日本共産党の笠井亮衆院議員が、19日のNHK番組「日曜討論」でソマリアの海賊事件に関する的外れな認識を披露されたようです。
武力行使に道開く海賊派兵法案 (しんぶん赤旗 2009年4月20日)
そのうえで、「ソマリア沖に各国の軍艦がいっているが、それを強めるなかでむしろ海賊事件は増え、地域も広がっている。悪循環になっている状況のなかで、日本もそこに入っていくことになる。そういうやり方では解決しない。ソマリアへの民生支援の問題、あるいは周辺国の警察力の強化ということを日本はやるべきだ」と主張しました。
笠井議員は「各国の軍艦が派遣されているにも関わらず海賊事件は増えている!」と、まるで軍艦派遣が無意味であるかのように主張されていますが、現地の状況を何も理解していない発言です。あるいは知っていながらプロパガンダに利用しているのか・・・
海賊の武器使用割合が倍増 海賊対策ビジネスも流行 (産経新聞 2009.4.17)
IMBは20日に今年の海賊情報を公表するが、本紙の事前取材によると、海賊の襲撃は今年に入り世界で126件発生(昨年1年間では293件)。うち90件がソマリア沖周辺に集中、アラビア半島とアフリカ大陸の間のアデン湾にモンスーンが吹く1−2月には発生は減少していたが、3月以降、激増しているという。
現地の「天候状況」から1-2月は海賊事件の発生が減少していたのであって、モンスーンが収まる3月以降に再び事件が増えて行くであろうことは以前から指摘されていた事の筈です。今年1月の時点でも産経新聞はこの事を記事で解説しています。共産党の笠井議員はこの点についてに全く触れておらず、現地状況の認識が低いと指摘せざるを得ないでしょう。
それに現在、無政府状態のソマリアで「民生支援」を打ち出しても有効に機能する筈がなく、「周辺国の警察力の強化」にしても当事国ソマリアの警察力がゼロの状態では効果は低いでしょう。それでも何もしないよりはマシですので、既に日本政府は動いています。ソマリア周辺国で海賊対策に関係してくるのはアデン湾の対岸にあるイエメンですが、イエメン沿岸警備隊を強化する支援策を計画しています。
政府、海賊対策で巡視船供与へ イエメンの要請で調整始める (共同通信 2008/12/24)
政府は23日、アフリカ東部ソマリア沖の海賊対策を支援するため、沿岸国イエメンの要請に応じ巡視船や巡視艇を供与する方向で調整を始めた。複数の政府関係者が明らかにした。
巡視船艇は防弾ガラスで装甲を強化するなどしているため、武器輸出3原則で輸出を禁じている「武器」に当たるが、政府は「例外措置」とする方針。海賊対策とはいえ、野党から3原則の形骸化を懸念する声も出そうだ。
共同通信は野党に反対しろと煽っていますが、笠井議員の発言を見る限り、政府のこの方針に共産党は反対しないでしょう。(しないですよね?)
元々イエメン沿岸警備隊はアメリカの支援で生まれた組織で、アメリカ製の小型巡視艇で構成されています。最近ではオーストラリア製(オースタル社)のAPB-38高速巡視艇(120トン)を纏めて購入しており、主力として使っているようです。イエメンは海軍ですらロシア製のタランタル級やオーサ級などのミサイル艇、中国製の037型対潜哨戒艇など500トンクラスの船が最大の艦艇で、迂闊に大きな船を供与すると海軍に編入されかねないので、日本が提供するのも小型高速艇になると思います。日本がインドネシア海上警察に供与した巡視艇(中古ではなく新造)は27m型で、イエメン向けも同様のものになると思いますが、これはオースタル社製の巡視艇(全長は38m)より小さいです。
ただし前回の記事
「なぜソマリア沖の海賊対策は軍事力で行われるのか」で解説した内容と被りますが、沿岸当事国ソマリアの警察力がゼロである以上、幾ら周辺国の警察力を強化しても根本的な解決には繋がりません。またイエメン沿岸警備隊の能力は低く、海軍との兼ね合いもあるので、無暗に高性能な艦を与えて強化することも出来ません。
おまけで今日の海賊関連馬鹿ニュース。
仏海軍フリゲイトはP-3Cを搭載している? - 蒼き清浄なる海のために日経ビジネスオンラインがソマリア海賊関連記事で、フランス海軍のフリゲートを紹介しているのですが・・・「フローリア号にはP3C哨戒機が搭載されており、艦上のこのポートから哨戒機が発着する」というトンデモ内容となっています。嘗ての社民党・福島瑞穂代表による「艦船からB-52戦略爆撃機が飛び立ってます」発言とドッコイですね。
フロレアル(フローリア)級フリゲートは植民地警備艦で、速力は戦闘艦としては非常に低い最大速力20ノット、その代りに1万海里という、このサイズの艦としては長大な航続力を持っており、南太平洋の仏領ニューカレドニア島に配備されている5番艦ヴァンデミエールは日本にも度々訪問しています。
フロレアル級フリゲート - Wikipedia満載排水量で3000トン弱、搭載機はヘリコプター1機のみでAS565パンサーを搭載しています。地上基地で運用される4発固定翼機のP-3C対潜哨戒機の搭載は何をどうやっても無理です。
フロレアル級は本来、単艦で行動する警備艦であり、護衛任務には向いていません。速度が遅い為、鈍足のタンカーなら護衛は出来ますが高速貨物船の護衛は少し厳しいです。また、海賊船を追い掛けるにしても速力があまりにも足らず、警戒任務は搭載ヘリコプターに頼る事になります。
フランス軍は現在、ソマリア海賊対策にラファイエット級フリゲート「アコニト」、フロレアル級フリゲート「フロレアル」、デスティエンヌ・ドルヴ級通報艦「コマンダン・デュキン」を派遣し、ジブチのルモニエ基地に哨戒機を置いています。ラファイエット級も植民地警備用に造られた艦ですが、最大速力は25ノットあるので(それでも戦闘艦としては遅い部類ですが)護衛任務もこなす事が出来ます。