為にこれらの兵器は犠牲となりました。この決断が正しかったどうかは、15〜20年後ぐらいには判明している頃でしょう。
23時10分 | 固定リンク | Comment (164) | 軍事 |
2010年04月09日
非常に残念なお知らせです。今日のロシア独立新聞(Независимая газета:ニェザヴィーシマヤ・ガゼータ)の記事に、こうありました。

Ультиматум оборонке : Независимая газета
"Именно потому генералы решили отказаться от «объекта 195» – нового основного танка"

ロシア国防省のウラジーミル・ポポフキン国防次官(装備部門担当、上級大将)はこう説明しています。「具体的には将軍たちはオブイェークト195(T-95)を断念する事に決めました」とあります。予算が付きませんでした。152mm縦二連装自走砲「コアリツィア-SV」も同様です。歩兵掃討戦車「BMPT」や空挺自走対戦車砲「スプルートSD」も調達しない方針です。

またフランスから揚陸艦ミストラルを購入したり、イスラエルから無人偵察機を購入しなければならなかったように、ロシアの軍事兵器開発能力は低下しており、外国からの武器購入はこれからも続くと説明されています。これはロシア国内の軍需産業に対する最後通告に等しいものです。ポポフキン国防次官は以前から自国の兵器開発能力の低下を憂いており、一時的であっても外国兵器の導入を行い間に合わせる必要があると唱えていました。

とはいえT-95の調達中止で外国の戦車を買うというわけではなく、ロシア陸軍はT-90戦車の追加調達を行う事になります。今年、T-90を大量調達するという話が出ていたのは、こういう方針があったからなのですね・・・。




【追記】
この件をモスクワ在住の軍事ライター、小泉悠さんが詳しく記事にされていました。こちらはコメルサント紙の内容を報じています。


速報 ロシア陸軍が新型装備計画を見直し T-95も中止 :★くろいあめ、あかいほし
『コメルサント』紙が伝えるところによると、露国防省のポポフキン国防次官(装備担当)は、今月8日、装甲車両調達のための予算を全面的に見直すと発表した。
なかでも、以下に挙げる兵器については、開発・調達が中止される由。

・オブイェークト195(T-95)戦車
・「コアリツィアS」152mm自走榴弾砲
・「ブルラク」砲塔(T-72、T-80、T-90などの近代化用に開発された新型砲塔)
・BMD-4「バーフチャU」空挺戦闘車
・「スプルートSD」空挺自走砲(事実上の空挺戦車)
・BMPT戦車支援戦闘車(T-72の車体に機関砲・対戦車ミサイル等を積んだ装甲戦闘車)

コメルサント紙は、専門家の談話として、上記の兵器はいずれもソ連時代の計画に基づくものであり、決定は評価できると伝えている。
「最新型」兵器が実はソ連時代の兵器を手直ししたものに過ぎないとの批判は以前から強かったが、開発資金や軍需産業の開発・生産能力の問題、さらには国防相と軍需産業の癒着などにより、「改良型」(≠新型)兵器の調達が続いているのが現状であった。
今回の国防省の決定は、こうした従来の陳腐化した兵器調達を改め、本当の意味での新世代兵器へと調達の重点を移す狙いがあると思われる。
特にT-95の後継としてどのような戦車を登場させてくるのかについては、今後のロシア軍の陸戦ドクトリンを考察する上での重要な材料となろう。


つまりロシアはソ連時代から計画されている古い思想の兵器(つまり冷戦時代のドクトリンで設計されている)を大胆に中止し、新思想の兵器体系に作り変えるという革命的な決断を降したのだと言えます。T-95は無人砲塔を採用していると言えども、自動装填システムはT-72、T-80、T-90と同じカセトカ式のままで、旧来型の戦車の延長線上にあるものです。重量も50〜55トンと旧来のロシア戦車が45トン前後だったのに比べ肥大化しており、冷戦時代の発想であり、今の時代にはそぐわないと考えられたのでしょう。

また今回の決定は既存兵器の改修で凌ぐ事も否定しています。T-90用の近代化砲塔の採用も取り止めたことがそれを表しています。コメルサント紙は既存兵器の改修は軍需産業との癒着であると断じ、改良型の調達は新型の調達を意味しないとしています。これは7年前に独立新聞も「既存戦車の改修で凌ぐ事は国防力の低下を引き起こす」と報じており(「Танковый кризис」)、ロシア国内で共通の見方だと言えます。今年3月にも新任のパスニコフ陸軍総司令官は「旧式兵器の近代化から、新規調達へと重点を移す」と語っており、その傾向は明白です。

ただ私の予想を超えていたのは、T-95ですら「既存兵器の延長線上に過ぎない」と開発を取り止めてしまったことです。冷戦時代からの計画であるオブイェークト195(T-95)は新時代に対応できない、だから中止してしまい、完全な新世代の戦車を開発しなければならない・・・当面はT-90を大きな改修無しでそのまま調達して凌ぎ、恐らくロシアの全く新たな戦車は早くても15〜20年後以降に出て来る事になるでしょう。
21時30分 | 固定リンク | Comment (206) | 軍事 |
2010年04月08日
まだ週末じゃ無い気もするのですが・・・せっかく解説用の作図もしたので、今の内にUPしておきます。どうもロシア海軍が空母クズネツォフを魔改造する気らしいのです。

【RIAノーボスチ;ロシア語版】
Перестройка авианосца: каким станет "Адмирал Кузнецов" : РИА Новости
【RIAノーボスチ;英語版】
Moscow set to upgrade Admiral Kuznetsov aircraft carrier : RIA Novosti

ノーボスチ・ロシア通信社によると、ロシア海軍の空母アドミラル・クズネツォフは2012年から2017年前までの5年間を掛けた大改修工事を予定しているとあります。それは只の寿命延伸工事ではなく、欠点を改善する為の大改修工事であり、その改修内容は詳しくは不明だが、幾つかのレポートに基づいて予測することが出来る・・・とあるのですが、その内容は「新造した方が安いんじゃないか?」と思えるほどの魔改造ぶりで、全てその通りに改装を施したら別物に生まれ変わるぐらいの代物でした。

○先ず第一に、欠陥のある蒸気タービンとターボ加圧ボイラーによる推進機関部は、ガスタービンまたは原子力推進機関に換装されます。
○対艦巡航ミサイルP-700グラニト(SS-N-19 シップレック)は撤去され、それに伴い艦内レイアウトが変更されます。これによって格納庫は4500〜5000平方mに拡大され、艦載機の搭載数を増やします。
○新型の対空ミサイルと防空レーダー、戦闘情報システムを搭載します。
○カタパルトを搭載する可能性。スキージャンプ台はそのまま残し、アングルドデッキ側に2本のカタパルトを設置できます。過去にソビエト連邦の時代に蒸気カタパルトは地上試験しています。しかしガスタービン機関の場合は蒸気を発生しない為、電磁カタパルトをこれから開発するか、アメリカから買うか、違法コピーして下さい。
○艦載機にはMiG-29KファルクラムDと各種ヘリコプター、及びスホーイT-50(PAK FA)艦載型が予定されています。

この予想部分はノーボスチ通信の軍事解説記者イリヤ・クラムニク氏(Илья Крамник)の分析です。実に大胆な事が書かれています。電磁カタパルトを付けたい場合は違法にコピーしちゃいましょうはともかく(ガスタービン機関であってもカタパルト用ボイラーを別に積めば蒸気カタパルトは使える)、現状の蒸気タービン機関を取り外してガスタービンか原子力機関に取り替えるとは・・・確かにクズネツォフ搭載の蒸気タービン機関はボイラーもタービンもボロボロの状態なので、交換したくなるのは分かりますが、しかし原子炉を積むとなると既存のボイラーより大きく重くなり、しかもタービンも含めて全て丸ごと換えたいとなると大手術が必要になります。具体的に言うと船体を輪切りにして機関部を取り外し、別に造って置いた船体延長ブロックを用意し、原子炉と新型タービンを組み入れて溶接するのです。船体が延長されるので航空機格納庫も広がる恩恵もあります。この船体を輪切りにして延長ブロックを挟んで溶接するという方式は、旅客船やコンテナ船ではよくある改造法です。

「ソング・オブ・ノルウェー」の船体延長工事 - PUNIP CRUISES(プニップ・クルーズ)

上記リンク先で旅客船の輪切り→延長工事がどんなものかイラストによる解説が行われてあり、よく理解できます。さてそれでは空母クズネツォフの場合はどのような工事になるのか、下記の図で解説しておきましょう。

クズネツォフ魔改造計画

空母クズネツォフの場合は機関がシフト配置されているので、輪切りにする個所は二カ所必要です。切断した後にボイラーとタービンを取り外し、原子炉とそれに対応したタービンを設置し、船体延長ブロックを挟み込み、溶接して仕上げます。これで古い機関の取り外しと、大きくなった原子炉区画を収納する事が可能になります。ガスタービンにする場合は小さくなるので船体延長ブロックは無くても構いません。ただしガスタービンは軽過ぎるので重心が上がってしまうので、重心を下げる為に船底バラストが必要になる場合もあります。

空母クズネツォフの船体配置図について詳しくはこちらを参照して下さい。

【空母アドミラル・クズネツォフ】
重航空巡洋艦11435
22,28 - ма­шин­но-ко­тель­ные от­де­ле­ния(ボイラー及び機関部)
25 - от­се­ки авиа­ци­он­но­го бое­за­па­са(航空機用弾薬庫)
20 - цис­тер­ны авиа­то­п­ли­ва(航空機用燃料槽)
7 - ан­гар(航空機格納庫)

もし原子力化して船体延長ブロックも入れるなら、航空機用弾薬庫をもう一つ増設できるかもしれません。シフト配置の機関部の間に新たな弾薬庫を配置できれば、アメリカ海軍のニミッツ級原子力空母と同じ配置になります。

さて・・・無理があるでしょう、この大改装計画は。あまりにも大掛かり過ぎる工事で、艦齢20年のクズネツォフに施す価値があるのかどうか・・・あともう20〜30年使う気だとしても、改装費用が高額過ぎて、新造空母の方が安上がりになるかもしれません。船体の輪切りよりも、グラニト巡航ミサイルを撤去して格納庫を延長する方が面倒な工事になりそうな気がします。間の指揮所も移動させなければならず、むしろ此処は手を付けない方がいいと思います。グラニトのランチャーは蓋をして置けばいいでしょう。

本当にこのような大改装を行うとは少し信じられませんが、もし実行されればクズネツォフは文字通り生まれ変わります。建造途中で未完成に終わったウリヤノフスク級原子力空母に匹敵する性能を持つ事になるでしょう。

【未完成空母ウリヤノフスク】
ウリヤノフスク級原子力空母

ちなみに改造では無く新造の場合でも、ブロック工法によって後から溶接で繋ぎ合わせる工法は一般的です。

【建造途中のイタリア空母カブール】
空母カブール
23時38分 | 固定リンク | Comment (248) | 軍事 |
2010年04月05日
4年くらい前に私は「食料自給率と自衛戦争」 という記事を書きました。作家の故・小田実氏が「資源もなく、食糧自給率の低い日本は、自衛できない。」と主張するのに対し、私は「歴史的に実践例があり、自衛は可能。」と、第二次世界大戦当時のイギリスが食料自給率30%でありながら、ドイツ潜水艦による通商破壊戦に耐え抜き、勝利した事例を示しました。

さて今日(というか昨日から記事を書き始めて日付が変わっちゃったのですが)、以下のような記事を見掛けました。

食料自給率はゼロでもかまわない:安全保障の観点から 站谷幸一 : アゴラ

この站谷幸一氏の主張は「シーレーン切断は軍事的、政治的に不可能」というもので、私の4年前の記事と「食料自給率は低くても構わない」という視点は同じでも、論旨は大きく異なります。また站谷幸一氏は、安全保障上の理由から食料自給率を一定以上にすべきという意見は、軍事的観点を無視した議論であると述べています。この点について有る程度は同意するのですが、しかし站谷幸一氏による潜水艦戦争の説明は、大きく間違っています。


食料自給率はゼロでもかまわない:安全保障の観点から 站谷幸一 : アゴラ
シーレーン切断は軍事的、政治的に不可能
1.純軍事的説明
 食料自給率を上昇させるべきという議論の根拠にされるのが、太平洋戦争で発生したようなシーレーン途絶が起きたら・・・という前提である。しかし、そうした現象を起こすのは軍事的・政治的に不可能だ。まず、軍事的理由としては、(1)「現在の船舶の頑健性と対艦兵器の限界」、(2)「峻別することの難しさ」、(3)「海峡は封鎖できない」が挙げられる。

 (1)「現在の船舶の頑健性と対艦兵器の限界」については、2007年のフォーリンアフェアーズ紙にて、ブレア元米太平洋軍司令官が説明を行っている。彼によれば、近代的なタンカーを機能不全にするには対艦ミサイルが10発程度、同時に打ち込む必要があるという。何故ならば、近代的なタンカーは頑強な設計である一方、近代的な対艦ミサイルはレーダーや兵器システムを破壊することを前提にしているので装薬量が少なく、破壊力は少ないからだ。また、魚雷にしても平均的な潜水艦は20本程度しか装備していない。となれば、一隻で10回程度しか攻撃できない計算になる。こうした作戦を長期的に行えば、早晩、魚雷及び対艦ミサイルの備蓄がそこをつくのは明らかである。しかも、何の妨害を受けなくても、他のターゲットは逃げていくので、それを追いかけねばならず、補給の問題があるので、チョークポイントのような交通量の多い数百マイルの海域で潜水艦が作戦を一ヶ月継続しても、ダメージを与えられるのは6隻程度でしかない。一方、近代的なタンカーは鋼鉄製の二重底で、積載量・速度は比べ物にならないほど増大し、隻数も増加している。これでは、第二次大戦のように、海上封鎖するのは米国以外はほぼ不可能だろう。実際、イラン・イラク戦争では両国が輸送路破壊を試みたが失敗したではないか。というのがブレアの主張である。
 彼の説明は、軍事的に見て極めて合理的な説明だろう。現在の艦船攻撃用兵器は、昔の重装甲でシステムが単純な軍艦を撃沈するためではなく、現在の軽装甲でシステムが複雑な軍艦を機能不全に陥らせることを前提としている。しかも、兵器価格は上昇し、かつての大砲のように気軽に何百発も撃てるようなものでもなくなった。一方で、タンカーを中心とする商船は防御力強化に努めてきた。これを傍証するのが1974年、東京湾で衝突炎上して漂流した「第十雄洋丸(43723総トン)」を海自がなかなか撃沈出来なかった事件である。海自は第十雄洋丸を処分するために、72発の5インチ砲を撃ちこみ、対潜哨戒機から9発の150キロ爆弾と9発の127ミリ空対地ロケットを命中させ、その後、潜水艦から二発の魚雷を命中させたが、右に7、8度傾いただけだった。このように、現在の兵装で艦船を撃沈するのはきわめて難しい。撃沈を前提としなくても、戦争を決意した国家が対艦用ミサイル・魚雷を商船攻撃に、どれだけ本格的に振り向けられるか難しく、嫌がらせ程度が限界だろう。このように、「現在の船舶の頑健性と対艦兵器の限界」を考えれば、シーレーンを途絶させることは難しいと言える。


站谷幸一氏は攻撃の労力とその対価を計算違いしています。

■大きな獲物は仕留めるのに苦労するが対価も大きい

近代的なタンカーの耐久力が非常に高く、撃破が困難な理由は実に単純な話で「巨大化したから」なんです。第二次世界大戦当時のタンカーのサイズは、大きめのものでも1〜2万トン程度でした。それが今や20〜30万トンが当たり前という時代です。大きさそのものが10倍以上になったのですから、撃破に必要な弾薬も10倍以上になって当然です。近代的なタンカーは二重船殻化など耐久性が向上する構造的な変化もありますが、それ以上に単に大型化したことで耐久性が上がったのです。

つまりはこう言う事です。先ず1万トンのタンカーを仕留めるには1本のミサイルが必要だとします。そして単純計算で10万トンのタンカーを仕留めるには10本のミサイルが必要だとしましょう。するとミサイル1本当たりの戦果はどちらも同じ1万トンです。大きな獲物を仕留めるのに多数の弾薬が必要でも、労力に見合った対価は得られるのです。

また、ミサイルと魚雷では効果が違います。喫水線下に穴を開ける魚雷は、ミサイルよりも少ない本数で目標の船舶を行動不能に追い込めます。それを考慮に入れているのか站谷幸一氏は「20本の魚雷で10回攻撃可能」と目標1隻あたり2発の魚雷で計算しています。站谷幸一氏は10回分の攻撃しか出来ないとしていますが、一度の作戦で10回攻撃できれば十分過ぎるような・・・過去の潜水艦戦でそのような幸運に恵まれた艦長は居ないですよ、あまりにも贅沢な話です。

■僅か一ヵ月間の作戦で6隻撃沈ならスーパーエース

站谷幸一氏は「交通量の多い数百マイルの海域で潜水艦が作戦を一ヶ月継続しても、ダメージを与えられるのは6隻程度でしかない。」と述べていますが、もし本当にそのような戦果が挙げられるなら驚異的です。それでは人類の歴史上最高の戦果を挙げた潜水艦エース、第二次世界大戦でのドイツ海軍のオットー・クレッチマー艦長の戦歴を見てみましょう。

オットー・クレッチマー - Wikipedia

実働3年、哨戒航海16回(213日)、撃沈・撃破・拿捕の合計スコアは52隻で約31万トン。これが歴史に残る伝説級の潜水艦スーパーエースです。平均すると一ヵ月あたりで7隻の獲物を仕留めています。一隻の潜水艦が一ヵ月間に6隻の獲物を仕留めるということは、どれだけ驚異的な戦果か分かるでしょう。また現代ならば獲物が30万トンタンカーという事もあり得ます。つまり一隻仕留めるだけでクレッチマーの世界記録を抜き去るかもしれません。なお第二次世界大戦でドイツ海軍の潜水艦部隊が全盛期だった頃(1942年)、全軍で稼働300隻(実働150隻)の潜水艦を投入して月平均の商船撃沈スコアは合計60万トン前後です。これが現代の原子力潜水艦が、もしも站谷幸一氏の言う通り僅か1隻で1ヶ月間に6隻のタンカーを撃沈できれば、全て20万トンタンカーとして合計120万トンにもなります。当然、複数隻が投入されていると考えねばならず、損害はその数倍に膨らむでしょう。嘗てのドイツ海軍が挙げた戦果の10倍に達するかもしれません。

《訂正》歴史上最高スコアは第一次世界大戦時の潜水艦エースでした。

ロタール・フォン・アルノー・ド・ラ・ペリエール - Wikipedia

クレッチマーは第二次世界大戦時の潜水艦エースでした。

■潜水艦の性能は昔と比べ物にならないほど進化している

站谷幸一氏は「近代的なタンカーは鋼鉄製の二重底で、積載量・速度は比べ物にならないほど増大し、隻数も増加している。」と述べていますが、潜水艦の性能も劇的に上がっています。基本的にタンカーはただ巨大化しただけなのに比べ、潜水艦は原子力機関を得て文字通り生まれ変わりました。第二次世界大戦時の一般的な潜水艦は水中6〜8ノット程度がせいぜいで、バッテリーは全力だと数時間で尽きてしまいます。それが原子力機関を搭載する事で、水中を30〜40ノットで何カ月でも走り続ける事が可能となりました。大きくなり高価となったので、何百隻と保有する事は無理ですが、隻数の減少を補って余りあるほどの別次元の性能を発揮できるようになりました。もしかすると站谷幸一氏の言うような「一隻の潜水艦が一ヶ月間に六隻の大型タンカーを仕留める」という離れ業も、原子力潜水艦なら余裕なのかもしれません。

■イラン・イラク戦争で両国は潜水艦を用意できなかった

イラン・イラク戦争では両国は「タンカー戦争」と呼ばれている戦いを演じています。お互いにタンカーを攻撃するもので、多くの船が巻き添えになりました。しかし両国はこの戦いで対戦車ミサイルやロケット弾、対地ミサイルなど本来は対艦用ではない兵装まで投入しています。専用の対艦攻撃兵器としては対艦ミサイル「エグゾセ」「シルクワーム」が使われましたが十分な量はなく魚雷に比べれば攻撃力は低く、両国とも海軍兵力は貧弱で潜水艦は保有しておらず、魚雷攻撃は行えませんでした。両国の軍隊は共に船舶への攻撃力が低かったのです。それでも数年間で300隻以上の船舶が損害を受けました。

■魚雷の攻撃力は今も昔も変わらず高いまま

現代の潜水艦に搭載できる魚雷、代表的な533mm長魚雷のMk.48魚雷は弾頭炸薬量約300kgです。第二次世界大戦当時のMk.14魚雷もほぼ同じ炸薬量です。つまり当時の装甲が厚く水密区画の強固な戦艦を沈める事が出来る、威力の高い兵器であるMk.14魚雷と同等の威力を、現代のMk.48魚雷でも発揮する事が可能です。現代では磁気信管がより精密になり、艦底起爆させられるので、威力は増大しているとさえ言えます。

つまり站谷幸一氏の言う「現在の艦船攻撃用兵器は、昔の重装甲でシステムが単純な軍艦を撃沈するためではなく、現在の軽装甲でシステムが複雑な軍艦を機能不全に陥らせることを前提としている。」という主張は、魚雷に関しては関係の無い話です。ブレア元米太平洋軍司令官が何故、対艦ミサイルに話を限定していたのか、イランとイラクは対艦ミサイルは持っていても長魚雷は持っていなかった点と合わせて、考え直す必要があります。

■魚雷は今も昔も同じくらいの値段です

第二次世界大戦当時、日本海軍の九五式酸素魚雷は4万円で、現代の価値で換算すると2億円です。現代の海上自衛隊の89式長魚雷はそれよりむしろ安いくらいです。現代の魚雷は誘導装置が付いてるのに、無誘導の大戦当時の魚雷と値段が変わらない理由は、気室の加工コストにあります。空気魚雷と酸素魚雷は高圧を掛けて空気(酸素)を貯め込む為に頑丈な気室を必要とし、それはニッケル・クローム・モリブデン鋼の削り出しで作ります。なんと削り出す加工費用が魚雷製造費用の大半を占める有様でした。これが酸化剤に過酸化水素を使う魚雷や電池魚雷ならば気室が必要無く、製造コストが抑えられます。誘導装置の分の値段上昇を、そこで抑えているわけです。

つまり站谷幸一氏の言う「兵器価格は上昇し、かつての大砲のように気軽に何百発も撃てるようなものでもなくなった。」という主張は、魚雷に関しては関係の無い話です。魚雷は今も昔も同じくらいの値段なのですから。

■第十雄洋丸の撃沈に用いたMk37中魚雷は長魚雷の半分の低威力

第十雄洋丸事件 - Wikipedia

1974年にLPGタンカー第十雄洋丸は火災事故を起こして海上自衛隊に撃沈処分されましたが、最後の止めにする積りで使用したMk.37魚雷は潜水艦から4発を発射して2発しか当らず、更なる艦砲射撃を必要としました。これはMk.37が水上艦攻撃用の長魚雷では無く、潜水艦攻撃用の中魚雷であった為、炸薬量が150kgと少なかった事が原因でした。もしこれが長魚雷(炸薬量300kg)なら十分沈んでいたでしょうし、最近の主流である艦底起爆方式ならより効果的で、一発で仕留められていたかもしれません。なお5インチ砲は豆鉄砲ですから大型船の撃沈にはあまり役立ちません。対地用の127mmロケット弾や150kg対潜爆弾も同じです。

よって站谷幸一氏の言う「このように、現在の兵装で艦船を撃沈するのはきわめて難しい。」とは言えません。第十雄洋丸を沈める為に用意されたのは大型船を撃沈するには不向きな兵器ばかりで、今現在の海上自衛隊の兵装ならば、第十雄洋丸クラスのタンカーならば長魚雷の艦底起爆で楽に仕留める事が可能です。

また站谷幸一氏の言う「嫌がらせ程度が限界だろう」は特に根拠は無いようですし、「現在の船舶の頑健性と対艦兵器の限界」を十分に理解されているようにはとても見えません。

 

(2)「峻別することの難しさ」の説明は簡単だ。例えば、中国の原潜がマレーシア沖で日本の輸送船を攻撃しようとするだろう。しかし、原潜の艦長は困るだろう。どれが日本船籍か分からないからだ。ご存知のように、日本は世界各国の船をチャーターしている。その中から日本の船舶だけを見つけ出すのは難しいし、それだけを沈めても大勢には影響しない。だからといって、手当たり次第に攻撃する訳にも行かない。もし、無関係な船舶を撃沈でもしたら、第一次大戦時のドイツのように無用な敵を増やしかねないからだ。


ドイツは二度の大戦で二度とも無制限潜水艦戦を行っていますし、イラン・イラク戦争での「タンカー戦争」では多数の巻き添え被害が発生しています。このように過去の歴史に先例があります。確かに今の時代に無制限潜水艦戦は仕掛け難い種類の作戦ですが、可能性はゼロだと排除する事も出来ません。



(3)「海峡は封鎖できない」ことの理由も簡単だ。よく、マラッカ海峡やホルムズ海峡にタンカーが沈められて封鎖されたらどうするのか?という意見があるが、これも頓珍漢な議論でしかない。例えば、マラッカ海峡はもっとも狭い部分で幅が2.8kmである。全長330mの巨大タンカーが何隻か通せんぼしても完全封鎖には程遠い。加えて、もし通れなくなっても、わずかに遠回りすれば良いだけだ。事実、東アフリカで苦しむ船舶は海賊が出没する東アフリカ沖を避けてかなりの遠回りをしていたが、ほとんど商品価格には影響しなかった。少なくとも、日本で物価の急激な上昇や飢饉は発生していない。


・・・海峡は機雷で封鎖するものです。站谷幸一氏は一体どんな人を想定して反論しているのでしょう。「沈めたタンカーで通せんぼ」って港湾施設の出入り口付近の話じゃないのですか?

あと、ソマリア沖の海賊を避けて喜望峰廻りで迂回している船舶は多くは無いです。ピースボートですら恥を忍んで(遠回りの燃料代を捻出できず)海上自衛隊の護衛艦に守って貰っています。



2.政治的説明
 次に政治的な観点からシーレーン途絶を引き起こすことが不可能な理由を挙げる。それは、「シーレーン封鎖は貿易立国にとっては自殺行為」 という一点に尽きる。平時に海賊行為や船舶への攻撃を行えば、それは単なる国際法違反の海賊行為でしかない。要するに、平時においてシーパワーを他国に対して行使する余地は無い。一方、戦時に同様の行為を行えばどうなるだろうか。例えば、中台紛争や日中紛争時に中国海軍の潜水艦や水上艦艇が、そうした行為を無差別に行えば、中国の対外交易は途絶する。当たり前だ。そうした国家に近づく外国船はいない。貿易立国とした中国がシーレーン封鎖を行うことは自殺行為に近い。QDR2010で宇宙空間・海洋空間・サイバー空間などのグローバル・コモンズにおける自由を強調した米国が見過ごすことも無い。日米の経済関係が途絶した場合、確実に米国の国益を侵害することになるからだ。仮に中国が米国の妨害を潜り抜けて、行ったとしても、一年以上行うのは難しいだろう。中国経済自体がもたない。


イラン・イラク戦争での「タンカー戦争」では、その自殺行為が行われました。当時イランは石油輸出をタンカーによる海上輸送に依存していましたが、イラクはトルコ経由の石油パイプラインがありました。「タンカー戦争」を引き起こせばイランは自分が不利になる事を知っていながら、タンカー攻撃をエスカレートさせていきました。国家は時として自殺攻撃も厭いません。嘗ての我が国もそうであったように、です。



まとめ
 このように軍事的・政治的に見れば、わが国がシーレーン途絶を受ける可能性はきわめて低く、仮に中国が非合理的な行動をし、しかも、それに米国が介入しなかったとしても何ヶ月か程度の備蓄をしておけば事足りるだろう。ただ、まともな考え方が出来るならば、そうなった時に食料を気にしてもしょうがないのだが。政治的・軍事的に敗北した時点で食料の心配をすることは間違っている。そのときにすべきは中国への朝貢でしかない。
 ここまで書けばお分かりだろう。安全保障を理由に食料自給率の心配をするのは間違っていると。我々は全方位から海上封鎖を受けた太平洋戦争を極度に一般化しすぎている。確かに、帝国海軍は海上護衛を軽視したかもしれない。だが、そこに問題があるのではなく、少ない戦力で海上護衛・侵攻作戦・離島防御をしなければならない戦争を引き起こした戦略的なミスに、そもそもの問題があったのだ。また、太平洋戦争型の長期にわたる総力戦が発生する確率はきわめて低い。であるならば、我々の優先課題は、太平洋戦争時のような食料途絶を心配するのではなく、現在の国際環境を維持していくことであると言えよう。だからこそ、私は安全保障的な観点から食料自給率はゼロでもかまわないと主張するのだ。


最初に「食料自給率と自衛戦争」 を示したように、私の考え方は「食料の心配は深刻に考えなくても大丈夫」という点では站谷幸一氏と似通っています。総力戦争や無制限潜水艦戦が発生する確率が低い事も同意します。ですが可能性は低いから全く気にしなくていい、という安全保障は有り得ません。站谷幸一氏の軍事解説部分は間違いだらけで、とても納得のいくものではありません。食料自給率についてはそれほど気にする必要は無いとは思いますが、それは保険を何も掛けなくてよいという話では無い筈です。

(2009/05/08)東南アジアに拡散する潜水艦

最近、アジアでは中国の軍拡を発端に各国の間で潜水艦建艦競争が始まっています。それは潜水艦の脅威が拡散していることを意味します。
05時00分 | 固定リンク | Comment (256) | 軍事 |
2010年04月03日
核密約問題に関連する話ですが、アメリカ海軍の艦上発射型トマホーク巡航ミサイル核攻撃型はもう消え去りますが、空軍の戦略爆撃機に搭載する空中発射型の核巡航ミサイル(AGM-129 ACM)は存在します。トライデント弾道ミサイルを搭載する戦略原潜は日本近海に近寄る事は有り得ないとしても、空中発射型の核巡航ミサイルが日本に持ち込まれる可能性があるのではないかという懸念が、一部マスコミの間で報じられています。

それではグアムのアンダーセン基地から発進した戦略爆撃機が、日本に立ち寄る可能性があるかどうか、以下の図をご覧ください。

核巡航ミサイルACMの発射ポイント

戦略爆撃機は高価な兵器ですので、有事の際に攻撃を受けやすい前線に配備する事はありません。後方より発進し、長距離スタンドオフ兵器である空中発射型巡航ミサイルを安全圏で発射して、帰ります。グアム配備の戦略爆撃機の場合はフィリピン海の中央(沖ノ鳥島の付近)まで進出すれば十分で、極東方面でのロシア、中国、北朝鮮の主要個所をACM巡航ミサイルの射程圏内に収める事が出来ます。台湾、沖縄、九州の防空網が健在であるならば、フィリピン海の中央は絶対安全圏で、敵戦闘機を警戒する必要がありません。B-2ステルス爆撃機どころかB-52戦略爆撃機でも任務を遂行できます。

ロシアや中国の深奥部を攻撃するには、この地点からACM巡航ミサイルを発射すると射程が不足しますが、そのような深奥部の攻撃目標は強固に防御された硬化サイロ(ICBM収納用)なので、巡航ミサイル用の戦術核弾頭では威力不足で撃破が困難であり、戦略核弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルで攻撃する事になるので、考慮しなくてよいという事になります。

なお、アメリカ空軍の保有する空中発射型の核巡航ミサイル(AGM-86 ALCM、AGM-129 ACM)は戦略爆撃機のみが運用可能で、戦闘機用の巡航ミサイル「AGM-158 JASSM」には核弾頭型はありません。またロシアとの核軍縮交渉の中でB-1戦略爆撃機が核兵器運搬任務から解かれており、B-1には核兵器を搭載していません。つまり空軍の作戦機の内、核巡航ミサイルを運用できるのはB-52とB-2の二機種の戦略爆撃機のみです。

ちなみに冷戦終結後、日本に飛来した戦略爆撃機は、つい最近の2月にシンガポール航空ショーに出演する為に向かう途中のB-52Hが、空中給油機との会合が出来なくなり沖縄県嘉手納基地に着陸して給油したケース、2009年10月の青森県三沢基地航空祭にB-52Hがやって来たケース、2005年9月の三沢基地航空祭にB-1Bがやって来たケース、1996年6月にインドネシア航空ショーに向かう途中でB-1Bが故障の為に嘉手納へ着陸したケース、以上の四例しかありません。全て航空ショーに向かう途中か日本で行われた航空ショーに参加する為にやって来たもので、爆弾倉は当然空っぽです。機密性の高いB-2は飛来してくる気配がありません。また艦船と異なり爆撃機の場合、乗員の安全を考えれば緊急着陸の拒否は出来ません。非核三原則があろうとなかろうと、どのみち例外扱いするしかないのです。

そして空中発射型の核巡航ミサイルの運用上、日本の基地を戦略爆撃機の出撃拠点にする意味が存在せず、核持ち込みの可能性を論じる必要があるのかどうか、少なくとも空中発射型の核巡航ミサイルで懸念する必要があるとは思えません。
12時49分 | 固定リンク | Comment (232) | 軍事 |
2010年04月01日
謎の沈没を遂げた韓国海軍のコルベット「天安」の二つに分かれた船体の切断面が、真っ直ぐに鋭利な刃物で切り裂かれたような有様から、疲労破壊による事故ではないかという憶測が一部で広まっています。

哨戒艦沈没:ナイフで切ったような切断面:朝鮮日報

【海軍哨戒艦沈没】「天安」沈没の原因は疲労破壊? :中央日報

溶接ミス、低級鋼材などの原因から、波浪、低温、経年劣化などの条件を切っ掛けに船体が断裂した場合は一直線に引き裂かれるので、そういった可能性が論じられているのでしょうが、しかし魚雷による攻撃でも磁気信管による艦底起爆ならば、真っ直ぐな切断面が形成されるケースがあります。沈底機雷でも同様です。実際にアメリカ海軍の退役駆逐艦「ファイフ」を用いた実艦標的撃沈演習(SINKEX : sinking exercise)では、Mk.48魚雷の艦底起爆2発目で艦橋の直前から真っ二つに裂けています。



退役駆逐艦ファイフ撃沈試験

つまり断裂した切断面を見ただけは、疲労破壊なのか魚雷または機雷の爆発によるものなのかは判断ができません。船体を引き揚げて調査すれば、外板全体の凹み具合や周囲の隔壁の歪み具合などで疲労破壊か触雷なのかは直ぐに判明します。まだ引き揚げてもいない現段階では、沈没原因を決め付ける事は出来ません。



(※今日は4月1日なので特別に嘘記事を用意しようと思いましたが出来なかったので、まだ週末ではありませんが真面目な記事を特別にお送りします。)
19時40分 | 固定リンク | Comment (195) | 軍事 |
2010年03月28日
26日夜に韓国海軍のポハン(浦項)級コルベットが沈没し、乗員の半数近く46名が行方不明、恐らく艦と運命を共にし生存が絶望視されている事件は、現在でも沈没原因が特定できていません。北朝鮮による攻撃の可能性は薄れてきたものの、浮流機雷に触接した可能性、事故による弾薬の誘爆の可能性、まだ原因が判明していません。

沈没したのはポハン級コルベット14番艦PCC-772「チョナン(天安)」です。

ポーハン級コルベット - 日本周辺国の軍事兵器

状況として分かっているのは、PCC-772チョナンは艦尾付近の爆発で船体は分断され短時間の内に横転沈没、外れた艦尾が潮流に流され(艦首側が流されたという報道もあり情報が錯綜)現在捜索中となっています。現場海域は水深30mと浅いものの、潮流が激しく、波も高い状態で、調査は難航しています。

サンオ型小型潜水艦 - 日本周辺国の軍事兵器

状況としては北朝鮮の潜水艇による魚雷攻撃の可能性は低いのですが、機雷を敷設する能力があり、前以て仕掛けていた可能性は残ります。


※「浮流機雷」と「浮遊機雷」・・・マスコミ報道各社は機雷の種類について何も注意を払っておらず、今回の事件に関する記事で「浮遊機雷」という表現をよく見かけますが、実は国際条約で明確に区分けされているので、本来はこの場合は「浮流機雷」が正しい用法です。

・浮遊機雷・・・水上または水中を自由に浮遊する機雷。公海上で中立国の船舶に被害を与えてはならない為、敷設後1時間で不活性化(起爆しない)するように国際法で定められている。

・係維機雷・・・係維索で繋いで海底の係維器で固定する機雷。

・浮流機雷・・・係維機雷の係維索が切れて漂い出した機雷。

・沈底機雷・・・海底に鎮座する機雷。

浅い深度では沈底機雷を使います。係維機雷は大深度で敷設したい場合に使います。浮遊機雷は特殊兵器の部類で、滅多に使用されません。
14時08分 | 固定リンク | Comment (398) | 軍事 |
2010年03月27日
ロシア・ノーボスチ通信社の報道によると、新型戦車(Новый танк, известный как «объект 195» и Т-95)はこの夏に行われる兵器サロンでお披露目される事になりそうです。


Российские танки: настоящее и будущее - РИА Новости
Если правительство нам позволит, то первый образец нового танка может быть представлен на оружейном салоне в Нижнем Тагиле этим летом.


летом(夏に)って書いてあるなぁ・・・どう見ても・・・つまり、5月9日のモスクワ戦勝パレードにはT-95をお披露目出来ない、って事ですか。残念です。とはいえ、予行演習の様子を見る限りではパレード参加車両にTOS-1「ブラチーノ」が入っているので、楽しみです。更にはT-34とSU-100が纏まった数で用意されているので、本番はどういう演出になるのか注目です。



これは5月9日の本番に向けて、3月12日に行われた予行演習の動画です。トーポリM弾道ミサイルも初登場になります。ちなみにTOS-1ブラチーノ(ТОС-1 Буратино)は初期型の24連装型と後期型の30連装型があるのですが、私は24連装型が大好きです。予行演習の動画で確認できるのは24連装型なので、とても嬉しくなりました。本番が楽しみですね。

TOS-1

23時35分 | 固定リンク | Comment (59) | 軍事 |
読者の皆さんに質問なのですが、この戦車の詳細を知っておられる方は居ますか?



アメリカ軍のフューチャー・コンバットシステム(FCS)計画の一環で試作された40トン戦車らしいのですが、この試作車両の正式な名前と要目が見つからなくて・・・※沢山のコメント、ありがとうございました。中でも「名無しコメット神信者」氏と「さむざむ。」氏の提供された情報が詳しかったので、紹介しておきます。



12. 元アリアドネンの意地にかけて!(苦笑)

同出版の『世界の近未来兵器カタログ』によると、米陸軍のTACOMが製作した40t型FCS(Future Combat System)のモックアップだそうです。
FCSは他に57t〜10tまで、5つほど案があった模様。

しかしコレを見ると、滝沢聖峰先生が昔描いた戦車ネタの短編を思い出す…(未来の自衛隊がコレを装備しているというオチ)。

Posted by 名無しコメット神信者 at 2010年03月27日 23:16:21



17. 古い話だし、何よりも本物に近い嘘っこ車輌ということで、興味が薄れた今となってはやや曖昧な記憶ですが、コイツは実用車輌ではありません。

FCS当初案にあり、今となっては米軍黒歴史の闇に埋れてしまった、40mm連射型レールガン搭載、電磁装甲(磁気の反発力で板を真っ直ぐ飛ばす、驚異の電磁空手チョップ)、ジュール熱式電気熱装甲(電極間に驚異が触れると大電流が流れて一気に蒸発?できれば良いね的な)、対ATM用ショットガンタイプSFF弾(1つのライナーから大量のSFF子弾を発射して脅威をバラバラにするぜ)等々、できたらいいね的な装備をもつ40t台次世代戦車「概念車輌」の「ユーザーインターフェイス」や「センシング系」の研究のためにTRADOC(Training And Doctrine Command)が試作した車輌であったはずです。つまり、出力・重量比を合わせた動くモックアップに限りなく近いものだと。

Posted by さむざむ。 at 2010年03月27日 23:26:08



情報の提供、どうもありがとうございました。
22時37分 | 固定リンク | Comment (56) | 軍事 |
2010年03月19日
F-35Bが垂直着陸に初成功しました。以下はロッキードの公式動画です。



滑走離陸から垂直着陸まで全部。BGM付きなので生の音は聞きたい場合は、以下の分割された動画を参照するといいでしょう。



短距離滑走離陸です。



垂直着陸です。
20時53分 | 固定リンク | Comment (192) | 軍事 |
2010年03月13日
本当は週末最初の投稿はこれの紹介を予定していたのですが、話に聞いていた「防衛技術ジャーナル」の今月号を取り寄せて確認しました。58ページに、ダイキン工業で試作された135mm戦車砲弾の話が、研究設計部長の自らの弁で掲載されています。


「途切れのない研究開発事業を目指して」 ダイキン工業株式会社 特機事業部 研究設計部長 金木正則 「防衛技術ジャーナル」2010年3月号No.348,58ページ
その後、諸外国においては、大口径化が進み、戦車砲では140mmでの開発が進められていましたが、日本においては、140mmではなく、135mmという日本独自の拘りでしょうか、少し小さい口径での研究に着手しました。今思えば、固体発射薬で、2,000m/sを超える初速を達成できたことは当時の世界記録ではないかと思っています。この研究に携れたことは、非常に幸運であり、現在、小型軽量化の方向で進んでいることを考えると、このような研究にめぐり合えることは無いと思います。

その後、新戦車用の徹甲弾の研究開発に取り組み、これまでの研究成果をベースに、発射薬の高エネルギー化、飛翔体の高L/D化、装弾筒の軽量化などの設計を行い、威力が高く、命中精度も高い徹甲弾の開発が完了しました。開発中においては、多くの課題がありましたが、いろいろな方の指導を頂きながら、無事に要求を満足する徹甲弾を完成することができました。
135mm戦車砲


初速2000m/sを突破・・・日本のダイキン製の試製135mm徹甲弾は凄まじい性能を持っていたようです。そして新戦車TK-Xの新開発44口径120mm砲(日本製鋼)に用意されたダイキンの新型砲弾は、この試製135mm徹甲弾の研究成果を取り入れて、高威力化を達成しています。新型120mm徹甲弾は、発射装薬の高エネルギー化、飛翔体の高L/D化、装弾筒(サボ)の軽量化が開発者自らの弁で語られています。飛翔体の重量については言及が有りませんでしたが、語られた点だけでも、従来の120mm徹甲弾(JM33)と比べて相当に高威力化されている事が伝わってきます。

120L44日本製鋼
・新戦車TK-Xの新型44口径120mm滑腔砲。※新型砲弾の写真は未公表。

135mm戦車砲はロシアでも開発されているという話がありますが、詳しい内容は一切伝わってきません。ドイツ等の西側諸国では140mm戦車砲を試作した国が幾つかありますが、初速2000m/sを達成したという話は聞きません。日本の試製135mm戦車砲に関する情報もこれまで殆ど出て来なかったのですが、まさか初速2000m/sを超えていたとは・・・固体発射装薬では当時の世界記録だった可能性が非常に高いでしょう、各国とも最新技術は秘密のベールに覆われているので正確には判明しませんが、凄まじい数値です。

また、この防衛技術ジャーナルのコラムでは紹介されていませんでしたが、ダイキンではこの他に120mm戦車砲弾として多目的成形炸薬弾も試作しているようです。これはアメリカのM830A1 HEAT-MP-Tに相当するもので、対ヘリコプター用の近接信管を備え、装弾筒と被帽が付いた高初速HEAT弾と伝えられていますが、正式採用は見送られ詳しい情報は殆どありません。

イラクやアフガニスタンでのM1A2エイブラムス戦車は従来のM830成形炸薬弾よりもM830A1を最も多く使用しているのですが、この他にM830A1を改造したコンクリート構造物破壊用のM908 HE-OR-Tや、タングステンボール散弾を撃ち出すM1028キャニスター弾などを使用しています。開発中のエアバースト弾(知能化時限信管弾)であるXM1069LOS-MPはまだ戦場には出て来ていません。

もしかすると表に出て来ていないだけで、日本でもこの種の戦車砲用の新型榴弾は今も開発中なのかも知れません。M830A1相当の試作なら既に済ませていますし、対ゲリコマ戦用の砲弾の必要性を無視しているわけではないのですから。


防衛技術協会・・・日本で唯一の軍事技術専門情報誌「防衛技術ジャーナル」を発行。

ダイキン工業株式会社・・・空調設備メーカーで知られるが「特機部門」で軍用砲弾の開発・生産を行う。
16時47分 | 固定リンク | Comment (382) | 軍事 |
2010年03月07日
昨日の今日で早速更新ですが、今日はまだ「週末」なので更新モードです。

さてお題は「T-95は本当に152mm砲を備え、それに耐えられる装甲を持っているのか?」という点です。152mm長砲身滑腔砲とそれに耐えられる装甲を有して登場すれば、第四世代戦車と成り得ますが、T-95の予想される50〜55トンの車両重量(ロシアの報道での数値)では、達成不可能なのではないか、という疑問です。アクティブサスペンションも無しに152mm砲の反動を吸収するには80トン以上の車両重量が必要な上に、そもそも152mm砲に対応できる装甲を与えようとすると、それくらいの重量は必要になるでしょう。152mm砲弾は125mm砲弾の2倍近い重さで、もし初速が同じなら単純計算で威力差も2倍となります。※「さむざむ。」氏の詳しい解説

無人砲塔化によって砲塔正面装甲が少ない面積で済んでいたとしても、152mm砲はシステム重量が従来の125mm砲よりも数トンは重く、砲塔を支える車体も従来の戦車より大型化しなければ安定性を欠く事になり、コンパクト化にも限度が有ります。もし50トン程度の車両重量で152mm砲を耐えられるなら、逆説的に従来の第三世代戦車(50〜65トン)でも152mm砲に耐える装甲を与える事が可能となりそうですが、それは現実的な話では有りません。

そこで考えられるケースは、

1.T-95は152mmガンランチャーを搭載している。
2.T-95は135mm長砲身滑腔砲を搭載している。
3.T-95は125mm長砲身滑腔砲を搭載している。
4.T-95は152mm長砲身滑腔砲を搭載し、車両重量80トン以上。
5.T-95は152mm長砲身滑腔砲と搭載し、自身の装甲はそれに耐えられない。
 (152mm砲の反動はアクティブサスペンションで吸収。)

1はMBT70と同じく短砲身ガンランチャー案、2は数年前までのロシア報道で有力だった135mm砲案、3は152mmは125mmの誤植、4は実は巨大戦車である場合、5はアクティブサスペンション装備(しかしロシアで研究している話は聞かない)の場合です。

4以外のケースならば現行の第三世代戦車でも対応できる存在で、さほど脅威ではないです。そこで4以外の装備案をイラストで比較して見ました。


T-95 152mmガンランチャー案

T-95 152mm滑腔砲案

T-95 135mm滑腔砲案

T-95 125mm滑腔砲案

T-95 125mm垂直二連装砲案


最後のは冗談ですが、実はロシアは自走砲で垂直二連装砲を本当に作っています。



車高が高くなるので戦車では大きなデメリットとなりますが、2発を連続して叩き込む事が可能です。先ず1弾目で爆発反応装甲を撃ち破ってから間髪置かずに2弾目を本装甲に叩き込む、「必殺!コンタークト5破り!」という戦法を使えるメリットが・・・漫画じゃあるまいし無理ですよねぇ・・・1弾目を進化型フレシェット弾にして爆発反応装甲を広範囲に削ぎ落せば・・・それでも無理か・・・そもそもNATO諸国の戦車は爆発反応装甲を付けて無いから、必要無いですし。もしT-95がこの垂直二連装スタイルで登場したら泣いて喜ぶんですが、どう考えても戦車だと有り得ないですねぇ・・・自走砲ならともかく・・・無理矢理に考えてはみたんですが、残念です。

さて真面目な話、T-95が152mm砲を搭載して登場しても、自身の装甲がそれに耐えられなければ、従来の第三世代戦車でも対抗可能なので、第四世代戦車とは呼ばれないかもしれません。少しケースは異なりますが、第二世代戦車でイギリスのチーフテン戦車だけは120mmライフル砲で、他の西側諸国の戦車は105mmライフル砲でしたが、むしろチーフテンは時代遅れと評価されていました。当時は戦車の火力が装甲を大きく上回る時代で、105mm砲でもチーフテンの重装甲を貫通可能だったからです。火力と装甲にリソースを割くよりも機動力を重視すべきとしていた時代に、イギリスは古い重戦車の思想を受け継ぎました。ただし実は当時のソ連が最も恐れていた西側戦車はチーフテンで、味方の評価が低く敵の方が高く評価していたという逆転現象が起きています。ただそれでもチーフテンはあくまで第二世代戦車の範疇であり、他の戦車よりも突出した火力と装甲を有していても、第三世代戦車ではありませんでした。

つまり従来の戦車で対抗可能な新型戦車であるならば、幾つかの要素で突出した性能であっても、それほど恐れる必要は無いし、世代の違う戦車とはなりません。T-95も仮に152mm砲を搭載していたとしても、新世代戦車と呼ばれる事無く、チーフテンと同じように扱われる可能性もあります。現段階では情報が少な過ぎて、何を言っても憶測になるのでしょうが無いのですが・・・

そもそもT-95はちゃんと出て来るのでしょうか? 5月9日のモスクワ戦勝パレードでお披露目されるのではないかという予想もありましたが、最近のロシア軍の近代化方針を見ていると気になる数字があるのです。


ロシア陸軍近代化の現状:★くろいあめ、あかいほし
旧式兵器の近代化から、新規調達へと重点を移す。2010年は、T-90戦車を261両調達する。


これは新任のパスニコフ陸軍総司令官のコメントですが、今年はT-90戦車を一挙261両も調達する計画であるという事です。しかしT-90はあくまで従来型の戦車で、完全新設計のT-95戦車が出て来るならば、それを優先的に量産すればいい筈なのに・・・という事は、T-95の登場は当分先の話なのか、それともT-90とのハイローミックスで行くのか、不透明な部分があります。
17時59分 | 固定リンク | Comment (309) | 軍事 |
2010年03月01日
アメリカは核攻撃型トマホーク巡航ミサイルを完全廃棄する方針を固めました。なお各マスコミでは「トマホーク廃棄!」と全てのトマホークが廃棄されるような報道が目立ちますが、通常弾頭型トマホークはこれまで通り維持されますので、注意して下さい。また「退役」という表現も間違いです。退役ではなく廃棄です。何故なら既に退役済み(ただし保管中)だからです。

トマホーク廃棄へ、「核の傘」は他の兵器で:読売新聞

米が核戦略見直しで「トマホーク退役」明記検討:朝日新聞

米国:トマホーク廃棄へ 段階的に、日本も容認:毎日新聞

実は既に核攻撃型トマホークはブッシュ父政権時代に退役しており、その核弾頭W80は外されて地上施設に封印保管されていました。ただし引っ張り出して再整備すれば現役復帰も可能な状態でした。これをブッシュJr政権時代の2007年に、戦略軍のカートライト司令官(当時)と海軍の方から「W80はもう必要ないので解体処分しましょう」と提案があり、一時はその方向に傾きましたが政権内で反発があり、先送りにされていました。

そして核軍縮を唱えるオバマ政権になり、W80核弾頭は即座に廃棄されるものと思われていましたが、2009年5月にガテマラー国務次官補が「退役保管中の核弾頭は削減対象にすべきでない」と発言し、ロシアとの核軍縮交渉で後退に繋がる可能性が出て、W80核弾頭が維持される話が出ていました。

私は過去にこの件に関して「オバマ政権がW80の廃棄に消極的なのは残念」「W80核弾頭の現役復帰などあり得ない」「保管中のW80核弾頭を全て廃棄するべき」と唱えています。

(2009/07/04)「拡大抑止」と「核の傘」はイコールではない

また、日本政府(自民党政権当時)が核攻撃型トマホークの廃棄を懸念していると伝えられる報道に対して、私は「ロシアとの核軍縮交渉は進展している」「核トマホークは消え去る方向にある」「(再配備に時間の掛かる)核トマホークはもう抑止力として機能していない」「(核抑止力は)グアムの戦略爆撃機で問題は無い」と主張し、日本政府の懸念は無用であるとしています。

(2009/07/15)民主党鳩山代表、核兵器持ち込みに理解を示す

なお、ロシア海軍も既に海軍戦術核兵器を退役させています。アメリカとロシアは海軍の核兵器を、戦略ミサイル原潜のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に限定しています。

(2008/10/12)ロシア外務省、カリブ海に派遣した海軍艦艇の戦術核兵器搭載を否定

共同通信は今でもアメリカの戦略原潜が日本近海を航行していると勘違いしていましたが、それは間違いです。アメリカの戦略原潜は自国近海に潜んで敵国を狙い撃つ兵器であり、日本近海に出て来る事はありません。

(2009/06/21)共同通信が調子に乗り過ぎて自爆、核搭載艦について

故に、密約がどうとか、核搭載艦がどうとか、今はもう何の意味も持たない話です。これからW80核弾頭が廃棄されれば、(日本に寄港する)アメリカの軍艦は核兵器搭載の有無を問われた際に「そもそも搭載できる核兵器はこの世に存在しない」と返答してくる事になるでしょう。既に今の段階でも常時搭載している艦は無いですし、陸上保管している退役核弾頭が廃棄処分されれば、もう無いものは積みようがありません。

なお、過去の密約が暴かれたから核攻撃型トマホークが全廃されるわけではありません。その話が出て来る2年以上前からアメリカ軍自身が核攻撃型トマホークは不要と廃棄処分を提言しています。

・・・と、このように核攻撃型トマホークの完全廃棄処分は私が以前から支持している事で、探せば例に挙げた過去記事以外でも言及しているかもしれません。私は必要最低限の核抑止力さえ維持されていれば、積極的な核軍縮を支持しています。核攻撃型トマホークは「不要」であると考えています。米オバマ政権の今回の決定を、支持します。
19時19分 | 固定リンク | Comment (295) | 軍事 |
2010年02月26日
2年前に軍事ライターの清谷信一氏は、朝日新聞の取材に対してこのようにコメントしています。

「欧米は同じ車体の改良を重ねて性能アップするのが常識。冷戦後、どの国も新型開発を手控えている今、なぜ日本が先手をうつのか」

まるでロシアが開発中の新型戦車T-95の存在を無視するかのような言説です。清谷氏は2年前に他の雑誌でもロシアのベリエフ飛行艇を無視して「軍が救難飛行艇を装備しているのは日本だけ」と記事を書くなど、ロシア兵器についてあまり詳しくない様子でした。つまり意図的に無視しているのではなくて、本当に素で知らなかった可能性があります。

その清谷氏が、コンバットマガジン記事でT-95について触れました。恐らくこれが初めてになるでしょう。


「新戦車は必要か」 清谷信一,コンバットマガジン2010年2月号,p126〜p127
ロシアは新型戦車T-95を開発中である。その詳細は不明だが、無人砲塔や152mm砲を採用しているなどの情報がある。いずれにしても西側3.5世代を圧倒する事を目標に開発が進められているには間違いないだろう。戦車の正面装甲は普通自分の砲弾の直撃に耐えられるように設計されるが、となればT-95がより強力な152mm砲を採用すれば、それには耐えられない事になる。これらの戦車が実用化されれば、新戦車はあっという間に旧式戦車の仲間入りをする。20世紀初頭に英国海軍は『ドレードノット』級戦艦を採用したが、これにより他の戦艦は全て旧式化した。同じような事が現代の戦車にも充分起こり得る。対して西側諸国は現用戦車を2020年代ぐらいまで使用を続ける予定であるので、T-95が完成してから、それに対抗する戦車を開発すれば良い。


ロシアの新型戦車T-95は情報があまり出ておらず、無人砲塔、車両重量50〜55トン、主砲については135mm砲または152mm砲である、という情報が流れています。

【T-95想像図】 Т-95 : Википедия
T-95

ロシアでの予想の中には、以前にT-80戦車ベースの試作車両「Объект 292(オブイェークト292)」でテストされた152mm砲「2A83」の改良型を搭載してくるというものがあります。

ОБЪЕКТ 292 : OTVAGA.narod.ru
・ページ最後に側面写真と解説。ロシア語。
Объект 292 : BTVT.narod.ru
・写真6枚と解説。ロシア語。
画像掲示板:鉄血軍事
・中国のサイト。何処から拾ってきたのか1枚目の写真に注目。

しかし50トン程度の戦車で152mm高初速砲を実用レベルで運用する事は大変困難で、ドイツ等の西側での140mm砲クラスの試験では、70-80トン以上の車両重量が無ければ反動を押さえ込めないという結論が出ています。日本の新戦車TK-Xに搭載されているような、能動的に主砲発射時の動揺を押さえ込むアクティブサスペンションがあれば軽い車両でも大口径砲が搭載可能かもしれませんが、ロシアではそのような要素は目立った研究をしておらず、T-95に搭載してくるという情報はありません。オブイェークト292での試験はドイツがレオパルト2に140mm砲を搭載テストした時のようなもので、そのままでは到底、実用化は出来ません。T-80戦車が46トン、それから10トン程度増えたくらいで152mm砲の反動を押さえ込むのは現実的ではないでしょう。152mm砲と125mm砲では、砲弾の重量はおよそ2倍になります。

その為、常識的に見れば135mm滑腔砲か、152mmだとするとガンランチャー(主にミサイルを発射し、補助的に通常砲弾も撃てる砲)を搭載してくるのではないかと予想されています。ガンランチャーと言えば、嘗ての米独共同開発計画「MBT-70(KPz.70)」の30.5口径152mmガンランチャーXM150E5が最も長砲身のものでした。高初速滑腔砲に比べると短く、反動は少なくなります。

【MBT-70】
MBT-70

MBT-70 : Википедия
XM150

しかしT-95のどの予想図を見ても、ガンランチャーに相当するような砲身の短いものは描かれていません。今のところT-95最大の謎は搭載砲に関する事です。もし152mmで尚且つ45〜50口径クラス以上の長砲身の高初速砲で、50トン台の車両重量で登場して来たら常識外の話であり、アクティブサスペンションも無しにどうやって反動を吸収するのか、説明が出来ません。

152mm長砲身高初速滑腔砲ならば、正に第4世代戦車の登場です。従来の3.5世代戦車では到底太刀打ち出来ないでしょう。しかし135mm滑腔砲や152mmガンランチャーならば、対抗できるレベルにあります。ロシア方式の車体中央に置かれる自動装填装置では、極端にLD比の大きい長い弾芯は採用出来ない為(125mm滑腔砲2A46系列では装填装置を改良して改善はされたが、アメリカのM829A3のような極端に長い弾芯までは対応できない)、135mm滑腔砲でもそれほど大きな差にはなりません。152mmガンランチャーではHEAT弾頭の対戦車ミサイルになるので、爆発反応装甲やアクティブ防御システムで対応されてしまいます。そもそも複合装甲はAPFSDSよりもHEATに対して抗甚性が高いので、152mmHEATが120mmAPFSDSよりも強力だとは一概には言えません。

しかし清谷氏の執筆したコンバットマガジンの記事では以上の点が解説されておらず、ただ152mm砲だから強力に違いないという説明に止まっています。しかしT-95が革新的な戦車として第4世代戦車の先駆けとなるのか、それともデファクト・スタンダードから外れた孤児となるかは、現時点ではまだ分かりません。ただ、予想されている車両重量では長砲身高初速152mm砲の搭載には疑問があり、それを搭載する事を前提とした解説は危ういのではないかと思います。
06時54分 | 固定リンク | Comment (370) | 軍事 |
2010年02月18日
イラクのファルージャ戦をモデルに開始された、アフガニスタン南部ヘルマンド州マージャ市攻略戦「ムシュタラク作戦」は順調に推移し、タリバーンの拠点であった警察署を奪還、掃討戦の段階に入りました。

しかし民間人への重大な誤爆も発生しています。


アフガン南部作戦で民間人12人死亡 ISAF発表 :CNN
ISAFによると、同州ナダリ地区で、武装勢力の攻撃拠点を狙って発射したロケット弾2発が標的から約300メートル外れた。発射に使われた「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」は、この件の調査が完了するまで使用を中止するという。


ロケット弾による誤砲撃はHIMARSからのGMLRS、つまりM31ユニタリー・ロケット弾によるものです。HIMARSとはMLRSの小型版で、12連装のMLRSを半分の6連装とし、トラックの架台に載せてあるので地上移動に優れ、軽量な為に空輸も容易で、アメリカ軍が重視している装備です。

HIMARS

GMLRSとはガイデッド(誘導式)MLRSの事で、先端部分にGPS誘導装置と操舵翼を付けたものです。

GMLRS

GMLRSにはクラスター弾頭(DPICM)のM30ロケット弾とユニタリー弾頭(単弾頭)のM31ロケット弾がありますが、アメリカはかなり以前からM31ユニタリー・ロケット弾に生産を絞っており、今回アフガニスタンで使われているのもM31です。

GMLRS_M31_Rocket

M31ユニタリー・ロケット弾についての詳しい説明や、クラスター弾が市街戦では使われない理由については、これまでカテゴリ「クラスター爆弾」で何度も紹介して来ました。



GPS誘導により誤差5m、その精密さと長射程によりGMLRSのM31ユニタリー・ロケット弾は前線歩兵からは「70kmスナイパー」と呼ばれ(試験では射程85kmを達成)、航空爆撃よりも素早く支援が得られる事から、絶大な信頼を得ています。もはやロケット弾と言うよりはミサイルそのもので、湾岸戦争の頃にMLRSへ搭載されていたM26クラスター・ロケット弾とはまったく別種の兵器へとなりました。HIMARSに搭載するなら展開も素早く行えるので、現在のアメリカ軍にとって非常に重視されている兵器です。

それゆえ、誤爆後の使用禁止期間は非常に短く、もう既に使用は再開されました。


After Suspension, HIMARS OK'd for Afghanistan Use - Defense News
The U.S. Army has cleared the High Mobility Artillery Rocket System (HIMARS) for use in Afghanistan, one day after two HIMARS rockets killed civilians in Marjah.

Officials with the NATO International Security Assistance Force (ISAF) suspended the use of HIMARS on Feb. 14, while they reviewed the incident. The ban was lifted after they determined the system was not at fault, said U.S. Air Force Master Sgt. Sabrina Foster, a spokeswoman for ISAF.


僅か1日で使用は再開されました。HIMARSシステム(GPS入力装置含む)とM31ユニタリーロケット弾(誘導装置など)には問題は無かった、目標の選定自体を間違っていた人為的ミス、という事なのでしょうか。決断が早過ぎる気もしますが・・・。


またパキスタンの大港湾都市カラチで、アフガニスタン・タリバーン本体のNo.2、アブドル・ガニ・バラダル師が拘束されました。

ナンバー2拘束、タリバン壊滅作戦に重大転機:読売新聞

タリバーンは指揮中枢をアフガニスタン国境線に近いパキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタに置いていましたが、より後方のカラチへと移転させていました。此処ならば正規軍との正面戦闘も有り得ず、無人攻撃機もやって来れず、タリバーンのシンパを食い込ませてあるパキスタン統合情報部ISIの庇護を受けられれば、治安当局による摘発も有り得ない・・・その目論見が打ち砕かれた事になります。アメリカ軍がアフガニスタン南部のヘルマンド州からタリバーンを追い落とす事に成功すれば、タリバーンはパキスタンへと落ちのびようとします。その後背地であるパキスタンでの圧迫を強めれば、行き場を失ったタリバーンは崩壊する・・・それにはパキスタンの働き次第であり、今のところは上手くいっているようです。
04時46分 | 固定リンク | Comment (241) | 軍事 |
2010年02月10日
見に行きたかったなぁ。


“超ヘビー級”輸送機が成田到着 日本初のお目見え:共同通信
“世界で最も重い”航空機として知られ、世界で1機しかないアントノフ「An−225」が9日、ウクライナから成田空港に到着した。国土交通省によると、初の来日。

“ムリーヤ”という愛称でも知られる同機。航空関係者によると、旧ソ連が宇宙船を運搬するため1980年代に製造、その後商用に改修された。6基のエンジンを備え本体の重量は約175トンで、総重量が最大600トンでも離陸が可能とされる。

今回はハイチ大地震での国連平和維持活動(PKO)に必要な機材を輸送するため、陸上自衛隊がチャーター。重機や大型トラックなど約108トンを積み込み同日夜、成田を出発する予定。


An-225ムリヤの最大貨物積載重量は250-300トンにも達しますが、今回輸送するのが108トンの貨物なのは、嵩張る貨物の場合は一杯に積み込んでいくと、貨物室の容積を重量制限が来るより先に使い切ってしまうからです。





これまで自衛隊はAn-124ルスラン輸送機をチャーターした事はありましたが、まさかAn-225ムリヤをチャーターするとは・・・凄い時代になったものですねぇ・・・
18時30分 | 固定リンク | Comment (151) | 軍事 |
イランが高濃縮ウランの精製に踏み切りました。これは核の平和利用というお題目をかなぐり捨てる行為であり、どれだけ深刻な事態であるかは、イランに同情的な立場であるロシアですら欧米側に同調してイランを非難している事からも分かります。更には、ロシアからこのような発言まで飛び出しました。

戦争になる可能性がある、と。


Russia criticizes Iran over uranium enrichment | RIA Novosti
Russia's Security Council chief said earlier on Tuesday that a long-standing dispute over Iran's nuclear activities might result in a military conflict.

"Theoretically, there is [a possibility of war], and a number of states do not rule out military action," Security Council Secretary Nikolai Patrushev said.


ロシア連邦安全保障会議書記ニコライ・プラトノヴィッチ・パトルシェフ上級大将は、戦争の可能性を示唆しました。

私の知る原子力技術者(mixiのマイミク関係)も「イランは最悪の選択をした」という感想を述べていました。ウランの濃縮度は国際的な技術統一見解として20%以上が高濃縮ウランとされ、これに向けての濃縮を開始した場合、核兵器の開発の意思があるものと判断されるそうです。今後のIAEAへの対応次第では、重大な危機に転じる可能性は否定できません。

もしイスラエルによる空爆および潜水艦からのミサイル攻撃で核施設が破壊される場合、どれだけの人的損害と原油価格への悪影響が生じるか分かりません。また、イスラエル軍の装備では地下に厳重に防護された施設を破壊できなかった場合、アメリカ軍がB-2ステルス爆撃機に超大型地下貫通爆弾を搭載して攻撃に出る場合もあり得ます。

MOP;Massive Ordnance Penetrator|Weapons School(日本語)
01時55分 | 固定リンク | Comment (271) | 軍事 |