11日にようやく初飛行を果たしたエアバスの軍用輸送機A400Mですが、実は当の欧州諸国では手放しに歓迎された話ではありません、特にドイツでは冷淡な受け取られ方をしています。何故かというと、深刻な重量超過の問題(
「太り過ぎたエアバスA400Mは飛び立てるのか」)が何も解決しておらず、11日の初飛行は計画存続の為に無理矢理飛ばしたに過ぎなかった為です。A400Mは太り過ぎたまま、ダイエットを果たせていません。その失望振りはドイツのマスコミの反応を見れば分かります。
以下はA400M初飛行直後の、ドイツ公共放送連盟(ARD)のニュース番組「tagesschau」(ターゲスシャウ)のインターネット版記事より。
Jungfernflug des A400M: Kostenfragen ungelöst | tagesschau
Ein weiterer fader Beigeschmack: Die Besteller werden ein Flugzeug erhalten, das weit weniger leistet, als die Industrie versprochen hat. Ein Blick auf die maximale Nutzlast von 37 Tonnen verdeutlicht ein Problem: Nach Angaben des Berliner Informationszentrums für Transatlantische Sicherheit wird die A400M zum Beispiel keinen Schützenpanzer des Typs Puma transportieren können. Beim Transport von Militärgerät von Deutschland nach Afghanistan geht es wohl auch in Zukunft nicht ohne Mithilfe der Ukrainer.
「A400Mが重量超過で最大ペイロード37トンが達成できそうにない問題は、プーマ装軌装甲車(ネイキッド状態31トン)を輸送する事が出来ず、アフガンへの重車両の輸送はこれまで通り、ウクライナ(のアントノフ輸送機)に頼る羽目になるでしょう」、とあります。
また高級日刊紙「ターゲスシュピーゲル」は初飛行より一週間ほど前の12月3日に、以下のような手厳しい記事を書いています。
Militärtransporter A400M: Später, teurer, leistungsschwächer - Tagesspiegel
Klar ist dagegen, dass die Nutzerstaaten ein Flugzeug bekommen werden, das weit weniger leistet, als die Industrie vor der Bestellung versprach. Die maximale Nutzlast erlaubt es nicht mehr, den Schützenpanzer Puma im A400M zu transportieren. Auch das Vorhaben, einen einsatzfähigen Radpanzer vom Typ GTK Boxer nonstop von Deutschland nach Afghanistan transportieren zu können, wird sich wohl zerschlagen.
「このままではA400Mはプーマ装軌装甲車(ネイキッド状態31トン)を最大ペイロードでも積む事が出来ず、GTKボクサー装輪装甲車(ネイキッド状態25トン)をドイツからアフガンまで無給油で運ぶ事も、たぶん無理だろう」
Später(遅い), teurer(高価な), leistungsschwächer(未完成)
もう何もかも諦めかけたような、絶望的な状況が垣間見えます。ドイツ連邦軍にとって新型装甲車を輸送できなければ何の意味も見い出せません。しかし最も多くA400Mを購入する予定のドイツが計画を脱退してしまえば、共同開発計画そのものが全てお終いになってしまう為、他国の手前、抜けるに抜けられません。そして計画を存続させるにしても、立て直しの為には国民の税金を投入する羽目になると懸念しています。
そしてこれがタブロイド紙になると露骨な表現が目立ち始めます。
Endlich! Der Pannenvogel fliegt | Hamburger Morgenpost 地方タブロイド大衆紙「ハンブルガー・モルゲンポスト」はこの通り、タイトルだけ見ればいいでしょう。直訳すると「最後に!欠陥飛行機が飛ぶ」です。
Pannenvogel = パネンフォーゲル(故障した鳥)
THEMA: ERSTFLUG DES MILITÄR-AIRBUS A 400 M: Pannen-Flieger | Vlothoer AnzeigerPannen-Flieger = パネンフリーガー(故障した飛行機)
ドイツではA400Mを欠陥飛行機扱いする表現が目立ちます。せっかく初飛行したにも関わらず・・・
A400Mの置かれた困難な状況は、まだ何も解決されていません。これからどうにかして重量軽減に取り組み、プーマ装甲車を積めるようにならなければなりません。しかし何とか積めたとしても、ドイツからアフガンまで無給油で重装甲車を運ぶ事は、出来ないかもしれません。大変に厳しい状況です。
そんな中、日本ではこの状況が殆ど知られて居らず・・・
おめでとう! A400M: 大石英司の代替空港
ひとまず黒豚より早く初フライトしたですよ(^_^;)。で、どこかの国で引っかかっている機体がありますが、飛ばないんなら、このまま浜松のミュージアムにでも飾っておく、というのでどうでしょうか? その代わりにC17とA400Mを買うということで。
A400Mの初飛行は手放しで喜べる状況にありませんし、日本が開発中のCX輸送機はA400Mより後から始まった計画なのですから、初飛行が後になっても順番通りに過ぎません。またアメリカ製のC-17輸送機は大き過ぎて自衛隊が使うにはオーバースペックですし、欧州製A400M輸送機は巡航速度が遅い為に自衛隊の仕様要求に合致していません。
CXとA400Mは双方とも開発遅延で苦しんでいる機体ですが、より深刻なのは恐らくA400Mです。もし同じように重量増加に苦しんでいたとしても、CXは売りの高速巡航性能にあまり影響は出ませんし、自衛隊にはドイツ軍のようなどうしても運びたい重装甲車両が特に無いからです。一方でA400Mの重量超過はA400Mの利点を大きく損なっています。
CXでなければ駄目なのか?: 大石英司の代替空港
ただ、仕様の疑問は今でも残るわけです。空自はもともとスピード狂w。世界にあまり類を見ないC1なんていう高速輸送機を未だに運用している。その後継が自前で欲しかったのは解る。たとえそれが諸々の部分でKC−767より劣ったとしても。そりゃ私だって一飛行機ファンとして、国産の飛行機が飛べば嬉しいですよ。とても海外じゃ売れない代物だとしても。なぜか偶然にも、その要求性能に見合う軍用輸送機は海外には存在しなかったわけだしぃw。
しかし、納税者に対して、「C17じゃ降りられない基地があるし、日本列島は南北に長いから、ペラじゃ駄目なんです。だから独自開発しか無いんです」という理屈が通用するのか? C17で降りられない滑走路なら130JでもA400Mでも良いでしょう。遠くまで飛ばなきゃならない、というんなら、それこそ鹿児島以南の離島て何処もジェット化されているからC17すら要らん、今あるKC−767で十分ということになるじゃないですか。
パレット/コンテナ輸送のみで規格外貨物の輸送が出来ないKC-767(本来の任務は空中給油機)を、規格外貨物(装甲車や重機など)の輸送が出来る専用の軍用輸送機と同列に比べている時点で話になりません。また空中給油機は基本的に空中給油任務に使用され、物資輸送任務は必要に応じて行います。何故これを同列に並べて論じようとしているのか、やはり理解できません。まさかと思いますが国内有事を想定せずに定期便輸送の話だけで物を語っているのでしょうか? 軍用輸送機の本来の役割を一体なんだと・・・そもそも、大石英司氏は以前CXの利点については「民間航路を使える高速巡航性のコンセプト」だと自分で言及していた筈なのに、この記事ではそれについて何も触れていないのは何故なのでしょう、もう何もかも忘れてしまったというなら、それは深刻なお話ですね。
なおCX輸送機の利点「民間航路を使える高速巡航性のコンセプト」は、かなり先見の明が有り、今ではアメリカ空軍も同様のコンセプトが重要だと考えるようになっています。
次期輸送機/次期固定翼哨戒機ロールアウト - CHFの日記-と言う名の駄文倉庫
最大の優位点はいわゆる民間航空路線を使用可能ということである。
既存の軍用貨物輸送機は何れも高高度での巡航速度が民間旅客機に比して低いという傾向がある。
比較的最近に開発されたC-17やAn-124でさえも高高度での巡航速度はM0.8に届かず、現時点でこの要求に届く機体は無い。
特にC-17はイラクやアフガンへの輸送任務でその速度が問題視され、結果として米軍は新たな輸送機計画AMC-Xへの要求に民間航空路への対応を盛り込んだ。
なぜCXでなければ駄目なのか? など、聞くまでも無い事です、旧来型コンセプトのA400Mよりも、世界をリードする最新コンセプトを体現しようとしているCX輸送機の方が魅力的な存在です。
とはいえA400M同様CXの開発は未だに茨の道であり、順調なものではありません。ですが何とか成功させれば、ドイツが羨む性能を持った輸送機となるでしょう。年度末の初飛行を目指しているCXが、無事飛び立てる事を願います。