関門海峡の事故で護衛艦「くらま」に落ち度は無く、韓国コンテナ船「カリナスター」の無理な追い越しが事故の主な原因だった事は既に判明しています。しかしそれでも無理矢理に自衛隊を叩こうと、無茶な記事が「週刊金曜日」に掲載されました。以下はその記事を書いたジャーナリスト三宅勝久氏のブログからです。
護衛艦くらまの事故について:三宅勝久ブログ
【護衛艦「くらま」あわや爆発か/日本一危険な航路を選んだ怪】
「関門海峡は日本中で一番危険な海域。なぜ鹿児島の大隅半島を回るルートじゃなくて、危ない内海航路を通ったのか。同僚らも言っていますよ」
関門海峡で一〇月二七日夜、海上自衛隊の護衛艦「くらま」(基準排水量五二〇〇トン、艦長柏原正俊一佐)と韓国籍のコンテナ船(総トン数七四〇一トン)が衝突、双方が炎上した事故について、ある現職の三等海曹は疑問を口にする。
海上幕僚監部や佐世保基地の説明によれば、「くらま」は相模湾での観艦式を終えて佐世保基地を目指して太平洋を航行、四国沖から進路を北にとって内海に入り、豊後水道を通って関門海峡に差し掛かったところで事故に遭った。
現場は「早鞆瀬戸」と呼ばれる関門海峡の最狭部。潮流も速く操船が難しい場所だ。見通しも悪い。近年、通峡経験の少ない外国船が増えたこともあって事故が増えており、第七管区海上保安部(七管)によれば過去五年で九件の衝突事故が起きているという。この危険海域に大型船三隻が錯綜する格好で事故はおきた。
関係者の証言によれば、「くらま」には砲弾や魚雷、地対空ミサイルなどの弾薬類も積まれている模様だ。七管の職員が本音を漏らす。
「弾薬に引火しなかったのが不幸中の幸いです」
事実、火災を起こした艦首付近には速射砲の弾薬庫があり、一時温度が上がったとも伝えられる。 「艦首ではなく船腹にぶつかっていたら爆発したり沈没した可能性はあった」と前述の自衛官はいう。爆発していれば乗組員だけでなく対岸の民家や関門橋、陸上施設の被害は必至だ。危険を避けるもっとも確実な方法が、関門海峡を通らず、九州南部を回って佐世保に入る南回り航路である。
だが「くらま」はあえて危ない関門海峡を通った。すこしでも早く入港したかったのか、あるいは訓練だったのか。関門海峡の通過を誰がいつ決断したのか。また、同行の船はいたのか。他の船はどのルートを通ったのか。海上幕僚監部は「海保の捜査中でわからない」というばかりだ。
あるいは、早鞆瀬戸を通る際「行会調整」と呼ばれる交互通行を実施する方法もある。七管の説明では、総トン数一万トン以上の船、または同三〇〇〇トン以上の油送船は行会調整が義務づけられている。だが護衛艦の場合、石油以上の「危険物」を積んでいたとしても対象外だという。
関門海峡はイージス艦も通っている。「くらま」の事故が不可避だったとすれば、迎撃ミサイルを積んだ新鋭艦とて同じ。市民生活の目の前で大事故を起こし得るということである。
三宅勝久・ジャーナリスト
週刊金曜日2009年11月6日号
あまりにも頭が悪い内容の記事で呆れるより他は無いです・・・「くらま」の操船に難癖を付ける事が出来ないからと、関門海峡を通った事自体を問題視しようだなんて、なんて馬鹿げた主張なのでしょう。海上交通の事情を何にも理解していないとしか言いようが無く、証言者の「ある現職の三等海曹」は存在自体が疑わしいです。
なぜ関門海峡を通ったと言われても、それが普通の航路だったのだから文句を言われる筋合いはありません。鹿児島県の大隅半島を回る航路で佐世保港に帰ろうとすると、瀬戸内海を通過する航路よりも1.5倍近く時間と燃料代が掛かってしまいます。
こういう事を言ってのける人は、ピースボートがソマリア沖で海上自衛隊の護衛を受けた事をどう認識しているのでしょうか?
『ソマリア沖は世界中で一番危険な海域。なぜ南アフリカの喜望峰を回るルートじゃなくて、危ないアデン湾の航路を通ったのか。お仲間らも言っていますよ』
しかし関門海峡は交通の難所であっても海賊が出るわけではないのです。普通の海上通航ルートに過ぎず、ここを避けて通れとか、後付けで無茶苦茶な事を言われてもお話になりません。
護衛艦は危険な弾薬類を積んでいるから狭い水路は通るべきではない? 現場海域は弾薬や石油よりも危険なLNG(液化天然ガス)を積んだ船が普通に航行していますが何か。危険な液体化学薬品を積載するケミカルタンカーだって普通に航行していますが何か。工業用の毒性ガスや強酸、強アルカリ性の薬品などをどうやって運んでいると思っているのでしょうか。関門海峡を「危険物積載船」がどれだけ航行しているかも知らないのですか。それとも、それらの船に対しても関門海峡を通行するなとでも言うのでしょうか。
関門海峡は1万トン以上の大型船と3000トン以上の危険物積載船には水先案内人を同乗させて行会調整を行いますが、今回の事故では護衛艦もコンテナ船も貨物船も該当しません。護衛艦搭載の弾薬類は、弾頭炸薬と装薬、推進薬の量、つまり火薬類(5インチ砲、対潜魚雷、対空ミサイルの火薬)を全部合わせても5トンに満たないからです。弾薬を貨物船に集中して載せた場合は危険物積載船に該当しますが、通常の戦闘艦はそれほど多くの危険物を搭載しておりません。意外かも知れませんが、戦艦大和ですら搭載する約1000発分の主砲弾の装薬量は合計約360トン、46cm砲弾内部の炸薬を含めても約400トン相当の火薬しか積載していないのです。
なお第二次世界大戦でドイツ空軍のハヨ・ヘルマン大佐が爆撃機Ju-88のパイロット時代の1941年にギリシア戦で、夜間に港へ機雷を散布する任務なのに命令違反を承知で250kg爆弾をついでに搭載し、任務終了後に適当な船に投弾したところ、偶然にも弾薬を満載していた貨物船であった為に、周囲の船舶10隻を全て巻き添えに吹き飛ばす大戦果を挙げ、命令違反は不問にされたという漫画みたいなエピソードがあります。この時の貨物船は数千トン以上の火薬を搭載していた筈で、このように危険物を満載した輸送船の方が戦闘艦よりも遥かに危険な事は自明の理です。
軍艦は危険な弾薬を搭載している、だけど民間船は安全だ、という認識は誤りです。軍艦に搭載されている火薬類の量は意外と少なく、危険物を積載している民間船の方が遥かに危険である、という事が言えます。
関門海峡は、3000トン未満の危険物積載船には水先案内人を同乗させて行会調整を行う必要がありません。そして護衛艦「くらま」の危険物積載量は火薬類では5トンに満たず、民間の危険物積載船よりも積載量は著しく少ないのです。「くらま」よりも1000トンのケミカルタンカーの方が引火した際の被害は遥かに大きいでしょう、それでも事前に行会調整を行う義務はありません。「くらま」は基準排水量5000トンなのに3000トン以上の危険物積載船に該当しないのは、輸送用の船舶では無い為、3000トンの輸送船よりも多くの貨物を搭載する事は絶対に不可能だからです。輸送能力からすると数百トン級の小型船よりも劣ります。
ジャーナリスト三宅勝久氏は、護衛艦は弾薬を搭載した危険な存在だと主張したいようですが、海の世界ではもっと危険な荷物を何千倍と積載した民間輸送船がウロウロしているのが実状です。一度、香川県の丸亀港に行って見ると良いです。この港は危険物積載船の溜まり場で、LNGタンカーも良く来ています。そしてその多くが、関門海峡よりも危険な渦潮の鳴門海峡を通過して来ています。
また、LNGタンカーはこれまで大事故を起こした事は世界的に見てもまだありませんが、もし事故を起こした際の被害は凄まじいものになります。
米国で増える液化天然ガス施設、テロ対策は万全?(上) | WIRED VISION
LNGの輸送に使われるタンカーの危険度を総合的に検証した最近の政府報告書は、テロリストはタンカーに大きな穴を開ける能力を持つと結論づけた。つまり、その穴からLNGが漏れ出して爆発し、そこから約500メートルの範囲にいる人々に重傷を負わせ、建物を吹き飛ばす可能性があるということだ。そこから1.6キロほど離れた場所にいる人でさえ第2度の火傷を負う、と報告書には書かれている。
どれくらいのLNG流出量を想定しているのかこの記事には書かれていませんが、半径500mを吹き飛ばし、1.6km先の人間に第2度の火傷を負わせるという威力は、10キロトンクラスの核爆発に相当する為、数万トンクラスの大型LNGタンカーを想定したものだと思われます。このサイズの船は喫水の関係で関門海峡には入れませんが、小型の内航用LNGタンカーやケミカルタンカーは普通に通っています。そして3000トンのLNGタンカーが事故を起こして吹き飛んだ場合、護衛艦の搭載する数トン程度の火薬類とは比較にならない大被害をもたらす事になるでしょう。
ジャーナリスト三宅勝久氏が週刊金曜日に寄稿した記事は、海の事情を何も理解していない独り善がりな内容で、碌な取材を行っているとは思えず、程度の低いド素人が脳内妄想で書き上げた、無理筋な自衛隊叩き記事でしかありません。いいですか、関門海峡は一般的な航路で其処を通る事自体は当たり前の話なんですよ? なんで其処が問題視されなくちゃいけないんですか? どうしてそこまでして無理矢理にでも自衛隊を叩くのですか? 週刊金曜日の読者ならこれでも喜ぶから良いだろうと? それは読者をあまりにも馬鹿にしています。幾ら自衛隊に批判的な左翼誌であっても、そこまで程度の低い読者は沢山居る筈がありません。