ロシア軍の中止された新型戦車計画オブイェークト195(T-95)の代わりとなる、ニジニ・タギルのウラル車両工場が担当する別の新型戦車計画で新たな情報が幾つか出て来ました。しかし軍の新たな発表を巡ってロシア国内で解釈について見解の相違がある状態です。情報を改めて順に紹介して行きます。
先ず昨年10月にポストニコフ陸軍総司令官が言及した、装甲車両の共通プラットフォーム計画名が以下の通りです。
Войска, кующие победу ≪Красная звезда≫・軽量級「Тайфун(タイフーン)」
・中量級「Бумеранг(ブメラーング)」、「Курганец-25(クルガンツェフ-25)」
・重量級「Армата(アルマータ)」
重量級プラットフォーム「Армата(アルマータ」が新型戦車計画(少なくとも含む)です。ポストニコフ総司令官は2011-2020年までの軍備調達計画を2011-2015年の第一段階と2016-2020年の二段階に分けており、共通プラットフォームは第一段階で開発を続け、第二段階から形となって出てくる計画です。しかし次に、今年3月にポストニコフ総司令官がアルマータ計画について新たに語った情報は、予想外な数字を含んでいました。
В Сухопутных войсках РФ к 2020 г появится 47 соединений нового образца ≪РИА Новости≫Wпушкой 125 миллиметров и массой до 65 тонн.W
(125mm砲、重量65トン以下。)
重量65トン。これでは中止したT-95(152mm砲、55-60トン級)よりも重く、その一方で主砲は従来と同一サイズです。ただ注意点として65トン"以下"なので下限が有りません。この件の解釈に付いてロシア国内でも意見が別れました。「火力重視のT-95から防御重視の計画になった。」とする意見や「"以下"とあるから実際の重量は従来通りだろう。」とする意見です。またポストニコフ総司令官は新たな兵員輸送装甲車も配備すると説明しましたが、それを重量級プラットフォームで作ると解釈した場合、フロントエンジンの方が都合が良いのではないかとする意見もあり、65トンMAX説を取る意見の中にはイスラエルのメルカバ戦車のような形態になると予想するものもあります。一方で従来通りの重量説を取る意見では、チョールヌイ・オリョール試作戦車やウクライナのオプロート(ヤタハーン)戦車のような西側と同じ形態の砲塔バスルに自動装填装置を組み込む方式を予想しています。
重量では解釈の幅がある一方で、搭載砲については125mmと断言されています。つまりT-95計画の中止とは152mm砲搭載計画の中止と同義です。ロシアは新型戦車に大口径砲を装備して西側諸国を刺激し、機甲戦力の軍拡競争を行うような真似は避けたいのでしょう。アメリカや西ヨーロッパと全面戦争(核兵器使用含む)を行う危機は去っています。一方でチェチェン紛争やグルジア戦争など限定戦争は頻発しています。もしもグルジアが西側戦車の調達に成功していたらロシア軍は苦戦を強いられていたでしょうし、兵器市場の競争力という面でもロシア戦車が西側戦車よりも性能が劣る現状は何とかしたいので、大規模な軍拡競争を誘発しない範囲で互角以上に戦える新しい戦車を必要としています。
そして4月にコワレンコ中将が新型戦車の計画に付いて順調に行けば2015年に登場すると記者会見を行いました。その計画名は「Армада(アルマーダ)」と報道され、混乱が起こりました。重量級プラットフォームの「Армата(アルマータ)」とは別個に与えられた名前なのか、それとも単なる口頭記述ミスなのか。追加説明が無かったので現時点でもよく分かっていません。
Новый танк "Армада" может появиться в российской армии в 2015 году ≪ РИА Новости≫コワレンコ中将はアルマーダについて「乗員が弾薬から分離される新しい弾薬自動装填装置」を採用する根本的に新しい戦車であるとしています。自動装填装置についてはチョールヌイ・オリョール試作戦車を引き合いに出し、また今年9月にニジニ・タギルのウラル車両工場でT-90戦車の最新型「T-90AM」が公開されるとも述べています。そしてここでまた解釈が別れてきます。報道によってT-90AM=アルマーダとする解説するもの(イズベスチア紙)、別個であるとするもの・・・「Армада(アルマーダ)」と「Армата(アルマータ)」の差異もよく分かっておらず、他に"Т-99 ≪Приоритет≫"という呼称も出回っています。
Армада (танк) - Википедия上記のロシア語版Wikipediaでは「情報は殆ど秘密である」と断った上で想像を膨らませており、一部に根拠の無い憶測の数字も混じっています。
ОКР "Армата" / "Армада" - MILIT★RY RUSSIA上記のロシア人軍事マニアのブログでは、メルカバ戦車のようなフロントエンジン車体の想像図を載せています。また"Армата" / "Армада"は単なる口頭記述ミスの混乱ではないかと推測しています。
Споры вокруг танка // Илья Крамник - vpk-news.ruこれはロシアの著名な軍事評論家イリヤ・クラムニク(Илья Крамник)氏のコラムです。「Споры вокруг танка(戦車を取り巻く論争)」というタイトル通り、論争が続いて結論が出ていない、まだよく分かっていないロシア国内の様子が伝わってきます。またクラムニク氏はアルマーダではなくアルマータの呼称で揃えています。
このようにロシア国内でも一連の陸軍の発表について議論が続いています。陸軍の情報が小出しの上に解釈の幅があり、意図的に情報が制限されているようです。そもそもT-95の中止からして著名なロシア人軍事評論家の多くが直前まで予想出来ておらず、ソ連後に情報が開かれたロシアと言っても、まだまだ正確な情報を得るのは容易ではないのでしょう。これまでロシア側で行われている予想は大きく分けて以下の通りです。
・T-90系の最新型T-90AMの事だとする説。
・メルカバに似たフロントエンジン車体説。
・チョールヌイオリョールをベースとする説。
・T-95車体+チョールヌイオリョール砲塔説。
・オプロート(ヤタハーン)戦車そっくり説。
予定される開発期間が長くはないので全く新規となるフロントエンジン車体は間に合うか疑問視されており、既存のT-90どころか中止になったT-95の車体を再利用する説まであります。
Без современной бронетехники бой не выиграть - Независимое военное обозрение独立軍事評論に載ったこの記事でCAST(戦略・技術研究センター)のパラパノフ氏は「アルマータはT-95をベースに50トンで作る」と予想しています。
★ロシア戦車の演習風景
追伸:週明けから忙しくなる為、更新は再び暫く滞る事になると思います。ご了承下さい。