■中国海軍艦艇の動向について - 防衛省(平成25年2月5日)
1月30日(水)午前10時頃、東シナ海において、中国海軍ジャンウェイU級フリゲート1隻から、海上自衛隊第7護衛隊「ゆうだち」(佐世保)が、火器管制レーダーを照射された。
なお、1月19日(土)午後5時頃、東シナ海において、中国海軍ジャンカイT級フリゲート1隻から、海上自衛隊第6護衛隊「おおなみ」(横須賀)搭載ヘリコプターに対する火器管制レーダーの照射が疑われる事案が発生している。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2013/02/05b.html海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に火器管制レーダーを照射したのは中国海軍ジャンウェイU級(053H3型)フリゲート「連雲港(リェンユンガン)」、また護衛艦「おおなみ」搭載ヘリコプターへ火器管制レーダーを照射したのはジャンカイT級(054型)フリゲート「温州(ウェンジョウ)」と発表されました。中国フリゲートはどちらも主に東シナ海を担当する東海艦隊(浙江省寧波)の所属です。このうちフリゲート「連雲港」が火器管制レーダーを照射した件については、その証拠となる電波情報収集やレーダーパネル指向のビデオによる撮影を護衛艦「ゆうだち」側で行っており、小野寺防衛大臣は記者会見で公表も検討していると語りました。一方で中国政府は火器管制レーダーは使用しておらず通常のレーダーを使っていたと反論しています。
火器管制レーダーの照準用電波によるロックオンは攻撃の直前段階に行うもので、平時にこれを行うことはあからさまな挑発行為と受け取られます。冷戦時代のアメリカ海軍とソ連海軍でもよく行われた行為でしたが、挑発がエスカレートして偶発的な戦闘に至らないように両者は話し合い自制するようになりました。同様に中国を含めた西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)でも紳士協定となる「CUES(Code for Unalerted Encounters at Sea)」が作成され、火器管制レーダーの照射のような挑発行為を行わないように取り決める動きがあります。ただしCUESは昨年に採択を目指しましたが、一部の国の反対にあって流れてしまっています。
[PDF] Code for Unalerted Encounters at Sea (CUES) |
Western Pacific Naval Symposium 2012Assurance Measures for Ships
3.14 Because nations may under international law grant their naval and aviation units the authority to respond with force to actions they perceive to reflect hostile intent, Commanding Officers need to consider the potential ramifications before engaging in actions which could be misconstrued. Actions the prudent commander might generally avoid include:
3.14.1 Simulation of attacks by aiming guns, missiles, fire control radars, torpedo tubes or other weapons in the direction of vessels or aircraft encountered.
3.14.2 Except in cases of distress, the discharge of signal rockets, weapons or other objects in the direction of vessels or aircraft encountered.
3.14.3 Illumination of the navigation bridges or aircraft cockpits.
3.14.4 The use of laser in such a manner as to cause harm to personnel or damage to equipment onboard vessels or aircraft encountered.
3.14.5 Aerobatics in the vicinity of ships encountered.
[PDF]パネリストの発表(第2部) |
海洋安全保障シンポジウム2012(海上自衛隊幹部学校)「そして、その派生として出てくるのがマナーとしてのグッドシーマンシップというものをもう 1 度確認したい。これに関して、実は先般、西太平洋諸国の海軍による対話の枠組みであります、WPNS で CUES、Code for Unalerted Encounters at Sea。これに関して、相当程度議論が煮詰まってまいりましたので、私どもが、海幕長がこれについて参加各国の理解を求めましたが、一部の国の反対によって、その採択に至りませんでした。」
今回、ヘリコプターに対する火器管制レーダー照射は証拠となる記録が取れていないので、問題が追及されるのは中国海軍フリゲート「連雲港」による海上自衛隊護衛艦「ゆうだち」への火器管制レーダー照射の件になるでしょう。ジャンウェイU級(053H3型)フリゲートの「連雲港」は捜索警戒用レーダーが2種類、火器管制レーダーが3種類あります。この他に光学照準器(可視光・赤外線・測距レーザー)や航海用レーダー(一般の船舶と同じもの)もありますが、防衛省の発表は火器管制レーダーとあるので測距レーザーではありません。
■中国海軍ジャンウェイU級(053H3型)フリゲート「連雲港(リェンユンガン)」
1.345型火器管制レーダー(対空ミサイル用)
2.343GA型火器管制レーダー(速射砲、対艦ミサイル用)
3.360型警戒捜索レーダー(対水上、低空用)
4.517型警戒捜索レーダー(長距離対空用)
5.341型火器管制レーダー(機関砲用)
現段階の防衛省の発表では火器管制レーダーの照射を受けたとあるだけで、3種類の火器管制レーダーの内どれであるかは発表されていません。対空ミサイルでも対艦攻撃に使えるのでどれもあり得るのですが、最も可能性が高いのは速射砲と対艦ミサイルを管制する343GA型になります。なおジャンウェイU級(053H3型)フリゲートは初期建造型と後期建造型で搭載レーダーに違いがあります。「連雲港」は初期建造型です。
Type 343GA Fire Control Radar (343GA型火控雷达) - SinoDefence.comジャンウェイU級(053H3型)フリゲートは若干旧式ですが、対空ミサイルとその火器管制レーダーはフランスのクロタル、近接防御システムはイタリアのダルド(ダルドシステムに中国製機関砲を連結)、警戒レーダーは旧ソ連の系統のもので、砲火力は100mm連装砲×1基、37mm連装機関砲×4基もあり、「連雲港」と相対した海上自衛隊むらさめ型護衛艦「ゆうだち」の76mm単装砲×1基(他に20mmCIWSがあるが対空専用)と比べて接近戦での火力は上回っています。
防衛省の発表では「連雲港」と「ゆうだち」の距離は約3000m、「連雲港」からはレーダー照射のみで砲身の指向などは無かったとのことです。