離島有事に無人偵察機 防衛省、21年度導入へ:産経新聞 2009年1月24日
無人機開発は、防衛省で自衛隊装備の研究開発を担う技術研究本部が平成16年度から「無人機研究システム」として実施してきた。開発経費は103億円で当面の開発予定は4機。機体は全長5・2メートル、全幅2・5メートル、高さ1・6メートル。最大飛行高度は約12キロで、敵のレーダーに探知されにくいステルス性もある。
無人機はF15の翼の下に搭載され、偵察地域に近づいた段階で切り離されて発進後、無人での自律飛行に入る。ラジオコントロール方式の遠隔操作ではなく、事前に設定されたプログラムに沿って飛行。GPS(衛星利用測位システム)で位置を補正しながら偵察し、終了後は滑走路に自動着陸する。
この記事だけだと4年前から研究開発を始めたように読み取れますが、実際には「無人機研究システム」の以前から「多用途小型無人機」という名称で1995年から開発が始まっています。通称はTACOMです。もうかれこれ14年も研究してきた、古くからある計画で、当初は試作研究用で終わり、実戦配備するにしても現場からの仕様要求を踏まえて新たに開発し直すのだと思っていましたが・・・ターゲットドローン(標的機)としてならともかく、偵察用にそのままの形で配備するとは思っていませんでした。
実はこれについて5年以上前に朝日新聞経由で人民日報が報じています。
防衛庁、小型無人機を本格開発 不審船の偵察想定 :人民日報 2003年9月22日
無人機は95年度から技術研究本部で基礎技術の研究を進め、すでに原型となる試作品は完成。04年度予算の概算要求には開発経費3億円を計上した。自動滑走着陸できるようにしたうえで、試作した無人機を使って活用方法を探るほか、関連装備も開発する。この無人機は全長約5メートルで、F15戦闘機に搭載して空中で発進。ジェットエンジンで高度1万メートル前後を飛行し、数百キロの航続距離性能を見込む。
これは朝日新聞の記事を提携している人民日報が丸ごと転載したものです。つまり書いたのは朝日新聞ですが、今回の産経新聞の記事よりよほど詳しいです。なお防衛省はTACOMを不審船対策に使えると主張していますが、運用形態や機体性能を見る限りそのような使用目的には全く向いておらず、単なる予算獲得の方便に過ぎないと思います。
当初、TACOMは空中発射されて偵察任務を終えた後、パラシュートとエアバッグにより洋上に着水して回収される方式でした。これは後に「無人機研究システム」の時に基地への無人自動着陸方式へと改められています。この際に車輪式着陸装置を付けたりと様々な改修を行った結果、機体が若干大型化しています。パラシュート回収方式の時は全長4.7m、重量620kgだったのが、着陸装置を付けた事などにより全長5.2m、重量700kgまで増えています。また、「多用途小型無人機」の頃は主翼を折り畳み空中投下後に展開する方式でしたが、現在は取り止められているようです。主翼途中で上に跳ね上げてあるのに、どうやって落下中の空気抵抗に負けずに展開するのか謎な仕様でしたが、やはり無理だったようで・・・エンジンも途中で変更されているらしく、テレダイン製からアリソン製になっているようなのですがちょっと詳しい確認が取れません。ただ、以前には推力450kgだった表示が今ではそれより上がっているので、エンジン変更による出力向上があったようにも見受けられます。
chf_pack解説-TACOM
機体概要
全長:5.2m
全幅:2.5m
全高:1.6m
エンジン推力:約0.5t
重量:約0.7t
速度:遷音速
ターボファンジェットエンジンのエアインテイクを機体上面に設置するデザインはUAV(無人機)の定番といっても良い形です。人が乗ったコクピットを考慮せずに済み、空戦機動を行わないので大迎え角での飛行状態を考えなくて良いなら、自然とそうなります。RQ-4グローバルホーク、EADSバラクーダ、アレニアSky-Xなど、ターボファンジェットエンジンを搭載するタイプのUAVは多くがこの形式です。
このスペックを見て分かる事は、TACOMはあまりUAVらしくないな、という点です。機体サイズはストームシャドウ巡航ミサイルと同等で、それでいて重量は半分強、エンジン推力は同等です。つまりTACOMの巡航速度はストームシャドウ(1000km/h)より速いと見るべきですが、超音速までは出ないでしょう。TACOMはデルタ翼を採用しており、幅も短く、滑空性は全く良くありません。UAVとして長距離・長時間飛び続けることを目指しておらず、高速性を持って強行偵察任務を達成しようという腹積もりなのでしょうね。その為に主翼は小さく、エンジン出力は機体重量に比して高い機体です。他のUAVとは性格がかなり異なります。
グローバルホーク(最大重量12トン)やバラクーダ(最大重量3.25トン)はTACOMの最大重量700kgと比べると機体規模が違い過ぎますが、アレニアSky-Xは最大重量が1.1トンでエンジン推力430kgと、結構近い数値です。しかしSky-Xは全長7mに対し全幅6mと、TACOMに比べて十分な主翼の長さと面積を確保しており、航続力と滞空時間はこちらの方がかなり上になる筈です。
UAV Sky-X simula rifornimento in volo | DN - DifesaNews
上のイタリアサイトにSky-Xの上から見た構図の写真があります。Sky-Xは空中発進のTACOMとは違い、発進も基地から自力で滑走離陸を行います。
下は両者の比較図です。
大きさや重量はTACOMの1.5倍あるSky-Xですが、それ以上に主翼形状の差から両者のコンセプトの違いが分かります。