2007年08月29日
新DDHは「ひゅうが」と命名されました。能力的にはヘリコプター対潜空母と言ってよいのですが、海上自衛隊の分類は従来通りヘリコプター搭載護衛艦(駆逐艦)という事になっています。帝国海軍時代、戦艦に与えられていた旧国名が護衛艦に命名されるのは初めての事で、早速「国号命名は軍靴の足音が!」とヤラかす市民記者も出ています。

ですが帝国海軍の命名基準は戦時中に変更されており、従来の航空母艦=瑞鳥・瑞動物名という基準に国名と山岳名が追加されています。その基準を今も受け継ぐのなら、空母に旧国名が与えられるのは当然です。むしろ山岳名の「赤城」や瑞鳥名の「瑞鶴」等と命名されていた方が大騒ぎされている筈です。ただ、ヘリ空母を造ったと言うのにさほど騒がれていませんし、周辺国も特に文句を言う気は無いようで、名前がどうだからといって大騒ぎにはならないでしょうね。

いや、もちろんマニアは大騒ぎですが。

嘗ての航空戦艦から名付けた新DDH「ひゅうが」。形的に言えば、これまでのDDH「はるな」型や「しらね」型の時にこそ命名して欲しかったとは思いますが、全通甲板の艦に名付けても悪くないと思います。「ひゅうが」とは単独の音としてみても格好の良い響きです。(その意味で「いせ」は同型艦にも採用されない可能性があります。二文字だし)そして、航空戦艦という中途半端な存在の名を冠した事は、旧帝国海軍の空母から命名しなかった自衛隊の配慮と、この艦ではまだまだ満足していない、という意思の表れなのかもしれません。


ところでこのDDH-181「ひゅうが」に耐熱甲板やスキージャンプを装備してF-35B垂直離着陸戦闘機を運用するVTOL空母に・・・という声がありますが、それはちょっと無理な相談です。F-35Bは意外と重く、ハリアーの倍以上の重量があり、しかも開発中に当初計画以上の重量増が見込まれ、イタリアやスペインの次期空母(2〜3万トン級)ですら運用が危ぶまれています。スキージャンプを装備しないアメリカ海軍の強襲揚陸艦からは発艦すらできない可能性さえ懸念されています。

「ひゅうが」の飛行甲板はより重い大型ヘリ、スーパースタリオンを運用可能なように設計されているので、強度的には問題はありません。ですが前述のようにF-35Bを運用しようとすると、満載排水量で2万トン弱という船体規模そのものが小さく、また仮に積んだとしても格納庫には数機程度しか入らず、露天駐機を含めても10機と少し程度しか載せられません。戦力単位として、あまり意味があるとは言えないでしょう。

だからこそVTOL空母を初めて建造し実戦で運用したイギリスは、その戦訓を生かした上で次期空母を6万トンの大型艦としています。



はるな

おおすみ

ひゅうが

インヴィンシブル

23時58分 | 固定リンク | Comment (126) | 軍事 |

2007年08月04日
海外根拠地を確保できる国は羨ましいですね。日本だとこうはいかない。政治的に難しいですし、遠隔地に常時艦隊を貼り付けるとなると予算がかなり食われてしまいます。とはいえ将来を考えるなら、常時駐留とはいかなくても海外根拠地があれば便利なんですが・・・


地中海に軍事拠点の構築必要と、ロシア海軍総司令官 [8/3 CNN]
ロシア海軍のマソリン総司令官は3日、同国軍が地中海に常時、兵力を配備すべきだとの考えを表明した。ロシアのインタファクス通信が報じた。黒海艦隊にとって地中海は戦略的に重要な海域と強調した。

ウクライナの黒海沿岸セバストポリにあるロシ軍港を視察した際に語った。北方艦隊、黒海艦隊の関与でロシア海軍は地中海でプレゼンスを保持すべきだと述べた。東欧でミサイル防衛計画を進める米国をけん制する狙いもあるとみられる。

地中海のどの港を想定にしているのかは不明。黒海からはトルコ・ボスポラス海峡などを通じて地中海へ抜けることが出来る。


ロシアが想定しているのはシリアのタルトゥース(Tartus)港です。ロシア海軍の黒海艦隊は、ソ連崩壊後も分離独立したウクライナのセヴァストポリに留まっており、ウクライナ政府に基地使用料を払っています。ウクライナが分離したといえどロシア領内に黒海沿岸はまだ残っているわけですが、セヴァストポリからノヴォロシースク辺りに黒海艦隊の主力を移すよりは、いっそ主要艦隊を地中海に進出させ、黒海艦隊主力を「地中海艦隊」としてしまおうという大胆な計画を立てているわけです。

訂正:ロシア黒海艦隊は「ノヴォロシースク辺り」に「主力を移す」気マンマン


黒海艦隊基地ノヴォロシスクは、2012年までに完成する:Infinit Justice
ウラジミール・プーチン大統領は、セヴァストーポリの基地から2017年までに撤収する事を2003年にウクライナが要求した後、ノヴォロシスクに黒海艦隊の為の代替海軍基地を設置する法令に署名した。

「我々は、あと5年で防波堤と埠頭の構築を完了するでしょう」
ロシア海軍総司令官ウラジミール・マソリン提督はこう語った。

「その結果、新基地は、黒海艦隊の100隻までの艦艇を収容する事が出来るでしょう。」
ロシア連邦政府の計画の元、2007年から2012年の間、新基地建設の為に123億ルーブル(約4億8000万ドル)が拠出される


コメント欄でのシア・クァンファ氏の指摘により、本記事の「黒海艦隊主力をタルトゥースに移す」という部分を訂正します。御指摘ありがとうございました。


ただ一方でこのような報道があります。

http://russiaflot.narod.ru/html/newsframe.html

Черноморский флот из Севастополя могут перевести в Сирию
(黒海艦隊はセヴァストポリからシリアに移動可能)

これによると黒海艦隊移動の可能性については国防省はコメント拒否。しかし非公式のソースではそういった計画が実在するとコメルサント誌が確認。国防省は非公式にすることを望んだ、ということらしいのです。

まずコメルサント紙が正しいかどうかという点が問われるわけですが、仮に正しいとして、「セヴァストポリからシリアへ」という書き方を見て主力部隊の移動と解釈したのですが、ノヴォロシースクの整備振りを見ると一部部隊の移動である可能性が高いです。


ロシア海軍はソ連時代の1960年に地中海に面したアルバニアで艦隊根拠地を作ろうとしましたが、これは翌年にソ連とアルバニアが断交状態に陥り、失敗しています。今回のシリアでの計画は、それ以来の地中海艦隊根拠地確保計画となります。

シリアとしても、ソ連時代に緊密だった仲を復活させる事は大きな利益をもたらします。そしてロシア軍がシリア領内に駐留するということ自体がアメリカ、イスラエルに対し大きな牽制となります。ロシア艦隊はトルコ、NATO諸国に対しても影響力を発揮できます。中東でのロシア、シリアの軍事的プレゼンスは飛躍的に高まるでしょう。とはいっても空母を含まない、巡洋艦と駆逐艦の数隻が主力の艦隊ではありますが、政治的な意味は大きいものとなります。

現在、ロシア海軍黒海艦隊旗艦はスラヴァ級ミサイル巡洋艦「モスクワ」(旧名はスラヴァ。退役した対潜ヘリ巡洋艦の名を1995年に受け継ぐ)。イラク戦争の際にはペルシャ湾にまで進出しています。



■追記:「真打ちは最後に登場」を紹介

ロシア海軍は、再び地中海に存在を示さなければならない :Infinit Justice
18時43分 | 固定リンク | Comment (59) | 軍事 |
2007年07月27日
FX選定延期、そしてC-Xの調達まで遅らせて既存のF-15改修へ。これも5年連続で防衛予算が減少している余波か・・・MDに喰われている分もあるしなぁ。


FX選定遅れで次期輸送機の調達先送り…防衛省 [7/27 読売新聞]
防衛省は26日、2008年度予算で予定していた航空自衛隊の次期輸送機(CX)の調達について、09年度以降に先送りする方針を固めた。

08年夏に予定していた次期主力戦闘機(FX)の選定が遅れる方向となったのに伴い、現在主力のF15戦闘機の高性能化を優先し、予算をあてることが必要だと判断した。08年度予算の概算要求にF15の改修費用を計上する予定だ。


実はこの「FXはF-15J改」という話は、Missiles & Arms のkeenedgeさんが5ヶ月前にブログで書かれていた事でした。


keenedgeの湯治場: 巡航ミサイル模擬標的であります。 [2007年2月26日]
しかし、最近聞いたF-4の後継はF-15Jという話。。。。
そういうオチは何だかなぁ。。。。。。。つまんね。



当時私も別方面から同じ話を聞いていたのでコメントを書き残していますが、あの時はそれでも半信半疑でした。しかし現実はこうなりそうです。流石にF-4の寿命延伸はもう無理があるし・・・元々、戦闘機の定数削減は決まっているので、FXの新規調達は少し遅れてもよいわけですが・・・どうも空自はユーロファイターやF-15FXは眼中に無く、F-22しか見えていないようですが、しかしこのままではF-22の輸出許可は結局降りず、F-35を気長に待つ事になる可能性が高いです。そうなるとFXはF-4後継は無しでF-15Pre-MSIP機の代替調達まで飛びかねない有様に。

ところで今日の読売新聞の記事で他に気になる点があります。



CXは1機約100億円で、初年度となる08年度は数機を調達する予定だった。防衛省によると、総調達機数は最大で40機程度となる見通し。

見送りに伴い、CXの編成計画の遅れが懸念されるが、防衛省幹部は「限られた予算の中では、優先順位を決めないといけない」としている。


C-X量産型は1機100億円を予定? それは凄く安いです。欧州で開発中の同規模の輸送機エアバスA400Mの予定調達価格が1機あたり1億ユーロ(160億円)だから、凄くお買い得・・・ってことは。

日経新聞記者時代に、C-X/P-Xについて「コストは国際標準価格の2倍以上となる見込み」とした産経新聞記者・田村秀男記者の主張は間違いだったと言う事になります。ただし、今回の読売新聞の「CXは1機約100億円」という情報が本当かどうかの確認もしなければなりません。同じマスコミのする事ですから。
07時00分 | 固定リンク | Comment (153) | 軍事 |
2007年07月19日
あれからF-2支援戦闘機の振動問題(対艦ミサイル4発搭載時)の件で表に出せそうなソースを探して見ましたが、「表に出せる」というものはなかなか見つからず・・・産経新聞のソースだって匿名情報です、そういうのならこちらも出せますが、それでは決着がつかないですから・・・

対艦ミサイル4発搭載時の分かりやすい映像は以下の通りです。





【質問 F-2は,ASM-1/2を4発搭載する上で何か問題を生じているのでは?

【回答】 517号機(三沢),519号機(三沢→築城)等がASM-2を4発搭載して飛行しているのが確認されています.

常に最大負荷で連日訓練すれば少なからず寿命にも影響するでしょうし.いずれにせよこれをもって何か問題が有ると判断するのは早計では.

(中略)

ASM4発と600gal増槽を積んだいわゆるFS形態だと重量は20トン超.
これだと"着陸"重量を余裕でオーバーしちゃって,離陸直後にトラブった場合は色々と投棄せざるを得ないので,通常の訓練時は積まんのではねーかしら?,というのがFSスレッドで出ていた.
そら,平時じゃ増槽落っことしただけでも大量の書類書かされるし,訓練弾だってシーカーは本物で高いしで,そんなリスク抱えて飛びたくは無いだろうなぁ.


アメリカ海軍のF-14トムキャットも、AIM-54フェニックス対空ミサイルを6発フル装備だと重くなり過ぎて、空母の甲板強度の問題から着艦できなくなるので通常時は4発以下を携行して任務を行っていました。F-2も同様な運用制限があったとしてもおかしくはありません。ただ空母艦載機ではないので制限は緩く、対艦ミサイル4発装備したF-2支援戦闘機は実戦部隊でも確認されています。

とはいえこれだけでは主翼が振動しているかどうかの確認にはならないのも事実ですが、試験部隊で運用中に振動問題が直っていないのなら、実戦部隊で4発搭載させることはあまり考えられません。また、対艦ミサイル4発搭載と増槽2本を抱いて急旋回を行っている様子を見る限り、問題があるようには見えないのですが・・・後は産経新聞さんに具体的なソースを出してもらうか、自衛隊の広報が説明を行うかしない限り、これ以上の証明は難しいかもしれません。
00時19分 | 固定リンク | Comment (28) | 軍事 |
2007年07月09日
7月4日に正式公開されたC-X/P-Xについて何か書こうと思いましたが、どう見てもメッサー=ハルゼーこと登録名”ハインケル”だけどHNはあくまで”CHF”さん(どれが正式名なんですか)の解説の方が充実しているのでそちらを紹介したいと思います。

CHFの部屋-と言う名の物置-
次期輸送機/次期固定翼哨戒機ロールアウト

■C-X/P-X輸出展望について [軍事板FAQ収録済み]

C-Xはその高速巡航性と規格外貨物輸送能力を優位点として民間貨物機への採用を目指します。P-Xに魔改造を施して民間旅客機とするYPXについては、実現性はあまり無さそうな感じです。三菱のMRJ計画とはまた別のカテゴリーを狙っているようですが、需要そのものが無いのでは。そもそも民間機として売るより、普通に軍用機としてC-X/P-Xを販売した方が売れると思いますが、それは言わない約束です。

あとオマケ記事。


海自固定翼哨戒機変遷乃図 [CHFの日記]
どっかの元審議官が「海自の固定翼哨戒機はトラッカーの供与に始まった」とか「保有数100機という数字を惰性で維持」とかほざいてたので作ってみた。

http://www.heinkel.jp/images/asw_history1.jpg

http://www.heinkel.jp/images/asw_history2.jpg

http://www.heinkel.jp/images/asw_history3.jpg

ちなみに機種変遷は防衛白書に図入りで他の装備まで網羅された豪華な奴があったりする。

ついでに言うなら機数変遷の数字は全て防衛白書から洗い出したもの。

モノ書きで金貰おうってんなら「随分と執筆速度が遅いですね」なんて他人に言う前に、この程度のことは調べて下さいませ。


この機種変遷図はP-3Cの予備機保存(モスボール状態*2008年10月14日追記、モスボールの件を訂正)を含んでいますから、それを除外すると海上自衛隊の使用している哨戒機の数は右肩下がりの傾向が見て取れます。P-3Cは冷戦期の100機体制から80機体制へと削減されています。防衛省はP-Xについて、削減されるP-3Cよりもさらに少ない約70機で能力を維持できるとしています。

ちなみに「どっかの元審議官」とはこの人だったりします。そういえば執筆速度の速さだけならあの人も非常に速いと評判でした。うーん、とにかく速けりゃ良いってものじゃありませんよねぇ・・・。
05時42分 | 固定リンク | Comment (96) | 軍事 |
2007年05月28日
以前この記事で、「外洋(戦闘機のエアカバー外)でTu-22Mバックファイアを迎撃する(対艦ミサイルではなく母機そのもの)には空母艦載機を投入するしかない」としたのに対し、「滞空時間の長い対潜哨戒機に長距離空対空ミサイルを積んで艦隊を空中援護すればよい」という指摘がありました。

ありましたね、対潜哨戒機P-3Cオライオンの早期警戒タイプに長距離空対空ミサイルAIM-54フェニックスを12発搭載する空中巡洋艦構想。過去に実際に海上自衛隊が検討し、朝日新聞で記事になった事もあります。今また同じプランを練るなら母機はP-X、ミサイルはAAM-4にラムジェットエンジンを付けて射程延伸したもの、あるいは長距離AAMを新規開発になるでしょう。(アクティブ誘導型中距離空対空ミサイルにラムジェットを付けて射程延伸を図る計画は各国にありますが、ミサイルの直径は変わらない為、終末誘導用のアクティブレーダーのパネル面積も変わらず、結局は中間誘導をしっかりしてやらないと遠距離で命中させることは難しい)

空中巡洋艦はそれ単独で見ると、敵戦闘機との交戦は避けなければならず使い道が限定されるものの、Tu-22Mバックファイアが攻撃を仕掛けてくる場合への対処としては有用なものに見えてきます。ただそれは相手が何の対策も施さなければ・・・という事なのだと思います。

もし自分が敵国の立場であるなら、直ぐに簡単な解決方法として「同じ物を用意する」という方法を思いつきます。戦車には戦車を、戦闘機には戦闘機を、空中巡洋艦には空中巡洋艦をというわけです。早期警戒機に長距離空対空ミサイルを装備して遠距離射撃戦・・・あんまり想像がつかない世界ですね。そうなるとAIM-54フェニックスよりも大型のミサイルであるR-37(AA-13 Arrow)を持つロシアは優位に戦いを進められそうですが、レーダーの探知能力やECM等が勝負の分かれ目となるのでどちらが有利とは一概には言えません。ですが対抗手段が確保された場合、バックファイアが生き延びる確率が高まります。

そしてロシアにはR-37以上の超長距離空対空ミサイルの存在があります。ノヴァトール設計局が開発した対AWACS用空対空ミサイルKs-172。このミサイルの詳細は謎に包まれています。中間誘導にパッシブホーミング、つまり敵の早期警戒機の出すレーダー波を捉え、さながら対レーダーミサイルのように目標に向かうという説がありますが、逆に通常の長距離空対空ミサイルを大型化(二段式)させただけ、という説もあります。

私は後者の説を取りますが、もしパッシブ誘導による空対空ミサイルとして実用化していた場合、バックファイアに搭載して敵空中巡洋艦に対する自衛武器とさせることが出来ます。とはいえ普通に考えれば、中間誘導を指令せずにパッシブで捉えた電波情報だけを頼りに発射した所で命中は全く期待出来ない筈です。例え終末誘導がアクティブレーダーだったとしてもです。しかしもし技術的に可能だったら、護衛を付けなくてもバックファイアを送り込むことが出来ます。

そしてKs-172が普通の長距離空対空ミサイルだとしても、空対空ミサイルとしては大変大きく射程も長いので、こちらが大幅にアウトレンジされてしまうことには変わりがありません。もし自衛隊が新たに空中巡洋艦構想を採用する気なら、これを超えるミサイルを併せて新規開発しないと対抗出来なくなるでしょう。

・・・これらを考えていくと、空中巡洋艦構想は割が合わない計画なのではないか、と感じます。どうしても相手も対抗策を練ってきますから、そこまで想定して収支が合うかというと・・・微妙ですね。普通に空母を配備した方が面倒が無くてよいし、防空以外の色んな任務に使えてお得なのではないでしょうか。




産経新聞の野口裕之記者は5月16日の記事で、このような主張をしています。



『自衛隊に外洋におけるTu−22Mの迎撃手段はない。台湾有事の際、日本の対米後方支援を嫌う中国がTu−22Mで日本出入りの船を威嚇か攻撃すれば、日本のエネルギー輸送路は大きな打撃を受けるのは必至で、日本にとっても安全保障上、大きな脅威となる。』


相手(中国、ロシア)の立場に立って考えて見ます。すると、果たして虎の子の超音速長距離攻撃機を「米空母攻撃」に使わず、日本の商船を攻撃する任務に投入すべきだろうか・・・という疑問が湧いてきます。そういう任務なら旧式潜水艦を使い捨て覚悟で投入すれば良い筈です。もちろん、日米の対潜部隊に捕捉されたら生き延びることは出来ませんが、消耗したって別に構わないという感覚で投入すればいい。バックファイア搭載のAS-4巡航ミサイルのほうが貴重であり、温存すべきです。

それに「日本の対米後方支援を嫌う中国がTu−22Mで日本出入りの船を威嚇か攻撃」という状況であるならば、米空母が周辺海域に集まって来ているでしょう。自衛隊単独でバックファイアに対処するわけではないので、バックファイア迎撃は米空母艦載機の仕事とすればよい筈です。





Tu-22Mバックファイア

Tupolev Tu-22M Backfire

P-3C早期警戒型

米国税関 P-3 AEW&C Domes

21時39分 | 固定リンク | Comment (82) | 軍事 |
2007年05月17日
あー、えーっと、そのー・・・産経新聞の軍事記事はトバシが多いのであまり信用していないんですが・・・かなり気になる記事がありました。「台湾チャンネル」「竹林一号」、そんな懐かしいフレーズを思い出させます。



中国、米空母攻撃ミサイル開発へ 台湾有事備え[5/16 産経新聞]
中国軍が、台湾有事をにらんで米空母攻撃用の対艦弾道ミサイルの開発に着手するとともに、ロシアから超音速長距離爆撃機も導入し、対米軍戦術を修正していることが15日、明らかになった。米軍や自衛隊の迎撃兵器の射程外からの攻撃に力点を置くことで、台湾有事に際して米空母機動艦隊来援を阻止する目的とみられる。日台軍事筋が明らかにした。

「非対称戦」露に学ぶ中国…強大米軍への対抗戦略 [5/16 産経新聞]
自衛隊に外洋におけるTu−22Mの迎撃手段はない。台湾有事の際、日本の対米後方支援を嫌う中国がTu−22Mで日本出入りの船を威嚇か攻撃すれば、日本のエネルギー輸送路は大きな打撃を受けるのは必至で、日本にとっても安全保障上、大きな脅威となる。(野口裕之)


産経新聞の野口裕之記者は、1998年8月31日にテポドン1号が日本列島を飛び越えて三陸沖に着弾した事件の、その10日前に北朝鮮のミサイル発射準備を伝える記事を書いた人です。発射前段階で警告していた新聞社は産経以外に無く、このスクープは翌年の新聞協会賞を受賞しています。つまり野口記者は産経新聞の軍事関連記事のエキスパートである筈なのですが・・・。

今回の内容は二つとも産経らしい、無茶な煽り記事です。


まず「対艦弾道ミサイル」についてですが、確かに過去にソ連で開発されていたことはあります。それは「SS-NX-13」というSLBMで、終末誘導はレーダーホーミングだったと思いますが、初期段階で計画は中止されています。いくら弾道ミサイルに誘導システムを装着した所で、戦術目標、それも海の上を自由に動き回る艦船を攻撃する事は困難を極めました。

もし中国が対艦弾道ミサイルを実用化レベルに持って行けたとしても、命中精度は対艦ミサイルなどとは比べようもないほど低いものになる筈です。そうなると命中精度の低さを同時多数攻撃を仕掛けてカバーするしかないわけですが、今や空母を護衛するイージス艦がMD能力を持つ時代であり、弾道ミサイルは撃墜されてしまう可能性を考慮しなければなりません。対艦弾道ミサイルによる攻撃は、あまりに分の悪い賭けだと言えます。


また記事内では、なにやらTu-22Mバックファイア攻撃機とAS-4対艦ミサイルを大変に過大評価しているようです。幾つか抜粋。


>同爆撃機は、戦闘行動半径約4000キロで、射程500キロのAS−4空対艦ミサイルを3基まで搭載できる。

爆撃任務時の"最大"航続距離8000kmを、そのまま半分の4000kmで「戦闘行動半径」とするのは間違いです。

>米本土も爆撃可能なため、第2次戦略兵器制限交渉(SALTII)で、
>保有を認める代わりに空中給油装置撤去を条件としたほど、米側が恐れた兵器だ。

SALT2でTu-22Mはその中途半端な大きさが災いして、戦略爆撃機扱いして大幅削減を要求するアメリカと、中距離爆撃機扱いして削減を免れたいソ連との交渉の末に、妥協案として中距離爆撃機扱いだが空中給油装置は撤去するという事が決定した経緯の筈です。アメリカはTu-22Mを恐れたというより、自軍に同サイズの機体が無かったのでTu-22Mが条約を素通りするのはズルイ、と感じただけのような気がします。

>イージス・システムも「対艦弾道ミサイルやAS−4を大量に同時発射されれば、
>すべてを迎撃できる可能性は大きく低下する」(日台軍事筋)からだ。

そもそも、そういった同時多数飽和攻撃を防御する為に生まれてきたのがイージス・システムの筈です。

>自衛隊保有の対空ミサイルも、Tu−22Mは射程外となる可能性が極めて高い。

射程外で当たり前です。Tu-22Mに限らず対艦ミサイル攻撃というものは、敵艦隊の艦対空ミサイルの有効射程内に踏み込んで撃つものではありません。

>防衛省は新たな迎撃手段の開発・配備を含む戦術の再構築を迫られそうだ。

現状で何も問題はありません。対艦弾道ミサイルにはスタンダードSM-3で対処、Tu-22Mバックファイア爆撃機のAS-4対艦ミサイルに対してはスタンダードSM-2で対処します。

>自衛隊に外洋におけるTu−22Mの迎撃手段はない。

Tu-22Mから発射されるAS-4を迎撃すれば自衛隊の任務は達成される筈です。Tu-22Mそのものを撃破する必要はありません。


・・・そもそも海上自衛隊がイージス艦を導入する際に示した理由が「ソ連のTu-22Mバックファイア爆撃機の脅威に対処する為」だった筈です。それなのに「迎撃手段はない」とか煽るのは奇怪極まりないです。元々イージス艦はこの脅威に対処する為に導入されたのだから、「本来の仕事が出来そうだ」くらいに考えればよい事でしょう。それにTu-22Mはロシアから中国に売るのですから、仮想敵国全体の保有量はそのまま変わりがありません。

そして野口記者の言うような「外洋でバックファイアを撃墜する」には、正規空母に艦載する戦闘機が必要となります。つまり、空母を保有しろと言いたかった記事なのでしょうか。しかし同じ記事内に「弾道対艦ミサイルで空母ピンチ!」というノリの文章があるので、結局何がしたかったのかよく分からない内容となっています。

とりあえず野口記者と「日台軍事筋」が如何程のものかは、想像できるようになりました。
23時14分 | 固定リンク | Comment (60) | 軍事 |
2007年05月16日
4年前から存在を噂されていたミサイルが、遂に姿を現しました。



新ミサイルは「ムスダン」 北朝鮮、旧ソ連製改良

【ソウル14日共同】北朝鮮が旧ソ連製の潜水艦発射弾道ミサイル「SSN6」を基に陸上発射型の新型中距離弾道ミサイル(IRBM)を開発、米当局者の間で「ムスダン」と呼ばれていることが14日分かった。日本政府関係者や外交筋が明らかにした。


北朝鮮の新型ミサイル、イランで発射実験との情報
【ワシントン15日聯合】韓米の軍情報当局は、先月25日に北朝鮮の朝鮮人民軍創建75周年記念の軍事パレードで公開された新型中距離ミサイルが、イランで発射実験されたとの情報を入手し、事実確認に努めている。ワシントンの軍事消息筋が15日に明らかにした。


北朝鮮が旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイル「SS-N-6」をベースに新型ミサイルを開発しているという情報自体は、4年くらい前から出ています。また3年前にはジェーン・ディフェンス・ウィークリー誌が報道しています。

当時の記事を旧・週刊オブイェクトの記事より紹介。

「北朝鮮、SLBMを開発か・・・ Jane's Defence Weekly より」
「北朝鮮にロシア潜水艦を売った在日本商社」

SS-N-6は単段式の液体燃料推進のロケットです。恐らく北朝鮮は海上或いは海中から「ムスダン」を運用する気は無く(搭載できるような艦が稼動しているとは考え難い)、ミサイルサイロかTEL(transport-erection-launch)車輌による地上発射型のみが配備されていると思われます。



一方、日本国防衛省は大出力レーザー兵器の開発に着手することを決定した模様です。



ミサイル迎撃:高出力レーザー兵器開発に着手 防衛省方針 [5/13 毎日新聞]
防衛省は12日、ミサイル迎撃のための高出力レーザー兵器の研究、開発に来年度から着手する方針を決めた。来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。北朝鮮のミサイル発射や核実験で日本上空の脅威が高まる中、日本の防空機能を強化する狙い。まずは本土防衛に直結する地上配備型レーザーの研究、開発を目指すが、将来的には航空機搭載レーザー(ABL)についても検討する。


とはいえ今のところ、毎日新聞だけの報道のようですが・・・そういえば2年前のこの記事も毎日新聞の報道です。

「攻撃型化学レーザー砲の共同開発へ」

この件を熱心に追っている記者が、毎日新聞に居るのかな・・・。しかし記事の内容に凄く気になる部分があります。

>まずは本土防衛に直結する地上配備型レーザーの研究、開発を目指す

え・・・地上配備型って、落ちてくる寸前の、ターミナルフェイズでの弾頭をレーザー兵器で破壊すると言う事ですか? そんな無茶な。

アメリカが現在開発中の航空機搭載レーザーABLは、空中からブースト段階にある弾道ミサイルの燃料タンクを狙う方式です。これならば空気の薄い高空で射撃するのでレーザーの威力減衰が少なくて済み、尚且つ薄い燃料タンク外殻に少しでも損傷を与えることが出来れば、ミサイルの自爆を誘発できます。

しかし地上に設置して、終末落下段階にある弾道ミサイルの弾頭を破壊するには凄まじい出力が要求されます。地上なので空気は濃くレーザーの威力減衰は著しく、またミサイルの弾頭は大気との断熱圧縮による高温を考慮した耐熱処理が施されており、これをレーザーで破壊する気なら凄まじいエネルギーが必要とされます。

現在、イスラエルとアメリカが共同開発中の地上発射レーザー「THEL」は、迫撃砲弾やカチューシャロケットなど小さな目標を撃破する目的であり、「弾道ミサイル迎撃を目的とした地上配備型レーザー」という計画は、まだ何処にも存在しない筈です。

もし毎日新聞の報道が本当ならば・・・防衛省は何か凄まじいことを始める事になりますが、恐らく実態は単にアメリカのABL計画に相乗りするというだけの話でしょう。地上配備型の話は、何処から出てきたんだろう・・・。



一方、中国ではこのような伝言ゲームが発生。日本語→中国語→日本語といった翻訳の過程で一体何が・・・



パトリオットよりも高性能日本のミサイル防衛システム開発研究計画に中国が注目―中国 [5/15 Record China]
2007年5月13日、中国国内のメディアは、日本の防衛省が高出力レーザー迎撃ミサイルの研究開発を計画していることを日本のメディアが発表した、と一斉に報じた。このミサイルはアメリカのパトリオット・ミサイルよりも高性能であるとされている。


何処かで「ミサイル迎撃レーザー」が「レーザー迎撃ミサイル」と入れ替わってしまった模様。
21時30分 | 固定リンク | Comment (86) | 軍事 |
2007年02月17日
天候不順や航法ソフトウェアの不具合などで配備が延期されていたアメリカ空軍の最新鋭ステルス戦闘機、F-22ラプターが嘉手納基地に到着しました。




最新鋭ステルスF22、嘉手納に2機到着――米国外で初の配備 [2/17 日経]
沖縄県では、地元の嘉手納町議会が「一層の基地負担増だ」として配備中止を求める抗議決議を全会一致で可決するなど、反発が広がっている。

一時配備ですから、これを止める術は無いですね・・・いや実は、mixiで「F-22の配備を止めるにはどうしたらいいですか?」と質問されたんですが、ちょっと考え付かないです。代わりといっては何ですが、実は現在、普天間基地の海兵隊のヘリコプターが全てイラクに投入されていて、一時的にですが基地がもぬけの空になっています。嘉手納がF-22の一時配備で負担になりますが、一方、普天間基地では負担が一時的に軽くなっています。一時的に外からやって来る部隊もあれば一時的に出張して居なくなる部隊もある。そう捉えて、前向きに考えて下さい。


普天間ヘリ、全機不在 [2/4 琉球新報]
米軍普天間飛行場の所属ヘリが5日までに全機不在になった。1月29日の時点で同飛行場には計21機のヘリがあったが、5日午前には駐機場にも扉の開いた格納庫内にもヘリはなく、KC130空中給油機9機だけが確認された。

海兵隊のヘリコプターは、空軍の大型輸送機C-5ギャラクシー、ロシアの大型輸送機アントノフAn-124ルスラン、海軍の強襲揚陸艦エセックスなどに積み込んでイラクのアンバル州へ向かいました。

ちなみに、F-22がそのまま居座って恒久配備されるんじゃないかという心配はあまりしなくて良いです。F-22はアメリカ空軍にもまだ50機弱くらいしか配備されておらず、虎の子の戦闘機です。まだ貴重な機体なので、最前線にある嘉手納基地に置きっ放しにするとは思えません。

将来、ある程度の数が揃ってF-15戦闘機の後継として嘉手納に来るとしたら、それは普段F-15を欠陥機呼ばわりして即時撤去を訴えていた人達の要望が叶えられるわけですから、歓迎してやってください。しかもエンジン騒音はF-15より同等以下だそうです。

ちなみに嘉手納基地のF-15の後継本命とされるF-35戦闘機(単発機)はF-22(双発機)のエンジンを一基搭載(小改修はされている)していますので、更にエンジン騒音が低くなります。
17時46分 | 固定リンク | Comment (122) | 軍事 |
2007年02月02日
これはパキスタン空軍の新型戦闘機JF-17Thunder(サンダー)、中国名FC-1梟龍(シャオロン)の悲劇の物語です。




「RD-93エンジン、第三国への輸出差し止め」コメント欄より
JDWを翻訳していることで有名な
http://www.kojii.net/news/news061117.htmlでも
「中国とパキスタンが共同開発している JF-17 (a.k.a. FC-1) のパワーソースとして、ロシア製の Klimov RD-93 を使用することが決まった。」云々と書かれていますが。

さて、どーする?(笑)
Posted by 紅月ひかる at 2006年11月17日 22:36


更には消印所沢氏の軍事板常見問題では「さて,どうする?,週刊オブイェクト(笑)」と名指しで問われる始末。


吉報に喜ぶ「梟龍」の図↓
FC-1、喜ぶ
「わぁーい♪♪♪」


さて、どうするのか。どうするのかって・・・T72神に祈る事くらいしか、ありません。インド政府と共に、祈るのです。

胸の前でTの字を切りながら「Объект」と、唱える。
するとその願いはロシアの大地に届いたのです。

以下、kojii.netより。


制裁を回避する者は制裁に泣く (DID 2007/1/25)
問題になったのはパワープラントに選定されたロシア製の Klimov RD-93 エンジン。中国はすでに JF-17 用として 100 基を調達、さらに 400 気のオプション契約を有しているが、これはパキスタンの隣国・インドが使っている MiG-29 のエンジンでもある。そのインドに気を使い、さらにインドのマルチロール戦闘機調達計画に対して MiG-29OVT (a.k.a. MiG-35) を売り込んでいるロシアが、商売への影響を懸念して RD-93 の対パキスタン輸出許可を引っ込めてしまった。
その結果、2007 年から 150 機の調達を予定していたパキスタンの計画はパー、中国も最初の海外カスタマーを喪失する事態に。いまさら別のエンジンに変えるとなれば機体の改設計は免れえず、これは現実的に無理。しかもパキスタンはアメリカの対テロ戦に協力する見返りとして、F-16 のアップグレードと追加調達を始めてしまっている。

再びの凶報にショックを受ける「梟龍」の図↓
FC-1、ガーン・・・
「ガ、ガーン……!!」



消印所沢さん、夏光華(シア・クァンホァ)改め紅月ひかるさん、この勝負・・・貰いました! (←こういうこと書いてるとまた引っくり返ります)
20時43分 | 固定リンク | Comment (68) | 軍事 |
2006年11月07日
8ヶ月前に「艦載機については現在、ロシアとSu-33戦闘機の購入について話し合いが行われています。近いうちに纏まるでしょう」と書きましたが、ようやく実際に商談が成立した模様です。


Russia to Deliver Su-33 Fighters to China [10/23 Kommersant]
Russia’s state exporter of weapons, Rosoboronexport is completing negotiations to ship to China up to 50 Su-33 jet fighters for a total worth of $2.5 billion. If the deal is ever clinched, it will be the second biggest contract for export of Russia’s armaments.


Su-33戦闘機を50機、25億ドルで購入するという契約。Su-27を艦載型としたSu-33を購入するという事は、最初から空母艦載機であるF/A-18戦闘機の購入とは意味が異なり、実際にこれ(Su-33)を空母で運用することを念頭に置いたものです。(空母で使う気が無いなら、数あるSu-27シリーズの内からSu-33以外のものを選択する。地上基地で使うなら艦載用装備は無駄でしかない)


さて、これについて逆の事を書いている人が居ますので、一部を引用します。


私は現状では中国が本格的な空母を建造しないと見ています。 〜中略〜 ならば中国はなぜSU−33を導入するのか。これは対艦兵器が搭載できることに意味があると思います。SU−33は中国の沿海部の陸上基地から発進し、海上の敵艦船を攻撃するためとではないでしょうか。

これは間違いです。別にSu-33でなくても他のSu-27系列の機体でも対艦ミサイルは運用できます。Su-32FNやSu-30MKI、Su-30MKK3でも良いわけですから。

・・・まぁ、そこの部分よりも他の部分のほうがブッ飛んでるんですけどね、神浦さん。(11/6日記事) アメリカ軍が何時の間にか謎の新兵器を装備していたのにはビックリしました。是非とも形式番号を教えて欲しい・・・
02時48分 | 固定リンク | Comment (64) | 軍事 |
2006年09月25日
停戦を監視する国連平和維持軍としてフランス軍がレバノンに上陸。その陣容は、想像以上に重装甲車両で固められています。フランス軍のUNIFIL派遣規模は2000人程度なのに、部隊の装甲化率は非常に高く、もしそのまま大規模戦闘に巻き込まれてもある程度持ち応えることが可能です。


UNIFIL参加の仏軍、ハイテク戦車を投入 - レバノン [9/15 AFP]
国連レバノン暫定軍(UNIFIL)に派遣する部隊を構築する中で、フランスは少なくともルクレール戦車を90台と、装甲車約10台を投入した。


90両とは多いな、これは・・・「白く塗られ国連マークを描いたルクレール戦車」


一方、投入された車両の中で非常に気になる存在が。


UNIFILへの仏軍増援部隊が到着 - レバノン [9/13 AFP]
写真はベイルート(Beirut)の港で、貨物輸送船「Fast Arrow」から陸揚げされる仏軍戦車の「ルクレール(Leclerc)」


GCT155mm自走榴弾砲



違う、これはルクレール戦車じゃありません。AFP通信の解説にはそう書いてあるけど、あからさまに違う。これは戦車ではなく自走榴弾砲です。この車両はフランス軍のGCT155mm自走榴弾砲。

戦車研究室より
GCT 155mm自走榴弾砲
AMXルクレール戦車


ルクレルク
フランス軍主力戦車ルクレール

75式自走榴弾砲
参考比較:75式155mm自走榴弾砲


フランス軍は一体なんてものをレバノンに持ち込んでいるんですか。この戦闘車両を持ち込むということは、戦車を持ち込むこと以上の大きな、重い意味があります。




自走榴弾砲と戦車の違い。それは自走榴弾砲が間接射撃を行う目的の戦闘車両であり、戦車は直接射撃を行う戦闘車両である事。その違いです。戦車は直接目標を視認して射撃を行いますが、自走榴弾砲は目標が直接見えていなくても、敵の位置が偵察情報などで把握できていれば曲斜弾道で長距離砲撃を行う事が出来ます。戦車の主砲の有効射程は数km程度ですが、自走榴弾砲の射程は数十kmに及びます。

フランス軍はGCT自走榴弾砲を持ち込む事で、ヒズボラからロケット弾攻撃を受けた場合に対砲迫レーダーで発射位置を特定し、GCTの間接砲撃で反撃を行う気なのでしょう。敵を直接目で見て確認せずに反撃を行うという事です。つまり付近に民間人が居た場合攻撃に巻き込まれる可能性が、戦車による攻撃よりも大幅に高くなります。そもそも間接砲撃は直接砲撃よりも命中精度が低く、数を撃って面で制圧する方式なのです。

これが国連平和維持任務の装備として、自衛の範囲を逸脱していない・・・これが逸脱していないのか、それが世界の常識なのでしょうか。

・・・それならば自衛隊も迫撃弾対策として、イラクのサマワに対砲迫レーダーと自走榴弾砲を持って行っても良かったのではないか。自走榴弾砲では相手の迫撃弾に対し射程が長過ぎるというなら大型対戦車ミサイルや迫撃砲でもいい。とにかく"国連平和維持活動"ですらこのような火力装備が認められるなら、構わない筈だ。・・・そういった論議が為されるべきでしょう。

フランス軍がレバノンに投入した戦力は非常に強力なものです。本格的な戦闘にも対処する事を想定しており、ヒズボラ相手のみならず、IDF(イスラエル国防軍)の再侵攻があったとしても、無視できない存在と成り得ます。

平和維持活動を行うという事の意味を、改めて考えさせられました。
22時24分 | 固定リンク | Comment (63) | 軍事 |
2006年09月20日
19日深夜、タイでクーデター発生。とはいっても東南アジアでクーデター騒ぎなど日常茶飯事な事なので大騒ぎするほどのものでもありません。数年おきのイベントみたいなものです。(タイ国内では15年ぶり)クーデターの実行者ソンティ・ブーンヤラッガリン大将は政権掌握後、自身はすぐに権力の座から退く模様。

そして一方、タクシン首相の巻き返しは・・・無さそう。


意識調査では80%以上がクーデターを支持タイの地元新聞を読む
行政改革団が全権を掌握した事を受けスワン・ドゥシット・ポールが緊急に行った意識調査で、バンコク在住の回答者の81.60%、地方在住の回答者の86.36%、平均で83.98%の回答者が、政治情勢の好転に繋がり得るとして行政改革団によるクーデターを支持すると回答している事が明らかになっています。


ブミポン国王が黙認している上に民衆の反応がこれでは、どうにもならないでしょう。
20時23分 | 固定リンク | Comment (40) | 軍事 |
2006年09月01日
31日の予算概算要求で19DDの予算が上げられていました。同時に防衛庁は「平成18年度 事前の事業評価 評価書一覧」の所で19DD、護衛艦「5,000トン型DD」の資料をPDFファイルでUPしています。

艦船雑誌「世界の艦船」に掲載されたコスト重視案に極めて近い感じですね。それでも一隻848億円と、たかなみ級より2割近く高くなっています。


19DD


まだ明確に判明していない事柄として、射撃指揮統制装置が国産のFCS-3改なのかSPY-1FまたはSPY-1Kのような廉価版イージスシステムなのか(図を見る限りFCS-3改になりそうな…)、搭載する対空ミサイルにスタンダードSM2やXRIM-4は予定されているのか(ESSMだけの公算が高い)という点です。


一方、こちらは・・・


舞鶴航空分遣隊を改編、ヘリ増強 防衛庁予算概算要求 [8/31 京都新聞]
防衛庁が31日発表した2007年度予算の概算要求に、来年度中に海上自衛隊の舞鶴航空分遣隊を「舞鶴航空隊」に改編、従来の哨戒ヘリコプター6機体制を10−12機に増強する方針が盛り込まれた。

これは16DDH関連でしょうか。
12時05分 | 固定リンク | Comment (74) | 軍事 |
2006年07月10日
米英5軍統合戦闘機F-35のニックネームが「ライトニング2」に決まりました。(F-35 JOINT STRIKE FIGHTER PROGRAM)一時期はA型の開発を止める話も出ていましたが、現在は生産初号機が完成し、年末に予定されている初飛行に向けて各種試験が行われています。

愛称のライトニング2は以前、F-22のニックネーム候補でもありました。そしてライトニングという名前の戦闘機は、過去にアメリカとイギリスの両方に存在しており、両国が共同開発したこの統合戦闘機の名前としても相応しいものです。ただ、戦闘機の愛称として雷系は定番過ぎて、面白みが無いといえば無いのですが・・・


ライトニング ライトニング X-35



アメリカ軍の先代ライトニングは第2次大戦時に活躍したP-38ライトニング戦闘機。イギリス軍の先代ライトニングはイギリスが開発生産した最後のマッハ2級戦闘機イングリッシュ・エレクトリック/BACライトニング。

 P-38 (戦闘機) - Wikipediaより
 BACライトニング (戦闘機) - Wikipediaより
21時07分 | 固定リンク | Comment (18) | 軍事 |
2006年07月05日
詳細はわかりませんが、弾道ミサイルのようです。
05時19分 | 固定リンク | Comment (66) | 軍事 |
2006年03月10日
香港文匯報は中国共産党隷下にある新聞ですから、政府広報みたいなものですね。


中国、国産空母建造を計画・香港紙報道 [3/10 日本経済新聞]
10日付中国系香港紙、文匯報によると、中国人民解放軍総装備部の汪致遠中将は9日、中国初となる国産空母の建造を計画していることを明らかにした。中将は「今後5年以内に完了するような短期的計画ではない」としつつ、空母本体に先立ち艦載機や護衛艦艇の製造が完了間近であると述べた。

国産空母建造は中国の“悲願”とされるが、軍当局者が計画の存在を確認したのは初めて。

これは「初めて計画の存在を認めた」程度のことですので、大騒ぎする必要はありません。空母建造計画の存在は以前から確度の高い情報として知られていることです。(まだ建造段階そのものには至っていない事も明白)注目すべきは、

 「今後5年以内に完了するような短期的計画ではない」

という点でしょうか。ここには幾分、現実味を持たせながら若干のハッタリを織り込んでいる微妙な数値を提示しています。単に5ヵ年計画に入っていないという意味もあるでしょうが、人民解放軍が空母を戦力化するまでには早くても20年は掛かります。カタチだけなら、あと10年で見えてくるかも分かりませんが…(結局、東方日報の記事はガセネタ確定)

 「空母本体に先立ち艦載機や護衛艦艇の製造が完了間近である」

艦載機については現在、ロシア政府とSu-33戦闘機(Su-27艦載型)の購入について話し合いが行われています。近いうちに纏まるでしょう。護衛艦艇も国産の艦隊防空用駆逐艦が就役し始めました。

ほんの十数年前まで旧式設計の駆逐艦と多数の小艦艇で構成されていたに過ぎなかった沿岸防備海軍が、あと十数年で空母を中心とする外洋海軍に生まれ変わろうとしています。順調に行けば、の話ですが。
20時54分 | 固定リンク | Comment (69) | 軍事 |
2006年03月05日
1年前に「Mig-29で決まりだろう」と書きましたが、どうもそんなに単純な事にはならなくなりそうなインド空軍MRCA計画。僅か1年でこうまで急速にインドとアメリカが接近するとは思いませんでした。

インドに戦闘機など売却へ 米国防総省が表明 [3/3 CNN]

これはアメリカが売っても良いとの声明で、まだインドが買うと決めたわけではありません。この声明が出る以前からアメリカの戦闘機はインドの戦闘機調達計画の候補に上がっていました。1年前まではF-16の名があり、その後にF/A-18Eもリストに載せられました。今回の声明は大統領のインド訪問に合わせたものであり、特に目新しくはありません。

パキスタンには核協力せず 米大統領表明 [3/4 共同通信]

今回のブッシュ大統領のインド-パキスタン訪問で、インドの方がより優遇された観があります。インドには民生用の核開発協力を行うが、(カーン博士の件で核技術を流出させた)パキスタンには行わない。1年前にパキスタンへF-16戦闘機の輸出再開を決めたが、インドへも売却を許可。911テロの報復として始まったアフガニスタン対テロ戦争の影響は、インドが漁夫の利を得る事態となっています。

それでもインドは、兵器売買での長年の深い付き合いであるロシアとの関係を考慮すれば戦闘機のような大口契約をアメリカとは行わないだろうとは思っていました。アメリカが戦闘機売却を提示したのはF-16売却を決めたパキスタンとのバランスを取るポーズに過ぎず、結局はインドは別の機体を選ぶだろうと。ところが昨年末に中国がネパールへ軍事援助を行っている事が発覚しインドを怒らせ、今後の対中戦略でインドを重視するアメリカの思惑も絡み、両者の関係が急速に接近している事を考えるとアメリカ製戦闘機の採用も現実味を帯びてきています。

戦闘機のような複雑な機構の兵器を輸入するという事は、国際関係で大きな意味を持ちます。イスラム革命後イラン空軍のF-14戦闘機が整備と部品供給の支援を断たれ次々と不稼動状態に追い込まれていった例が象徴的ですが、輸入相手国との仲が悪くなった場合にかなり困った事になります。つまり輸入相手国と敵対関係に陥る可能性が極小でなければならない。インドはアメリカと同盟関係を結ぶ事は無いでしょうが、戦闘機の大規模購入となると、少なくとも敵対する意思は無い事を明確に示す事になるでしょう。


こうしてインド空軍MRCA計画の候補はスウェーデンのグリペン、フランスのミラージュ2000-5、ロシアのMig-29OVT(Mig-35)、アメリカのF-16Block70及びF/A-18Eとなりました。当初は軽戦闘機を予定していたのですが後からF/A-18Eが候補に加わったのを見て、更にドイツEADSがタイフーンを、フランスがラファールを候補としてネジ込もうとしています。
22時59分 | 固定リンク | Comment (25) | 軍事 |
2006年02月23日
        Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: ::::::::::::::::::::::::::::: 
       /:彡ミ゛ヽ;)ー、 < ウィニー如きで流出かよ…
      / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 
      / :::/;;:   ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
日 ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄
海自機密データ:「極秘」暗号書類などネット上に流出 [2/23 毎日新聞]
海上自衛隊の「極秘」と書かれた暗号関係の書類や、戦闘訓練の計画表とその評価書など、多数の機密データがネット上に流出していることが、22日分かった。流出した海自情報はフロッピーディスク約290枚分に相当する膨大なもの。約130の自衛艦船舶電話番号や顔写真付きの隊員名簿、非常時連絡網なども含まれており、防衛庁は事実関係について調査を始めた。軍事専門家は「トップシークレットの情報が含まれている」と警告。過去最大級の軍事情報漏えい問題に発展する可能性も出てきた。
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 |   |   | | トi:::::::::::::: ト__,! イi___.ハ    .|   OK 機密ゲット   
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     :   | |、   r‐ァ   〈イノイ   i  |
     :   | |Y>、.,_____,,...イイノハ!.   |  |
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 ̄ ̄ ̄__/_______/ V !/'7ヽ、_  !7ヽ、.  | / ハ
ニ二二i -二ニ---、としi /しヽ、_/   7ヽ_」/  .| |
________________ンー|.|""""`^ゝ、._ `  /-'´ |::::::::| |
         ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄二=-┐ |::::::::| |


とはいえ中身が漏れたデータは「秘」扱いまで(「機密」「極秘」「秘」の順で重要度が分かれている)なので、致命的なデータは流出していません。(「極秘」はタイトルリストのみで、中身まで漏れたのは「秘」まで)海図ソフトなどは大学の水産学部で使われているような程度の代物ですし、それほど大慌てする事もありません。毎日新聞の記事は大袈裟過ぎ。

問題は、こんな馬鹿な事で流出させてしまった組織のシステムです・・・昨年11月に韓国も軍事機密をインターネット上に流出させてしまいましたが、これはサイト管理会社の単純ミスでした。それに比べ今回の自衛隊の問題の再発を防ぐには、組織の末端まで防諜体制を徹底せねばなりません。

てゆーかwinny使うなよ。海自は仕事用パソコンを与えてやれよ。
21時33分 | 固定リンク | Comment (63) | 軍事 |
2006年02月05日
対艦ミサイルが海面近くを這うように飛ぶのはレーダーに探知されないようにする為ですが、具体的にはどれくらいの意味があるのかと質問されたのでここで簡単に書いておきます。

まず、地球は丸いです。つまり水平線の影に隠れてしまえば相手からは見えなくなります。この距離は自分の目線の高さと相手の高さで決まります。

水平線までの距離計算日本海商

眼高1.6mで相手の高さ0mの場合、つまり人から見た水平線までの距離は約5km。意外と近いです。

では、イージス艦のレーダーパネルの搭載位置(約20m)で対艦ミサイルの飛行高度(約5m)に設定すると…見通し距離は26km。26km以遠だと水平線の影に隠れて捉えられません。しかも26kmで捉えられるかと言ったらそれも間違いで、シークラッター(波が作り出す海面乱反射)の影響でミサイルの飛行高度が低ければ低いほど探知距離は更に短くなります。イージス艦のレーダー探知距離が450kmあるといっても、対艦ミサイル迎撃の際にはどうしても接近を許す事になります。

これが第2次世界大戦当時の戦艦となると、側距儀の搭載位置が40mの高さ。水平線までの距離は24kmで、敵戦艦のマストの高さを40mとすると約48kmの距離で見え始めます。もちろんマストの先だけですが。段々近付いていくと敵戦艦の全容が見え始め、24kmで全部見えるという事です。戦艦の遠距離砲撃がまず当たらない事がよく分かります。実戦で艦砲を30km以上の距離で敵艦に命中させた戦例は殆どありません。


そして地上戦の場合、戦車の高さが2mとして地平線までの距離が5km、相手も戦車で高さ2mとすると見通し距離が10km。現在の戦車砲の有効射程は10kmもないので大型の対戦車ミサイルを使うとしても、5km以遠は敵車両の車体が地平線の影に隠れてしまい命中させるのは相当難しいでしょう。ただしレーザー誘導方式ならば歩兵にレーザー照射器を持たせ別個に前進させて置けば解決します。

それと海と違い陸ならば、丘に上がれば遠くを見渡せます。しかし丘に大型兵器を上げて直接照準で敵を狙う事にはあまり意味がありません。敵が見えるということは敵からもこちらが見えるという事ですから、それならば丘の上に弾着観測班を置いて丘の裏に野砲を隠し、丘越えで間接射撃を行います。弾着観測班は歩兵サイズなので見つかり難いですし、丘の上に大型兵器を上げる労力も省けます。
07時35分 | 固定リンク | Comment (36) | 軍事 |